基礎自治体への期待と不安 第1回 地方分権改革:国から地方へ

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地方分権の推進に関する意見書 豊かな自治と新しい国のかたちを求めて 地方財政自立のための 7 つの提言 平成 18 年 6 月 7 日地方六団体 全国知事会全国都道府県議会議長会全国市長会全国市議会議長会全国町村会全国町村議会議長会

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県と市町村の役割分担の基準

日本の地方自治その現状と課題

平成 26 年地方分権改革に関する提案募集要項 内閣府地方分権改革推進室 1 趣旨内閣府地方分権改革推進室では 地方分権改革に関する提案募集の実施方針 ( 平成 26 年 4 月 30 日地方分権改革推進本部決定 ) に基づき 地方分権改革に関する全国的な制度改正に係る提案を募集します 2 提案の主

H28秋_24地方税財源

地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(第7次地方分権一括法)の概要

市町村における住民自治や住民参加、協働に関する取組状況調査

資料 1 税財政制度を通じた論点 Ⅰ 現状と課題 1. 地方財政の財政の概要 地方財政の平成 23 年度決算は 歳入約 兆円 歳出 97.0 兆円となっている なお 借入金残高は約 兆円と依然と高い水準にある 国と地方における最終支出ベースにおける比率は 42:58 となって

市町村合併の推進状況について

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平成 27 年地方分権改革に関する提案募集要項 内閣府地方分権改革推進室 1 趣旨内閣府地方分権改革推進室では 地方分権改革に関する提案募集の実施方針 ( 平成 26 年 4 月 30 日地方分権改革推進本部決定 ) に基づき 地方分権改革に関する全国的な制度改正に係る提案を募集します 2 提案の主

9 地方歳入中に占める地方税収入の割合の推移 ( その 1) 区 都道府県 分 昭和 2 年度昭和 5 年度昭和 10 年度昭和 15 年度 金額比率 % 金額比率 % 金額比率 % 金額比率 % 地方税

03-1知事会提言かがみ文

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資料 1

Taro-★【2月Ver】01~05. ⑲計

スライド 1

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

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☆表紙・目次 (国会議員説明会用:案なし)

資料 5 自治体クラウド推進 業務改革について 平成 27 年 9 月 14 日

報告事項     平成14年度市町村の決算概要について

平成 25 年 4 月 30 日 補助金のあり方に関するガイドライン 函館市 平成 25 年 4 月

つに分けて契約した事態について内部牽制が機能していなかった イ 監査の状況 監事 監査室 経理課総務監査係等 公認会計士の各監査機関等において 監査対象の重複 漏れが極力生じないよう 各監査機関等が監査計画を調整するなどして 効率的 効果的な監 査を行うことが必要だが いずれの監査機関等も 本件の契

税源配分及び財政調整 < 税源配分 > 特別区と大阪府の事務分担に応じて財源を配分するとともに 特別区間の税源偏在の解消を図るために必要な税財源を大阪府の税源として配分 特別区税 大阪府が賦課徴収する税を除く市町村税( 個人市町村民税 市町村たばこ税 軽自動車税等 ) 大阪府税 市町村税のうち法人市

NEWS 2020 速報 の一部を改正する法律案 REPORT 総会の様子 2025 GDP 3 02 vol

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いる 〇また 障害者の権利に関する条約 においては 障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている 〇一方 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度 ( いわゆる欠格条項 ) については いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン ( 社会的包摂 ) を基本理念とする成年

別添資料 1 日本再興を支える地方税財政の確立に向けて 都市からの提言 真の地方自治は 地方自治体が自らの権限とそれに見合う財源により 主体的に行財政運営を行うことで初めて実現できるものである 一方で 地方財政は 年間約 10 兆円に上る巨額の財源不足が生じているほか 国と地方の歳出比率と税収比率が

案件1(1)第7次一括法等について(一覧付き)

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2 都市的税目に乏しい市町村税 市町村税は 法人所得課税 消費 流通課税といった経済活動を反映する都市的税目に乏しいため 増大する都市的財政需要に市税収入が対応しきれない大きな要因となっています 都市的税目の割合比較 ( 平成 22 年度 ) 100% 80% 37.7% 34.9% 60% 資産課

スライド 1

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地域主権改革をめぐる動向 (2012 年 1 月 ~6 月 ; 野田改造内閣 ) 1 13 野田佳彦改造内閣が発足 1 13 森全国市長会長 長岡市長 内閣改造に対するコメント 1 17 第 30 次地方制度調査会第 3 回総会 今後の審議事項について 1 19 民主党大都市制度 WT 会合 大阪都

障害者自立支援法等の一部を改正する法律案の概要

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長期総合計画の計画的推進について < 部経営上の課題 取組方針 > H19 年度の各部の経営上の課題 取組方針の協議 < 行政改革 > 財政 人事など経営資源の現状分析 把握 課題についての対処方法の検討 行政改革実施計画の見直し <サマーレビュー > 懸案施策 事業の協議 < 実施計画 > 今後

1 地域主権改革 Q1-6 市町村の人口規模はどのぐらいが適正かについて どういう議論があるのですか A1-6. 市町村の適正な人口規模について 大阪府自治制度研究会 においては 次のような検証 とりまとめがされています 検証 効率的な行政運営 備えるべき組織体制 望ましい行政サービス提供の 3 つ

により 都市の魅力や付加価値の向上を図り もって持続可能なグローバル都 市形成に寄与することを目的とする活動を 総合的 戦略的に展開すること とする (2) シティマネジメントの目標とする姿中野駅周辺や西武新宿線沿線のまちづくりという将来に向けた大規模プロジェクトの推進 並びに産業振興 都市観光 地

参考資料 5 用語集 SPC( 特別目的会社 ) SPC(Special Purpose Company) は特別目的会社ともいわれ プロジェクトファイナンスにおいては 特定のプロジェクトから生み出されるキャッシュフローを親会社の信用とは切り離す事がポイントであるが その独立性を法人格的に担保すべく

事務 権限名事務 権限の概要 事務量 ( アウトプット ) No.2 土地家屋調査士試験の実施 目的 土地家屋調査士となる資格を有する者は, 主に土地家屋調査士試験に合格した者であるため, 法務大臣は, 毎年 1 回, 土地家屋調査士試験を実施している 根拠法令 土地家屋調査士法, 土地家屋調査士法

浜田市事務事業の外部化 ( 民間委託等 ) に関する指針 の 策定について 平成 25 年 5 月浜田市行財政改革推進本部 浜田市では 平成 17 年 10 月に市町村合併を行い 平成 18 年 2 月に 浜田市行財政改革大綱 を策定して 平成 22 年度までの 5 年間で改革に取り組んできました

P10 第 2 章主要指標の見通し 第 2 章主要指標の見通し 1 人口 世帯 1 人口 世帯 (1) 人口 (1) 人口 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口を 国勢調査 ( 平成 7 年 ~22 年 ) による男女各歳人口をもとにコーホー 平成 32 年 (2020 年 ) までの人口

瑞穂市行政改革大綱

日本の地方自治その現状と課題

概算要求基準等の推移

資料9

目 次 1 章策定の趣旨 1 1 これまで経緯 1 2 さらなる行財政改革の必要性 1 2 章行財政改革の基本的な考え方 2 1 推進期間 2 2 基本方針 2 3 重点項目 2 (1) 事務 事業の効率化の推進 3 (2) 定員管理の適正化及び人材育成の推進 4 (3) 民間活力の活用 4 (4)

資料1 第3回災害救助に関する実務検討会における意見に対する回答

平成 21 年 7 月 道州制への慎重な対応について 兵庫県知事井戸敏三 各政党においては 究極の分権改革とも言われる 道州制 について マニフェストへの盛り込みが検討されています しかし 道州制は本来国の形のあり方の問題であるにもかかわらず もっぱら地方制度の問題として議論されている最近の状況を鑑

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平成 29 年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について ( 平成 28 年 8 月 2 日閣議了解 ) の骨子 平成 29 年度予算は 基本方針 2016 を踏まえ 引き続き 基本方針 2015 で示された 経済 財政再生計画 の枠組みの下 手を緩めることなく本格的な歳出改革に取り組む 歳出

横浜市市民活動推進条例の全部改正

市場と経済A

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包括規定 案

3. 同意要件との関係宿泊税について 不同意要件に該当する事由があるかどうか検討する (1) 国税又は他の地方税と課税標準を同じくし かつ 住民の負担が著しく過重となること 1 課税標準宿泊行為に関連して課税される既存の税目としては 消費税及び地方消費税がある 宿泊税は宿泊者の担税力に着目して宿泊数

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公益法人の寄附金税制について

地方消費者行政強化作戦 への対応どこに住んでいても質の高い相談 救済を受けられる地域体制を整備し 消費者の安全 安心を確保するため 平成 29 年度までに 地方消費者行政強化作戦 の完全達成を目指す < 政策目標 1> 相談体制の空白地域の解消 全ての市町村に消費生活相談窓口が設置されており 目標を

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平成28年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について

その 1 の財政状況は? 平成 28 年度一般会計決算からの財政状況を説明します 1 平成 28 年度の主なお金の使い道は? その他の経費 212 億 93 万円 扶助費 82 億 3,606 万円 16.7% 43.0% 義務的経費 219 億 7,332 万円 人件費 44.5% 79 億 8,

特別会計の改革について

I. 2 II III IV

輸出許可一般的な輸出申告による輸出通関 搬出許可概 要 輸出通関における保税搬入原則の見直しが施行されました - お知らせ - 輸出通関における保税搬入原則の見直しについては 当該見直しを盛り込んだ関税改正法が平成 23 年 3 月 31 日に成立し 同年 10 月 1 日より施行されました これに

安全保障会議 ( 現行 ) の概要 ( 構成 ) 委員長 : 内閣官房長官 委 安全保障会議 ( 構成 ) 議長 : 内閣総理大臣 事態対処専門委員会 内閣総理大臣の諮問に基づき 以下の事項を審議 国防の基本方針 防衛計画の大綱 対処基本方針 武力攻撃事態 / 周辺事態等への対処 / 自衛隊法第 3

改正法律一覧 (15 法律 ) 2 法律重複 A 地方公共団体への事務 権限の移譲 (3 法律 ) 毒物及び劇物取締法 1 毒物又は劇物の原体の事業者の登録等に係る事務 権限を国から都道府県へ移譲 就学前の子どもに関する教育 保育等の総合的な提供の推進に関する法律 子ども 子育て支援法 2 幼保連携

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三沢市行政経営推進プラン

1 制度の概要 (1) 金融機関の破綻処理に係る施策の実施体制金融庁は 預金保険法 ( 昭和 46 年法律第 34 号 以下 法 という ) 等の規定に基づき 金融機関の破綻処理等のための施策を 預金保険機構及び株式会社整理回収機構 ( 以下 整理回収機構 という ) を通じて実施してきている (2

個人住民税の特別徴収税額決定通知書(納税義務者用)の記載内容に係る秘匿措置の促進(概要)

目 次 (1) 財政事情 1 (2) 一般会計税収 歳出総額及び公債発行額の推移 2 (3) 公債発行額 公債依存度の推移 3 (4) 公債残高の累増 4 (5) 国及び地方の長期債務残高 5 (6) 利払費と金利の推移 6 (7) 一般会計歳出の主要経費の推移 7 (8) 一般会計歳入の推移 8

平成26年版 特別会計ガイドブック

(2) 消費税率 10% への引上げ時に導入が予定されている軽減税率制度については 消費税 地方消費税の引上げ分のうち地方交付税原資分も含めると 約 3 割が地方の社会保障財源であり 仮に減収分のすべてが確保されない場合 地方の社会保障財源に影響を与えることになることから 確実に代替財源を確保するこ

行政改革推進会議による 秋のレビュー 平成 26 年 11 月 14 日実施 評価者 上村敏之関西学院大学経済学部教授 上山直樹弁護士 ( ポールヘイスティングス法律事務所 外国法共同事業 ) 太田康広慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授 水上貴央弁護士 ( 早稲田リーガルコモンズ法律事務所 ) 吉

1. 財政状況の年度推移 ( 一般会計 ) (1) 決算概況 ( 単位 : 億円 ) グラフの解説 一般会計の歳入 歳出の規模は増加傾向にあり 平成 27 年度の決算規模は 歳入 歳出ともに過去最大規模となっています 実質収支は 黒字を継続しており 27 年度は約 49 億円 前年度と比べると約 1

資料 2-2 成長戦略改訂に向けた地域活性化の取組みについて ( 案 ) 内閣官房地域活性化統合事務局 成長戦略の改訂に向け これまでの施策の成果が実感できない地方において 新たな活力ある地域づくりと地域産業の成長のためのビジョンを提供しその具体化を図る 超高齢化 人口減少社会における持続可能な都市

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

4 合併を選択した理由 合併を選択した理由は 直面する財政危機への対応よりも 将来に向けた行政体制の充実 強化や行政サービスの維持 向上 合併を選択した理由 地方分権時代にふさわしい基礎自治体としての行政体制の充実 強化を図るため 20 市町村 効率的 効果的な行財政運営により 行政サービスを維持

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地方税法等の一部を改正する法律案の概要 総務省 1 地方法人課税における新たな偏在是正措置 平成 31 年 10 月 1 日施行 都市 地方の持続可能な発展のための地方税体系の構築の観点から 特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案 において特別法人事業税 ( 国税 ) を創設することに併

平成 28 年度予算編成方針 我が国の経済は 景気は引き続き緩やかな回復基調を維持しているが その影響が地方経済にまで十分に行き渡っているとは言えず 我々地方の行財政運営の基本となる税等一般財源を確保するためには 臨時財政対策債に頼らざるを得ない状況が続くものと考える また 税制改正も予測されること

2007財政健全化判断比率を公表いたします

学生確保の見通し及び申請者としての取組状況

この制度は 2003 年 9 月 2 日から施行され 旧 地方自治法 244 条の2による管理委託を行ってきた 公の施設 の場合は 3 年間 ( 経過措置 ) の間に自治体が指定管理者制度に移行することになっている 現時点で 指定管理者制度導入のため 1 指定の手続きについて一般ルールとして定めた自

- 2 - 項五その他本会の目的を達成するために必要な事項(役員)第五条本会に次の役員を置く 会長一名副会長七名以内理事七名監事三名(役員の任期)第六条役員の任期は 二年とする ただし 任期満了後も 新役員が選任されるまでの間は 引き続きその職務を行うものとする 2補欠により選任された役員の任期は

新しい日本をつくる国民会議 (21 世紀臨調 ) 小泉内閣改造後の政党政治のあり方に関する提言 第 1. 内閣改造の評価と今後の課題 ( 小泉首相は党改革の断行を ) 1. 今般の内閣改造において小泉首相は 1 第 2 次小泉改造内閣基本方針 を策定し これに忠誠を誓う人材を起用する方針を明らかにし

Transcription:

ESG の広場 基礎自治体への期待と不安 第 1 回 2014 年 1 月 24 日全 6 頁 地方分権改革 : 国から地方へ 環境調査部長岡野武志 日本の地方自治制度は 明治維新の新政府による廃藩置県 戸籍法制定 市制町村制の実施等に始まり 第二次世界大戦後には 新憲法制定に伴い それまでの中央集権制度を改め 地方の自主性や自立性を高める方向にあるといえよう しかし 三割自治 という言葉に象徴されるように 地方自治体の裁量範囲が限られていることや国の関与が引き続き大きいことなどが課題とされてきた また 人口増加や経済規模拡大が転換期を迎えたことなどに伴い 政府債務の拡大が深刻になり 持続可能な成熟化社会の形成に向けて 都市への集中の見直しや地域社会の再生なども重要な課題となっている 明治維新 戦後改革に次ぐ第 3の改革とも呼べる今般の地方分権改革は 衆参両院における 地方分権の推進に関する決議 1 (1993 年 ) をひとつの起点として およそ 20 年間にわたって進められており その取り組みは概ね3つの段階に分けることができる 1 第一次分権改革 1993 年に衆参両院で行われた 地方分権の推進に関する決議 は 国土の均衡ある発展と豊かさを実感できる社会の実現に向け 東京への一極集中や中央集権的行政を見直し 国から地方への権限移譲や地方税財源の充実など 地方自治体の自主性 自律性を高めることを謳っている 翌年公表された 地方分権の推進に関する大綱方針 は 国と地方自治体が 相互に協力する関係にあることを 踏まえ 住民に身近な行政は地方自治体が行うことを基本として 地方分権を推進するとしている また 行政の簡素化と規制緩和の観点から 行政事務の必要性を再検討するとともに 地方自治体が事務事業を自主的 主体的に執行できるよう 事務配分に応じた地方税財源を確保することを基本方針に掲げている 1) 地方分権の推進に関する決議 参議院 http://www.sangiin.go.jp/japanese/san60/s60_shiryou/ketsugi/126-22.html Copyright 2013-2014 Daiwa Institute of Research Ltd. 1

95 年に成立した 地方分権推進法 2 は 地方分権を総合的かつ計画的に進めることを目的としており この法律に基づいて同年に地方分権推進委員会が置かれている 同委員会の勧告を踏まえ 98 年には 地方分権推進計画 が閣議決定されており 機関委任事務制度の廃止 3 必置規制 4 の見直し 国の関与の縮減 廃止などの方向性が示されている 機関委任事務制度の廃止に伴い それまでの機関委任事務は 国が直接執行する事務と事務自体を廃止するものを除き 地方自治体が行う事務として 法定受託事務 と 自治事務 に整理されている こうした一連の検討は 99 年に成立した 地方分権一括法 5 ( 翌 00 年施行 ) に集約され 地方 自治法をはじめ多方面にわたる多数の法律が一括して改正されるところとなった これにより 従来 上下関係に近かった国と地方自治体の関係は 対等の協力関係の形成に向けて動き出したといえよう 2 三位一体改革 機関委任事務制度の廃止等に伴って 事務や権限が地方自治体に移ることになると 国庫補助負担 金や地方交付税 地方税など 事務や事業を自主的 主体的に行うための財源のあり方についても 6 見直さなければならない部分が出てくるのは当然であろう しかし 地方分権推進委員会の最終報告 は 分権改革を完遂するためには これに続いて第 2 次 第 3 次の分権改革を断行しなければなら ない としており 次の段階の改革の焦点は 地方税財源の充実確保方策とこれを実現するために 必要な関連諸方策である との認識を示している 地方税財源についての見直しは 第一次分権改革 の積み残した課題となっていた 2) 地方分権推進法 法令データ提供システム http://law.e-gov.go.jp/haishi/h07ho096.html 3) 地方自治体 ( の長 ) を国の機関とみて 国の事務を委任して執行させる仕組みで コストを抑制しながら一定水準の行政サービスを広く提供できる一方 地方自治体の行政が画一的 硬直的になるなどの側面もある 4) 国が 地方公共団体に対し 地方公共団体の行政機関若しくは施設 特別の資格若しくは職名を有する職員又は附属機関を設置しなければならないものとすることをいう ( 地方分権推進法第 5 条 ~ 抜粋 ~) 5) 地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律 衆議院 http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/housei/h145087.htm 6) 地方分権推進委員会最終報告 - 分権型社会の創造 : その道筋 - 内閣府 http://www8.cao.go.jp/bunken/bunken-iinkai/saisyu/index.html 2

小泉内閣は 2001 年 6 月に不良債権問題 の抜本的解決や聖域なき構造改革などを盛り込んだいわゆる 骨太の方針 7 を示し 構造改革のための7つの改革プログラム の一つとして 地方自立 活性化プログラム を盛り込んだ このプログラムは 個性ある地方 の自立した発展と活性化を促進することが重要な課題である との認識の下 すみやかな市町村再編の促進や地方財政の立て 直しを行うとしている 地方財政制度の抜本改革の方向性としては 地方自治体の選択と自らの財源で効果的に施策を推進すること 地方交付税を客観的基準で調整する簡素な仕組みにすること 地方自治体が自らの判断で使える歳入基盤を確立すること などが挙げられている 同年 7 月には 地方分権改革推進会議 が設置され 官から民へ 国から地方へ を目指す取り組みが進められた 翌 02 年に公表された 基本方針 2002 は 国庫補助負担金 交付税 税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討することを示すとともに 地方自治体の行財政基盤を強化するため 市町村合併を促進することを謳っている 三位一体改革については 基本方針 2003 の中で 概ね4 兆円程度を目途に国庫補助負担金を廃止 縮減するとともに 地方交付税の不交付団体の割合を高めていくことなどを述べている また 基本方針 2004 には 地方自治体が国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめることを前提に 概ね 3 兆円規模の税源移譲が盛り込まれている 市町村合併の促進については 04 年にいわゆる合併三法が成立し 市町村合併を推進する仕組みが整備されている 3 第二次分権改革 第一次分権改革と三位一体改革により 地方分権改革は一定の進展をみたものの 地方六団体 8 は 内閣と国会に対して 地方分権の推進に関する意見書 9 を提出し 一層の取り組みを求めた この意見書は 分権改革の推進方策と分権改革への地方の参画 及び 分権改革の税財政面での具体的方策 について 7 つの提言を示している このような中 第二次分権改革を総合的かつ計画的に推進するため 2006 年に 地方分権改革推進法 が制定され 同法に基づいて翌 07 年に地方分権改 7) 諮問会議とりまとめ資料等 経済財政諮問会議( 基本方針 2002 ~ 2004 等についても掲載 ) http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/index.html 8) 首長の連合組織三団体 ( 全国知事会 全国市長会 全国町村会 ) と議長の連合組織三団体 ( 全国都道府県議会議長会 全国市議会議長会 全国町村議会議長会 ) 9) 地方分権の推進に関する意見書 の提出等について ( 平成 18 年 06 月 07 日 ) 全国知事会 http://www.nga.gr.jp/news/2006/post-206.html 3

革推進委員会が設置されている 同委員会は 基礎自治体優先 受益と負担の明確化などの基本原則 を示すとともに 4 次にわたる勧告などを取りまとめている 10 しかし 政権の不安定さが際立ったこの時期には 改革の具体的な進捗も滞りがちであったといえ よう 地方分権改革推進計画 地域主権戦略大綱 アクションプラン などが閣議決定された ものの 義務付け 枠付け 11 の見直しや条例制定権の拡大 基礎自治体への権限移譲などについて 関係法律を整備するための第 1 次一括法と第 2 次一括法 12 は 11 年になってようやく成立している また これに続く第 3 次見直しについても 11 年 11 月に閣議決定され 翌 12 年 3 月に法案が国会 に提出されたものの 衆議院の解散に伴って廃案となっている 政権交代後の第二次安倍内閣は 地方分権改革の推進に関する施策の総合的な策定及び実施を進めるため 13 年 3 月に内閣総理大臣を本部長とする 地方分権改革推進本部 を置いている 廃案となった第 3 次見直し分は 第 4 次見直し分と併せ 新たな第 3 次一括法として 13 年 6 月に成立している 13 また 地方分権改革の推進に関する施策についての調査及び審議に資するため 地方分権改革有識者会議 も設置されており 同有識者会議からは 13 年 10) 地方分権改革の推進について 内閣府 http://www.cao.go.jp/bunken-kaikaku/ 11) 地方分権改革推進委員会の第 2 次勧告では 地方公共団体に対する事務の処理又はその方法の義務付け を 義務付け 枠付け と呼んでいる 12) 地域主権改革に関する基本文書 閣議決定 工程表等 内閣府 http://www.cao.go.jp/chiiki-shuken/keikakutou/keikakutou-index.html 13) 地方分権改革に関する閣議決定等 内閣府 http://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kakugiketteitou/kakugiketteitou-index.html 4

12 月に 個性を活かし自立した地方をつくる と題した中間取りまとめ 14 が公表されている 同月 には 事務 権限の移譲等に関する見直し方針について も閣議決定されており 改めて地方分権改 革の推進に向けた取り組みが進められている 4 国から地方へ は進んだか 地方分権改革の進展に伴って 地方自治体の役割が大きくなっていることにより 行政サービスな どを行うための財源も 国側で減少し地方側で増加していることが想定される ところが 地方財政白書 15 から 地方分権改革が開始された 1993 年度以降の税収の動きをみてみると 地方税収は 概ね 30 兆円台半ばを中心に推移しており 税収という形では 地方財源が大きく増加しているよう にはみえない また 税収額全体に占める地方税収額の比率をみても 09 年度に一旦 47% 付近まで 上昇したものの その後は再び従前の 40% 台前半の水準に戻っている 国と地方のバランスが変化し 地方財源の確保 拡充の方向に向かっていることを 数字の上で確認することは難しい 歳出面からみても 地方単独の歳出額には大きな変化はみられず 地方分権一括法が施行された 2000 年度以降 概ね 60 兆円付近でほぼ横ばいになっている また 重複 とされている部分も 国から地方への支出 16 が大半を占めており 地方の歳出総額の4 割近くが国を経由してくる状況には 大きな変化がないようにみえる 他方 国の歳出額には増加がみられおり 歳出総額に占める地方単独の歳出額の比率はむしろ低下している 地方分権改革が進められてきたこの 20 年は 失われた 20 年 と呼ばれた時期ともほぼ重なっており 国全体の経済規模は伸び悩みが続いてきた その 14) 個性を活かし自立した地域をつくる~ 地方分権改革の総括と展望 ( 中間取りまとめ )~ 内閣府 http://www.cao.go.jp/bunken-suishin/kaigi/kaigikettei/kaigikettei-index.html 15) 地方財政白書 総務省 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/ 16) 国から地方への支出は 地方交付税 地方譲与税 地方特例交付金 国庫支出金等 5

一方で 国と地方を合わせた政府の歳出額は増加している 政府の歳出総額 17 の国内総生産 ( 名目値 ) に対する割合は 08 年度頃から拡大しており 官から民へ の動きも必ずしも順調ではなさそうに みえる 地方分権改革有識者会議が 13 年 12 月に示した中間とりまとめは これまでの地方分権改革を総括する中で 住民自治の拡充 財政的な自主自立性等の分野においては踏み込み不足の感は否めなかった としており 国 地方ともに国民 住民に対して継続的で分かりやすい情報発信の取組に欠けていた ことも指摘している これまでの地方分権改革により 市町村などの基礎自治体とそこに住む住民に 意思決定や行動の軸足が移りつつあるとすれば これからの改革では 基礎自治体と住民が主体となって 地域の特性を活かしながら 地方自治の質や機能を高めていくことが期待されよう 国から地方へ を掲げた地方分権改革は未だ道半ばであり これからが本当の改革といえるのかもしれない 以上 ( 次回は 市町村合併 : 広くなった基礎自治体 ) 17) 国と地方の歳出総額は 国 ( 一般会計と交付税及び譲与税配付金 公共事業関係等の 6 特別会計の純計 ) と地方 ( 普通会計 ) の財政支出の合計から重複分を除いた歳出純計額 6