第 2 事案の概要本件は, 原告が有する下記商標登録 ( 本件商標 ) について, 被告が行った商標法 51 条 1 項に基づく商標登録取消審判請求に対し, 特許庁がこれを認容する審決をしたことから, 原告がその審決の取消しを求めた事案である 争点は,1 原告による下記の本件使用商標 1 及び2(

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平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

本件は, 商標登録取消審判請求に対する審決の取消訴訟である 争点は,1 被告又は通常実施権者による標章使用の有無及び2 使用された標章と登録商標との同一性の有無である 1 本件商標商標登録第 号商標 ( 以下, 本件商標 という ) は, 下記の構成からなり, 第 25 類 運動靴,

平成 29 年 5 月 15 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 3 月 6 日 判 決 原 告 BERNARD FRANCE SERVICE 合同会社 訴訟代理人弁護士笹本摂 向多美子 訴訟代理人弁理士木村高明 被 告 ラボラ

基本的な考え方の解説 (1) 立体的形状が 商品等の機能又は美感に資する目的のために採用されたものと認められる場合は 特段の事情のない限り 商品等の形状そのものの範囲を出ないものと判断する 解説 商品等の形状は 多くの場合 機能をより効果的に発揮させたり 美感をより優れたものとしたりするなどの目的で

平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

31 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 第 1 原告の求めた裁判 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要 本件は, 商標登録を無効とした審決の取消訴訟である 争点は, 商標法 4 条 1 項 10 号該当性 ( 引用商標の周知性の有無 ) である 1 特許庁における手続の経

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

同法 46 条 1 項 1 号により, 無効とすることはできない, というものである 第 3 当事者の主張 1 審決の取消事由に関する原告の主張 (1) 取消事由 1( 商標法 3 条 1 項柱書該当性判断の誤り ) 審決は, 本件商標に関し, 願書に記載された指定商品又は指定役務に使用していること

最高裁○○第000100号

(1) 被告は, 次の商標 ( 以下 本件商標 という ) に係る商標権 ( 以下 本件商標権 という ) を有している ( 甲 25) 商標登録第 号商標の構成千鳥屋 ( 標準文字 ) 登録出願日平成 23 年 12 月 21 日設定登録日平成 25 年 2 月 8 日指定商品第

最高裁○○第000100号

一括して買い受けた なお, 本件商品である コンタクトレンズ は, 本件商標の指定商品 眼鏡 に含まれる商品である (3) 使用商標は, ハートO2EXスーパー の文字からなるところ, 本件商品の容器に表示された使用商標は, ハート の文字部分だけが赤い字で, かつデザイン化されており, これに続く

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

日から支払済みまで年 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団であ る原告が, 被告株式会社シーエム ( 以下 被告シーエム という ) が企画, 編集

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

平成 25 年 12 月 17 日判決言渡 平成 25 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 10 月 17 日 判 決 原告エイトマイハートイン コーポレイテッド 訴訟代理人弁護士 五十嵐 敦 出 田 真樹子 弁理士 稲 葉 良 幸 石 田 昌 彦 右

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

令和元年 5 月 30 日判決言渡 平成 30 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 31 年 4 月 23 日 判 決 原告ジー エス エフ ケー シー ピー株式会社 被告ケーシーピーヘビーインダスト リーズカンパニーリミテッド 訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

平成 28 年 10 月 11 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結の日平成 28 年 7 月 7 日 判 決 原 告 オーガスタナショナルインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 中 村 稔 同 松 尾 和 子 同 田 中 伸 一 郎 同訴訟代

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

淡路町知財研究会 (松宮ゼミ)

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yMSH\201z \224\273\214\210\201i\217\244\225W\201j.doc)

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

異議の決定 異議 東京都荒川区東日暮里 3 丁目 27 番 6 号商標権者株式会社エドウイン 東京都渋谷区広尾 商標異議申立人 EVISU JAPAN 株式会社 東京都港区西新橋 1 丁目 18 番 9 号西新橋ノアビル4 階朝比 増田特許事務所代理人弁理士朝比

1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由第 1 請求の趣旨 1 特許庁が無効 号事件について平成 25 年 5 月 9 日にした審決を取り消す 2 訴訟費用は被告の負担とする 第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ( 当事者間に争い

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

年 1 月 9 日に第 40 類 布地 被服又は毛皮の加工処理 ( 乾燥処理を含む ), 裁縫, ししゅう, 木材の加工, 竹 木皮 とう つる その他の植物性基礎材料の加工 ( 食物原材料の加工を除く ), 食料品の加工, 廃棄物の再生, 印刷 を指定役務 ( 以下 本件指定役務 という ) とし

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

原告は, 平成 26 年 12 月 9 日, 指定役務を第 35 類 市場調査又は分析, 助産師のあっせん, 助産師のための求人情報の提供, 第 41 類 セミナーの企画 運営又は開催, 電子出版物の提供, 図書及び記録の供覧, 図書の貸与, 書籍の制作, 教育 文化 娯楽 スポーツ用ビデオの制作

審決取消判決の拘束力

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

平成 25 年 7 月 18 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 25 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 7 月 4 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史 麻 子 呰 真 希 被 告 特 許 庁 長 官 指 定

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

550E62CA E49256A CC

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

求める事案である 1 本件商標被告は, 平成 17 年 3 月 7 日, rhythm の文字を横書きしてなる商標 ( 以下 本件商標 という ) について, 第 25 類 履物, 乗馬靴 を指定商品として, 商標登録出願し, 同年 9 月 16 日に設定登録を受けた ( 登録第 号

4390CD461EB D090030AC8

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Microsoft Word - TOKLIB01-# v1-Chizai_Bukai_ docx

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

1DD CC A CA

被告は,A 大学 C 学部英語専攻の学生である (2) 本件投稿等被告は, 大学 2 年生として受講していた平成 26 年 4 月 14 日の 言語学の基礎 の初回講義 ( 以下 本件講義 という ) において, 原告が 阪神タイガースがリーグ優勝した場合は, 恩赦を発令する また日本シリーズを制覇

4F1803FBFF227B8C E002B126

登録番号第 号出願日平成 15 年 8 月 25 日登録日平成 17 年 5 月 13 日登録商標 商品及び役務の区分第 24 類指定商品織物, 布製身の回り品, かや, 敷布, 布団, 布団カバー, 布団側, まくらカバー, 毛布, 織物製いすカバー, 織物製壁掛け, カーテン,

83155C0D6A356F E6F0034B16

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

最高裁○○第000100号

B63EE1C51AFE4AD B000BA3B

1 前提となる事実等 ( 証拠の摘示のない事実は, 争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である ) (1) 当事者原告は, X1 の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり, 被告は, 不動産業を主な業務としている特例有限会社である (2) 原告によるプログラムの制

平成  年(オ)第  号

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

11総法不審第120号

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

第 1 控訴の趣旨 控訴人は, 原判決取消しとともに, 被控訴人らの請求をいずれも棄却する判決を 求めた 第 2 事案の概要 被控訴人らは日本舞踊の普及等の事業活動をしている 控訴人はその事業活動に 一般社団法人花柳流花柳会 の名称 ( 控訴人名称 ) を使用している 被控訴人ら は, 花柳流 及び

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

して, 損害賠償金 330 万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成 28 年 月 21 日 ( 原告が被告に本件請求の通知を送付した日の翌日 ) から支払済みまで民法所定の年 分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容

平成 25 年 7 月 18 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 25 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 7 月 4 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史 麻 子 呰 真 希 被 告 特 許 庁 長 官 指 定

ない 4 訴訟費用は, 第 1,2 審とも被控訴人の負担とする 第 2 事案の概要 1 事案の要旨本件は, 原判決別紙 商標権目録 記載の商標権を有する控訴人が, 被控訴人に対し, 被控訴人が原判決別紙 被告標章目録 記載の標章をインターネットホームページのサイトで使用する行為が, 控訴人の商標権を

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

<4D F736F F D F B CB48D EE688F882CC8EC08FEE F4390B394C5816A6F6E672E646F63>

平成 25 年 4 月 24 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 3 月 11 日 判 決 原 告 X 訴訟代理人弁理士 松 下 昌 弘 被 告 特 許 庁 長 官 指定代理人 井 出 英一郎 同 水 莖 弥 同 堀 内 仁 子

ある 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 23 年 6 月 8 日, 下記本願商標につき商標登録出願 ( 商願 号 ) をし, 平成 23 年 11 月 25 日, 指定商品の補正をしたが, 平成 24 年 1 月 30 日, 拒絶査定を受けたので, 平成 24 年 4

F5A F6B EC

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡同日原本受領裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 9 日 判 決 5 原告株式会社フィールドアロー 同訴訟代理人弁護士 青 山 友 和 被 告 ソ メ ヤ 株 式 会 社 同訴訟代理

8823FF07EC A80018A5B

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

G-207 登録商標 ヨーロピアン 不使用取消審決取消請求事件 : 知財高裁平成 27( 行 ケ )10032 平成 27 年 9 月 30 日 (1 部 ) 判決 < 棄却 > キーワード 商標法 50 条 ( 登録 3 年以上の登録商標の不使用 ), 登録商標の使用 ( 自他商品の識別機能 ),

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yYOI\201z \224\273\214\210\201m\210\323\217\240\214\240\201n.doc)

事実及び理由控訴人補助参加人を 参加人 といい, 控訴人と併せて 控訴人ら と呼称し, 被控訴人キイワ産業株式会社を 被控訴人キイワ, 被控訴人株式会社サンワードを 被控訴人サンワード といい, 併せて 被控訴人ら と呼称する 用語の略称及び略称の意味は, 本判決で付するもののほか, 原判決に従う

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

平成  年(あ)第  号

平成 25 年 5 月 30 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 4 月 25 日 判 決 原告 X 訴訟代理人弁理士田中聡 被告東洋エンタープライズ株式会社 訴訟代理人弁理士野原利雄 主 文 原告の請求を棄却する 訴訟費用は原

消訴訟である 争点は, 引用商標との類否 ( 商標法 4 条 1 項 11 号 ) である 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 3 月 11 日, 下記本願商標につき, 商標登録出願 ( 商願 号 ) をしたが, 拒絶査定を受けたので, これに対する不服の審

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

1 項で, 道府県知事は, 固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については, 当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとする旨を定め, 同条 2 項で, 道府県知事は, 固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されていない不動産又は当該固定資産

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平成 25 年 11 月 14 日判決言渡 平成 25 年 ( 行ケ ) 第 10084 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 10 月 8 日 判 決 原告株式会社医学出版 被告株式会社メディカ出版 代 理 人 弁 護 士 三 山 峻 司 井 上 周 一 木 村 広 行 松 田 誠 司 種 村 泰 一 弁 理 士 齊 藤 整 主 文 原告の請求を棄却する 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由第 1 原告の求めた判決特許庁が取消 2012-300286 号事件について平成 25 年 1 月 8 日にした審決を取り消す - 1 -

第 2 事案の概要本件は, 原告が有する下記商標登録 ( 本件商標 ) について, 被告が行った商標法 51 条 1 項に基づく商標登録取消審判請求に対し, 特許庁がこれを認容する審決をしたことから, 原告がその審決の取消しを求めた事案である 争点は,1 原告による下記の本件使用商標 1 及び2( これらを併せて, 単に 本件使用商標 ともいう ) と本件商標との類似性,2 被告の業務に係る商品との出所混同を生ずるおそれの有無 3 原告の故意の有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 下記の本件商標 ( 登録第 5348154 号 ) の商標権者である 本件商標は, 平成 22 年 1 月 21 日に登録出願され, 第 16 類 雑誌, 新聞 を指定商品として, 同年 8 月 27 日に設定登録を受けた ( 乙 1の1 2) 被告は, 原告による下記の本件使用商標の使用は, 後記の引用商標である旧被告商標及び現被告商標を表題に付した被告の業務に係る商品である雑誌 ( 被告雑誌 ) と出所混同を生ずるおそれがあるとして, 商標 51 条 1 項に基づいて, 本件商標の登録取消しを求める審判請求をした 特許庁は, これを取消 2012-300286 号として審理した上, 平成 25 年 1 月 8 日, 登録第 5348154 号商標の商標登録は取り消す との審決をし, その謄本は同月 18 日, 原告に送達された ( 本件商標 ) - 2 -

( 本件使用商標 1) ( 本件使用商標 2) 2 審決の理由の要点 (1) 引用商標被告は, 循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者として, 昭和 62 年 1 1 月 1 日に看護雑誌 HEART nursing ( 被告雑誌 ) を創刊し, 当該創刊時から平成 16 年 3 月頃に至るまで,16 年以上, 以下の態様からなる商標 ( 旧被告商標 ) を使用してきた 同年 4 月ころから現在までは, 下記の現被告商標を使用している ( これらを併せて, 単に 被告商標 ともいう ) ( 旧被告商標 ) ( 現被告商標 ) (2) 本件使用商標の使用及び本件商標と本件使用商標との類似性 原告は, 循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者とする月刊雑誌 ( 原告 - 3 -

雑誌 ) において, その題号として, 平成 23 年 8 月頃からは HEART の欧文字からなる商標 ( 本件使用商標 1) を, 平成 23 年 12 月 1 日発行の雑誌からは本件使用商標に登録商標であることを示す の記号を付記した商標 ( 本件使用商標 2) を使用している 本件商標は, 視覚上及び意味上から HEART の部分が特に注意を惹く部分といえるから, これが独立して自他商品識別機能を発揮し得るものであり, 当該部分からは, 本件使用商標と同様に ハート の称呼及び 心臓, 心 などの観念を生ずるものとみるのが相当である そうすると, 本件商標及び本件使用商標ともに, 称呼及び観念において共通するものであり, 本件使用商標の使用は, 本件商標に類似する商標の使用に該当する また, 本件商標の指定商品は, 第 16 類 雑誌, 新聞 であり, 本件使用商標を使用する商品も循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象とする月刊誌 ( 雑誌 ) であるから, 本件使用商標の使用は, 本件商標の指定商品についての使用に当たる (3) 出所混同のおそれ被告商標中の HEART(HEΛRT) が被告雑誌を表示するものとして, その需要者の間に広く認識されていること, 本件使用商標が, 被告商標の要部である HEART(HEΛRT) と称呼, 観念を共通にし, かつ, 外観においても近似した印象を与える互いに相紛らわしい類似の商標であること, 本件使用商標が使用されている商品と被告商標が使用されている商品とは同一のものであって, 両者の需要者も共通していることなどの事情を総合的に勘案すれば, 本件使用商標を原告雑誌に使用したときには, これに接した需要者に対し, 被告商標を想起させて, その商品が被告の業務に係る商品又は被告と経済的若しくは組織的に何らかの関連を有する者の業務に係る商品であるかのように, その出所につき誤認を生じさせるおそれがある (4) 原告の故意原告と被告は, ともに書籍 新聞等の出版等を事業目的とし, その名称から同業 - 4 -

者 ( 出版社 ) といえる者であり, 原告雑誌と被告雑誌もまた, ともに 循環器看護に関わる看護師のための雑誌 であることからすれば, 原告は, 関連雑誌といえる被告雑誌の状況については十分な情報を得ていたはずであり, また, 本件使用商標が被告商標と同じ Times New Roman と同等の書体で書されていることからしても, 本件使用商標の使用を開始した当時, 被告商標及び HEAR T(HEΛRT) が需要者の間において広く認識されていたことを知っていたことは明らかである また, 原告は, HEART の文字のみからなる登録商標を所有していないにもかかわらず, 原告雑誌の表紙や宣伝広告, 原告雑誌の創刊に当たっての執筆や編集企画の依頼文等において, 本件使用商標の末尾に登録商標であることを示す の記号を表示し使用していることから, 原告が本件使用商標 HEAR T を雑誌に使用する行為が周知な被告商標及び HEART(HEΛRT) との関係において混同を生ぜしめるおそれのあることを十分に認識しながら, その使用をしたことを裏付けるものである したがって, 原告による本件使用商標を原告雑誌に使用する行為は, 故意によるものといわざるを得ない (5) 以上のとおり, 原告による本件使用商標を原告雑誌に使用する行為は, 商標権者が故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき に該当し, 商標法 51 条 1 項の要件を具備するというべきである したがって, 本件商標の登録は, 商標法 51 条 1 項の規定により, 取消しを免れない 第 3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由 1( 本件使用商標と本件商標との類似性判断の誤り ) 本件商標は, NURSE HEART ナースハート の3 段からなるものであり, 自他商品識別機能は, NURSE HEART が一体として発揮してい - 5 -

るにもかかわらず, 審決が HEART の文字の大きさのみを重視して HEA RT 部分を取り出し, 本件使用商標との類似性を認めたのは誤りであり, 本件使用商標の使用は, 本件商標の類似商標の使用に当たらない 本件商標の HEART の部分が図形商標であれば, この部分が独立して自他商品識別機能を発揮し得るといえるが, 本件商標は図形商標ではないのだから, H EART 部分に自他商品識別機能があるとはいえない 文字商標は, 標準文字で出願される場合が往々にしてあり, このことからも, 本件商標で, HEART 部分が大きく表示されているかは問題ではない 2 取消事由 2( 出所混同のおそれに関する判断の誤り ) (1) 本件使用商標と被告商標の類似性について被告商標は ハートナーシング 又は HEART nursing であるにもかかわらず, その一部である HEART を取り出して, 本件使用商標と類似するとして出所混同を認めた審決の判断は誤りである ア被告雑誌の題号は ハートナーシング であって, HEART nur sing ではないのに, 審決は, ハートナーシング が, その読みにすぎないと断定しており, 誤りである 被告商標が HEART nursing であるとすれば, 被告は最も重要な背表紙に雑誌題号である HEART nursing と表記するはずであるのに, ハートナーシング との表記を行っているのであるし, 被告が自社広告において, 雑誌題号を ハートナーシング と明示していることからも, 被告雑誌が ハートナーシング であることは明らかである HEART n ursing は, 雑誌の表紙に見られるデザインの一つにすぎず, HEART の部分は, そのデザインの一つを強調したものにすぎない イ仮に, HEART nursing が被告雑誌の題号であるとしたとしても, HEART と nursing が一体として被告雑誌の題号をなしているのであり, HEART 部分のみが被告雑誌の題号でないことは, HEAR - 6 -

T と nursing が一体で表記されていることからも明らかである いかに小さく表記されているとはいえ, 自他商品識別機能を有しているのは, n ursing の部分である ウ審決は, 被告雑誌が ハート と呼称されていると認定しているが, 被告雑誌は ハートナーシング とのみ呼称されており, ハートナーシング が ハート と呼称されてきたとの点について, 客観証拠に乏しい エさらに, わが国で循環器系の雑誌を出版し, 店頭で販売されている主要出版社は, 原告と被告のほか, メディカルビュー社であるところ, メディカルビュー社発行の雑誌の題号 Heart View の Heart も独立して目立つ表示となっており, 被告主張からすれば, これも HEART ということになってしまい不都合であるから, HEART nursing のうち, HEAR T が独立して識別機能を有していないことは明らかである (2) 出所混同のおそれについて原告の調査によれば, 需要者が被告雑誌である ハートナーシング を ハート と呼称しているとの事実は存在せず, 読者, 書店, 執筆者, 取引業者はことごとく, ハートナーシング とのみ呼称し, 被告雑誌を ハートナーシング と認識していることは明らかである また, 原告雑誌の読者の一部には看護師が含まれるとしても, 原告雑誌は, 研修医, コメディカル ( 薬剤師, 理学療法士, 診療工学士, 作業療法士, 看護師, 検査技師 ) 及び非循環器専門医の開業医及び理学部学生等の幅広い読者を対象としているのであり, 原告雑誌の主な読者を看護師であると認定した審決の判断は誤っている さらに, 雑誌業界についていえば, 読者は単に雑誌題号を見て雑誌を買ってくれるほど甘くはなく, 立ち読みをして雑誌の中身 ( コンテンツ ) を十分に吟味して, 購入するかどうかを判断している そのために, 例えば, 週刊サッカーマガジン, 週刊サッカーダイジェスト など似たような雑誌名が複数存在しても, 混乱も混 - 7 -

同も実際には生じていない 現実に, 本件使用商標と被告商標との相紛らわしい混同は全く発生しておらず, 出所混同のおそれがあるとした審決の判断は誤りである 3 取消事由 3( 故意についての判断の誤り ) 原告は, 本件使用商標を使用する際に, 被告雑誌を知らず, 被告商標が広く需要者の間に認識されていると知って原告雑誌を創刊したわけではなく, 故意はない また, 審決は, 故意を示す事情として, 本件使用商標が被告商標と同じ Time s New Roman の書体であることを述べているところ, 本件使用商標が被告商標と同じ Times New Roman の書体を利用しているとしても, 当該書体は, 通常のワープロで一般的に使用され, 数百種類あるローマ字書体の中で, 唯一太く表示されているものであって, 通常どこの出版社でも雑誌や書籍に採用されているものであり, 被告雑誌とは無関係である また, 原告の出版している他の雑誌においても, 英字表記のものは全て Times New Roma n の書体を使用しており, 被告雑誌とは関係がない 第 4 被告の反論 1 取消事由 1に対し本件商標は,1 行で文字を書き連ねたものではなく,3 段書きでなるものであり, 上段に配された NURSE の文字部分のみが敢えて小さく斜体で書されている上に, 該文字の末尾に登録商標であることを示す の記号も付されている これに対して, 中段に配された HEART は大きなポイントである上に書体も異なっている これらのことからすれば, 視覚上, 上段の NURSE と中段の H EART の各文字はそれぞれ分離して認識 把握され得ると見るのが自然である したがって, これに接する需要者にとっては, 構成の中心に最も大きく太字で表された HEART の部分が特に注意を惹く部分といえる との審決の判断に誤 - 8 -

りはない 2 取消事由 2に対し (1) 本件使用商標と本件商標の類似性について被告雑誌の表紙に記載された被告商標中, HEART の部分は, nursi ng の部分よりも格段に大きく強調して表されてなるため, 当該部分が特に注意を惹く部分であって, 独立して自他商品識別機能を発揮し得る そして, 第三者による年間購読申込の際に ハート と略称され, 被告の社内的にも ハート と略称されていることや, 被告雑誌が読者や執筆者である看護師や医師らにおいて, 通常, ハート と称呼されていることからすれば, 審決における被告商標の HEA RT(HEΛRT) 部分が独立して自他識別機能を発揮し得るとの認定に誤りはないというべきである 原告は, HEART nursing に加えて ハートナーシング も被告商標の一つであると主張するならまだしも, 背表紙や広告に ハートナーシング の表示があることのみをもって被告商標は HEART nursing ではないと断ずるが, 被告雑誌の表紙に大きく HEART nursing の商標が長年使用されてきた事実からすれば, HEART nursing が被告商標であることは明らかである また, 原告は, 被告があたかも ハートナーシング の表示のみをもって被告雑誌を広告しているように主張するが, 被告は, 自らのウェブサイトにおいて, 被告雑誌の表紙写真とともに HEART nursing の商標を大きく表示し, サイトのタイトルや文中の題号表記も, すべて HEART nursing で統一している (2) 出所混同のおそれについて被告商標中の HEART 部分が被告雑誌を表示するものとして20 年以上の長きにわたり使用されてきたことに加え, 販売実績, 宣伝広告実績, 及び需要者の認識等を考慮すれば, 当該部分が原告雑誌の発刊された時点において需要者の間で - 9 -

周知となっていたとの認定は極めて自然であり, 審決に違法性はない そして, 被告雑誌の読者の中には, 実際に原告雑誌と混同して購入した者や, 誤認して購入するおそれを感じる者が存在しているのであって, 被告商標に類似する本件使用商標を原告雑誌に使用したときには, これに接した需要者に対し, その商品が被告の業務に係る商品等であるかのように, その出所につき混同を生じさせるおそれがあるという審決の認定に誤りはない 3 取消事由 3に対し原告は, 本件使用商標を, 被告が被告商標を使用している商品と同一の類型に属する商品, すなわち, 循環器系疾患医療に関わる看護師等を主な対象とした月刊誌 ( 原告雑誌 ) に使用しているところ, 同医療分野を対象とした定期刊行物としては, 被告の知る限り, 株式会社日総研出版の発行する隔月誌 呼吸器 循環器急性期ケア が存在する程度であって, 他には見当たらず, このような状況の下, 被告雑誌は, 当該分野における主要雑誌として, 需要者である医師や看護師等に広く認識され, 被告商標の付された被告雑誌が長年継続して販売されてきたのであるから, 同一分野の月刊誌を新たに出版しようとする原告が, 被告商標の付された被告雑誌の存在を知らなかったとするのは明らかに不自然である しかも, 原告は, 被告商標に酷似した商標 ハートナース /HEART nursing を過去において出願し, 周知な被告商標に類似することを理由に登録を拒絶された経緯があるのであるから, 原告は, 被告商標の存在を十分に認識し, かつ, 当該被告商標が周知であることを十分に認識していたはずである また, 原告は, 書体の採択に固執し, Times New Roman の採択が故意を示すものではない旨の主張に終始する しかし, 審決は, 原告が被告と同業者であること, 及び原告雑誌と被告雑誌とが同種雑誌であることを前提として, 原告は, 古くから出版されている被告雑誌に関する情報を十分に得ていたと考えられる点や, 同等の書体を用いている点, 原告は HEART のみからなる商標を - 10 -

保有していないにもかかわらず, 原告雑誌の表紙や同雑誌の宣伝広告, 執筆依頼等において, 本件使用商標の末尾に登録商標であることを示す の表示を使用していること等を総合的に勘案した上で, 原告における故意を認定しているのであって, 審決の判断に違法性は認められない 第 5 当裁判所の判断 1 取消事由 1( 本件使用商標と本件商標との類似性判断の誤り ) について (1) 原告は, 本件商標の自他商品識別機能は, NURSE HEART 一体として発揮しているにもかかわらず, 審決が, 本件商標中の HEART 部分の文字の大きさのみを重視して本件使用商標との類似性を認めたのは誤りであり, 本件使用商標の使用は, 本件商標の類似商標の使用に当たらないと主張する ア本件商標は, 前掲のとおり, NURSE HEART ナースハート の各文字を上下 3 段に横書きしてなるものであるところ, 最上段の NURS E 部分は最も小さな斜字体で表され, その下の中段に最も大きく Times New Roman の書体の大文字体で HEART と表され, 最下段には, HEART 部分よりもやや小さい文字で ナースハート と表されている H EART 部分が 5 文字であるのに対し, ナースハート 部分は 6 文字であるために, ナースハート 部分は各文字の大きさは小さいものの, 横幅としては, HE ART よりも広がった形となっている 一方, 本件使用商標 1 及び2は, 本件商標と同じ Times New Rom an の書体の大文字体で記されており, その外観において, 本件商標の HEA RT 部分をそのまま抜き出したような体裁となっている 本件使用商標 2には, 右下に, 一般に当該商標が登録商標であることを意味する の記号が付されている そして, 本件使用商標の具体的使用方法や取引実情について見るに, 証拠 ( 甲 1, 6,7,29, 乙 1ないし4,36,39,43 なお, 特に断らない限り, 証拠番号には枝番号を含む 以下, 同じ ) によれば,1 原告は, 昭和 57 年に株式会社 - 11 -

キャドテックスとして設立され, 平成 10 年に株式会社医学出版に商号が変更された株式会社であり, 雑誌及び書籍の出版等を事業目的としていること,2 原告は, 平成 22 年 1 月 21 日に本件商標の登録出願をなし, 同年 8 月 27 日に設定登録を受けたこと,3 月刊誌 HEART ( 原告雑誌 ) の平成 23 年 8 月 15 日発行の同年 9 月号 ( 創刊号 ) から, 原告雑誌において Times New Roman の書体の大文字体で記された本件使用商標 1の使用を開始し, 同年 12 月からは本件使用商標 1の右下に, 通常, 登録済みの商標であることを示すためのマークとして用いられる の記号を付した本件使用商標 2を使用するようになったこと,4その後, 平成 24 年 8 月号からは頭文字より後ろを小文字表記とした Heart との下記商標 ( 本件使用商標 3) を使用していること,4 本件使用商標 1ないし3 は, いずれも, 原告雑誌の表紙上段において, 通常の雑誌においても誌名が記載される部分に大きく目立つ態様で, 原告雑誌の雑誌名を示すものとして表示されていること, などがそれぞれ認められる 他方, 原告は, 原告雑誌において, 雑誌名を表するものとして, ナース あるいは ナースハート を使用するものではなく, その他本件商標を ナースハート として使用した形跡は窺われない ( 本件使用商標 3) さらに, 証拠 ( 甲 3,14, 弁論の全趣旨 ) によれば, 原告は, 審判手続において, 本件商標の中核が HEART である旨を述べている上, 本件商標は, HE ART と同一又は類似の商標が出願登録時に存在しなかったことにより, 本件商標が登録になった旨を自認していたこと, 原告雑誌の2011 年 12 月号に本件商標を基に, HEART に の記号を付した本件使用商標 2の使用をした旨述べて - 12 -

いたことが認められる また, 原告の有する本件商標とは別の商標 ( ハートナース, HEARTCARE, HEARTNURSE, ハートケア を四段書きにしてなる商標 登録第 5339612 号 ) について, 被告が本件審判請求とほぼ同時期に本件使用商標と同様の商標の使用につき, 商標法 51 条 1 項に基づく商標登録取消請求をしたところ, 原告は, その審判手続においては, 当該商標と本件使用商標との類似性を争っていた ( 甲 14) にもかかわらず, 本件審判手続においては, 本件商標と本件使用商標との類似性がない旨の主張をせず, 本件商標と本件使用商標の類似性を争っていなかったことが認められる イ以上を総合すると, 本件商標の外観から, HEART 部分が, NU RSE あるいは ナースハート の文字部分を凌駕して, 需要者において H EART 部分のみに注目するとまでは言い難いものの, 上記に認定した取引実情等や, 原告自身が登録商標であることを示す の記号を付して, 本件使用商標 2を使用しており, 本件審判段階においても, 本件使用商標が本件商標の使用であることを争っておらず, かえって, HEART が中核であると自認していたとの経緯をも踏まえれば, 本件商標のうち, HEART の部分が自他商品識別機能を有する部分として, 本件使用商標との類似性を認めるのが相当である (2) これに対し, 原告は, 本件商標において, NURSE 部分が自他識別機能を有する旨主張するが, 当該部分は小さく表示されているにもかかわらず, 独立して自他識別機能を有することについての具体的根拠を示しておらず, また, 証拠を精査しても, これを認めるような事情は窺われないから, 上記主張は採用できない また, 原告は, 文字の結合商標において HEART との一部分が識別性を有することはあり得ない旨主張するようであるが, 独自の見解であって採用の限りではない (3) したがって, 本件商標と本件使用商標との間に類似性を認めた審決の判断に誤りはなく, 原告の取消事由 1は理由がない - 13 -

2 取消事由 2( 出所混同のおそれに関する判断の誤り ) について (1) 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば, 以下の事実が認められる ア被告及び被告商標について被告は, 昭和 56 年に設立された株式会社であり, 医療分野の学術用書籍 専門誌の出版及びDVDの制作並びに各種セミナー及び研究会の開催等を事業目的とし, 医学 看護などの医療系分野を専門とする出版社である ( 甲 2, 乙 5, 弁論の全趣旨 ) 被告は, 循環器系疾患医療に関わる看護師を主な対象読者として, 昭和 62 年 1 1 月 1 日に HEART nursing ( 和文表記はハートナーシング ) との表題の被告雑誌を創刊し, 当該創刊時から平成 16 年 3 月頃に至るまで,16 年以上, 被告雑誌の表紙の雑誌名を表示する部分において, 旧被告商標を使用し, 平成 16 年 4 月頃から現在に至るまで, 上記と同じ態様で, 現被告商標を被告雑誌の表紙に使用している ( 甲 30, 乙 6ないし8) 被告雑誌は, 書店等において, 医療雑誌のコーナーにいわゆる面出しの状態で陳列されて販売される場合もある ( 甲 6,7, 乙 36) また, 被告は, 自身のホームページにおいて, 被告雑誌に関するページに現被告商標を用いているほか, 被告雑誌を文字で表記する際にも, HEART の横にフォントを小さくした nursing を横に並べる形で表記している ( 乙 44) イ被告雑誌の販売 宣伝の状況等について ( ア ) 被告雑誌の発行部数は, 各号につき概ね4000 部を超えており, 平成 3 年から平成 23 年までの1 年当たりの発行部数は,5 万部ないし8 万部である ( 乙 9,10) また, 被告雑誌の読者は, 主として, 心臓血管外科, 循環器科及び集中治療室 (I CU) に勤務する看護師であるところ, これらの診療科に所属する看護師の総数は, 平成 21 年 11 月時点において, 全国で合計約 6 万 4500 人と推定される ( 乙 1 3) - 14 -

さらに, 被告雑誌は, 病院 医療センターなどによって定期購読をされ, これらの施設に所属する看護師も読者となっている ( 乙 16~21) ( イ ) 被告は, 少なくとも平成 16 年から20 年までの間において, 日本循環器看護学会学術集会のプログラムや学会誌に, 被告商標又はこれを付した被告雑誌の表紙を掲載することにより広告活動を行った ( 乙 22~26) また, 被告雑誌の創刊時 ( 昭和 62 年 11 月 ) に, その創刊を記念した HEA RT nursing と題するセミナーを開催, その後も同名のセミナーを年 1 回平成 2 年まで開催し, 被告商標を付した被告雑誌の周知活動を行った ( 乙 27) ウ原告雑誌について原告雑誌は, 循環器系疾患医療を扱う看護師を主な読者対象としており, 書店等において, 医療雑誌のコーナーにいわゆる面出しの状態で陳列されて販売される場合がある ( 甲 6,7,29, 乙 3,4,36,39) (2) 本件使用商標と被告商標の類似性について被告旧商標は, 前記のとおり, HEART の右の RT の下部あたりに n ursing との記載部分を配置してなり, 被告現商標は, HEART の右横下に nursing と記載されてなるところ, いずれについても, HEART は, Times New Roman の大文字書体で nursing よりも格段に大きく, 太く示されており, HEART 部分の文字は, nursing の文字から明瞭に区別することができ, 被告商標に接した需要者等は, 大きく記された HEART 部分を強く意識することが多いものと認められる そして, 上記認定のとおり, HEART は, 被告雑誌の表紙に表題を示すものとして, 大きく記され, 証拠 ( 乙 31~37) によれば, 広く HEART として呼称されるなどして被告雑誌を示す商品表示として機能していると認められることからすれば, HEART 部分は被告商標の要部であると認められる 以上を前提として, 本件使用商標と被告商標の類否について見ると, 両者は, ハート との称呼を生じ, 観念についても上記と同様に, 心, 心臓 との観念を生 - 15 -

ずるものである点で共通する また, 外観について, 被告旧商標は, 本件使用商標 1 及び2と酷似しており, 被告現商標は, Λ と R の表記においてデザインがやや異なっているものの, 単なる書体の違いにすぎず, 需要者がそこから受ける意味合いや呼称, 全体から受ける印象に大きな違いはない さらに, 取引の実情についてみると, 本件使用商標及び被告商標は, いずれも看護師を主たる対象とする月刊誌において, 表紙の雑誌題名を記す部分に使用され, 書店においていわゆる面出しの状態で陳列販売される場合もある これらのことからすれば, 本件使用商標と被告商標とは類似するものと認められる (3) 出所混同のおそれについて以上を踏まえ, 他人の業務に係る商品 と混同を生ずる おそれがあるか否かについて検討する 原告雑誌及び被告雑誌はともに, 循環器系疾患医療に関わる看護師を主たる読者とする雑誌である点で共通し, 店頭で医療雑誌として販売されるという点でも共通しているところ, そのいずれもが雑誌の表題を示す表紙部分に HEART と T imes New Roman 書体でほぼ同じ大きさ, 配置で表題が示されており, 両雑誌がいわゆる面出しの状態で医療雑誌のコーナーで陳列販売される場合があり, 雑誌を購入する読者にとって, 最も識別力を有するのは雑誌の表題部分であると推認されることからすれば, 一見して紛らわしいものである そして, 上記のとおり, 被告雑誌が, 循環器系疾患医療に関わる看護師用の月刊誌として, 周知されていることからすれば, 需要者が原告雑誌を広く知られている被告雑誌と混同するおそれは十分に認められる 加えて, 実際に, 需要者において原告雑誌と被告雑誌を混同し, あるいは, 混同のおそれを感じている者がいることが認められる ( 乙 14,15,17ないし21,34,35,37,40) そうすると, 本件使用商標の使用は, 被告の業務に係る被告雑誌と混同を生じるおそれのあるものと認められる この点, 原告は, 実際に原告雑誌と被告雑誌を間違えて購入した旨や, 混同のお - 16 -

それを感じている旨が記載された医療関係者等の陳述書である上記各証拠 ( 乙 14, 15,17ないし21,34,35,37,40) の信用性に疑義を差し挟むが, いずれも具体的な根拠に欠けるものであり, 上記に認定した事情に鑑みれば, 混同を生ずるおそれを感じる需要者が存在するというのは容易に推測できるところであり, 内容自体に合理性があることからすると, その信用性に疑いを生ずべき事情を認めることはできない また, 原告は, 原告雑誌の需要者は, 看護師に限られるものではなく, 幅広い読者を対象にしており, 主要読者の認定において審決の判断が誤りである旨主張するが, 審決は, 看護師以外の読者がいることを排除しているものでなく, 主たる読者が看護師であると認定しているにすぎないものであるところ, 証拠 ( 乙 38) によれば, 原告自身が原告雑誌の創刊に当たり, 循環器科の看護師を読者対象とする 旨を述べているのであり, 原告雑誌の内容自体からも, 循環器疾患医療に関わる看護師を主な対象とするものであると認められることからすれば, 審決の認定に誤りはなく, 原告の上記主張は採用できない さらに, 原告は, 被告雑誌を ハートナーシング と呼んでいることや, 被告雑誌と原告雑誌を混同したことはない旨の記載又はその旨の選択肢にチェックの付された医療関係者や書籍販売関係者のアンケート結果 ( 甲 8ないし10,26ないし 28など ) を提出するほか, 被告雑誌の雑誌名は ハートナーシング であるとし, 被告自身が ハートナーシング との表記を利用している例や, 被告雑誌の背表紙に ハートナーシング との記載がなされていることなどを指摘し, HEART を被告商標の要部と認定した審決は誤りであると主張する しかし, 本件では, 被告雑誌に示された被告商標 HEART nursing の商標的利用と本件使用商標の使用による出所混同のおそれが問題となっているのであり, 原告の主張は, 上記認定を左右するものではない また, 原告の指摘するとおり, 医療関係者の中に, 被告雑誌を ハートナーシング と呼んでいる者がいるとしても, ハート と呼称されていることを否定することになるものではない - 17 -

以上により, 原告の取消事由 2 には理由がない 3 取消事由 3( 故意についての判断の誤り ) について原告は, 本件使用商標を使用する際に, 被告雑誌の存在を知らず, 本件使用商標を使用したことは被告雑誌とは無関係であり, 原告に故意はないと主張する 商標法 51 条 1 項における商標権者の 故意 とは, 商標権者が, 指定商品について登録商標に類似する商標等を使用するに当たり, その使用の結果, 他人の業務に係る商品と混同を生じさせること等を認識していたことをもって足りるものと解される そして, 原告は, 前記のとおり, 平成 23 年 8 月ころから, HEART という雑誌名の原告雑誌に本件使用商標 1を使用し, 同年 12 月 1 日発行分から本件使用商標 2を使用しており, これらの本件使用商標開始時において, 原告にかかる認識があったか否かについて検討する (1) 上記認定のとおり, 原告は, 昭和 57 年 12 月 24 日に設立された書籍の出版等を事業目的とする株式会社であり, 平成 10 年 1 月 5 日, 株式会社医学出版に商号が変更されていることから, 医療分野に関連する雑誌を刊行していたものと推認することができ, 同じく医療分野の学術用書籍や専門誌を刊行していた被告とは競業する関係にあったものといえる そして, 被告は, 原告による本件使用商標の使用開始までの間,20 年以上の長期間にわたり, 被告商標を被告雑誌の表紙の目立つ表題部分に用いており, それが循環器系疾患医療に関わる看護師らの間でよく知られたものであったこと, 原告自身が, 循環器系の主要な雑誌として, 原告, 被告のほかにメディカルビュー社の3 社による雑誌が存在する旨述べるなど, 被告雑誌が主要な循環器系の雑誌であることを自認する主張をしており, 雑誌を創刊する際には, 競合する主要な他誌について調査するのが通常であることを考え合わせると, 原告において, 本件使用商標の使用の際, 被告雑誌及び被告商標の存在を認識していたものと推認できる (2) さらに, 本件においては, 後掲の証拠により, 以下の事情が認められる - 18 -

ア原告は, 平成 21 年 7 月 1 日, ハートナース の下段に HEART n ursing との横書き文字を2 段書きしてなる, 指定商品を第 16 区分 雑誌, 新聞, その他の印刷物 とする商標の登録出願をしたが, 同年 12 月 21 日, 被告による HEART nursing の周知商標の存在を理由として, 拒絶通知を受けた その後, 当該拒絶理由が解消されないとして, 平成 22 年 9 月 17 日, 拒絶査定がなされた 同査定における理由には, 被告が看護系の雑誌として HE ART nursing ( 被告雑誌 ) を本願の出願前である1987 年 11 月 1 日に発行し, その発行部数は約 1 万部であるところ, 市場規模がある程度限定される医療分野において, 一定の周知性を有している旨が記載されている ( 乙 30) イ原告は, 原告雑誌の創刊に当たり, 平成 23 年 5 月 13 日付の 雑誌 H EART 企画編集のお願い と題する病院の医師宛の書面を作成した 同書面には, 平成 23 年秋に月刊誌として, HEART と題する雑誌を創刊する予定であること, 同雑誌は, 循環器科の看護師を読者対象とするものであることが記載されており, 同雑誌の企画編集を依頼する内容となっている ( 乙 38) また, 原告による本件使用商標の開始後の事情ではあるが, 被告は, 原告に対し, 平成 23 年 10 月ころ, 本件使用商標 1の使用が, 被告が被告雑誌に用いている需要者の間に広く認識されている, 被告商標のうちの HEART 部分と同一又は類似の商品表示に当たるとして, 不正競争防止法 3 条に基づき,1 本件使用商標 1 の使用差止及び2 原告雑誌の廃棄と,3 同 4 条に基づく100 万円の損害賠償を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起した ( 別件訴訟 ) こと, 同裁判所は, 平成 24 年 6 月 7 日, 上記の請求のうち,1 及び2を認容し,3のうち50 万円及び遅延損害金の支払を認める一部認容判決をなしたこと, その後も, 原告は, 原告雑誌に本件使用商標を用いた上, 平成 24 年 8 月号からは HEART を Heart と表記した前掲の本件使用商標 3を原告雑誌の表紙に用いるようになったこと ( 甲 2 9,36, 乙 3,4,29,30,39,40,43) が認められる (3) 以上のとおり, 原告は, 平成 21 年に被告雑誌と表題を同じくする HE - 19 -

ART nursing の上段に ハートナース との表記を記載した横書き2 段からなる商標の出願をし, 被告雑誌名と同じ HEART nursing を含む商標の設定登録を受けようとしていた上, その際, 被告雑誌の周知性を理由に商法法 4 条 1 項 10 号により商標登録を拒絶する旨の拒絶理由通知を平成 21 年 1 2 月 21 日に受け, 被告雑誌の存在及び被告商標の周知性を十分に認識していたものと推認できる それにもかかわらず, 主たる読者を共通にする雑誌である原告雑誌の創刊に当たり, 本件使用商標を利用したものである ( なお, 上記認定の別件訴訟において被告商標の HEART 部分と類似の商品表示をしており誤認混同を生ずるとして一部認容判決がなされたにもかかわらず, 原告は, その後も本件使用商標を継続し, さらに, 本件使用商標 3のとおり, 大文字を小文字に表記を変えただけの社会通念上同一の商標の使用を継続している ) これらのことに, 上記で認定したとおり, 本件使用商標と被告商標の類似性や, 取引形態, 使用形態の共通性, 類似性を考慮に入れると, 本件使用商標の使用が, 被告の業務に係る被告雑誌と混同を生じさせることを当然に認識していたものと認めるのが相当である したがって, 原告において, 本件使用商標を使用するに当たり, 被告の業務に係る商品と出所混同を生じさせることについて故意を有していたものと認められるから, これと同旨の審決の判断に誤りはない 原告の取消事由 3には理由がない 第 6 結論 以上によれば, 審決の判断に誤りはないから, 原告の請求を棄却することとして, 主文のとおり判決する - 20 -

知的財産高等裁判所第 2 部 裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀 - 21 -