平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

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従業員 Aは, 平成 21 年から平成 22 年にかけて, 発注会社の課長の職にあり, 上記事業場内にある発注会社の事務所等で就労していた (2) 上告人は, 自社とその子会社である発注会社及び勤務先会社等とでグループ会社 ( 以下 本件グループ会社 という ) を構成する株式会社であり, 法令等の

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

政令で定める障害の程度に該当するものであるときは, その者の請求に基づき, 公害健康被害認定審査会の意見を聴いて, その障害の程度に応じた支給をする旨を定めている (2) 公健法 13 条 1 項は, 補償給付を受けることができる者に対し, 同一の事由について, 損害の塡補がされた場合 ( 同法 1

平成  年(オ)第  号

達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

平成  年(オ)第  号

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

特例適用住宅 という ) が新築された場合 ( 当該取得をした者が当該土地を当該特例適用住宅の新築の時まで引き続き所有している場合又は当該特例適用住宅の新築が当該取得をした者から当該土地を取得した者により行われる場合に限る ) においては, 当該土地の取得に対して課する不動産取得税は, 当該税額から

する 理 由 第 1 事案の概要 1 本件は, 平成 21 年 ( 受 ) 第 602 号被上告人 同第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X1 という ) 及び平成 21 年 ( 受 ) 第 603 号上告人 ( 以下 1 審原告 X 2 といい,1 審原告 X 1と1 審原告 X 2を併せ

被上告人に対し, 上記各賦課決定の取消しを求めている事案である 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) 上告人は, 東京都渋谷区内に所在する面積が200m2以下である本件土地及びこれを敷地とする第 1 審判決別紙物件目録記載の建物 ( 以下 旧家屋 という ) を所有

(2) B 社に係る破産事件等東京地方裁判所は, 平成 21 年 2 月 24 日,B 社を再生債務者として, 再生手続開始の決定をした しかし, 東京地方裁判所は, 同年 3 月 24 日,B 社の事業継続を不可能とする事実が明らかになったとして, 再生手続廃止の決定をするとともに, 再生手続廃止

べき標準的な事例における処分の標準例を定めたところ, 公務外非行関係の事由である 痴漢 わいせつ行為 による処分の標準例は, 免職又は停職とされている そして, 本件指針においては, 具体的な処分の量定を決定するに当たり,1 非違行為の動機, 態様及び結果,2 故意又は過失の度合い,3 職員の職務上

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

平成  年(オ)第  号

た本件諸手当との差額の支払を求め ( 以下, この請求を 本件差額賃金請求 という ),2 予備的に, 不法行為に基づき, 上記差額に相当する額の損害賠償を求める ( 以下, この請求を 本件損害賠償請求 という ) などの請求をする事案である 2 原審の確定した事実関係等の概要は, 次のとおりであ

し, これを評点 1 点当たりの価額に乗じて, 各筆の宅地の価額を求めるものとしている 市街地宅地評価法は,1 状況が相当に相違する地域ごとに, その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し,2 標準宅地について, 売買実例価額から評定する適正な時価を求め, これに基づいて上記主要な街路の

裁判所は, 同年 9 月, 被上告人に対し, 米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定 ( 以下 本件返還決定 という ) をし, 本件返還決定は, その後確定した (4) 上告人は, 本件返還決定に基づき, 東京家庭裁判所に子の返還の代替執行の申立て ( 実施法 137 条 ) をし, 子

れぞれ求める住民訴訟である 2 原審の確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) 市は, 鳴門市公営企業の設置等に関する条例 ( 平成 16 年鳴門市条例第 3 8 号 ) により, モーターボート競走法に基づくモーターボート競走の開催及びこれに附帯する業務を行うため, 競艇事業を設置し

かった その後, 市は, 同年 11 月 14 日, 本件土地につき, 予定価格を非公表とし, 再度一般競争入札に付したが, 申込みをした者はいなかった (3) ア大願寺地区には, 平成 25 年 4 月までに小中学校を移転することとされていたところ, 市議会においては, 防犯や児童生徒の安全のため

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

平成  年(オ)第  号

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

平成  年(あ)第  号

最高裁○○第000100号

平成19年(ネ受)第435号上告受理申立理由要旨抜粋

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

(4) 抗告人は, 平成 28 年 8 月 26 日, 本件仮登記の抹消登記を経由した (5) 抗告人は, 平成 28 年 9 月 7 日, 東京地方裁判所に対し, 本件再生手続に係る再生手続開始の申立てをし, 同月 20 日, 再生手続開始の決定を受けた 上記申立てに当たり抗告人が提出した債権者一

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

Taro-婚姻によらないで懐妊した児

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

利子相当額 という ) を加えた額に相当する金額 ( 以下 退職一時金利子加算額 という ) の返還に関し, その経過措置を定める 厚生年金保険法等の一部を改正する法律 ( 平成 8 年法律第 82 号 以下 厚年法改正法 という ) 附則 3 0 条 1 項の委任に基づいて定められた, 厚生年金保

平成18年1月13日 最高裁判所は,貸金業者の過払い金の受領は違法と知りつつなされたことを推定するとした判例です

7 という ) が定める場合に該当しないとして却下処分 ( 以下 本件処分 という ) を受けたため, 被控訴人に対し, 厚年法施行令 3 条の12の7が上記改定請求の期間を第 1 号改定者及び第 2 号改定者の一方が死亡した日から起算して1 月以内に限定しているのは, 厚年法 78 条の12による

本件合併時にA 信用組合に在職する職員に係る労働契約上の地位は, 被上告人が承継すること,3 上記の職員に係る退職金は, 本件合併の際には支給せず, 合併後に退職する際に, 合併の前後の勤続年数を通算して被上告人の退職給与規程により支給することなどが合意された また, 本件合併の準備を進めるため,

11総法不審第120号

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

9( 以下, 併せて 上告人 X1ら という ) は, 平成 19 年 9 月 30 日まで, 旧公社の非常勤職員であったが, 同年 10 月 1 日, 被上告人との間で有期労働契約を締結して, これを7 回から9 回更新し, 上告人 X1, 同 X2, 同 X3, 同 X5, 同 X6 及び同 X

被告は 高年法 9 条 2 項に規定する協定をするため努力したにもかかわらず協議が調わ なかったものと認めることはできず 本件就業規則 29 条が高年法附則 5 条 1 項の要件を具 備していないというべきである 本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則 29 条は 手続要件を欠き無効であり 原

(1) 本件は, 歯科医師らによる自主学習グループであり, WDSC の表示を使用して歯科治療技術の勉強会を主催する活動等を行っている法人格なき社団である控訴人が, 被控訴人が企画, 編集した本件雑誌中に掲載された本件各記事において WDSC の表示を一審被告 A( 以下, 一審被告 A という )

4. 韓国併合後の我が国においては 内地 朝鮮 台湾等の異法地域に属する者の間で 身分行為 があった場合 その準拠法は 共通法 ( 大正 7 年法律第 39 号 )2 条 2 項によって準用される法例 ( 平成元年法律第 27 号による 改正前のもの 以下同じ ) の規定によって決定されることとなり

同訴訟代理人弁護士同同同同同同同同同同同 三好徹石田央子津田直和井川真由美鶴﨑有一石井修平山崎哲内田尚成前田香織本田雄巳黒木義隆籔之内千賀子 主文 1 控訴人の本件控訴を棄却する 2(1) 被控訴人の附帯控訴に基づき 原判決主文 1 2 項を次のとおり変更する (2) 控訴人は 被控訴人に対し 78

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

03宅建表01.indd

除されたものを除く ) について 1 本件は, 被上告人を定年退職した後に, 期間の定めのある労働契約 ( 以下 有期労働契約 という ) を被上告人と締結して就労している上告人らが, 期間の定めのない労働契約 ( 以下 無期労働契約 という ) を被上告人と締結している従業員との間に, 労働契約法

平成 22 年 ( 行ヒ ) 第 102 号神戸市外郭団体派遣職員への人件費違法支出損 害賠償等, 同附帯請求事件 平 24 年 4 月 20 日第二小法廷判決 主 文 1 原判決中上告人敗訴部分を破棄し, 同部分につき第 1 審判決を取り消す 2 前項の部分に関する被上告人らの請求をいずれも棄却す

では理解できず 顕微鏡を使用しても目でみることが原理的に不可能な原子 分子又はそれらの配列 集合状態に関する概念 情報を使用しなければ理解することができないので 化学式やその化学物質固有の化学的特性を使用して 何とか当業者が理解できたつもりになれるように文章表現するしかありません しかし 発明者が世

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

程 ( 以下 本件資格等級制度規程 という ) に基づき,M0( 課長代理 ) の等級に格付けされていた 被上告人 X2は, 平成 4 年に上告人に入社し, 同 22 年 11 月から営業部課長代理の職位にあり, 同 24 年 2 月当時, 本件資格等級制度規程に基づき,M0の等級に格付けされていた

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

平成  年(オ)第  号

2(1) 所得税法 34 条 2 項は, 一時所得の金額は, その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額 ( その収入を生じた行為をするため, 又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る ) の合計額を控除し, その残額から所定の特別控除額を控除した金額とす

最高裁○○第000100号

返還の必要性を十分説明しており 手続は適法である 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件の争点は 本件保険が法第 4 条第 1 項に規定する 利用し得る資産 に該当するかどうかであるが その判断に当たっては 処分庁が判断の要素

務が残っているが,E,F 及びGに対しては過払金が発生していることが判明した そこで, 被上告人は, 平成 17 年 9 月 27 日までに,Aの訴訟代理人として, E,F 及びGに対して過払金返還請求訴訟を提起し, その後, 上記 3 社とそれぞれ和解をして, 平成 18 年 6 月 2 日までに

13 条,14 条 1 項に違反するものとはいえない このように解すべきことは, 当裁判所の判例 ( 最高裁昭和 28 年 ( オ ) 第 389 号同 30 年 7 月 20 日大法廷判決 民集 9 巻 9 号 1122 頁, 最高裁昭和 37 年 ( オ ) 第 1472 号同 39 年 5 月

 

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

裁判年月日 平成 20 年 4 月 16 日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決 事件番号 平 20( ツ )7 号 事件名 管理費等請求上告事件 裁判結果 上告棄却 文献番号 2008WLJPCA 兵庫県西宮市 以下省略 上告人大阪市 以下省略 被上告人上記代表者理事長上記訴訟代理

過払金等請求事件

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

平成  年(行ツ)第  号

厚生局受付番号 : 東北 ( 受 ) 第 号 厚生局事案番号 : 東北 ( 厚 ) 第 号 第 1 結論請求者のA 社における厚生年金保険被保険者資格の喪失年月日を昭和 53 年 12 月 31 日から昭和 54 年 1 月 1 日に訂正し 昭和 53 年 12 月の

平成23年12月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

11総法不審第120号

青森国民年金事案 690 第 1 委員会の結論申立人の昭和 36 年 4 月から 47 年 4 月までの国民年金保険料 同年 5 月から同年 9 月までの期間 52 年 8 月から 53 年 3 月までの期間及び 54 年 4 月から 61 年 3 月までの期間の国民年金付加保険料については 納付し

うものと推認することができる しかしながら, 被告人は, インターネットを通じて知り合ったAから金を借りようとしたところ, 金を貸すための条件として被害女児とわいせつな行為をしてこれを撮影し, その画像データを送信するように要求されて, 真実は金を得る目的だけであり, 自分の性欲を刺激興奮させるとか

7265BB4891EFF48E A000659A

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情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

審決取消判決の拘束力

するためには, その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和 45 年判例と相反する判断をしたと主張するので, この点について, 検討する (3) 昭和 45 年判例は, 被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで, 脅迫により畏怖してい

2 被控訴人らは, 控訴人に対し, 連帯して,1000 万円及びこれに対する平成 27 年 9 月 12 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 第 2 事案の概要 ( 以下, 略称及び略称の意味は, 特に断らない限り, 原判決に従う ) 1 本件は, 本件意匠の意匠権者である控訴人が

1 前提となる事実等 ( 証拠の摘示のない事実は, 争いのない事実又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実である ) (1) 当事者原告は, X1 の名称を使用してウエブサイトの制作請負を行っている者であり, 被告は, 不動産業を主な業務としている特例有限会社である (2) 原告によるプログラムの制

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平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

〔問 1〕 A所有の土地が,AからB,BからCへと売り渡され,移転登記も完了している

0 月 22 日現在, 通帳紛失の総合口座記号番号 特定番号 A-B~C 担保定額貯金 4 件 ( 特定金額 A): 平成 15 年 1 月 ~ 平成 16 年 3 月 : 特定郵便局 A 預入が証明されている 調査結果の回答書 の原本の写しの請求と, 特定年月日 Aの 改姓届 ( 開示請求者本人

主 文 1 本件控訴をいずれも棄却する 2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人 P3 及び被控訴人会社は, 大阪府内, 兵庫県内, 京都府内, 滋賀県内及び和歌山県内において, 千鳥屋という名称を使用して菓子類を販売してはならない

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

                   20140101

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1. 背景統合失調症患者が一般人口に比べて暴力傾向にあるということは これまでにも多くの検討がなされている (Walsh et al., 2002) しかし統合失調症と暴力との関係についてはさまざまな議論が存在する (Monahan, 1992 Amore et al., 2008 Vevera e

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

平成  年(あ)第  号

原告は 本件事故について 本件試合を主催し 本件ドームを占有していた被告ファイターズに対しては a 工作物責任 b 不法行為又はc 債務不履行 ( 野球観戦契約上の安全配慮義務違反 ) に基づき 指定管理者として本件ドームを占有していた株式会社札幌ドームに対しては d 工作物責任又はe 不法行為に基

答申

(1) 普天間飛行場は, 宜野湾市の中央部にあり, 昭和 20 年からアメリカ合衆国軍隊 ( 以下 米軍 という ) による使用が開始され, 現在, 米軍海兵隊の航空部隊の基地として用いられている 同飛行場周辺は, 学校や住宅, 医療施設等が密集している状況にある (2) キャンプ シュワブは, 名

26労271棄却(業務上外)

山梨国民年金事案 201 第 1 委員会の結論申立人の昭和 41 年 4 月から同年 8 月までの期間 42 年 2 月から同年 10 月までの期間 48 年 1 月 49 年 4 月から同年 5 月までの期間 49 年 11 月及び 50 年 3 月の国民年金保険料については 納付していたものと認

P20-26 特集1.indd

〔問 1〕 抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか

により容易に認められる事実 ) (1) 当事者等ア原告は,Aの子である イ Aは, 大正 年 月 日生まれの男性であり, 厚生年金保険の被保険者であったが, 平成 年 月 日, 死亡した ( 甲 1) (2) 老齢通算年金の受給 Aは, 昭和 年 月に60 歳に達し, 国民年金の納付済期間である18

被告は,A 大学 C 学部英語専攻の学生である (2) 本件投稿等被告は, 大学 2 年生として受講していた平成 26 年 4 月 14 日の 言語学の基礎 の初回講義 ( 以下 本件講義 という ) において, 原告が 阪神タイガースがリーグ優勝した場合は, 恩赦を発令する また日本シリーズを制覇

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平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第 5について 1 本件は, 統合失調症により精神科の医師である上告人の診療を受けていた患者 ( 以下 本件患者 という ) が, 中国の実家に帰省中に自殺したことについて, 本件患者の相続人である被上告人らが, 上告人には本件患者の自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務を怠った過失があるなどと主張して, 上告人に対し, 債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求める事案である 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は, 次のとおりである (1) 被上告人 X1は, 平成 6 年 9 月, 本件患者と婚姻し, 本件患者との間に被上告人 X2 及び同 X3をもうけた (2) 本件患者は, 平成 10 年 1 月, 統合失調症を発症し, その頃, 上告人が勤務していた医院を受診し, 上告人の診療を受けた 本件患者は, 平成 13 年 6 月頃, 上告人が東京都 a 区内にAクリニック ( 以下 本件クリニック という ) を開設したことに伴い, 上告人との間で診療契約を締結して本件クリニックに通院し, 平成 16 年 4 月以降, 上告人から抗精神病薬等を処方されるようになった (3) 本件患者は, 被上告人 X1らと共に, 平成 19 年 8 月頃, 長野県 b 市に転居した 上記の転居後, 本件患者は, 自身で本件クリニックを訪れることは少なくなり, 主として被上告人 X1が本件クリニックを訪れ又は電話をかけるなどして上 - 1 -

告人に本件患者の症状を伝え, 上告人から抗精神病薬等を処方されるなどしていた (4) 本件患者には, 平成 22 年 3 月, 幻聴が現れるようになり, 同年 8 月には, ベルトを持って徘徊するなど自殺企図もみられるようになった 本件患者は, 同月 日,B 大学医学部附属病院 ( 以下 B 大病院 という ) を受診し, 医療保護入院となり, 自殺企図又は自傷行為が切迫している状態にあるとして隔離された 本件患者は, 同年 9 月,B 大病院内で, かみそりで左手首を切る行為 ( 以下 本件自傷行為 という ) に及んだこともあったが, 同年 10 月 日, 幻聴等が現れる頻度が減り, 希死念慮も現れなくなったことから,B 大病院を退院した (5) 本件患者は, 平成 22 年 11 月から平成 23 年 1 月までの間, 月 1 回, 本件クリニックを訪れ, 上告人との対面による診察を受けた 上告人は,B 大病院で処方されていた抗精神病薬等が多種類かつ多量であったため, その服薬量を減量する必要があると考え, 本件患者及び被上告人 X1にその旨を説明した なお, 上告人は, 被上告人 X1から, 本件患者が本件自傷行為に及んだことを伝えられていた (6) 被上告人 X1は, 平成 23 年 2 月, 上告人に対し, 本件患者の服薬状況を報告するとともに, この数日間は幻聴がひどくなる頻度が減っており, 本件患者がしばらく中国の実家に帰省する旨を電子メールにより伝えた 本件患者は, 同年 3 月 日, 被上告人 X1と共に本件クリニックを訪れ, 上告人との対面による診察を受け, 翌 日,1 人で中国の実家に帰省した 上告人は, 上記診察の際, 本件患者及び被上告人 X1に対し, 環境の変化があるので, 帰省後 1 箇月間は抗精神病薬の服薬量を維持することを指示し, その後は経過を見て減量する方針とした (7) 本件患者は, 平成 23 年 4 月以降, 抗精神病薬の服薬量を漸次減量したが, 幻聴が悪化し, 被上告人 X1に対し, マンションの6 階にある実家から飛び降 - 2 -

りたいという衝動があるなどと述べるようになった 被上告人 X1は, 同月 日, 中国へ行き, 本件患者の様子を見るなどして, 同年 5 月 日, 日本に帰国した 被上告人 X1は, 同月 日, 上告人に対し, 本件患者の症状は少し良くなったようにも思えるが, 日によって幻聴がひどくなることがある旨の電子メールを送信した 上告人は, 同月 日, 被上告人 X1に対し, 今後 2 週間程度は抗精神病薬を減量し, その後しばらく様子を見た方がよい旨の電子メールを返信した (8) 本件患者は, 平成 23 年 5 月 日頃から幻聴が悪化し, 希死念慮が現れるようになった 被上告人 X1は, 同月 日, 本件患者に対し, 抗精神病薬の服薬量を増量させるなどし, 上告人に対し, ここ数日, 夕方になると, 幻聴が激しくなり, また, 眼球上転もでているようです 今日は希死念慮がかなりつよくでていて, これからは3 人で生きて下さい との言葉もありました 危険なので, 義母に監視を頼み, セレネースを11mgに戻すようにいいました, 減薬の先に何があるのか, その見通しを示して下さい などの記載が含まれる電子メール ( 以下 本件電子メール という ) を送信した 上告人は, 同月 日頃, 本件電子メールを読み, 被上告人 X1に対し, 困難な場合には, 入院で薬の調整をして頂くことを考える必要があるかも知れません などと記載した電子メールを返信した (9) 本件患者は, 平成 23 年 6 月 日, 幻聴を訴え, 同月 日, マンションの 6 階にある実家から飛び降りて自殺した なお, 被上告人 X1が, 本件電子メール送信以降, 上告人に対し, 本件患者につき, 自殺の切迫した危険性をうかがわせる言動があったことを伝えたとはうかがわれない 3 原審は, 上記事実関係等の下において, 要旨次のとおり判断し, 被上告人らの不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容した - 3 -

本件患者は, 自殺企図歴のある統合失調症患者であり, 抗精神病薬の減量によりその症状が悪化する可能性があるにもかかわらず, 中国の実家に帰省しており, そのことによって, 上告人は, その病状を直接観察すること等ができない状況となった 上告人は, 本件患者が上記状況にあることを認識した上で抗精神病薬の服薬量の減量を治療方針としてその診療を継続しており, 遅くとも本件電子メールの内容を知った平成 23 年 5 月 日の時点において, 本件患者の自殺の具体的な危険性を認識したのであるから, その自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務があり, これを怠った過失がある 4 しかしながら, 原審の上記判断は是認することができない その理由は, 次のとおりである 統合失調症に罹患していた本件患者は, 平成 22 年 8 月から9 月までの間, 本件自傷行為等に及んだことがあったが, 症状が回復し,B 大病院退院後は, 上告人の診察を受け, その指示を受けて抗精神病薬の服薬量を漸次減量していた そして, 本件患者は, 平成 23 年 3 月 日に中国の実家に帰省した後, 同年 5 月 日までの間に, 希死念慮を表明したことはあったものの, 自殺を図るため具体的な行動に及んだことはうかがわれない 上告人は, 本件患者が中国の実家に帰省した同年 3 月 日以降は, 本件患者を直接診察することができず, その言動を直接観察する機会もなく, 被上告人 X1からの電話や電子メールによって本件患者の状況を伝えられたのみであった 上告人は, 同年 5 月 日頃, 本件患者に希死念慮が強く出ていて危険である旨を記載した部分がある本件電子メールを読んだものの, 本件患者の具体的な言動としては, 本件患者が これからは3 人で生きて下さい と発言した旨が伝えられたにすぎない 以上によれば, 上告人が, 抗精神病薬の服薬量の減量を治療方針として本件患者の診療を継続し, これにより本件患者の症状が悪化する可能性があることを認識していたことを考慮したとしても, 被上告人 X1からの本件電子メールの内容を認識 - 4 -

したことをもって, 本件患者の自殺を具体的に予見することができたとはいえない したがって, 上告人に, 本件患者の自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務があったとはいえないというべきである 5 これと異なり, 上告人に上記義務があり, これを怠った過失があるとした原審の判断には, 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある 論旨は理由があり, 原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない そして, 以上説示したところによれば, 上告人は, 被上告人らに対し, 不法行為に基づく損害賠償責任を負わず, また, 債務不履行に基づく損害賠償責任も負わないというべきである そうすると, 被上告人らの請求はいずれも理由がなく, これを棄却した第 1 審判決は結論において是認することができるから, 上記部分に関する被上告人らの控訴を棄却すべきである よって, 裁判官全員一致の意見で, 主文のとおり判決する ( 裁判長裁判官岡部喜代子裁判官山崎敏充裁判官戸倉三郎裁判官林景一裁判官宮崎裕子 ) - 5 -