維持期におけるイヌ用手作り食の 栄養学的な問題とその解消 清水いと世 第 1 章緒論総合栄養食は 毎日の主要な食事として給与することを目的とし 当該ペットフード及び水のみで指定された成長段階における健康を維持できるような栄養的にバランスのとれたもの とされており 国内のイヌ用の総合栄養食の品質規格と

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栄養表示に関する調査会参考資料①



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保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用













経管栄養食 アイソカル RTU アイソカルプラス EX ネスレヘルスサイエンス ネスレヘルスサイエンス 1.0kcal/ml の流動食さらにやさしく より確かな安全を 1.5kcal/ml の高濃度流動食 アルギニン配合 アイソカルプラス アイソカル 1K ネスレヘルスサイエンス ネスレヘルスサイエ












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熊 本 大 学 学 術 リポジトリ Kumamoto University Repositor Title プロスタシンを 中 心 としたNa 再 吸 収 血 圧 調 節 の 分 子 基 盤 の 解 明 Author(s) 脇 田, 直 樹 Citation Issue date


2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取
























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Title 維持期におけるイヌ用手作り食の栄養学的な問題とその解消 ( Digest_ 要約 ) Author(s) 清水, いと世 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2017-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20 学位規則第 9 条第 2 項により要約公開 ; 既掲載または掲載決 Right 定部分に関しては 過去の実績から リポジトリーへの登録に関して制限はないことは明らかだが 現在投稿中の部分に関しては掲載が決まってないため不明 Type Thesis or Dissertation Textversion none Kyoto University

維持期におけるイヌ用手作り食の 栄養学的な問題とその解消 清水いと世 第 1 章緒論総合栄養食は 毎日の主要な食事として給与することを目的とし 当該ペットフード及び水のみで指定された成長段階における健康を維持できるような栄養的にバランスのとれたもの とされており 国内のイヌ用の総合栄養食の品質規格としては AAFCO 養分基準 ( 1997) が採用されている 健康なイヌの食餌には総合栄養食が推奨され 疾患時には市販の療法食が処方されることが多い しかし イヌの市販フードに対する嗜好性やアレルギーの問題があり また 飼い主の市販フードに対する不安や不信 飼いイヌに対して自ら食餌を作りたいという欲求により 手作り食による食餌の調製が必要になることがある 一方 多くの手作り食は栄養素を充足していないことが海外より報告されている 海外と日本国内では用いる食材は異なることが予想されるが 国内における調査は行われていなかった なお AAFCO 養分基準は 2016 年に大きく改訂された 本論文では 飼い主への調査と成書から収集したレシピの栄養素含量を 食品成分表等のデータベースを用いて求めた 次いで AAFCO 養分基準 ( 2016) と比較することにより 手作り食に含まれる栄養素の過不足を検討した さらに 手作り食における栄養素の不足解消法として推奨されているレシピのローテーションならびにレシピに用いる食材の数および種類の増加の有効性を検討した 海外からの報告では 栄養基準を満たすように手作り食を作成することは難しいことが指摘されており その解消のためのレシピは 国内では入手困 1

難な食材やサプリメントを用いていることが多い また 飼い主の中には添加物への不安から サプリメントの使用を好まない場合もある さらに 国内では手作り食をはじめとする栄養を指導できる専門家が少ないという問題がある そこで 動物病院で獣医師やペット栄養管理士が飼い主に指導を行いやすく 国内で入手が可能な食材を用い できる限りサプリメントを使用せずに AAFCO 養分基準 ( 2016) を満たす維持期用手作り食のレシピ設計および総合栄養食の品質基準である AAFCO 養分基準 ( 1997) を満たす維持期用手作り食のレシピ設計法を検討した 第 2 章国内の手作り食のレシピ調査手作り食を実施したことのある飼い主と成書よりレシピを収集し AAFCO 養分基準 ( 2016) と比較して手作り食の栄養素の過不足の調査および不足しがちな栄養素の充足に貢献した食材の解析を行った また 不足解消に推奨されているレシピのローテーション 食材数や食材種の増加の妥当性を検証した ニワトリの骨や鶏卵殻は カルシウム源として成書により推奨され 収集したレシピにも用いられているが 食品成分表等にはその成分値は掲載されていないため これらの成分分析を行った その結果 これらは カルシウム源として有効利用できることが確認できた 収集したレシピにおいて すべての栄養素が充足していたものはなかった ほとんどのレシピで充足していた栄養素 ( 充足率の 25 パーセンタイル値が 100% 以上の栄養素 すなわち 75% 以上のレシピが充足している栄養素 ) は 粗タンパク質 各アミノ酸 粗脂肪 カリウム ナトリウム 塩素 マグネシウム パントテン酸 ナイアシン ピリドキシンおよび葉酸だった 一方 カルシウム カルシウム : リン 銅 亜鉛 ヨウ素 ビタミン A では不足し 2

ているレシピが多かった ( 充足率の 75 パーセンタイル値が 100% 未満の栄養素 すなわち 25% 以上のレシピが充足していない栄養素 ) 前述のように鶏卵殻はカルシウム源として利用可能である カルシウム含量が低くかつカルシウム : リンが低い場合には 特にカルシウム : リンが著しく小さい鶏卵殻が推奨できるが 鶏卵殻を用いたレシピにはカルシウム : リンが過剰となったものがあり 用いる量には注意が必要であった 銅 亜鉛 ビタミン A やビタミン B 12 などレシピ調査において不足が顕著であった栄養素の重要な供給源としてレバーは重要であった しかし 鶏レ バーの多用によってビタミン A が過剰となったレシピがあった ビタミン D の重要な供給源は 鮭やいわしなど魚類だったが これら魚類はビタミン D 過剰の唯一の原因であった ヨウ素源として寄与した食材は ひじきや昆布など海藻類だったが ヨウ素が過剰となったレシピでは昆布など海藻が用いられていた 不足しがちなカルシウム ヨウ素 ビタミン A ビタミン D などの補給のために 特定の食材を多量かつ長期間与えると 過剰の可能性が高まる したがって 手作り食のレシピを作製する上で レシピの各栄養素含量を把握することはきわめて重要である レシピ調査で認められたビタミン A ビタミン B 12 の不足は海外では報告されていない この相違の原因としては 食材の相違 参照した養分基準の相違 食品成分のデータベースの相違 あるいはレシピ中栄養素含量を算出する際のサプリメントの計上の有無による可能性がある また ヨウ素の充足は 海外の報告では検討されていない 飼い主レシピと成書レシピにおいて各栄養素が充足したレシピの割合で差があったのは塩素のみであり 過剰なレシピの割合では差は認められず 必須栄養素指数にも差は認められなかった 飼い主へのアンケート結果では 半数の飼い主が 手作り食の参考に成書を用いていることが明らかになって 3

おり これが 飼い主レシピと成書レシピで必須栄養素指数などに差がなかった一因であると考えられる ヒトにおける栄養指導法である 健康づくりのための食生活指針 (1985 年 ) と 6 つの基礎食品 の有効性を検証した 25 種の食材を用いたレシピでも不足する栄養素は少なくなかった 一方 わずか 3 種の食材の使用でも必須栄養素指数が高かったレシピも存在した したがって 単純に食材の数を増やすことでは レシピの栄養改善につながらないことが示された レシピに用いられていた基礎食品類の数は必須栄養素指数に影響を及ぼさなかった 基礎食品のすべての類の食材を毎日摂取することでは 栄養の改善につながらないことが示された レシピのローテーションを推奨している成書は多いが 特定の栄養素の著しい不足が多数のレシピで認められたので 栄養素含量を考慮しない手作り食のローテーションでは 栄養素の不足を解消することは困難であると考えられた 一方 手作り食のレシピを作成する際に 各栄養素含量を考慮した上でレシピをローテーションさせることは有効であると考えられる そのためにも 各レシピの栄養素含量を知ることは重要であり 長期的な栄養状態を管理する上で 獣医師やペット栄養管理士が手作り食を指導する場合に必要な手続きである 第 3 章イヌの維持期の AAFCO 養分基準 ( 2016) を満たすレシピ設計イヌの維持期の AAFCO 養分基準 ( 2016) を満たす手作り食のレシピ設計を行った 入手が容易な食材を用い 煩雑な食餌指導をより簡便にすることを優先したレシピ設計を試みた 第一に 一般家庭で頻繁に用いられており 日常的に飼い主の食事から取り分けることができる食材からなる基本食を想定した 基本食では タンパク質源 として精肉や魚 大豆食品等 また 4

エネルギーを供給するために 糖質源 として白米やいも等を用いた 飼い主が調製しやすいように タンパク質源 と 糖質源 を現物あたりで等量混合したものを基本食とした 次いで 基本食では不足することが多い微量栄養素を多く含む食材からなる補助食を設計した 補助食は内容 量ともに固定し 長期保存することを前提とした 基本食と補助食は ME あたりで等量となるように配合し これを推奨食とした 基本食では 粗タンパク質と必須アミノ酸は満たしている場合が多かった 一方 基本食の組み合わせ例すべてにおいて カルシウム 銅 ビタミン E は不足していた また 鉄 亜鉛 ヨウ素 ビタミン A リボフラビン ビタミン B 12 コリンも多くの基本食で不足していた 粗脂肪含量の少ない鱈を用いた基本食の組み合わせでは 粗脂肪も不足した 補助食の設計では 脂肪源とリノール酸源 としてとうもろこし油 鉄 銅 亜鉛 ビタミン A リボフラビン コリン源 として豚レバー カルシウム ナトリウム ビタミン D 源 として煮干し 銅 マンガン 亜鉛 ビタミン E チアミン源 として小麦胚芽 ヨウ素源 としてひじきを選択し カルシウム源とカルシウム : リン調整 のために鶏卵殻を用いた 補助食を用いることで イヌの維持期の AAFCO 養分基準 ( 2016) の最小値をほぼ満たす推奨食の設計ができた 基本食の タンパク質源 として鯵や白鮭を使用すると ビタミン D が AAFCO 養分基準 ( 2016) の最大値を超えた 一方 基本食は 日々の飼い主の食事から取り分けることができる食材を利用することを前提としているため 多様な食材を基本食に用いることが考えられる 鯵や白鮭など一部の食材のみを用いた基本食を長期間給与することはないと考えられるので これらによる過剰の問題は大きくないと考えられた 本章で設計した方法は 求めたイヌのエネルギー要求量の 50% ずつを基 5

本食と補助食から供給するものである この方法により 基本食である タンパク質源 と 糖質源 を日々の飼い主の食材からイヌ用に等量となるように取り分け 乾物品や冷凍品の形に調製した ME あたり定量の補助食を加えることで サプリメントを用いることなく AAFCO 養分基準 ( 2016) を満たすイヌの手作り食の作成が可能である しかし 基本食に用いる魚類に よるビタミン D 過剰の問題やおじや調理などによる低すぎるエネルギー密 度の問題の把握のために 獣医師やペット栄養管理士によるレシピや動物の 栄養状態の確認は必要である 第 4 章総合栄養食の品質基準を満たすレシピ設計現在の国内の総合栄養食の品質基準である AAFCO 養分基準 ( 1997) を満たすイヌの維持期の手作り食のレシピ設計を行った 第 3 章同様に 入手が容易な食材を用い 食餌指導をより簡便にすることを優先したレシピ設計を試みた 第一に 一般家庭で頻繁に用いられており 日常的に飼い主の食事から取り分けることができる食材からなる基本食を想定し タンパク質源 と 糖質源 を現物あたりで等量混合することとした 次いで 基本食では不足することが多い微量栄養素を多く含む食材からなる補助食を設計した ほとんどの基本食では 粗タンパク質と必須アミノ酸の最小値を満たしていた 一方 基本食のみでは カルシウム リン 鉄 銅 亜鉛 ヨウ素 ビタミン A ビタミン E は不足し リノール酸 コリン カリウム マンガン セレン ビタミン D ビタミン B 12 も不足する場合が多かった そこで これら栄養素を補うために 補助食を設計した 補助食の設計では リノール酸源 としてとうもろこし油 鉄とコリン源 として鶏のレバー カルシウムとリン源 として煮干し マンガン源 としてアオサ ヨウ素源 として真昆布を選択した 補助食の利用により リノール酸 リン 鉄 マ 6

ンガン ヨウ素 コリンなどの基準を満たすことができた しかし ビタミン E カルシウム 銅 亜鉛はまだ充足していないレシピが多かった これらを補うために 総合ビタミン ミネラル剤 カルシウム剤 亜鉛剤を加えることによって ほとんどの栄養素が AAFCO 養分基準の最小値を満たす推奨食が設計できた 第 3 章同様に 選択する基本食の食材によっては過剰や不足を生じた しかし 基本食は毎日変化するため 基本食に起因する過剰や不足の問題は大きくないと考えられた 一方 補助食は毎日給与するため 過剰には注意が必要である 補助食の鉄源として鶏のレバーを用いたが 鶏のレバーはビタミン A も多い その結果 全体的にビタミン A 含量は AAFCO 養分基準の最大値を超えてはいないが 高値となった イヌのビタミン A への耐性は高いとされてはいるが ビタミン A 過剰の問題が懸念される 今回の方法は まずイヌのエネルギー要求量を算出し そこから基本食と補助食の ME 比を 2 対 1 となるように食材を決定する この方法により 基本食である タンパク質源 と 糖質源 を日々の飼い主の食材からイヌ用に取り分け 組成を固定した ME あたり一定量の補助食とサプリメントを追加することにより 総合栄養食の品質基準を満たすイヌの手作り食の作成が可能となった 7