事件名

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審決取消判決の拘束力

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第24号-

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Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

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平成 23 年 10 月 20 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 23 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 9 月 29 日 判 決 原 告 X 同訴訟代理人弁護士 佐 藤 興 治 郎 金 成 有 祐 被 告 Y 同訴訟代理人弁理士 須 田 篤

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平成22年 月 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

にした審決を取り消す 第 2 前提事実 1 特許庁における手続の経緯被告は, 発明の名称を レーザ加工方法, 被レーザ加工物の生産方法, およびレーザ加工装置, 並びに, レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体 とする特

主文第 1 項と同旨第 2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は, 平成 24 年 6 月 14 日, 発明の名称を 遊技機 とする特許出願をし ( 特願 号 請求項数 3 ), 平成 26 年 5 月 12 日付けで拒絶理由通知 ( 甲 8 以下 本件

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平成 25 年 3 月 25 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 25 年 2 月 25 日 判 決 原 告 株式会社ノバレーゼ 訴訟代理人弁理士 橘 和 之 被 告 常磐興産株式会社 訴訟代理人弁護士 工 藤 舜 達 同 前 川 紀 光

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 13 日 判 決 原告株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘 高 橋 元 弘 吉 羽 真一郎 末 吉 亙 弁理士 鶴 谷 裕 二

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事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

同時期に 8 社に対し提起された大阪地方裁判所における判決 ( 大阪地裁平成 24 年 9 月 27 日判決 裁判所 HP) では, 間接侵害の成立に関し, 特許法 101 条 2 号の別の要件である その物の生産に用いる物 にあたるかが問題とされ, 1 特許法 2 条 3 項 1 号及び101 条

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例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

本件は, 特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である 争点は, 進歩性の有無である 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は, 平成 23 年 10 月 7 日に特許出願をした特願 号 ( 以下 原出願 という ) の一部である, 発明の名称を 位置検出装置 と

指定商品とする書換登録がされたものである ( 甲 15,17) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 21 年 4 月 21 日, 本件商標がその指定商品について, 継続して3 年以上日本国内において商標権者, 専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって, 不使用に

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に係る発明についての特許を無効とする 審判費用は, 被請求人の負担とする との部分を取り消す 第 2 事案の概要特許庁は, 原告の有する後記本件特許について, 被告から無効審判請求を受け, 原告が後記本件訂正により削除した請求項 6 及び9を除く請求項に係る発明について特許を無効とする旨の審決をした

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1 特許庁における手続の経緯原告は, 名称を 5 角柱体状の首筋周りストレッチ枕 とする発明につき, 平成 20 年 10 月 31 日に特許出願 ( 本願 特願 号, 特開 号, 請求項の数 1) をし, 平成 25 年 6 月 19 日付けで拒絶

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

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では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

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目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

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控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

平成25年5月  日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

Ⅰ. 事実の概要 本件は, 発明の名称を ピリミジン誘導体 とする特許 ( 第 号 ) の無効審判請求 ( 無効 ) を不成立とした審決の取消訴訟である 本件特許は, 被告特許権者等が販売する高コレステロール血症治療薬 クレストール の有効成分の物質特許である

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

第 1 原告の求めた判決 特許庁が無効 号事件について平成 23 年 12 月 28 日に した審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 被告の請求に基づき原告の本件特許を無効とした審決の取消訴訟であり, 当裁判所が取り上げる争点は, 実施可能要件及びサポート要件の充足性の

争点は,1 引用例 2 記載事項の発明該当性の判断の遺脱の有無,2 同発明該当性の判断の誤り及び3 本願発明の進歩性判断の誤りの有無である 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 24 年 5 月 2 日, 名称を 放射能除染装置及び放射能除染方法 とする発明につき, 特許出願 ( 特願 201

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

で, 特許法 29 条 2 項に違反する等, としたものである 記 引用例 1 特開昭 号公報 ( 審判甲 1 本訴甲 4) 引用例 2 特開昭 号公報 ( 審判甲 2 本訴甲 5) イなお, 本件審決は, 引用例 1 には, 引用例 1 発明及び引用例 1 方法

第 1 原告の求めた判決 主文同旨 事実及び理由 第 2 事案の概要本件は, 特許無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である 争点は, 特許法 36 条 1 項 ( サポート要件 ) 適合性, 進歩性, である 1 特許庁における手続の経緯被告 ( 脱退 ) は, 発明の名称を 印刷物 とする特

下 本件特許 という ) の特許権者である 被告は, 平成 23 年 11 月 1 日, 特許庁に対し, 本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした 特許庁は, 上記請求を無効 号事件として審理をした結果, 平成 25 年 9 月 3 日, 特許第 号の

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

平成 24 年 12 月 19 日判決言渡 平成 24 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 24 年 12 月 5 日 判 決 原告株式会社トップ アンド トップ 訴訟代理人弁理士治部卓 被告株式会社東和電機製作所 被告 Y 被告ら訴訟代理人弁理士吉田芳春吉田雅

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

た技術分野の技術を自らの知識とすることができること 論理付けを試みる際には 審査官は 請求項に係る発明の属する技術分野における出願時の技術水準を的確に把握する そして 請求項に係る発明についての知識を有しないが この技術水準にあるもの全てを自らの知識としている当業者であれば 本願の出願時にどのように

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訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

実施可能要件を肯定した審決が取り消された事例

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特許法29条の2の発明の同一性判断における技術常識の参酌知財高判平成18年5月31日(平成17年(行ケ)第10681号)審決取消請求事件〔多層配線基板の製造方法〕

号 以下 本願 という ) をしたが, 平成 23 年 10 月 26 日付けで拒絶査定を受けたので, 平成 24 年 1 月 31 日, これに対する不服の審判を請求するとともに, 手続補正書を提出した ( 以下 本件補正 という ) 特許庁は, この審判を, 不服 号事件とし

特許無効審判の審判請求書における補正の要旨変更についての一考察審判請求後の無効理由の主張及び証拠の追加等に関する裁判例の検討

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

平成 30 年 3 月 28 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 1 月 31 日 判 決 原告株式会社コスメック 同訴訟代理人弁護士井上裕史 冨田信雄 田上洋平 被告パスカルエンジニアリング株式会社 同訴訟代理人弁理士深見久郎

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( 平成 12 年 )9 月 11 日に国際出願をし, 平成 21 年 3 月 12 日付け手続補正書により補正をした ( 以下 本件補正 という 本件補正後の発明の名称 1,1- ビス (4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの製造方法 ) が, 同年 8 月 18 日付け

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

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同訴訟代理人弁護士末吉剛 同訴訟代理人弁理士寺地拓己 主 文 1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 事実及び理由第 1 請求特許庁が無効 号事件について平成 28 年 11 月 7 日にした審決を取り消す 第 2 事案の概要本件は, 特許無効審判請求を不成

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

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第 1 2 事件被告補助参加人 アストラゼネカユーケイ リミテッド 同訴訟代理人弁護士末吉剛 同訴訟代理人弁理士寺地拓己 主 文 1 原告らの請求をいずれも棄却する 2 訴訟費用は原告らの負担とする 事実及び理由第 1 請求 1 第 1 事件特許庁が無効 号事件について平成

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

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7 月 6 日, 米国 ) をし, 平成 26 年 6 月 27 日, 設定の登録 ( 特許第 号 ) を受けた ( 請求項の数 57 以下, この特許を 本件特許 という 甲 28) ⑵ 原告は, 平成 27 年 9 月 9 日, 本件特許について特許無効審判を請求し, 無効 2

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政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

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丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

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1 原告の請求を棄却する 2 訴訟費用は原告の負担とする 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を3 0 日と定める 事実及び理由 第 1 請求特許庁が無効 号事件について平成 27 年 4 月 21 日にした審決を取り消す 第 2 事案の概要 1 特許

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平成 30 年 3 月 28 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 14 日 判 決 原告株式会社 K A L B A S 同訴訟代理人弁護士 櫻 林 正 己 同訴訟代理人弁理士 後 呂 和 男 寺 尾 泰 一 中 山 英

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上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

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4 年 7 月 31 日に登録出願され, 第 42 類 電子計算機のプログラムの設計 作成 又は保守 ( 以下 本件役務 という ) を含む商標登録原簿に記載の役務を指定役 務として, 平成 9 年 5 月 9 日に設定登録されたものである ( 甲 1,2) 2 特許庁における手続の経緯原告は, 平

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1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 22 年 3 月 11 日, 被告が特許権者であり, 発明の名称を 麦芽発酵飲料 とする本件特許第 号 ( 平成 20 年 6 月 11 日出願, 平成 1 6 年 12 月 10 日 ( 優先権主張平成 15 年 12 月 11 日, 平

11総法不審第120号

Transcription:

13/1/23 担当 : 板倉 1 2 3 40 判決日 12.11.13 事件番号 H24( 行ケ )004 担当部 第 3 部 発明の名称 シュープレス用ベルト キーワード 進歩性 事案の概要 無効審判における無効審決の取消訴訟 原告主張の取消事由が認められ 特許庁の審決が取り消された 本件発明は 引用発明と比較して 作用 効果が顕著である ( 同性質の効果が著しい ) として容易想到でないと判示された点がポイント 本件発明の要旨 < 特許請求の範囲の請求項 1 の記載 > 補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり 前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され 外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて 外周面を構成するポリウレタンは 末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤と を含む組成物から形成されている シュープレス用ベルト 審決の理由 本件発明 1は 甲第 1 号証に記載された発明 ( 以下 引用発明 1 という ) と甲第 2 号証に記載された発明 ( 以下 引用発明 2 という ) に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから 無効とすべきである < 本件発明 1と引用発明 1との相違点 > 硬化剤につき 本件発明 1が ジメチルチオトルエンジアミンを含有する ものであるのに対し 引用発明 1は 3 3 -ジクロロ-4 4 -ジアミノジフェニールメタン である点 ( 以下 相違点 A という ) < 相違点 Aに係る判断の要点 > 引用文献 1( 甲第 1 号証 ) では 硬化剤としてMOCAを使用 引用文献 2( 甲第 2 号証 ) には ETHACURE0がMOCA 代替の新硬化剤として紹介 かつ ETHACURE0は発ガン性が指摘されていたMO CAに代わる新しい硬化剤として開発との記載 身体健康上 悪い影響を与えないものを採用することが 優先的に考慮されるべき事柄であることに鑑みると 引用文献 2は 熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明 2を用いることを強く動機づける刊行物 裁判所の判断 < 取消事由 3( 本件発明 1 の容易想到性判断の誤り ) について > (1) 認定事項ア本件発明 1 の概要 ( 省略 ) - 1 -

1 2 3 40 イ引用発明 1の概要引用発明 1は クローズドタイプのシュープレス用ベルトに関するものである ( 0001 ) 従来の 2 本のロール間に張設した無端織物をベースにする製造方法により得たベルトは クロスマシン (CMD) 方向に張力を掛けて使用されるため CMD 方向の寸法変化が生じ易く ベルト寿命を低減させる大きな原因の一つとなっていた ( 0009 ) 引用発明 1は 上記のような欠点を改善し マシン (MD) 方向と共にCMD 方向の強さと CMD 方向の寸法安定性を有する生産性の良好なシュープレス用ベルトを提供することを目的とするもので ( 001 0 ) この目的のために 磨かれた表面を持つ回転可能なマンドレル表面にて形成されたエンドレスの第一樹脂層と 少なくとも交差する一方の糸に高強度糸を用いた織物片を 該高強度糸が前記マンドレルの軸方向に沿うように前記第一樹脂層の外周に全周的に配置してなる基布層と 該基布層の外周に高強度糸を円周方向に螺旋状に巻き込んでなる糸巻層と 該糸巻層の外周にて形成されたエンドレスの第二樹脂層とからなり 該第二樹脂層は前記基布層及び糸巻層を通して前記第一樹脂層に接しているというものであり これにより CMD 方向に充分な強さが発揮できるため 寸法精度の極めて高い安定した走行状態を長時間維持でき また MD 方向にも充分な強さが発揮できるという効果を奏するものである ( 0011 0 039 ) 第一樹脂層及び第二樹脂層の樹脂は 物性面からすると熱硬化性ウレタン樹脂が好ましいとされており ( 0022 ) 実施例では 熱硬化性ウレタン樹脂 ( プレポリマー : タケネートL239 武田製薬製 硬化剤:3 3 -ジクロロ-4 4 -ジアミノジフェニールメタン ) が用いられている ( 00 ) ウ甲第 2 号証の記載事項甲第 2 号証には 熱硬化性樹脂であるポリウレタンの硬化剤に関し 1 代表的ウレタン硬化剤であるMOCA(4 4メチレン-ビス-(2-クロロアニリン )) は 発ガン性が指摘されており より安全性の高い材料が求められてきたこと 2MO CAに代わる新しい硬化剤としてETHACURE0が開発されたこと 3E THACURE0は 3 -ジメチルチオ-2 6-トルエンジアミンと3 -ジメチルチオ-2 4-トルエンジアミンを含むものであり 急性毒性の心配がなく 発ガン性も 突然変異性もない安全な硬化剤であることを特徴としていること が記載されていることが認められる (2) 判断ア上記 (1) によれば 引用発明 1における第一樹脂層及び第二樹脂層を構成する熱硬化性ウレタン樹脂は 硬化剤として 3 3 -ジクロロ-4 4 -ジアミノジフェニールメタン すなわち MOCA(4 4メチレン-ビス-(2-クロロアニリン )) を用いて形成したものであること そのMOCAは 発ガン性が指摘されていたものであり より安全性の高い材料が求められていたこと 甲第 2 号証には MOCAに代わる安全な新しい硬化剤として 3 -ジメチルチオ-2 6-トルエンジアミンと3 -ジメチルチオ-2 4-トルエンジアミンを含む ETHACURE0が開発されたことが記載されていること 以上の事実が認められる そうすると 一見すると 審決が判断するように 甲第 2 号証に接した当業者が 安全性の点からMOCAに代えてETHACURE0を用いることにより本件発明の構成を想到することは容易であるようにも見える - 2 -

1 イしかしながら 引用発明 1は 従来技術において CMD 方向の寸法変化が生じ易く ベルト寿命が低減するという欠点を改善するため MD 方向と共にCMD 方向の強度を高め 寸法精度の高い安定した走行状態を長時間維持できる等の効果を奏する良好なシュープレス用ベルトを提供するというものであり また 引用発明 2は 発ガン性等がない安全な硬化剤を提供するというものである これに対し 本件発明 1は シュープレス用ベルトの外周面を構成するポリウレタンを形成する際に用いる硬化剤として ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生することを防止できるという効果を奏するものであり 特に 以下のとおり 本件特許出願時の技術水準から 当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる すなわち 本件明細書 ( 甲 ) によると 実施例において 幅 mm 長さ 4mmの試験片の長さ方向両端部を把持部材で把持し 中間部内側に直径 2 mmの表面が滑らかな金属製丸棒を当てて張力をかけ 試験片の内面と丸棒との間にノズルから潤滑油を供給しながら 試験片をcmの幅で往復運動させ 試験片の内面と丸棒との間で摺動を繰り返す試験を行い 試験片の表面にクラックが発生するまでの往復回数 ( 耐久回数 ) を測定したことが記載されており ( 0089 ) 同試験は 試験片の内面と丸棒との間で摺動を繰り返すものであり シュープレスを模したものと解されるところ 同試験の結果は 硬化剤として DMTDA( ジメチルチオトルエンジアミン (ETHACURE0)) を用いたサンプル1~ 3と MOCAを用いたサンプル4~6とを比較すると 耐久回数について 後者が 万回 ~90 万回であるのに対して 前者は 万回 ~2 万回であったことが記載されており ( 表 1 ) その差は顕著である 2 3 上記記載によれば 硬化剤として ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより クラックの発生が顕著に抑制されることが認められる そして このような効果について 甲第 1 号証及び同第 2 号証には何らの記載も示唆もなく ほかに このような効果について 本件特許出願当時の当業者が予測し得たものであることをうかがわせる証拠はない そうすると 硬化剤として ジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用いることにより クラックの発生が顕著に抑制されるという効果は 甲第 1 号証及び同第 2 号証からも また 本件特許出願時の技術水準からも 当業者といえども予測することができない顕著なものというべきである - 3 -

1 ウ ( ア ) この点に関し 審決は 甲第 2 号証は 熱硬化性ポリウレタンの硬化剤としてMOCAに代えて引用発明 2を用いることを強く動機づける刊行物といえ るとした上 仮に被請求人 ( 判決注 原告 ) 主張の効果が認められるとしても 引用発明 1において その硬化剤であるMOCAに代えて引用発明 2を用いることは 格別な創作力を発揮することなく なし得るのであるから 前記効果は 単に 確認したに過ぎないものといわざるを得 ないとの見解を示している また 被告は 容易想到性の判断における 動機付け について詳細な主張を展開しているので 以下 この点について検討する ( イ ) まず 甲第 2 号証には 単に 安全性に問題のあるMOCAに代わる新しい硬化剤としてETHACURE0が開発されたこと等 前記認定事項が記載されているにとどまり シュープレス用ベルトについては何ら記載がないから ET HACURE0をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に 安全性以外の点 ( 例えば耐久性 ) についてどのような効果を奏するかは不明である また 証拠 ( 甲 13~16) によれば 安全性の点からMOCAの代替となる硬化剤は ETHACURE0のほかにも数多く開発されていることが認められ その中から特にETHACURE0を選択すべき理由は見当たらない そうすると MOCAに代えてより安全な硬化剤を使用するとしても 上記のように不明な点があり かつ 安全性の点からMOCAの代替となる硬化剤はETHACUR E0のほかにも数多く開発されていることからすれば 当業者がMOCAに代えてETHACURE0を用いることを強く動機付けられるとまでいえるかどうかは疑問である ( ウ ) かえって 証拠 ( 甲 13~16) の記載を子細に検討すれば 当業者であれ 2 ば 安全性の点からは MOCAの代替としては ETHACURE0よりも他の代替品を選択する可能性が高いとの推測が可能である 甲第 13 号証には 熱硬化性ポリウレタンの硬化剤の芳香族ポリアミン成分が数多く列挙されているところ 好ましい芳香族ポリアミンはMCDEA MBOC A DETDAおよびDMTDA 特にMCDEAである と記載されている( 0 018 ) この記載は DMTDA( ジメチルチオトルエンジアミン ) よりも M CDEA(4 4 - メチレン-ビス-(3-クロロ-2 6-ジエチルアニリン )) の方が より好ましいことを示すものと認められる 甲第 14 号証には ETHACURE0を含め MOCAの代替品が複数挙げられているところ その中で Polaroid 社開発 Polacure N 3 o.740mは 安全性のより大きなジアミンといわれている と記載されている (342 頁 8 行 ~343 頁 19 行目 ) 甲第 1 号証には TDI 系ポリウレタンエラストマー用の硬化剤として興味のある他の芳香族ジアミンは4-4 - メチレン-ビス-(3-クロロ-2 6- ジエチルアニリン ) である この材料は Lonzacure M-CDEAの商標 40 名で Lonzaによって製造されている MBCA( 注 :MOCAと同義) に対するこの材料の注目される鍵となる利点は 潜在的に低い毒性と そのエラストマーの優れた動的挙動にある Lonzaは MBCAと異なり M-CDEAはエームズ試験で陰性を示すことに注目している と記載されている (8 頁第 1 段落 ) 甲第 16 号証には MOCA(4 4 -メチレンビス (2-クロロアニリン)) - 4 -

1 2 3 40 の代替として ETHACURE0 Cyanacure 及びPolacur e 740Mが挙げられており これらの変異原性試験を行なった結果について M OCAの代替品であるETHACURE0 Cyanacure 及びPola cure 740Mの中では ETHACURE0が最も発ガン性が高く P olacure 740Mが最も健康上安全であることを示すものと認められる 甲第 13 号証ないし同第 16 号証の上記記載によれば 当業者であれば 安全性の点からは MOCAの代替として ETHACURE0よりも他の代替品を選択する可能性が高いものと推測される ( エ ) さらに 甲第 6 号証には ETHACURE0で硬化したポリウレタンが MBOCA( メチレン-ビス-オルソクロロアニリン ) で硬化したポリウレタンよりも低い歪でクラックの成長が開始することが記載されており このような記載は シュープレス用ベルトの外周面を構成するポリウレタンにクラックが発生するのを防止することを目的とする当業者が MOCAに代えてETHACURE3 00を使用することを躊躇させる要因となり得る また 甲第 6 号証に記載されている破壊試験 ( 乙 の7 頁 16 行 ~8 頁 3 行 ) は 通常の引張試験機によるものであり ( 乙 の4 頁 17 行 ~ 頁 6 行 ) シュープレス用ベルトの使用環境 ( 本件明細書 0002 0004 ) とは異なるものであるから 甲第 6 号証の破壊試験の結果が直ちにシュープレス用ベルトにおけるクラックの発生 生長状況を反映するものとみることはできない ( そのため 上記記載が MOCAに代えてETHACURE0を採用することの阻害要因となるとまでいうことはできない ) ものの 当業者が上記のような記載に接すれば MOCAに代えてETHACURE0を採用することに消極的になるものと考えられる ( オ ) 以上によれば 甲第 2 号証に接した当業者が安全性の点からMOCAに代えてETHACURE0を用いることを動機付けられることがあるとしても E THACURE0をシュープレス用ベルトの硬化剤として使用した場合に 安全性以外の点 ( 例えば耐久性 ) についてどのような効果を奏するかは不明である上 安全性の点からみても他にも選択肢は多数あり その中から特にETHACURE 0を選択する理由はなく かえって 他の代替品を選択する可能性が高いといえるため ETHACURE0の使用を強く動機付けられるとまでいうことはできない 以上によれば 本件発明 1は 引用発明 1 及び引用発明 2に基づいて 当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は誤りであり 審決は違法であるから取消しを免れない 所感 裁判所の判断は妥当だと考える 本件は 当業者といえども予測することができない顕著な効果 によって進歩性ありと判断された この点 本件発明 1は 実施例の表 1のように 比較例と比べて耐久回数に明らかな相違があったため 顕著な効果が認められやすい事案だったと思う - -

本件と同様に顕著な効果が認められた事案として 11.11. H23( 行ケ ) 018 うっ血性心不全の治療へのカルバゾール化合物の利用 がある この事案では 以下の根拠に基づき顕著な効果が認められた 本願 : 虚血性心不全患者にカルベジロールを投与することによる死亡率の減少が 67% 公知文献 : 虚血性心不全患者にACE 阻害薬を投与することによる死亡率の減少が19% 以上 - 6 -