米国特許訴訟における弁護士・依頼者間の秘匿特権のCrime-Fraud Exceptionについて

Similar documents
O-27567

不衡平行為の抗弁:THERASENSE 事件以降の方向性

Microsoft Word - Unanimously confirmed invalidity - JAN.doc

, -1463

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

Microsoft Word - CAFC Update(112)

平成 27 年度 特定行政書士法定研修 考査問題 解答と解説 本解答と解説は 正式に公表されたものではなく 作成者が独自に作成したものであり 内容の信頼性については保証しない 以下の事項に全て該当 遵守する場合にのみ 利用を許可する 東京都行政書士会葛飾支部会員であること 営利目的でないこと 内容を

Microsoft Word - CAFC Update(107)

アラブ首長国連邦 (UAE) の労働法 - 雇用契約の法的強制力 ほか 2012 年 6 月 独立行政法人日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) Copyright 2012 JETRO & Herbert Smith Freehills LLP. All rights reserved. 禁無断転載

1 A 所有の土地について A が B に B が C に売り渡し A から B へ B から C へそれぞれ所有権移転登記がなされた C が移転登記を受ける際に AB 間の売買契約が B の詐欺に基づくものであることを知らなかった場合で 当該登記の後に A により AB 間の売買契約が取り消された

00表紙

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

限され 当事者が商標を使用する能力に直接の影響はありません 異議申し立て手続きと取消手続きで最もよく見られる問題とは 混同のおそれ と 単なる記述 です TTAB は登録の内容のみを評価するため その分析の局面には 想定に基づくものもあります 通常 TTAB では どのように標章が実際の製品において

第1回 基本的な手続きの流れと期限について ☆インド特許法の基礎☆

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -SA S A 1 頁 サウジ特許庁 (SPO) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 SA.Ⅰ 略語のリスト国内官庁 : サウジ特許庁 (SPO) Law: 特許, 集積回路配置デザイン, 植

外観設計(1校)

審決取消判決の拘束力

Microsoft Word - 中国商標判例(5)-HPメルマガ 3/10UP

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

Microsoft Word - US Duty of Disclosure-Japanese.doc

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

米国情報 国際活動センターからのお知らせ 米国情報 2016 年 7 月 28 日 担当 : 外国情報部那須威夫 特許権者による特許製品の米国内外での制限付き販売は 米国特許権を消尽させるか否かについて判断した CAFC 判決の紹介 Lexmark International, Inc., v. I

 

なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

実体審査における審査官面接に関して GPE には面接における協議の方法 時期および内容など 詳細な要件が定められている 例えば GPE には 最初のオフィスアクションの応答書が出願人により提出された後 審査官は当該出願の審査を継続しなければならない と規定されている (GPE 第 II 部第 2 章

< F2D8CA48B8689EF8E9197BF31352E6A7464>

<4D F736F F D208FA495578CA0904E8A FD782C982A882AF82E991B98A F9E8A7A82CC8E5A92E82096F6E05694FC89C02E646F63>

最高裁○○第000100号

_第16回公益通報者保護専門調査会_資料2

日本における特許権行使

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

米国情報 米国情報 担当 : 外国情報部鈴木孝章 P&G vs Teva (KSR 後の非自明性判決 ) United States Court of Appeals for the Federal Circuit , -1405, P&G vs Teva May. 1

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

KSR判決のその後

競走馬の馬名に「パブリシティ権」を認めた事例

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

点で 本規約の内容とおりに成立するものとします 3. 当社は OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用申込みがあった場合でも 任意の判断により OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用をお断りする場合があります この場合 申込者と当社の間に利用契約は成立し

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

第 6 平等原則違反の場合の救済方法 第 6 平等原則違反の場合の救済方法裁判所による直接的救済 ( 部分違憲 )( 1) 判例 参考 問題の所在, 前提 国籍法事件当時の国籍法 3 条 1 項は, 外国人の母より出生したが, 1 母が日本人の父と婚姻をし, 2 父より認知された場合に, 日本国籍の

経済産業省 受託調査 ASEAN 主要国における司法動向調査 2016 年 3 月 日本貿易振興機構 (JETRO) バンコク事務所知的財産部

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

Microsoft Word - ◎簡易版HP0604.doc

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

H 刑事施設が受刑者の弁護士との信書について検査したことにつき勧告

Microsoft PowerPoint - IPRフォローアップミーティング(田村) (2)

いても使用者責任が認められることがあります 他方 交通事故の原因が相手方の一方的な過失によるものであるなど 被用者に不法行為責任が発生しない場合には 使用者責任も発生しません イ 2 使用関係被用者との使用関係については 実質的な指揮監督関係があれば足りるとして広く解されており 正社員 アルバイト

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -AL AL 1 頁 工業所有権総局 (GDIP) ( アルバニア ) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 AL.Ⅰ 委任状 附属書 AL.Ⅱ 略語のリスト国内官庁 : 工業所有権総局 (GD

☆米国特許判例紹介☆ -第129号-

<4D F736F F D F93FC82E D835382CC82DD816A2E646F63>

Microsoft Word - クレームにおける使用目的に関する陳述 ☆米国特許判例紹介☆ -第105号-

指定 ( 又は選択 ) 官庁 PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 - ベトナム国家知的所有権庁 (NOIP) 国内段階に入るための要件の概要 3 頁概要 国内段階に入るための期間 PCT 第 22 条 (3) に基づく期間 : 優先日から 31 箇月 PCT 第 39 条 (1)(b)

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -MY MY 1 頁 マレーシア知的所有権公社 ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 MY.Ⅰ 国内段階移行手数料 ( 特許様式 No.2A) 附属書 MY.Ⅱ 特許代理人の選任又は変更 ( 特

社会保険労務士法.xlsx

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

PowerPoint プレゼンテーション

0 月 22 日現在, 通帳紛失の総合口座記号番号 特定番号 A-B~C 担保定額貯金 4 件 ( 特定金額 A): 平成 15 年 1 月 ~ 平成 16 年 3 月 : 特定郵便局 A 預入が証明されている 調査結果の回答書 の原本の写しの請求と, 特定年月日 Aの 改姓届 ( 開示請求者本人

第 2 章契約の成立と有効性 1 契約の成立 赤字は講座紹介コメントです 1, 契約の成立 (1) 契約の成立要件 契約は, 申し込みの意思表示と承諾の意思表示の合致によって成立する (2) 合致の程度実は論文でも重要だったりする論点を再確認できます 内心において合致していれば, 外形において合致し

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

CAFC Update(135)

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

平成  年(行ツ)第  号

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

実務家の条文の読み方=六法の使い方の基礎

Microsoft PowerPoint - 01_職務発明制度に関する基礎的考察(飯田先生).pptx

オランダ王国における知的財産訴訟制度 ( 特許訴訟制度 ) の調査結果 ( 報告 ) 法務省大臣官房司法法制部 部付砂古 剛 1 調査の目的及びインタビュー先 (1) 調査の目的知的財産戦略本部で策定された知的財産推進計画 2013 ないし 2016 においては, 紛争処理機能の在り方の検討のため,

東京地方裁判所委員会 ( 第 36 回 ) 議事概要 ( 東京地方裁判所委員会事務局 ) 第 1 日時平成 27 年 10 月 22 日 ( 木 )15:00~17:00 第 2 場所東京地方裁判所第 1 会議室第 3 出席者 ( 委員 ) 貝阿彌誠, 足立哲, 大沢陽一郎, 大野正隆, 岡田ヒロミ

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

☆米国特許判例紹介☆ -第142号-

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

諮問庁 : 国立大学法人長岡技術科学大学諮問日 : 平成 30 年 10 月 29 日 ( 平成 30 年 ( 独情 ) 諮問第 62 号 ) 答申日 : 平成 31 年 1 月 28 日 ( 平成 30 年度 ( 独情 ) 答申第 61 号 ) 事件名 : 特定期間に開催された特定学部教授会の音声

米国特許ニュース AIA102( 条 (a)(1) の出願日前の販売 (on sale) は たとえ販売内容が秘密であっても旧法 102 条 (b) の オンセール と同じで 特許を無効にすると最高裁判決 服部健一米国特許弁護士 2019 年 2 月 HELSINN HEALTHCARE S. A.

IFRS基礎講座 IAS第37号 引当金、偶発負債及び偶発資産

(Microsoft Word - \201iAL\201jAG-Link\227\230\227p\213K\222\350.doc)

平成19年(ネ受)第435号上告受理申立理由要旨抜粋

freee・マネーフォワード特許訴訟の解説

知的財産権の権利活用 ~警告から訴訟まで

あるクレームに対して特許侵害訴訟を提起されていた場合は それから 1 年以内にそのクレームについてレヴューを要求しなければならない ( 他のクレームにはその制限はない ) レヴュー手続きのあり方そのものを詳細に規定 以上の修正規定の一部は 下院のイノベーション法にもないプロ特許的新しい修正規定である

1. 本報告書の検討対象 本報告書の目的は (i) Google, Inc. ( グーグル ) による書籍のデジタル検索 配信サービス グーグル ブックサーチ ( 現在の名称は グーグル ブックス ) をめぐる米国での著作権侵害訴訟 ( 本件訴訟 ) において 原告である米国作家協会 (the Au

<4D F736F F D2089EF8ED096408CA48B8689EF8E9197BF E7189BB A2E646F63>

より被告側から証拠提出がなされる場面が増えることが期待されるが 書類等提出命令は 裁判所が当事者から強制的に証拠を収集する手続ではないことから 証拠収集が困難な場面はなお残るのではないかと考えられる また これまで侵害の立証のための書類等提出命令が発令されることは少なく 真実擬制が認められることも稀

市町村合併の推進状況について

指定 ( 又は選択 ) 官庁 CL PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -CL 国立工業所有権機関 ( チリ ) 国内段階に入るための要件の概要 3 頁概要 CL 国内段階に入るための期間 PCT 第 22 条 (1) に基づく期間 : 優先日から 30 箇月 PCT 第 39 条 (1

21855F41214EA DB3000CCBA

ジュリスト No 頁 ) しかし 民事執行法の中に 上記の思想を盛り込まないままで それは 153 条でまかなっていただこう というのは 無理がある 例えば10 万円の給与のうち2 万 5000 円を差し押さえられた債務者が153 条の申立をし 他に収入はないこと ( 複数給与の不存在

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

Transcription:

米国特許訴訟における弁護士 依頼者間の秘匿特権の Crime-Fraud Exception について 会員 弁護士中所昌司 要約米国特許訴訟のディスカバリ手続で, 当事者は広範な証拠開示義務を負うが, 弁護士 ( 弁理士 ) と依頼者との間のコミュニケーションについては, 一定の要件の下, 秘匿特権が認められる もっとも,crime-fraud exception( 犯罪又は詐欺の例外 ) にあたる場合には, 秘匿特権が認められない 本稿では, この crime-fraud exception についての訴訟での攻防について, 近時の米国特許訴訟での決定を題材にして解説する crime-fraud exception が認められるためには, 独立した明白な, 欺罔意図の証拠とそれに対する信頼の証拠 が必要である したがって,crime-fraud exception の認定について, 秘匿特権の主張者にとって過度に不利な運用がされているわけではないようである また, 本稿では, 不衡平行為と弁護士 依頼者間の秘匿特権の関係についても説明する 被告から不衡平行為の抗弁が出た場合に, 原告が, 当時の弁護士とのコミュニケーションを証拠として提出すると, 他の証拠についても秘匿特権の放棄となってしまう可能性があるので, 注意が必要である 目次 1. はじめに 2. ディスカバリと弁護士 依頼者間の秘匿特権の概説 2.1. ディスカバリ 2.2. 弁護士 依頼者間の秘匿特権 3.Crime-Fraud Exception( 犯罪又は詐欺の例外 ) の概説 3.1. 概要 3.2. 趣旨 3.3. 犯罪又は詐欺以外への適用 3.4. 立証 3.5. 効果 4.Crime-Fraud Exception が争点となった近時の事例 4.1. 事案の概要 4.2. 背景 4.3. 裁判所の判断 5. 不衡平行為 (Inequitable Conduct) と弁護士 依頼者間の秘匿特権の関係 5.1. 不衡平行為 (Inequitable Conduct) と Crime-Fraud Exception の要件の比較 5.2.Inequitable Conduct の抗弁に対する反論の際の注意点 5.3. 弁護士 依頼者間の秘匿特権の主張自体からの不利な推測の禁止 5.4. 訴訟における攻防の概念図 6. まとめ 1. はじめに (1) 米国特許訴訟のディスカバリ手続で, 当事者は広範な証拠開示義務を負う これに対して, 弁護士 ( 弁理士 ) と依頼者との間のコミュニケーションについては, 一定の要件の下, 秘匿特権が認められ, 当事者は証拠の開示をしないことができる もっとも,crime-fraud exception( 犯罪又は詐欺の例外 ) にあたる場合には, 秘匿特権が認められず, 当事者は証拠を開示しなければならなくなる 本稿では, 特にこの crime-fraud exception に焦点をあてて, 解説する 2. ディスカバリと弁護士 依頼者間の秘匿特権 (2) (6) の概説 2.1. ディスカバリ米国特許訴訟においては, 当事者の請求又は防御に関連する事項について, 広範な範囲で開示が要求される ( ディスカバリ, 連邦民事訴訟規則 26(b)(1)) (7) ディスカバリ制度によって, 当事者の証拠収集が容易になり, 公平かつ迅速な正義の実現が図られる また, 訴訟の争点が絞られ, 和解による解決も促進される パテント 2018 88 Vol. 71 No. 6

2.2. 弁護士 依頼者間の秘匿特権 (1) 概要上記ディスカバリの開示義務の例外の 1 つが, 弁護士 依頼者間の秘匿特権である 弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められる場合には, 当該特権の主張権者は, 相手方や裁判所に対する証拠の開示義務を免れることができる (2) 趣旨弁護士 依頼者間の秘匿特権の趣旨は, 弁護士とクライアントの間の完全かつ率直なコミュニケーションを促すことにある すなわち, 仮に弁護士とクライアントとの間のコミュニケーションが, ディスカバリによって開示されるとすると, クライアントは, 弁護士に対して相談しなくなったり, 相談時に弁護士に対して十分な情報を伝えないようになったりしてしまう そこで, 弁護士 依頼者間の秘匿特権の制度を設けて, 弁護士とクライアントの間のコミュニケーションの秘密を保障することにより, 弁護士の利用を促進するとともに, 弁護士の助言の質を高めて, 法正義に資することとしたのである (3) 要件弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められるための要件としては,United States v. United Shoe Machinery Corp. 事件で判示された以下のものが, 広く全米で用いられている 1 特権を有すると主張する者が, クライアント又はクライアントになろうとしていたものであること 2 コミュニケーションの相手方が, (a) 弁護士又はその部下であり, かつ, (b) 当該コミュニケーションにおいて, 弁護士として行動していること 3 当該コミュニケーションが, 以下の条件で, 弁護士に通知された事実に関すること (a) クライアントから, 通知されたこと (b) 第三者が同席しない状態で, 通知されたこと (c) 主として (i) 法律に関する意見,(ii) 法的サービス, 又は (iii) 法的手続における支援を確保するために, 通知されたこと (d) 犯罪又は不法行為を犯すために通知されたものではないこと 4 当該特権が, クライアントにより, (a) 主張され, かつ, (b) 放棄されていないこと上記の要件 2の 弁護士 については, 通常は, 米国で登録された弁護士が想定されている もっとも, 判例上 (8), 日本の弁理士とクライアントとの間の日本法に関するコミュニケーションについても, 秘匿特権が認められ得る また, 弁護士資格を有しない米国パテント エージェントの場合, 出願業務に関するコミュニケーションについては, 秘匿特権が認められ得る (9) 上記の各要件については様々な論点があるが, それ (2) らについては日本語の他の文献 (4) にも記載があるので, 以下では, 上記の要件 2(d) に関連する crimefraud exception( 犯罪又は詐欺の例外 ) について, 解説する 3.Crime-Fraud Exception ( 犯罪又は詐欺の例 (10) 外 ) の概説 3.1. 概要弁護士とクライアントとの間のコミュニケーションそれ自体が, 将来の犯罪又は詐欺を促進するためのものである場合には,crime-fraud exception( 犯罪又は詐欺の例外 ) が適用され, 弁護士 依頼者間の秘匿特権による保護を受けられなくなる なお,crime-fraud exception が適用されるために, 実際に犯罪又は詐欺が実行されたことを要するか否かについて, 判例は分かれている 3.2. 趣旨 crime-fraud exception によって弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められなくなる趣旨は, そもそも弁護士 依頼者間の秘匿特権の究極的な目的が, 弁護士とクライアントの間のコミュニケーションを保護することによって, 法正義を促進することにあるにもかかわらず, 弁護士 依頼者間の秘匿特権が, 現在又は将来の犯罪や詐欺の道具に使われてしまうと, 本来の目的に反することになるためであるとされている 3.3. 犯罪又は詐欺以外への適用 裁判所によっては, 不法行為 (tort) など, 犯罪又は詐欺以外の不正な行為についても, 弁護士 依頼者間の秘匿特権の例外を広く認める場合がある Vol. 71 No. 6 89 パテント 2018

3.4. 立証裁判所によって判断基準に差異はあるようだが, 一般的には, まず,crime-fraud exception によって弁護士 依頼者間の秘匿特権を否定しようとする当事者が, クライアントが犯罪又は詐欺を犯していたこと又は犯そうと意図していたこと 及び 当該コミュニケーションが, 当該犯罪又は詐欺を促進するためのものであったこと を疎明しなければならない (11) 一定の合理性がある場合には, 裁判所は,crime-fraud exception の要件の充足性を判断する目的で, イン カメラで証拠を見ることができる この場合, 証拠は裁判官だけが見ることができ, 開示者の相手方は見ることができない 図 1 のように, 裁判所がイン カメラで証拠を見ることができるために要求される証明度は, 裁判所が最終的に crime-fraud exception の要件を充足すると判断するための証明度よりも低い 図 1 Crime-Fraud Exception の審理手続での証明度 3.5. 効果 crime-fraud exception が立証されると, 当該犯罪又は詐欺に関連するコミュニケーションについて, 弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められなくなり, 開示しなくてはならなくなる 4.Crime-Fraud Exception が争点となった近時の事例 4.1. 事案の概要以下では,crime-fraud exception をめぐる実際の訴訟での攻防のイメージをつかむために, crime-fraud exception が争点となった近時の一事例 (12) について紹介する 電動工具用リチウム電池に関する本件特許権侵害訴訟において, 原告 ( 特許権者 ) は, 一部の文書について, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を主張した これに対して, 被告 ( 被疑侵害者 ) は, 原告が米国 特許商標庁に対して詐欺を行ったため, 弁護士 依頼者間の秘匿特権は認められないと主張し, 強制開示の申立てをした 結論として, 原告の主張が認められ, 弁護士 依頼者間の秘匿特権により, 原告は当該文書を開示しなくてもよいこととされた 4.2. 背景 (1) 被告の主張の概要本件特許の権利化の過程において, 発明者は特許商標庁に2 通の宣言書を提出した 被告は, この宣言書中に重大な事実についての秘匿又は虚偽があったことにより, 原告は特許権を取得できたと主張した (2) 1 通目の宣言書 1 通目の宣言書は, 本件特許の親出願 (2003 年出願 ) に関連して 2007 年に米国特許商標庁に提出されたもので, 電動工具にリチウム電池を使うことは自明であるとの審査官の意見に反論するためのものであった その宣言書中で, 発明者は, 当業者の従来の見解は, リチウム電池は, コード付き (13) 工具に用いるには不安定すぎる というものであった と供述していた そして出願人は, 出願発明の電池パックは, この課題を解決したと主張した 審査官は, この発明者の宣言書等を考慮して, 特許を許可した これについて被告は, 本件特許権侵害訴訟における証言録取において発明者が 1999 年には, 間もなく当該分野で電動工具のためのリチウム技術が活用されるようになると予想していた 旨証言したことは, 上記の 2007 年の宣言書と矛盾すると主張した (3) 2 通目の宣言書 2 通目の宣言書は,2009 年に本件特許の権利化過程で, 発明者により提出された 当該宣言書で, 発明者は,2001 年にカナダの会社から電動工具向けのリチウム電池パックを受け取り, 当該電池パックをテストしたが, いくつかの基準に達していなかったと述べた 具体的には, 発明者は,20 アンペアを1 分以上持続できなかったり, 丸のこ盤で切断を繰り返すときにアンペア定格を充たせなかったりしたと述べた 被告は, 発明者のテストと宣言書が, 従来品は問題を有していることを示し, 出願発明の特許許可に寄与したと主張した パテント 2018 90 Vol. 71 No. 6

被告は, 発明者の上記の宣言書の内容は, 以下の発明者の発言と矛盾すると主張した : 1 カナダの会社の電池パックは, 電圧降下することなく 3 分以上連続的に 20 アンペアで放電できた旨の証言録取での自認 2 カナダの会社の電池パックは, 丸のこ盤で 30 回切断をする間,26.19 アンペアの平均放電を示した旨の証言録取での自認 3 丸のこ盤での使用は電池パックにとって最も要求レベルが高く, ドリルのように要求レベルのより低い製品での使用であれば, カナダの電池はよりよく作動する旨の証言録取での自認 4 切断開始時の電圧降下は通常のものであり, 制御回路により補償可能である旨の証言録取での自認 5 いくつかの原告製品での使用において, カナダの電池は OK であった旨の,2001 年の同僚宛てのeメールでの供述 6 最も条件の厳しい製品である丸のこ盤においてさえ, カナダの電池パックは優れた特性を示した旨の,2001 年の同僚宛ての e メールでの供述さらに被告は, 発明者が, テストに用いたものもよりも高性能の電池をカナダの会社が開発済みであったことを知っていたにもかかわらず, その事実を米国特許商標庁に開示しなかったと主張した (4) 開示義務が争われた文書原告は, 発明者の上記の 2007 年及び 2009 年の宣言書のドラフト及びこの宣言書に関するコミュニケーションについて, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を主張して, 開示を拒否した これに対して, 被告は, 裁判所に対して, 開示命令を求めた 4.3. 裁判所の判断 (1) 一般論本件へのあてはめに先立って, 裁判所は, まず以下のように一般論を判示した 弁護士 依頼者間の秘匿特権は, コモンローにおいて最も古くから認められている秘匿特権の一つである (Upjohn Co. v. United States, 449 U.S. 383, 389 (1981)) この特権は, 簡単には剥奪されない しかし, 申立人が, 当該コミュニケーションが犯罪又は詐欺を促進するためになされたことを証明した場合に は, 当該特権は剥奪される (United States v. Zolin, 491 U.S. 554, 563 (1989)) 特許商標庁に対する詐欺の主張に関して, 合衆国連邦巡回区控訴裁判所は, 当事者は,crime-fraud exception に基づいて弁護士 依頼者間の秘匿特権を破るためには,Walker Process 詐欺 ( コモンロー上の詐欺 ) を証明しなければならない と判示した (14) (Walker Process Equip., Inc. v. Food Mach. & Chem. Corp., 382 U.S. 172, 177 (1965) を引用する,Unigene Labs., Inc. v. Apotex, Inc., 655 F.3d 1352, 1358) したがって, 申立当事者は, 以下の要件について, 疎明しなければならない (1) 重要な事実の表明,(2) 当該表明が虚偽であること,(3) 欺罔する意図, 又は, 少なくとも, 故意と同視される程度に結果に対して不注意であること,(4) 欺かれた者が, 当該欺罔を正当に信頼したこと, 及び (5) 当該欺罔に対する信頼の結果として, 欺かれた者に損害が発生したこと (In respalding Sports Worldwide, Inc., 203 F.3d 800, 807 (Fed. Cir. 2000)) 合衆国連邦巡回区控訴裁判所は, 疎明は, 特に重い負担ではない と判示した (In regrand Jury Investigation, 445 F.3d 266, 274-75 (3d Cir. 2006) を引用する,Micron Technology, Inc. v. Rambus, Inc., 645 F.3d 1311, 1330 (Fed. Cir. 2011) ) しかし, 同裁判所は, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を破るという極めて強い救済 を得るためには, 申立人は, 独立した明白な, 欺罔意図の証拠とそれに対する信頼の証拠と を示さなければならないとも判示した (Spalding, 203 F.3d at803 を引用する,Unigene, 655 F.3d at1358-59) (2) 本事案についての判断被告は, 以下の 3 点において, 米国特許商標庁に対する詐欺的な申告又は不申告があったと主張した 1 電動工具の分野ではリチウム電池は不安定すぎると思われていた旨の, 発明者の 2007 年の宣言書 2 本件特許の親出願 (2003 年出願 ) の権利化の際に,2001 年のカナダの会社の電池のテストについて開示しなかったこと 3 カナダの電池は, 放電と切断のテストに不合格であった旨の, 発明者の 2009 年の宣言書裁判所は, 以下のとおり, これらの 3 点はいずれも詐欺を認定できるほど, 虚偽又は欺く意図を示しているとはいえない旨, 判断した Vol. 71 No. 6 91 パテント 2018

ア 1の点 (2007 年の宣言書 ) についての裁判所の判断の概要確かに, 発明者は, 証言録取において, 1999 年には彼 ( 発明者 ) がリチウム電池への移行を予測していた 旨述べた しかし, 当該分野のトレンド及び技術的な進歩に関する発明者の考え方は, 事実ではない よって, 発明者が 2007 年の宣言書において, 当該分野が, 全体として, リチウム電池は幅広い応用のためには不安定すぎると考えていた旨供述したことには, 何ら落ち度はない イ 2の点 ( 親出願でのカナダの電池の不開示 ) についての裁判所の判断の概要カナダの電池は組合せにより 21 ボルトを有するものであったが, 親出願は,28 ボルトの電池パックで, 20 アンペアの条件も有していた そこで, 原告は, 親出願の出願時に, カナダの電池の開示をする必要があるとは思わなかった さらに, 本件訴訟に係る特許発明は, 親出願の発明よりも, カナダの電池と類似性があり, 原告は, 本件訴訟の特許の権利化の際には, カナダの電池のテストを全て開示している そこで, 裁判所は, 原告が, 親出願の権利化過程において, カナダの電池のテストを開示しなかったことにより, 詐欺を行ったと認定することはできない 原告が, カナダの電池のテストを開示する義務があったと認めることもできないし, 原告が, 欺く意図をもって開示をしなかったと認めることもできない なお, Nobelpharma AB v. Implant Innovations, Inc., 141 F.3d 1059, 1071 (Fed. Cir. 1998) 判決は, 欺く意図の証拠がなく, 単に出願時に文献を引用しなかったというだけでは,Walker Process 詐欺にはあたらないとした ウ 3の点 (2009 年の宣言書 ) についての裁判所の判断の概要放電テストについて, 被告は, カナダの電池は, 丸のこ盤で 30 回以上切断する間,26.19 アンペアの平均放電電流を示し, また,3 分以上にわたって 20 アンペアの連続放電電流を維持することができたのであるから, テストには合格したとされるべきであった と主張する これに対して, 原告は, (1) 当該結果を出すためには, カナダの電池は, 危険なほど過熱されなけ ればならなかった また,(2) 当該テストは, 単に平均値を見るのではなく, 電池パックが全定格出力において, 連続使用時に要求される電流値を維持できるかを見る必要があった と反論した また切断テストについて, 被告は, 原告は電池パックを極端な条件で評価し, 最初の電圧降下を過度に重視した と主張した これに対して原告は, 電池パックは全定格出力において適切に作動しなかった 発明者が実験結果を取得したときには, 電池は, 危険なほど熱くなった と反論した カナダの電池の性質に関する事実についての両当事者の対立に鑑みても, 裁判所は, 原告の米国特許商標庁に対する供述が詐欺であったと認定することはできない しかも, 米国特許商標庁は, 本件特許の審査時には, 開示されていたテストの結果についての発明者の主張を十分に検討する機会があった したがって, 米国特許商標庁が, 発明者の虚偽の供述を信頼して特許を許可したとは認めがたい また, 発明者が同僚に送った楽観的なメールも, テストの結果に関する 2009 年の供述と矛盾しない 被告が引用するメールにおいて, 発明者は, カナダの電池に対する期待と共に, その機能に関する留保も述べている これらのコミュニケーション全体を見ると, 発明者が, カナダの電池を成功だと考えていたということはできない 実際に, 発明者は, カナダの電池はいくらかの性能は示したが, 原告の電動工具において販売されるには不十分であった と証言している したがって, 発明者が後に カナダの電池は失敗だった と述べたことは, 虚偽とはいえない エ他の事案との違い裁判所は, 更に, 本件は, 原告が特許権を自ら放棄したことを知っていたはずであるのに, 当該放棄は意図しないものであったと, 故意に虚偽の表明をした事案 (15) や, 弁護士の助言の下で証拠隠滅がなされた十分な証拠がある事案 (16) とは異なる旨, 判示した ( 本件では, 発明者の供述が虚偽であったことが明らかではない ) さらに裁判所は, 本件は, 原告が, 外国の対応特許出願について引用されていた重要な先行技術について, 米国特許商標庁に開示しなかった事案 (17) とも異なる旨, 判示した ( 本件では, 原告が, カナダの電池が親出願に関連すると知っていた, あるいは知るべきで パテント 2018 92 Vol. 71 No. 6

あったという証拠はなく, 更に, カナダの電池のテスト結果は, 本件特許の権利化過程では完全に開示されていた ) に足る証明を要求する と判示した (20) この判示を前掲の図 1に追加すると, 図 2 のようになる (3) 本件についての裁判所の結論裁判所は, 本決定の結論として, 原告の詐欺があったとは認定できないとし, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を破る crime-fraud exception は適用されないとした そして裁判所は, 強制開示に係る被告の申立てを棄却した 図 2 不正行為に関する証明度 5. 不衡平行為 (Inequitable Conduct) と弁護士 依頼者間の秘匿特権の関係 5.1. 不衡平行為 (Inequitable Conduct) と Crime-Fraud Exception の要件の比較特許商標庁に対する詐欺が認定されると, 前述のように crime-fraud exception によって弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められなくなることがあるほか, 当該詐欺が不衡平行為 (inequitable conduct) に該当するとされ, 当該特許権を行使できなくなる可能性がある これについては, 比較的近時の Therasense 事件判決によって, 権利行使ができなくなる基準が厳しくなった (18) すなわち, 特許権者又は出願人は, 米国特許商標庁を欺く具体的な意図をもって, 故意に重要な不実の表明をしたか, または故意に重要な事実を開示しなかったことが, 明白かつ確信を持つに足る証拠によって証明されたときに, 当該特許権を行使できなくなる さらにこの 重要 性は, 多くの場合, 当該特許が, 当該不実の表明や不開示がなくても許可されたか否かによって決められる さらに,Therasense 事件判決は, この 当該不実の表明や不開示がなくても許可されたか否か の基準は, コモンロー上の詐欺の 欺罔に対する信頼 の要件と同じであると述べている したがって, 不衡平行為 (inequitable conduct) の要件と,crime-fraud exception の要件は, 共通する部分がある もっとも, 要件が全く同じであるか否かについては, 未だ明確にはなっていないようである (19) なお, 証明度について, 本件原告が別の被告を訴えた訴訟の決定において, 本件と同じ裁判官は, crime-fraud exception は詐欺の疎明で足りるのに対し,inequitable conduct の抗弁は明白かつ確信を持つ 5.2.Inequitable Conduct の抗弁に対する反論の際の注意点被告から inequitable conduct の抗弁が出た場合に, 原告は, 欺く意図の要件を否定するために, 当時の弁護士とのコミュニケーションを証拠として提出することが考えられる しかしながら, そのようなコミュニケーションを提出してしまうと, 同一の主題に関する全てのコミュニケーションについて, 弁護士 依頼者間の秘匿特権が放棄 ( 本稿 2.2.(3) の要件 4(b)) されたことになり, 開示義務が生じてしまう可能性があるので (21), 事前に慎重な検討が必要である 5.3. 弁護士 依頼者間の秘匿特権の主張自体からの不利な推測の禁止実際には, 原告が弁護士 依頼者間の秘匿特権を主張するのは, 当該証拠が,inequitable conduct や, クレーム解釈や無効論について, 原告に不利な証拠だからである場合も多いであろう しかし, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を主張すること自体から, 主張者に対して不利な推測をすることは禁じられている (22) 5.4. 訴訟における攻防の概念図なお, 本稿で説明した crime-fraud exception の主張がなされる場合の攻防の一例を図示すると, 図 3 のようになると思われる すなわち, 原告 ( 特許権者 ) が権利化時の証拠について, 弁護士 依頼者間の秘匿特権を主張し, これに対して, 被告 ( 被疑侵害者 ) が, crime-fraud exception の主張をする この際, 被告の主張 立証がある程度まで達していれば, 裁判所のみが証拠を審理するイン カメラ手続が認められる Vol. 71 No. 6 93 パテント 2018

その結果,crime-fraud exception の主張が認められれば, 原告は, 被告に対しても証拠を開示することになる 被告はさらに, その証拠を利用して,crimefraud exception と要件において共通性を有する不衡平行為 (inequitable conduct) の主張をしたり, クレーム解釈や特許無効について主張をする場合がある 図 3 訴訟における攻防の概念図 6. まとめ以上説明したように, 出願時に, 開示義務違反等の不正行為があると,crime-fraud exception により, 弁護士 依頼者間の秘匿特権が認められず, 弁護士 ( 弁理士 ) とのコミュニケーションを開示しなくてはならなくなる可能性がある そして, その結果, 自己に不利な証拠が開示され, クレーム解釈や無効論について不利な判断がなされたり, 出願時に不衡平行為 (inequitable conduct) があったとして, 特許権を行使できなくなる可能性がある もっとも,crime-fraud exception が認められるためには, 本決定が踏襲したように, 独立した明白な, 欺罔意図の証拠とそれに対する信頼の証拠 が必要である また inequitable conduct については, Therasense 事件判決により, 比較的厳格な要件が要求されるようになっている よって, 不正行為の認定について, 特許権者にとって過度に不利な運用がされているわけではないようである したがって, 出願人 特許権者は,crime-fraud exception や inequitable conduct について過剰に慎重になる必要はないが, 当該制度の存在自体は知っておくべきであるし, 訴訟が予見される状況になった場合には, 米国の弁護士と相談の上, 慎重に対応する必要がある ( 注 ) (1) 本稿中の意見は個人的なものであり, 筆者が関係するいかなる企業, 事務所, 団体の意見をも代表するものではない (2) 山口洋一郎著, 日本弁理士会編, 米国秘匿特権マニュアル,2017 (3) 一色太郎著, 米国特許紛争における秘匿特権保護と日本弁護士 弁理士との関係, パテント Vol.70 No.1,2017 (4) 土井悦生 田邊政裕著, 米国ディスカバリの法と実務, 発明推進協会,2013 (5)Cristopher S. Ruhland 著, Attorney-Client Privilege Answer Book,2018 Edition, Practising Law Institute, 2018 (6)Vincent S. Walkowiak 編, The Attorney-Client Privilege in Civil Litigation,6th ed.,american Bar Association, 2015 (7) 連邦民事訴訟規則 26(b)(1) は, ディスカバリの対象範囲の要件として, 当事者の請求又は防御に関連する事項であることの他に, 当該事件での必要性に比例したものであることを規定している そして, その比例性の考慮要素として, 以下のものを挙げている 1 当該訴訟上の当該争点の重要性 2 紛争となっている金額 3 関連情報に対する当事者の相対的なアクセス可能性 4 当事者のリソース 5 当該争点の解決に対する当該開示の重要性 6 当該開示の負担又は費用が, 予想される利益を上回るか否か (8)VLT Corp. v. Unitrode Corp., 194 F.R.D. 8 (D. Mass. 2000); Eisai Ltd. v. Dr. Reddy's Laboratories, Inc., 2005 U.S. Dist. LEXIS 35597 (S.D.N.Y. 2005) (9)In requeen's University at Kingston, 820 F.3d 1287 (Fed. Cir. 2016) (10) 注 (5) の文献の第 12 章 (11)In regrand Jury, 705 F3d. 133, 155 (3d Cir. 2012) (12)Milwaukee Elec. Tool Corp. v. Chervon N. Am. Inc., Case No. 14-CV-1289-JPS, (E.D. Wis. May. 26, 2017) (13) 発明者の宣言書と裁判所の決定の原文に corded とあるが, cordless ( コードレス ) の誤記と思われる (14) なお, 裁判所は, 本決定の注で, 権利が行使できなくなる (unenforceable) 不衡平行為 (inequitable conduct) の証明によって, 弁護士 依頼者間の秘匿特権の crime-fraud exception が証明される場合もあり得るが,inequitable conduct それ自体がコモンロー上の詐欺ではない旨述べている (15)Shelbyzyme, LLC v. Genzyme Corp., Civil Action No. 09-768-GMS, 2013 WL3229964, at *1, *6 (D. Del. June 25, 2013) (16)Micron, 645 F.3d at 1330; see also Gen. Am. Transp. Corp. v. Cryo-Trans, Inc., 159 F.R.D. 543, 546 (D. Or. 1995) (17)Leybold-Heraeus Tech., Inc. v. Midwest Instr. Co., Inc., 118 F.R.D. 609, 615 (E.D. Wis. 1987) (18)649 F.3d 1276 (Fed. Cir. 2011) (en banc) パテント 2018 94 Vol. 71 No. 6

(19)Shelbyzyme, LLC v. Genzyme Corp., No. 09-768-GMS, 2013 U.S. Dist. LEXIS 88822 (D. Del. June 25, 2013) (20)Milwaukee Elec. Tool Corp. v. Snap-On Inc., Case No. 14-CV-1296-JPS, (E.D. Wis. Sep. 22, 2017) (21)Brigham and Women's Hospital Inc. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc., No. 08-464, 2010 U.S. Dist. LEXIS 31573, at *19-20 (D. Del. Mar. 31, 2010) (22)Nabisco, Inc. v. PF Brands, Inc., 191 F.3d 208, 226 (2d Cir. 1999) ( 原稿受領 2018. 2.14) アハ ート Vol. 71 No. 6 95 パテント 2018