TPP 交渉への参加の検討を めぐる論点 ~ 国民的議論にもとづく合意形成を ~ ( 学習用資料 ) JA 福島中央会
第 1 章 TPP 交渉とは?
これまでの経過と今後の予定 衆参両院本会議における菅首相の所信表明演説 : 平成 22 年 10 月 1 日環太平洋連携協定 (TPP) 交渉等への参加を検討し アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す 第 2 回新成長戦略実現会議 ( 議長 : 菅首相 ): 平成 22 年 10 月 8 日 TPP 等への参加を検討し アジア太平洋自由貿易圏の構築を視野に入れ APEC 首脳会議までに 我が国の経済連携の基本方針を決定する EPA 基本方針閣議決定 : 平成 22 年 11 月 9 日 (TPP については ) 情報収集をすすめながら対応していく必要があり 国内の環境整備を早急に進めるとともに 関係国との協議を開始する APEC 首脳会議 ( 横浜 ): 平成 22 年 11 月 13-14 日 TPP の交渉 9 カ国首脳による会合が開催され 菅首相が APEC 議長としてオブザーバー参加 2011 年 11 月の妥結を目指して協定の交渉を進めることでおおむね一致したとされている 首相の年頭記者会見 : 平成 23 年 1 月 4 日平成 23 年 6 月をめどに TPP 交渉参加の是非を判断する旨を言及 食と農林漁業の再生推進本部 で農業改革の基本方針を決定?: 平成 23 年 6 月めど経済連携の推進と国内農業 農村の振興を両立させ 持続可能な力強い農業を育てるための対策を講じるための基本方針の決定 食と農林漁業の再生推進本部 で中長期的な行動計画を策定?: 平成 23 年 10 月めど競争力強化などに向けた必要かつ適切な抜本的国内対策ならびその対策に要する財源措置 交渉参加中の 9 カ国は APEC 首脳会議 ( 米国 ハワイ ) にて TPP 交渉締結?: 平成 23 年 11 月
WTO FTA(EPA) TPP の違い 関税削減交渉 WTO ( 世界貿易機関 ) 153 カ国 地域が加盟 加盟国共通のルール作り ( 関税削減率 国内補助金の削減 輸出補助金の撤廃 ) わが国は WTO 農業交渉で 多様な農業の共存を主張 TPP も FTA だが 重要品目の 除外 例外扱いを認めていな い 実質上すべての貿易 を 最も厳格に解釈 関税撤廃交渉 FTA: 自由貿易協定 / (EPA: 経済連携協定 ) 2 国間または複数国間で行う関税撤廃交渉 実質上すべての貿易 ( 一般的には 90% 以上と解釈 ) について 原則として 10 年以内の関税撤廃 と WTO 協定で規定 (10% は除外 例外が可能 ) TPP: 環太平洋連携協定 ( 太平洋をとりまく 9 カ国間の FTA) 9 カ国間で行う関税撤廃交渉 除外 例外品目を認めず 全品目の関税を撤廃する
WTO 協定における FTA の定義を 最も厳格に解釈する TPP 0% 80% 90% 100% わが国が締結してきた EPA 発効時に即時撤廃等 10 年間で段階的関税撤廃 10 年で貿易総額の 90% の関税を撤廃 (WTO ルールに整合 ) 残り 10% で重要品目を除外 例外扱い TPP 発効時に即時撤廃 10 年間で段階的関税撤廃 協定発効時にまず全品目の 80% の関税を撤廃し 残り 20% を段階的に関税撤廃 = 将来的に 100% の関税削減を目指すものであり 除外 例外品目が認められない
TPP 参加国 TPP 参加国 (9 カ国 ) わが国がこれまで締結 合意した国 (13 カ国 ) 米国 オーストラリア ニュージーランド チリ シンガポール ブルネイ マレーシア ペルー ベトナム タイ スイス インドネシア インド フィリピン メキシコ ASEAN 先進国の農産物輸出大国であり 農業分野の協力は考えられない アジア諸国とは 農林水産省が策定した みどりのアジア EPA 推進戦略 に基づき 自由化と協力のバランスを確保
わが国の制度のあり方にかかわる 幅広い分野が自由化の対象に 現在 TPP 交渉では 24 の作業部会が立ち上げられ 議論が進められている模様 市場アクセス ( 関税撤廃 ) 市場アクセス以外にも幅広い分野を交渉 繊維 衣料品 銀行 保険 電気通信 工業 農業 政府調達 衛生植物検疫 例外を原則認めない関税撤廃交渉 わが国の仕組みや基準が一変しかねない問題も多く含まれている 原産地規則 その他 15 分野 知的財産権
WTO 交渉におけるわが国の主張を 自ら否定する TPP 交渉への参加 基本理念 国内生産を基本とした食料安全保障の確立気候変動への対処や生物多様性の確保 食品安全性や環境保護などの非貿易的関心事項への配慮開発途上国への特別かつ異なる待遇等を通じた脆弱な小規模農業者の懸念に対処 多様な農業の共存の実現に向けた JA グループの主張 輸入国の実態を無視した上限関税の断固阻止 農業の持続的発展を可能とする関税割当の設定 輸入国の食と農を守るため十分な重要品目の確保 非関税割当品目の重要品目への指定の確保 関税撤廃の例外を認めない TPP に参加すれば WTO ドーハラウンド交渉における 10 年に及ぶ努力が水の泡に! 多様な農業の共存 を軸とした WTO 農業交渉におけるわが国の連携 日本多様な農業の共存と十分な数の重要品目の確保 EU 食品安全性 動物愛護等の非貿易的関心事項の尊重 アジア諸国稲作を中心とした小規模家族農業の存続 G10 国内消費する食料を国内生産する権利の確保
TPP への新規交渉参加国の扱い 現在交渉に参加している 9 カ国の全会一致の同意が必要 合意までの交渉プロセス : 米国は APEC 首脳会議 ( ハワイ ) の議長国となる 2011 年 11 月を交渉妥結の目標にしている 交渉参加への意思表明 参加 9 カ国との事前協議 本格交渉 合意 (2011 年 11 月が目標 ) 国会批准 目標の合意期限まで 1 年間もなく 事前協議の段階で あらかじめ例外なく自由化を行う意思を示す必要がある 条件が飲めない場合 本格交渉への参加は認められない
第 2 章 米国等に大幅な開放を迫られる わが国の農産物市場
米国への輸出 乗用車の関税率はわずか 2.5% 為替リスク回避等の理由から 既に日本の製造業の海外移転は進んでいる 参照 : 内閣府 包括的経済連携に関する検討状況 (2009 年 ) 主な関税品 米国の関税率 乗用車 2.5% トラック 25% ペアリング 9% ポリスチレン ポリエステル 6.5% LCDモニター カラー TV DVD 5% 電機アンプ スピーカー 4.9%
米国からの輸入 参照 : 内閣府 包括的経済連携に関する検討状況 (2009 年 )
為替問題 円安ウォン安 円高ウォン高 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 2007 年以降 円高傾向が続く 韓国はウォン安傾向 ユーロ 円 ウォン 各通貨の対ドル為替相場の推移 (2007 年 6 月を 1 とした場合の指数推移 ) 参照 : 国際通貨基金 (IMF)
米国の狙いは日本市場 内需規模の比較 2007 年出典 :WDI 2010 TPP 交渉参加 9 カ国に日本を加えた 10 カ国の内需総額のシェアを見た場合 日米で 95.6% を占め 豪州を除くその他 7 カ国の国内需要のシェアはわずか0.3% に過ぎない 日本の輸出先となりうるアジア市場など TPP にはない 輸出先としてあり得るのは米国市場のみだが 米国は 貿易赤字の是正のため 対米輸出に依存した各国の成長を拒否 ( オバマ大統領演説 (11 月 13 日 :APEC CEO Summit) 米国の貿易黒字拡大の手段は為替 米国は ドル安を誘導することにより 日本企業の競争力を減殺したり 米国での現地生産比率を高めたりする能力を有している 他方 日本の農業は 関税の防波堤を失った上 ドル安になれば 輸入農作物によって壊滅的な打撃を受ける 米国は ドル安戦略と TPP の組み合わせによって 自国の市場や雇用を日本企業に奪われることなく 日本の農業市場を獲得 TPP への日本参加は米国の貿易黒字を増やし得るが 日本の輸出は少しも増えない
輸出額と一人当たりの給与 97 97 財務省 : 法人企業統計年報 内閣府 : 国民経済計算 国税庁 : 民間給与実施他統計調査 2002 年以降 輸出拡大にもかかわらず 一人あたりの給与は減少 輸出拡大 = 経済成長 輸出企業の利益 = 国民の利益 の常識が通用しなくなった 2000 年代のグローバル化 ( 欧米も同じ傾向 )
第 3 章 TPP による影響
国境措置を撤廃した場合のわが国農林水産業への影響は甚大 国境措置撤廃による農林水産物生産等への影響試算について農林水産物の生産額減少 4 兆 5 千億円程度 食料自給率 ( 供給熱量ベース ) 40% 13% 程度 農業の多面的機能の喪失額 3 兆 7 千億円程度農林水産業及び関連産業への影響 国内総生産 (GDP) 減少額 8 兆 4 千億円程度 就業機会の減少数 350 万人程度 国産農水産物を原料とする 1 次加工品 ( 小麦粉等 ) の生産減少額を含めた 平成 22 年 12 月農林水産省資料
品目名 品目別の影響試算 生産量減少率 (%) 生産減少額 ( 百億円 ) 米 90% 197 小麦 99% 8 今回の試算の考え方 新潟産コシヒカリ 有機米等のこだわり米等を除いて置き換わる 国内産小麦 100% をセールスポイントとした小麦粉用小麦を除いて置き換わる 甘味資源作物 100% 15 品質格差がなく すべて置き換わる でん粉原料作物 100% 2 品質格差がなく すべて置き換わる 牛乳乳製品 56% 45 牛肉 75% 45 乳製品では 鮮度が重視される生クリーム等を除いて置き換わる 飲用乳では 業務用牛乳等を中心に2 割が置き換わる 4 等級及び5 等級は残り 3 等級以下は置き換わる 平成 22 年 12 月農林水産省試算
その他懸念される課題 ( 関税撤廃の場合 ) 地域経済 雇用の崩壊 ( 関連産業への影響等 ) 食料安全保障 ( 国内生産を基本とした食料安全保障の確立に向けての対応 ) 食料自給率向上 ( 新たな基本計画で掲げる食料自給率 50% との整合性 ) 生物多様性への対応 ( 水田が持つ資源循環機能 農山村への影響等 ) 食品安全性への対応 ( 外国産の増加にともなう食品安全基準や検疫等の問題 ) 飢餓 貧困問題への対応 ( 飢餓人口の増加など 世界的な課題への対処 ) など
TPP による影響試算 ( 米の場合 : 農林水産省試算 ) 288 円 / kg 111 円 / kg ( 39%) 新潟コシヒカリ 有機米等でも約 4 割価格が低下 247 円 / kg 177 円 / kg 90% 生産減少 190 円 / kg ( 77%) 57 円 / kg 新潟コシヒカリ 有機米等こだわり米 10% は残る 外国産米 こだわり米を除いて 90% は外国産に置き換わる 米の生産減少率は 90% 生産減少額は 1 兆 9,700 億円 上記で掲げる価格については 国産 外国産ともに卸売業者の仕入価格等を使用 288 円 / kg 新潟コシヒカリ相対価格 (06~08 年産の3 年平均 ) 247 円 / kg 国内産全銘柄相対価格 (06~08 年産の3 年平均 ) 57 円 / kg 中国産短粒種 SBS 価格 (00 年産 現地価格をふまえ )
食料 農業 農村基本計画と TPP の整合性確保は不可能 新たな食料 農業 農村基本計画 ( ポイント ) ( 平成 22 年 3 月 30 日閣議決定 ) 食料 農業 農村政策 日本の国家戦略として位置付け 食料自給率目標 50%( 平成 32 年まで ) EPA FTA 食の安全 安定供給 食料自給率の向上 国内農業 農村の振興等を損なうことは行わないことを基本 整合性の確保が絶対に必要 TPP で両者の整合性を図ることは考えられない 包括的経済連携に関する基本方針 ( 平成 22 年 11 月 9 日閣議決定 )
第 4 章 わが国と主要農産物輸出国の 生産構造の違い
不利な農業生産条件 国土面積の 72% が中山間地域
国土条件の国際比較 耕地及び永年作物地面積 ( 万 ha) 日本米国 EU 豪州 463 17,320 12,079 4,453 ( 日本との比較 ) - 37 倍 26 倍 10 倍 日本と米国は 2008 年 EU と豪州は 2007 年の数値 出典 : 農林水産省 HP( 海外農業情報 ) 農家一戸当たりの農地面積 (ha) 日本米国 EU 全体独仏英国豪州 1.9 198.1 13.5 45.7 55.8 58.8 3023.7 ( 日本との比較 ) - 104 倍 7 倍 24 倍 29 倍 31 倍 1591 倍 日本は 2009 年 日本以外の国は 2007 年の数値出典 : 内閣官房 (EPA 関係資料集 : 平成 22 年 10 月 )
わが国の農産物関税構造 関税率 (%) 75 50 25 1 割強ほとんどない 2 割弱 7 割弱 米 麦 乳製品 砂糖など わが国農産物市場は 十分に開かれています
第 5 章 日本農業の今 そして将来像
JA グループの具体的取り組み 大転換期における新たな協同の創造 ( 第 25 回 JA 全国大会決議より ) 消費者との連携による農業の復権 ( 食料 農業 ) 農業生産額と農業所得の増大 農地活用と担い手支援による自給力の強化 国民の合意形成 JA の総合性発揮による地域の再生 ( くらし 地域 ) 組合員 地域住民のくらしの総合的な支援 JA くらしの活動 の展開による新たな協同の創造 協同を支える経営の変革 ( 組織 経営 ) 組織基盤の拡充と事業基盤の強化および組合員との関係強化 JA グループの事業伸長と効率経営に向けた対応 総合事業性を発揮するための JA の健全経営の確立 活力ある職場づくり 27
特定農業法人 特定農業団体数および JA 出資型農業生産法人数の推移
生産コストの低減 作業受託や農地の利用集積により コストは低減
新規就農者の推移 ( 単位 : 千人 ) H2 H7 H12 H17 H21 39 歳以下 4.3 7.6 11.6 11.7 14.4 比較 ( 左欄 :%) - 176.7% 152.6% 100.9% 123.1% 60 歳以上 4.8 24.6 44.8 40.3 32.3 比較 ( 左欄 :%) - 512.5% 182.1% 90.0% 80.1% 新規就農者合計 15.7 48.0 77.1 78.9 66.8 資料 : 農林水産省 農業構造動態調査 農林業センサス 若手や定年後の U ターンを中心とした新規就農が進んでいる
わが国における農業の発展と 自国生産の重要性 億人 世界人口の見通し 億人 世界の栄養不足人口 世界では 食料や水 農地の奪い合いも起きている わが国もこれ以上 海外に食料を頼ることなく 食料自給率を向上させ 地球規模の課題に応えていく必要 将来にわたり日本の農業を持続的に発展させることが重要
ご清聴ありがとうございました 32