経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

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金融政策決定会合における主な意見

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

平成30年全国証券大会における挨拶

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

当面の金融政策運営について(「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入、12時50分公表)

月例経済報告

月例経済報告

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総裁定例会見(1月23日)要旨

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

わが国の経済・物価情勢と金融政策

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

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平成23年11月1日

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別紙2

平成23年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

わが国の経済・物価情勢と金融政策

第1章

マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

通貨及び金融の調節に関する報告書(平成30年12月)

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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(Microsoft Word \214\216\215\206_\203g\203s\203b\203N1\201i2010\224N\223x\214o\215\317\214\251\222\312\202\265\201j.doc)

経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

資料1

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第45回中期経済予測 要旨

日本の金融経済情勢と金融政策

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

輸出が伸び悩む理由について 会合後の記者会見で黒田総裁は 海外生産シフトといった構造的要因があるとしながらも 1ASEAN 景気の弱さ 2 米国の寒波や東アジアの春節の影響 3 駆け込み需要への対応から企業が国内向け出荷を優先する動きが見られることを挙げ 一時的な要因も相応にあると説明した 今後 先

平成 23 年 3 月期 決算説明資料 平成 23 年 6 月 27 日 Copyright(C)2011SHOWA SYSTEM ENGINEERING Corporation, All Rights Reserved

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SERIまんすりー2月号 今月のみどころ

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( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

タイトル

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株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

エコノミスト便り

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

【別添3】道内住宅ローン市場動向調査結果(概要版)[1]

平成28年度公金管理運用計画

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 金 25, 2, 15, 12, 営業利益率 経常利益率 額 15, 9, 当期純利益率 6. 1, 6, 4. 5, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 8 社 214 年度 215 年度前年度差 ( 単位 : 億円 ) 前年

12月CPI

Economic Indicators   定例経済指標レポート

総裁定例会見(11月1日)要旨

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

最近の海外情勢と今後の景気見通し

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2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

生活衛生関係営業の景気動向等調査 平成17年7~9月期

米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

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短期均衡(2) IS-LMモデル

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経済変動論 0

株式市場 米国株 国内の政策動向や海外の政治動向などに注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場はほぼ変わらずとなりました 月初には 2 月末のトランプ大統領の議会演説を好感して 株価は大幅上昇となりました しかし その後は 新政権の経済政策に対する期待が徐々に後退

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

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総裁定例会見(4月27日)要旨

Invesco Premia Plus Fund

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

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1. 世界経済 (1) 世界経済の成長率は 216 年度第 1 四半期をボトムに上昇 先行きも緩やかに伸びを高める見通し ( 前年比 寄与度 %) 平均成長率 (198 年 ~217 年 ):+3.5% IMF 予測 IMF 予測 ( 前年比 %) 17 年

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

PowerPoint プレゼンテーション

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Economic Trends    マクロ経済分析レポート

株式市場 米国株 先行き不透明感強いがファンダメンタルズは良好 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は下落しました 堅調な経済指標の発表を受けて米国の年内利上げ観測が高まったことで 金利動向の影響を受けやすいディフェンシブセクターの一部が軟調に推移しました また 米

Economic Indicators   定例経済指標レポート

経済・物価情勢の展望(2017年4月)

スライド 1

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

金融市場2018年12月号

Transcription:

経済 物価情勢の展望 (2016 年 10 月 ) 2016 年 11 月 1 日日本銀行 基本的見解 1 < 概要 > わが国経済は 海外経済の回復に加えて きわめて緩和的な金融環境と政府の大型経済対策の効果を背景に 2018 年度までの見通し期間を通じて 潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる 消費者物価 ( 除く生鮮食品 ) の前年比は 当面小幅のマイナスないし0% 程度で推移するとみられるが マクロ的な需給バランスが改善し 中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて 見通し期間の後半には2% に向けて上昇率を高めていくと考えられる リスクバランスをみると 経済 物価ともに下振れリスクの方が大きい 物価面では 2% の 物価安定の目標 に向けたモメンタムは維持されているとみられるものの 前回見通しに比べると幾分弱まっており 今後 注意深く点検していく必要がある 金融政策運営については 2% の 物価安定の目標 の実現を目指し これを安定的に持続するために必要な時点まで 長短金利操作付き量的 質的金融緩和 を継続する 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) の前年比上昇率の実績値が安定的に2% を超えるまで マネタリーベースの拡大方針を継続する 今後とも 経済 物価 金融情勢を踏まえ 物価安定の目標 に向けたモメンタムを維持するため 必要な政策の調整を行う 1. わが国の経済 物価の現状わが国の景気は 新興国経済の減速の影響などから輸出 生産面に鈍さがみられるものの 基調としては緩やかな回復を続けている 海外経済は 緩やかな成長が続いているが 新興国を中心に幾分減速している そうしたもとで 輸出は横ばい圏内の動きとなっている 国内需要の面では 設 1 10 月 31 日 11 月 1 日開催の政策委員会 金融政策決定会合で決定されたものである 1

備投資は 企業収益が高水準で推移するなかで 緩やかな増加基調にある 個人消費は 一部に弱めの動きがみられるが 雇用 所得環境の着実な改善を背景に 底堅く推移している 住宅投資は持ち直しを続けており 公共投資は下げ止まっている 以上の内外需要を反映して 鉱工業生産は横ばい圏内の動きを続けている 企業の業況感は 総じて良好な水準を維持している わが国の金融環境は きわめて緩和した状態にある 物価面では 消費者物価 ( 除く生鮮食品 以下同じ ) の前年比は 小幅のマイナスとなっている 予想物価上昇率は 弱含みの局面が続いている 2. わが国の経済 物価の中心的な見通し (1) 経済の中心的な見通し先行きのわが国経済を展望すると 暫くの間 輸出 生産面に鈍さが残るものの その後は緩やかに拡大していくと予想している まず国内需要は きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に 企業 家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで 増加基調をたどると考えられる すなわち 設備投資は 緩和的な金融環境や成長期待の高まり オリンピック関連需要の本格化などを受けて緩やかな増加基調を維持すると予想される 雇用者所得の改善が続き 個人消費は緩やかに増加していくとみられる 公共投資は 経済対策の効果などから 2017 年度にかけて増加し その後は オリンピック関連需要もあって高めの水準で推移すると考えられる この間 海外経済は 幾分減速した状態が暫く続いたのち 先進国の着実な成長が続き 新興国経済も その好影響の波及や各国の政策効果から減速した状態を脱していくにしたがって 徐々に成長率を高めていくと予想している このため 輸出は 緩やかな増加に転じるとみられる 以上のもとで わが国経済は 2018 年度までの見通し期間を通じて 潜在成長率を上回る成長を続けると考えられる 2 今回の成長率の見通しを従 2 わが国の潜在成長率を 一定の手法で推計すると 0% 台前半 と計算される ただし 潜在成長率は 推計手法や今後蓄積されていくデータにも左右される性格のもの 2

来の見通しと比べると 概ね不変である こうした見通しの背景となる金融環境についてみると 日本銀行が 長 短金利操作付き量的 質的金融緩和 を推進するもとで 短期 長期の実 質金利は見通し期間を通じてマイナス圏で推移すると予想される 3 また 金融機関の積極的な貸出スタンスや社債 CP の良好な発行環境が維持さ れ 企業や家計の活動を金融面から支えると考えられる このようにきわ めて緩和的な金融環境が維持されると予想される 4 この間 潜在成長率については 政府による規制 制度改革などの成長 戦略の推進や そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり 企業 による生産性向上に向けた取り組みと内外需要の掘り起こしなどが続くと ともに デフレからの脱却が着実に進んでいくにつれて 見通し期間を通 じて緩やかな上昇傾向をたどるとみられる それに伴い 自然利子率も上 昇し 金融緩和の効果を高めると考えられる (2) 物価の中心的な見通し 先行きの物価を展望すると 消費者物価の前年比は エネルギー価格下 落の影響から 当面小幅のマイナスないし 0% 程度で推移するとみられる が マクロ的な需給バランスが改善し 中長期的な予想物価上昇率も高ま るにつれて 見通し期間の後半には 2% に向けて上昇率を高めていくと考 えられる 今回の物価見通しを従来の見通しと比べると 中長期的な予想 物価上昇率の弱含みの局面が続いていることなどから やや下振れている なお 2% 程度に達する時期は見通し期間の終盤 (2018 年度頃 ) になる可 能性が高い こうした見通しの背景を述べると 第 1 に 中長期的な予想物価上昇率 は 中央銀行の物価安定目標に収斂していく フォワードルッキングな期 であるため 相当の幅をもってみる必要がある 3 各政策委員は 既に決定した政策を前提として また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして 見通しを作成している 具体的には 長短金利について 市場金利をもとにしつつ 展望レポートと市場参加者との物価見通しの違いを加味し 想定している 4 金融面の動向については 日本銀行 金融システムレポート (2016 年 10 月 ) も参照 3

待形成 と 現実の物価上昇率の影響を受ける 適合的な期待形成 の2 つの要素によって形成される 5 中長期的な予想物価上昇率は 現実の物価上昇率がゼロ % 程度ないし小幅のマイナスで推移する中で 適合的な期待形成 の要素が強く作用し 2015 年夏場以降の弱含みの局面が続いている 先行きについては 上記の経済見通しのもとで 個人消費が緩やかな増加に向かうにつれて 企業の価格設定スタンスが再び積極化していくほか 労働需給のタイト化が賃金設定スタンスを強める方向に影響すると考えられる これらを背景にしつつ 1 適合的な期待形成 の面では 今後エネルギー価格による下押しの剥落もあって 現実の物価上昇率は高まっていくと予想されること 2 フォワードルッキングな期待形成 の面では 日本銀行が 物価安定の目標 の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことから 中長期的な予想物価上昇率は上昇傾向をたどり 2% 程度に向けて次第に収斂していくとみられる 第 2に 労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは 新興国経済の減速などを背景に製造業の設備稼働率の改善が遅れる一方 労働需給の引き締まりは続いており 全体として横ばい圏内の動きとなっている 先行きは 経済対策の効果もあって 労働需給の引き締まりは続き 設備の稼働率も 輸出 生産の持ち直しに伴い 再び上昇していくと考えられる このため マクロ的な需給バランスは 2016 年度末にかけてプラスに転じ その後はプラス幅を拡大していくと見込まれる 第 3に 輸入物価についてみると 原油価格など国際商品市況の既往の下落は 当面 輸入物価を通じた消費者物価の下押し圧力となるが その影響は減衰していくと予想される 為替相場が輸入物価を通じて消費者物価にもたらす影響については 本年入り後の円高もあって 価格上昇圧力を抑制する方向に作用すると考えられる 5 予想物価上昇率の形成メカニズムについては 量的 質的金融緩和 導入以降の経済 物価動向と政策効果についての総括的な検証 (2016 年 9 月 ) 参照 4

3. 経済 物価の上振れ要因 下振れ要因 (1) 経済の上振れ 下振れ要因上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ 下振れ要因としては 第 1に 海外経済の動向に関する不確実性がある 具体的には 中国をはじめとする新興国 資源国経済の動向 米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融市場に及ぼす影響 英国のEU 離脱問題の帰趨やその影響 金融セクターを含む欧州債務問題の展開 地政学的リスクなどが挙げられる 第 2に 企業や家計の中長期的な成長期待は 少子高齢化など中長期的な課題への取組みや労働市場をはじめとする規制 制度改革の動向に加え 企業のイノベーション 雇用 所得環境などによって 上下双方向に変化する可能性がある 第 3に 財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下する場合 人々の将来不安の強まりやそれに伴う長期金利の上昇などを通じて 経済の下振れにつながる惧れがある 一方 財政再建の道筋に対する信認が高まり 将来不安が軽減されれば 経済が上振れる可能性もある (2) 物価の上振れ 下振れ要因以上の要因のほか 物価の上振れ 下振れをもたらす固有の要因としては 第 1に 企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる 海外経済を中心とした景気の先行きに関する不透明感が強い中で 現実の物価上昇率の動向に強く影響されて 企業の価格 賃金設定スタンスが慎重なものにとどまるリスクがある この点に関して とくに来春の賃金改定交渉に向けた動きが注目される 第 2に マクロ的な需給バランスに対する価格の感応度が低い品目があることが挙げられる とくに 公共料金や一部のサービス価格などは 労働需給が引き締まる中でも依然鈍い動きを続けているほか 家賃は最近下落幅が拡大しており 想定以上に物価上昇率を抑制する可能性がある 第 3に 今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向およびその輸入物 5

価や国内価格への波及の状況は 上振れ 下振れ双方の要因となる 4. 金融政策運営以上の経済 物価情勢について 物価安定の目標 のもとで 2つの 柱 による点検を行い 先行きの金融政策運営の考え方を整理する 6 まず 第 1の柱 すなわち中心的な見通しについて点検すると 消費者物価の前年比は 見通し期間の後半には 2% に向けて上昇率を高めていくと考えられる このように 物価安定の目標 に向けたモメンタムは維持されているとみられるものの 前回見通しに比べると幾分弱まっており 今後 注意深く点検していく必要がある 次に 第 2の柱 すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると 経済の見通しについては 海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きい 物価の見通しについては 海外経済や中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に 下振れリスクの方が大きい より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると これまでのところ 資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されていない また 低金利環境が続くもとで 金融機関収益の下押しが長期化すると 金融仲介が停滞方向に向かうリスクや金融システムが不安定化するリスクがあるが 現時点では 金融機関が充実した資本基盤を備えていることなどから そのリスクは大きくないと判断している 金融政策運営については 2% の 物価安定の目標 の実現を目指し これを安定的に持続するために必要な時点まで 長短金利操作付き量的 質的金融緩和 を継続する 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) の前年比上昇率の実績値が安定的に2% を超えるまで マネタリーベースの拡大方針を継続する 今後とも 経済 物価 金融情勢を踏まえ 物価安定の目標 に向けたモメンタムを維持するため 必要な政策の調整を行う 以 上 6 物価安定の目標 のもとでの2つの 柱 による点検については 日本銀行 金融政策運営の枠組みのもとでの 物価安定の目標 について (2013 年 1 月 22 日 ) 参照 6

( 参考 ) 2016~2018 年度の政策委員の大勢見通し 対前年度比 % なお < > 内は政策委員見通しの中央値 実質 GDP 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) 2016 年度 7 月時点の見通し +0.8~+1.0 <+1.0> +0.8~+1.0 <+1.0> -0.3~-0.1 <-0.1> 0.0~+0.3 <+0.1> 2017 年度 7 月時点の見通し +1.0~+1.5 <+1.3> +1.0~+1.5 <+1.3> +0.6~+1.6 <+1.5> +0.8~+1.8 <+1.7> 2018 年度 7 月時点の見通し +0.8~+1.0 <+0.9> +0.8~+1.0 <+0.9> +0.9~+1.9 <+1.7> +1.0~+2.0 <+1.9> ( 注 1) 大勢見通し は 各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について 最大値と最小値を 1 個ずつ除いて 幅で示したものであり その幅は 予測誤差などを踏まえた見通しの上限 下限を意味しない ( 注 2) 各政策委員は 既に決定した政策を前提として また先行きの政策運営については市場の織り込みを参考にして 上記の見通しを作成している 具体的には 長短金利について 市場金利をもとにしつつ 展望レポートと市場参加者との物価見通しの違いを加味して 想定している ( 注 3) 原油価格 ( ドバイ ) については 1 バレル 50 ドルを出発点に 見通し期間の終盤である 2018 年度にかけて 50 ドル台後半に緩やかに上昇していくと想定している その場合の消費者物価 ( 除く生鮮食品 ) の前年比に対するエネルギー価格の寄与度は 2016 年度で -0.6% ポイント程度と試算される また 寄与度は 2016 年度下期にかけてマイナス幅を縮小し 2017 年初に概ねゼロになると試算される ( 注 4) 各政策委員は 消費税率については 2019 年 10 月に 10% に引き上げられることを前提として 見通しを作成している 7

政策委員の経済 物価見通しとリスク評価 (1) 実質 GDP ( 前年比 %) ( 前年比 %) 3.0 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0-0.5-0.5-1.0-1.0-1.5-1.5 2010 2011 年度 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 (2) 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) ( 前年比 %) ( 前年比 %) 3.5 3.5 3.0 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 1.5 1.5 1.0 1.0 0.5 0.5 0.0 0.0-0.5-0.5-1.0-1.0 2010 2011 年度 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 ( 注 1) 実線は実績値 点線は政策委員見通しの中央値を示す ( 注 2) は 各政策委員が最も蓋然性が高いと考える見通しの数値を示すとともに その形状で各政策委員が考えるリスクバランスを示している は リスクは概ね上下にバランスしている は 上振れリスクが大きい は 下振れリスクが大きい と各政策委員が考えていることを示している ( 注 3) 消費者物価指数 ( 除く生鮮食品 ) は 消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベース 8