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大成ファインケミカル ( 株 ) 朝田泰広 光硬化技術は1970 年代に実用化されて以来, 省エネルギー等, 環境に優しい技術として, また熱硬化では困難であった新規分野への応用や生産性の高効率化を可能にする技術として, 広範囲な分野に普及し, その技術は各種産業分野で重要な役割を担うようになってきている 紫外線 (UV) 硬化の原点は, 溶剤コーティングに伴う乾燥や有機溶剤の蒸発を回避することにあったが, グリーンテクノロジーとして, その意義は拡大の一途である 木材, 金属, プラスチック, フィルム等の表面に UV 塗膜を設け, 傷防止をする応用例は数限りない 硬化膜の高度のみならず, 粘着性, 濡れ性といった物性を基材表面に付与できるので, 接着剤, 粘着材等さまざまな応用に展開される 各種印刷用インキにも溶剤の飛散を伴うことなく, 無溶剤化でき UV 照射によって迅速に固化できるので, 平版, 凸版, スクリーン版, インクジェット印刷の UVインキとして利用されている UV による硬化加工は, 力学的な特性だけではなく, 基材表面へ目的に沿った多様な特性付与に効果を発揮する 例えば, 携帯電話, パソコン, テレビ等の表示パネル表面には, 防眩, 反射防止, 汚染防止といった高度な機能を併せもつ UVコートされた各種フィルムが装備されている 光学ディスプレイ フィルムといったエレクトロニクス分野において, ハードコート材料として急成長を遂げている 光学用途では, 特に透明性と硬度において高い性能を要求され, 現在ではアクリレート系モノマー オリゴマーが材料設計の主軸として多くの用途に用いられている しかし, アクリレート系オリゴマーは硬化による収縮が大きいため基材への密着不良およびフィルムの変形を引き起こしてしまう課題がある また, モノマーについては材料としての皮膚刺激性が懸念されるという課題がある こういった課題を解決するために UV 硬化アクリルポリマーの設計がされるようになる UVポリマーの設計が注目されるようになってきたのは, もともと1990 年代以降に液晶表示用のカラーフィルターのカラーレジストとして使用されフォトマスクによって露光後に未露光部はアルカリ水溶液で現像されパターンを形成し使用されたのが主な始まりである 近年では反応, 設計の幅を広げ UV 硬化ポリマーとして用途の可能性が広くなってきている 本稿で紹介するポリマータイプの UV 硬化アクリルポリマーは, プラスチック等に使用されている成型加工プロセスが必要なフィルム ( 加飾フィルム ) および光学フィルムの用途展開を 47

第 1 節 第 1 節無機 - 有機ハイブリッドハードコート材料の設計と機能性向上 アトミクス ( 株 ) 佐熊範和 コーティングとは最も簡便なる表面処理技術である 工業製品の中で, 面 を有するほとんどすべての製品には, さまざまな理由で各種コーティングが施されている しかし, プラスチックの有する 面 は非常に傷が付きやすく, その商品価値は簡単に下がってしまう そのため, プラスチックの表面にはトップコートとしてクリヤーのハードコート材が必ずといっていいほど施されてきた 近年,FPD, タッチパネル, ライティング部材, ガラス代替材料, 封止材など各種用途にて耐熱性, 透明性, 電気特性, 光学特性などに優れたエンジニアリングプラスチック類が台頭してきている これらの使用用途では200 以上の高耐熱性, ウルトラハード特性, 高い電気特性, 耐薬品性, 耐光特性, これらが複合された環境耐性が要求されてきている 当然このような特殊な環境に対しては, これまでのような単純な有機系材料によるハードコートでは対応しきれないケースがでてきている こういった特殊な用途に対して, 我々は, 無機と有機の双方の物性を併有するハイブリッド材料を設計し,1つ1つの要求に対して対応してきた 当節では, 無機 - 有機ハイブリッドの考え方からハイブリッド材料の設計方法, 開発事例を通して, ハードコートの機能性付与に関して解説する 1. 無機 - 有機ハイブリッド樹脂の基礎 1.1 コーティング材料塗料を実際に扱っておられる方々に対しては釈迦に説法であるが, お付き合い願いたい 塗料とは, 基材に塗布され, 液体の状態を経て, 硬化し, 基材表面に機能を付与するものである 機能とは, 保護 美装, 防錆, 耐候性, 耐熱性, 潤滑性, 絶縁性 とさまざまであるが, たった数 μm ~ 数十 μm 程度の膜厚で, その機能が衰えることなく, 持続しつづけなければならない過酷な試練を有する工業材料である 塗料の構成要素は 樹脂 顔料 溶媒 添加剤 の 4 種であり, 塗料の形態により顔料 溶媒は省略される場合がある このうち, 樹脂 は塗膜を固化, 形成させる主要素であり, 顔料 は主に色目を担当する 着色顔料 と耐久性, 堅牢性を付与する 体質顔料, 導電性, 絶縁 69

第 2 節 第 2 節ゾルゲル法による機能性ハードコート剤の設計と その評価及び最新動向 兵庫県立大学 矢澤哲夫 ハードコートは, 材料表面の硬度や耐擦傷性を高めた機能性コーティングの範ちゅうに属するものである 表面改質は, 材料の表面処理を施すだけで, その性能を飛躍的に向上せしめることができるので, 材料特性の改善上極めて重要である 特に, ここで述べるハードコートは, 基材をプラスチックスとしており, その軽量性, 加工性, 透明性等を損なうことなく表面の硬度や耐擦傷性を高めることにより損傷を受けにくくしようとするものである 従来, プラスチックス表面の熱, 紫外線硬化によるハードコートは, テレビやステレオ等の化粧用シートや床, デスクマット等の建材製品に用いられることが主流であったが, 最近では, 反射防止膜, 液晶保護膜等のエレクトロニクス製品にも多用されている これらに求められる特性は, ハードコートはむしろ前提であり, それ以外に幾つの機能を付加できるかが商品価値を左右しているといっても過言ではない 1) 即ち, 例えば, 情報機器分野におけるスマートフォンや指紋による個人認証機器類の急速な普及に伴い, タッチパネルの入力方式が多くなってきているが, これらにあっては硬度や耐擦傷性とともに防汚性, 帯電防止性, ガスバリアー性を高めることを求められるようになってきている 2) 等である これらを背景として, 本稿では, ハードコートに基本的に要求される高い硬度, 耐擦傷性, 柔軟性, 密着性等を達成する有機無機ナノハイブリッドハードコート技術に焦点をあてて述べることにする 1. ハードコート剤の設計 ハードコート剤は, 一般の材料と同様に, 大略, 有機系と無機系に分かつことができる 有機系ハードコート剤は, アクリレート系, シリコーン系, 含フッ素系, オキセタン系等がある このなかでも, 紫外線硬化型のものは, 手軽に求める性能のハードコートが達成され, かつ基材であるプラスチックスとの密着性も高いが, 硬度, 化学的耐久性, 耐熱性を考慮すると自ずとその限界がある 無機系のものとしては, アルカリケイ酸塩系 ( いわゆる水ガラス系 ) のものと, シリカのエ 109

第 1 節 第 1 節 UV 硬化型有機 - 無機ハイブリッドハードコート剤 ~ シリカ / アクリル ~ 神奈川大学 山田保治 ポリメタクリル酸メチル (PMMA) やポリカーボネート (PC) に代表される透明プラスチックは, 透明性, 成形加工性, 耐侯性, 軽量化などに優れていることから自動車部品, ディスプレイ材料, プラスチックレンズなど成形品, 光学フィルム, 光学シートなどに幅広く利用されている プラスチック材料は, ガラスなどの無機材料と比べ成形性には優れるが表面が傷つきやすく, 材料によっては耐薬品性に劣ることが欠点として挙げられる このため, 表面保護用にハードコートが必要となり, 多数の有機, 無機ハードコート剤や有機材料と無機材料の両特性を持たせた有機 - 無機ハイブリッドハードコート剤が開発されている 1) 特に, 携帯電話やコンピューター用ディスプレイ, 光学プラスチックレンズ, タッチパネル用光学フィルム, 自動車ヘッドライト テールランプなどの樹脂製品は, 外部と直接接するため更に求められる要求性能は高くなっている このようなプラスチック材料の欠点を補うために, 樹脂特性を低下させず表面硬度や耐擦傷性を向上させた高性能な表面改質剤 ( ハードコート剤 ) の開発が望まれている ここでは, シリカ微粒子とアクリル系モノマーをハイブリッド化した UV 硬化型有機 - 無機ハイブリッドハードコート剤の開発と, その応用によって製品化したハイブリッドハードコート剤 Acier およびハイブリッドハードコート付き樹脂シート Geolass の特徴について紹介する 1. 有機 - 無機ハイブリッド材料 1.1 有機 - 無機ハイブリッド材料の概要ポリマーに無機フィラーを混合し, 耐熱性や力学強度を向上させ耐候性や難燃性を付与した複合材料は古くから知られており, 工業的にも製造され構造材料や包装材料として広く使用されている 複合化される無機フィラーはサブミクロン~ 数ミクロン程度で, 一般に溶融混練によって複合化される これに対し近年, ポリマーとシリカ, アルミナ, ジルコニア, チタニアなどの無機材料をナノレベルで複合化した有機 - 無機複合材料が注目されている 無機材料を 135

第 1 節 第 1 節ウレタンアクリレート系ハードコート材料の柔軟性向上 名古屋工業大学 杉本英樹中西英二 プラスチック材料は成型性, 透明性, 経済性といった点に優れることから, 様々な用途に用いられている 1) しかし, プラスチック材料には, 表面が傷つきやすいという欠点があるため, 多くのプラスチック材料には表面硬度の高いコーティングが施されている 2-10) 現在, 数多のハードコート材料が開発 上市されており, その種類や特性などの詳細は本誌各章ならびにその他の成書をご参考頂くとして, ここでは我々のグループで行った研究成果の一部を紹介する 我々の研究グループでは有機マトリックスもしくは無機物表面にウレタン結合を導入することで, 高い透明性を保持しながら, 撥水性, 高強度, 高弾性率, 高表面硬度, 低熱膨張といった材料特性を示すハードコート材料や有機 無機複合材料の開発に取り組んでいる 11-16) 例えば, コロイダルシリカやポリケイ酸から得られる無機微粒子表面を重合性イソシアネート化合物で改質し, 一般的なアクリレートである MMA と複合化した系では, 高い透明性を保持し, 弾性率, 表面硬度が向上することを報告している 11,12) また, 無機物を分散させるマトリックス樹脂をウレタンアクリレートやエポキシ樹脂とのIPNとすることで, 更なる物性向上が期待できる 13,14) 近年では, 単に硬い表面を提供するだけでなく, インサート成型のような加工方法にも対応できるようなハードコート材料の要求が高まっている インサート成型とは成型プロセスにおいて, ハードコートが施された基板を金型で圧縮し,100~130 付近で加熱成型する加工方法である インサート成型は基板とハードコートを一体成型できるため, 従来の成型方法よりも, 工程数が少なく, コストが低いという点に優れている 現在は携帯電話の筐体や自動車の内装部品の材料に, インサート成型が用いられており, 今後はさらに用途, 市場規模の拡大が予想されている 17-19) インサート成型の際, ハードコートが施された基板は, 金型の曲面や凹凸部分に対応して, ハードコート膜も変形する必要がある ( 図 1 参照 ) そのため, インサート成型に用いるハードコート材料には, 表面硬度に加えて, 伸び性が不可欠となってくる しかしながら, 従来のような多官能なアクリレートやシリカ等の無機フィラーを添加した一般的なハードコート材料では, 高い表面硬度を示すものの, 架橋密度の増加や, 無機物フィラーの添加により非常に脆く, 加熱による柔軟性の向上は困難であると予想される 20-27) また, アクリルオリゴマーに芳香環等の剛直な構造を導入することによって, 高硬度を発現させる方法 163

第 2 節 第 2 節ポリシロキサン系材料によるハードコート技術 ティーエーケミカル ( 株 ) 谷口孝 従来, 透明材料としては, もっぱら無機ガラス材料が用いられてきた歴史がある しかし, 近年になって軽薄短小が叫ばれる中, サングラスレンズ, 矯正用レンズ, カメラレンズ等の光学レンズやフラットパネルディスプレイ, タッチパネル等の透明フィルム利用表示用部材等, 光学分野におけるプラスチック化には目覚しいものがある 無機ガラスは重い, 割れやすい, 加工が困難といった問題を抱えており, この課題を解決するために登場してきたのがハードコート技術である ハードコート技術の歴史は1960 年代に遡る その代表的技術に E.I.DuPont 社の Abcite や Owens-Illinois 社の Glass Resin 等がある 1,2) 前者は分子間有機 無機ハイブリッド技術, 後者はゾル-ゲル反応技術の草分けとして高く評価される しかし, いずれの技術も硬化処理段階で高温, 長時間の加熱を必要とし, 実用化にはほど遠いものであった 我が国では1973 年に筆者らによって低温, 短時間硬化を可能とするポリシロキサン系ハードコート技術が開発され, ハードコート技術実用化の幕開けとなった 3,4) 本節ではその幕開けとなったポリシロキサン系ハードコート技術とその後の展開を中心に概説する 1. ハードコート技術の基礎 ハードコートの主要材料には, その歴史からも明らかなように主鎖がポリシロキサン結合からなる無機材料が用いられてきた なぜポリシロキサン系材料がハードコート技術に適しているかを考えてみる 硬度と分子構造の関係については, 興味ある報告がされている 5) そこで述べられている硬度と分子構造の関係を式 (1) に示す Nr = De/Mw No (1) ここで,Nr は単位体積当たりの主鎖結合数,De は物質の密度,Mw は繰り返し単位の分子 173

第 6 章 第 3 節ナノ粒子配合によるハードコート膜形成 ~ シリカ系ナノコンポジット ~ 日揮触媒化成 ( 株 ) 村口良 近年, タッチパネルの普及に伴い, 情報端末の小型化, 薄型化, 軽量化が急速に進んでいる ディスプレイ等の表示部材に近い部分もガラスからプラスチック樹脂に移り変わり, 基材樹脂もフィルム化が進行している このような無機から有機へのトレンドは, 軽量化や加工性の向上等には大きく寄与するものの, 硬度不足による傷つき易さが大きな問題となる そのため, 一般にハードコート膜が設けられる プラスチックフィルム基材上のハードコート膜形成に UV 硬化 ( 紫外線硬化 ) 型の樹脂膜が用いられるが, 更に無機成分を付与した有機無機ハイブリッド型ハードコートの応用が検討されている 1,2) 硬度の高い無機成分の導入で更なるハードコート性の向上が望め, 既に FPD(Flat Panel Display) やタッチパネルの表示部材のハードコート膜に使用されている 3,4) 一方, 基材樹脂のフィルム化の進行と, 更なる小型化, 軽量化のための基材樹脂フィルムの厚みの減少は, そもそも傷つき易い基材樹脂の機械的強度を更に低下させることになる また, 基材フィルムが薄くなることにより, カーリング問題等の新たな制約を受けるようになる ウェットコーティングで塗布されたハードコート膜が硬化収縮していく際に, フィルム基材がハードコート膜側に筒状に丸まっていこうとする ( カーリング ) 力が働くが, 基材が薄膜化していくとカーリング問題が極端に大きくなり, これまで問題とならなかった膜構成でも大きな問題となり得る そのため, 収縮を抑えた樹脂設計にするか, ハードコート膜厚を薄くすることで対応するが, 硬度とカーリングのトレードオフとなる また, タッチパネルのフィルム同士の接触時やハードコート成膜時のフィルムの巻き取り時にフィルム同士がはり付いてしまう ( ブロッキング ) 問題を防止するために, アンチブロッキング性が求められる 従来, 粒子を膜内に導入する手法が知られているが 5), その場合, 膜表面に充分な凹凸を形成させるために比較的大きな粒子を導入すると, 粒子に起因した散乱によるヘーズの問題 ( 透明性の低下 ) が発生する 光学的透明性を保ちつつ, 実用的なハードコート性を付与して, しかもアンチブロッキング性能を付与することは実は容易ではない 本稿では, これらの問題に対するアプローチについて, ナノ粒子配合の観点からその設計と 192

第 6 章 第 4 節フッ素系撥水撥油剤による耐指紋性 防汚技術 ( 株 )KRI 丹羽淳 素材に様々な性質を付与することで機能性材料となる 基材に水をはじく性質すなわち撥水性を付与すれば, 水が基材に付着しづらくなる, あるいは水を基材から除去しやすくなる 同様に油をはじく性質すなわち撥油性を付与すれば, 油が付着しづらくなる, あるいは除去しやすくなる 汚れ物質は大きく分けて, 砂やホコリなど水になじみやすい親水性物質のものと, 煤煙や油汚れなど水になじみにくい疎水性 ( 親油性 ) 物質のものの2 種類がある 基材に撥水性を付与すれば親水性の汚れ物質は付着しづらく, あるいは付着しても除去しやすくなり, 撥油性を付与すれば疎水性 ( 親油性 ) の汚れ物質は付着しづらく, あるいは付着しても除去しやすくなる 撥水性と撥油性とを併せ付与すれば, 多くの汚れ物質が付着しづらくなる, あるいは付着しても除去しやすくなる 有機フッ素化合物は撥水性と撥油性とを併せ持つ物質である 汎用的な基材そのものに撥水性と撥油性とを併せ付与することは困難であるが, その基材に有機フッ素化合物をコーティングすることにより, 撥水性及び撥油性を併せ付与することができる このように有機フッ素化合物は撥水撥油コーティング剤や防汚コーティング剤として使用されてきた しかしながら近年, 従来使用されてきた有機フッ素化合物の代謝物に生体蓄積性があることがわかり, 安全性の懸念から従来の有機フッ素化合物は使用できなくなった そこで生体蓄積性の低い安全な撥水撥油剤の創出が求められている ここでは, 生体蓄積性の低いフッ素化合物を用いた ( 株 )KRI( 以下 KRI) の新規撥水撥油剤について紹介する 1. 有機フッ素化合物の特徴 1.1 有機フッ素化合物の特徴フッ素は元素周期律表の7B 族第 2 周期に属し, 全ての元素の中で最も電気陰性度が大きい元素である フッ素原子は有機化合物の基本骨格となる炭素原子と非常に強固な結合を形成する そのため有機フッ素化合物は非常に安定で, 熱, 薬品, 光などに対し非常に高い耐性示す 212

第7節 第7節 フィルムの滑り性とフィラーによる耐スクラッチ性の向上 名古屋大学 小長谷 重次 ポリエチレン PE ポリプロピレン PP 6- ナイロン Ny ポリエチレンテレフタレート PET 等のポリマー材料から食品包装用及び工業用 光学用 磁気記録用 フィルムが製造さ れる フィルムには 冷却ドラム面上に溶融押出しした未延伸フィルム その未延伸フィルム を一軸または二軸 縦横 に 3 5 倍延伸して得られる延伸フィルム 一軸または二軸延伸フィ ルム あるいはポリマー溶融体を円筒状に押出しエアで膨らませる 延伸と同じ ことにより 得られるインフレーションフィルムがある 力学的強度や透明性が要求される食品包装用フィ 1 ルムや工業用フィルムは延伸フィルムである フィルムには所定の機能を発現するためにさ まざまな微粒子 フィラー が添加される 表 1 はフィルム等のプラスチックに充填されるフィ 表1 プラスチック類に添加されるフィラーの組成別分類 261

第 1 節 第 1 節眼鏡用プラスチックレンズへのハードコート技術 ~ 無機 有機ナノ複合体による耐衝撃性ハードコートの開発 ~ 伊藤光学工業 ( 株 ) 清水武洋 人にとって, 見る ということは生活をしていく上で極めて重要で必要不可欠な機能である 見る 機能に関わる製品に共通していることは, 主となる製品機能を司る部分に透明な材料が使用されていることである 透明な材料として古くから用いられてきたのはガラスである ガラスは比較的硬くて傷つきにくく, 耐候性も充分に有することから実用材料として広く使用されてきた しかし, 製品により小型化, 軽量化が強く要求されるようになると, ガラスよりも軽い透明プラスチック材料が使用されるようになる ただこのプラスチック材料の最大の欠点は, 硬さがガラスと比較して充分でないため, 表面に傷が付きやすいことが挙げられる 表 1 材料特性 これらプラスチックレンズの課題を解決するためにプラスチックレンズの表面にはハードコート, 反射防止コート, 水ヤケ防止コート等の表面処理を施すのが一般的である また近年では紫外線から目を守るための紫外線カット機能が施されている 前述のハードコートの素材としては, 一般的にシリコーン系やウレタン系, メラミン系等の 279