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異種材料接合の基礎と応用 Current Situation and Issues of Dissimilar Materials Joining Technology 中田一博 * * 大阪大学接合科学研究所 ( 567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘 11-1) * Osaka University, Joining and Welding Research Institute (11-1 Mihogaoka, Ibaraki, Osaka 567-0047, Japan) E-mail: nakata@jwri.osaka-u.ac.jp Al 合金と鉄鋼材料などの異なる金属材料の溶接 接合及び金属と樹脂 CFRP との異種材料接合の基礎と, 各種溶接 接合プロセスによる代表的な異種材料接合の組合せについて, その現状を紹介する. Fundamentals of dissimilar materials joining technology of different metals such as Al alloy and steel, and metal and plastic or CFRP were explained and typical dissimilar materials joints made with different joining processes were introduced in comparison with feature and issue. Key words: dissimilar materials joining, joining process, metal, plastic, CFRP, joining mechanism 1. マルチマテリアルと異種材料接合技術燃費向上のための自動車車体の軽量化が急務となっている. 車体の軽量化の方法として, 高張力鋼による薄板構造, 軽量金属である Al 合金や Mg 合金の使用, さらに, より軽量化が期待できる樹脂や炭素繊維強化複合材料 (CFRP) の利用などがある. しかし材料コストと製造コストを考慮すると, もはや単独材料での車体軽量化は実用的には困難な状況である. このために, 材料特性を生かして組合せる マルチマテリアル化 の考え方 (1) が注目され, その実用化のために, 鉄鋼と Al 合金や Mg 合金との異種金属接合や, まったく材料構造が異なる金属と樹脂 CFRP との接合が必要とされている (2,3). 汎用的な溶融溶接法であるアーク溶接や抵抗スポット溶接では適用は困難であり, 接着や機械的締結などの間接的な接合法と共に, 新たな直接的な接合法を含めた異種材料接合技術が求められている. 2. 異種材料接合技術の現状表 1 は, 異種材料接合の材料組合せにおける実用化の程度を俯瞰的に分類したものである. すなわち, 既に技術的に確立されて多くの構造物に実用化されているものを第 1 世代とすると, 同種金属を基とした合金同士の組合せがこれに該当する. 炭素鋼や合金鋼などの鉄鋼材料同士の組合せなどである. 一方, 金属 / 金属であっても, 異種金属間の組合せには, 鉄 / アルミニウムや鉄 / チタンなどの接合が難しい組合せが多く, 第 2 世代に分類される. 一方, 金属 / 樹脂 ( 高分子材料 )/ セラミックス間の接合のように材料構造 分子構造そのものが根 表 1 材料組合せによる異種材料接合技術の進展度 本的に異なる材料間の異種材料接合は第 3 世代となる. 例えば金属 /CFRP との接合などがこれに該当し, 革新的な接合技術の開発が期待されている. 表 2 は, 異種材料接合の組合せと接合プロセスの適用性を概念的に取りまとめたものである. すなわち, 第 1 世代では, 表示したすべての接合法で接合が可能である. 第 2 世代の異種金属の組合せでは, 後述するように金属間化合物を形成しやすい組合せでは, 一般的な溶融溶接法や固相接合法の適用は難しい. しかし,FSW では適用の可能性は高くなる. 第 3 世代の金属 / 樹脂 CFRP では, 金属 / 金属の組 表 2 各種異種材料の組合せに対する接合プロセスの適用可能性

合せで適用される溶融溶接法, ろう接法および固相接合法は基本的には困難であり, 接着法や機械的締結法が適用される. しかし, 後述するようにレーザ溶接や FSW を応用した特殊な接合手法により適用が可能である. 同じ第 3 世代の金属 / セラミックスの組合せでは, 適用可能な接合法はろう接法と接着法にほぼ限定される. 3. 金属材料における異種材料接合の可能性 3.1 第 1 世代 : 同種金属基材料間の接合鉄鋼同士の異種材料接合に代表されるように基本的には一般的な溶融溶接法 ( アーク溶接法 ) を用いて実用化されている. それぞれの組合せごとの溶接施工法はほぼ確立されているので, その溶接指示書に従った溶接施工を実施することが良好な溶接継手を得る上で重要である. 3.2 第 2 世代 : 異種金属間の接合 3.2.1 異種金属間の接合の難しさ同じ材料構造を有する金属材料同士でも接合が困難な組合せが多い. 例えば過去のアンケート調査 (4) でアルミニウムと鉄は最もニーズの多い金属材料同士の組合せであるが, その直接接合は, 硬くて, 脆い金属間化合物 IMC の形成のために不可能と考えられてきた. 異種金属接合の可能性を決めるこの金属間化合物 IMC の形成は, 基本的には接合相手の 2 つの金属からなる 2 元系平衡状態図 (5) から判断できる. 代表的な状態図を図 1 に示すが,Cu-Ni 系のように両金属がすべての組成で混ざり合って固溶体を形成する全率固溶体型の組合せや,Cu-Fe 系のように逆に混ざり合わない 2 相分離型の組合せでは,IMC は形成されず, 異種材料接合は比較的容易になる. 一方,Al-Fe 系や Al-Mg 系のように, ある組成範囲で硬くて脆い IMC を形成する組合せは接合が困難になる. 例えばレーザ溶接を対象にした異種材料接合の難易度が表 3 (6) のように示されている. 3.2.2 アルミニウムと鉄の組合せ (1) 直接接合が可能な接合界面構造第 2 世代の代表的な異種材料接合の組合せとして, 鉄鋼と Al 合金の組合せを例に取り, これまでに報告された検討結果に基づき, 接合プロセスとその可能性をまとめると表 4 (3) のようになる. 接合プロセスは例えば, 溶融現象や金属原子の拡散現象による高温反応型と, 材料の塑性流動現象などを利用する低温反応型に大別される. 高温反応型には, 溶融溶接, ろう接, 拡散接合などが該当する. 接合部は溶融状態や固相状態であっても元素拡散に十分な高温にさらされるために, 状態図に従った組織が接合部に形成される. したがって, 鉄鋼と Al 合金の組合せでは接合界面には必然的に Al-Fe 系 IMC 層が形成されるために, その厚さが継手強度の支配因子となる. すなわち, このような場合には,IMC 層の形成そのも のを抑制することは難しいが, その厚さを約 1μm 以下に制御することにより良好な継手が得られる可能性が高くなる. 一方, 低温反応型は, 材料の溶融を伴わずに塑性流動現象を利用する固相接合法であり, 加熱温度が低い為に元素拡散が十分に行われないが,Al 合金を軟化し, 圧力を加えて塑性流動させ, 鉄との接合界面に押し付けることで接合する方法である. 各種の圧接法や FSW 法 (7) によりこのような接合が可能であり, 接合界面の IMC 層の形成を抑制すると共に, 酸化物を主体とした nm レベルの層厚さの非晶質相が形成される場合もある. 以下に Al 合金と鉄鋼との組合せに関する代表的な接合例を紹介する.

(2) 高温反応型接合プロセスの適用例ろう接の一種であるブレーズ溶接 (8) は, 溶融溶接との中間的なプロセスであり, 継手形状の適用裕度も大きく, 可能性の高い代表的なプロセスである. 基本的には鉄鋼を溶かさずに,Al 合金母材とろう材である溶加材ワイヤのみを溶融する方法である. 例えば Al-Si フラックスコアードワイヤを用いたミグアークブレーズ溶接では, 鉄鋼母材と溶接金属との接合界面において,IMC 層の厚さが 1~3μm 以内であれば Al 合金母材破断となる良好な継手強度が得られ, さらに,IMC の種類が Fe-Al-Si3 元系 IMC の場合には Fe-Al2 元系 IMC と比べて, 層成長が抑制される傾向が示されている (9). 最近では, 図 2 に示すように, ろう材として,Al 合金及び鉄鋼の母材との濡れ性がいずれも良好で, かつ化合物も形成しにくい亜鉛に注目し, シリコンを添加した Zn-Si 合金ろう材ワイヤが試作され, さらにアーク溶接よりも入熱量が格段に少なく, かつ制御性に優れたレーザブレーズ溶接を適用することにより,IMC 層厚さを数十 nm 厚さに抑制することが可能であり, 接合継手の厳しい評価法であるピール破断試験においても Al 合金母材の熱影響部で破断する良好な Al 合金 / 鉄鋼材料の異種材料継手が得られている (10). (3) 低温反応型接合プロセスの適用例塑性流動現象を利用する代表的な低温反応型プロセスとして, 摩擦攪拌接合 FSW がある. 図 3 に示すようにツールを Al 合金側に挿入して回転ツールの接触により鉄鋼界面を清浄化し,Al 合金のみを塑性流動させて, そこに押しつける方法であり, ツールの回転方向等の接合条件の最適化により接合界面の金属間化合物層の形成は抑制され, 良好な接合強度が得られる. 突合せ継手 (11,12) や重ね継手 (13), 及び点接合継手 (FSSW,FSJ) (14) も可能である. このように FSW を異種材料接合に応用するアイデアは既に約十年前から提案されてきたものであるが, ようやく最近になって, 図 4 に示すように鉄鋼と Al 合金の FSW による直接接合がサブフレーム継手に適用され, 実用化技術となった (15-16). 4. 第 3 世代 : 異種材料間の接合 4.1 金属と樹脂 CFRP との接合法板やシート状に加工された樹脂 CFRP と金属との異種材料接合法として, 接着剤を用いる接着法, リベットなどの機械的締結法, 金属材料を加熱して樹脂を溶融して接合する熱圧着 ( 融着 ) 法などがあり, その特徴は表 5 のようになる. 最近では接着剤やリベット等を用いずに, 金属と樹脂等を直接接合する方法も求められており, 熱圧着法において, 新しい加熱源として, レーザ加熱や摩擦発熱を用いる方法が注目されている. 以下では, 熱圧着法の接合機構について, 摩擦発熱を用いる方法を例に取り, 説明する.

4.2 摩擦重ね接合法 (FLJ 法 ) における金属 / 樹脂 CFRP の直接接合機構図 5 に摩擦重ね接合法 (Friction Lap Joining, FLJ) 接合法の原理図を示す. 金属と樹脂を重ねて, 金属の表面に高速回転する棒状のツールを押し付けることにより, 摩擦発熱により金属表面を加熱し, その熱伝導により接合界面の樹脂を溶融する方法 17) であり, ツールを移動させることにより金属 / 樹脂の連続した重ね継手が得られ, 密着性に優れ, かつ, 引張せん断試験では樹脂母材破断を示す良好な継手強度が得られる. これまでに金属材料として Al 合金,Mg 合金, 炭素鋼, 銅およびチタンにおいて樹脂材料との接合が確認されている. FLJ 法は, その接合原理から熱可塑性樹脂に適用され, 熱硬化性樹脂への適用は困難である. さらに極性官能基を有しているポリアミド (PA) などの樹脂は良好な接合性を示すが, 極性官能基の無いポリエチレン (PE) などの樹脂の接合は困難である. 図 6 は, 極性官能基である COOH 基を有するエチレンアクリル酸コポリマー (EAA) と極性官能基を持たない PE の 2 種類の熱可塑性樹脂を用いた Al 合金との接合結果である 18).Al 合金の表面状態は, 受入材のままと, アルマイト皮膜処理材を比較検討した. 極性官能基を有する EAA 樹脂では,Al 合金の表面状態にかかわらず接合が可能であり, 継手が形成された. 一方, 極性官能基が無い PE 樹脂では, 受入材のままでは溶融した PE と Al 合金は接合されなかった. しかし, アルマイト皮膜処理材では接合が可能となり, 樹脂特性と金属表面状態の両方が関係することが分かる. 図 7 は接合界面の TEM 観察結果を示す. 極性官能基である COOH 基を有する EAA 樹脂では (a) に示すように Al 合金受入材表面に存在する数ナノ厚さの酸化アルミニウム層を介して接合されており, 反応層は認められなかった. 接合機構として図中に示すように, 分極した極性官能基と, 同様に分極していると考えられる酸化アルミニウム層との間で, 強い静電引力による分子間力 ( 水素結合 ) により接合されたと考えられる. 一方, 極性官能基のない PE の場合でも (b) に示すように多数の細孔があるアルマイト皮膜材では,(c) に示すようにナノサイズの細孔の中に溶融した PE 樹脂が流入して固まった形跡 ( 接合界面の破線で囲った部分 ) が認められ, いわゆるアンカー作用による機械的締結により接合されたことが示唆される 18). なお,PE 樹脂でもコロナ放電処理により樹脂表面に新たに極性官能基を付加することにより Al 合金受入材との FLJ 接合が可能となる. 軟鋼やステンレス鋼とポリアミド樹脂 PA との継手においても, 引張せん断試験では樹脂母材破断を呈する良好な接合継手が得られ, 数十 nm 厚さの酸化物層を介しての水素結合機構が示唆された 19,20). さらに FLJ 法は, 極性官能基を有する熱可塑性樹脂をマトリックス材料とする CFRP と金属との接合にも適用可能であり, 図 8 は,Al 合金 A5052 と, 熱可塑性樹脂であるポリアミド PA6 をマトリックス樹脂として, 射出成形により形成された短繊維 CFRP 板 ( 繊維径数 μm, 繊維長 200~300μm, 添加量 20 質量 %) との重ね継手の外観写真 ( 継手側面 ) であり, 接合条件の最適化により CFRP 母材破断や CFRP の一部母材破断を呈する良好な継手が得られている 19,21). 接合機構は, マトリックス樹脂と Al 合金表面の酸化皮膜 ( この場合は, 合金元素の Mg が酸化した MgO)

との間の水素結合によると考えられ, 炭素繊維が接合に寄与した形跡は認められていない. 一方, 更なる接合強度の向上のためには, 分子間力である水素結合力よりも強力な接合力が必要であり, その方法として, 例えばシランカップリング反応を利用した化学結合力による接合が挙げられる. 金属表面に塗布された反応剤が加熱処理により金属表面の酸化皮膜及び樹脂の両方と化学結合を起こすものである. 図 9 に示すように, シランカップリング処理を施した Al 合金と CFRP との継手は CFRP 母材破断を示し, 接合強度は接合界面破断を呈した水素結合力による継手強度の約 2 倍まで増加した 22). また, アンカー作用による機械的締結力を積極的に活用するために金属表面に特徴的な微小凹凸を形成するエッチング処理やレーザ処理も開発されてきている 2). 4.3 レーザエネルギーを利用した金属 / 樹脂 CFRP の直接接合レーザを用いる方法は古くからレーザ融着法として注目されており, 透光性を有する樹脂と金属を重ねて, 樹脂側からレーザビームを照射し, 透過したレーザビームで接合界面の金属表面を加熱し, 接触している樹脂を溶融して接合する方法が実用化されている. 例えば図 10 に示すように金属 SUS304 と樹脂 PET の重ね異材継手において,PET 母材破断を呈する良好な継手が得られており,LAMP 法 23) と名づけられている. この方法は非透光性の樹脂や CFRP にも適用可能であり, 金属側にレーザビームを照射し, 金属の熱伝導により接合界面に接触している樹脂を溶融して接合することが可能であり, 注目されている. 5. おわりに以上, マルチマテリアルに関わる異種材料接合の現状について, 最近の話題も含めて概略を紹介した. 詳しくは参考文献などを参照して頂きたい. 参考文献 (1) 例えば, BMW7 シリーズ, 骨格心材への CFRP 適用で 130kg 軽量化 日経テクノロジー online, (2015 年 10 月 12 日 ). (2) 異種材料接合, 何でもくっつける技術が設計を変える, 日経 BP 社,(2014 年 12 月 ). (3) 中田 : マルチマテリアル時代の接合技術, 産報ブックレット, 産報出版,(2016 年 4 月 ). (4) 中田ら : 異材溶接 接合のニーズと今後の技術開発の動向, 溶接学会誌,71-6 (2002) 418-421. (5)T.B. Massalski, Binary Alloy phase Diagrams, ASM International (1990). (6)Welding Handbook, Vol.2, 8 th edition. AWS (1991). (7) 溶接学会編 : 摩擦撹拌接合 -FSW のすべて -, 産報出版 (1996 年 1 月 ). (8) 中田 : アルミニウムと鉄のブレーズ溶接, 溶接技術,52-11(2004) 126-130. (9)T. Murakami et al:dissimilar Metal Joining of Aluminum to Steel by MIG Arc Brazing Using Flux Cored Wire, ISIJ Int., 43-10(2003) 1596-1602. (10) 脇坂ら : 亜鉛合金ワイヤによるアルミニウム合金と亜鉛めっき鋼板のレーザブレージング, 溶接学会論文集,30-3 (2012) 274-279.

(11) 岡村ら : 摩擦攪拌接合 (FSW) の開発状況と適用上の課題, 溶接学会誌,72-5 (2003) 436. (12) 福本ら : 摩擦攪拌作用による ADC12/SS400 材料間の接合, 溶接学会論文集,22-2(2004) 309. (13) 岡本ら : 摩擦攪拌接合 (FSW) による異種金属の接合, 軽金属溶接,42-2(2004) 49. (14) 田中ら : 摩擦撹拌点接合によるアルミニウム合金板と鋼板の異種金属接合, 軽金属,56-6(2006) 317-322. (15) 日経ものづくり : ホンダ, 鋼と Al 合金の接合技術を開発新型 アコード で量産化,No.10 (2012) 18-19. (16) 佐山 : サブフレームのスチールとアルミ合金の FSW 接合, 軽金属溶接,52-1(2014) 3-9. (17) 中田ら : 特許第 817140 号 (2015 年 10 月 9 日 ), 特願 2011-035001, 金属部材と樹脂部材との接合方法. (18) 岡田ら : 摩擦重ね接合によるアルミニウム合金と樹脂材料の直接接合特性に及ぼすアルマイト皮膜処理の影響, 軽金属溶接,53(2015), 298-306. (19)K.Nagatsuka et al: Friction Lap Joining of Thermoplastic Materials to Carbon Steel, ISIJ Int, 56(2016),1226-1231. (20) 三輪ら : 摩擦重ね接合によるステンレス鋼と炭素繊維強化熱可塑性樹脂との異材接合, 溶接学会論文集,35(2017),29-35. (21)K. Nagatsuka et al: Direct joining of carbon-fiber-reinforced plastic to an aluminum alloy using friction lap joining, Composites: Part B, 73(2015)82-88. (22) 永塚ら : 摩擦重ね接合によるアルミニウム合金と炭素繊維強化樹脂の異材接合特性に及ぼすシランカップリング処理の影響, 溶接学会論文集,33-4(2015) 317-325. (23) 川人ら : ステンレス鋼とポリエチレンテレフタレートとのレーザ直接接合と信頼性評価, 溶接学会論文集,28-1 (2010) 16-21.