April 21,2015 原子力委員会定例会合同庁舎 8 号館 5 階 C 会議室 - 福島における放射線リスク評価と管理その壁は何か - 中西準子 ( 国 ) 産業技術総合研究所名誉フェロー横浜国大名誉教授

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資料2

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放射線とは 物質を通過する高速の粒子 高いエネルギーの電磁波高いエネルギの電磁波 アルファ (α) 線 ヘリウムと同じ原子核の流れ薄い紙 1 枚程度で遮ることができるが エネルギーは高い ベータ (β) 線 電子の流れ薄いアルミニウム板で遮ることができる ガンマ (γ) 線 / エックス (X) 線

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福島原発事故はチェルノブイリ事故と比べて ほんとうに被害は小さいの?

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食品安全委員会はリスク評価機関 厚生労働省農林水産省 食品安全委員会消費者庁等 リスク評価 食べても安全かどうか調べて 決める 機能的に分担 相互に情報交換 リスク管理 食べても安全なようにルールを決めて 監視するルを決めて 2

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公開シンポジウム「社会が受け入れられるリスクとは何か」講演資料

放射線被ばくによる小児の 健康への影響について 2011 年 5 月 19 日東京電力福島原子力発電所事故が小児に与える影響についての日本小児科学会の考え方 本指針を作成するにあたり 広島大学原爆放射線医科学研究所細胞再生学研究分野田代聡教授の御指導を戴きました 御尽力に深く感謝申し上げます

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東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故直後の平成 23 年 3 月 17 日には 原子力安全委員会の示した指標値を暫定規制値として設定し 対応を行ってきました 平成 24 年 4 月 1 日からは 厚生労働省薬事 食品衛生審議会などでの議論を踏まえて設定した基準値に基づき対応を行っています 食品

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Microsoft PowerPoint - 資料6 福島県県民健康調査「甲状腺検査」の現状について

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(審31)資料5-1 住民意向調査の結果及び住民帰還等に向けた取組について

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内部被ばくの危険性


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降下物中の 放射性物質 セシウムとヨウ素の降下量 福島県の経時変化 単位 MBq/km2/月 福島県双葉郡 I-131 Cs Cs-137 3 8,000,000 環境モニタリング 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 震災の影響等により 測定時期が2011年7

1 放射線のホント ってほんとうなの? (中略) 放射線のホント 1 頁甲状腺がんの多発 作業員の肺がん死 被ばくに安全な量はない など 放射線そのものが人々を苦しめています 放射線のホント は放射能影響を風評被害にスリ替えています 放射線のホント 原文を読みながら問題点を考えてみました

2 チェルノブイリ事故でどんなことが起こったか ( いろんな報告があるが 国連の会議で検討した結果 2008 年に発表された内容による ) ⑴ 緊急作業従事者 134 人が重篤な被ばくにより急性放射線障害を発症した このうち 28 名は致命的な被ばくであった ( 皮膚障害 白内障 ) ⑵ 復興作業員

等価線量

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防護の原則 放射線防護体系 科学的知見の収集 評価 放射線安全基準策定 原子力 放射線安全行政 放射線影響研究放射線安全研究 各国の委員会の報告書 ( 全米科学アカデミー (NAS) 等 ) 国際機関世界保健機関 (WHO) 国際労働機関 (ILO) 経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA)

ころにも初期の避難地域と同程度に汚染されている地域が存在することが明らかになり 政府に対する住民の不信と非難の声が高まった その頃 他国のメディアや市民が汚染現地を訪ねることができるようになってきた 化学物質による世界の環境汚染の現場を訪れ 独自の視点で調査研究していたサイエンスライターの綿貫礼子が

2. 調査対象 国道 114 号等を自動車で通行する運転手等の被ばく線量 国道 114 号等で 事故 車両の故障等のために車外に待機した運転手等の被ばく線量 3. 調査方法 (1) 調査対象区間 ( 図 1) 経路 1: 国道 114 号川俣町 / 浪江町境界付近 ~ 浪江 IC 付近 [27.2k

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福島県立医科大学復興基本構想 計画 福島県復興計画 医療拠点しての復興基本構想 計画 県民の心身の健康を守るプロジェクト 県民の健康保持 増進 地域医療の再構築 最先端医療提供体制の整備 被災者等の心のケア 1 福島県 県民健康管理調査 2 最先端診断 治療拠点整備による早期診断 早期治療 医療関連

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IAEA Report DOC

防護一般課程 (10 日間コース ) シラバス 各科目の時間配分とキーワード 講義 放射線防護の原則と安全基準 [90 分 ] 放射線防護の考え方 安全基準の考え方 放射線の物理学 (1)(2) [90 分 x2] 原子構造 放射線と物質との相互作用 単位 放射線計測 (1)(2) [90 分 x2

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中間指針第四次追補に関するQ&A集


放射線による健康影響の仕組み 低線量の健康影響 問 9 放射線はどのように私たちの健康に影響するのですか? また どの位の量の放射線によって どのような健康影響が出るのですか? p13 問 10 低線量 とはどの位の量の放射線のことを言うのですか? p14 問 11 低線量の健康影響は どこまで解っ

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

避難指示解除と帰還に向けた取組 1 田村市 平成26年4月1日 避難指示解除準備区域を解除 避難指示解除から約2年が経過し 解除後の転入等も含めて人口の61 世帯の69 注1 の方が居住 20km圏内 平成28年2月末時点 コミュニティの再生支援等 復興に向けた取組を継続中 避難指示区域の概念図 注

評価 今後の方向性 1 本調査で得られた線量推計結果や当時の行動記録は 事故後 4か月間の外部被ばくに限られたデータであるが 今後被ばくによる健康影響を長期的に見守っていく上での基礎となるものである 2 本調査で得られた線量推計結果 ( 事故後 4か月間の外部被ばく実効線量 :99.8% が5mSv

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Microsoft Word - 抗議文批判文

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損なうレベルではないことも付言する しかし ICRP の仮説 100 ミリシーベルト未満の低線量の領域で いくら被ばくが少なくても健康に影響がある は 多くの研究成果により 科学的に適切ではないことが判ってきた 特に福島原発事故後 福島県民の累積総被ばく推定量をもとにがんでの死亡者が何万人も出ると報

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放射線の基礎と建設機械等の汚染管理 - 正しく知って正しく怖がろう - 第一部第二部 放射線の基礎建設機械等の汚染管理 2011 年 12 月 5 日日本原子力研究開発機構福島技術本部復旧技術部技術主席兼遠隔操作技術室長川妻伸二 1

講義の内容 放射線の基礎放射線の単位低線量被曝のリスク放射線防護

中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会(第49回)

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福島県では 東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ 県民の被ばく線量の評価を行うと共に 県民の健康状態を把握し 疾病の予防 早期発見 早期治療につなげ もって 将来にわたる県民の健康の維持 増進を図ることを目的とし 県民健康調査 を実施しています 県民健康調査では全県

被ばくの経路 外部被ばくと内部被ばく 宇宙や太陽からの放射線 外部被ばく 内部被ばく 呼吸による吸入 建物から 飲食物からの摂取 医療から 医療 ( 核医学 * ) による 傷からの吸収 地面から 放射性物質 ( 線源 ) が体外にある場合 放射性物質 ( 線源 ) が体内にある場合 * 核医学とは

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参考資料 国道 6 号及び県道 36 号に関する帰還困難区域の特別通過交通制度の運用変更について : 通行証確認が不要となるルート : 引き続き通行証確認が必要なルート : 帰還困難区域

福島第一原発事故の避難指示解除の基準をめぐる経緯

報告内容 放射線防護における線量評価の目的 線量の測定 評価の体系 実効線量の概念と線量換算係数の役割 実効線量の評価と放射線モニタリングとの関係 ICRP 2007 年勧告における線量評価に関わる変更点 原子力機構における線量評価研究に関する取り組み まとめ 今後の展望 2

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東電福島原発事故後の放射線防護対策-リスクコミュニケーションの担い手は?-

福島原発とつくばの放射線量計測

QA- 内部被ばくの特徴は どのようなものですか 内部被ばくの特徴として 放射性核種によって特定の臓器に集まりやすいことがあります 特定の臓器についてはこちら * をご参照ください * 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料上巻第 章 ページしかし 体内に取り込まれた放射性物質は代謝によって

愛する飯舘村を還せプロジェクト 負げねど飯舘!! 活動支援金ご協力のお願い これまで 子どもたちのために と 皆さまからお預かりしている支援金は 避難 ( 計画的避難の早期完了 ) や健康管理を含め 未来ある子どもたちを守るための活動に大切に使わせていただきます 今後計画的避難が進むにつれて 私たち

原子力災害対策指針の改悪に反対しよう 毎時 20μSv( 一時移転の基準 ) を計測しても 1 日がまん SPEEDI 等の予測的手法は使わず 実測値による避難指示 被ばく前提の避難 30 km圏外のプルーム対策 (PPA) は必要なし 屋内退避のみ安定ヨウ素剤の準備も不要子どもや妊婦の基準もなし

技術等検討小委員会 ( 第 2 回 ) 資料第 1 号 原子力発電所の 事故リスクコスト試算の考え方 原子力発電 核燃料サイクル技術等検討小委員会 ( 第 2 回 ) 平成 23 年 10 月 13 日 内閣府原子力政策担当室

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課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください


参考資料

放射線とは

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( 子ども甲状腺ガンの増加が止まらない, 検査が進めば更に増える可能性大 ) ( 良性とされた子どもの場合も, それが甲状腺切除後に判明している ) 一次検査結果確定者の約 0.7% が二次検査を受け, そのうちの約 5.6% が悪性判定 ここから, 今後確認するであろう悪性の子ども甲状腺ガン (

の本質は, 原告らが, 放射線への恐怖や不安を感じ, 避難するか留まるかという選択を迫られたということにあり, これらの勧告 報告による科学的知見は, 避難を選択したことが通常人を基準として合理的な判断と言えるのかを評価する上での前提事実の1つに位置付けられるものである 第 2 ICRP 勧告とLN

放射線量(マイクロシーベルト)と身を守る対応について.doc

った 3 ヶ国の政府からの情報をもとに更新し チェルノブイリ事故の健康影響および特別ヘルスケア プログラム (Health Effects of the Chernobyl Accident and Special Health Care Programmes) と題する WHO 報告書をまとめた

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April 21,2015 原子力委員会定例会合同庁舎 8 号館 5 階 C 会議室 - 福島における放射線リスク評価と管理その壁は何か - 中西準子 ( 国 ) 産業技術総合研究所名誉フェロー横浜国大名誉教授

1. リスク軽減策とその効果 2

第 1 次モニタリング (2011.4.29) 線量率と福島第一原発から 80km 圏内の福島県の人口 1,200,000 120 人口は 2010 年度国勢調査より 1,000,000 100 人: 特別除染区域外 800,000 口(: 特別除染区域内 600,000 万人)400,000 200,000 0 空間線量率 0.95 0.95-1.9 1.9-3.8 3.8 7.6 > 7.6 0-0.95 0.95-1.9 1.9-3.8 3.8-7.6 > 7.6 (μsv/h) 年間被ばく線量 0-2.5 2.5-5 5-10 10-20 > 20 (msv/y)* 3 * 換算係数 0.3とした場合 中西準子 (2014)

健康リスク軽減のために何が実施されたか 1. 避難 2. 食品 飲料水規制 3. 除染 4. 環境計測と県民健康管理調査 ( 原子力安全委員会による調査も含む ) 5. リスク管理 リスクコミュニケーション 経路 核種 Cs137 Cs134 ヨウ素 131 内部被ばく 食品 飲料水の規制により軽減 ( 経口 ) 内部被ばく 避難により軽減 - ( 吸入 ) 外部被ばく 避難 除染により軽減 - 4

軽減対策の効果 1) 避難の効果 避難指示区域からの避難により 外部被ばく 吸入による内部被ばく ( 食品による内部被ばく ) によるリスクは大幅に軽減された 避難指示の時期 方法 避難先の選択が適切であったかどうかは検証が必要 しかし 県民健康管理調査の基本調査により 4 ヶ月間の外部被ばく量が 低く抑えられたことが立証されている ( ほとんどが 2mSv 以下で 最高値は 25mSv である ) ただし 避難は暫定的な対策なので 避難後の生活についての対策と評価が必要 屋内退避であるべきだったという意見が強くなっているが 屋内避難指示は ばらばらの自主避難を招いたとの指摘がある 避難者の帰還問題は解決していない 5

2) 食品中放射性物質規制の効果 食品規制はほぼ 100% 実行され 食物起源の内部被ばくはきわめて低く維持された 地域特産品などについて 厳し過ぎるという批判がある 様々な方法で 食品中放射性物質の測定が行われた 不経済で 必ずしもいいとは思えないが 米の全袋検査まで行われた 内部被ばくは ホールボディーカウンターによる検査で低いことが確認されている 食品経由ではないが 内部被ばくでもう一つ重要なのは ヨウ素 131 の吸入による内部被ばくである これは 小児甲状腺がんのリスク予測に欠かせない 6

残されていること 対象放射性物質としては Cs(Cs134 と Cs137) とヨウ素 131 Cs137 Cs134 ヨウ素 131 被ばく経路 内部被ばく ( 経口 ) 内部被ばく ( 吸入 ) 外部被ばく 影響固形がん 小児甲状腺がん 7

3) 除染によるリスク削減と避難後への対応 誰が見ても 除染が失敗であることは明白 その原因は - 除染特別区域 ( 国直轄 )- 除染の目標値が 二転三転し しかも その数値の根拠の説明がない 空間線量率から外部被ばく量を求める計算式に問題があり 2~3 倍高い値になってしまった 全員が元の居住地に帰還するという前提で進めた そのこともあって 町や村が主体で進めたこと 都市計画なき除染 帰還後の生活設計がなかった 除染により生ずる廃棄物への配慮がなかった - 除染実施区域 ( 市町村実施 )- 費用は青天井になり さらに 膨大な廃棄物を生むことになった ( 目標値設定の問題 ) 8

4) 環境計測と健康管理のための検査など 被ばく量調査や 住民の健康管理のための調査が行われ 随時情報が公開されている 福島県 福島県立医大が実施している県民健康調査のなかの 基本調査 ( 事故後 4 ヶ月間の外部被ばく調査 ) は貴重 ( この計算などについて 放医研が担当 ) 事故時 18 歳未満の小児 青年を対象にした甲状腺がん検査が行われているが 残念ながら その結果を知って 不安が増大するという状況になっている 9

5) リスク管理 コミュニケーション 除染および帰還 または移住という問題が 4 年経過しても 先が見えない 基本的にリスク管理の失敗と言っていいだろう 精力的に 市町村主導でリスクコミュニケーションが行われた 廃棄物の仮置き場の設置 焼却炉の設置など 様々な主体 ( 福島県 県立医大 市町村 ) による 健康管理に関する説明会 個人相談などが実施 10

2. リスク評価と管理 11

公衆被ばくの管理基準の提案 -ICRP(2007) 公衆被ばく年間線量 (msv/ 年 ) 年間のがんによる死亡確率 * (10-3 / 年 ) 緊急被ばく状況 100~20 5.5~1.1 現存被ばく状況 ( 自然要因や事故の影響を受けて線量が高い状態 ) 20~1 1.1~0.055 計画被ばく状況 1 0.055 職業被ばく ( 計画被ばく状況 ) は 20 msv/ 年 (5 年の平均値 ) * 厳密には 死亡確率ではない ICRP が定義したがんのリスク 死亡確率は 100mSv で 5.0 10-3 と考えた方がいい 12 中西準子 (2013)

直線しきい値なし (LNT) モデルの模式図 がんによって死亡する人の割合仮定 低線量域 100 自然発生レベル 線量 (msv) 13 中西準子 (2013)

ALARA の原則 ALARA の原則 : すべての被ばくは社会的 経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである という基本精神 ALARA の原則に則ると言うが それは どういう条件を考慮したのかが分からない 結局 IAEA の勧告にしたがって 年 20mSv 以下で 長期的には年 1mSv 以下 としか言っていない これに対し 住民 マスコミ 時には市町村も 年 1mSv 以下が目標だと主張 しかも この 1mSv は 現実には 0.5mSv 程度である これでは 除染は永遠に終わらない 14

LNT についてのよくある解説 ( 放射線影響の専門家集団の考え方 ) LNT は科学 ( サイエンス ) ではない 100mSv 以下のどこを選ぶかはポリシー ( 考え方 ) である LNT は仮説であって 実態ではない LNT は 放射線防護の目的にのみ使うべきで 他のリスクと比較するのは間違い LNT を認めますとは言っているが 100mSv 以下では がんは起きない ( リスクは小さい ) というのがサイエンスの結果であるというメッセージになっている 15

リスクゼロみたいな主張になるのは 二つの理由があると思われる 低線量被ばくでは 遺伝子損傷も修復され 閾値があるにちがいないという考え じわじわと被ばくされる低線量率被ばくでは リスクは小さいにちがいない 今の LNT に対抗するような理論もモデルも提案されていない研究結果もない 低線量率効果の研究は 今後 最も必要とされる研究課題である そうにちがいない みたいな科学者の勘を頼りに リスクコミュニケーションをすれば 混乱すること必定である 16

しきい値なしとリスク受容 低線量率の問題は LNTの勾配の大きさに関することである しきい値なし の仮定は残ると思われるし ともかく 現在は ICRPなどの出しているLNTの構造を認めた上で 政策の議論を詰める必要がある 国が 除染目標値を決めることができないのは それが このリスクを受容してくださいと言いたくないためである 国は年 20mSv 以下ならいいという方針を出しているが その理由として 国際的な合意とか IAEAが主張しているからと述べている ここが 除染問題が解決しない根本である リスクゼロだから安全 のphraseにいつまでも執着 リスクゼロで 原子力利用ができると考えるのが間違っている ある程度のリスクを受容しなければならないということを どのように説明したらいいか 教えてほしいと 市町村の職員 17 から聞かれる これが課題

課題 1. 正々堂々と 一定のリスクを受容しなければならないことを述べる そのための論理を整理する LNT を否定しても解決しない しきい値ありのモデルを使うと むしろリスク管理は非常に難しくなる このことと関連して 放射線障害防止法の見直し 放射線リスク管理と他のリスク管理との比較 リスク管理政策担当部署を作るべきではないか 2. 放射線被ばく線量とリスクとの関係について 特に線量率効果に重点をおいた研究を進める 放射線の健康影響については これまでかなり多額の研究費が投入されている しかし この 4 年間の議論で そういう研究成果が活用されたことはない これまでの研究姿勢を総決算し 疫学研究結果との橋渡しができるような研究をする 目的を明確にした 研究プロジェクト 18

3. リスクコミュニケーション 19

日本では リスク解析のことをリスクコミュニケーションと言うことが多い リスク解析の枠組み リスク評価 科学ベース リスク管理 政策ベース リスクコミュニケーション リスクに関する情報ととりうる手立てについての対話リスク評価 リスク管理 ( 対策 ) 説明 意見交換 フィードバック 20 中西準子 (2014)

リスクコミニュケーション活動は広く実施された そこでは 以下のような内容が説明された 1) 福島での被ばく線量は 一般的に言えば数 msv( 特に食品からの摂取は低い ) 2) 広島長崎の被ばく者の調査から 100mSv 以下の被ばく線量では 固形がんのリスク ( 基本的に死亡率 ) 統計的に有意な差は見られない 3) 自然の被ばく線量 4) 国外に 自然の被ばく線量の高い地域もあるが 特段の健康被害がみられない 5) 医療目的の被ばく線量 6) 喫煙 肥満 野菜不足などによるがんのリスクは 100~2000mSv のリスクに相当 7) 内部被ばくも外部被ばくも シーベルト数が同じなら同じ影響 8) 被ばく者二世 (100mSv 以上も含む ) の調査では 遺伝性影響は見られていない こういう説明をした専門家に対し 激しい非難が浴びせられた それは この程度のリスクは大したことでないと言うために いろいろ理屈を並べていると受け取られたからだろう ただ この内容はある程度は届いていると思う 問題は リスク評価がなく ただ 影響が小さいと言うことに留まったことではないか 21

特に 福島では 以下のような問いが 出された 1) 確率が低くても 自分に何かあったら どうするのですか? 2) 何故 リスクを我慢するのですか? 安全を保証できないのか? 3) なぜ 原状回復を願ってはいけないのですか? 4) 費用がかかる 技術がない それを理由にしていいのですか? 5) おまえがここに住め! 6) トレードオフと言っても こういう状況にしたのは誰ですか? もともとの生活を基準にトレードオフを考えれば 今回の条件の帰還は トータルのリスクもより小さいと言えないではないですか 課題通常のリスクコミュニケーションと大きく異なることが求められる 原子炉の事故後のリスク管理を考えるならば 通常とは異なるリスクコミュニケーションに どう対応するかを考える部署や研究体制が必要だと考える 補償などとの関係を考慮した上で どのリスクレベルで管理することが 妥当かを考える 22 中西準子 (2015)

4. 検診のあり方 住民の健康状態を見守る目的と 放射線被ばく線量と健康影響を把握する目的とがある この点の整理が難しい ( 今回は言及せず ) 小児甲状腺がんの問題も 非常に複雑になっている 23

5. 具体的な例 リスク受容を求めた除染目標値の提案 何を考慮するか 24

除染後空間線量 2014 年 4 月 1 日時点 自然減衰考慮 weathering( 考慮有 / 無 ) 第 4 次航空機モニタリング GIS データ (a) weathering なし Don t Copy (b) weathering20% 減 線量率 (μsv/h) < 0.1 0.1-0.19 0.19-0.38 0.38-0.95 0.95-1.9 1.9-3.8 3.8-9.5 9.5-19 > 19 線量率 (μsv/h) < 0.1 0.1-0.19 0.19-0.38 0.38-0.95 0.95-1.9 1.9-3.8 3.8-9.5 9.5-19 > 19 25 保高 内藤 上坂 八十田 (2014)

除染特別区域における人口 面積 除染費用 ( 市町村別 ) 市町村 人口面積除染費用費用 / 人口 ( 人 ) (km 2 ) ( 億円 ) ( 万円 / 人 ) 川俣町 1,126 37 803 7,130 葛尾村 1,491 84 954 6,398 田村市 383 37 228 5,961 飯舘村 6,198 229 3,526 5,689 川内村 382 59 206 5,400 南相馬市 13,709 171 3,082 2,248 双葉町 6,976 51 1,414 2,027 浪江町 20,426 222 3,797 1,859 大熊町 11,582 78 1,881 1,624 楢葉町 7,650 103 1,086 1,419 富岡町 15,967 68 1,474 923 合計 85,889 1,140 18,449 2,148 26 中西準子 (2014)

除染目標値の提案 ( 中西私案 ) ( 正解はないが 解を見つけるべきだ ) 1.15 年間の集落の平均的被ばく量は 50 msv を超えない 高い地区でも 100 msv を超えない 2.15 年間で 個人線量が長期的目標の 1 msv/ 年を達成できる この条件を満たす 帰還時外部被ばく量は 7 msv/ 年程度であるが 目標値をきりのいい 5 msv/ 年とするこの時 15 年間の累積被ばく量は約 38 msv 30 年間で約 59 msv 個人の条件の違いを考慮して 移住の選択肢を認める 27 中西準子 (2013)

9 8 7 6 5 4 3 90,000 80,000 70,000 累積人口(万人0 60,000 50,000 40,000 除染特別区域の線量率 第 4 次航空機モニタリングデータ ( 文科省 :2011.11.5) をもとに 地理情報システム (GIS) を使用し 2014.4.1 の線量率を予測した値人口は 2010 年度国勢調査より ウエザリングあり (20% 減衰 ) ウエザリングなし 30,000 )20,000 2 追加被ばく線量 5mSv/ 年 10,000 1 0 補正係数 :0.6 係数 :0.3 係数 :0.2 0.19 0.38 0.48 0.95 1.9 2.85 3.8 5.7 7.6 9.5 19 19> 線量率 (μsv/h) 28 中西準子 (2014)

目標値設定に課した条件 1. 現計画の除染が技術的 経済的に限界に近い 2. 累積被ばく量で 100mSv を超えない 3.15 年か 20 年程度 ( 人生の一つの断面 ) で 年 1mSv 以下にできる 4. 帰還人数 5. 他のリスクとの比較 29 中西準子 (2014)

4. の Appendix 小児甲状腺がんについてのデータ 30

悪性ないし悪性の疑いがんと判定 福島県甲状腺検査ベースライン試験結果 (2014 年 12 月 31 日現在 ) 109 人 ( 手術 85 人 良性結節 1 人 乳頭癌 81 人 低分化癌 3 人 ) 84 人 男性 : 女性 38:71 平均年齢 17.2±2.7 歳 (8-21 歳 震災当時 6-21 歳 ) 平均腫瘍径 14.1±7.3mm(5.1-40.5mm) 被験者数 297,046 人 対象者数 367,687 人 31

18 歳以下 (2010 年 )29 万 7 千人に対して がんと診断 = ( 通常の発病者数 ) ( 滞在期間 ) 84 人 1.6 人 52.5 年 スクリーニング効果 : 上乗せ効果 (1~ 数年後に臨床診断されるであろう甲状腺がんを早期に診断する効果 ) 過剰診断効果 : 生命を脅かさないがんを診断する効果 国立がん研究センターの計算 : スクリーニング効果で検出される数が 84 人になるのは 35 歳まで検出した場合 ( これは 今までの統計による計算で 甲状腺がんの有病者数は増加傾向にあるので やや過小評価の傾向がある ) 32

Screening 効果と過剰診断 発見率 = ( 発病率 ) ( 滞在時間 ) ( 感度 ) がん検診のメリットとデメリット メリット デメリット 死亡率の低下 QOLの改善医療費の低下無害診断による安心感 過剰診断 / 過剰診療 擬陽性による不必要な試験擬陰性による治療の遅れ 合併症 祖父江友孝教授から 33 中西準子 (2015)

甲状腺がん検診 そのメリットとデメリット (1) 罹患率が低い DM MR (2) 罹患率が高い DM MR (3) 福島の場合 (3-a) DM MR (3-b) 不安が大きい DM MR 不安解消 DM:Demerit MR:Merit 34

ご清聴ありがとうございました 35