包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 ( 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に

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参考 企業会計基準第 25 号 ( 平成 22 年 6 月 ) からの改正点 平成 24 年 6 月 29 日 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 の設例 企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 平成 22 年 6 月 30 日 ) の設例を次のように改正

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【H 改正】株主資本等変動計算書.docx

平成26年度 第138回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

085 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 新株予約権 少数株主持分を株主資本に計上しない理由重要度 新株予約権を株主資本に計上しない理由 非支配株主持分を株主資本に計上しない理由 Keyword 株主とは異なる新株予約権者 返済義務 新株予約権は 返済義務のある負債ではない したがって

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

「中小企業の会計に関する指針《新旧対照表

日本基準基礎講座 資本会計

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平成 29 年度連結計算書類 計算書類 ( 平成 29 年 4 月 1 日から平成 30 年 3 月 31 日まで ) 連結計算書類 連結財政状態計算書 53 連結損益計算書 54 連結包括利益計算書 ( ご参考 ) 55 連結持分変動計算書 56 計算書類 貸借対照表 57 損益計算書 58 株主

< C8E3493FA8F4390B395AA817A836F815B835B838B87568EA98CC88E91967B94E497A68C768E5A B C8B816A E398C8E A2E786

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平成30年公認会計士試験

スライド 1

(訂正・数値データ修正)「平成29年5月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

企業会計基準第 25 号包括利益の表示に関する会計基準 平成 22 年 6 月 30 日改正平成 24 年 6 月 29 日最終改正平成 25 年 9 月 13 日企業会計基準委員会 目次 項 目的 1 会計基準 3 範囲 3 用語の定義 4 包括利益の計算の表示 6 その他の包括利益の内訳の開示

Microsoft Word - 247_資本連結実務指針等の改正

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

ずほ証券連結財務諸業績と財務の状況 みずほ証券連結財務諸表み表繰延税金資産 15,653 14,554 当社は 平成 28 年度及び平成 29 年度の連結貸借対照表 連結損益計算書及び連結株主資本等変動計算書について会社法第 444 条第 4 項の規 定に基づき 新日本有限責任監査法人の監査証明を受

連結貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 当連結会計年度 ( 平成 29 年 3 月 31 日 ) 資産の部 流動資産 現金及び預金 7,156 受取手形及び売掛金 11,478 商品及び製品 49,208 仕掛品 590 原材料及び貯蔵品 1,329 繰延税金資産 4,270 その他 8,476

野村アセットマネジメント株式会社 2019年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

公開草案 (2) その他利益剰余金 積立金繰越利益剰余金利益剰余金合計 5 自己株式 5 自己株式 6 自己株式申込証拠金 6 自己株式申込証拠金株主資本合計株主資本合計 Ⅱ 評価 換算差額等 Ⅱその他の包括利益累計額 1 その他有価証券評価差額金 1 その他有価証券評価差額金 2 繰延ヘッジ損益

貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針(案)

AIGジャパン ホールディングス株式会社連結貸借対照表 2013 年度連結会計期間末 (2014 年 3 月末時点 ) 2014 年度連結会計期間末 (2015 年 3 月末時点 ) 科目 金額 金額 ( 資産の部 ) 現金及び預貯金 37,750 51,477 有価証券 1,162,121 1,3

第10期

平成28年度 第144回 日商簿記検定 1級 会計学 解説

1FG短信表紙.XLS

新旧対照表(計算書類及び連結計算書類)

第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は


CC2: 連結貸借対照表の科目と自己資本の構成に関する開示項目の対応関係 株式会社三井住友フィナンシャルグループ ( 連結 ) 項目 資産の部 イロハ 公表連結貸借対照表 (2019 年 3 月末 ) 現金預け金 57,411,276 コールローン及び買入手形 2,465,744 買現先勘定 6,4

2019年年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)

計算書類等

計算書類 貸借対照表 ( 平成 31 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 百万円 ) 科 目 金 額 科 目 金 額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 17,707 流動負債 10,207 現金及び預金 690 電子記録債務 2,224 受取手形 307 買掛金 4,934 電子

(3) 連結キャッシュ フローの状況 営業活動によるキャッシュ フロー 投資活動によるキャッシュ フロー 財務活動によるキャッシュ フロー 現金及び現金同等物期末残高 百万円 百万円 百万円 百万円 27 年 3 月期 495 2,552 5,252 5, 年 3 月期 2,529 71

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

営 業 報 告 書

財剎諸表 (1).xlsx

第 3 期決算公告 (2018 年 6 月 29 日開示 ) 東京都江東区木場一丁目 5 番 65 号 りそなアセットマネジメント株式会社 代表取締役西岡明彦 貸借対照表 (2018 年 3 月 31 日現在 ) 科目金額科目金額 ( 単位 : 円 ) 資産の部 流動資産 負債の部 流動負債 預金

2018年12月期.xls


株式会社神奈川銀行

平成 29 年 6 月 26 日株式会社八十二銀行 連結貸借対照表の科目が 自己資本の構成に関する開示項目 のいずれに相当するかについての説明 ( 29 年 3 月期自己資本比率 ) 科 ( 単位 : 百万円 ) 公表連結貸借対照表金額 ( 資 産 の 部 ) 現 金 預 け 金 885,456 コ

AIGジャパン ホールディングス株式会社中間連結貸借対照表 2013 年度連結会計期間末 (2014 年 3 月末時点 ) 2014 年度中間連結会計期間末 (2014 年 9 月末時点 ) 科目 金額 金額 ( 資産の部 ) 現金及び預貯金 37,750 52,537 有価証券 1,162,121

営 業 報 告 書

連結貸借対照表の科目が 自己資本の構成に関する開示項目 のいずれに相当するかについての説明 ( 付表 ) 1. 株主資本 資本金 33,076 1a 資本剰余金 24,536 1b 利益剰余金 204,730 1c 自己株式 3,450 1d 株主資本合計 258,893 普通株式等 Tier1 資

山口フィナンシャルグループ:IR資料室>平成30年3月期(平成29年度)>平成30年3月期決算短信

(2) サマリー情報 1 ページ 1. 平成 29 年 3 月期の連結業績 ( 平成 28 年 4 月 1 日 ~ 平成 29 年 3 月 31 日 ) (2) 連結財政状態 訂正前 総資産 純資産 自己資本比率 1 株当たり純資産 百万円 百万円 % 円銭 29 年 3 月期 2,699 1,23

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

連結貸借対照表のが 自己資本自己資本の構成構成に関するする開示項開示項 のいずれにのいずれに相当相当するかについてのするかについての説明 ( 付表 ) (2018 年 9 月期自己資本比率 ) ( 注記事項 ) の については 経過措置勘案前の数値を記載しているため 自己資本に算入されているに加え

科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3


Microsoft Word 決算短信修正( ) - 反映.doc

連結会計入門 ( 第 6 版 ) 練習問題解答 解説 練習問題 1 解答 解説 (129 頁 ) ( 解説 ) S 社株式の取得に係るP 社の個別上の処理は次のとおりである 第 1 回取得 ( 平成 1 年 3 月 31 日 ) ( 借 )S 社株式 48,000 ( 貸 ) 現預金 48,000


具体的な組替調整額の内容は以下のとおりです その他の包括利益その他有価証券評価差額金繰延ヘッジ損益為替換算調整勘定 組替調整額 その他有価証券の売却及び減損に伴って当期に計上された売却損益及び評価損等 当期純利益に含められた金額 ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金

④企業会計基準適用指針第8号


Microsoft Word _A _計算書類【5月5日修正】.doc

第 14 期 ( 平成 30 年 3 月期 ) 決算公告 平成 30 年 6 月 21 日 東京都港区白金一丁目 17 番 3 号 NBF プラチナタワー サクサ株式会社 代表取締役社長 磯野文久

添付資料の目次 1. 連結財務諸表 2 (1) 連結貸借対照表 2 (2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 4 (3) 連結財務諸表に関する注記事項 6 ( セグメント情報等 ) 6 2. 個別財務諸表 7 (1) 個別貸借対照表 7 (2) 個別損益計算書

会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型新旧対照表

企業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑦・連結税効果実務指針(その2)

添付資料の目次 1. 連結財務諸表 2 (1) 連結貸借対照表 2 (2) 連結損益計算書及び連結包括利益計算書 4 (3) 連結財務諸表に関する注記事項 6 ( セグメント情報等 ) 6 2. 個別財務諸表 7 (1) 個別貸借対照表 7 (2) 個別損益計算書

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2019年3月期 中間期決算短信〔日本基準〕(連結):東京スター銀行

民法ゼロ&ミドルコース 第2回補助レジュメ

会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(計算書類及び連結計算書類)新旧対照表

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

Microsoft Word IFRSコラム原稿第6回_Final _1_.doc


問題 20 C 為替予約 攻める 6 分 問題 21 C 会社分割 持分法適用 攻める 6 分 問題 23 D 国内成果連結 のれん 攻める 4 分 問題 24 C 国内成果連結 繰延税金資産 攻める 6 分 問題 25 C 国内成果連結 非支配株主持分 攻める 6 分 問題 26 C 国内成果連結

Microsoft Word - 中小会計指針ED新旧対照表

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リコーグループサステナビリティレポート p

貸借対照表 ( 単位 : 百万円 ) 資産の部流動資産現金及び預金 6,867 5,221 売掛金 261, ,636 商品及び製品 173, ,864 仕掛品 4,283 4,273 原材料及び貯蔵品 314, ,630 前渡金 11,002 20,860 前払


(訂正・数値データ訂正)「平成30年4月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

リリース

業結合ステップ2に関連するJICPA実務指針等の改正について⑧・連結税効果実務指針(その3)

連結貸借対照表の科目が自己資本の構成に関する開示項目のいずれに相当するかについての説明 ( 付表 ) (2018 年 9 月末自己資本比率 ) 自己資本の構成に関する開示事項の金額 については 経過措置勘案前の数値を記載しているため 経過措置により自己資本に算入されている項目については本表には含まれ

連結貸借対照表の科目が自己資本の構成に関する開示項目のいずれに相当するかについての説明 ( 付表 ) (2018 年 3 月末自己資本比率 ) 自己資本の構成に関する開示事項の金額 については 経過措置勘案前の数値を記載しているため 経過措置により自己資本に算入されている項目については本表には含まれ

IFRSへの移行に関する開示

2 会計処理 ( 単位 : 百万円 ) 新株の発行に伴う会計処理現金預金 2,000 資本金資本準備金 1,000 1,000 剰余金の配当に伴う会計処理 繰越利益剰余金 1,100 利益準備金 現金預金 100 1,000 自己株式の取得に伴う会計処理 自己株式 400 現金預金 400 自己株式

第1章 財務諸表

前連結会計年度 ( 平成 29 年 12 月 31 日 ) 当第 2 四半期連結会計期間 ( 平成 30 年 6 月 30 日 ) 負債の部流動負債支払手形及び買掛金 8,279 8,716 電子記録債務 9,221 8,128 短期借入金 未払金 24,446 19,443 リース

【参考】企業会計基準第5号(平成17年12月公表)からの改正点

2019 年 3 月期 第 2 四半期決算短信 日本基準 ( 連結 ) 2018 年 10 月 30 日 上場会社名 日本冶金工業株式会社 上場取引所 東 コード番号 5480 URL 代 表 者 ( 役職名 ) 代表取締役社長 ( 氏名 ) 木村 始 問合

及び連結子会社連結貸借対照表 比較増減 資産投資 - 関係会社に対する投資を除く : 売却可能有価証券 : 債券 \ 3,193,503 \ 3,317,804 \ 124,301 株式 3,105,217 3,312, ,357 満期保有目的有価証券 : 債券 261, ,

 

注記事項 (1) 当中間期における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ): 無 (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 : 無 2 1 以外の会計方針の変更 : 無 3 会計上の見積りの変更 : 無 4 修正再表示

第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

本資料の記載数値について 第一生命保険株式会社 ( 旧 第一生命 : 下図 A) は 2016 年 10 月 1 日付で 第一生命ホールディングス株式会社 に商号を変更し 事業目的をグループ会社の経営管理等に変更しています 旧 第一生命が営んでいた国内生命保険事業は 会社分割により 第一生命保険株式

highlight.xls

計算書類等

Microsoft Word - H20.3第3四半期短信ver0212_fin.doc

Transcription:

包括利益の表示に関する会計基準第 1 回 : 包括利益の定義 目的 2011.03.10 (2013.04.11 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 1. はじめに企業会計基準第 25 号 包括利益の表示に関する会計基準 ( 以下 会計基準 ) が平成 22 年 6 月 30 日に企業会計基準委員会から公表され わが国の会計にも包括利益という概念が取り入れられることとなりました 第 1~4 回では 包括利益に関する基本的事項について概説します 2. 包括利益の定義包括利益とは ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち 当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます ( 会計基準 4 項 ) 包括利益のうち当期純利益及び少数株主損益に含まれない部分を その他の包括利益といいます ( 会計基準 5 項 ) なお 当該企業の純資産に対する持分所有者として 以下の者が挙げられます 当該企業の株主 当該企業の発行する新株予約権の所有者 連結財務諸表においては 当該企業の子会社の少数株主言い換えると 純資産の変動のうち資本取引に該当しないものが包括利益に該当しますが どのようなものが包括利益に該当するのかについてのイメージは以下の図をご参照ください 1

( ) 平成 25 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度より 2

3. 包括利益表示の目的包括利益を表示する目的は 期中に認識された取引及び経済事象 ( 資本取引を除く ) により生じた純資産の変動を報告することです また 以下のような効果も期待されています 財務諸表利用者が企業全体の事業活動を検討するのに資する 財務諸表の理解可能性と比較可能性を高める 国際的な会計基準とのコンバージェンスつまり 包括利益の表示は 包括利益が企業活動に関する最も重要な指標として位置付けられたため行われるということではなく その表示によって提供される情報を 当期純利益に関する情報と併せて利用することにより 企業活動の成果についての情報の全体的な有用性を高めるために行われるものです ( 会計基準 22 項 ) 3

包括利益の表示に関する会計基準 第 2 回 : 包括利益の表示等 2011.03.15 (2013.04.11 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 4. 包括利益の表示 包括利益の表示は 以下のように行われます 個別財務諸表 連結財務諸表 当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減 少数株主損益調整前当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減 なお この会計基準は 当面の間 個別財務諸表には適用しないこととされています また 会社法において包括利益を表示する計算書の開示は求められていません いずれも当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を調整することによって 包括利益を表示します 加減されるその他の包括利益の内訳項目は その他有価証券評価差額金 繰延ヘッジ損益 為替換算調整勘定 退職給付に係る調整額 ( ) 等その内容に基づき 区分します なお 持分法を適用する被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は 一括して区分表示することが求められます その他の包括利益の内訳項目の金額については 税効果を控除した後の金額で表示しますが 各項目は税効果を控除する前の金額で表示し 一括して加減する方法で記載することもできます 包括利益を表示するための当期純利益からの調整計算は 具体的には計算書の形式で行われますが その計算書は 二つの形式のうちいずれかによることとされています 2 計算書方式当期純利益を表示する損益計算書と 包括利益を表示する包括利益計算書からなる形式 1 計算書方式当期純利益の表示と包括利益の表示を一つの計算書 ( 損益及び包括利益計算書 ) で行う形式 2 計算書方式でも 1 計算書方式でも 包括利益の内訳として表示される内容は同じです それぞれの形式での開示イメージは以下のとおりです 金額については (1) 包括利益の定義 でのイメージ図もご確認ください 4

( ) 平成 25 年 4 月 1 日以後に開始する連結会計年度より 5. 包括利益計算書と他の財務諸表との関係包括利益とはある特定期間での純資産の変動額から求められます 包括利益は少数株主損益調整前当期純利益とその他の包括利益から構成されますが 少数株主損益調整前当期純利益の累計が 利益剰余金 又は 少数株主持分 として表示されるのに対して 前期以前から獲得してきたその他の包括利益の累計は 貸借対照表及び株主資本等変動計算書において その他の包括利益累計額 として表示されます なお 内訳項目別に見た場合 包括利益計算書でのその他の包括利益は 貸借対照表及び株主資本等変動計算書でのその他の包括利益累計額の前期からの変動額と一致しないこともあります これは包括利益計算書でのその他の包括利益には その他の包括利益に対する少数株主持分も含まれること 及び持分法適用会社のその他の包括利益については区分表示されることが 不一致の要因として考えられるからです 不一致の要因について 繰延ヘッジ損益を例示とし 数値例を用いて説明します ( 子会社で繰延ヘッジ損益が 100 発生 ) 5

仕訳 : デリバティブ 100 / 繰延ヘッジ損益 100 ( 上記のうち少数株主持分額 20% について連結上振替 ) 仕訳 : 繰延ヘッジ損益 20 / 少数株主持分 20 ( 持分法適用会社で発生した繰延ヘッジ損益 100 の持分相当額 50% について計上 ) 仕訳 : 関係会社株式 50 / 繰延ヘッジ損益 50 この場合 包括利益計算書におけるその他の包括利益は 繰延ヘッジ損益 100 持分法適用会社に 対する持分額 50 の合計 150 です 一方 貸借対照表 株主資本等変動計算書における その他の包 括利益累計額での繰延ヘッジ損益は 100-20+50=130 であり 包括利益計算書と不一致となりま す 6

包括利益の表示に関する会計基準 第 3 回 : 組替調整額 2012.04.24 (2013.04.11 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 6. 組替調整の必要性時価のある有価証券に関する取得原価と時価との差額は その他有価証券評価差額金の増減として その他の包括利益を構成します 一方 その有価証券を売却した際には 売却時点の時価と取得原価との差額が売却損益として当期純利益を構成することになります つまり このような場合には 当期純利益に当期又は過去にその他の包括利益に含まれていた金額が含まれることとなり 前期以前のその他の包括利益と当期の当期純利益による包括利益における二重計上が生じることとなります この二重計上を避けるための調整が 組替調整です 7. 組替調整額の内容 組替調整 ( いわゆるリサイクリング ) は 組替調整額として開示されますが その他の包括利益の内訳 項目ごとに組替調整額と考えられる部分は次のとおりです その他の包括利益の内訳項目その他有価証券評価差額金繰延ヘッジ損益為替換算調整勘定退職給付に係る調整額 ( ) 組替調整額と考えられる金額当期に計上された売却損益及び減損損失等ヘッジ対象に係る損益が認識されたことなどに伴って当期純利益に含められた金額子会社に対する持分の減少に伴って取り崩されて当期純利益に含められた金額未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用について 当期純利益を構成する項 目として損益処理された金額 ( ) その他有価証券評価差額金その他有価証券評価差額金は有価証券の時価の変動により増減し その増減額はその他の包括利益に含まれます 時価のあるその他有価証券を売却や減損処理した場合 その他の包括利益に含まれた金額も含めて 売却損益や評価損が計上されるため 組替調整額として開示対象となります これには期中取得 期中売却の場合も含まれます 時価のないその他有価証券の売却損益及び減損損失については 組替調整額には該当しないと考えられます しかし 外貨建株式については 時価のないものであっても 毎期の外貨換算に伴い その他の包括利益が計上されることとなるため 売却損益及び減損損失についても 組替調整額に含まれることになると考えられます 繰延ヘッジ損益 7

デリバティブ等のヘッジ手段に係る損益は ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べる方法により処理されるのが原則ですが その損益は 税効果を調整の上 繰延ヘッジ損益として純資産の部に記載されます ヘッジ対象に係る損益が認識された場合 繰り延べられたヘッジ手段に係る損益がデリバティブ等の損益として計上されるため 組替調整額として開示対象となります これには 期中に発生し 実現した繰延ヘッジ損益も含まれます また ヘッジ手段に係る損益だけでなく ヘッジ対象とされた予定取引で購入された資産の取得原価に加減された損益も 組替調整額に準じて開示することが適当とされています ( 会計基準 31 項 (2)) なお 会計方針として振当処理を採用している場合の 予定取引をヘッジ対象とする為替予約を時価評価したことによる評価差額は 取引時点で資産の取得原価に振り替えられず 振戻されるため 実務上 組替調整額として開示されないことが考えられます 為替換算調整勘定為替換算調整勘定は 在外子会社等に対する投資持分から発生した未実現の為替差損益としての性格を有すると考えられますが 持分変動により親会社の持分比率が減少する場合 減少割合相当額だけ株式売却損益として損益計上します ( 外貨建取引等の会計処理に関する実務指針 42 項 ) よって 為替換算調整勘定のうち取り崩されて損益に含められた部分は 組替調整額として開示対象となります 子会社に対する持分の売却時 ( 一部売却及び全部売却 ) に伴い実現する為替の含み損益だけでなく 子会社の清算に伴って実現するものについても対象となります 退職給付に係る調整額 ( ) 当期に発生した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち未処理のものは 税効果を調整の上 その他包括利益に計上されます しかし いずれも平均残存勤務期間内の一定の年数で規則的に損益処理されるため 損益処理された際には 組替調整額として開示対象となります また大量退職などにより退職給付制度の終了の会計処理が行われた場合も 終了部分に対応する金額が損益処理されるため 対象となります ( ) その他土地再評価差額金の取崩しは組替調整額には該当せず 株主資本等変動計算書において利益剰余金への振替として表示するとされています ( 会計基準 31 項 ) しかし 税率変更などに伴い生じる税効果額の変動は その他の包括利益に含まれるため 留意が必要です ( ) 平成 25 年 4 月 1 日以後に開始する連結会計年度より 8

包括利益の表示に関する会計基準 第 4 回 : 包括利益に関する注記 2011.03.18 (2013.04.11 更新 ) 新日本有限責任監査法人公認会計士七海健太郎 8. 包括利益に関する注記包括利益に関する注記には 税効果に関する注記と組替調整額の注記の二つがあります 二つの注記は 別々に記載することも併せて記載することもできます なお これら二つの注記は 個別財務諸表 ( 連結財務諸表を作成している場合 ) 及び四半期財務諸表においては 省略することができます 税効果に関する注記包括利益計算書において 内訳項目の金額を税効果控除後で記載する場合 税効果を一括して加減する方法で記載する場合のいずれで表示したとしても その他の包括利益の各項目別の税効果の金額を注記します なお 持分法適用会社のその他の包括利益については被投資会社で税効果を控除しており この注記の対象外です 組替調整額の注記当期純利益を構成する項目のうち 当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を 組替調整額として その他の包括利益の内訳項目ごとに注記します 包括利益に関する注記について 別々に開示する場合 併せて開示する場合それぞれの例示は以下のとおりです 組替調整額と税効果を別々に開示する場合の例 1 組替調整額の開示 ( 連結 ) 9

2 税効果の開示 ( 連結 ) 組替調整額と税効果を併せて開示する場合の例 10