☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

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REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

freee・マネーフォワード特許訴訟の解説

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Microsoft Word - CAFC Update(112)

事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

Microsoft Word - CAFC Update(107)

2

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

応して 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 後述する本件各動画の番号に対応して, 本件投稿者 1 などといい, 併せて 本件各投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェ

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

Microsoft Word - 中国における機能的クレームの権利範囲解釈 ☆中国特許判例・審決紹介☆ -第25号-

認められないから, 本願部分の画像は, 意匠法上の意匠を構成するとは認めら れない したがって, 本願意匠は, 意匠法 3 条 1 項柱書に規定する 工業上利用する ことができる意匠 に該当しないから, 意匠登録を受けることができない (2) 自由に肢体を動かせない者が行う, モニター等に表示される

1 本件は, 別紙 2 著作物目録記載の映画の著作物 ( 以下 本件著作物 という ) の著作権者であると主張する原告が, 氏名不詳者 ( 以下 本件投稿者 という ) が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上のウェブサイト FC2 動画 ( 以下 本件サイト という )

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

Microsoft Word - クレームにおける使用目的に関する陳述 ☆米国特許判例紹介☆ -第105号-

 

年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

Webエムアイカード会員規約

平成 28 年 4 月 21 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 27 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 28 年 2 月 25 日 判 決 原告株式会社 C A 同訴訟代理人弁護士 竹 村 公 利 佐 藤 裕 紀 岡 本 順 一 石 塚 司 塚 松 卓

間延長をしますので 拒絶査定謄本送達日から 4 月 が審判請求期間となります ( 審判便覧 の 2.(2) ア ) 職権による延長ですので 期間延長請求書等の提出は不要です 2. 補正について 明細書等の補正 ( 特許 ) Q2-1: 特許の拒絶査定不服審判請求時における明細書等の補正は

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0 月 22 日現在, 通帳紛失の総合口座記号番号 特定番号 A-B~C 担保定額貯金 4 件 ( 特定金額 A): 平成 15 年 1 月 ~ 平成 16 年 3 月 : 特定郵便局 A 預入が証明されている 調査結果の回答書 の原本の写しの請求と, 特定年月日 Aの 改姓届 ( 開示請求者本人

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -SA S A 1 頁 サウジ特許庁 (SPO) ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 SA.Ⅰ 略語のリスト国内官庁 : サウジ特許庁 (SPO) Law: 特許, 集積回路配置デザイン, 植

平成 23 年 11 月 29 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 22 年 ( ワ ) 第 号特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日平成 23 年 10 月 4 日 判 決 広島県呉市 < 以下略 > 原 告 株 式 会 社 H D T 同訴訟代理人弁護士 稲 元 富 保 同

第29回 クレーム補正(2) ☆インド特許法の基礎☆

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

を構成し, その結果, 本願意匠が同法 3 条 1 項柱書の 工業上利用することができる意匠 に当たるか否かである 1 特許庁における手続の経緯原告は, 平成 27 年 3 月 16 日, 意匠法 14 条 1 項により3 年間秘密にすることを請求し, 物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

審決取消判決の拘束力

並びにそのコンサルタント業務等を営む株式会社である ⑵ 株式会社 CAは, 別紙著作物目録記載 1ないし3の映像作品 ( 以下 本件著作物 1 などといい, 併せて 本件各著作物 という ) の製作に発意と責任を有する映画製作者 ( 著作権法 2 条 1 項 号 ) であるところ, 本件各著作物の著

第 2 事案の概要 1 本件は, 名称を 人脈関係登録システム, 人脈関係登録方法と装置, 人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体 とする二つの特許権 ( 第 号及び第 号 ) を有する原告が, 被告の提供するサービスにおいて使

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訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

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☆米国特許判例紹介☆ -第141号-

O-27567

原告が著作権を有し又はその肖像が写った写真を複製するなどして不特定多数に送信したものであるから, 同行為により原告の著作権 ( 複製権及び公衆送信権 ) 及び肖像権が侵害されたことは明らかであると主張して, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 ( 以下 プ ロ

出願人のための特許協力条約(PCT) -国際出願と優先権主張-

ウ 特定個人 a に訂正してほしいとは, 私は書いてない これも日本年金機構の単純ミスなのか? それとも他に理由があるのか? 事実に基づいて, 説明を求める 私の公共職業安定所における氏名は, カタカナの 特定個人 b のスペースなしで管理されている 私の資格画面も氏名欄はカタカナである 国民年金保

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11総法不審第120号

被告に対し, 著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償として損害額の内金 800 万円及びこれに対する不法行為の後の日又は不法行為の日である平成 26 年 1 月 日から支払済みまで年 % の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である 1 判断の基礎となる事実 ( 当事者間に争いのない事実又は後掲の各

第10回 出願公開 ☆インド特許法の基礎☆

第1回 基本的な手続きの流れと期限について ☆インド特許法の基礎☆

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Microsoft Word - 中国商標判例(5)-HPメルマガ 3/10UP

10 解説 p1 ⑵⑶ ⑷ 11

11総法不審第120号

平成25年5月  日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

平成 31 年 1 月 29 日判決言渡平成 30 年 ( ネ ) 第 号商標権侵害行為差止等請求控訴事件 ( 原審東京地方裁判所平成 29 年 ( ワ ) 第 号 ) 口頭弁論終結日平成 30 年 12 月 5 日 判 決 控訴人 ジー エス エフ ケー シ ー ピー株式会

弁理士試験短答 逐条読込 演習講座 ( 読込編 ) 平成 29 年 6 月第 1 回 目次 平成 29 年度短答本試験問題 関連条文 論文対策 出題傾向分析 特実法 編集後記 受講生のみなさん こんにちは 弁理士の桐生です 6 月となりましたね 平成 29 年度の短答試験は先月終了しました 気持ちも

日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ ベトナム国家知的財産庁 (IP Viet Nam) と日本国特許庁 (JPO) との間の特許審査ハイウェイ試行プログラムに関するベトナム国家知的財産庁への申請手続 ( 仮訳 ) 日本国特許庁の国内出願の審査結果を利用した特許審査ハイウェイ

さし試験問題(完成版印刷用)

参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

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(Microsoft Word - 3. \202\334\202\313\202\253TV\216\226\214\217 \227\351\226\3302.doc)

最高裁○○第000100号

第 2 事案の概要本件は, 原告が, 被告に対し, 氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを利用して, インターネット上の動画共有サイトに原告が著作権を有する動画のデータをアップロードした行為により原告の公衆送信権 ( 著作権法 23 条 1 項 ) が侵害されたと主張して, 特定電気

yamauchiパテントNEWS

同時期に 8 社に対し提起された大阪地方裁判所における判決 ( 大阪地裁平成 24 年 9 月 27 日判決 裁判所 HP) では, 間接侵害の成立に関し, 特許法 101 条 2 号の別の要件である その物の生産に用いる物 にあたるかが問題とされ, 1 特許法 2 条 3 項 1 号及び101 条

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

平成 30 年 6 月 15 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 5939 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 5 月 9 日 判 決 5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 被告は, 別紙対象目録の 原告 欄記載の各原告に対し,

意匠法第十七条の三意匠登録出願人が前条第一項の規定による却下の決定の謄本の送達があつた日から三月以内にその補正後の意匠について新たな意匠登録出願をしたときは その意匠登録出願は その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす 2 前項に規定する新たな意匠登録出願があつたときは もとの意匠登

第41回 アクセプタンス期間と聴聞手続(2016年版) ☆インド特許法の基礎☆

料 情報の提供に関する記録 を作成する方法 ( 作成する時期 記録の媒体 作成する研究者等の氏名 別に作成する書類による代用の有無等 ) 及び保管する方法 ( 場所 第 12 の1⑴の解説 5に規定する提供元の機関における義務 8 個人情報等の取扱い ( 匿名化する場合にはその方法等を含む ) 9

第28回 クレームの補正 ☆インド特許法の基礎☆

PPTVIEW

非常に長い期間, 苦痛に耐え続けた親族にとって, 納得のできる対応を日本政府にしてもらえるよう関係者には協力賜りたい ( その他は, 上記 (2) と同旨であるため省略する ) (4) 意見書 3 特定個人 Aの身元を明らかにすること及び親子関係の証明に当たっては財務省 総務省において, 生年月日の

の補正書 において, 審査請求の趣旨を この開示請求は本人の給与のみずましにかかわる書面である為 としているが, 原処分を取り消し, 本件対象保有個人情報の開示を求めている審査請求として, 以下, 原処分の妥当性について検討する 2 原処分の妥当性について (1) 給与所得の源泉徴収票について給与所

問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

実施可能要件を肯定した審決が取り消された事例

ターの上司職員に隠匿 ( 隠滅 ) され送付がない為に, 法律に基づいた開示請求により送付をして頂きたいための開示請求であるが, 平成 19 年 10 月 22 日現在, 通帳紛失の郵便貯金 : 総合口座 特定番号 A ( 担保定額定期 : 枝番特定番号 B~Cを含む ):( 口座名義人 ) 開示請

11総法不審第120号

Microsoft PowerPoint - 01_職務発明制度に関する基礎的考察(飯田先生).pptx

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

テムの使用が, 特許第 号に係る特許権を侵害し, 又は, 侵害するおそれがある旨を, 需要者, 原告の取引関係者その他の第三者に告知し, 流布してはならない 2 被告は, 原告に対し,300 万円及びこれに対する平成 28 年 1 月 13 日から支払済みまで年 5 分の割合による金

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

( 以下 プロバイダ責任制限法 という )4 条 1 項に基づき, 被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である 1 前提事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) (1) 当事者 原告は, 肩書地に居住する者である ( 甲 1) 被告は,

サイト名

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

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☆米国特許判例紹介☆ -第142号-

第 2 事案の概要本件は, レコード製作会社である原告らが, 自らの製作に係るレコードについて送信可能化権を有するところ, 氏名不詳者において, 当該レコードに収録された楽曲を無断で複製してコンピュータ内の記録媒体に記録 蔵置し, イン ターネット接続プロバイダ事業を行っている被告の提供するインター

PCT 出願人の手引 - 国内段階 - 国内編 -MY MY 1 頁 マレーシア知的所有権公社 ( 指定官庁又は選択官庁 ) 目 次 国内段階 - 概要 国内段階の手続 附属書手数料 附属書 MY.Ⅰ 国内段階移行手数料 ( 特許様式 No.2A) 附属書 MY.Ⅱ 特許代理人の選任又は変更 ( 特

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インド知的財産ニュースレター第 号 インド知的財産ニュースレター 第 号 2016 年 5 月 18 日 特許規則 2016 年改正 発行者株式会社サンガム IP 東京都千代田区永田町 アイオス永田町 415

最高裁○○第000100号

平成 30 年 3 月 29 日判決言渡 平成 29 年 ( 行ケ ) 第 号審決取消請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 3 月 13 日 判 決 原告株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐 藤 安 紘 高 橋 元 弘 吉 羽 真一郎 末 吉 亙 弁理士 鶴 谷 裕 二

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特許制度 1. 現行法令について 2001 年 8 月 1 日施行 ( 法律 14/2001 号 ) の2001 年改正特許法が適用されています 2. 特許出願時の必要書類 (1) 願書 (Request) 出願人の名称 発明者の氏名 現地代理人の氏名 優先権主張の場合にはその情報等を記載します 現

Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介 ~ 裁判例 ~ 平成 28 年 ( ワ ) 第 38565 号原告 : 株式会社ドワンゴ被告 :FC2, INC. 外 2019 年 1 月 22 日 執筆者弁理士田中伸次 1. 概要本件は, いずれも名称を 表示装置, コメント表示方法, 及びプログラム とする特許第 4734471 号及び特許第 4695583 号の特許権を有する原告が, 被告らが行っているサービスに用いられている動画を表示する情報処理端末に配信されるコメント表示プログラム, 及び当該プログラムのインストールされた情報処理端末の生産等の差し止め, 当該プログラムの抹消, 並びに損害賠償の支払いを求めたが, 裁判所は, 被告らのコメント表示プログラムや情報処理端末は, 原告特許権を文言侵害せず, 均等侵害もしないと判断した, 裁判例である なお, 以下の文章において, 特許第 4734471 号の特許権を 本件特許権 1 といい, この特許を 本件特許 1 という また, 本件特許 1の願書に添付した明細書及び図面を併せて 本件明細書 1 という 特許第 4695583 号の特許権を 本件特許権 2 といい, この特許を 本件特許 2, 本件特許 2の願書に添付した明細書及び図面を併せて 本件明細書 2 という また, 本件特許権 1と本件特許権 2とを併せて 本件各特許権 という また, 本件特許 1の特許請求の範囲請求項 1,2,5,6,9 及び10に係る発明それぞれの発明を 本件発明 1-1 などといい, これらを総称して 本件発明 1 という 本件特許 2の特許請求の範囲請求項 1ないし3 及び9ないし11に係る発明それぞれを 本件発明 2-1 などといい, これらを総称して 本件発明 2, 本件発明 1と併せて 本件各発明 という 2. 特許請求の範囲の記載 1) 本件発明 1について本件発明 1のうち, 本件発明 1-1は以下のとおりである 以下の記載は判決文からの引用である 1-1A 動画を再生するとともに, 前記動画上にコメントを表示する表示装置であって, 1

1-1B 前記コメントと, 当該コメントが付与された時点における, 動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と, 1-1C 前記動画を表示する領域である第 1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と, 1-1D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて, 前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち, 前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し, 当該読み出されたコメントを, 前記コメントを表示する領域である第 2の表示欄に表示するコメント表示部と, を有し, 1-1E 前記第 2の表示欄のうち, 一部の領域が前記第 1の表示欄の少なくとも一部と重なっており, 他の領域が前記第 1の表示欄の外側にあり, 1-1F 前記コメント表示部は, 前記読み出したコメントの少なくとも一部を, 前記第 2の表示欄のうち, 前記第 1の表示欄の外側であって前記第 2の表示欄の内側に表示する 1-1G ことを特徴とする表示装置 2) 本件発明 1の意義本件発明 1は, 動画とともにコメントを表示する場合における表示装置, コメント表示方法及びプログラムに関するものであり, 動画を表示する領域である第 1の表示欄とコメントを表示する領域であり第 1の表示欄よりも大きいサイズの第 2の表示欄をあらかじめ設定し, 第 1の表示欄と一部が重なり他の部分が重ならない表示領域である第 2の表示欄における, 第 1の表示欄の外側であって第 2の表示欄の内側に, 読み出したコメントの少なくとも一部を表示するようにすることにより, コメントそのものが動画に含まれているものではなく, ユーザによって書き込まれたものであることが把握可能となり, コメントの読みにくさを低減させることができるようにする発明である ( 図 1) 2

第 1 の表示欄 第 2 の表示欄 図 1: 本件明細書 1 の図 5 3) 本件発明 2-1 本件発明 2のうち, 本件発明 2-1 以下のとおりである 2-1A 複数の端末装置から送信されるコメント情報を受信して各端末装置へ配信するコメント配信サーバと, 前記コメント配信サーバに接続され動画を再生するとともに, 前記動画上にコメントを表示する表示装置とを有するコメント表示システムにおける表示装置であって, 2-1B コメントと, 前記コメントが付与された時点における, 前記動画の最初を基準として動画の経過時間を表す動画再生時間をコメント付与時間として前記コメントに対応づけてコメント情報として記憶するコメント情報記憶部と, 2-1C 前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信し, 前記コメント情報記憶部に記憶する受信部と, 2-1D 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて, 前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち, 前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間が対応づけられたコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し, 読み出したコメントを動画上に表示するコメント表示部と, 2-1E 前記コメント表示部によって表示されるコメントのうち, 第 1のコメントと第 2のコメントとのうちいずれか一方または両方が移動表示されるコメントであり, 前記第 1のコメントを動画上に表示させる際の表示位置が, 当該第 1のコメントよりも先に前記動画上に表示される第 2のコメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と, 3

2-1F 前記判定部がコメントの表示位置が重なると判定した場合に, 前記第 1 のコメントと前記第 2のコメント同士が重ならない位置に表示させる表示位置制御部と, 2-1G を有することを特徴する表示装置 4) 本件発明 2の意義本件発明 2は, 動画とともにコメントを表示する場合における, コメント同士が重ならないように表示させる表示装置, コメント表示方法及びプログラムにおいて, 複数のコメントが書き込まれても, コメントの読みにくさを低減させることができる表示装置, コメント表示方法及びプログラムを提供することを目的とするものであって, コメント表示部によって表示されるコメントが他のコメントと重なるか否かを判定し, コメントが重なると判定した場合に, コメント同士が重ならない位置にコメントを表示させるようにし, 複数のコメントが表示される場合において, コメント同士が動画上で重なってしまい, 各コメントが判読できなくなってしまうことを防止することができるようにする発明である 図 2 本件明細書 2 の図 12 2) 経過本件発明 1に係る特許出願 ( 特願 2010-267283 号 ) の経過は, 以下のとおりである 平成 22 年 11 月 30 日出願 ( 特願 2006-333851 号の分割 ), 審査請求平成 22 年 12 月 2 日早期審査の申し出 4

平成 23 年 1 月 4 日拒絶理由通知平成 23 年 3 月 14 日意見書, 補正書提出平成 23 年 4 月 1 日特許査定平成 23 年 4 月 28 日登録 本件発明 2に係る特許出願 ( 特願 2006-333851 号 ) の経過は, 以下のとおりである 平成 18 年 12 月 11 日出願平成 21 年 11 月 4 日審査請求平成 22 年 11 月 16 日早期審査の申し出平成 22 年 11 月 24 日拒絶理由通知平成 23 年 1 月 31 日意見書, 補正書提出平成 23 年 2 月 14 日特許査定平成 23 年 3 月 4 日登録 3. 被告らサービス 対象となった被告らサービスは,FC2 動画,FC2 SayMove!,FC2 ひ まわり動画である 4. 争点争点は種々あるが, 本稿では争点 1-1⑴( 被告ら各装置及び被告ら各プログラムは, 文言上, 本件発明 1の技術的範囲に属するか- 被告ら各装置及び被告ら各プログラムは, 第 1の表示欄 及び 第 2の表示欄 を充足するか ) 争点 1-2⑴( 被告ら各装置及び被告ら各プログラムは, 文言上, 本件発明 2の技術的範囲に属するか- 被告ら各装置及び被告ら各プログラムは, 前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信 ( 構成要件 2-1C,2-9B) を充足するか ) についてを取り上げる 5. 裁判所の判断 1) 争点 1-1⑴についてイ ) 第 1の表示欄 及び 第 2の表示欄 の意義について裁判所は, 第 1の表示欄 及び 第 2の表示欄 の意義について, つぎのように認定した 5

本件発明 1は, コメントについて動画に含まれているものではなく, ユーザによって書き込まれたものであることを把握することができるようにするとともに, コメントの読みにくさを低減させるために, 一部重なり合うものとして設定される, コメント表示領域である 第 2の表示欄 及び動画表示領域である 第 1の表示欄 について, あらかじめ, 第 2の表示欄 を 第 1の表示欄 よりも大きいサイズのものと設定して, コメントの少なくとも一部を 第 2の表示欄 の内側ではあるものの 第 1の表示欄 の外側に表示するというものである そうすると, 上記の作用効果を実現するためには, コメントは, 動画の大小やアスペクト比に関わらず, 第 1 の表示欄 の外側に表示され得る必要があるから, 第 1の表示欄 は動画を表示するために確保された領域 ( 動画表示可能領域 )( 下線筆者, 以下同様 ), 第 2の表示欄 はコメントを表示するために確保された領域 ( コメント表示可能領域 ) であり, 第 2の表示欄 は 第 1の表示欄 よりも大きいサイズのものであり, そうであれば, 第 1の表示欄 及び 第 2の表示欄 のいずれも固定された領域であるものと解するのが相当である ロ ) 被告らの各装置について一方, 被告らの各装置について, 裁判所はつぎのように認定した 被告ら装置 1においては, ( 中略 ) アスペクト比が640 392の動画を再生した場合, 動画表示画面とコメント表示画面のサイズが同一となり, コメントは動画表示画面の外側には表示され得ないこと, アスペクト比が16 9の動画を再生した場合, 動画の位置及びサイズが調整されて動画表示画面の上端と下端に映像が表示されない部分が生じ, コメントが動画表示画面の外側に表示され得ること, アスペクト比が4 3の動画を再生した場合, 動画の位置及びサイズが調整されて動画表示画面の左端と右端に映像が表示されない部分が生じ, コメントが動画表示画面の外側に表示され得ることが認められる また, 被告ら装置 2 及び3においては, ( 中略 ) アスペクト比が16 9の動画を再生した場合, 動画表示画面とコメント表示画面が同一となり, コメントは動画表示画面の外側には表示され得ないこと, アスペクト比が4 3の動画を再生した場合, 動画の位置及びサイズが調整されて動画表示画面の左端と右端に映像が表示されない部分が生じ, コメントが動画表示画面の外側に表示され得ることが認められる ハ ) 充足性の判断以上より, 裁判所は被告ら各装置についての充足性について, 第 2の表示欄 は 第 1の表示欄 よりも大きいサイズでいずれも固定された領域であると解されるところ, 被告ら各装置においては, 動画表示可能領域は同一のサイズであるから, 被告ら各装置は, 第 1の表示欄 及び 第 2の表示欄 に相当 6

する構成を有するとは認められない したがって, 被告ら各装置は, 本件発明 1-1 の 第 1の表示欄 ( 構成要件 1-1C,1-1E,1-1F) 及び 第 2の表示欄 ( 構成要件 1-1D,1-1E,1-1F) を充足するとは認められず, 本件発明 1-1の技術的範囲に属するとは認められない と判断した 2) 争点 1-2⑴についてニ ) 構成要件 2-1Cについて裁判所は, 構成要件 2-1Cについて, つぎのように認定した 構成要件 2-1Cにおいて, コメント配信サーバがコメント情報を送信し, これを受信するのは端末装置であると解される そして, コメント配信サーバがコメント情報を送信するタイミングは, コメント情報を受信する毎 であるから, 構成要件 2-1Cは, コメント配信サーバが他の端末装置からコメント情報を受信すると, その都度当該コメント情報を端末装置に送信し, 当該端末装置もその都度これを受信することを規定したものと解される ホ ) 被告らの各装置について一方, 被告ら各装置について, 裁判所はつぎのように認定した 別紙被告らサービス説明書 ( 被告 ) によれば, 被告ら各サービスは, 被告ら各装置に動画データを送信する際に, その時点のコメント情報を送信するものであり, コメント配信サーバが端末装置からコメント情報を取得するごとにコメント情報を送信し, 被告ら各装置がこれを受信するものではない ヘ ) 充足性の判断以上より, 裁判所は被告ら各装置についての充足性について, 被告ら各装置について, 前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信 ( 構成要件 2-1C) する構成を充足することを認めるに足りる証拠はなく, 本件発明 2-1の技術的範囲に属するとは認められない と判断した 6. 結論 裁判所は, 被告ら各装置は, 文言上, 本件各発明の技術的範囲に属さないとして, 原告 の請求を棄却した 7

7. 考察本件発明 1の充足性の判断においては, 発明の技術的範囲が限定解釈された 2つの表示欄 ( 第 1の表示欄, 第 2の表示欄 ) のサイズの大小関係は, 画面デザイン上の軽微な違いではあるが, 発明の意義の観点から必須の要件と判断された 発明の技術的範囲の限定解釈は実施例を根拠するだけではなく, 発明の課題, 作用効果の面からも限定されることを念頭に置くべきである 発明の課題, 作用効果を不必要に限定しすぎないこと, 課題を解決するための必須ではない構成については, その旨を明らかにするとともに, その変形例を示すことを, 明細書作成時に留意すべきと考える また, 本件発明 2の充足性の判断においては, 端末装置がコメント情報を受信するタイミングの違いで, 被告ら各装置は構成要件を充足しないと判断された 受信するタイミングは適宜設計する事項と考えるが, 明細書にタイミングを制御する機構が開示されていないため, 請求項の文言解釈が厳密におこなわれた 処理の順番が入れ替え可能な処理がある場合は, 明細書において変形例又はなお書きとして明記しておくことが重要である 基本的なことではあるが改めて心留めておくべき事項であると考える 以上 8