小児の難治性てんかん症候群 ウエスト症候群 / レット症候群の原因遺伝子 CDKL5 の欠損が大脳の興奮性を異常亢進するメカニズムの一端を解明 1. 発表者 : 田中輝幸 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学分野准教授 ) 奥田耕助 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

生物時計の安定性の秘密を解明

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

学位論文の要約

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統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

平成14年度研究報告

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2014年

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

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( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

PowerPoint プレゼンテーション

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

論文の内容の要旨

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

の遺伝子の変異が JME 患者家系で報告されていますが ( 表 1) これらは現在のところ 変異の報告が一家系に留まり多くの JME 家系では変異が見られない もしくは遺伝学的な示唆のみで実際の変異は見つかっていないなど JME の原因遺伝子とはまだ確定しがたいものばかりです 一方 JME の主要な

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

Microsoft Word CREST中山(確定版)

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム


なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

4. 発表内容 : 研究の背景 国際医療福祉大学臨床医学研究センター郭伸特任教授 ( 東京大学大学院医学系研究科講師 ) らの研究グループは これまでの研究の積み重ねにより ALS では神経伝達に関わるグ ルタミン酸受容体の一種である AMPA 受容体 ( 注 4) の異常が運動ニューロン死の原因で

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

学位論文名 :Relationship between cortex and pulvinar abnormalities on diffusion-weighted imaging in status epilepticus ( てんかん重積における MRI 拡散強調画像の高信号 - 大脳皮質と視

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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小児の難治性てんかん症候群 ウエスト症候群 / レット症候群の原因遺伝子 CDKL5 の欠損が大脳の興奮性を異常亢進するメカニズムの一端を解明 1. 発表者 : 田中輝幸 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学分野准教授 ) 奥田耕助 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学分野博士 ) 水口雅 ( 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学分野教授 ) 小林静香 ( 東京大学医科学研究所基礎医科学部門神経ネットワーク分野助教 ) 真鍋俊也 ( 東京大学医科学研究所基礎医科学部門神経ネットワーク分野教授 ) 2. 発表のポイント : 小児の難治性てんかん症候群 ウエスト症候群 ( 注 1)/ レット症候群 ( 注 2) の原因遺伝 子 CDKL5 を欠損させたマウスを作製し このマウスでは大脳の興奮性シナプス ( 注 3) に おいて興奮伝達を担う受容体の一型が過剰集積することで ニューロンの興奮性が亢進し 痙攣感受性が異常亢進することを明らかにしました これまで CDKL5 遺伝子変異によるてんかんの発症機序は全く分かっていませんでした 本 研究は世界で初めて CDKL5 欠損が大脳の興奮性を異常亢進するメカニズムの一端を明ら かにしたものです 本研究は更に 過剰集積する受容体蛋白に対する阻害薬が CDKL5 欠損マウスのニューロン の興奮性と痙攣感受性の亢進を効果的に抑制することを示しました これらの成果は 興奮 性シナプス受容体を構成する蛋白質に特異的に作用する薬物が CDKL5 変異によるてんかん の治療原理となる可能性を示し 今後の治療法開発への重要な基盤となるものです 3. 発表概要 : CDKL5 遺伝子の変異は ウエスト症候群 / レット症候群という小児の難治性てんかん症候群 を引き起こしますが これまでその発症機序は全く分かっていませんでした 東京大学大学院医学系研究科発達医科学分野の田中輝幸准教授 奥田耕助博士らは CDKL5 を欠損させた Cdkl5 ノックアウト (KO) マウスを作製し 東京大学医科学研究所神経ネッ トワーク分野の小林静香助教 真鍋俊也教授 北里大学医学部解剖学教室の深谷昌弘講師 阪 上洋行教授らとの共同研究によって このマウスでは大脳の興奮性シナプスにおいて興奮性神 経伝達物質を受け取る受容体の一型 (GluN2B タイプ NMDA 型 )( 注 ) が過剰集積すること で ニューロンの興奮性が亢進し 痙攣感受性が異常亢進することを明らかにしました 更に 過剰集積する受容体蛋白に対する阻害薬が Cdkl5 KO マウスのニューロンの興奮性と痙攣感受 性の亢進を効果的に抑制することを示しました 本研究は世界で初めて CDKL5 欠損が大脳の興奮性を異常亢進するメカニズムの一端を明 らかにすると共に 興奮性シナプス受容体を構成する蛋白質に特異的に作用する薬物が CDKL5 変異によるてんかんの治療原理となる可能性を示し 今後の小児難治性てんかんの分 子病態機序と効果的治療法の解明への重要な基盤になるものです 本研究成果は 学術誌 Neurobiology of Disease (217 年 7 月 6 日オンライン版 ) に掲載されまし た. 発表内容 :

(1) 研究の背景 Cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5) 遺伝子は Xp22 領域に位置し セリン スレオニン キ ナーゼ CDKL5 蛋白質をコードします 近年 小児の早期発症難治性てんかん症候群である X 連鎖性ウエスト症候群及びレット症候群の患児において CDKL5 遺伝子変異の報告が相次ぎ 最近の研究では 早期痙攣発作を発症した女児の 8 16% 早期痙攣発作に点頭てんかんを伴 った女児の 28% において CDKL5 遺伝子の変異か欠失が同定されています しかしその臨床的 な重要性に拘わらず CDKL5 遺伝子変異によるてんかんの発症機序はこれまで全く分かって いませんでした (2) 研究の内容 東京大学大学院医学系研究科発達医科学分野の田中輝幸准教授 奥田耕助博士らは CDKL5 を欠損させた Cdkl5 ノックアウト (KO) マウスを作製し 東京大学医科学研究所神経ネットワー ク分野の小林静香助教 真鍋俊也教授 北里大学医学部解剖学教室の深谷昌弘講師 阪上洋行 教授らと共同研究を行ってきました その結果 Cdkl5 KO マウスにおいて 1 NMDA( 注 5) という興奮性アミノ酸に対して強い痙攣感受性 ( 図 1) 2 海馬 CA1 領域の電気生理学的解析によって 1Hz, 1 秒間刺激に対する長期増強 (LTP) 試験における興奮性シナプス後電位 (EPSP) の増強 NMDA 型受容体を介した興奮性シナプス 後電流 (NMDA-EPSC) / AMPA 型受容体を介した興奮性シナプス後電流 (AMPA-EPSC) の比 (NMDA/AMPA EPSC ratio) の増加 NMDA-EPSC の減衰時定数の増大 NMDA-EPSC の GluN2B 選択的阻害薬による強い抑制 3 海馬シナプス蛋白の生化学的解析によって 興奮性シナプス後部における NMDA 型受容 体サブユニット蛋白の一つ GluN2B 及び足場蛋白 SAP12 の有意な増加 ( 図 2) 海馬の免疫組織化学および免疫電子顕微鏡解析によって 興奮性シナプス後部における GluN2B 及び SAP12 の有意な過剰集積 ( 図 3) 5 シナプス前ニューロンの活動性を反映する興奮性シナプス後部の GluN1 C2 /C2 比及びユビ キチン化には変化なし 6 GluN2B 選択的阻害薬による NMDA 痙攣感受性の抑制 ( 図 ) という 注目すべき所見が得られました これらの研究結果から CDKL5 欠損は大脳の興奮伝達を司る興奮性シナプスの後部に GluN2B タイプ NMDA 型受容体の過剰集積を来すことで ニューロン興奮性を異常亢進し 痙攣感受性を亢進することが明らかとなりました (3) 社会的意義 今後の予定 本研究によって CDKL5 は 興奮性シナプスにおいて GluN2B タイプ NMDA 型受容体の局 在を制御する機能を持ち それによってニューロンの興奮性と痙攣感受性を調節することが 世界で初めて明らかとなりました 更に GluN2B 選択的阻害薬が Cdkl5 KO マウスの痙攣感受 性とニューロンの興奮性の亢進を効果的に抑制するという結果から 興奮性シナプス受容体を 構成する蛋白質に特異的に作用する薬物が CDKL5 変異によるてんかんの治療原理となる可能 性を示しました 本研究成果は 小児難治性てんかんの分子病態機序と効果的治療法の解明へ の重要な基盤となります 今後更に CDKL5 変異に伴うてんかんの症状の細かい分子メカニズ ムの解明と その治癒と予防のための治療法の開発へ向けて 研究を進めていく予定です 本研究は 科学研究費補助金 包括型脳科学研究推進支援ネットワーク ( 包括脳 ) 厚生労 働科学研究費補助金 ( 障害者対策総合研究事業 ( 神経 筋疾患分野 )) レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究 班 公益財団法人てんかん治療研究振興財団研究助成金 公益

財団法人母子健康協会小児医学研究助成 NPO 法人レット症候群支援機構研究助成の支援を 得て行われました 5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Neurobiology of Disease(217 年 7 月 6 日オンライン版 ) 論文タイトル :CDKL5 controls postsynaptic localization of GluN2B-containing NMDA receptors in the hippocampus and regulates seizure susceptibility 著者 :Kosuke Okuda*, Shizuka Kobayashi*, Masahiro Fukaya, Aya Watanabe, Takuto Murakami, Mai Hagiwara, Tempei Sato, Hiroe Ueno, Narumi Ogonuki, Sayaka Komano-Inoue, Hiroyuki Manabe, Masahiro Yamaguchi, Atsuo Ogura, Hiroshi Asahara, Hiroyuki Sakagami, Masashi Mizuguchi, Toshiya Manabe, Teruyuki Tanaka** (* 共同第一著者 ** 責任著者 ) DOI: 1.116/j.nbd.217.7.2 アブストラクト URL:https://doi.org/1.116/j.nbd.217.7.2 6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻発達医科学分野 准教授田中輝幸 ( たなかてるゆき ) Tel: 3-581-3516 ( 直通 ), 3-581-3515 ( 教室代表 ) / Fax: 3-581-3628 ( 教室代表 ) E-mail: tetanaka@m.u-tokyo.ac.jp 7. 用語解説 : ( 注 1) ウエスト症候群 主に乳児期 生後 3-11 ヵ月に発症する難治性のてんかんで別名 点頭てんかん とも呼ば れる 出生 1 万に対し 1 7 の発生率 てんかん発作は スパズム 別名 点頭てんかん発 作 と呼ばれる 1 から 3 秒程度の短い時間に四肢と頭部が瞬間的に強直する ( 力が入る ) 特 異な発作が数秒 数十秒毎に繰り返し続く この繰り返しをシリーズ形成と呼び 1 日何回も シリーズ形成が出現する 脳波検査でヒプスアリスミアと呼ばれる著しく乱れたてんかん性異常波が特徴的で 多くの患者では精神運動発達の顕著な遅れを認める 小児慢性特定疾患 ( 注 2) レット症候群女児のみに発症する神経発達障害 1 万 1 万 5 千出生女児に 1 人の発生率 乳児期から 1 歳半頃より言語 運動の退行と発達遅滞 もみ手様の常同運動 歩行障害 脳波異常 てんかん発作 情動異常が発症し 生涯持続する 約 8% の典型例は X 染色体上 Methyl CpG binding protein 2 (MECP2) 遺伝子変異による 約 2% の非典型例 ( 早期てんかん発症型 ) の中で Cyclin-dependent kinase-like 5 (CDKL5) 遺伝子変異が同定された 小児慢性特定疾患 ( 注 3) 興奮性シナプス ヒトの脳には約 85 億個のニューロン ( 神経細胞 ) が存在するが ニューロン同士はシナプ スと呼ばれる接合部を介して互いにつながり 信号を伝達していくことで 神経回路を形成し 脳の機能を体現する シナプスでは 2 つのニューロンの突起同士が非常に狭い隙間 (2 nm ナノメートル ) を挟んで対面し 一方の面から神経伝達物質と呼ばれる化学物質が放出され 対面の受容体で受け 取られる この神経伝達物質を放出する側を シナプス前部 ( 放出する側のニューロンは シ

ナプス前ニューロン ) 神経伝達物質を受け取る側を シナプス後部 ( 受け取る側のニュー ロンは シナプス後ニューロン ) と呼ぶ シナプスには シナプス後ニューロンの興奮 ( 活動電位発生 ) を促進させる 興奮性シナプス と シナプス後ニューロンの興奮を抑える 抑制性シナプス がある 興奮性シナプスで は グルタミン酸が神経伝達物質である ( 注 )GluN2B タイプ NMDA 型受容体 興奮性シナプスのシナプス後部には 神経伝達物質 ( グルタミン酸 ) を受け取る受容体が存 在し 大脳では NMDA 型 AMPA 型 mglur 型という 3 種類が主となる AMPA 型受容体 はグルタミン酸が結合すると早い応答性で開口しナトリウム カリウムなどの陽イオンを流 入 流出することで興奮電位を発生し 早い神経伝達を担う NMDA 型受容体はまず AMPA 型受容体によってシナプス後部が興奮するとグルタミン酸に対して応答出来るようになり AMPA 型同様に開口して陽イオンを流入 流出するが AMPA 型との大きな違いとして カ ルシウムイオンを流入する機能がある NMDA 型受容体は つのサブユニット蛋白質が束になった構造で 真ん中のスペースが陽イオンが通過する通路 ( イオンチャネル ) となる つのサブユニットの内 2 つは必須サ ブユニットの GluN1 であるが 残り 2 つは GluN2A, GluN2B, GluN2C, GluN2D, GluN3A, GluN3B の 6 タイプあり 大脳における主な NMDA 型受容体は GluN2A タイプか GluN2B タ イプである GluN2A タイプ NMDA 型受容体と GluN2B タイプ NMDA 型受容体は 機能的 性質が異なり GluN2B タイプ NMDA 型受容体は GluN2A タイプに比べて グルタミン酸に 対する効力がより高く 不活性化の速度がより遅く 更により興奮毒性を生じやすい という 特徴がある ( 注 5)NMDA N- メチル -D- アスパラキ ン酸 NMDA 型受容体に特異的に結合する興奮性アミノ酸 8. 添付資料 :

痙攣スコア 6 5 3 2 1 Cdkl5 +/Y (i) NMDA 52.5 mg/kg 週齢 p <.5 +/Y +/Y +/Y +/Y -/Y -/Y -/Y -/Y -/Y 痙攣スコア 6 5 3 2 1 (ii) NMDA 6 mg/kg 13-15 週齢 p <.5 Cdkl5 +/Y +/Y +/Y +/Y +/Y -/Y -/Y -/Y -/Y -/Y 図 1. Cdkl5 KO マウスは NMDA に対して痙攣感受性が亢進している 興奮性アミノ酸 NMDA の腹腔内投与 (52.5 mg/kg 体重 週齢 ;6 mg/kg 体重 13-15 週 齢 ) に対して 野生型 ( 正常 ) マウス (Cdkl5 +/Y) では痙攣スコア 3 点の軽度ぴくつきを起こす 程度であったのに対して Cdkl5 KO マウス (Cdkl5 -/Y) は 致死性の高い痙攣スコア 6 点の大発作を起こした Mann-Whitney U test Relative protein level normalilzed by actin (% of Cdkl5 +/Y) 18 16 1 12 1 8 6 2 p =.286 p =.8 p =.556 p =.33 Cdkl5 +/Y -/Y +/Y -/Y +/Y -/Y +/Y -/Y PSD-95 GluN1 GluN2A GluN2B p =.9 +/Y -/Y SAP12 図 2. Cdkl5 KO マウスの興奮性シナプス後部において GluN2B と SAP12 蛋白が有意に増加している Cdkl5 KO マウス (Cdkl5 -/Y) と野生型マウス (Cdkl5 +/Y) の海馬からシナプス後部蛋白を分離し ウエスタンブロットによる蛋白質定量を行った結果 Cdkl5 KO マウスでは GluN2B 蛋白量が野生型の 1.57 倍 SAP12 蛋白量が野生型の 1.3 倍に増加していた GluN1, GluN2A, PSD-95 蛋白量には有意な変化がなかった Student s t-test

A Cdkl5 野生型 Cdkl5 KO BCdkl5 野生型 Cdkl5 KO GluN2B PSD-95 SAP12 CA3 CA1 DG 図 3. Cdkl5 KO マウスの海馬シナプス後部において GluN2B と SAP12 が過剰集積している Cdkl5 KO マウスと野生型マウスの 海馬の免疫組織化学 (A) と海馬 CA1 興奮性シナプス後部 の免疫電子顕微鏡 (B) 解析 免疫組織化学解析によって Cdkl5 KO マウスで海馬の GluN2B と SAP12 の免疫反応性が亢進しているのがわかる 免疫電子顕微鏡解析によって Cdkl5 KO マウスの海馬興奮性シナプス後部において GluN2B と SAP12 が過剰に集積していることがわ かる Student s t-test. GluN2B PSD-95 SAP12 GluN1 16 12 8 Cdkl5 +/Y -/Y 6 p =.35 5 3 2 1 Cdkl5 +/Y -/Y 1 p <.1 8 6 2 Cdkl5 +/Y -/Y p =.7 3 2 1 Cdkl5 +/Y p =.31 -/Y 図. Cdkl5 KO マウスの NMDA 誘発痙攣は GluN2B 選択的阻害薬によって抑制される Cdkl5 KO マウスに生理食塩水のみ投与した後 NMDA 誘発痙攣試験を行うと 痙攣スコア 6 の大発作を起こす (ii) それに対し Cdkl5 KO マウスに GluN2B 選択的阻害薬である ifenprodil を投与した後 NMDA 誘発痙攣試験を行うと 野生型マウスに対する NMDA 誘発 痙攣スコア (i) と同等の 痙攣スコア 3 の軽いぴくつきに抑えられた (iii)