秋田県森技研報第 21 号 2012 年 3 月 マツタケ栽培技術の開発 - 林地への菌糸体接種によるホンシメジの発生 - 菅原冬樹 阿部実 Development of cultivation of Tricholoma matsutake -Fruit body occurrence by in

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マツタケ栽培技術の開発 - 林地への菌糸体接種によるホンシメジの発生 - 菅原冬樹 阿部実 Development of cultivation of Tricholoma matsutake -Fruit body occurrence by inoculation of Lyophyllum shimeji mycelial culture in forests- Fuyuki SUGAWARA and Minoru ABE 要旨コナラ アカマツ林の2 箇所の試験地において, ホンシメジ菌糸体の林地接種を行った 両試験地でホンシメジの発生が確認され, その発生割合は, 実施した接種回数に対してほぼ50% であった 今回発生したホンシメジ6 菌株に対して, 接種菌株との対峙培養を行ったところ, 帯線の形成が認められなかったことから, 今回の発生菌株は接種菌株由来のものと推定された Ⅰ. はじめにホンシメジ (Lyophyllum shimeji) は 香りマツタケ, 味シメジ といわれているようにマツタケに匹敵する美味なきのことして古くから食用にされ, 全国各地でも根強い人気のあるきのこであるが, マツ枯れなど様々な要因による発生環境の悪化のため, ホンシメジ発生量は減少の一途をたどっている ホンシメジの林地における子実体発生誘導を図るために, 培養菌糸体の林地接種については, これまで全国各地の公立試験研究機関を中心に取り組みが行われてきた ( 藤田 1992, 藤田ら1998, 河合 1999, 長谷川 2009, 水谷 2009, 藤堂 2010) 本研究は, 秋田県内の2 箇所の試験地で培養菌糸体の接種を繰り返し,2001 年から2010 年までの10 年間にわたり, その子実体発生状況を調査したので, その結果について報告する Ⅱ. 材料および方法 1. 試験地 ( 写真 1) 1) 羽後試験地 : 雄勝郡羽後町新町, コナラ ( 一部アカマツ ) 林 (2000 本 /ha), 傾斜 15~25 度, 北西斜面, 面積約 500m2 2) 大内試験地 : 由利本荘市大内羽広, コナラ ( 一部アカマツ ) 林 (2500 本 /ha), 傾斜 5~10 度, 西斜面, 面積約 200m2 2. 使用菌株 培地および培養条件 103

秋田県森技研報 第 21 号 2012年3月 供試菌は 秋田県産ホンシメジ子実体ヒダ部より得られた菌糸体 Ls羽後A 1系統を用い 林 地接種用の培地はこれまで報告のあったホンシメジ培地 藤田 1992 を参考に次のとおり調整し た 広葉樹オガ粉300g 鹿沼土360g バーミキュライト180g 大麦1000g フスマ160g エビオ ス10g 水500mlの割合で混合した 容器は植物培養用ポリカーボネイト製とシイタケ栽培用ポリ プロピレン製袋 写真 2 を用いて それぞれ200g 700gの培地を詰め 120 で90分間殺菌し た 放冷後ホンシメジ菌糸体を接種し 培養は22 相対湿度約65 の培養室で約100日間行った 3 林地接種 接種培地は 培養容器から取り出した培地を水苔で包み さらに塩ビパイプなど各種資材で包埋し 作成した 接種は 2001年から2010年(2006 2007 2008年は接種せず)まで 各年春期と秋期に 分けて行った 写真 3 4 4 子実体発生調査 両試験地のきのこ相調査として 試験地設定以降の10年間 毎年5 6回程度 9月上旬から11月 上旬にかけて行ってきており その中でホンシメジの発生状況調査 発生位置 発生本数 を行っ た 104

秋田県森技研報 第 21 号 2012年3月 105

5. 発生子実体の対峙培養羽後試験地において, 菌糸体接種箇所およびその周辺に発生したホンシメジ子実体から組織分離した菌株と, 接種に用いた菌株をPDA 平面培地上で対峙培養 (25,50 日間 ) を行い, 帯線形成の有無等を確認した Ⅲ. 結果および考察 1. ホンシメジの発生状況 2010 年までのホンシメジの発生は, 羽後, 大内の両試験地で確認され, その発生割合は, 実施した接種回数 ( 羽後 11 回 大内 10 回 ) に対して羽後 6/11, 大内 5/10であった ( 表 1, 写真 5) 菌糸体接種後から発生までの経過年数については, 翌年から3,4 年後, あるいは7,8 年後と様々であり, 発生箇所では, そのほとんどが単年発生もしくは2 年連続発生であった 次に各年の発生箇所数は,2002 年から2008 年までは1~2 箇所 / 年であったが, 接種箇所数が増えたこともあり,2009 年および2010 年になって7~8 箇所 / 年と増加傾向にある また発生位置について, その多くは菌糸体接種箇所の上部であったが,2009 年と2010 年の調査において, 大内試験地の2005 年 12 月接種の箇所では周辺まで発生がみられた ( 図 1,2) 今後, 菌根形成状況の確認を行うととも引き続き観察していくことにしている 2. 接種菌糸体の保護材料接種菌糸体を保護するための各種材料 ( 写真 3,4) について検討したところ, 紙袋 を用いた4 回の接種 ( 羽後 大内の2002 年各 2 回の実施 ) ではホンシメジの発生はみられなかった 一方, 他の保護材料 ( 水苔, 塩ビパイプ, ポリネット ) については, 発生はみられたものの, それぞれの効果の程度は確認できなかった ただし, 大内試験地における2010 年の調査では 保護材料がない場合でもホンシメジの発生がみられたことから ( 表 1), 今後菌糸体単体の保護材料ではなく, 接種菌糸体全体を被覆する覆土材料について検討していくことにしている 3. 対峙培養ホンシメジ菌の対峙培養において, 同菌株同士と異菌株間では, 写真 6にも示すように, 通常帯線の形成の有無により明らかな差異が認められる ( 河合,1999) 今回, 羽後試験地において2003 年から2008 年に発生の6 菌株に対して, 接種菌株との対峙培養を行ったところ, 帯線の形成は認められなかった ( 写真 6) 羽後試験地では元々ホンシメジが自生していないことも合わせて, 今回発生のホンシメジ菌株は接種菌株由来のものと推定されるが, この点については, 大内試験地の発生菌株を含めてさらなる検討を要する Ⅳ. おわりに本研究を含めて, 培養菌糸体の林地接種によるホンシメジの発生は全国各地で行われてきたが, 菌糸体を接種後, ホンシメジの永年的な発生がみられるような, いわゆる ホンシメジ山 の造成に成功した例はこれまでない 当センターでは, 今後引き続き, 新たな試験地の造成を含め, 大量な菌糸体接種などこれまで以上の林地撹乱処理を行って ホンシメジ山の造成 をすすめることにしている 106

表 1 接種箇所別ホンシメジ発生状況 : この接種箇所からは これまでホンシメジの発生は確認されていない 確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数確認日箇所数本数 10/14 2 6 2 4 10/20 1 2 ホンシメジ発生状況 接種方法試験地接種年月日 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 羽後 2001.6.15 B 2001.11.26 D 10/16 10/17 1 3 10/19 1 1 10/17 2 3 10/23 2 4 10/1 1 2 2002.5.14 A,D 10/13 1 2 10/13 1 8 2002.12.3 A 2003.5.14 A,B,D 10/13 2 2 2004.6.24 C 10/23 2 6 10/24 2 6 2004.11.24 C 10/13 1 1 2005.6.3 C,D 2005.12.7 C 2009.11.17 E 2010.6.1 E 大内 2001.12.3 A 2002.5.9 A,D 10/15 2 2 9/20 1 1 10/13 2 9 2002.12.5 B 10/13 1 2 2003.5.13 A,B 2004.6.25 C 2004.11.19 D 10/26 1 9 9/10 1 3 10/14 6 10 2005.6.2 C,D 2005.12.8 C,D 10/13 3 12 2009.11.17 E 10/13 1 1 2010.11.17 E ( A~E : 写真 4 を参照 ) 107

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'09 年 '05 年 -1 J K Q S エ 4 P R 1 M N O 4 ア 3 5 1 L イ 3 F I '05 年 -2 ウ 5 オ G 6 2 H C E '10 年 D カ ケ コ B 7 キ 8 A 1 2 ク 菌糸体埋設年月日 A~I 2001.6.15 J~S 2001.11.26 ア ~ オ 2002.5.14 カ ~ コ 2002.12.3 1~5 2003.5.14 1~4 2004.6.24 5~8 2004.11.24 '05 年 1 2005.6.3 '05 年 2 2005.12.7 '09 年 2009.11.17 '10 年 2010.6.1 コナラ コナラ以外の広葉樹 ホンシメジ子実体発生位置 図 1 菌糸体接種および子実体発生状況 ( 羽後試験地 ) 109

16 12 1 13 6 7 8 9 1 2 3 4 11 5 14 15 : アカマツ ホンシメジ子実体発生位置 図 2 菌糸体接種および子実体発生状況 ( 大内試験地 ) 菌糸体接種年月日 1-2 2001.12.3 3-5 2002.5.15 6-8 2002.12.5 9 2003.5.13 10 2004.6.25 11 2004.11.19 12-13 2005.6.2 14 2005.12.8 15 2009.11.17 16 2010.6.1 110

謝辞 本研究の遂行にあたり, 試験地の提供等でご協力を頂いた羽後町の仙道一吉氏および由利本荘市の佐々木隆悦氏に厚く感謝申し上げます 引用文献阿部実 (2003) 林床活用による菌根性きのこの栽培開発, 秋田県森技研報 10:11-21 阿部実 (2011) 林地への菌糸体埋設によるホンシメジの発生, 東北森林科学会第 16 回大会講演要旨集 :38 河合昌孝 (1997) ホンシメジ培養菌糸体のアカマツ林埋設によるシロおよび菌根形成, 奈良県林試研報 27:8-12 河合昌孝 (1999) ホンシメジ培養菌糸体の林地埋設による人工感染と子実体の発生, 奈良県林試研報 29:1-7 藤堂千景 (2010) アカマツ林に埋設したホンシメジの発生事例, 兵庫農技総セ研報 56:5-10 長谷川孝則 古川成治 (2009) ホンシメジ人工栽培の実用化試験, 福島県林業研究セ研報 :12-24 藤田徹 中村善剛 上家祐 (1998) ホンシメジ林地栽培試験, 森林応用研究 7:101-104 藤田博美 (1992) ホンシメジ きのこ増殖と育種, 最新バイオテクノロジー全書編集委員編, 農業図書, 東京 :300-307 水谷和人 久田善純 茂木靖和 (2009) ホンシメジおよびシャカシメジ培地の林地埋設事例, 岐阜県森林研研報 38:35-40 111