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Transcription:

125 ポリカーボネートポリオールの特長と塗料用途展開 ウレタン研究所コーティンググループ 齋藤鉄平田中高廣重安真治 1. はじめにコーティング 接着剤 シーリング材料などの用途分野では 更なる高性能 高機能化と共に環境負荷低減に対する関心が一段と高まっている それに伴い各原料メーカーでは精力的に差別化に向け様々な手法で商品開発が行われている 当社はポリウレタンの原料であるイソシアネートやポリオール等の原料を保有する強みを生かし 新たな観点から新規の材料およびその誘導製品を開発している 特にポリウレタン樹脂のソフトセグメントを形成するポリオールの一種であるポリカーボネートポリオール ( 以下 PCP) は ポリエステルやポリエーテル骨格よりも耐水性 耐熱性など優れた特性を有しており 各用途分野に使用することで優れた製品の創出が期待され 今後その需要は高まるものと期待される [1] 本稿では ソフトセグメントに求められる柔軟性と耐久性 ( 耐摩耗性 耐加水分解性など ) 耐薬品性( 日焼止め剤 虫除け剤など ) との両立と高性能化をコンセプトに開発した PCP 開発品と用途展開について紹介する 2.PCP とは PCP はジアルキルカーボネート類やアルキレンカーボネート類 その他カーボネート類と グリコールとの反応によって得られ ( 図 1) 一般的に分子量 500 ~ 3,000 の分子鎖中にカーボネート基と水酸基官能基数が 2 以上を有するポリオールである 最も汎用的な PCP は 水酸基官能基数が 2 のポリカーボネートジ オール ( 以下 PCD) で原料グリコールに 1,6 ヘキサンジオール ( 以下 1,6 HG) を使用したもので 合成皮革用ポリウレタン樹脂や水性ポリウレタン樹脂の原料として使用される 当社の代表的な PCD 製品を表 1 に示す 3.PCP の高性能 高機能化と開発品 PCD は高い耐熱性 耐水性 耐候性 耐薬品性を有するが 近年 需要の多い自動車内装材を中心とした合成皮革用途や塗料用途で 耐久性や耐寒性 耐摩耗性面でより高い性能を要求されている [2] そこで これらの要求に対応する差別化 多官能型の PCP の開発に着手し 従来の PCP では得られなかった特徴を有する 3 種類の ニッポラン 976 ニッポラン 993 PCP 100L を開発した 各開発 PCP の特長について解説する 4. ニッポラン 976 ニッポラン 993 PCP 100L の基本性状表 2に開発製品である ニッポラン 976 ニッポラン 993 PCP 100L の代表性状を示す ニッポラン 976 ニッポラン 993 は液状 PCD でハンドリング良好 PCP 100L は平均官能基数が約 3 の PCP である 以下に各 PCP の特長を示す

126 TOSOH Research & Technology Review Vol.61(2017) [1] ニッポラン 976 の特長 (1) 溶剤溶解性 他ポリオールとの相溶性 PCP のうち最も汎用的なニッポラン 980R などの PCP は それを用いた皮革 塗膜樹脂の性能に優れる反面 室温固体で結晶性が高く 低温での溶剤溶解性や他ポリオール 特にポリエーテルポリオール アクリルポリオールとの相溶性が低いという課題がある 一方 開発品 ニッポラン 976 は分子量 500 で室温液状 低粘度であるため ハンドリングに優れる特長を有する また 表 3に示すように溶剤溶解性やアクリルポリオールとの相溶性に優れ 耐候性を改善する目的で 溶剤系 2 液塗料などのポリオール成分と併用して使用することができる (2) 耐摩耗性の向上 ニッポラン 976 をポリオール原料に用いた水系ポリウレタンディスパージョン ( 以下 PUD) を調製し 合皮材料のトップコート層 ( 表面処理層 ) に使用した際の耐摩耗性の評価結果を示す 評価に用いた合皮材料のトップコート配合を表 4に示す 耐摩耗性の評価は 市販のポリウレタンレザーに 0.1g / 100cm 2 (2 コート ) スプレー塗布をし 80 で 3 分間焼付け後に 1 週間 25 / 50% RH 養生後に行った 試験は学振摩耗堅牢度試験機を用い 荷重 1kgf とした その結果を図 2に示す ニッポラン 976 は 結晶性が高く分子量の相違するニッポラン 980R ニッポラン 970 と比較し優れた耐摩耗性を示す ニッポラン 976 を用いることで高い耐摩耗性を発現するこ

東ソー研究 技術報告第 61 巻 (2017) 127 とから自動車内装を中心とした合成皮革用途や塗料用途の展開が期待される [2] ニッポラン 993 の特長 ニッポラン 993 はポリオール主鎖の結晶性を抑制し 分子間力を低下させる構造を導入することで ガラス転移温度が低下する ニッポラン 993 をポリオール原料に使用したポリウレタン樹脂は 柔軟性が付与され ガラス転移温度低下に伴い耐寒性が向上する特長を有する (1) 耐寒性の向上 ニッポラン 976 の試験と同様に ニッポラン 993 をポリオール原料に用いた PUD を調製し 合皮材料のトップコート層 ( 表面処理層 ) に使用した際の耐寒性の評価を行った 評価に用いた合皮材料のトップコート配合を表 4に示す 耐寒性の評価は 市販のポリウレタンレザーに 0.1g / 100cm 2 (2 コート ) スプレー塗布をし 80 で 3 分間焼付け後 1 週間 25 / 50% RH 養生後に行った 試験はフレキシオメーターを用い 10 の低温とした その結果 図 3に示す通り 先の評価と同様 ニッポラン 980R ニッポラン 970 と比較し ニッポラン 993 を使用したトップコート被膜は ガラス転移温度が 30 以下となり 良好な低温屈曲性が得られることを確認した ガラス転移温度 (Tg) は図 4に示す通りで 耐寒性は Tg が低いほど良好な傾向を示す Tg は動的粘弾性の損失弾性率 E の数値から確認した [3] PCP 100L の特長近年 塗料用途を中心に高い薬品性が要求される分野に対し PCP 100L を開発した 図 5に示すイメージの多官能型 PCP で それを用いたポリウレタン樹脂において 特長ある架橋構造から優れた耐薬品性と柔軟性を併せ持つ (1) 耐薬品性と触感の両立 ~ 2 液型塗料処方例 ~ PCP 100L を用いた溶剤系 2 液型触感塗料塗膜の諸性能を示す 評価に用いた塗料処方の配合例を

128 TOSOH Research & Technology Review Vol.61(2017) 表 5に示す PCP20g に対し レベリング剤 艶消剤 触媒 及びシンナーとして酢酸ブチルを最終的な固形分が 30% となるように配合 混合することで主剤を得た これを硬化剤と所定の条件で混合 塗工し 塗膜評価を行った 表 6に耐薬品性の結果を示す 各種薬剤を 1 滴塗 膜上に滴下し 23 で一定時間放置後 表面を洗浄して塗膜の状態を評価した 判定基準は 塗膜外観に変化が無いもの 薬液痕のみ残るものを + 膨潤や溶解するものを とした PCP 100L は 2 官能の市販ポリオールと比較して優れた耐薬品性を示した 図 6に柔軟性の指標とした触感の評価結果を示す 試験方法は 調製した塗膜の表面を摩擦感テスターを用い測定し μ( 平均摩擦係数 ) とμ MD( 摩擦係数の標準偏差 ) の数値から以下の様に算出し数値化した 一般的に この数値が大きい程 触感が良好とされ [3] PCP 100L は優れた触感と耐薬品性とを両立することを確認した

東ソー研究 技術報告第 61 巻 (2017) 129 (2) 耐薬品性と付着性の両立 ~ UV 硬化型塗料処方例 ~ PCP 100L を用い評価に用いるウレタンアクリレートを調製した 図 7の合成フローに示す様に NCO 末端プレポリマーに HEMA(2 ヒドロキシエチルメタクリレート ) を反応させることでオリゴマーを得た プラスチック基材に対し塗工し 予備乾燥後 UV 硬化装置を用い硬化させることで 評価塗膜を作製した その塗膜を用い 基材付着性と耐薬品性を評価した 表 7に評価結果を示す 判定基準は 付着性の評価は剥がれの少ない分類 0 ~ 1 を + 剥がれの多い分類 2 ~ 5 を とした PCP 100L は優れた耐薬品性を有すると共に 硬化収縮の抑制に起因すると推定される各種基材に対し 2 官能 PCD と同等に高い付着性であることを確認した 5. 引用文献 [1] 岩田敬治, ポリウレタン樹脂ハンドブック (1987) [2] 富士キメラ総研, 機能性塗料 コーティングの現状と将来展望 (2010) [3] 安田一美, 工業塗装,147,87 92,(1997) ニッポラン コロネート は日本における東ソー株式会社の登録商標です 4. おわりにポリカーボネートポリオール (PCP) の優れた耐久性に更に特化した性能を付与することで 相溶性と耐摩耗性に優れる ニッポラン 976 低温屈曲性( 耐寒性 ) に優れる ニッポラン 993 耐薬品性と柔軟性の両立を可能とする PCP 100L を開発し 様々な塗料形態 ( 溶剤系 水系 UV 硬化系 ) に応用可能であることを確認できた 今後 本稿で紹介した開発 PCP は よりハイエンドな塗料や合成皮革 更には接着剤やエラストマーなど様々な用途分野の性能向上に貢献できるものと期待している