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金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

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記 者 発 表(予 定)

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2 私たちは生活の中で金属製の日用品をたくさん使用していますが 錆びるので困ります 特に錆びやすいのは包丁や鍋などの台所用品です 金属は全て 水と酸素により腐食されて錆を生じますが 台所は水を使う湿気の多い場所なので 包丁や鍋を濡れたまま放置しておくと水と空気中の酸素により腐食されて錆びるのです こ

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レーション法 プラズマ蒸着法 粉砕法等 ) の2 つに大別することができる その中でも 近年 注目されている液中パルスプラズマ法によるナノ 2) 3) 4) 粒子の作製を検討した この方法は 水中でプラズマ ( グロー放電 ) を発生させることでH2O 分子をガス化分解し 生成した水素ラジカル (H


ポイント 微生物細胞から生える細い毛を 無傷のまま効率的に切断 回収する新手法を考案しました 新手法では 蛋白質を切断するプロテアーゼという酵素の一種を利用します 特殊なアミノ酸配列だけを認識して切断する特異性の高いプロテアーゼに着目し この酵素の認識 切断部位を毛の根元に導入するために 蛋白質の設

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

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電解メッキ初期過程における電極近傍イオン種のリアルタイム観測に成功 金属析出速度の支配因子を決定 概要千葉大学大学院工学研究院中村将志准教授 星永宏教授 東京農工大学大学院工学研究院遠藤理助教 高輝度光科学研究センター田尻寛男研究員 物質 材料研究機構坂田修身グループリーダーの研究グループは 金属イオンが析出する際の電極近傍におけるイオン種のリアルタイム観測に初めて成功し 金属イオンがどのように表面に接近し表面に吸着するかを明らかにしました 本研究グループは 電極界面の 3 次元的な構造がわかる表面 X 線回折法により時分割計測を行いました 電析電位へ変化させた時に 1/2000 秒の時間分解能で界面イオンを追跡したところ 電極表面に析出する前に 金属イオンが水和 * された状態で表面から 3.2 オングストローム * (A ) 離れた場所に一時的に安定な構造をとることがわかりました また 複数の金属イオンについて析出過程を調べたところ 金属イオンと水分子の結合の切れやすさが析出速度と関係していることがわかりました なお 本研究成果は 英国の科学誌 Scientific Reports の 2017 年 4 月 20 日に発表されました 掲載論文題目 :Real time observation of interfacial ions during electrocrystallization 著者 :Masashi Nakamura, Takahiro Banzai, Yuto Maehata, Osamu Endo, Hiroo Tajiri, Osami Sakata, Nagahiro Hoshi 雑誌 :Scientific Reports 研究の背景電解メッキは装飾だけでなく 電子部品製造や触媒の調製など多くの分野で用いられている技術です 近年では 半導体の高集積化のための微細加工や 触媒分野では貴金属使用量削減のためにより高活性なナノスケールの触媒が求められており 原子レベルで析出層を制御する技術が必要となっています 電極から数ナノメートル * 程度の領域は電気二重層 * と呼ばれており 溶液中とは異なった構造をとることが知られています 電解メッキでは この電気二重層を金属イオンが通過する必要があり 溶液中のイオンの移動とは異なります また 電解メッキでは 溶液中に金属イオン以外にも溶媒や添加剤が加えられており メッキ速度の促進や制御作用があります しかし 電析過程は複雑であり 金属イオン以外の物質がどのように作用しているのかも分かっていなのが現状です

電析構造を観測するためには 従来から走査型プローブ顕微鏡がよく用いられています しかし この手法では 探針を走査して表面構造を画像化するために 速い構造変化を追跡できないことや表面から離れた場所にあるイオン種は観測することが難しいことなどがあります 研究内容と成果金属析出の初期過程を原子レベルで明らかにするために 表面原子配列が整った Au(111) 単結晶表面 * を用い 金属イオンが単原子層だけ析出するアンダーポテンシャル析出 * と呼ばれる現象のリアルタイム観測を試みました 実験は大型放射光施設 SPring-8 * BL13XU ならびに KEK-PF BL4C において 1/2000 秒ごとに時分割表面 X 線回折を用い 電極から 1 ナノメートル以内で界面イオン種の動きを追跡しました 表面からの X 線回折はクリスタルトランケーションロッド (Crystal Truncation Rod, CTR) 散乱 * と呼ばれ 界面の原子やイオンを 0.01 オングストロームの分解能で決定できます 硫酸溶液中で Cu 2+ の電析電位に変化させた後の CTR 散乱の強度変化を図 1(a) に示します 電位変化直後には L=2.3 付近で強度が増加しており その後 80 ms 以降で L=1 付近の強度減少および L=4.2 付近の強度増加が起こります CTR 散乱の詳細な解析により 図 1(b) のように界面における各イオン種の表面からの距離の時間変化を定量的に求めることができます 80 ms 以降は Cu 2+ と硫酸イオンが表面に吸着していきます 一方 電位変化直後には 表面から 3.2A 離れた場所に Cu 2+ が一時的に集まることがわかりました この Cu 2+ は水分子で覆われており 図 2のように電析前に一時的に表面近傍に集まった後 金属イオンと表面の間の水分子が離れることによって 析出していくことがわかりました また Cu 2+ の析出には硫酸イオンも同時に吸着しており ( 図 1(b)) Cu 2+ の析出には硫酸イオンが必要であることがわかりました 図 1 (a) Au(111) 表面上における Cu 2+ アンダーポテンシャル析出時の CTR 散乱の時間変化 電位変化前の CTR 散乱強度で規格化 (b) 界面における各イオンの表面からの距離および存 在量の時間変化

図 2 析出前に一時的に観測される水和された金属イオン さらに 価数の異なる Tl +, Ag +, Cd 2+, Zn 2+, Bi 3+ を用いて同様な測定を行ったところ 析出速度は金属イオンにより大きく変わり 析出が遅い場合には 図 2のような一時的な水和イオン層の存在が観測されました また 各金属イオンの水和エネルギーと析出速度に関係があることを見出し 金属イオンから水和水の脱離が析出速度を支配していることを明らかにしました 今後の展望電解メッキの初期過程において電析電位だけでなく 脱水和過程や対イオンにより析出速度が変わることがわかりました アンダーポテンシャル析出は 数ナノメートルサイズの触媒合成などに用いられており 析出速度の制御が可能となれば 複数の金属イオンを析出させるなど 多様な構造を原子レベルで作り分けることで 高活性なナノ微粒子触媒の実現や半導体微細加工技術の向上などにつながります 用語解説 * 水和水溶液中では イオンや分子の周りは水分子で覆われており 水和と呼ばれる一つの分子集団となる 特にイオンに水和した水は 水分子間の水素結合より強く結合した状態となる * オングストローム (A ) 長さの単位で原子や分子など非常に小さな長さを表す場合に用いられる 1 オングスト ロームは 1 億分の 1 センチメートル * ナノメートル (nm) オングストロームと同様に非常に小さな長さを表す長さの単位 1 ナノメートルは 10 オングストローム

* 電気二重層ポテンシャルが異なる物質が接した場合に 界面に荷電粒子が層構造を形成する 金属 - 電解質溶液の界面では 電解質イオンが層構造を形成し 溶液中とは異なるイオン濃度や構造となる * アンダーポテンシャル析出金属イオンには固有の電析する電極電位があり 負電位側では析出が起こる しかし 基板電極と金属イオンの相互作用が強い場合には 析出電位より高電位側 ( アンダーポテンシャル ) で 単原子層レベルの析出が起こる * 単結晶表面原子が規則的に配列し 結晶のどの位置でも結晶軸が変わらないものを単結晶という 単結晶を任意の方向で切断すると表面には規則的に原子列が整列した状態をつくることができる * 大型放射光施設 SPring-8 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で 高輝度光科学研究センターが運転と利用者支援を行っている SPring-8 の名前は Super Photon ring-8 GeV( ギガ電子ボルト ) に由来 電子と光とほぼ等しい速度まで加速し 電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する 細く強力な電磁波 ( 放射光 ) を用いて幅広い研究が行われている * クリスタルトランケーションロッド (CTR) 散乱規則的に配列した表面 (2 次元 ) 原子に単色 X 線を入射すると 各原子から散乱した光は干渉しあいロッド状に強め合ったクリスタルトランケーションロッド散乱と呼ばれる回折が生じる この散乱強度を測定することによって原子配列がわかる 本件に関する問い合わせ先 中村将志千葉大学大学院工学研究院准教授 263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町 1 33 TEL/FAX: 043-290-3382 E-mail: mnakamura@faculty.chiba-u.jp

千葉大学工学系事務センター総務室 TEL:043-290-3038,FAX:043-290-3039 E-mail:mah3034@office.chiba-u.jp (SPring-8 / SACLA に関すること ) 高輝度光科学研究センター利用推進部普及情報課 TEL:0791-58-2785,FAX:0791-58-2786 E-mail:kouhou@spring8.or.jp 国立研究開発法人物質 材料研究機構経営企画部門広報室 TEL: 029-859-2026, FAX: 029-859-2017 E-mail: pressrelease@ml.nims.go.jp 国立大学法人東京農工大学総務部総務課広報 基金室 TEL: 042-367-5930,FAX: 042-367-5553 E-mail: koho2@cc.tuat.ac.jp