[2] 労基改正 -➊ フレックスタイム制の見直し 法 32 条の 3 関係 平成 31 年 4 月 1 日施行 フレックスタイム制の下で, 子育てや介護, 自己啓発など様々な生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ, メリハリのある働き方を一層可能にし, より利用しやすい制度となるよう, 清算期間の上限が 1 カ月 から 3 カ月 に延長されるなど, フレックスタイム制が見直された ( 平成 31 年 4 月 1 日施行 ) 1. 清算期間の上限の延長等の改正 (1) 清算期間清算期間は, その期間を平均し 1 週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい,3 カ月以内の期間に限る ものとされた ( 法 32 条の 3 第 1 項 ) (A) 所定労働時間 (B) ( 清算期間における総労働時間 ) 6 月 月 8 月 (A) の超過分は,1 週平均 50 時間を超えていない限り 6 月の賃金で清算する 必要はなく,8 月の不足分 (B) は,(A) の超過分があるため, 欠勤扱いとな らない
[3] 労働基準法 (2) 労働時間の限度 清算期間が 1 カ月を超える場合においては, 当該清算期間をその開始の日以後 1 カ月ごとに区分した各期間 ( 最後に 1 カ月未満の期間を生じたときは, 当該期間 ) ごとに当該各期間を平均し 1 週間当たりの労働時間が 50 時間を超えない範囲内において労働させることができる とする労働時間の限度規定が新たに設けられた ( 法 32 条の 3 第 2 項 ) : 清算期間が 1 カ月を超える場合において, 清算期間を 1 カ月ごとに区分した各期間を平均して 1 週間当たり 50 時間を超えて労働させた場合は時間外労働に該当するものであり,36 協定の締結及び届出を要し, 清算期間の途中であっても, 当該各期間に対応した賃金支払日に割増賃金を支払わなければならない (H.30 基発 1228 第 15 号 ) 清算期間の上限を延長することにより, 働き方によっては, 清算期間内の各 月における労働時間の長短の幅が大きくなるため, 過重労働を防止する観点か ら, 清算期間が 1 カ月を超える場合の労働時間に限度が設けられた 参考 :1 週平均 50 時間となる月間の労働時間数 1 週平均の労働時間が 50 時間となる月間の労働時間数は, 次の計算式によって算出する 1 週平均 50 時間とな各月の暦日数 = 50 時間 る月間の労働時間数 月の暦日数 1 週平均 50 時間となる月間の労働時間数 31 日 221.4 時間 30 日 214.2 時間 29 日 20.1 時間 28 日 200.0 時間 *: 労働時間数は, 小数点第 2 位以下切捨て (3) 有効期間の定めフレックスタイム制の採用に当たっては労使協定の締結が必要であるが, 改正により, 清算期間が 1 カ月を超えるものである場合にあっては, 当該労使協定に有効期間の定め ( 当該協定が労働協約による場合を除き, 労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む ) をしなければならない ものとされた ( 則 12 条の 3 第 1 項 )
[4] (4) 届出使用者は, フレックスタイム制に係る労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出なければならないものとされた ただし, 清算期間が 1 カ月以内のものであるときは, 届け出る必要はないこととされている ( 法 32 条の 3 第 4 項, 則 12 条の 3 第 2 項 ) : 当該規定に違反したときは,30 万円以下の罰金に処せられる ( 法 120 条 ) (5) 賃金清算 使用者が, 清算期間が 1 カ月を超えるものであるときの当該清算期間中にフレックスタイム制により労働させた期間が当該清算期間より短い労働者について, 当該労働させた期間を平均し 1 週間当たり 40 時間を超えて労働させた場合においては, その超えた時間 ( 非常災害時等や 36 協定により時間外労働又は休日労働させた時間を除く ) の労働については, 法 3 条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない とする規定が設けられた ( 法 32 条の 3 の 2) この規定は, 清算期間の途中で採用された者や退職した者に関する規定であり,1 年単位の変形労働時間制において設けられている規定と同じ趣旨である (6) 特例措置事業法定労働時間の特例措置の対象となる常時 10 人未満の労働者を使用する一定の事業において, フレックスタイム制を採用する場合,1 清算期間が 1 カ月以内であるときは,1 週平均 44 時間を超えない範囲内で採用することができるが,2 清算期間が 1 カ月を超えるものであるときは,1 週平均 40 時間を超えない範囲内で採用しなければならないものとされた ( 法 40 条, 則 25 条の 2) < 清算期間の長さによる取扱いの違い> 項 目 清算期間 1 カ月以内 1 カ月を超え 3 カ月以内 清算期間を 1 カ月ごとに区分した 場合の各期間の労働時間の限度 1 週平均 50 時間が限度 有効期間の定め 不要 必要 所轄労働基準監督署長への届出 不要 必要 割増賃金の例による賃金精算 適用しない 適用する 特例措置事業における労働時間 1 週平均 44 時間以内 1 週平均 40 時間以内
[5] 労働基準法 2. 労働時間の計算方法の改正 (1) 清算期間における総労働時間フレックスタイム制の採用時には, 労使協定において 清算期間における総労働時間 を定めなければならないが, 清算期間の上限が延長されたことにより, この総労働時間についても, 3 カ月以内 で定めることになる 清算期間における総労働時間 は, 次の (2) の 法定労働時間の総枠 の範囲内で定めなければならない ( 法 32 条の 2 第 1 項 ) (2) 法定労働時間の総枠 1 原則法定労働時間の総枠は, 原則として, 従来どおり次の式で計算されるが, 清算期間の上限が延長されたことにより, 3 カ月以内 で計算するものとされた ( 法 32 条の 3 第 1 項,H.9 基発 228 号 ) 法定労働時間の総枠 = 週の法定労働時間 清算期間における暦日数 参考 : 月単位の清算期間の法定労働時間の総枠 (1 週間の法定労働時間が 40 時間の場合 ) 1 カ月単位 2 カ月単位 3 カ月単位 清算期間 法定労働時間 清算期間 法定労働時間 清算期間 法定労働時間 の暦日数 の総枠 の暦日数 の総枠 の暦日数 の総枠 31 日 1.1 時間 62 日 354.2 時間 92 日 525. 時間 30 日 11.4 時間 61 日 348.5 時間 91 日 520.0 時間 29 日 165. 時間 60 日 342.8 時間 90 日 514.2 時間 28 日 160.0 時間 59 日 33.1 時間 89 日 508.5 時間 *: 労働時間数は, 小数点第 2 位以下切捨て
[6] 2 完全週休 2 日制の特例 1 週間の所定労働日数が 5 日の労働者 ( 完全週休 2 日制の労働者 ) については, 改正により, 法定労働時間の総枠に関して次の特例が設けられた ( 法 32 条の 3 第 3 項,H.30 基発 090 第 1 号 ) ( イ ) フレックスタイム制により労働させる場合, 労使協定により, 法定労働時間の総枠を 当該清算期間における所定労働日数を 1 日の法定労働時間 (8 時間 ) に乗じて得た時間 と定めることができる 法定労働時間の総枠 = 1 日の法定労働時間 清算期間における (8 時間 ) 所定労働日数 ( ロ ) 前記 ( イ ) の定めをしたときは, 清算期間を平均した 1 週間当たりの労働時間が, 当該清算期間における日数 ( 暦日数 ) を で除して得た数をもってその時間 ( 前記 ( イ ) の法定労働時間の総枠の時間 ) を除して得た時間 を超えない範囲内で労働させることができる < 1 週間当たりの労働時間の限度 > (8 清算期間における所定労働日数 ) 清算期間における暦日数 参考 : 完全週休 2 日制の事例 ( イ ) 清算期間の暦日数は 30 日, 所定労働日数は 22 日 ( ロ ) 清算期間における所定労働日数に 8 時間を乗じた時間 = 8 時間 22 日 = 16 時間 法定労働時間の総枠 ( ハ ) 清算期間を平均した 1 週間当たりの労働時間 = 16 時間 (30 日 )= 41.0666 41 時間 ( ニ ) 1 週平均 41 時間を超えない範囲内で労働させることができる
[] 労働基準法 完全週休 2 日制の特例 は, 完全週休 2 日制の下で働く労働者についてフレックスタイム制を適用する場合, 曜日のめぐり次第で,1 日 8 時間相当の労働でも清算期間における法定労働時間の総枠を超えてしまう場合があるため, この問題を解消する目的で設けられたものである 参考事例 : 土 日を休日とする完全週休 2 日制の事業場において, 標準となる 1 日の労 働時間を 8 時間とするフレックスタイム制を導入 次のカレンダーの場合, 清算期間に おける総労働時間は, 8 時間 22 日 = 16 時間 となる 日 月 火 水 木 金 土 1 2 3 4 5 6 8 9 10 11 12 13 14 15 16 1 18 19 20 21 22 23 24 25 26 2 28 29 30 (a) 法定労働時間の総枠 ( 原則 ) 40 時間 30 日 11.4 時間 : 清算期間における総労働時間 (16 時間 ) が法定労働時間の総枠を超えてしまう そこで, 特例を適用する (b) 法定労働時間の総枠 ( 完全週休 2 日制の特例 ) 8 時間 22 日 = 16 時間 : 清算期間における総労働時間 (16 時間 ) が法定労働時間の総枠に収まる
[8] 3. 改正後の時間外労働となる時間の計算方法フレックスタイム制を採用した場合に, 時間外労働となるのは, 次の (1) 又は (2) の時間である (H.30 基発 090 第 1 号 ) (1) 清算期間が 1 カ月以内の場合清算期間における実労働時間のうち, 前記 2(2) の法定労働時間の総枠を超えた時間 (2) 清算期間が 1 カ月を超え 3 カ月以内の場合次の1 及び2を合計した時間 1 清算期間を 1 カ月ごとに区分した各期間 ( 最後に 1 カ月未満の期間を生じたときは, 当該期間 ) における実労働時間のうち, 各期間を平均し 1 週間当たり 50 時間を超えて労働させた時間 具体的な計算式は, 次のとおり 清算期間を 1 カ月ご とに区分した期間に - 50 時間 おける実労働時間数 清算期間を 1 カ月ごとに区分した期間における暦日数 2 清算期間における実労働時間のうち, 当該清算期間の法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間 ( ただし, 前記 1で算定された時間外労働の時間を除く ) 4. 改正関連通達 通達 :36 協定で定める事項 (H.30 基発 1228 第 15 号 ) フレックスタイム制において 36 協定を締結するときは,1 日について延長することができる時間を協定する必要はなく,1 カ月及び 1 年について延長することができる時間を協定すれば足りる