米国特許ニュース AIA102( 条 (a)(1) の出願日前の販売 (on sale) は たとえ販売内容が秘密であっても旧法 102 条 (b) の オンセール と同じで 特許を無効にすると最高裁判決 服部健一米国特許弁護士 2019 年 2 月 HELSINN HEALTHCARE S. A.

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AIA102( 条 (a)(1) の出願日前の販売 (on sale) は たとえ販売内容が秘密であっても旧法 102 条 (b) の オンセール と同じで 特許を無効にすると最高裁判決 服部健一米国特許弁護士 2019 年 2 月 HELSINN HEALTHCARE S. A. v. TEVA PHARMACEUTICALS USA, INC., ET AL. No. 17 1229. Argued December 4, 2018 Decided January 22, 2019 判決原文 Helsinn Healthcare S. A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc. https://www.supremecourt.gov/opinions/slipopinion/18 1. AIA 特許法 102 条 (a) のオンセールバー AIA 前の先発明主義の特許法の旧 102 条 (b) では特許出願より 1 年を越える前に出願人によって発明が販売されていた (on sale) 場合は 例え販売の技術内容が秘密であったとしても先行技術になるオンセールバーであるとして特許を無効していた これはたとえ先発明主義であったとしても 発明を完成させて商業的に販売してからは 1 年以内に出願することを必要とさせ 不当に独占権を引き伸ばさせないためである Pfaff c. Wells Electronics, Inc. 525 U.S. 55, 67 (1998). 発明が 販売のための商業的申し出 で 特許にする準備ができている 場合 それは以前の 102 条 (a) の on sale に相当する Woodland Trust v. Flowertree Nursery, Inc., 148 F. 3d. 1368, 1370 (1998) ( 発明者自身の出願前の発明の商業的使用は 例えそれが秘密であったとしても 102 条 (b) の公共使用 又は販売に該当すると考えられ 特許を得ることはできない ) そして AIA 特許法は先願主義を導入し 102 条 (a)(1) と (b)(1) は下記のような規定になった 1

102 Conditions for patetability;novelty 第 102 条 ( 新法 ) 特許要件 ; 新規性 (a) NOVELTY; PRIOR ART A person shall (a) 新規性 先行技術 be entitled to a patent unless 人は下記の場合を除いて特許を得る権利が ある : (1) the claimed invention was patented, described in a printed publication, or in public use, on sale, or otherwise available to the public before the effective filing date of the claimed invention; or (b) EXCEPTIONS (1) DISCLOSURES MADE 1 YEAR OR LESS BEFORE THE EFFECTIVE FILING DATE OF THE CLAIMED INVENTION-A disclosure made 1 year or less before the effective filing date of a claimed invention shall not be prior art to the claimed invention under subsection (a)(1) if (A) the disclosure was made by the inventor or joint inventor or by another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor (1) そのクレーム発明は 有効出願日前に特許になっていたか 印刷刊行物に記載されていたか 公に使用されていた か 販売されていたか あるいはその他公が利用できるものであったか ; 又は ( 以下省略 ) (b) 例外 (1) クレーム発明の有効出願日前の 1 年以内の開示 ある開示が クレーム発明の有効出願日の前の 1 年以内にあり かつ以下の場合は (a)(1) のクレーム発明に対する先行技術にならない (A) その開示 (disclosure) は 発明者又は共同 発明者又はその発明者あるいは共同発 明者から直接的あるいは間接的に開示さ れた主題を得た他の者によってなされた 場合 ;( 以下省略 ) すなわち 102 条 (a)(1) は有効出願日前の先行技術を列記し その中に旧 102 条 (b) と全く同一の 販売されていた (on sale) が入っている そして 102 条 (b)(1) はその例外として発明者ないし 発明者から発明主題を得た者 ( 出願人等 ) によって 販売されていた 場合は有効出願日前から 1 年以内であれば先行技術にならないという新規性喪失の例外が規定されている これは逆に言うと一年を超えた場合は先行技術になるという意味である 2

問題は 販売されていた 場合とは AIA 特許法の前の旧特許法のようにたとえ技術内容が秘密であってもオンセールバーになるのか あるいは 102 条 (a)(1) の 1~3 5 はすべて技術内容が秘密でなく アクセスできる場合が先行技術であるので 販売されていた 場合も同じ状態の販売に改正されたのかが問題になってきた これは特に 5 その他公が利用可能であった 場合というキャッチオールの項目が追加されたので余計にその可能性が高まっているといえる 2.Helsinn 社の 219 特許この事件では スイスの Helsinn 社はある医薬 Aloxi を完成させてから 2001 年にアメリカの MGI 社に Aloxi のライセンスを与え Aloxi を MGI 社に供給し MGI 社が購入して市販する契約を行った その契約によると MGI 社は Aloxi の内容を一切秘密にして販売することを要求していた 両者はその契約をジャーナリズムに発表し 同時に証券取引委員会にレポートしたが Aloxi の技術的情報は一切公表していなかった ともあれ その販売契約は公開情報となった その販売契約から約 2 年後の 2003 年 1 月に Helsinn 社は米国特許庁に仮出願を行い 約 10 年間に仮出願を優先主張して 4 つの出願を行い 4 つ目の出願は新規事項が入っていたために有効出願日は 2013 年 5 月であり 米国特許第 8,598,219 号 (219 特許 ) となった AIA 特許法は 2011 年 9 月 16 日に成立したため 219 特許は AIA 特許法の特許となった 3. 地裁判決一方 イスラエルの会社である Teva 社は Aloxi と同じ医薬の製造 販売の認可を FDA 局に申請したため Helsinn 社は 219 特許の侵害訴訟を提起した Teva 社は 219 特許は有効出願日より 1 年を超える前に公開された販売があったので AIA 特許法の 102 条 (a)(1) と (b)(1) によりオンセールバーとなるので無効であると争った それに対して Helsinn 社は AIA 特許法は先願主義に改正され 102 条 (a)(1) には 5 その他公が利用可能であった というキャッチオールの項目が追加されたことから販売された技術内容にアクセス可能の場合の販売に限定され MGI 社への販売自体は公開されていても技術は内容は秘密であったのでオンセールバーに該当しないと争った 地裁は Teva 社の主張に同意し AIA 特許法によってオンセールバーは技術内容がアクセスできる販売に修正されたと解釈して技術内容を秘密に保つという秘密保持契約に基づく販売は新 102 条 (a) の先行技術にはならないと判決した 4. CAFC 判決 CAFC は 2018 年 2 月に AIA 特許法の立法の経緯で議会が明確にオンセールバーの規定を修正したという記録はないとしてオンセールバーは従来の定義のままであり 出願前一年を超える前の販売があったので 219 特許は無効であると地裁判決を逆転させた 3

5. 最高裁判決 そして その訴訟の上告で 最高裁は 2019 年 1 月 22 日に AIA 特許法で単に その他公が利用できるものであった という規定を追加しただけでは議会が従来から定められたオンセールバーの定義を変更したとはいえないとして CAFC 判決を以下の理由で支持した AIA 特許法の前の旧法ではオンセールバーは販売が公に行われていれば技術内容が利用可能でなくても成立すると長い間判決してきた よって 議会が AIA 特許法で同じ用語を用いている限りその考えを踏襲してきたと推定できる Shapiro v. US 335 U.S. 1, 16 (1948). 新 102 条 (a)(1) は 旧 102 条 (b) の on sale と全く同じ用語を用いており 新しいキャッチオールの限定として その他公が利用可能である と付け加えた これについて司法省は有識者見解で もし on sale にこれまで既に定着した解釈 意味があり 単に その他公が利用可能である を付け加えただけの場合は on sale の意味を変えたことにはならない と述べている これに対して Helsinn 社は 公が利用可能である という用語の前に その他 (otherwise) という接続詞があるので 関連用語原理 (associated-words canon) の判例に反し 議会は on sale の意味を変えたと主張している Paroline v. U.S. 572 U.S. 434 (2014) その他の判決 しかし それらの判例は解釈が定着した用語を変更した例ではない Helsinn 社はキャッチオール用語にウェートを置きすぎているといえる それらの判例や主張は これまでに定義された on sale という用語をそのまま用いた場合 議会が意味を変えたとするには不十分である よって Helsinn 社 ( 発明者 ) が有効出願日の一年を超える前に MGI 社 ( 第三者 ) に発明を販売し その販売が公に行われていた場合は たとえ発明内容を秘密に保っていても その販売は新 102 条 (a)(1) の on sale の先行技術に該当すると判決する 6. 解説 以上のように AIA 特許法は先願主義になったとしても 有効出願日前の一年を越える発明者自身の販売がたとえその内容にアクセスできない場合であっても 特許が得られなくなるという旧法で定着したオンセールバーをそのまま維持する米国独自のプラクティスは引き継がれることになった 4

米国が AIA 特許法で先願主義を導入した大きな理由は 世界の他国の先願主義に同調させハーモナイゼーションを促進させ 特許の質とコストを改善させるためであった しかし この判決ではその点の議論や考慮は一切無く 米国での on sale の定着した解釈に拘泥して判決して 国際協調の姿勢を一切示さず ハーモナイゼーションは一歩後退したと言えよう その理由は 米国は判例法の国であり オンセールバーの詳細な解釈は裁判所が判決で決定してきたので それを変更するためには議会が変えたという明確な証拠が必要なためである 101 条 (a)(1) に単に その他公が利用できるものであった というキャッチオールの限定が不可されただけでは十分ではないとした ともあれ そのような販売が発明者自身の秘密販売でなく 第三者が秘密販売した場合は それは発明者の特許を無効にしない可能性が強い その理由は その販売の技術内容には公がアクセスできないので一般先行技術ではなく 且つ発明者の特許を延長するようなことにはならないからである 但し この点にはまだ判例は無いので今後の課題である また 現在の MPEP 2152.02(d) には AIA 特許法 102 条 (a) の on sale は その他公が利用できるものであったか というキャッチオールの限定から秘密の販売は含まれないであろう という記載があるがこれはまもなく削除されるか修正されるであろう 5