技術知識 11 ディスタンスベクターとリンクステート ディスタンスベクターとは 噂話が好きな奥様達による伝言ゲームである リンクステートとは 同じカーナビをつけた走り屋の集団である... 私の先輩の格言より * * * ルーティングプロトコルの仕組みに

Similar documents
初めてのBFD

第1回 ネットワークとは

第11回ネットワークプランニング18(CS・荒井)

山添.pptx

第一回 輪講 ~インターネットルーティング入門~

presen1.pptx

学生実験

NetworkKogakuin12

Microsoft PowerPoint f-InternetOperation04.ppt

2.5 トランスポート層 147

ICND2-Road to ICND2- 前提知識 ICND 2では CCEN Tレベルの知識がある方 (ICND 1 試験の合格レベル ) を対象とし それ同等 の知識が必要になってきます 研修に参加されるまでに以下の項目を復習しておくことを お勧めします IP アドレスとサブネットマスク ホスト

2/5ページ 5 L2スイッチにVLAN20を 作 成 し fa0/1ポートと 関 連 付 けを 行 う 際 不 要 なコマンドを 選 びなさい 1. switch(config)#vlan switch(config-if)#switchport mode trunk 3. switc

画像情報特論 (2) - マルチメディアインフラとしての TCP/IP (1) インターネットプロトコル (IP) インターネット QoS (diffserv / MPLS) 電子情報通信学科甲藤二郎

外部ルート向け Cisco IOS と NXOS 間の OSPF ルーティング ループ/最適でないルーティングの設定例

索引

Microsoft Word - surfing

ip nat outside source list コマンドを使用した設定例

WLAR-L11G-L/WLS-L11GS-L/WLS-L11GSU-L セットアップガイド

講座内容 第 1 回オープンネットワークの概念と仕組み ( 講義 90 分 ) 基本的なネットワークの構成及び伝送技術について大規模化 マルチプロトコル化を中心に技術の発展と 企業インフラへの適用を理解する その基本となっている OSI 7 階層モデルについて理解する (1) ネットワークの構成と機

ループ防止技術を使用して OSPFv3 を PE-CE プロトコルとして設定する

2014/07/18 1

PowerPoint プレゼンテーション

センターでは,WAP からの位置情報を受信し, WAP が適切に設置されたかどうかを確認する 提案システムのシーケンス概要 図 2 に提案システムのシーケンスを示す. 携帯端末は,WAP から無線 LAN の電波を受信すると, DHCP サーバに対して IP アドレスを要求する. この要

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - chapter8_2013.pptx

プログラミングA

第1回 ネットワークとは

練習 4 ディレクトリにあるファイルを直接指定する (cat) cat コマンドを使う (% cat ファイル名 ) と ファイルの内容を表示できた ファイル名のところにパス名を使い ディレクトリ名 / ファイル名 のように指定すると ディレクトリ内にあるファイルを直接指定できる 1 % cat _

なって削除されるが invalid-route-reactivateオプションをonで指定している場合 優先度が高い経路が消滅したときに無効になっていたRIP 由来の経路を再有効化する [ ノート ] スタティック経路の優先度は10000で固定である invalid-route-reactivate

Microsoft PowerPoint - mp11-06.pptx

15群(○○○)-8編

プログラミングA

2) では, 図 2 に示すように, 端末が周囲の AP を認識し, 認識した AP との間に接続関係を確立する機能が必要である. 端末が周囲の AP を認識する方法は, パッシブスキャンとアクティブスキャンの 2 種類がある. パッシブスキャンは,AP が定期的かつ一方的にビーコンを端末へ送信する

PowerPoint プレゼンテーション

宛先変更のトラブルシューティ ング

また RLF 命令は 図 2 示す様に RRF 命令とは逆に 各ビットを一つずつ 左方向に回転 ( ローテイト ) する命令である 8 ビット変数のアドレスを A とし C フラグに 0 を代入してから RLF A,1 を実行すると 変数の内容が 左に 1 ビットシフトし 最下位ビット (LSB)

網設計のためのBGP入門

607_h1h4_0215.indd

10.02EWE51号本文

janog40-sr-mpls-miyasaka-00

スライド 0


untitled

阪神5年PDF.PDF

12 1


Microsoft Word - 01_表紙

第4回 小平市の文化振興を考える市民委員会

<4D F736F F D2089AB93EA8CA48F43838C837C815B83675F8FAC97D1>

2

渋谷区耐震改修促進計画

2

Microsoft Word - 第8回問題(3級)


1,000m 875m1 6km

Ⅰ.市区町村事例ヒアリング結果の詳細

一太郎 13/12/11/10/9/8 文書

Microsoft Word - NEWホノルル.docx

私にとっての沖縄と独自性.PDF

00.pdf

Microsoft Word - P01_導水路はいらない!愛知の会 会報11号-1 .docx




10 km!

H29-p06-07

, , km 9.8km 10.5km 11.9km 14.4km 14.4km 34.1km 3.4km 31.7km 6.2km 7.3k

FUJITSU Cloud Service for OSS プライベート接続 サービス仕様書

Mobile IPの概要


2

endo.PDF

インストールマニュアル

はじめに コース概要と目的 Oracle を使用した開発 管理を行う上でのファースト ステップとして リレーショナル データベース管理ソフトウェアである Oracle の役割 基本機能 基本アーキテクチャを幅広く理解することを目的としています 受講対象者 これから Oracle を使用する方 データ

Taro11-案5-3.jtd

IPv6 リンクローカル アドレスについて

迷惑メールチェックサービス設定マニュアル rev /7/6 株式会社イージェーワークス 1

<4D F736F F D E815B836C F898B89914F95D C5816A>

Microsoft Word - 2IFTTT利用手順_ver1

Word によるホームページ勉強会第 10 日目フレームページの製作 Ⅰ.menu.html の製作 改定三宅節雄 1. Word を起動し 表示 印刷レイアウトを選択します ページレイアウト ページ設定の をクリックし フォントの設定からフォントサイズは 12p とします 2

Microsoft Word - rocketcms_manual08

◎phpapi.indd

アライドテレシス・コアスイッチ AT-x900 シリーズ で実現するエンタープライズ・VRRPネットワーク

Oracle Un お問合せ : Oracle Data Integrator 11g: データ統合設定と管理 期間 ( 標準日数 ):5 コースの概要 Oracle Data Integratorは すべてのデータ統合要件 ( 大量の高パフォーマンス バッチ ローブンの統合プロセスおよ

Taro-プレミアム第66号PDF.jtd

日本初のホームページは 1992 年 9 月 30 日に公開されたそうです ホームページをつくるときに必要なもの 結論から言うと 今この記事を見ている状況の方であれば ホームページをつくるためだけに新しく準備するものは 実はほとんどあ

Microsoft PowerPoint - mp13-07.pptx

intra-mart ワークフローデザイナ

LOVE_PLUS.indd

Non Stop Routing の実装と課題 MPLS JAPAN 2004 ノーテルネットワークス株式会社近藤卓司

_mokuji_2nd.indd

-調達要求番号:

ネットワークフローとその代表的な問題

VRF のデバイスへの設定 Telnet/SSH アクセス

Exam : 日本語版 Title : Designing Cisco Network Service Architectures Vendor : Cisco Version : DEMO 1 / 5 Get Latest & Valid J Exam's Quest

ic3_cf_p1-70_1018.indd

NeOSU_18.indd



好きですまえばし

Transcription:

技術知識 11 ディスタンスベクターとリンクステート ----------------------- ディスタンスベクターとは 噂話が好きな奥様達による伝言ゲームである リンクステートとは 同じカーナビをつけた走り屋の集団である... 私の先輩の格言より * * * ルーティングプロトコルの仕組みには 大別して ディスタンスベクター型 と リンク ステート型 の 2 種類がある というようなことが ネットワークの教科書には必ず書い てあると思います 本コラムでは 今回から 4 話連続で OSPF に関連したテーマを予定しており 第 1 回目の 今日は ディスタンスベクターとリンクステートの違いの本質を暴いてしまいます ディスタンスベクター ディスタンスベクターは RIP や BGP などで使われている方式であり 以下のような特徴が あります 1 経路表そのものを交換 2 局所的に情報を交換 3 経路表を比較して選択 出展 :WIDE University, School of Internet ネットワークアーキテクチャ第 06 回 (2002/11/18) 経路制御 http://www.soi.wide.ad.jp/class/20020022/slides/06/index_23.html

一つずつ 見ていくと 1 経路表そのものを交換 経路情報 ( ルーティングテーブル ) そのものを交換します ルーティングプロトコルがルーティングテーブルを交換するのは当たり前のように思われ るかもしれませんが 逆の言い方をすると リンクステート型の場合にはルーティングテ ーブルそのものは交換しません 後述するリンクステート型の仕組みを理解しないと 言っている意味がピンと来ないかも しれませんが ここでは流してください 2 局所的に情報を交換 基本的に隣接するルータとのみ情報 ( ルーティングテーブル ) を交換します 伝言ゲームのように 隣のルーターから仕入れた経路情報を 逆側のルーターへと伝えて いきます 奥様達のコミュニティに流れた噂話が数日で町中に広まるのと同じで 伝言を何度か繰り 返すことによって ネットワーク内の全てのルーターに同じ経路情報が行き渡ります リンクダウンなどのトポロジー変化があった場合には 伝言ゲームをやり直す必要がある ので 情報が行き渡るまでに多少の時間が必要です また 隣のルーターから伝言された経路情報は無条件に信じる という特徴もあります 逆の言い方をすれば 情報にフィルターをかけたり書き換えたりして 隣のルーターを だます のは簡単です だから RIP や BGP では distribute-list とか route-map などのコマンドを使って 簡単に経路情報を操作できますね この方法では 同じ情報がグルグルと廻り続ける いわゆるルーティングループに陥る恐 れがあるので ルートポイズニング スプリットホライズンなどの対策が施されます こ の点については 皆さんもよくご存知でしょう

3 経路表を比較して選択 隣接するルーターが複数あれば それぞれからルーティングテーブルが 伝言 されてき ますので 自分以外の各ルーターへの最適なパスを 一定のルール ( ホップ数が最も少な い方向など ) で選択して 自分のルーティングテーブルを作ります リンクステート まず 以下のクイズを考えてみてください 問題 以下の情報に従い A 駅から D 駅への最短ルートと距離を算出しなさい A 駅は B 駅と C 駅に接続している B 駅との距離は 10km C 駅との距離は 5km である B 駅は A 駅と D 駅に接続している A 駅との距離は 10km D 駅との距離は 15km である C 駅は A 駅と E 駅に接続している A 駅との距離は 5km E 駅との距離は 15km である D 駅は B 駅と E 駅に接続している B 駅との距離は 15km E 駅との距離は 10km である E 駅は C 駅と D 駅に接続している C 駅との距離は 15km D 駅との距離は 10km である

答え 最短ルートは A 駅 B 駅 D 駅 距離は 25km どうでしたか? 絵を描いてみれば簡単に分かったと思います 実は これがリンクステートの基本的な考え方なのです 先ほどと同様に WIDE University の資料では リンクステートの特徴として以下の 3 点 があげられています 1 接続情報を交換 2 全域的に情報を交換 3 接続情報からトポロジを再構成

こちらも 一つずつ説明します 1 接続情報を交換 接続情報 ( リンクステート ) を交換するから リンクステート型と呼ばれています 接続情報と言われても意味不明だと思いますが さきほどのクイズの A 駅は B 駅と C 駅に接続している B 駅との距離は... というのが接続情報に相当します OSPF の場合は LSA (Link-State Advertisement) というやつですね 2 全域的に情報を交換 全てのルーターと接続情報 (LSA) を交換する という意味です さきほどのクイズの場合でも A 駅から E 駅までの全ての接続情報が揃っているから最短 ルートが算出できるのであって 断片的な情報では正しいルートを判定できません 従って リンクステート型プロトコルでは 全てのルーターから 全てのルーターに対し て 接続情報 (LSA) を配信する必要があり これがいわゆる フラッディング という やつです ディスタンスベクターの場合は 隣のルーターから受け取った情報で まず自分のルーティングテーブルを更新し それを別の隣接ルーターへ伝えていく という 伝言ゲーム だった訳ですが リンクステートでは 隣のルーターから接続情報を受け取ったら 中身を読む前に 隣接する全てのルーターへ情報をコピーして配信 ( フラッディング ) する というようなイメージになります リンクステートは 全てのルーターが同じ接続情報を持っている という前提で動作しますので フラッディングの途中で情報をフィルタリングしたり書き換えたりすることは 原則として出来ません だから OSPF では RIP や BGP と比べて ( エリア内での ) 経路情報の操作が難しいですね なお OSPF のマルチエリア構成の場合は 同じエリア内のみでリンクステートが使われて います

逆に言えば 異なるエリアとはリンクステート型ではない方法で経路情報を交換している ということです この点については 後のコラムで説明できると思います 3 接続情報からトポロジを再構成 最初にクイズをやっていただいたので この項目は説明不要でしょう 全ての接続情報 OSPF で言うところの LSDB (Link-State Data Base) に基づいて 地 図 を作るということです 全てのルーターが同じ LSDB を持っていれば 完全に同じ地図が作れるはずです Wide の資料には 3 までしか書かれていませんでしたが 次のステップがあります 4 各ネットワークへの最短経路を探索し 経路情報を作成する さきほど作った地図に基づいて ルーターごとにルーティングテーブルを作成します ここで ダイクストラ アルゴリズム と呼ばれる手法が使われますが これは実際にカ ーナビでも使われている 地図情報から最短経路を探索する方法です 全てのルーターが完全に同じ地図を持っていて 同じアルゴリズムで経路を計算する と いうことがポイントです これにより 全てのルーターが宛先への正しい 方向 を知っているので ディスタンス ベクターの弱点であった ルーティングループ は起こりえないのです また リンクダウンなどのトポロジー変化が発生した場合でも 新しい接続情報 (LSA) をフラッディングし ダイクストラの再計算を行えば 即座に代替ルートが算出できるので 伝言ゲームのやり直しが必要なディスタンスベクターよりも 高速に収束することが期待できます なお ディスタンスベクターは小規模ネットワーク用で 大中規模にはリンクステートが

良いというような記述をたまに見かけますが 正しい理解ではありません この点については 過去のコラムをご参照ください 大規模ネットワークで RIP を使っちゃ いけませんか? http://nw-expert.jp/column/cat10/127.html Written by Keiichi Takagi. as of Mar 17,2010