兵庫大学短期大学部研究集録№54

Similar documents
新しい幼稚園教育要領について

PowerPoint プレゼンテーション

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

乳児期からの幼児教育について 大阪総合保育大学 大方美香

2部.indd

ICTを軸にした小中連携

Microsoft Word - aglo00003.学力の三要素


1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

平成29年度 小学校教育課程講習会 総合的な学習の時間

幼児の実態を捉えると共に 幼児が自分たちで生活をつくり出す保育の在り方を探り 主体的 に生活する子どもを育むための教育課程及び指導計画を作成する 3 研究の計画 <1 年次 > 主体的に生活する幼児の姿を捉える 教育課程 指導計画を見直す <2 年次 > 主体的に生活する幼児の姿を捉え その要因につ

1 発達とそのメカニズム 7/21 幼児教育 保育に関する理解を深め 適切 (1) 幼児教育 保育の意義 2 幼児教育 保育の役割と機能及び現状と課題 8/21 12/15 2/13 3 幼児教育 保育と児童福祉の関係性 12/19 な環境を構成し 個々 1 幼児期にふさわしい生活 7/21 12/

<4D F736F F D E937893FC8A778E8E8CB196E291E8>

<4D F736F F D20906C8CA08BB388E E646F63>

Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については 知識や技能だけでなく 自ら学ぶ意欲や思考力 判断力 表現力などの資質や能力などを含めて基礎 基本ととらえ その基礎 基本の確実な定着を前提に 自ら学び 自ら考える力などの 生きる力 がはぐくまれているかどうかを含めて学力ととらえる必要があ

1 幼児期の教育 保育と小学校教育の違い 幼児期の教育 保育と小学校の教育では 発達の段階の違いだけでなく 教育課程等の違いもあります まずは相互を理解することが必要です 幼児期の教育 保育と小学校教育との間には このように教育課程や指導方法の相違点がある一方で 5 歳児から小学校低学年までの発達の

幼児期の教育と小学校教育との円滑な接続の在り方について ( 報告 ) ( 概要 ) 子どもの発達や学びの連続性を踏まえた幼児期の教育 ( 幼稚園 保育所 認定こども園における教育 ) と児童期の教育 ( 小学校における教育 ) の円滑な接続の在り方について検討し 以下のとおり 報告をとりまとめた 1

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

第 1 章総則第 1 教育課程編成の一般方針 1( 前略 ) 学校の教育活動を進めるに当たっては 各学校において 児童に生きる力をはぐくむことを目指し 創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する中で 基礎的 基本的な知識及び技能を確実に習得させ これらを活用して課題を解決するために必要な思考力 判

Microsoft PowerPoint - 中学校学習評価.pptx

基本方針 2 児童 生徒一人ひとりに応じた学習を大切にし 確かな学力の育成を図ります 基本方針 2 児童 生徒一人ひとりに応じた学習を大切にし 確かな学力の育成を図ります (1) 基礎的 基本的な学力の定着児童 生徒一人ひとりが生きる力の基盤として 基礎的 基本的な知識や技能を習得できるよう それぞ

Microsoft PowerPoint - H29小学校理科

学習意欲の向上 学習習慣の確立 改訂の趣旨 今回の学習指導要領改訂に当たって 基本的な考え方の一つに学習 意欲の向上 学習習慣の確立が明示された これは 教育基本法第 6 条第 2 項 あるいは学校教育法第 30 条第 2 項の条文にある 自ら進んで学習する意欲の重視にかかわる文言を受けるものである

資料3 道徳科における「主体的・対話的で深い学び」を実現する学習・指導改善について

幼保連携型認定こども園教育・保育要領 中央説明会

Taro-自立活動とは

60 金沢星稜大学人間科学研究第 11 巻第 2 号平成 30 年 2 月 要領を主な資料として内容を分析 考察する (1) 乳児保育に関わる ねらい及び内容 の3 視点,1 歳以上 3 歳未満児及び3 歳以上児に関わる ねらい及び内容 の5 領域, 幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿, 小学

愛媛県学力向上5か年計画

学習指導要領改訂の方向性

資料4-4 新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について 審議のまとめ(参考資料)

訂されている 幼稚園 小 中学校学習指導要領改訂の基本的な考え方として 次の 3つがあげられる 1. 子供たちに求められる資質 能力を明確にし それらを社会と共有していくという社会に開かれた教育課程を実現していく 2. 現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で 知識の理解の質を高めていく 3

はじめに P1 Ⅰ 豊後大野市幼児教育の現状と課題 P2~3 1 幼児数の変遷... P2 2 幼児教育の現状... P2~3 3 幼児教育の課題... P3 Ⅱ 豊後大野市幼児教育の基本方針 P4~7 1 豊後大野市幼児教育の基本... P4 2 豊後大野市幼児教育のねらい... P5 (1) 育

<4D F736F F D20906C8AD489C88A778CA48B8689C881408BB38A77979D944F82C6906C8DDE88E790AC96DA95572E646F6378>

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

Microsoft Word - 医療学科AP(0613修正マスタ).docx

平成 28 年度全国学力 学習状況調査の結果伊達市教育委員会〇平成 28 年 4 月 19 日 ( 火 ) に実施した平成 28 年度全国学力 学習状況調査の北海道における参加状況は 下記のとおりである 北海道 伊達市 ( 星の丘小 中学校を除く ) 学校数 児童生徒数 学校数 児童生徒数 小学校

「標準的な研修プログラム《

中学校第 3 学年社会科 ( 公民的分野 ) 単元名 よりよい社会をめざして 1 本単元で人権教育を進めるにあたって 本単元は 持続可能な社会を形成するという観点から 私たちがよりよい社会を築いていくために解決すべき課題を設けて探究し 自分の考えをまとめさせ これらの課題を考え続けていく態度を育てる

ハンドブックp10-14:東京都教育委員会

平成29年度 中学校英語科教育 理論研究

エコポリスセンターとの打合せ内容 2007

Taro-14工業.jtd

1. 研究主題 学び方を身につけ, 見通しをもって意欲的に学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における算数科授業づくりを通して ~ 2. 主題設定の理由 本校では, 平成 22 年度から平成 24 年度までの3 年間, 生き生きと学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における授業づくり通して~ を研究主題に意欲的

第3部 次世代育成支援対策(前期行動計画) 第3章 子どもの心身の健やかな成長に資する教育環境の整備

考え 主体的な学び 対話的な学び 問題意識を持つ 多面的 多角的思考 自分自身との関わりで考える 協働 対話 自らを振り返る 学級経営の充実 議論する 主体的に自分との関わりで考え 自分の感じ方 考え方を 明確にする 多様な感じ方 考え方と出会い 交流し 自分の感じ方 考え方を より明確にする 教師

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

幼児教育とは: 幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改訂を受けて

Microsoft PowerPoint - 幼稚園教育要領の改訂について

福祉科の指導法 単位数履修方法配当年次 4 R 2 年以上 科目コード EC3704 担当教員佐藤暢芳 ( 上 ) 赤塚俊治 ( 下 ) 2017 年 11 月 20 日までに履修登録し,2019 年 3 月までに単位修得してください 2014 年度までの入学者が履修登録可能です 科目の内容 福祉科

目 次 1 実施方針策定の趣旨 P. 1 2 振興計画に基づく取組みと求められる対応 P. 1 (1)Ⅰ 期期間中の取組み (2) 新制度のもと求められる対応 3 当面の実施方針 P. 2 (1) 基本となる考え方 (2) 当面の実施方針 4 新制度のもとでの市立幼稚園 P. 3 (1) 市立幼稚園

人権教育の推進のためのイメージ図

基本施策情報活用能力の育成を図ります 幼児教育の推進 にあたっては 幼児期が生涯の人格形成の基礎を培う大切な時期であるとの認識のもと 子どもたちの心身の発達に資する質の高い幼児教育を推進します 2 人との絆や自然との関わりの中で伸びゆく豊かな心の育成 子どもたちが生命を大切にする心や思いやりの心 感

新学習指導要領の理念と カリキュラム マネジメント 2019( 平成 31) 年 1 月 16 日 文部科学省 3 階講堂 天笠茂 ( 千葉大学特任教授 )

123

総合的な学習の時間とカリキュラム・マネジメント

No_05_A4.ai

61.8%

家庭における教育

13 Ⅱ-1-(2)-2 経営の改善や業務の実行性を高める取組に指導力を発揮している Ⅱ-2 福祉人材の確保 育成 Ⅱ-2-(1) 福祉人材の確保 育成計画 人事管理の体制が整備されている 14 Ⅱ-2-(1)-1 必要な福祉人材の確保 定着等に関する具体的な計画が確立し 取組が実施されている 15

八街市教育振興基本計画(平成26年~平成35年)

基本方針 これまでも幼稚園は幼稚園教育要領に 保育園は保育所保育指針に基づいた幼児教育 保育を展開してきた また 平成 20 年 3 月の大幅な改定により 3 歳児から5 歳児の教育に関する内容では整合性が図られている しかし 統一されたカリキュラムがないことで 幼稚園と保育園の内容に違いがあるかの

3. ➀ 1 1 ➁ 2 ➀ ➁ /

3 平成 29 年 3 月に幼稚園教育要領 保育所保育指針 幼保連携型認定こども園教育 保育要領が改訂され 来年度から全面実施されます 新幼稚園教育要領等では 改訂の基本的な方針として 1) 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 の明確化 健康な心と体 自立心 協同性 道徳性 規範意識の芽生え 社会生

平成 30 年 4 月 1 日 平成 30 年度 第 70 回 日本連合教育会研究大会 桐生大会 大会主題 分科会研究協議題 等 Ⅰ 大会主題及び大会主題設定の趣旨 Ⅱ 分科会研究協議題 研究協議題設定の理由 研究協議の視点 (1) 第 1 分科会国語 (2) 第 2 分科会 社会 (3) 第 3


Microsoft Word 教育課程の編成

Taro-小学校第5学年国語科「ゆる

< F2D EE888F8288FA48BC E6A7464>

7 本時の指導構想 (1) 本時のねらい本時は, 前時までの活動を受けて, 単元テーマ なぜ働くのだろう について, さらに考えを深めるための自己課題を設定させる () 論理の意識化を図る学習活動 に関わって 考えがいのある課題設定 学習課題を 職業調べの自己課題を設定する と設定する ( 学習課題

スライド 1

高松っ子いきいきプラン策定の趣旨 本プランは, 就学前の子どもが幼稚園 保育所 幼保一体化施設など, どこに在籍していても, 等しく質の高い教育 保育を受けられるよう, 各施設が積み上げてきたものを生かしつつ, 今後, 重点的に取り組むための方針や具体的な取り組みを示しています さらに小学校との連携

第4章 道徳

授業概要と課題 第 1 回 オリエンテェーション 授業内容の説明と予定 指定された幼児さんびか 聖書絵本について事後学習する 第 2 回 宗教教育について 宗教と教育の関係を考える 次回の授業内容を事前学習し 聖書劇で扱う絵本を選択する 第 3 回 キリスト教保育とは 1 キリスト教保育の理念と目的

教育と法Ⅰ(学習指導要領と教育課程の編成)

< F2D318BB388E789DB92F682CC8AC7979D F >

平成 30 年度なごや小学校努力点推進計画 1 研究主題なかまとともに感性輝くなごやっ子 (1 年次 ) 2 研究主題について本校では 昨年度までの努力点研究において 道徳や特別活動の時間を中心に 子ども一人一人の成長と互いの認め合いをめざすことで 子ども自らが なごや小でよかった と感じられるよう

41 仲間との学び合い を通した クラス全員が学習に参加できる 授業づくり自分の考えを伝え 友達の考えを聞くことができる子どもの育成 42 ~ペア グループ学習を通して~ 体育における 主体的 対話的で深い学び を実現する授業づくり 43 ~ 子どもたちが意欲をもって取り組める場の設定の工夫 ~ 4

農山漁村での宿泊体験活動の教育効果について

消費者教育のヒント集&事例集

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

H30全国HP

【参考資料1】審議のまとめ反映版

<4D F736F F D B4E88C4817A89A1956C8E738BB388E791E58D6A2E646F6378>

習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

必要性 学習指導要領の改訂により総則において情報モラルを身に付けるよう指導することを明示 背 景 ひぼう インターネット上での誹謗中傷やいじめ, 犯罪や違法 有害情報などの問題が発生している現状 情報社会に積極的に参画する態度を育てることは今後ますます重要 目 情報モラル教育とは 標 情報手段をいか

資料3 文部科学省説明資料

を生かした環境を構成することも求められます 3 安全で保健的な環境次に 施設などの環境整備を通して 保育所の保健的環境や安全の確保などに努めること としています 子どもの健康と安全を守ることは保育所の基本的かつ重大な責任です 全職員が常に心を配り 確認を怠らず 子どもが安心 安全に過ごせる保育の環境

彦根市立城陽幼稚園 幼稚園の特色 本園は 荒神山を間近に仰ぎ 琵琶湖岸まで広がる田畑や犬上川 宇曽川の両河川に囲まれた 自然に恵まれたところに位置し 旧市街地と新興住宅地が点在する地域にあります 平成 3 年 ( 旧 ) 平田幼稚園の一室を借りて開園し 翌年 3 月 日夏町の現在地に移りました 今年

幼稚園 保育所ができること 一緒にやりましょう! 幼稚園 保育所は 子ども同士がふれあう以外に 保護者同士が交流できる場でもあります ここでは 各幼稚園 保育所が保護者と連携するとともに 保護者同士のふれあい つながりづくりに向けた取組みを記載しています 1 ( 幼稚園 保育所 ) 幼稚園 保育所と

成績評価を「学習のための評価」に

Q1: 社会に開かれた教育課程 の実現とは, どのようなことですか? A: 教育課程を編成する際には, よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念とともに, 子どもたちにどのような資質 能力を育むのかについて学校と社会が共有することが求められています さらに, 社会と連携 協働することでそ

2部.indd

Taro-renkei.jtd

第 1 章 札幌市幼児教育振興計画の策定 本計画は 主に幼稚園教育を対象とする 本計画は 平成 18 年度から概ね10 年間を計画期間とし 今後はこの方向性に基づいて早期に具体的な施策 ( アクションプログラム ) を打ち出していく 本計画は 社会情勢の変化などに対応し 必要に応じて計画の見直しを行

算数でも 知識 (A) 問題 活用 (B) 問題とも 全領域で全国平均を上回りました A 問題では 14 問中 12 問が全国平均を上回り うち8 問が5ポイント以上上回りました 下回った2 問は 直径と円周の長さの関係理解 と 除法で表す2 量関係の理解 でした B 問題では 10 問中 9 問が

< C197E C896DA F83582E786C73>

2 研究の歩みから 本校では平成 4 年度より道徳教育の研究を学校経営の基盤にすえ, 継続的に研究を進めてきた しかし, 児童を取り巻く社会状況の変化や, 規範意識の低下, 生命を尊重する心情を育てる必要 性などから, 自己の生き方を見つめ, 他者との関わりを深めながらたくましく生きる児童を育てる

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

造を重ねながら取り組んでいる 人は, このような自分の役割を果たして活動すること, つまり 働くこと を通して, 人や社会にかかわることになり, そのかかわり方の違いが 自分らしい生き方 となっていくものである このように, 人が, 生涯の中で様々な役割を果たす過程で, 自らの役割の価値や自分と役割

Transcription:

ノート 保育内容 人間関係 持続可能な開発のための教育 (ESD) の観点から Interpersonal Relationships in Childcare From the viewpoint of Education for Sustainable Development (ESD) 要約 * ( 平成 31 年 1 月 23 日受理 ) はじめに保育内容には 5 つの領域がありその中の 1 つである領域 人間関係 が 領域 社会 か らなぜ変遷していったかを明らかにした その変遷の中で家庭や地域社会の変容にともない 人間関係 も変容してきた そして 領域 人間関係 の授業の中で学生に 人のつながり について問いかけた その結果 社会が抱えている課題がうかがえ 持続可能な開発のための教育 (ESD) における 人と 人とのつながり 人と社会とのつながり 人と環境とのつながり という観点から課題解決につい て領域 人間関係 の中で今後明らかにしていきたい キーワード : 人間関係 保育 持続可能な開発のための教育 keywords :Human Relations, Childcare, Education for Sustainable Development 1. はじめに乳幼児期は 子どもの人間形成の基礎をつくる大事な時期である そしてその時期には多くの人との関わりがあり その中で人間形成を築いていく 子どもを取り巻く人間関係の中で教えられたり みずから学ぶ中で 生きていくこと の基盤を身につけていくのである そして 子どもは生きている現在の社会から様々な影響を受け 特に子どもの 人間関係 は現代社会から大きな影響を受けている 人間の社会環境の中で子どもを取り巻く人間関係をとおして 様々なことを学んでいく 子どもにとって最初の人間関係である親子関係から人間としての信頼関係を学び それをもとにして 自分の探索領域を広げて行く 幼稚園 保育所に入って 同じ年齢の子ども達と関わりあいながら 集団生活の基礎を学んでいく そしてその学びは 親 教師などといった子どもを取り巻く大人から人間社会の規範を教えられる また 子ども自身で学ぶこともある 人間関係 を育てていく子どもを取 り巻く環境にも注目をする 子どもだけでは 人間関係の方法を育てることはできないが 子どもを取り巻く様々な環境の中で育っていく 現在においては 都市化することによってもたらされた地域関係 近隣関係の衰退は 地域の子ども関係の衰退化のもつながっている 農村地区のような大家族は少なくなり 核家族 少子化によって家族の規模も縮小型の一途を辿っている これらの背景により 昨今では 人間関係を育てる環境の力が弱まってきているのは明白であり 子どもの 人間関係 が希薄になってきていることは 現実問題としておおいに懸念される点である そして持続可能な開発のための教育 Education for Sustainable Development(ESD) においては 従来の環境教育は人と自然との関係を改善していくことが目的であり従来の人権教育や平和教育は人と人 人と社会との関係を改善していくことが目的であった これらをトータルして総合的に見ていこうというのが ESD である 現在の人と (* やまむらけいこ保育科講師幼児教育 保育 ) 9

保育内容 人間関係 自然 人と人 人と社会とのつながり ( 関係性 ) ではもはや私たちも他の生物種 未来の人も持続しない とあるが ではどんなつながり ( 関係性 ) ならば持続するのだろうか その新たな ( もう一方の ) つながりや関係性を想像し 想像したつながり ( 関係性 )= 社会を創造する力 すなわち 2つの想像力を育むのが ESD である 1) とある この持続可能な開発のための教育 (ESD) については 後で述べることにし 保育内容 人間関係 と関連させながら現代の課題について検討をしていく また 先行研究の永野 2006( 平成 18) 年の研究においては この保育内容の 人間関係 について 幼稚園教育要領や保育所保育指針の五領域の 1つに領域 人間関係 がある 人間関係は本来人的環境という意味では領域 環境 に含まれると考えられる けれども乳幼児の人間関係の発達はこの時期の子どもにとって重要であることから環境とは別に人間関係の領域を設けたと考えられる 2) と説明をしており 幼稚園教育要領の変遷と領域 人間関係 について述べている ここで 変遷 についての理解が必要である理由は 領域 人間関係 のねらいと内容をより理解することにより現在の領域 人間関係 になったことから課題に対して解決する道筋を見つけ出し 持続可能な社会つくりへの基盤となるように考えていきたい 2. 研究目的と方法 ⑴ 研究目的これらのことを踏まえて家庭や社会の教育する力を再び蘇らせるためには保育所 幼稚園 こども園が核となって地域のネットワークを再構築し 意識して子どもの 人間関係 を育てる必要がある 家庭や地域社会の変容によりもたらされた人間関係を明らかにしてした上で保育内容の 人間関係 の課題について解決する方法を模索するうえで 保育内容 人間関係 が 持続可能な開発のための教育 (ESD) の観点とどのような関係があるのかを研究の目的とした ⑵ 方法 本学には 2 年間で学ぶ 2 年制の保育科第一部 と 3 年間で学ぶ 3 年制 ( 授業は午前中のみ ) の保 育科第三部の 2 つの学科がある まず第一部 1 年生 46 名 第三部 2 年生 44 名の学 生 90 名を対象に保育内容 人間関係 の授業の中 で 人のかかわり つながり について それぞ れ経験した中で思うところを述べてもらった 時 間は約 20 分間とした ⑶ 結果 1) 第三部 2 年生のレポートから次のような結果 になった 1 人と関わることで大切なことは何か ( 表 1) 項目人数 人との関わり つながり は人が生きていくうえでとても大切である 相手の気持ちを理解したり 思いやりを持つことができる コミュニケーションをとることが大切である 自分を表現することができたり 成長につながる 2 どのような人との関わりがあるか ( 表 2) ( 表 1) の結果では 人との関わり つなが り は人が生きていくうえでとても大切である が一番多かった ( 表 2) からは 友達 が一番 多く出てきており 親よりも倍近く差がある 42 10 項目人数 友達 42 親 22 保育者 16 地域の人 8 8 8 10

2) 第一部 1 年生のレポートから次のような結果 になった 1 人と関わることで大切なことは何か ( 表 3) 2 どのような人との関わりがあるか ( 表 3) からも 人との関わり つながり はとても大切である とあるが 少し違うのが 生 きていくうえで という言葉がなかった ( 表 4) もやはり 友達 が一番であった ⑷ 考察 項目人数 人との関わり つながり はとても大切である 自分の考えを言ったり 発見があったり 相手の価値観を知ったり 自分自身が成長ができるので大切である コミュニケーションをとることが大切である 人と関わることは良いことばかりではないが 人生においては大切である ( 表 4) 第三部 2 年生と第一部 1 年生と共通しているの は 人と関わることで大切なことは何か という 点においては 人との関わり つながりはとて も大切である と書かれていることが一番多かっ た 学生自身が人との関わりが苦手だということ を書いていた人も数名いたが 多くは 子ども に対してであった 具体的に 大切なこと とし て 2 番め以降に挙げたが この点は 第三部 2 年生の学生と第一部 1 年生の学生との違いが明ら かになった 第三部 2 年生は 相手に対して の 感情であるが 第一部の学生は 自分自身に対し て の感情で 成長 という言葉で表現をしてい 42 23 項目人数 友達 25 親 7 保育者 6 地域の人 2 6 2 る とても面白い結果が出たと同時に 人間関係 というのは やはり 相互関係 であるということが この結果からもよく分かった 2どのような人との関わりがあるか という点では レポート中に出てくる回数で表した 人 という 一般的 な呼び方を第一部 1 年生は多かったが 第三部 2 年生は 具体的な人を挙げていたので回数も多いのである これは 学年が一つ上であり 実習も2か所終えているからだろうと推測される 他国の人との関わりは 1 名だけであったが近くに住んでいたということで 地域の人 の中に含むことにした しかし 数の多い順番は 同じであった 自分たちの経験だけではなく 保育実習を終えているということもあり 友達 が圧倒的に多かった この 友達 という点に注目をしてみると学生が 人間関係 という授業や実習からこのような考えを導き出したのであるが これは学生の人間関係ではなく あくまでも 子ども に対してつまり 保育 の中での 人との関わり に重きを置いて述べているのだと考えられる しかしここで考えておきたいのは 必ずしも 人との関わり について 良いこと だけではないことにも触れておきたい 第一部 1 年生の2 名が書いていたが 人間関係 においては 良いこと だけではないが それも含めて 人間関係 であり この点については 学生自身の経験からだと思われる 保育の中でそれをどのように今後伝えるのが 課題である また 人との関わり の中には 共感 という言葉が出てくる 学生の1 人もそれに特化して書いていた 良いこと だけに共感するのではなく 悪いこと にも 共感 することがあるのではないか というのである 確かにそのとおりである それが いじめ につながるのではないか この点に気付いたのはこの学生だけであり 貴重な意見である この点についても保育の中でどのように子ども達に伝えて行くのかが また課題の一つになる これらを総合的に考えると 人間関係 という保 11

保育内容 人間関係 育内容は 極めて人が生きる上で大切な内容ではないかと改めて考えさせられる 次に2018( 平成 30) 年から幼稚園教育要領 保育所保育指針の改訂では どのように改訂されたのかをみることにする 3. 幼稚園教育要領と保育所保育指針における 人間関係 について幼稚園教育要領が2018( 平成 30) 年 4 月から改訂されたが まず 幼稚園教育要領の前に 学習指導要領 に触れておくことにする ⑴ 幼稚園 小学校 中学校 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について ( 答申 ) 概要 についてまず 第 1 部学習指導要領等改訂の基本的な方向性 から次のようなことが書かれている 第 2 章 2030 年の社会と子供たちの未来 ( 生きる力 の育成と 学校教育及び教育課程への期待 ) こうした力は これまでの学校教育で育まれてきたものとは異なる全く新しい力ということではなく 学校教育が長年その育成を目指してきた 生きる力 を改めて捉え直し しっかりと発揮できるようにしていくことである 時代の変化という 流行 の中で未来を切り拓いていくための力の基盤は 学校教育における 不易 たるものの中で育まれる 今はまさに 学校と社会とが認識を共有し 相互に連携することができる好機にあると言える 学校教育がその強みを発揮し 一人一人の可能性を引き出して豊かな人生を実現し 個々のキャリア形成を促し 社会の活力につなげていくことが 社会からも強く求められてい る 3) ⑵ 第 3 章 生きる力 の理念の具体化と教育課程の課題ここでは 1. 学校教育を通じて育てたい姿と 生きる力 の理念の具体化 ということでもっと具体的に 生きる力 について述べられている 教育基本法が目指す教育の目的や目標に基づき 子供たちの現状や課題を踏まえつつ 2030 年とその先の社会の在り方を見据えながら 学校教育を通じて子供たちに育てたい姿を描くとすれば 以下のような在り方が考えられる 社会的 職業的に自立した人間として 我が国や郷土が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野を持ち 理想を実現しようとする高い志や意欲を持って 主体的に学びに向かい 必要な情報を判断し 自ら知識を深めて個性や能力を伸ばし 人生を切り拓いていくことができること 対話や議論を通じて 自分の考えを根拠とともに伝えるとともに 他者の考えを理解し 自分の考えを広げ深めたり 集団としての考えを発展させたり 他者への思いやりを持って多様な人々と協働したりしていくことができること 変化の激しい社会の中でも 感性を豊かに働かせながら よりよい人生や社会の在り方を考え 試行錯誤しながら問題を発見 解決し 新たな価値を創造していくとともに 新たな問題の発見 解決につなげていくことができること 4) ここでは 生きる力 とは 自分 一人が生きるということではなく 自分の考えを根拠とともに伝えるとともに 他者の考えを理解し 自分の考えを広げ深めたり 集団としての考えを発展させたり 他者への思いやりを持って多様な人々と協働したりしていくことができること とあるように 他者 を意識し 集団 の中で 生きる ということを示唆しているのである 最後には 具体的な方向性 としてどいったことが 幼児教育 望まれるのかを考えてみたい ⑶ 第 2 部各学校段階 各教科等における改訂の具体的な方向性 第 1 章各学校段階の教育課程の基本的な枠組みと 学校段階間の接続 として次のような 方向性 となった 幼児教育 においては 幼児教育で育みたい資質 能力として 知識 技能の基礎 思考力 12

判断力 表現力等の基礎 学びに向かう力 人間性等 の三つを 現行の幼稚園教育要領等の5 領域 ( 健康 人間関係 環境 言葉 表現 ) を踏まえて 遊びを通しての総合的な指導により一体的に育む また 5 歳児修了時までに育ってほしい具体的な姿 ( 健康な心と体 自立心 協同性 道徳性 規範意識の芽生え 社会生活との関わり 思考力の芽生え 自然との関わり 生命尊重 数量 図形 文字等への関心 感覚 言葉による伝え合い 豊かな感性と表現 ) を明確にし 幼児教育の学びの成果が小学校と共有されるよう工夫 改善を行う 5) としている 生きる力 を基盤に考えられており 幼児教育で育みたい資質 能力として 知識 技能の基礎 思考力 判断力 表現力等の基礎 学びに向かう力 人間性等 を3つの柱として幼稚園教育要領も改訂がされてきた 幼稚園教育要領と保育所保育指針について読み解いておく必要がある まず2018( 平成 30) 年 4 月から実施されている幼稚園教育要領の領域 人間関係 には ねらい を定めており 内容 でより領域 人間関係 を具体的に詳しく解説していた 以下にあげている 他の人々と親しみ 支え合って生活するために 自立心を育て 人と関わる力を養う 1 ねらい ⑴ 幼稚園生活を楽しみ 自分の力で行動することの充実感を味わう ⑵ 身近な人と親しみ 関わりを深め 工夫したり 協力したりして一緒に活動する楽しさを味わい 愛情や信頼感をもつ ⑶ 社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける 6) 次に保育所保育指針については 1 歳児以上 3 歳児未満に関しても領域 人間関係 の ねらい 及び 内容 はあるが 3 歳児以上の領域 人間関係 と連動をしていており ここでは 幼稚園教育要領は 幼児が対象であるので3 歳児以上の ねらい と 内容 を取り上げる 保育所保育指 針では 幼稚園生活 が 保育所の生活 となっているだけで他の文言は 同じであり 改訂されてからは 幼稚園教育要領と同じであるので省略をする 上記は 2018( 平成 30) 年 4 月から4 回目の改訂である この改訂に至るまでには 人間関係 という保育内容が時代の変化に伴い 子どもの最善の利益 を考えながら変遷を繰り返してきた 3 回目の ( 平成 20) 年 3 月に改訂された 幼稚園教育要領 や 保育所保育指針 においては 人間関係 としてのねらいや内容は 人間関係を 中心に親 友だち 保育者 高齢者そして地域の人 そして外国人と人間関係が広がってきている では ここで日本では 幼児教育の指針である 幼稚園教育要領 や 保育所保育指針 は 戦後 何度か改訂されたが その時の社会の変化に伴い 人間関係 のねらいや内容も大きく変わった なぜ領域 社会 から 人間関係 として変わってきたのであるのか 変遷にも目を向けてみたいと思われる 4. 領域 社会 から 人間関係 への変遷以前は領域 社会 という領域が今の 人間関係 に関する内容を示していた その領域 社会 が誕生したのは1956( 昭和 31) 年の初めての幼稚園教育要領である その中の1つが領域 社会 であった 1948( 昭和 23) 年に出された 保育要領 の保育内容は 見学 リズム 休息 自由遊び 音楽 お話 絵画 製作 自然観察 ごっこ遊び 劇遊び 人形芝居 健康保育 年 中行事 の12の 楽しい経験 であった 楽しい経験ではあるが それぞれの概念が 抽象的 具体的 すぎたために全体として教育課程の編成時に整理 統合することとなった ごっこ遊び 劇遊び 人形芝居 は 社会性の獲得 のための内容であり 見学 は 社会認識を育てる ための内容であり 年中行事 は 社会的生活の楽しさ のための内容という事であった このように子どもの 社会性 を育て 社会認識の基礎の獲得 と 社会生活の楽しさ を育て 13

保育内容 人間関係 ようとまとめられたのが 領域 社会 であった 1956( 昭和 31) 年版では 社会の内容を8 項目に分け 望ましい経験 が示された 個人生活における望ましい習慣や態度を身につける 社会生活における望ましい習慣や態度を身につける 身近な社会の事象に興味や関心を持つ の 3つの項目に分けられ 社会生活を行ううえでの基礎となる個人としての習慣 態度をまとめたものであり 幼稚園生活の中で社会性を身につけていくためのもの そして 社会認識の基礎を築くためのもの であった 1986( 昭和 61) 年に幼稚園教育要領に関する調査研究協力者会議が 幼稚園教育の在り方について をとりまとめ 3 点について取り上げた 人とのかかわりを持つ力の育成について 自然とのふれあいや身近な環境とのかかわり合いについて 基本的生活習慣 態度の形成について である 1964( 昭和 39) 年版ができた当時から比べ 子ども達を取り巻く環境も大きく変化して行った 核家族化が進み きょうだいのいる子どもが減り 家庭外の 子どもの集団 が減少し 遊びが変わり また 過保護の問題も出てきた 1964( 昭和 39) 年の 自然とのふれあいや身近な環境とのかかわり合いについて には示されているが 1989( 平成元 ) 年の領域 人間関係 のねらいには入ってこない つまり領域 人間関係 のねらいには 領域 社会 のねらいにあった 社会認識の基礎 の育成は含まれなくなった そして 領域全体を見直した結果 再構成され 幼児の発達の側面 からまとめられ 幼児の人間関係の発達の側面からまとめられた 自分の能力を発揮できるようになることが他者との人間関係の基礎であること 集団生活のなかで 自分とは異なる感じ方 考え方 思いなどをもつ人がいることに気づき その人たちと積極的にかかわり 共感や思いやりが持てるようになること 多様な人たち と生活していくために社会的なルールがあり それにそって他の人と生活していくことの楽しさや大切さを知ること それが 社会的の生活を営むうえでの習慣や態度を 身につけることにつながる これが 自立心を育て 人とかかわる力を養う ことであり まさしく 領域 人間関係 である そして 今日の世代のニーズを満たすような開発 ( 持続可能な開発 ) を行うためには すべての人が 人と人 人と社会 そして人と自然とのつながりを理解しようと努め 様々な問題を解決するためにはどのような取り組みが必要かを自ら考えるような視点を身につけ 行動を起こすことが必要である とあるが このことについては 次で述べることにする 5. 持続可能な開発のための教育 の概要 (Education for Sustainable Development) 持続可能な開発(Sustainable Development: SD) を基調とした社会 つまり持続可能な社会を主体的に担う人づくりとして80 年代後半以降 特に1992 年の地球サミットで出された行動計画 ( アジェンダ21の第 36 条 ) を契機に国連が始めた人づくりに起因し 2002 年のヨハネスブルグでの日本の NGO と政府による国連持続可能な開発のための教育 10 年の提唱 ( 同年末の国連総会で決議され 2005 年から開始 ) によって国際的に広まってきた活動である 7) と言われている また 文部科学省における日本ユネスコ国内委員会の 我が国における 持続可能な開発のための教育 (ESD) に関するグローバル アクション プログラム 実施計画より 持続可能な開発のための教育 (ESD, Education for Sustainable Development) は 人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう 気候変動 生物多様性の喪失 資源の枯渇 貧困の拡大等 人類の開発活動に起因する現代社会における様々な問題を 各人が自らの問題として主体的に捉え 身近なところから取り組むことで それらの問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし もって持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習 教育活動である 上述の様々な問題は総合に複雑かつ密接につながり 地球的な規模だけで解決することは不可能である と述べられている また 前述したが 将来の世 14

代のニーズを満たす能力を満たす能力を損なうことなく 今日の世代のニーズを満たすような開発 ( 持続可能な開発 ) を行う社会を実現するためには すべての人が 人と人 人と社会 そして人と自然とのつながりを理解しようと努め 上記に掲げた様々な問題を解決するためにはどのような取り組みが必要かを自ら考えるような視点を身に付け 行動を起こすことが必要である そのような観点から わが国は 持続可能な開発のための 教育 の重要性を国際社会において主張してきたところである 8) と述べられている このように ESD( 以下このように呼ぶ ) の概要に述べられているように 人間関係 を地球規模で捉える考え方である しかし この ESD においては 地球規模のように大きく捉えてはいるが DESD 国際実施計画の 付属文書 では 定型的 Formal 不定型的 Nonformal 非定型的 Informal な教育に取り組むことが必要とされている DESD 中間報告書 2009( 平成 21) 年では 特に不定型教育と非定型教育の充実を今後の課題としているが 焦点となるのは 構造化する実践 としての不定型教育であり その典型的実践こそが 地域をつくる学び を援助 組織化する 地域づくり教育 ないし 地域創造教育 なのである 9) と述べられている つまり 地域 作りの教育をしていこうというのである 地域 は 伝統的には 地縁的ないしは血縁的なつながりを中心とした住民が共同性にもとづいて形成してきた生活空間を意味するものとして捉えることができる まさにコミュニティとしての地域である 10) と述べており 地域とは人間同士の生活空間であり つながりである 学生のレポートでは 地域の人よりも子どもにとっては 身近な友達 との 関わり つながり だったが 将来保育者になる学生にとっては 多様な人々 へももっと目を向けてもらい 幼稚園 保育所という枠組みから視野を広げてもらいたい そのためには 持続可能な開発のための教育 である ESD についてもっと理解を深めてもら いところである 次に ESD を観点において幼稚園教育要領の改訂されたところを比較してみる 6. 幼稚園教育要領改正の概要から現行との比較今回の改正は 平成 28 年 12 月 21 日の中央教育審議会答申 幼稚園 小学校 中学校 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について ( 以下 答申 という ) を踏まえ 幼稚園 小学校及び中学校の教育課程の基準の改善を図ったものである 以下抜粋である 1. 改正の概要 ⑴ 幼稚園 小学校及び中学校の教育課程の基準の改善の基本的な考え方教育基本法 学校教育法などを踏まえ 我が国のこれまでの教育実践の蓄積を活かし 豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手となることが期待される子供たちが急速に変化し予測不可能な未来社会において自立的に生き 社会の形成に参画するための資質 能力を一層確実に育成することとしたこと その際 子供たちに求められる資質 能力とは何かを社会と共有し 連携する 社会に開かれた教育課程 を重視したこと 知識及び技能の習得と思考力 判断力 表現力等の育成のバランスを重視する現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で 知識の理解の質をさらに高め 確かな学力を育成することとしたこと 体験活動の重視 体育 健康に関する指導の充実により 豊かな心や健やかな体を育成することとしたこと 先行する特別教科化など道徳教育の充実や 新たに 前文 を設け 新学習指導要領等を定めるに当たっての考え方を明確に示したこと 11) 以上の 改正の概要 の内容からより具体的に改訂の内容が読み取れた そして保育内容の3つの ねらい の中から改訂以前は ⑵ 身近な人と親しみ かかわりを深め 愛情や信頼感をもつ 改定後は ⑵ 身近な人と親しみ 関わりを深め 工夫したり 協力し 15

保育内容 人間関係 たりして一緒に活動する楽しさを味わい愛情や信頼感をもつ 大きな違いは 一緒に活動する楽しさを味わい という点が 加わったのである つまり 友達と一緒に活動をする という 協同性 という点である 一人ではなく人と同じ 目的 を持って活動をする 楽しさ を味わい 人との関わる ことの重要性を伝えるのである また 内容の取扱い に関しては 改訂以前は ⑵ 幼児の主体的な活動は 他の幼児とのかかわりの中で深まり 豊かになるものであり 幼児はその中で互いに必要な存在であることを認識するようになることを踏まえ 一人一人を生かした集団を形成しながら人とかかわる力を育てていくようにすること 特に 集団の生活の中で 幼児が自己を発揮し 教師や他の幼児に認められる体験をし 自信をもって行動できるようにすること 改定後は ⑵ 一人一人を生かした集団を形成しながら人と関わる力を育てていくようにすること その際 集団の生活の中で 幼児が自己を発揮し 教師や他の幼児に認められる体験をし 自分のよさや特徴に気付き 自信をもって行動できるようにすること 幼児の主体的な活動は 他の幼児とのかかわりの中で深まり 豊かになるものであり 幼児はその中で互いに必要な存在であることを認識するようになることを踏まえ という点においては まず自分のよさや特徴に気づき自分に力があると信じて取り組む ことが 基盤となって集団の中で自己を発揮できるということであろう 幼稚園教育において育みたい資質 能力及び 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 では 1 幼稚園においては 生きる力の基礎を育むため この章の第 1に示す幼稚園教育の基本を踏まえ 次に掲げる資質 能力を一体的に育むよう努めるものとする とある 12) 前述したことが 現行に新しく提示されたところであり 保育所指針にも書かれている 自立心 においては 身近な環境に主体的に関わり様々な活動を楽しむ中で しなければならないことを自覚し 自分の力で行うために考えたり 工夫したり しながら 諦めずにやり遂げることで 達成感を味わい 自信をもって行動するようになる とあり 人間関係 の中で育つものである 社会生活との関わり においては 家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに 地域の身近な人と触れ合う中で 人との様々な関わり方に気付き 相手の気持ちを考えて関わり 自分が役に立つ喜びを感じ 地域に親しみをもつようになる また 幼稚園内外の様々な環境に関わる中で 遊びや生活に必要な情報を取り入れ 情報に基づき判断したり 情報を伝え合ったり 活用したりするなど 情報を役立てながら活動するようになるとともに 公共の施設を大切に利用するなどして 社会とのつながりなどを意識するようになる 13) この点については 学生にレポートの中に多く出てきた点と一致し 人との関わり つながり という点では コミュニケーションということを育てていくことにもつながる 人との関わり が 乳幼児にとって重要であることは 明らかである 7. 総合考察 子どもは生きている現在の社会から様々な影響を受け 特に子どもの 人間関係 は現代社会から大きな影響を受けている と前述している 現在 社会は 少子高齢化が進み 核家族化 地域力の脆弱化等が言われている 現代社会の影響を大きく受けるこの 社会 が 子どもが成長するには大きな課題となっている 社会 といった大きなくくりではなく もっと細分化をし 様々な課題を考えなくては大きな課題には辿りつけないように思われる この課題を解決するには一体どのような方法があるのだろうか 初めての幼稚園教育要領である保育内容が領域 社会 であった 1956( 昭和 31) 年においては 子どもの 社会性 を育て 社会認識の基礎の獲得 と 社会生活の楽しさ を育てようとまとめられた とある この頃の 社会性 とは 小学校の社会科の誕生と同じく 戦前の皇民思想から民主的で平和な市民の育成という考えの転換 とある つまり人間関係という事には重きを置かず あく 16

までも 人間社会 という 生活 労働 等に重きを置いた考えであったのではないだろうか 民主的な市民として生活を営むためには独立した人間として持つべき社会性と科学的に社会の事象を理解していく能力が必要でそれらの基盤の育成が目的であったのだろう 保育所 幼稚園等で 社会性 を身につけていくことを育成するためのものであった しかし 1989( 平成元 ) 年には 幼稚園教育要領が改訂され 領域 人間関係 として 子どもの主体性 を重視した内容に変わっていった 人とのかかわりを持つ力の育成について 自然とのふれあいや身近な環境とのかかわり合いについて 基本的生活習慣 態度の形成について である なぜ 変わっていったのだろうか 時代背景が大きく関与をしている 少子高齢化が進み 核家族化 遊びの変化等の問題が出てきたからである 人との関わりを持つ力 は 子どもを取り巻く環境の変化に対応するために変わったのである 社会 を創っている 人間関係 が崩れ始めたのである これは 人間が生きていくためには大きな課題である 環境も人間にとって良くない影響を与えている その環境については さらに詳しく領域 環境 で子ども達へ知らせ 保育者は 子ども達と一緒に考えながら保育をしている そして改めて 人間関係 に焦点を合わせたのである まず 自分の能力 を発揮し 自己肯定感を育てる そして他者との人間関係の基礎を育てる 次に保育所 あるいは幼稚園という集団の中で自分とは違う考え 感じ方などを持つ人に出会い その人たちと自分から積極的に関わり 共感 や相手を 思いやる という感情を持つようになる 多様な人々 多文化にふれ 一緒に生活をするために社会的なルールを学び 生活することの楽しさや大切なことを知ることが社会生活の基本的な生活習慣を知ることにつながる これが 幼稚園教育要領 保育所保育指針にある 他の人々と親しみ 支え合って生活するために 自立心を育て 人と関わる力を養う という ことである 他の人々 とは 子ども達だけのことではなく 子ども達を取り巻く すべての人 のことである すべての人 との関わりについて考えてみたい すべての人と関わりあうということはどういうことであるのだろうか ただ つながる ことだけなのだろうか 子ども達にとって 人間関係 を学ぶという事はどういうことにつながっていくのだろうか 広島大学附属幼稚園の研究発表の論文には 現行教育要領 にも 幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 にも 力を合わせて 協力 一緒に遊びを進めていく など 他者との協力 協同にかかわる多くの文言が示されていた また 他者の気持ちを理解 互いの感じ方や考え方などに気づき 互いのよさが分かる など 互いのよさを認め合うことの大切さについても言及されている この内容は 一貫して大切にされている幼児期に育てたい資質や能力だと言えるであろう これは ESD で重視する能力 態度 とも合致するものである 14) 前述した 持続可能な開発のための教育 (ESD, Education for Sustainable Development) である 持続可能な開発のための教育 (ESD, Education for Sustainable Development) は 人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう 気候変動 生物多様性の喪失 資源の枯渇 貧困の拡大等 人類の開発活動に起因する現代社会における様々な問題を 各人が自らの問題として主体的に捉え 身近なところから取り組むことで それらの問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし もって持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習 教育活動である 15) である そして 今日の世代のニーズを満たすような開発 ( 持続可能な開発 ) を行うためには すべての人が 人と人 人と社会 そして人と自然とのつながりを理解しようと努め 様々な問題を解決するためにはどのような取り組みが必要かを自ら考 17

保育内容 人間関係 えるような視点を身につけ 行動を起こすことが必要である 15) とある 子ども達が 人間関係 をより潤滑に楽しい関係づくりができれば 今現在起こっている課題解決について どのような取り組みが必要かを自ら考えるような視点を身につけ 行動を起こすこと を学ぶ事ができるのである ユネスコの諮問機関である OMEP( 世界幼児教育 保育機構 ) の世界総裁の朴恩惠は ESD は 乳幼児期から 高等教育 成人してからの教育 そしてフォーマルな教育を超えた一生涯に亘るプロセスである と述べている つまり 乳幼児期からでも 教育 保育 をしていく中で学習をしていき 子ども達なりに課題を解決するための方法を学んでいくのである 少子高齢化 核家族化 地域力の低下等 社会の課題についても 人と人とのつながり が 脆弱化 しているからこその課題でありその課題を解決するためには 保育内容 人間関係 のねらいをもっと保育の現場で実践をしていき この ESD の人間としての つながり の重要性と関連させながら保育のカリキュラムを考えていく必要性がある このままでは 社会に 希望 は持てず 体力 がなくなりやがて衰退していくのではないだろうか 子ども達に輝く未来を担ってもらうためにも 持続可能な開発ための教育(ESD) を推進していきたい 引用文献 1) 佐藤真久 阿部治編著 (2014) ESD 入門 筑波書房 p12 2) 永野泉 (2006) 論文 保育内容 人間関係 に関する研究の動向 日本保育学会の研究発表を中心に https://shukutoku.repo.nii.ac.jp/?action = repository_action_common_download&item_... p2 3) 4) 5) 中央教育審議会 (2016) 幼稚園 小学校 中学校 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等につい て ( 答申 ) 厚生労働省 p9 p13 p72 6) 幼稚園教育要領解説 (2018) 文部科学省 p167 7) 佐藤真久 阿部治編著 (2014) ESD 入門 筑波書房 p11 8) 文部科学省ユネスコ日本委員会 www.mext. go.jp/unesco(2018 年 10 月 18 日閲覧 ) 9) 鈴木敏正他 (2014) 環境教育と開発教育 筑波書房 p13 10) 鈴木敏正他 (2014) 環境教育と開発教育 筑 波書房 p68 11) 中央教育審議会 (2016) 幼稚園 小学校 中学校 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について ( 答申 ) 厚生労働省 12) 幼稚園教育要領解説 (2018) 文部科学省 p50 13) 14) 広島大学付属幼稚園 (2016) 持続可能な社会の担い手の基盤となる能力 態度について ( 幼児版 ) 15) ESD( 持続可能な開発のための教育 ) 推進の手引 ( 改訂版 ) 文部科学省 参考文献 資料 1) 幼稚園教育要領解説 (2018) 文部科学省 2) 佐藤真久 阿部治編著 (2014) ESD 入門 筑波書房 3) 保育所保育指針解説書 (2018) 厚生労働省 4) 鈴木敏正他 (2014) 環境教育と開発教育 筑波書房 5) 新学習指導要領 ( 本文 解説 資料等 ) 文部科学省 www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/ 1383986.htm 6) 広島大学付属幼稚園 (2016) 持続可能な社会の担い手の基盤となる能力 態度について ( 幼児版 ) 7) ESD( 持続可能な開発のための教育 ) 推進の手引 ( 改訂版 ) 文部科学省 8) 民秋言他 (2017) 保育内容人間関係 北大路書房 18