本件は, 特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は, 進歩性の有無である 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は, 平成 23 年 10 月 7 日に特許出願をした特願 号 ( 以下 原出願 という ) の一部である, 発明の名称を 位置検出装置 と

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指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第24号-

審決取消判決の拘束力

平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

にした審決を取り消す 第 2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を レーザ加工方法, 被レーザ加工物の生産方法, およびレーザ加工装置, 並びに, レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体 とする特

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 13 日 判 決 原告株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘 高 橋 元 弘 吉 羽 真一郎 末 吉 亙 弁理士 鶴 谷 裕 二

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

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☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

最高裁○○第000100号

1 特許庁における手続の経緯原告は, 名称を 5 角柱体状の首筋周りストレッチ枕 とする発明につき, 平成 20 年 10 月 31 日に特許出願 ( 本願 特願 号, 特開 号, 請求項の数 1) をし, 平成 25 年 6 月 19 日付けで拒絶

O-27567

4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

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情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

最高裁○○第000100号

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

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平成 25 年 7 月 17 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 5 月 29 日 判 決 原 告 株式会社ファランクス 訴訟代理人弁護士 江 森 史麻子 同 呰 真 希 被 告 有限会社サムライ 訴訟代理人弁理士 小 谷 悦

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

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丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

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目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

本件は, 商標登録取消審判請求に対する審決の取消訴訟である 争点は,1 被告又は通常実施権者による標章使用の有無及び2 使用された標章と登録商標との同一性の有無である 1 本件商標商標登録第 号商標 ( 以下, 本件商標 という ) は, 下記の構成からなり, 第 25 類 運動靴,

特許庁が無効 号事件について平成 29 年 2 月 28 日にした審決を取り消す 第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 被告は, 平成 27 年 5 月 26 日, 発明の名称を 気体溶解装置及び気体溶解方法 とする特許出願をし, 平成 28 年 1 月 8

平成 23 年 11 月 29 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 22 年 ( ワ ) 第 号特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 10 月 4 日 判 決 広島県呉市 < 以下略 > 原 告 株 式 会 社 H D T 同訴訟代理人弁護士 稲 元 富 保 同

 

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

下 本件特許 という ) の特許権者である 被告は, 平成 23 年 11 月 1 日, 特許庁に対し, 本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした 特許庁は, 上記請求を無効 号事件として審理をした結果, 平成 25 年 9 月 3 日, 特許第 号の

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

平成25年5月  日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

(Microsoft Word \224\255\225\\\201yMSH\201z \224\273\214\210\201i\217\244\225W\201j.doc)

1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3 0 日と定める 事実及び理由 第 1 請求特許庁が無効 号事件について平成 27 年 4 月 21 日にした審決を取り消す 第 2 事案の概要 1 特許

平成  年(オ)第  号

第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の

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平成 30 年 3 月 28 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 14 日 判 決 原告株式会社 K A L B A S 同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己 同訴訟代理人弁理士 後 呂 和 男 寺 尾 泰 一 中 山 英

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

争点は,1 引用例 2 記載事項の発明該当性の判断の遺脱の有無,2 同発明該当性の判断の誤り及び3 本願発明の進歩性判断の誤りの有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 24 年 5 月 2 日, 名称を 放射能除染装置及び放射能除染方法 とする発明につき, 特許出願 ( 特願 201

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

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特許庁は, 平成 24 年 7 月 31 日付けで拒絶査定をしたため, 原告は, 同年 11 月 12 日, これに対する不服の審判を請求した 特許庁は, これを不服 号事件として審理し, 平成 2 5 年 10 月 28 日, 本件審判の請求は, 成り立たない との審決 (

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

事実及び理由 第 1 請求主文同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を 経皮吸収製剤, 経皮吸収製剤保持シート, 及び経皮吸収製剤保持用具 とする特許第 号 (2006 年 1 月 30 日国際出願 ( パリ条約による優先権主張 2005 年 1 月

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

平成 28 年 4 月 28 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償等請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 3 月 22 日 判 決 原 告 A 同訴訟代理人弁護士 松 村 光 晃 中 村 秀 一 屋 宮 昇 太 被告株式会社朝日新聞社 同訴訟代

平成22年 月 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

第 1 原告の求めた判決 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要本件は, 特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である 争点は, 特許法 36 条 1 項 ( サポート要件 ) 適合性, 進歩性, である 1 特許庁における手続の経緯被告 ( 脱退 ) は, 発明の名称を 印刷物 とする特

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

号 以下 本願 という ) をしたが, 平成 23 年 10 月 26 日付けで拒絶査定を受けたので, 平成 24 年 1 月 31 日, これに対する不服の審判を請求するとともに, 手続補正書を提出した ( 以下 本件補正 という ) 特許庁は, この審判を, 不服 号事件とし

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

に係る発明についての特許を無効とする 審判費用は, 被請求人の負担とする との部分を取り消す 第 2 事案の概要特許庁は, 原告の有する後記本件特許について, 被告から無効審判請求を受け, 原告が後記本件訂正により削除した請求項 6 及び9を除く請求項に係る発明について特許を無効とする旨の審決をした

令和元年 5 月 30 日判決言渡 平成 30 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 31 年 4 月 23 日 判 決 原告ジー エス エフ ケー シー ピー株式会社 被告ケーシーピーヘビーインダスト リーズカンパニーリミテッド 訴訟代理人弁護士 小 林 幸 夫

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

最高裁○○第000100号

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政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

(イ係)

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訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

平成 28 年 11 月 28 日判決言渡 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 10 月 26 日 判 決 原告株式会社ハナヤマ 訴訟代理人弁護士 鳥 海 哲 郎 塩 月 秀 平 松 山 智 恵 栗 林 知 広 稲 葉 大 輔 訴訟代理人弁

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実施可能要件を肯定した審決が取り消された事例

事件名

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

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平成年月日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

Transcription:

平成 30 年 12 月 26 日判決言渡 平成 30 年 ( 行ケ ) 第 10087 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 17 日 判 決 原告株式会社コスメック 上記訴訟代理人弁護士松本司 同井上裕史 同田上洋平 被告パスカルエンジニアリング株式会社 同訴訟代理人弁護士 別 城 信 太 郎 同訴訟代理人弁理士 深 見 久 郎 同 佐 々 木 眞 人 同 高 橋 智 洋 同 松 田 将 治 主 文 1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由第 1 請求の趣旨特許庁が無効 2017-800126 号事件について平成 30 年 5 月 21 日にした審決を取り消す 第 2 事案の概要 - 1 -

本件は, 特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は, 進歩性の有無である 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は, 平成 23 年 10 月 7 日に特許出願をした特願 2011-222 846 号 ( 以下 原出願 という ) の一部である, 発明の名称を 位置検出装置 とする発明について, 平成 25 年 7 月 5 日に分割出願し ( 特願 2013-1416 58 号 ), 平成 25 年 8 月 9 日, 設定登録 ( 特許第 5337323 号 ) を受けた ( 請求項の数 7 甲 1 以下 本件特許 という ) (2) 原告は, 平成 25 年 11 月 6 日, 本件特許を無効にするとの審判を請求した ( 無効 2013-800210 号 ) 被告は, 平成 26 年 8 月 4 日, 訂正請求をした ( 請求項の数 7 甲 2 以下 本件訂正 という ) 特許庁は, 平成 26 年 12 月 8 日, 本件訂正を認めた上, 本件審判の請求は, 成り立たない との審決をし, この審決は, その後, 確定した (3) 原告は, 平成 27 年 2 月 12 日, 本件特許を無効にするとの審判を請求した ( 無効 2015-800025 号 ) 特許庁は, 平成 28 年 3 月 28 日, 本件審判の請求は, 成り立たない との審決をした 原告は, 平成 28 年 4 月 28 日, 知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求めて訴えを提起した ( 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10102 号 ) 知的財産高等裁判所は, 平成 29 年 2 月 21 日, 原告の請求を棄却する との判決を言い渡した ( 甲 25) (4) 原告は, 平成 29 年 9 月 13 日, 本件特許を無効にするとの審判を請求した ( 無効 2017-800126 号 以下 本件審判 という ) 特許庁は, 平成 30 年 5 月 21 日, 本件審判の請求は, 成り立たない との審決 ( 以下 本件審決 という ) をし, その謄本は, 同月 31 日, 原告に送達された - 2 -

原告は, 平成 30 年 6 月 28 日, 知的財産高等裁判所に本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した 2 本件訂正後の発明の要旨本件訂正後の本件特許の請求項 1~7に係る特許請求の範囲の記載は, 次のとおりである ( 甲 2 以下, これらの発明をそれぞれ 本件訂正発明 1~7 といい, 本件訂正発明 1~7を併せて 本件訂正発明 という 本件訂正後の明細書及び図面を併せて 本件訂正明細書 という ) 請求項 1 シリンダ本体と, このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と, この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出装置であって, 前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と, このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え, 前記開閉弁機構は, 前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁体と, 前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する油圧導入室と, 前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路とを備え, 前記出力部材が所定の位置に達したときに, 前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え, 前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位置検出装置 請求項 2 前記油室に油圧が供給され前記出力部材が所定の位置にない状態において, 前記開閉弁機構は前記エア通路を外界に開放する開弁状態を維持し, 前記油室の油圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達した時に, 前記開閉弁機構は, 前記エア通路を閉じる閉弁状態に切り換えられ, 当 - 3 -

該切換えにより前記開閉弁機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧力を上昇させ, 当該圧力が設定圧以上に上昇したことに基づいて前記出力部材が所定の位置にあることが検知され, 前記出力部材が前記所定の位置から移動開始したときに, 前記開閉弁機構は, 前記エア通路を外界に開放する開弁状態に切換えられ, 当該切換えにより前記開閉弁機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧力を低下させることを特徴とする請求項 1に記載の位置検出装置 請求項 3 前記開閉弁機構は, 前記シリンダ本体に形成された前記装着孔に挿入螺合され且つ前記弁体が進退可能に挿入されたキャップ部材を備え, 前記キャップ部材に, 前記エア通路の一部が形成され, 前記キャップ部材と前記弁体との間に前記油圧導入室が形成されたことを特徴とする請求項 2に記載の位置検出装置 請求項 4 前記開閉弁機構の油圧導入路は, 前記弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体の装着方向と平行に形成されたことを特徴とする請求項 2に記載の位置検出装置 請求項 5 前記弁体は, 前記出力部材の進退方向と直交する方向に進退可能に設けられたことを特徴とする請求項 2に記載の位置検出装置 請求項 6 前記弁体は, 前記出力部材の進退方向に進退可能に設けられたことを特徴とする請求項 2に記載の位置検出装置 請求項 7 前記所定の位置が, 前記出力部材の上昇限界位置, 下降限界位置のうちの何れかの位置であることを特徴とする請求項 2に記載の位置検出装置 3 審決の理由の要点 - 4 -

本件審決は, 次のとおり, 本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできないと判断した (1) 主引用発明 ( 本件特許の優先日前の公然実施発明 甲 3の1~3, 甲 3の 4, 甲 3の4の2 以下 甲 3 発明 という ) の認定 ボディ, キャップ及びマニホールドと, ボディに進退可能に装備されたピストンと, このピストンを押側端と引側端に駆動する為の油室とを有するリニアシリンダにおける後退端エアセンサであって, マニホールド内に形成され且つ加圧エアが供給される引側端確認用ポートと大気開放されたエア排気ポートとに接続されたエア通路と, エア排気ポートを開閉可能な開閉弁機構とを備え, 前記開閉弁機構は, キャップに形成した孔に進退可能に装着された検出ロッドと, 押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出させた状態に保持するバネとを備え, 前記ピストンが後退端に達したときに, 前記ピストンにより前記検出ロッドを移動させてエア排気ポートの開閉状態を切り換え, エアキャッチセンサによりクランプの動作確認を行う後退端エアセンサ (2) 相違点の認定本件訂正発明 1と甲 3 発明の相違点は, 次のとおりである < 相違点 1> エア通路について, 本件訂正発明 1では 前記シリンダ本体内に形成され ているのに対し, 甲 3 発明では マニホールド内に形成され ている点 < 相違点 2> 弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する手段について, 本件訂正発明 1では, 前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持する油圧導入室と, 前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路 であるのに対し, 甲 3 発明では, 押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出 - 5 -

させた状態に保持するバネ である点 (3) 相違点の判断ア相違点 1について相違点 1は, 甲 3 発明において, キャップ と マニホールド とが, 別部材で構成されて分離していることから生じているものである すなわち, 甲 3 発明において, シリンダを形成する キャップ とエア通路が形成された マニホールド とが分割して構成されているため, マニホールドは シリンダ本体 とはみなされず, 同時にマニホールド内に形成されたエア通路も, シリンダ本体内に形成されたものとはみなされないために, 相違点 1が生じる しかし, この相違は, 開閉弁機構の弁体全体の収容空間を, 本件訂正発明 1のようにシリンダ本体である下端壁部材 13に装着孔 56として形成したか, 甲 3 発明のようにキャップ及びマニホールドの2 体で半分ずつ囲って形成したかの違いに起因するものである そして, 内部に収容空間がある部材を作成するのに, 一つの部材に孔を設けるか, 二つの分割部材のそれぞれに凹部を設けて組み立てるかは, 一般的に設計事項の範疇であり, 甲 3 発明において, キャップとマニホールドとを一体的に作成したとしても, シリンダを形成することに特段の支障は生じず, エア通路が奏する効果に格別の変化があるものでもない そうすると, 甲 3 発明において, キャップとマニホールドとを一体構成することで, 両者を併せて シリンダ本体 に相当するようにし, シリンダ本体にエア通路が存在するようにすることは, 当業者にとって困難性はない イ相違点 2について原告 ( 請求人 ) は, 当業者は, 甲 3 発明に甲 4( 英国特許出願公開第 11402 16 明細書 ) に記載された事項を適用して相違点 2の構成を容易に想到すると主張するが, 以下のとおり, 採用することはできない ( ア ) 甲 4に記載されたピストンドライブでは, 二方パイロット弁 100, - 6 -

101は, 作業用ピストン21を反転動作させる三方弁の切り換えスイッチの役割を果たしているものであって, 作業用ピストン21の位置を検知するセンサを構成するものではない 他方, 甲 3 発明の検出ロッドは, エアキャッチセンサでエア圧を測定することでピストンの後退端位置への到達を検知する機構に用いられるものである したがって, 甲 3 発明の検出ロッドと, 甲 4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンとは, 用途 機能が異なり, 甲 3 発明の検出ロッドに甲 4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンを適用する動機付けがあるものとはいえない ( イ ) 仮に, 甲 3 発明の検出ロッドと甲 4に記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンとの用途 機能が共通しているとしても, 甲 4に記載された二方パイロット弁 100,101は, 作動用流体と制御用流体とが油圧なら油圧のみ, 空圧なら空圧のみを用いるものに特定されており, 作動用流体と制御用流体とで油圧と空圧のような別種類の流体をそれぞれ使用することは当初から考慮されていないと解される そうすると, バネの押し力に代えて, 図 11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能 という記載を当業者が見たとしても, 甲 4に記載された二方パイロット弁 100,101を, 作業用ピストンの位置検知に用いようとは考えないものと認められる ( ウ ) また, 油圧とエア圧とを併用する甲 3 発明の検出ロッドに対して, 甲 4の図 11に記載された作動用流体及び制御用流体ともに油圧流体を使用する差圧ピストンに置き換えようとしても, 甲 4に示された構造の差圧ピストンを, 甲 3 発明の検出ロッドに単純に置き換えすることはできず, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について, 種々の複雑な変更を加える必要があることは明らかであり, 実際の適用に困難が伴うものと認められる それに加え, 検出ロッド又は差圧ピストンの構造やキャップ及びマニホールドの構造等にも大きな変更を加える必要 - 7 -

があり, 当業者がそのような装置の複雑な改造を積極的に行ってまで, 検出ロッドに対して差圧ピストンの構造を適用することは考えにくい ( エ ) なお, 甲 5~7,11~18,20 は, 主となる付勢手段としてバネのような付勢部材を用いることしか示しておらず, 甲 4の二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンを位置検知の用途に転用することについては, 記載も示唆もしていないから, 甲 3 発明に甲 4に記載された事項を適用する動機付けを提示するものではない また, 往復動制御のための弁機構を位置検出弁として利用できることが周知であるとしても, 甲 4の二方パイロット弁が作業用ピストン21を反転動作させる制御のための弁機構であることに変わりはないから, 上記結論を左右するものではない ( オ ) さらに, 甲 8~10に記載された検知装置は, すべて, ピストンの位置が移動したことをリミットスイッチの押圧により検知するものであり, ピストンを通過する流体の圧力の変化を検出する型の検出装置ではない したがって, 甲 8~10に示されたような差圧ピストンを用いる検出装置が存在したからといって, 甲 3 発明の後退端エアセンサの検出ロッドの押圧手段として, バネに代えて甲 4に記載された差圧ピストンを利用することの動機付けとはならない ( カ ) 甲 3 発明の検出ロッドについて, バネにより押圧されて保持されることに何らかの課題があり, その課題を解決するため, 検出ロッドを流体圧力を用いて進出させることが周知であったとしても, 甲 4に記載された二方パイロット弁は, 作業用ピストン21を反転動作させる制御用のものであり, かつ, 使用する流体が共通のものである以上, 甲 3 発明の検出ロッドには組み合わせることはできない ウ小括以上のとおり, 本件訂正発明 1は, 甲 3 発明に甲 4に記載された事項及び従来周知の事項を適用することで, 当業者が容易に発明をすることができたものとはいえ - 8 -

ない 本件訂正発明 2~7は, 本件訂正発明 1を直接又は間接的に引用するものであって, 本件訂正発明 1で特定された事項を全て含み, 更なる限定事項を付加したものであるから, 本件訂正発明 1と同様に, 甲 3 発明に甲 4に記載された事項及び従来周知の事項を適用することで, 当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない 第 3 原告主張の審決取消事由 ( 相違点 2の判断の誤り ) 1(1) 相違点 2は, 本件訂正発明 1では, 弁体を 油圧 ( 油圧導入室及び油圧導入路 ) で出力部材側に進出させた状態に保持するのに対し, 甲 3 発明では, 弁体 ( 検出ロッド ) を バネ力 で出力部材側に進出させた状態に保持しているという相違である 甲 4には, 図 10で示す バネ力 で弁体を進出させる構成が記載されているが, この構成を, 図 11で示す 油圧 により弁体を進出させる構成に置き換えることができる旨説明されており, バネ力を油圧に置き換える という技術事項 ( 以下 甲 4 技術事項 という ) が開示されている 甲 3 発明に適用することが容易かどうかを検討されるべき甲 4 技術事項は, スライド弁 ( 検出ロッド ) を出力部材側に進出させた状態に保持する力を バネから油圧に置き換える という技術事項であり, 甲 4に記載された装置や部材の技術事項ではない 甲 3 発明も, 甲 4のピストンドライブに係る発明も, いずれも弁機構によって開閉される流路の圧力変化により, シリンダ以外の機器 ( 圧力センサ, 三方弁 ) を作動させる油圧装置に係る分野の発明であり, 甲 3 発明の 検出ロッド も, 甲 4の 二方パイロット弁 もピストンの位置を検知する機能で共通する したがって, 甲 3 発明に甲 4 技術事項を適用する動機付けがある (2) 副引用発明は, 相違点に対応する発明が記載されているか否かが問題となるのであるから, 副引用発明に相違点とは関連しない事項を構成として取り込ん - 9 -

だ上, 主引用発明に副引用発明を適用することにより本件訂正発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断することは, 進歩性の判断手法として誤りである 被告の主張は, 副引用発明においても, 副引用発明に係る文献記載の全ての事項を考慮しなければならない旨の主張であり, 甲 4を副引用発明としてではなく, 主引用発明として取り扱うべき旨の主張であることから, 理由がない 2 本件審決の判断は, 甲 4 技術事項ではなく, 部材や装置の機能等の相違に基づき容易性の判断をしたという誤りがある また, 部材や装置の機能等の相違は, 甲 4 技術事項を適用することに支障がない ( 阻害要因もない ) のに, これを無視して判断した誤りがある (1) ア甲 4の 二方パイロット弁 は, 作業用ピストン21が反転位置 ( ストローク端 ) まで到達したことを検知し, この検知に基づき, 該ピストン21を反転動作させるよう三方弁の油圧を切り替える構成となっている 上左図で示すように作業用ピストン21が図中左方に移動し, 右上図の反転位置 ( ストローク端 ) まで到達すると, この到達を二方パイロット弁 100が検知して, 三方弁の油圧を切り替える 到達 を検知するとは, ピストン21の 位置 を検知していることになる 本件訂正発明 1や甲 3 発明における検知も, ピストンのストローク端への到達を検知することを, ピストンの位置を検知する としているからである - 10 -

したがって, 甲 4の 二方パイロット弁 も作業用ピストン21の位置を検知する機能を有しており, 本件審決の甲 4の二方パイロット弁は 作業用ピストン21 の位置を検知するセンサを構成するものではない との認定は誤っている そして, バネ力を油圧に換える との甲 4 技術事項は, 弁体 ( 検出ロッド ) を出力部材側に進出させた状態に保持する手段に係る技術事項である 甲 4の 二方パイロット弁 も, 甲 3 発明の 検出ロッド も, 出力部材側に進出された状態を保持する手段が必要な構成 ( 部材 ) であり, 甲 4の 二方パイロット弁 につき開示されている甲 4 技術事項を, 甲 3 発明の 検出ロッド に適用することに支障はない 検出ロッド を出力部材側に進出させた状態に保持する手段を, バネ から 油圧 に換えても, ピストンの後退端位置への到達を検知する機能を阻害することはない したがって, 両部材の機能 用途が異なることと, バネ力を油圧に換える という甲 4 技術事項の適用の可否は, 技術的にも法的にも関係がない イ用途 機能の共通性判断において, 甲 3 発明の 検出ロッド と甲 4 技術事項 ( 副引用発明 ) の間の共通性を検討せずに, 甲 4に記載の 二方パイロット弁に設けられた差圧ピストン との間で, 用途 機能の共通性を検討し, その結果用途 機能が異なるとした本件審決の判断は誤りである 甲 3 発明 ( 主引用発明 ) と, 甲 4 技術事項 ( 副引用発明 ) がいずれも 弁体 ( 検出ロッド ) を出力部材側に進出させた状態に保持する手段に係る技術的事項 との点において用途が共通し, いずれもピストンの位置を検知する機能を有するとの点において, その機能も共通するものである (2) ア装置の作動流体と制御用流体が異なる流体であっても, 検出ロッド や 二方パイロット弁 を出力部材側に進出させた状態に保持することには影響はなく, 使用流体が同一でなければならない理由はない 甲 4に接した当業者が, 甲 4 技術事項が作動流体と制御用流体が同一の場合にしか利用できない技術事項と認識することはない - 11 -

甲 4の装置が 油圧と空圧のような別種類の流体をそれぞれ使用 していないことは, 技術的にも法的にも関係がない イ バネ力を油圧力に置き換える という事項の適用に当たっては, 駆動流体に油圧が用いられていれば足りるのであり, 制御流体が駆動流体と同一であるか, それとも異なっているかは無関係である (3) ア本件訂正発明 1において, 具体的な油圧流体の経路やエア圧の経路の形状及びルート ( 取り回し ) は, クレームとして特定されていない 本件審決は, 甲 3 発明の 検出ロッド を, 甲 4 技術事項を開示した作業用流体及び制御用流体ともに油圧流体を使用する構造の 差圧ピストン ( 二方パイロット弁 100,101) に置換することは, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成につき, 種々の複雑な変更を加える必要があるなどと判示するが, この判示は, 発明という技術的思想 ( 無体物 ) を前提とした論理ではなく, 具体的な製品製造レベル ( 有体物 ) を前提とした論理であって, 進歩性の判断としては根拠にならない論理である イ当業者は, 材料の選択, 設計変更等の通常の創作能力を発揮できる 者である そして, 圧力流体の経路及びエア圧の配置構成は, 製品の設計に合わせて当業者が適宜選択する典型的な設計事項である それゆえ, 本件訂正発明においても, エア通路 及び 油圧導入路 の経路は一切特定されていない 仮に, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について, 種々の複雑な変更を加える必要があることは明らかであり ( ), 実際の適用に困難が伴うものと認められる ( 本件審決 25 頁 3 行 ~6 行 ) のであれば, 本件訂正発明においても エア通路 及び 油圧導入路 の経路が特定されていない以上, サポート要件違反 ( 特許法 36 条 6 項 1 号 ) の無効理由を有することとなる すなわち, 当業者が実施できるのは明細書の実施例及び図面に記載の エア通路 及び 油圧導入路 の範囲に限られるのにもかかわらず, これを特定しない広い範 - 12 -

囲で本件訂正発明の特許請求の範囲を規定していることから, 明細書及び図面にサポートされない範囲を含む発明となっていることになる そして, 当業者であれば, 容易に二つの構成が思い浮かぶ どうして 実際の適用に困難が伴う のか, 当業者には理解できない認定であるといわざるを得ない (4) 以上のとおり, 相違点 2は, 当業者が容易に想到する事項であり, 本件審決は, 相違点 2の判断を誤ったものであって, この誤りは結論に影響を及ぼす 第 4 被告の主張 1 特許法 29 条 2 項は, 同条 1 項各号に掲げる 発明 に基づいて出願に係る発明を容易にすることができたかどうかを進歩性判断の基準として規定しており, 甲 4に記載された発明 ( 以下 甲 4 発明 という ) の前提となるべき必須の構成を無視した上で特定の事項を都合よく抜き出して認定することは許されない 甲 4 発明は, 四方弁 36のピストン45に作用する制御流体と, ピストン21に作用する駆動流体とについて, 圧力配管 39から流入する加圧油を共通して用いることによって, ピストン21とピストン45とに同じ圧力 (P) を作用させるというものであるから, 加圧油を共通のものとすることは甲 4 発明の目的を達成することに必須の構成である 原告の主張は, 甲 4 発明における必須の構成を無視した上で都合のよい記載を無理やり抜き出そうとするものであり, 失当である 2 加圧エア ( エア通路 ) と 油圧 ( 油圧導入室 ) という2 種類の媒体を一つの 開閉弁機構 に導入することは, 制御流体 と 駆動流体 とを共通のものとするという甲 4 発明の必須の構成に矛盾するものであるから, 甲 3 発明に甲 4 事項を適用して本件訂正発明を得ることに対する阻害要因が存在し, これを当業者が容易に想到し得たとはいえない 甲 3 発明の 検出ロッド は, エアキャッチセンサでエア圧を測定することでピストンの後退端位置への到達を検知する機構に用いられるのに対し, 甲 4の 二方パイロット弁 は, 作業用ピストン21を反転させる三方弁の切り換えスイッチの - 13 -

役割を果たすものであり, 両者の具体的な用途 機能は明確に異なる 甲 3 発明の 検出ロッド を, 甲 4 技術事項を開示した作業用流体及び制御用流体ともに油圧流体を使用する構造の 差圧ピストン ( 二方パイロット弁 100,1 01) に置換することは, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成につき, 種々の複雑な変更を加える必要があり, 実際の適用には困難が伴うものであるから, 当業者が容易に想到し得たものではない 第 5 当裁判所の判断 1 本件訂正発明 (1) 本件訂正発明は, 前記第 2の2 記載のとおりであるところ, 本件訂正明細書 ( 甲 2) には, 以下の記載がある 技術分野 0001 本発明は, 特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に, 出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切換えエア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダにおける位置検出装置に関する 発明が解決しようとする課題 0007 特許文献 1( 判決注 : 特開 2001-87991 号公報 ) のクランプ装置では, 流体圧シリンダのピストン部材から操作ロッドを外部に突出させ, その操作ロッドの下端部に設けた被検出部の上昇位置と下降位置を2つの位置センサで検出するため, 流体圧シリンダの下側に被検出部の移動と位置センサの設置のための検出スペースが必要となるため, クランプ装置 ( つまり, 流体圧シリンダ ) が大型化するという問題がある 0008-14 -

特許文献 2( 判決注 : 特開 2003-305626 号公報 ) のクランプ装置においては, 出力ロッドの上昇位置と下降位置とを検出する機構をクランプ本体の外側に構成する そのため, 特許文献 1のクランプ装置と同様に, クランプ本体の外部に検出スペースが必要となるから, クランプ装置をコンパクトに構成することができない しかも, エア通路を開閉する検出具を検出孔に対して摺動自在に移動させる構造であるため, 長期間使用した場合にエア通路を閉止する性能が低下する虞がある 0009 特許文献 3( 判決注 : 特開 2009-125821 号公報 ) のクランプ装置のワーク受け台のエア噴出口は, アンクランプ状態のとき, クランプ装置やクランプ対象物の近傍部に開口しているので, 機械加工の切粉やクーラント ( 切削液 ) がエア噴出口に侵入して塞いでしまう虞がある 0010 本発明の目的は, 出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能な位置検出装置を提供すること, 出力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る位置検出装置を提供することである 課題を解決するための手段 0011 請求項 1の位置検出装置は, シリンダ本体と, このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と, この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出装置であって, 前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に連通したエア通路と, このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え, 前記開閉弁機構は, 前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁体と, 前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持 - 15 -

する油圧導入室と, 前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路とを備え, 前記出力部材が所定の位置に達したときに, 前記出力部材により前記弁体を移動させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え, 前記エア通路のエア圧を介して前記出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位置検出装置 発明の効果 0018 請求項 1の位置検出装置によれば, シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁機構を設け, この開閉弁機構は, 弁体と油圧導入室と油圧導入路とを備え, 弁体をシリンダ本体に形成した装着孔に組み込むことで, 開閉弁機構をシリンダ本体内に組み込むことができるため, 油圧シリンダを小型化することができる 0019 前記油圧シリンダの油室の油圧を, 開閉弁機構の油圧導入室に油圧導入路を介して導入可能に構成し, 出力部材が所定の位置に達しない状態では, 油室の油圧を利用して弁体を油室側に突出した状態に保持することができ, 開閉弁機構の開閉状態を保持することができる 油室の油圧を利用して弁体を付勢するため, 信頼性と耐久性の面で有利である 0020 出力部材が所定の位置に達したとき, 出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り換えるため, 前記エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知可能である 0059 この油圧シリンダ1によれば, クランプ本体 10 内のエア通路 21,22を開閉する第 1, 第 2 開閉弁機構 30,50 を, シリンダ本体 10に形成した装着孔 36, - 16 -

56に組み込むことで, 第 1, 第 2 開閉弁機構 30,50をクランプ本体 10 内に組み込むことができるため, 出力部材 4の上昇限界位置と下降限界位置を検出可能な油圧シリンダ1を小型化することができる 0060 第 1 開閉弁機構 30では, クランプ油室 14 内の油圧を油圧導入室 33に導入し, その油圧を弁体 31に作用させて, 弁体 31を出力部材 4 側へ突出状態に保持できるため, 信頼性と耐久性の面で有利である 第 2 開閉弁機構についても同様である 出力部材 4が所定の位置に達したときに, 出力部材 4により弁体 31,51を移動させて第 1, 第 2 開閉弁機構 30,50の開閉状態を切換えるため, エア通路 2 1,22 のエア圧を介して出力部材 4の所定の位置を確実に検知することができる (2) 以上の記載によると, 本件訂正発明 1について, 以下のとおり認められる ア本件訂正発明 1は, 出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達した際に, 出力部材の動作に連動させて, シリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉弁機構により切り換え, エア圧の変化を介して出力部材の位置を検知可能にした流体圧シリンダにおける位置検出装置に関するものである ( 0001 ) イ本件訂正発明 1は,1 出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通路のエア圧の圧力変化を介することによって確実に検知可能にし,2 検出スペースをクランプ本体の外部に別途設けないことによって装置の小型化を可能にし,3 長期間の使用によりエア通路を閉止する性能が低下しないようにするとともに, 加工条件によってエア通路が閉止されないようにして, 信頼性や耐久性を向上させることを目的として, 請求項 1の構成を採用したものである ( 0007 ~ 0011 ) ウ本件訂正発明 1によると,1 出力部材が所定の位置に達したとき, 出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り換える - 17 -

ため, エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知することができる ( 0020, 0060 ) また, 本件訂正発明 1によると,2 開閉弁機構をシリンダ本体内のエア通路を開閉するものとし, シリンダ本体に形成した装着孔に弁体を組み込むことで, 開閉弁機構全体をシリンダ本体内に組み込むことができるため, 油圧シリンダを小型化することができる ( 0018, 0059 ) さらに, 本件訂正発明 1によると,3 油圧シリンダの油室の油圧を, 開閉弁機構の油圧導入室に油圧導入路を介して導入可能に構成し, その油室の油圧を利用して弁体を油室側に突出した状態に保持することができるため, 信頼性と耐久性を向上させることができる ( 0019, 0060 ) そして, 本件訂正発明 1において出力部材の位置検知が行われる仕組みは, 油圧シリンダ本体内に形成されたエア通路の一端部に加圧エアが供給され, 他端部が外界に連通しており, このエア通路を, 油圧シリンダの油室の油圧によって弁体を突出した状態に保持することができる開閉弁機構が開閉可能にしていることから, 出力部材が所定の位置に達したときに開閉弁機構の弁体を移動させて, 開閉弁機構の開閉状態を切り換え, それに伴いエア通路の外界への連通が遮られて, エア通路のエア圧が上昇するため, このエア圧の上昇を検知することによって出力部材が所定の位置に達したことを検知するものであると認められる 2 甲 3 発明甲 3の1~3, 甲 3の4, 甲 3の4の2によると, 株式会社コスメック製 LL -RM/RN リニアシリンダ が, 本件特許の原出願日 ( 平成 23 年 10 月 7 日 ) より前に製作販売され, 公然実施されていたことが認められるところ, 当該シリンダに係る発明 ( 甲 3 発明 ) は, 前記第 2の3(1) のとおりであると認められる 3 対比本件訂正発明 1と甲 3 発明の相違点は, 前記第 2の3(2) のとおりであると認め - 18 -

られる 4 相違点 2の判断について ( 取消事由 ) (1) 甲 4に記載された事項ア甲 4には, 以下の記載がある ( ア ) 本発明は, 往復する流体圧装置の改良に関し, 詳しくいえば, 油圧または空圧で連続的に往復移動されるピストンドライブに関し, 特には, 行程端位置での低圧ピストンの移動によって制御圧力を反転させる複動ブースタに関する 本発明は, 圧力ブースタに限定されるものではなく, 油圧または空圧で駆動される作動器にも適用できるが, 以下の記述では, 主として複動式の圧力ブースタに限定して説明する (1 頁 9 行 ~22 行 ) ( イ ) 構造例に示された連続動作ピストンドライブは, 油圧複動式の圧力ブースタであって, 図 1に示すように, 次のように構成される 低圧シリンダ20 は, 往復するメイン又は作業ピストン21によって分割された作業空間またはメインシリンダ空間 22 及び23を備え, 高圧シリンダ24,25 が設けられると共に, この実施例ではモータ駆動におけるピストンロッドの役割を果たす高圧ピストン2 6,27が設けられる 高圧流体は, 逆止弁 28,29と配管 30,31とを交互に通って消費ポイントに供給される 高圧ピストン26,27は, 戻りストローク中に, 配管 34,35 内の逆止弁 3 2,33を介して圧力媒体を吸い込む 上記配管 34,35は,1つの四方弁 36 ( 図 1,2,4,5) 又は二つの三方弁 37,38( 図 9,12,13,15) によって, 圧力流体配管 39と回収容器 41へ延びる戻し配管 40とに, 交互に接続される 低圧シリンダ20の前記メインシリンダ空間 22,23は, 分岐または供給管 42,43を通って, 圧力配管 39と戻し配管 40とに, 交互に接続される この点は, 全ての回路図で同様である さらに, これらの回路図の全てにおいて, 上記の種々の空間の状態は, 参照文字 p 又は o によって示され, それらが正圧力 p 又は零圧力 o であることを示している (3 頁 26 行 ~55 行 ) - 19 -

( ウ ) これは, 連通部 98,99( 図 9) によって確保される エンドポジションへ到達する直前における圧カブースタの反転動作は, 以下のように開始される (a) 2つの三方弁 37,38のうちの一方の三方弁の制御室からの圧力の放出 (b) 上記 2つの三方弁のうちの一方の三方弁の上記制御室への圧力の付与まず, 上記 (a) 項の条件下で如何に動作し得るかを図 9の回路で説明する 上記の作業用ピストン21が左方ヘストロークしているときには, 三方弁 38の制御室 96 及び管路 94,99,43に圧力が無いのに対して, 三方弁 37の制御室 9 6には管路 93,98,42を介して圧力 p が付与されている 連携された2 つの二方パイロット弁 100,101は, 上記ストローク中にバネの押す力で閉じられたままであり, 管路 98,99が前記の制御室を低圧シリンダ20へ延びる分岐路 42,43へ接続するので, 上記の管路 98,99が上記の圧力状態を確実に保持する 上記の作業ピストン21の左端位置における反転動作は, 前記パイロット弁 10 0の機械的な操作によってなされ, これにより, 前記三方弁 37の制御室が圧抜きされると共に作業室 23が圧力 p を受け入れる これと同時に, 前記三方弁 3 8の制御室に管路 99を介して圧力が付与され, これにより, その弁が切換えられると共に作業室 22が圧抜きされる 上記移動の反転後, 前記パイロット弁 100 がバネの圧力によって休止位置へ復帰されるが, 制御管路 98は, 前記三方弁 37 の制御室が次の反転までは圧力を受けないようしている 前記の二方パイロット弁 100,101は, 図 10に示すように, バネの押し力が, ピストンの反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい 上記バネの押し力に代えて, 図 11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能である (5 頁 47 行 ~97 行 ) ( エ ) 図 1,9~11-20 -

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イ以上によると, 甲 4には, 図 10に示されたバネの圧力により, パイロット弁 100が休止位置に復帰されること, バネの押し力がピストンの反対側に作用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよいこと, バネの押し力に代えて, 図 11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能であることが記載されていると認められる (2) 容易想到性の判断ア甲 3 発明において, 空気の圧力変化をエアキャッチセンサにより検知することによりピストンの動作確認を行うとともに, 検出ロッドを, バネによる押圧力に代えて, 油圧により, ピストン側に進出させた状態に保持するためには, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について, 複雑な変更を加える必要があり, それに伴い, 検出ロッド, キャップ, マニホールドの構造等についても, 変更を加える必要があると解されるから, 当業者が, 甲 4に記載された事項を甲 3 発明と組み合わせて前記相違点 2に係る本件訂正発明 1の構成にすることを動機付けられるとは認められない イ甲 4の図 10 及び11においては, いずれも, 流体の流入口は一箇所のみであり, 流出口は, 図 10では一箇所, 図 11では二箇所であるが, 一つの回路に集約されることが記載されている 甲 3 発明において, 検出ロッドにつき, バネによる押圧に代えて, 油圧による押圧を可能とするためには, 空気圧の変化をエアキャッチセンサにより検知するためのエア通路とは別に, エア通路とは連通しない検出ロッドの押圧のための油通路を設けなければならないことになるが, 甲 4には, このように2 種類の流体の通路を設置することについての記載はない むしろ, 甲 4では, 四方弁 36 又は三方弁 37,38とピストン21に作用する駆動流体について, 圧力配管 39から流入する加圧油を共通して用いることによって, 双方に同じ圧力を作用させるというものであるから, 加圧油を共通のものとすることは, 甲 4に記載された目的を達成するために必須の構成である そうすると, 甲 4に記載された事項を甲 3 発明と組み合わせて前記相違点 2に係 - 22 -

る本件訂正発明 1の構成にすることの動機付けはない ウしたがって, 当業者が甲 3 発明及び甲 4に記載された事項に基づいて本件訂正発明 1を容易に想到することができたとは認められない 5 原告の主張について (1) 原告は, 甲 4には, 甲 4 技術事項が記載されており, 甲 3 発明及び甲 4 技術事項は, いずれも弁機構によって開閉される流路の圧力変化により, シリンダ以外の機器を作動させる油圧装置に関する分野の発明であり, 甲 3 発明の 検出ロッド と甲 4の 二方パイロット弁 はピストンの位置を検知する機能で共通するから, 甲 3 発明に甲 4 技術事項を適用する動機付けがある旨主張する しかし, 甲 3 発明と甲 4に記載された事項を組み合わせて本件訂正発明 1に至る動機付けがあるかを判断するに当たっては, それぞれの発明, 技術的事項の具体的な構成に照らしてそれらを組み合わせる動機付けがあるかどうかを判断すべきであり, 原告が主張する甲 4 技術事項というような抽象的なレベルにおける技術分野や機能の同一性のみに基づいて動機付けがあると判断することはできない (2) ア原告は,1 本件審決は, 甲 4 技術事項を適用することに支障がなく, 阻害要因がないのに, 甲 4 技術事項ではなく, 部材や装置の機能等の相違に基づき, 容易性を判断したという誤りがある,2 甲 4の 二方パイロット弁 は, 本件訂正発明 1や甲 3 発明と同様に, 作業用ピストン21の位置を検知する機能を有しており, また, 甲 4の 二方パイロット弁 も, 甲 3 発明の 検出ロッド も, 出力部材側に進出した状態を保持する手段が必要な部材であり, 上記保持する手段をバネから油圧に換えても, 上記機能を阻害することはなく, 甲 4の 二方パイロット弁 と甲 3 発明の 検出ロッド の機能 用途が異なることと, 甲 4 技術事項の適用の可否は関係がない旨主張する しかし, 前記 (1) のとおりであって, 原告の上記主張の前提となる判断枠組みを採用することはできないから, 原告の上記主張は, 前記 4の認定を左右しない イ原告は, 装置の作動流体と制御用流体が異なる流体であっても, 検出ロ - 23 -

ッド や 二方パイロット弁 を出力部材側に進出させた状態に保持することには影響はなく, 使用流体が同一でなければならない理由はない旨主張する しかし, 前記 4(2) イのとおり, 甲 4において作動流体と制御流体が同一であることは, 必須の構成であって, 当業者が, 甲 3 発明に甲 4に記載された技術的事項を組み合わせて本件訂正発明 1を想到するということはできない (3) 原告は, 本件訂正発明 1において, 具体的な油圧流体の経路やエア圧の経路の形状及びルート ( 取り回し ) は, クレームとして特定されていないところ, 本件審決は, 発明という技術的思想 ( 無体物 ) を前提とした論理ではなく, 具体的な製品製造レベル ( 有体物 ) を前提とした論理であって, 進歩性の判断としては, 根拠にならない論理である旨主張する しかし, 甲 3 発明における検出ロッドを押圧する駆動機構をバネから油圧に置き換えるために, 甲 4の図 11の構成を単純に適用すると, 甲 3 発明における空気圧の変化をエアキャッチセンサにより検知するためのエア通路も, 油通路となり, 本件訂正発明 1の構成にならないから, 甲 3 発明における検出ロッドを押圧する駆動機構をバネから油圧に置き換え, かつ, 甲 3 発明におけるエア通路をそのままにしようとすると, エア通路とは連通しない検出ロッドの押圧のための油通路を設けなければならず, そのために, 油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について, 複雑な変更を加える必要があり, それに伴い, 検出ロッド, キャップ, マニホールドの構造等についても変更を加える必要がある これは, 甲 3 発明と甲 4とでは単にバネと油圧という違いがあるだけではなく, 本件訂正発明 1の構成要件にエア通路と油圧導入路として含まれている経路の構成についての技術的思想が異なることを述べたものであって, そのような点は, 容易想到性の判断に当たって考慮することができるというべきである このことは, 本件訂正発明 1が具体的な油圧流体の経路やエア圧の経路の形状及びルートを特定していないとしても左右されるものではなく, また, 上記の点を考慮することは, 本件訂正発明 1についてサポート要件違反があるかどうかとは関係がないというべきである - 24 -

したがって, 原告の上記主張は, 採用することができない 第 6 結論以上によると, 原告の取消事由には理由がない よって, 主文のとおり判決する 知的財産高等裁判所第 2 部 裁判長裁判官 森義之 裁判官 森岡礼子 裁判官 古庄研 - 25 -