県内大気環境中の光化学オキシダントについて 新指標による解析の試み 福地哲郎岡田守道中村公生黒木泰至 1) Photochemical Oxidant in Atmospheric Environment of Miyazaki Prefecture "Attempt to Analysis by New Barometer" Tetsuroh FUKUCI, Morimichi OKADA, Kimio NAKAMURA and iroyuki KUROKI 要旨 大気環境中の光化学オキシダント濃度の指標として 環境基準の達成状況 などを用いているが, 長期的な環境改善効果を適切に示す指標となっていないことが問題点として指摘されている. このため, 中央環境審議会において, 光化学オキシダントの環境改善効果を適切に示すための指標について検討を行い, 平成 年 月に中間取りまとめが行われた. 今回, 中間取りまとめで提案された指標を用いて, 県内大気環境中の光化学オキシダントの長期的な変動について解析を試み, これまでの指標との比較及び考察を行うことで 長期的な変動 を明らかにすることができた,. 県北部は県南部よりも高濃度になっているものの平成 年度付近をピークにして改善傾向にあると考えられた. 県南部では, 平成 年度までは, ほぼ横ばいであったが, 以後改善傾向にあると考えられた. キーワード : 大気汚染常時監視, 光化学オキシダント はじめに大気環境中の光化学オキシダント ( 以下, Ox という.) は, 窒素酸化物や炭化水素が太陽の紫外線を受けて化学反応を起こし発生する汚染物質で, 光化学スモッグの原因となる. 九州地方においては, 春先に高濃度となることがあり, 微小粒子状物質 (PM 2.5 ) とともに大陸からの越境汚染が示唆されている 1), 2). 本県では, 平成 年度まで過去 年以上全測定局で環境基準 (1 時間値が ppm 以下であること ) を達成しておらず, 全国でも環境基準を達成しているのは毎年数局程度である 3). これまで,Ox 濃度の指標として用いられてきた 環境基準の達成状況, 注意報等の発令状況 及び 昼間の日最高 1 時間濃度の年平均値 につ いては, 気象要因による年々変動が大きく, 長期的な環境改善効果を適切に示す指標となっていないことが問題点として指摘されている. そこで, 中央環境審議会において,Ox の環境改善効果を適切に示すための指標について, 平成 年 月に中間取りまとめが行われた 4). 今回, 中間取りまとめで提案された指標 ( 以下, 新指標 という.) を用いた県内大気環境中の Ox の長期的な変動について解析を試み, これまでの指標との比較及び考察を行ったので, その結果を報告する. 解析方法 1 解析対象平成 年度に Ox 測定を行っている 測定局 環境科学部 1) 元環境科学部 - 1 -
のうち, 連続 3 年以上の測定を行っている 測定局 ( 図 1) を解析対象とした. 2 解析期間平成 年度から平成 年度までの 年間 ( 日南保健所は平成 年度からの 年間, 生目小学校自排局は平成 年度からの 年間 ) を解析期間とした. 3 解析方法 1) これまでの指標 環境基準の達成状況, 注意報等の発令状況 及び 昼間の日最高 1 時間濃度の年平均値 をこれまでの指標として解析を行った. 2) 新指標 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値 を新指標として解析を行った. 4 地域区分光化学オキシダント注意報 警報の発令を行う地域区分 ( 図 1) とした. 延岡地域日向地域西都 児湯地域日南 串間地域都城 小林 えびの地域宮崎地域図 1 解析対象とした測定局及び地域区分結果及び考察 1 これまでの指標による解析結果 環境基準の達成状況 を 昼間の日最高 1 時 間値の濃度範囲別測定局数 と 昼間の濃度範囲別測定時間数 で解析を行った. 図 2 に Ox の 昼間の日最高 1 時間値の濃度範囲別測定局数 の経年変化を示す. 全国では一般環境大気測定局 1,2 測定局中 341 測定局 3) ( 平成 年度 ) で.ppm 以上となったが, 本県で.ppm 以上となった測定局は平成 年度の 1 測定局 ( 延岡商業高校 ) のみであり, 全国的な傾向と異なっていた. また,ppm 以下の環境基準を達成した測定局は平成 年度の 1 測定局 ( 生目小学校自排局 ) のみであった. このため, 残りの測定局が ppm 以上.ppm 以下の範囲にあり, 長期的な変動は明確には見られなかった. 図 3 に Ox の 昼間の濃度範囲別測定時間数 の経年変化を示す. 昼間 (6 時から 時の 1 時間値 ) の測定時間は 測定局の合計で,46,41 時間から 4,665 時間であった. 割を超える時間で ppm 以下となっており, 長期的な変動は明確には見られなかった. これらの宮崎県の傾向は, 全国的な傾向と同様であった. 注意報等の発令状況 については, 本県では, これまで一度も光化学オキシダント注意報 警報の発令事例がなく, 長期的な変動を解析できなかった. 図 4 に Ox の 昼間の日最高 1 時間値の年平均値 の経年変化を示す. 県南部 ( 日南 串間地域, 都城 小林 えびの地域, 宮崎地域 ) に比べて県北部 ( 延岡地域, 日向地域, 西都 児湯地域 ) で高濃度となる傾向が見られた. 年度間の変動幅が大きく, 長期的な変動については, 平成 年度ごろから低下傾向が見られる測定局があるものの明確ではなかった. 2 新指標による解析結果 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値 で 3 通りの解析を行った. 図 5 に Oxの 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値 の経年変化を示す. 図 4 と同様に, 年度間の変動幅が大きく, 長期的な変動については, 平成 年度ごろから低下傾向が見られる測定局があるものの明確ではなかった. 図 6 に Oxの 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値の 3 年移動平均の地域内最高値 の - 2 -
Ox [ppm] 測定局数 6 3 1 1 ppm 以下.ppm 未満.ppm 以上図 2 昼間の日最高 1 時間値の濃度範囲別測定局数 測定時間数 5, 4, 3,,, 1 1 ppm 以下.ppm 未満.ppm 以上 図 3 昼間の濃度範囲別測定時間数.5.3.1. 県北部 延岡商業高校大王谷小学校高鍋町健康づくりセンター 延岡保健所細島公民館.5.3.1. 県南部 日南保健所都城高専 1 1 油津小学校生目小学校自排局 図 4 昼間の日最高 1 時間値の年平均値 - 3 -
..1 Ox [ppm] 延岡商業高校延岡保健所大王谷小学校細島公民館高鍋町健康づくりセンター..1 1 日南保健所油津小学校都城高専生目小学校自排局 1 図 5 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値..1 1 日南 串間地域都城 小林 えびの地域宮崎地域..1 Ox [ppm] 延岡地域日向地域西都 児湯地域 1 1 図 6 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値の 3 年移動平均の地域内最高値県北部県南部県北部県南部 - 4 -
測定局比率 [%] 経年変化を示す. 県南部に比べて県北部で高濃度 となっており, 特に, 平成 年度 から 平 成 年度 にかけて日向地域及び西都 児 湯地域で高濃度となっていたことがわかった. 県 北部は 平成 年度 以降横ばいであった. 県南部は, 平成 年度 まではほぼ横ばい であったが, 日南 串間地域, 特に宮崎地域で 平 成 年度 以降, 改善傾向が見られており, 平成 年度 に ppm を下回ったこと から, 今後も環境基準達成が継続する可能性があ る. 6 4 1 1 1 図 時間値の日最高値の年間 パーセンタイル値の 3 年移動平均が 1 一定濃度以上となる測定局比率 図 に Ox の 時間値の日最高値の年間 パー センタイル値の 3 年移動平均が一定濃度以上とな る測定局比率 を示す.4 つの濃度区分のうち.5ppm 以上の測定局比率が 平成 年 度 以降, 減少傾向となっており, 今後, 宮崎地 域以外でも環境基準を達成する可能性がある. 以 上のように, これまでの指標 による解析 ( 図 4) では明確ではなかった長期的な変化を 新指標 による解析 ( 図 ) では明確にとらえることがで きた. 新指標 は, 長期的な環境改善効果を適 切に示す指標 として活用できると考えられた. まとめ ppm 以上.ppm 以上 大気環境中の Ox について, 新指標 を用い て長期的な環境改善効果を評価した. その結果, 長期的な変動 を明らかにすることができた. 県北部は県南部よりも高濃度になっているものの 平成 年度付近をピークにして改善傾向にある と考えられた. 県南部では, 平成 年度までは,.5ppm 以上.ppm 以上 ほぼ横ばいであったが, 以後改善傾向にあると考 えられた. しかしながら, 本県では 3 月から 5 月にかけて 短時間であるが高濃度の Ox が観測されることも あり, また, 大気汚染については, 平成 年度 末の PM 2.5 の越境汚染報道等を契機に県民の関心 も高まっていることから, 今後とも, 監視を続け, Web ページ みやざきの空 等での正確な情報提 供を行っていく必要がある. 謝辞 生目小学校自排局については, 宮崎市環境部環 境保全課から提供を受けた測定結果により解析を 行った. 深謝致します. 参考文献 1) 祝園秀樹, 小玉義和 : 光化学オキシダントの挙 動解明に関する研究 (C 型共同研究 ), 宮崎県衛 生環境研究所所年報,,65-6,(5) 2) 福地哲郎, 中村雅和, 眞﨑浩成, 岩切淳, 森下 敏朗 : 平成 年度における大気汚染物質高濃 度事例について, 宮崎県衛生環境研究所所年 報,,4-2,() 3) 環境省 : 平成 年度大気汚染状況について 4) 環境省水 大気環境局大気環境課長通知 : 光化 学オキシダントの環境改善効果を適切に示す ための指標 ( 中間とりまとめ ) について, 平成 年 月 日環水大大発第 2 号 - 5 -