2. 認知症を理解しよう (1) 認知症とは? 認知症とは, 脳の細胞が壊れることにより, 日常生活に支障をきたす 身近な病気です いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまい, 神経のネットワークが壊れてしまうことによって脳の働きが悪くなり, 記憶障害や理解 判断力 の低下など様々な症状が現れます 認知症を正しく理解することにより, 早期発見 早期診断につながり, 早期から適切な治療や介護サービスを受けることで, 認知症の症状の進 行を遅らせることが期待できます 老化による物忘れと認知症の違い 老化による物忘れ ご飯のメニューなど体験の一部を忘れる 物忘れを自覚している 認知症の物忘れ ご飯を食べたことなど体験したこと自体を忘れる 物忘れの自覚に乏しい 時間, 場所, 人との関係がわかる 時間, 場所, 人との関係がわからなくなる 判断力の低下はみられない 判断力が低下する 日常生活に支障はない 日常生活に支障が出る 認知症のサイン ( 例 ) 同じことを何度も言ったり聞いたりする 物の置き忘れ, 紛失が多くなった 以前にはあった関心や興味が失われている ( 例 : 毎週見ていたドラマのストーリーが理解できず, 見なくなった ) 慣れているところで道に迷った 今までできていた仕事や家事がこなせなくなった 2
(2) 認知症の主な特徴と病名 ( 脳の病変によるもの ) 認知症は, 大きく分けて治るものと治らないものがあります 治る認知症の代表例は, 甲状腺機能低下症やビタミン B12 の欠乏症, 慢性 硬膜下血腫等による認知症があげられます このような治療可能な認知症は 1 割程度と言われています 治らない認知症としては, アルツハイマー型認知症が一番多く, 全体の約 6 割, 次に脳血管性認知症が約 2 割, 続いてレビ - 小体型認知症, 前頭側頭 葉型認知症などがあります アルツハイマー型認知症 脳の神経細胞が少なくなり, 脳全体が萎縮します 物忘れから始まり, 進行していくうちに物事の判断が難しくなり, ミスが重なったり, 時間や人, 場所がわからなくなるなど, 生活で支障が出てくるようになります 比較的女性に多く見られます 脳血管性認知症 脳梗塞, 脳出血, 脳動脈硬化などにより脳の血管がダメージを受け, 一部の神経細胞が死んだり, 神経細胞のネットワークが破壊されたりします 一部の記憶が保たれる まだら の症状が特徴的ですが, 麻痺などの身体症状が見られることもあります 比較的男性に多く見られます レビー小体型認知症 レビー小体 と呼ばれる特殊なタンパク質により脳の神経細胞が死んで脳全体が萎縮します アルツハイマー型認知症やパーキンソン病に似た症状が見られますが, 初期には物忘れが目立たないほか, 目に見えないものが見えたり ( 幻視 ), 薬や環境の変化に非常に敏感であるという特徴があります 前頭側頭葉型認知症 ( ピック病 ) 脳内で理性をつかさどる前頭葉と, 記憶に重要な関わりを持つ海馬と結びついている側頭葉に萎縮が見られます 初期には物忘れが目立ちませんが, 隣家の花を盗んだり, 店の食品をその場で食べてしまうなどの驚くような行動のほか, 急に性格が変わったと感じられることもあります 3
(3) 認知症の症状脳の細胞が壊れることによって起こるもので, 程度の差はありますがすべての認知症の人に出現する中核症状と, 本人がもともと持っている性格や環境など様々な要因が絡み合って出たり出なかったりする行動 心理症状 (BPSD) があります 行動 心理症状 (BPSD) 睡眠障害 夜眠れなくなり, 昼夜が逆転する 興奮 暴力 大声をあげたり暴力をふるう うつ 興味, 関心が低下する 異食 食べられないものを食べようとする 中核症状 記憶障害 新しいことが覚えられない 体験や出来事を忘れる 見当識障害 時間や場所がわからない 近所で迷子になる 理解 判断力の低下 考えるスピードが遅くなる 実行機能障害 段取りが立てられない 言葉がうまく使えない 幻覚 外出中に道に迷う 見えないものが見えたり, 聞こえたりする 妄想 現実には起きていないことを信じて疑わない 本人なりの理由で外出したが, 道がわからなくなったり外出の目的を忘れてしまい道に迷う これも知っておこう! 軽度認知障害 (MCI) 認知症ではない方と認知症の方の中間にあたる症状に, 軽度認知障害があります 軽度認知障害とは, 認知機能 ( 記憶, 決定, 理由づけ, 実行など ) のうち 1 つの機能に問題が生じてはいますが, 日常生活には支障がない状態のことです 放置すると, 認知機能の低下が続き,5 年間で約 50% の人は認知症へ進行すると言われています 一方, この状態に長期間とどまったり, 正常に戻る人もいます この段階で脳の活性化を図ることや, 運動習慣を身につけることは認知症の予防に非常に重要です 4
(4) 認知症予防のために心がけて欲しいこといかに認知症発症のリスクを少なくするかが大事です 生活習慣病の予防と改善 生活習慣病 ( 高血圧 高脂血症 糖尿病など ) の予防 改善は日常生活を見直すことが重要です < 例えば> 野菜, 魚介類, 果物を中心に塩分を控えた栄養バランスの良い食生活 生活習慣病の予防のための適度な運動を継続的に行う 適度な運動と休養 普段から 1 日に 30 分程度のウォ - キングや水泳などの有酸素運動を行うこと, 睡眠のリズムを整えることが効果的と言われています < 例えば > 昼寝をする場合は短く ( 午後 1~3 時の間に 30 分程度 ) 夕方の時間 ( 午後 4 時前後 ) に適度な運動を行う 脳の活性化を図る 普段から日常の家事や自分の身の回りのことは, できるだけ自分で行うことが大切です また, できる限り家族や友人と楽しい会話を毎日できるように心がけることも大切です 新しいことをしてみるのもよいとされています < 例えば > 計画を立てて行動する ( 旅行 散歩など ) 植物や動物の世話をする ( 園芸など ) 頭を使うゲームをする ( 囲碁 将棋 麻雀 トランプなど ) 5
(5) 認知症の治療認知症は徐々に進行する病気ですが, 早くから認知症に気づき, 医療機関を受診して薬による治療 ( 薬物療法 ) を受けることにより, 進行をゆるやかにできる場合があります また, デイサービス等での他人とのコミュニケーションやゲームなどにより, 家庭生活にはない刺激を与え, 頭や心の活性化を図る方法 ( 非薬物療法 ) もあります いずれにしても, 早期から適切な治療を受けて病気の進行を遅らせることにより, ご家族と一緒に過ごす時間を長くすることや, 介護者の負担を軽減することが期待できます 軽 認知症の症状 時間の流れと認知症の症状 加齢による物忘れ 治療した場合 重 時間の流れ 治療しない場合 ( アルツハイマー型認知症 ) 認知症は, 早期診断 早期治療が大切です! 1 治療すれば治る認知症があります 2 認知症発症後のことを本人の意思や希望により決めることができます 3 家族の方が介護についての情報を集めるなど, 早くから準備することができるため, 本人の生活の質を維持できます 6