振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

Similar documents
報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

受付番号:

電解メッキ初期過程における電極近傍イオン種のリアルタイム観測に成功

SP8WS

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

NEWS RELEASE 平成 30 年 11 月 1 日 鉄鋼材料において水素による異常な変態抑制効果を発見 - 鉄の構造を水素で制御する - 九州工業大学大学院生命体工学研究科の平田研二 ( ひらたけんじ ) 大学院生 ( 現 : 産業技術総合研究所 ) 飯久保智 ( いいくぼさとし ) 准教授


共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

Microsoft Word - 01.doc

PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した


平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

平成 27 年 7 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人広島大学国立大学法人東北大学千葉工業大学公益財団法人高輝度光科学研究センター 月表層の岩石試料 ( アポロ試料 ) から高圧相を世界で初めて発見 ポイント アポロ計画で回収された月表層の岩石試料から 世界で初めてシリカ (SiO 2 ) の高

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

詳細な説明 < 背景 > 日本において急速に進む少子高齢化に関わる諸問題の解決のために 超スマート社会の実現が希求されています そのため 超スマート社会の技術インフ ラとして 超高感度センサーや超高速デバイスなどの開発に加えて それらのデバイス同士やそれらのデバイスと人をつなぐ超高速情報通信技術の研

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

平成22年11月15日

QOBU1011_40.pdf

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

untitled

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

ポイント ガラス-シリコン-ガラスの3 層構造を持つ高剛性なマイクロ流体チップを用いることで 16 マイクロ秒 (1 マイクロ秒は 100 万分の1 秒 ) の高速な流体制御に成功しました 本技術を応用することで 世界最高レベルの細胞分取性能 ( 高速 高純度 高生存率 ) を実現しました 図 1

<4D F736F F D C A838A815B A8CF597E38B4E82C982E682E992B48D8291AC8CB48E7195CF88CA82CC8ACF91AA817C93648E718B4F93B982C68CB48E718C8B8D8782CC8CF590A78CE4817C8140>

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

Nov 11

ロナ放電を発生させました これによって 環状シロキサンが分解してプラスに帯電した SiO 2 ナノ微粒子となり 対向する電極側に堆積して SiO 2 フィルムが形成されるという コロナ放電堆積法 を開発しました 多くの化学気相堆積法 (CVD) によるフィルム作製法には 真空 ガス装置が必要とされて

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

Pd-MOFハイブリッド材料の界面電子状態と水素貯蔵特性の関係の定量的な解析に成功

POCO 社の EDM グラファイト電極材料は 長年の技術と実績があり成形性や被加工性が良好で その構造ならびに物性の制御が比較的に容易であることから 今後ますます需要が伸びる材料です POCO 社では あらゆる工業製品に対応するため 各種の電極材料を多数用意しました EDM-1 EDM-3 EDM

偏光板 波長板 円偏光板総合カタログ 偏光板 シリーズ 波長板 シリーズ 自社製高機能フィルムをガラスで挟み接着した光学フィルター

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

P.1 1. はじめに 加速器とは 電気を持った電子や陽子 または原子から電子をはぎ取ったイオンなどを荷電粒子といい そのような荷電粒子を電磁力によって加速する装置 をいいます 加速器は 物質や生命の謎を解き明かすとともに 新材料の開発 農作物の品種改良 医療への利用など わたくしたちの身近な分野で

Mirror Grand Laser Prism Half Wave Plate Femtosecond Laser 150 fs, λ=775 nm Mirror Mechanical Shutter Apperture Focusing Lens Substances Linear Stage

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

161226_1

<4D F736F F D20959F967B82B382F C A838A815B C52E646F63>

Microsoft Word - TokyoTechPR _Azuma.doc

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

Microsoft PowerPoint EM2_15.ppt

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

1. 研究の背景金属ナノ粒子は 比表面積が大きく 量子サイズ効果によって特有の物性を示すなど 一般的な大きな固体材料とは異なることから 様々な分野で研究が進められています 特に最近では 中空構造を有する粒子を合成し その特徴的な構造に由来する表面プラズモン共鳴を利用した医学分野への応用研究が盛んです

2θχ/φ scan λ= å Al 2 (11-20) Intensity (a. u.) ZnO(<1nm)/MgO(0.8nm)/Al 2 MgO(0.8nm)/Al 2 WZ-MgO(10-10) a=3.085å MgZnO(10-10) a=3.101å

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

CMOS カメラを用いた強誘電薄膜のドメイン可視化技術 強誘電ドメイン壁の 3 次元構造を捉える 1. 発表者 : 上村洋平 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程 1 年生 ) 荒井俊人 ( 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻講師 ) 長谷川達生 ( 東京大学大学院工学系研究科物理

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

Ru ナノ粒子の構造と触媒活性との関連を見いだす ~ 局所構造 平均構造の数値化で実現機械学習用データを集積し新材料の創製に貢献 ~ 概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構技術開発 共用部門の高輝度放射光ステーション坂田修身ステーション長と 京都大学大学院理学研究科北川宏教授からなる研究チー

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

EOS: 材料データシート(アルミニウム)

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

PCB 端子台 製品概要

2 磁性薄膜を用いたデバイスを動作させるには ( 磁気記録装置 (HDD) を例に ) コイルに電流を流すことで発生する磁界を用いて 薄膜の磁化方向を制御している

<4D F736F F D D58A4589B B CC B838C839392B B191CC82CC93E482F089F096BE2E646F6

IB-B

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜

平成**年*月**日

理化学研究所環境資源科学研究センターバイオ生産情報研究チームチームリーダー 研究代表者 : 持田恵一 筑波大学生命環境系准教授 研究代表者 : 大津厳生 株式会社ユーグレナと理化学研究所による共同研究は 理化学研究所が推進する産業界のニーズを重要視した連携活動 バトンゾーン研究推進プログラム の一環

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

分子マシンを架橋剤に使用することで 高分子ゲルの伸張性と靱性が飛躍的に向上 人工筋肉などのアクチュエータやソフトマシーン センサー 医療への応用も可能に 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) の竹岡敬和 ( たけおかゆ きかず ) 准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創

スライド 1

平成 25 年 3 月 4 日国立大学法人大阪大学独立行政法人理化学研究所 高空間分解能 かつ 高感度 な革新的 X 線顕微法を開発 ~ 生体軟組織の高分解能イメージングへの応用展開に期待 ~ 本研究成果のポイント X 線波長の 320 分の 1 程度のごく僅かな位相変化を 10nm 程度の空間分解

~.15) Nylon12 樹脂 ( 比誘電率 2.1 等組成により異なる 誘電正接.3 等 ) ポリプロピレン樹脂 ( 比誘電率 2.2~2.6 誘電正接.5~.18) ポリカーボネート樹脂 ( 比誘電率 3.1 誘電正接.1) などがある これらのうち 高周波特性に影響する誘電正接が比較的低い材

Microsoft Word - 最終稿.doc

新技術説明会 様式例

Microsoft Word - 01.docx

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

熱電変換の紹介とその応用について.ppt

電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

←ちゃんとしたロゴに変更

Microsoft PowerPoint - 01_内田 先生.pptx

平成 28 年 6 月 3 日 報道機関各位 東京工業大学広報センター長 岡田 清 カラー画像と近赤外線画像を同時に撮影可能なイメージングシステムを開発 - 次世代画像センシングに向けオリンパスと共同開発 - 要点 可視光と近赤外光を同時に撮像可能な撮像素子の開発 撮像データをリアルタイムで処理する

ISSN

Microsoft Word - 01.docx

記者発表資料

Transcription:

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さかたおさみ ) ステーション長 東京工業大学物質理工学院の舟窪浩 ( ふなくぼひろし ) 教授 愛知工業大学工学部の生津資大 ( なまづたかひろ ) 教授 静岡大学電子工学研究所の脇谷尚樹 ( わきやなおき ) 教授 スイス連邦工科大学ローザンヌ校材料研究所の Nava Setter( ナバセッター ) 名誉教授らの研究グループと共同で 振動発電の効率向上につながる強誘電体材料の新たな特性制御手法を発見しました 代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛の膜を イオンビームで細い棒 ( ナノロッド ) 状に切り出すと そのサイズによって強誘電体の特性を支配する分極の向きの割合 ( ドメイン構造 ) が大きく変化することが明らかになりました この結果は 強誘電体の表面における分極の電荷遮蔽の影響で説明できますが これは上記のナノロッドが同じサイズであっても その側面を金属で被覆すると ドメイン構造が変化することにより証明されました 本研究成果は 従来から行われてきた材料組成や歪みの制御といったアプローチではなく 材料の形状やサイズ さらには周りの環境により 電荷遮蔽を制御することで 強誘電体の特性向上が実現する可能性を示しています この新しいアプローチを応用することで 環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子 ( エナジーハーベスタ ) の効率向上による小型化が期待でき Internet of Things(IoT) で期待される振動センサや圧力センサの自立的な電源として利用できる可能性があります この研究成果はネイチャー パブリッシング グループの学術誌 サイエンティフィックレポート (Scientific Reports) オンライン版に 7 月 12 日付 ( 日本時間 18 時 ) で掲載されました

ポイント 強誘電体の諸特性を支配する分極の向きの割合 ( ドメイン構造 ) が 材料の形状やサイズ さらには周りの環境で変化することを初めて系統的に明らかにした 上記のドメイン構造が変化する原因が 分極の電荷遮蔽の影響であることを突き止めた 本アプローチを応用することで 環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子 ( エナジーハーベスタ ) の飛躍的な効率向上につながる可能性がある 研究背景と内容 現在 自然界にある未使用のエネルギーを電気エネルギーに変換する技術が盛んに研究されています 強誘電体 ( 用語 1) には 優れた機械エネルギーと電気エネルギーの相互変換機能 ( 圧電性 ) を示す材料があり これを使用して 環境中の振動を電気エネルギーとして取り出す発電素子 ( エナジーハーベスタ ) の開発が行われています 圧電性を始めとする強誘電体の諸特性は その分極の向きの割合 ( ドメイン構造 ) に大きく左右されることが知られています これまで 材料の組成や歪みを制御することでドメイン構造を操作し これにより特性を向上させようという試みが広く行われてきました 一方で 材料の表面や界面における分極電荷の遮蔽状態もドメイン構造に影響を及ぼすことが知られていましたが 系統的な研究例は少なく これによるドメイン構造の操作指針は明らかにされていませんでした そこで 名古屋大学を中心とする研究グループでは 強誘電体材料をナノサイズ化すると電荷遮蔽の影響が大きくなることに着目し 特にその中でも異方性が大きな棒状の ナノロッド を対象に研究を行いました ナノロッドの作製とドメイン構造の解析サイズが正確に制御されたナノロッドを作製するために まず 代表的な強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛 (PZT) の膜を基板上に作製し 集束イオンビーム ( 用語 2) を用いて膜の一部をエッチングすることで 高さが 1.2 マイクロメートル 幅が最小で 200 ナノメートル (1 万分の 2 ミリ ) のナノロッド形状に切り出しました その後 エッチングのダメージを取り除くために 加熱処理を行いました 次に 高輝度な放射光 ( 用語 3)X 線をレンズで集光してナノロッドに照射することで ナノロッド 1 本の X 線回折 ( 用語 4) 測定に成功しました ( 図 1) 本測定システムは 物質 材料研究機構のグループで開発されました これにより ナノロッドのドメイン構造を定量的に明らかにすることに成功しました 図 1: 放射光マイクロ X 線回折測定のセットアップと試料の概要 放射光 X 線をレ ンズで集光してナノロッドに照射し ロッド 1 本 ( 単体 ) の回折測定を行った

ナノロッドのサイズ制御によるドメイン構造の操作サイズの異なるロッドのドメイン構造を比較した結果 幅の減少とともに c ドメインと呼ばれる垂直分極の領域の割合が増加し 一方で a ドメインと呼ばれる水平分極の領域の割合が減少することがわかりました この変化の傾向は 基板の種類が異なっても同じでした また 集束イオンビームを用いずに別の手法で作製した自己組織化ナノロッドでも これを支持する結果が得られました ( 図 2(a)) これらの結果は 強誘電体の分極電荷の遮蔽が不完全な環境では ロッドの幅が狭くなるに従ってロッド側面に分極電荷を有する水平分極が不安定になるためと考えられ 電荷遮蔽を考慮したシミュレーションの結果とも一致しました ( 図 2(b)) 特に 幅 1 マイクロメートル (1000 ナノメートル ) 未満のロッドでは c ドメインの割合が 100 % になりました 一般に 電圧や応力などの外場の印加なしに 分極が完全に一方向に揃ったドメイン構造を作製することはできませんが ナノサイズ化した強誘電体では その形状やサイズの制御により 分極方向を揃えられることを初めて見出しました 図 2:(a) ナノロッドの幅と垂直分極を有する c ドメインの割合の関係 基板の種類の違いによらず 幅 の減少に伴い c ドメイン割合が増加した (b) 幅 2 マイクロメートル及び 200 ナノメートルのロッドのドメイン構造のシミュレーション結果の例 ナノロッドの外界制御によるドメイン構造の操作上記の考えが正しければ ナノロッドの電荷遮蔽を促進すると a ドメイン ( 水平分極 ) の割合が増えるはずです そこで ナノロッドの側面を金属で被覆して 一度加熱してドメインを消去した後 新たに生成したドメイン構造を観察しました その結果 a ドメインの割合が増加することが明らかになり ( 図 3) シミュレーションとも傾向が一致しました このことは ナノロッドの周りの環境 ( 外界 ) を制御することでドメイン構造が操作できることを示しています

図 3: ナノロッドの側面を金属 (Pt) で被覆し 一度加熱した後のドメイン構造の X 線回折結果 電荷遮蔽の促進によって a ドメイン ( 水平分極 ) の生成が確認できた 成果の意義 本研究成果は 強誘電体の諸特性を支配するドメイン構造が 材料の組成や歪みの制御だけでなく 材料の形状やサイズ さらには その周りの環境により 分極の電荷遮蔽状態を制御することで 操作できることを示しています この新しいアプローチを活用して 強誘電体の圧電特性の飛躍的な向上が達成できれば 例えば 環境中にある微小な振動を効率良く電気エネルギーに変換する小型のエナジーハーベスタの実現が期待でき Internet of Things(IoT)( 用語 5) に代表されるような 数億から数兆個の利用が想定されるセンサの自立的な電源として利用できる可能性があります 特に 電源機能を兼ねた振動センサや圧力センサへの応用が期待できます さらには 環境適合性やコストの観点から 使用できる材料の元素が限られる用途において 特性向上のアプローチとして利用できる可能性があります 用語説明 (1) 強誘電体圧電体の一種で 自発分極を有しており 外部からの電場で分極の向きが反転可能な結晶です (2) 集束イオンビーム細く集束したイオンビームを試料表面で走査することで 試料表面を加工する装置です 本研究ではガリウムイオンビームを使用しました (3) 放射光電子を光とほぼ等しい速度まで加速し 電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する 指向性が高く強力な電磁波のことです 本研究の実験は 兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設 SPring-8 で行われました (4) X 線回折物質に照射されたX 線が回折を起こす現象で これにより物質の結晶の構造やその配向を調べる事ができます

(5) Internet of Things(IoT) モノのインターネットと言われ 一般に 様々なモノ ( デバイス ) がインターネットに接続され 相互に つながることを指します 論文名 題名 : Charge screening strategy for domain pattern control in nano-scale ferroelectric systems ( 日本語訳 : 強誘電体ナノスケールシステムにおけるドメインパターン制御のための電荷遮蔽 ) 著者 :Tomoaki Yamada, Daisuke Ito, Tomas Sluka, Osami Sakata, Hidenori Tanaka, Hiroshi Funakubo, Takahiro Namazu, Naoki Wakiya, Masahito Yoshino, Takanori Nagasaki, and Nava Setter ジャーナル名 : Scientific Reports 掲載日 : 2017 年 7 月 12 日 DOI: 10.1038/s41598-017-05475-x 特記事項 本研究は 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ ナノシステムと機能創発 領域および 微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出 領域 日本学術振興会科学研究費 科学技術振興機構国際科学技術共同研究推進事業 Concert-Japan 光技術を用いたものづくり の一環として行われました また ドメイン構造解析は SPring-8 の BL15XU および BL13XU のビームラインで行われました 主な結果は BL15XU での測定によるもので 文部科学省委託事業ナノテクノロジープラットフォーム課題として 物質 材料研究機構微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました