Title 非線形応答特性を持つ光デバイスを有する光通信システムの伝送特性に関する研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 山田, 英一 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL

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Title 非線形応答特性を持つ光デバイスを有する光通信システムの伝送特性に関する研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 山田, 英一 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date 2016-03-23 URL https://doi.org/10.14989/doctor.k19 Right 許諾条件により本文は 2016-04-01 に公開 Type Thesis or Dissertation Textversion ETD Kyoto University

( 続紙 1 ) 京都大学博士 ( 情報学 ) 氏名山田英一非線形応答特性を持つ光デバイスを有する光通信システムの伝送特性に関論文題目する研究 ( 論文内容の要旨 ) 今日の情報化社会における社会基盤として, 光ファイバを伝送媒体とした長距離大容量光ファイバ通信が行われている. その実現のためには, 光伝送システムにおける非線形応答特性など長距離大容量伝送を制限する様々な課題があり, これらを克服する必要がある. 本論文は, 長距離大容量光通信において伝送システムに用いられる光デバイスの非線形応答特性が伝送特性に与える影響の研究結果を示している. 非線形応答特性を,1. 伝送路である光ファイバ自体の非線形性,2. 伝送路を構成する光ファイバ以外のデバイスの非線形性,3. 光送受信器の非線形性の3 種類に分け, それぞれの非線形応答特性の代表例について検討を行ったものである. 本論文は全 4 章から構成されている. 第 1 章は序論であり, 長距離大容量光ファイバ伝送システムの概要と進展の歴史を説明し, 本論文の研究内容の技術的, 歴史的位置づけを示している. また, 光伝送システムに用いられる様々な要素の非線形応答特性とその伝送システムへの影響の概要を説明している. 第 2 章では, 伝送路を構成する光ファイバ以外のデバイスの非線形応答の例として, 長距離光中継伝送システムに用いられるエルビウム添加光ファイバ増幅器 (Erbiu m-doped Fiber Amplifier: EDFA) の利得の非線形応答, すなわち利得飽和特性が伝送特性に与える影響を議論している. まず, 均一励起の光増幅器の利得飽和特性を解析的に解き, それを用いて, 多中継接続された光伝送システムにおいて, 伝送信号の入出力特性を解析し, 利得の飽和により光信号が安定化されることを示している. また, 実験結果にもとづいてEDFAをモデル化し, 利得特性を数値解析により導き,EDFA の利得飽和特性を示している. そして,EDFAを用いた長距離伝送システムにおいて, 利得飽和特性により光信号強度が安定化する数値解析結果を示している. 最後に. 多中継長距離光ソリトン伝送システムにおいて, 光信号強度とパルス幅が安定化される実験結果を示している. 第 3 章では, 伝送路である光ファイバ自体の非線形性の例として, 光ファイバの自己位相変調効果を利用したファイバ型デバイスである非線形ループミラー (Nonlinear Optical Loop Mirror: NOLM) の非線形応答特性の解析と伝送特性に与える影響を論じている. 通常は短所となる非線形性を利用して, 伝送特性向上を目指した試みの例である. まず,NOLMの一種である非線形増幅ループミラー(Nonlinear Amplifying Lo op Mirror: NALM) の入出力信号特性を数値解析および実験結果により示し, しきい特性を持つことを示している. また, 構造のバリエーションである非対称カプラを有するNOLMにおいても, 数値解析および実験結果によりしきい特性を持つことを示している. 次に, これらのしきい特性により, 光雑音を有するパルス信号から光雑音が低減できることを実験により示している. さらに, 実際に10 Gbit/sで500 km 伝送された光ソリトン伝送信号に対して,NALMおよび非対称カプラを有するNOLMを用いて, 光雑音が低減できることを実験により示している. しかし, 光雑音低減後の光信号をさらに伝送するとチャープによる波形ひずみを生じる. そこで,NALM 通過後のパルスの位相特性の解析を行い, 信号パワーを低くし, 位相変化が0.3π 以下のとき, しきい特性は低下するもののチャープの影響が小さいことを示している.

( 続紙 1 ) 第 4 章では,InP マッハツェンダ (Mach-Zhender: MZ) 光変調器における電気光学 (El ectro-optic: EO) 効果の非線形が変調特性や伝送特性に与える影響を論じている. 最初に,InP 系半導体光導波路の EO 非線形性について述べ,InP MZ 変調器の 2 つの光導波路を同一バイアス電圧プッシュプル駆動した場合の変調波形を解析している. 次に, 強度変調を行った場合の変調特性について, 変調特性の指標となる光信号対雑音比特性および波長分散特性に対する EO 非線形の影響を示している. さらに, 差動 4 値位相変調 (Differential Quadrature Phase Shift Keying: DQPSK) 方式における変調特性について,EO 非線形の影響を示している. 最後に,DQPSK 方式を用いた長距離伝送特性および波長多重長距離伝送特性について伝送シミュレーションを行い,EO 非線形の有無による影響を説明している. 第 5 章は, 結論であり, 本論文により得られた結果を総括している. 注 ) 論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は 1 頁を 38 字 36 行で作成し 合わせて 3,000 字を標準とすること 論文内容の要旨を英語で記入する場合は 400~1,100words で作成し審査結果の要旨は日本語 500~2,000 字程度で作成すること

( 続紙 2 ) ( 論文審査の結果の要旨 ) 本論文は, 長距離大容量光通信を実現するための課題となる光伝送システムにおける非線形応答特性について, 光伝送システムを構成する光デバイスの非線形応答特性が伝送特性に与える影響に関する研究をまとめたものである. 得られた主要な研究成果は次の通りである. (1) 伝送路を構成する光デバイスの非線形応答として, 長距離光中継伝送システムに用いられる EDFA(Erbium-Doped Fiber Amplifier) の利得飽和特性が伝送特性に与える影響について検討を行い, 利得飽和により, 伝送路への入力信号強度の変動に依存せず, 多中継伝送後に EDFA から出力される光信号強度が一定値に安定化されることを数値解析により明らかにした. また, 一定になる光信号強度は EDFA の励起光強度を調整することにより任意に設定できることを明らかにした. さらに, 光ソリトン伝送において, 光信号強度とパルス幅が一定値に安定化されることを伝送実験により実証し,EDFA の利得飽和特性が伝送特性の安定性向上に有効であることを明らかにした. (2) 光ファイバの非線形性光学効果の 1 つである自己位相変調効果を利用した非線形ループミラーを光伝送システムに用いることによって, 非線形ループミラーの信号光強度に対するしきい特性により, 長距離伝送された光信号から光雑音が低減できることを提案し, 光信号対雑音比の改善に有効であることを伝送実験により実証した また, その後の伝搬に影響する非線形ループミラー通過後のパルスの周波数チャープ特性の解析を行い, 信号パワーを低くし, 非線形な位相変化が 0.3π 以下のとき, 影響が小さいことを明らかにした. (3)InP MZ 変調器における非線形な EO 効果が伝送特性に与える影響について検討を行い,InP MZ 変調器の EO 非線形性は, 同一バイアス電圧プッシュプル駆動を行うことにより, 強度変調方式, 差動 4 値位相変調方式のどちらにおいても,EO 非線形が無い MZ 変調器と同等の変調特性持つことを明らかにした. 差動 4 値位相変調方式における長距離波長多重伝送特性が EO 非線形の有無で差が無いことを示し,InP MZ 変調器が長距離波長多重伝送用の変調器として有効であることを明らかにした. 以上要約するに本論文は, 光伝送システムに用いられる各種光デバイスの非線形応答について, その非線形応答特性を明確にし, 数値シミュレーションあるいは実験により非線形応答特性が伝送特性に与える影響を明らかにすることによって, 長距離大容量光伝送システム実現のために有用な知見を与えるものであり, 学術上, 実際上寄与するところが少なくない. よって, 本論文は博士 ( 情報学 ) の学位論文として価値あるものと認める. また, 平成 28 年 2 月 19 日に実施した論文内容とそれに関連した口頭試問の結果合格と認めた.