妊高誌テンプレート

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日産婦誌61巻4号研修コーナー

一般内科

本文/一般演題_本田

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

骨盤臓器脱の診断と治療 産業医科大学若松病院産婦人科 吉村 和晃




Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下鼠径 ヘルニア修復術を導入 認定資格 日本外科学会専門医 日本消化器外科学会指導医 専門医 消化器がん外科治療認定医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 外科医長 渡邉 卓哉 東海中央病院では 3月から腹腔鏡下鼠径ヘルニ ア修復術を導入し この手術方法を

本文/開催および演題募集のお知らせ


福島赤十字病院産婦人科における内視鏡下手術







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腹腔鏡下前立腺全摘除術について



Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下手術を本格導入 東海中央病院では 平成25年1月から 胃癌 大腸癌に対する腹腔鏡下手術を本格導入しており 術後の合併症もなく 早期の退院が可能となっています 4月からは 内視鏡外科技術認定資格を有する 日比健志消化器外科部長が赴任し 通常の腹腔 鏡下手術に



日本産科婦人科内視鏡学会雑誌Vol.28 No.1; , 2012.


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新入職医師のご紹介 2017 年 10 月より新たに常勤医 1 名が加わり 診療体制が充実しました 川崎幸病院婦人科飯田玲 認定資格等 日本産科婦人科学会専門医 平素より大変お世話になっております 本年 10 月より川崎幸病院婦人科で勤務しております 専門分野は婦人科良性疾患の手術 特に骨盤臓器脱手

~ ご 再 ~


腹腔鏡手術について 〜どんな手術かお話いたします

PDF/開催および演題募集のお知らせ

体外受精についての同意書 ( 保管用 ) 卵管性 男性 免疫性 原因不明不妊のため 体外受精を施行します 体外受精の具体的な治療法については マニュアルをご参照ください 当施設での体外受精の妊娠率については別刷りの表をご参照ください 1) 現時点では体外受精により出生した児とそれ以外の児との先天異常

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日本産科婦人科内視鏡学会雑誌Vol.28 No.2; , 2012.

日本産科婦人科学会雑誌第66巻第6号



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配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定





1 卵胞期ホルモン検査 ホルモン分泌に関して卵巣や脳が正常に機能しているかを知る目的で測定します FSH; 卵胞刺激ホルモン脳の下垂体から分泌されて 卵子を含む卵胞を成長させる作用を持ちます 低いと卵胞の成長がおきませんが 卵巣の予備能力が低下している時には反応性に高くなります LH; 黄体化ホルモ




はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

網田, 五十嵐, 松川, 鈴木, 渡邉, 山谷, 永瀬 図 1. 腹腔鏡手術時の右卵管所見 A. 右卵管峡部 2 か所に腫瘤を認める ( 矢印 ) B. 腫瘤部位の卵管漿膜下にバソプレシン (0.1 単位 /ml) を局所注射した後に線状切開を加えた ( 矢印 ) 図 2. 卵管線上切開右卵管峡部の





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1) 専門研修基幹施設 藤田保健衛生大学病院 ( 総合型研修病院 ) 指導責任者 藤井多久磨 良性から悪性までの全ての婦人科疾患 母体 胎児救命を含む全ての周産期疾患 腹 腔鏡から体外受精まであらゆる生殖内分泌疾患 女性ヘルスケアなど非常に豊富な症 例をそれぞれの専門家による指導にて研修することがで





研修計画


妊娠分娩と産褥期の管理 ならびに新生児の医療に必要な基礎知識とともに 育児に必要 な母性とその育成を学ぶ また妊産褥婦に対する投薬の問題 治療や検査をする上での制限な どについての特殊性を理解することはすべての医師に必要不可欠である 2. 行動目標 (SBO: Specific Behavior O


不妊外来を受診される方へ






(別添様式)





腹腔鏡補助下膀胱全摘除術の説明と同意 (2) 回腸導管小腸 ( 回腸 ) の一部を 導管として使う方法です 腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します 尿はストーマから流れているため パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります 手術手技が比較的簡単であることと合併症が少





群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会 _ 情報公開 通知文書 人を対象とする医学系研究についての 情報公開文書 研究課題名 : がんサバイバーの出産の実際調査 はじめに近年 がん治療の進歩によりがん治療後に長期間生存できる いわゆる若年のがんサバイバーが増加しています これらのがんサバイバ

リプロダクション部門について


Transcription:

Title 深部子宮内膜症病巣切除術を行い妊娠に至った 1 例 - 比較的難易度の高 い腹腔鏡手術を短期間で導入するコツ - 川西, 智子 ; 望月, 亜矢子 ; 飯田, 智子 ; 平井, 強 Author(s) 静岡産科婦人科学会雑誌 6(1) : 82-86 Citation 2017 年 Issue Date 出版社版 Type http://hdl.handle.net/10271/3173 URL Right Hamamatsu University School of Medicine

2017 年第 6 巻第 1 号 82 頁 深部子宮内膜症病巣切除術を行い妊娠に至った 1 例 - 比較的難易度の高い腹腔鏡手術を短期間で導入するコツ - A pregnancy case with deep infiltrating endometriosis by laparoscopic surgery -points for short term introduction of relative complicated laparoscopic operation- 藤枝市立総合病院産婦人科川西智子 望月亜矢子 飯田智子 平井強 Department of Obstetrics and Gynecology, Fujieda Municipal General Hospital Tomoko KAWANISHI, Ayako MOCHIZUKI,Tomoko IIDA, Tsuyoshi HIRAI キーワード :pregnancy Deep infiltrating endometriosis Laparoscopic surgery 概要 子宮内膜症は月経痛 慢性の骨盤痛を主症状とする疾患である また 不妊との関係性も深く 子宮内膜症患者の約 50% に不妊が合併するともいわれている ¹) したがって 治療を行う際には 患者の年齢や妊娠希望の有無により 総合的に判断して 最適な治療法を選択する必要がある 不妊以外に子宮内膜症による症状がない場合は 早期から高度生殖補助医療を実施する症例も増加しているが 不妊に加えて慢性疼痛を有する場合は 主に内視鏡 ( 腹腔鏡 ) 手術が選択される この場合 当然 妊孕性温存を前提とした手術を行う必要があり 術者としては 技量 技術面だけでなく 病巣の切除範囲や子宮及び卵巣 卵管の再構築に配慮できる総合的な能力が求められる 当施設では 日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医により内視鏡手術を新しく導入し 開始 1 年という比較的短い期間で 深部子宮内膜症に対する難度の高い腹腔鏡下手術を完遂できる体制を整備するに至った 本体制のもと手術を行い 術後間まもなく一般不妊治療にて妊娠し生児を得た症例を報告する 症例 :29 歳 1 経妊 0 経産 無職 不妊のた め近医不妊専門クリニックに通院していた 月経痛 排便痛 性交痛といった慢性疼痛の症状があり 子宮内膜症が疑われ当院紹介受診となった 内診にてダグラス窩に強い圧痛と硬結を認め 経腟超音波にて子宮底部の表面に 12mm の腫瘤性病変を認めた ダグラス窩は描出不良で評価困難であった MRI では後屈した子宮 右卵巣内に 10mm 子宮表面に 12mm の内膜症性囊胞を認めたが ダグラス窩は直腸側の腹膜肥厚があるのみでその他の明らかな異常所見は認めなかった 手術では 直腸右側が吊り上がるように子宮頸部後側に癒着しダグラス窩は完全に閉鎖しており R- ASRM 分類で stageⅣの重症子宮内膜症の所見であった 本症例に対し 腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除及び癒着剥離術を施行した 手術時間は 1 時間 56 分 出血量は 30g であった 術後ダグラス窩疼痛は改善し 経過良好にて術後 4 日目に退院となった 術後まもなく 不妊専門クリニックでのクエン酸クロミフェン内服とタイミング指導にて妊娠成立した 妊娠経過は良好であり 妊娠 40 週 4 日に自然経腟分娩に至った

2017 年第 6 巻第 1 号 83 頁 緒言 子宮内膜症は妊孕能低下と関連しており不妊症患者の 25~50% に子宮内膜症を認め 子宮内膜症患者の 30~50% が不妊症であるとの報告がある ²) 子宮内膜症取り扱い規約では 子宮内膜症合併不妊患者に対する治療の第一選択として腹腔鏡下手術を推奨している ³) 当院は静岡県中部に存在する 564 床の総合病院で 産婦人科は常勤医 4 名体制で診療を行っており 平成 26 年 4 月から日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医のもと腹腔鏡手術を導入している 深部子宮内膜症を持つ不妊患者は 慢性疼痛などの症状も考慮して 手術療法が優先されるが 定型的な手術が実施できるとは限らないため 腹腔鏡手術の大きな到達目標の一つである 当科にて腹腔鏡手術導入後 1 年で 深部子宮内膜症の不妊患者に対し 腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術を行い その後妊娠に至った症例を経験したため報告する にて 右卵巣に 10mmの内膜症性囊胞及び子宮底部右側に 12mm の内膜症性囊胞を認めた ( 図 2) 他特記すべき所見は認めなかった CA125 は 16.4U/ml と正常範囲内であった 図 1. 造影 MRI(T2W1) 矢状断 症例 症例は 29 歳 無職 身長 156 cm 体重 55 kg BMI 22.6kg/m² 妊娠分娩歴は 1 経妊 0 経産 自然流産の既往があった 家族歴 既往歴に特記事項は認めなかった 3 年間の不妊を主訴に挙児希望のため不妊専門クリニックに通院していた 子宮卵管造影後 2 回の人工授精を試みるも妊娠成立せず 月経痛 排便痛 性交痛といった慢性疼痛もあるため 精査加療目的にて当院紹介受診となった 内診にて子宮 ダグラス窩に強い圧痛と硬結を認めた 経腟超音波を行ったところ 子宮底部の表面に 12mm の腫瘤性病変を認めたが ダグラス窩は描出不良で評価困難であった 造影 MRI では 子宮は後屈しており ( 図 1) T1 脂肪抑制 図 2. 造影 MRI(T1W1) 脂肪抑制水平断 本症例に対し 疼痛の改善及び不妊の原因検 索を目的に腹腔鏡手術を施行した

2017 年第 6 巻第 1 号 84 頁 挙上した直腸より側方の表層の癒着を剥離した < 手術概要 > 術式 : 腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除及び癒着剥離術適応 : 慢性疼痛を伴う子宮内膜症 続発性不妊症手術時間 :1 時間 56 分麻酔 : 全身麻酔 + 腹横筋膜面ブロック出血量 :30g 子宮にマニピュレーター を挿入 臍上半円弧状小切開より optical 法にて腹腔内へ侵入した ダイアモンド法にてトロッカーを装着した 骨盤内を観察すると ダグラス窩腹膜の左側は肥厚していた また子宮頸部後面やや右側に直腸が収束するように癒着しており 直腸が挙上しダグラス窩は完全に閉鎖していた ( 図 3) ところ線維化した仙骨子宮靭帯を認めた 仙骨子宮靱帯と尿管の間から岡林の直腸側腔を展開した 仙骨子宮靱帯を右 7 4mm 左 6 3mm で切除し 直腸腟間隙の側方のスペースから深部へ剥離を行った 直腸と子宮後頸部の癒着部を直腸プローブを操作しながら注意して剥離を進め ダグラス窩を開放した ( 図 4) ブルーベリースポットと赤色の内膜症病巣をバイポーラーにて焼灼し 腹腔内を十分洗浄した J-VAC ドレーン (15Fr) を右下腹部からダグラス窩に留置し 手術終了した 図 4. 子宮内膜病巣切除後 術後経過は良好であり 術後 4 日目に退院 図 3. 骨盤内所見子宮底部に 15mm 程度のブルーベリースポットを認め 子宮体部後面には赤みを帯びた内膜症病巣をびらん状に認めた 両側卵巣と卵管に異常所見は認めなかった R-ASRM 分類で stageⅣの重症子宮内膜症の所見を認めた 直腸プローブを挿入し 直腸の走行を確認した となった 術後 内膜症性疼痛は改善した 不妊専門クリニックに通院を再開し クエン酸クロミフェン内服とタイミング指導にてまもなく妊娠成立した 妊娠経過は良好で妊娠 40 週 4 日 自然経腟分娩に至った 考察 今回 腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除及び癒着

2017 年第 6 巻第 1 号 85 頁 剥離術を施行し 術後 疼痛改善と生児を得ることができた症例を経験した 深部子宮内膜症は疼痛の関与が大きいといわれている⁴) 深部子宮内膜症病変の切除により 自然妊娠と ART での妊娠率がともに上昇したとの報告もあることから⁵) 疼痛の有無に関わらず深部子宮内膜症に対して積極的に病巣を切除することが有効である可能性がある 深部子宮内膜症に対するダグラス窩開放および深部病巣切除は高度な技術を要するとされ⁶) 仙骨子宮靱帯周辺には強固な癒着があり 適切な癒着剥離は難しいことが多い 今回の症例では 両側仙骨子宮靱帯を切除し 直腸腟間隙の側方のスペースから深部へ剥離を行い 直腸と子宮後頸部の癒着部を慎重に剥離し 安全にダグラス窩を開放出来た この際 術者の技量が浅いと腸管穿孔 尿管損傷 膀胱機能障害などの合併症のリスクが増加することになるため 術者それぞれが内視鏡手術の技術を向上させることが不可欠である 当科では 内視鏡手術導入に併せて 修練医を含め手術に関わるスタッフの育成にも注力し チーム全体のレベルアップを図ってきた それにより今回 難度の高い子宮内膜症病巣切除術を安全に完遂できた その背景として 1) 当科では婦人科内視鏡専門医が着任して内視鏡チームを迅速に立ち上げたこと 2) 地域の診療所 特に不妊クリニックに内視鏡手術が可能な診療体制を周知し 連携を強化し 紹介患者が急増した結果 手術件数の確保を実現できたこと 3) チームとして手術技量や知識を高めるため積極的に腹腔鏡関連の学会に参加したこと 4) チームのメンバーが各自ドライボックスを保持し 各々練習に励んだこと 5) 内視鏡専門医の資格を持つインストラクターが企画 するアニマルラボ ドライラボの研修にチームのメンバーが年に数回参加したこと 6) チームの出身大学に内膜症の専門家が多数在籍していることから種々のアドバイスが受けやすい環境にあったこと 7) いつでも全身麻酔が可能な麻酔科の体制があったこと などが挙げられる このように 当施設ではチーム医療を積極的に推進し 病診連携 病院内の各部署との連携を深め 内視鏡手術に取り組んできた これらの連携により 症例数を増やし また別部署の経験を活用することで 腹腔鏡手術導入後短期間でこのように手術の難易度が高いと言われている深部子宮内膜症を持つ不妊患者に対して 腹腔鏡手術を行い妊娠例が得られたと考えられる 今後 腹腔鏡手術が地方の市中病院でも普及すると思われるが 上記のような条件が整えば比較的短期間での内視鏡手術のレベルアップが可能であると思われる 結論 腹腔鏡手術導入後 比較的短期間で 深部子宮内膜症合併不妊の患者に対し腹腔鏡下子宮内膜症病巣切除術を安全に完遂できた症例を経験した 婦人科内視鏡手術が地域医療に貢献するためにも 関わるスタッフの育成とともに地域の連携を強化するなどの 周辺への環境を整備することも重要である 参考文献 1)Nakagawa.K Ohgi S,Horikawa T et al:laparoscopy should be strongly considerd for women with unexplained indertility.j Obstet Gynaecol Res 2007.33:665-670

2017 年第 6 巻第 1 号 86 頁 2)de Ziegler.D et al:lancet,2010.376:730-738 3) 日本産科婦人科学会 ( 編 ): 子宮内膜症取り扱い規約第二部治療編診療編. 金原出版,2010 4) Novi JM(1), Shaunik A, Mulvihill BH, Morgan MA.Acute urinary retention caused by a uterine leiomyoma: a case report. J Reprod Med. 2004 Feb;49(2):131-2. 5)Gabriele Centini, Karolina Afors, Rouba Murtada, István Máté Argay, Lucia Lazzeri, Cherif Youssef Akladios, Errico Zupi, Felice Petraglia, Arnaud Wattiez. Impact of Laparoscopic Surgical Management of Deep Endometriosis on Pregnancy Rate :Journal of Minimally Invasive Gynecology, Volume 23, Issue 1, 1 January 2016, Pages 113-119 6) 安藤正明他 : 深部子宮内膜症に対する腹腔鏡手術. 産婦人科治療 2011/12.103(6) 617-630