分子マシンを架橋剤に使用することで 高分子ゲルの伸張性と靱性が飛躍的に向上 人工筋肉などのアクチュエータやソフトマシーン センサー 医療への応用も可能に 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) の竹岡敬和 ( たけおかゆ きかず ) 准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創

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フェロセンは酸化還元メディエータとして広く知られている物質であり ビニルフェロセン (VFc) はビニル基を持ち付加重合によりポリマーを得られるフェロセン誘導体である 共重合体としてハイドロゲルかつ水不溶性ポリマーを形成する2-ヒドロキシエチルメタクリレート (HEMA) を用いた 序論で述べたよう

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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ここで Ω は系全体の格子数,φ は高分子の体積分率,k BT は熱エネルギー,f m(φ) は 1 格子 あたりの混合自由エネルギーを表す. またこのとき浸透圧 Π は Π = k BT v c [ φ N ln(1 φ) φ χφ2 ] (2) で与えられる. ここで N は高分子の長さ,χ は

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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採用時期 :2020 年 4 月 1 日応募期限 :2019 年 5 月 9 日 ( 木 ) 学部学科等専攻分野等 摂南大学教員公募内容一覧 職階人数担当授業科目等 応募資格等 生命科学科 生体高分子分野 特任助教任期 5 年 1 生物基礎実習 生命科学理科教育演習 生化学実習ほか 1 博士の学位

骨の再生を促進する複合多孔質足場材料を開発

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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< 表 4 > 工業 の教科又は教職に関する科目 教育職員免許状の種類授業科目最低単位数 高一種免 工業 < 表 5 > 工業 の教科に関する科目 ( 授業科目 ) 機械工学科, 電気電子工学科, 環境建設工学科及び機能材料工学科 で開設する専門教育科目 表 5 機械工学科電気電子工学科環境建設工学

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目   次

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別表 3-1 教科に関する科目一覧表 中学校教諭 理科本課程に開設する対応科目及び単位数 応用生物学課程 は必修科目を示す 高等学校教諭理科 本課程に開設する対応科目及び単位数 物理学 基礎力学 () 基礎力学 () 物理学 基礎電磁気学 () 基礎電磁気学 () 物理学実験 物理学基礎実験 A()

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マスコミへの訃報送信における注意事項

[ 生物化学工学 ] 1. ある酵素を高分子担体に包括固定し, 基質を連続供給する CSTR( 完全混合槽型リアクター,Continuous Stirred Tank Reactor) および PFR( 栓流型カラムリアクター,Plug Flow Reactor) 反応器を構築する. この酵素反応は

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多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコー

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分子マシンを架橋剤に使用することで 高分子ゲルの伸張性と靱性が飛躍的に向上 人工筋肉などのアクチュエータやソフトマシーン センサー 医療への応用も可能に 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) の竹岡敬和 ( たけおかゆ きかず ) 准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕 三 ( いとうこうぞう ) 教授の研究グループと共に 分子マシンの一種であるポリ ロタキサンを利用し 架橋点が自由に動くことのできる架橋剤を開発しました ま た ポリロタキサン架橋剤を用いて高分子ゲルを調製すると ポリロタキサンの分 子量が大きいほど 高分子ゲルの靭性と伸張性が飛躍的に向上することも明らかに しました 従来の高分子ゲルは 溶媒を沢山抱えた状態では力学的に脆いため 今後の展開 が期待される医療分野 自動車や航空機などへの利用が困難でした 本研究結果か ら 架橋点が可動するポリロタキサン架橋剤の分子量を調節することで しなやか でタフなソフトマテリアルの開発が期待できます 本研究は 内閣府の ImPACT( 伊藤耕三プログラム マネージャー ) における プロジェクト (http://www.jst.go.jp/impact/program/01.html) の成果であり 将来 的には 自動車部品や輸送機器を飛躍的に向上させるなど 産業全般に広い波及効 果に繋がることが期待されます 本研究成果は 2016 年 11 月発行予定 ( 英国時間 ) の 英国王立化学会の国際学 術雑誌 Chemical Communications 誌に掲載されます また 研究内容を示す概念図が Chemical Communications の裏表紙にも採用さ れました ポイント 高分子ゲルは その多様な機能により 多くの研究分野で利用されています しかし その力学的な脆さのために さらなる高度な応用に結びつけるには 多くの改善が必要とされています 本研究では 新しく開発した架橋点が動くポリロタキサン架橋剤の分子量を大きくすることで 高分子ゲルの靭性や伸張性を向上させることに成功しました

概要 これまで 名古屋大学大学院工学研究科の竹岡敬和准教授の研究グループは 東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授の研究グループと共に 直鎖状のポリエチレングリコール (PEG) が 環状の分子であるシクロデキストリン (CD) を貫通した状態を嵩高い分子で閉じ込めた分子機械の一種である ポリロタキサン の環状分子部分に反応性のビニル基を修飾することで 高分子ゲル用の架橋剤を合成することに取り組んできました このポリロタキサン架橋剤を用いて調製した 高分子ゲルの力学的物性や応答速度は 従来の架橋剤からなる高分子ゲルと比べて大きく改善できることを報告してきました 2014 年の Nature Communications への報告において ポリロタキサンからなる架橋剤を用いることで 力学物性と刺激応答性が飛躍的に改善された刺激応答性高分子ゲルを従来の方法と同じように簡単に調製できるようになることを示しました 今回は さらに 架橋剤に用いるポリロタキサンの分子量を大きくすると 調製した高分子ゲルの伸張性 靱性が飛躍的に向上することを見いだしました 研究内容と背景 一般に 高分子鎖をところどころ架橋した 3 次元高分子網目が沢山の溶媒を吸収したものを高分子ゲルと呼びます 化学 物理の分野では 様々な種類の高分子からなる高分子ゲルに関する多くの基礎物性についての研究が行われ 薬学 医学 工学などの研究分野においても 高分子ゲルの分子篩い能力 液体保持性 粘弾性などの多様な性質が利用されています 高分子ゲルは その網目構造による分子篩い能 高い液体保持性 振動吸収性などの様々な性質を示すため 人工筋肉 ドラッグデリバリーシステム 分子認識センサー 再生医療用の培養床など 多くの分野での実用化が目指されています 高分子ゲルに関連した研究がここまで多くの分野に広がった理由の一つとしては その簡易な調製方法が挙げられます 例えば 分子生物学の研究で多用されている電気泳動用のポリアクリルアミドゲルは 所定の量のモノマー 架橋剤 反応開始剤を計り取り 全てを混ぜて純水もしくは緩衝液に溶かして減圧脱気した後 反応促進剤を加えるだけで得られます 一般の化学合成に必要な知識や器具を使わなくとも 簡単なレシピに従って作る料理のように どこでも誰でも同じ性質を示す高分子ゲルを作ることが可能です さらに 高分子ゲルの有する様々な性質 例えば 上記に記した性質に加えて 徐放性 振動吸収能 生体適合性など 各研究分野において必要とされる機能を持ち合わせていることも遍在化した理由です 一方 外部から加えられた刺激に応じてその体積や表面物性などを変化させる刺激応答性高分子ゲルは 従来の高分子ゲルと同様に調製方法が簡単で利用範囲が広いことに加え バイオセンサー ドラッグデリバリーシステム 人工筋肉など 従

来の高分子ゲルに比べてより高度な先端的研究分野に応用可能と考えられています しかし これまでに用いられたほとんどの刺激応答性高分子ゲルは 高分子の網目の不均一な構造の存在によって力学的に脆いため 応用に用いるにはその改善が必要です 刺激応答性高分子ゲルを含む従来の高分子ゲルは一方向に伸張させた場合 最も短い高分子鎖に力が集中してしまうため 網目は崩壊し わずか 1.2 1.5 倍で壊れてしまう 刺激を加えることによって高分子ゲルの体積を繰り返し大きく変化させる場合にも 同じ理由によって高分子網目は壊れてしまう 刺激応答性を示さないような従来の高分子ゲルに関しても 網目が不均一なために力学的には脆い 力学物性が改善された刺激応答性高分子ゲルを 簡単な操作で調製できれば 高分子ゲルの高度な先端的研究分野での利用も可能になると考えられていました しかし これまでに高分子ゲルの力学的強度などを改善するために行われた方法は 調製方法が複雑であったり 望みの力学物性と刺激応答性を兼ね備えることが困難でありました 成果の意義 これまでのポリロタキサン架橋剤からなる高分子ゲルに比べて 伸張性 靱性が飛躍的に向上することを見いだしました ポリロタキサンの分子量の増大により 架橋点の可動範囲が大きく広がったことで 高分子ゲルの力学的物性を大幅に改善させることに成功しました この架橋剤を用いれば 可動性の架橋点をラジカル重合で得られる様々な高分子ゲルに導入することができるため 従来研究されてきた多くの高分子ゲルの力学物性を向上させることが簡単にできる また 刺激応答性高分子ゲルにおいては その応答速度に関しても飛躍的に向上することが確認されていることから 人工筋肉 ( アクチュエータ ) センサー ドラッグデリバリーシステムといった応用にも利用できます 本研究は 内閣府の ImPACT ( 伊藤耕三プログラム マネージャー ) (http://www.jst.go.jp/impact/program/01.html) におけるプロジェクトの成果であり 将来的には 自動車部品や輸送機器を飛躍的に向上など 産業全般に広い波及効果に繋がることが期待されます 本研究成果は 2016 年 11 月発行の英国王立化学会の国際学術誌 Chemical Communications に掲載され 研究内容を示す概念図が Chemical Communications の裏表紙に採用されました 用語説明 人工筋肉 : 生体の筋肉組織を模倣することを目指して開発されているアクチュエータの一種

ドラッグデリバリーシステム : 病気になったときに 必要な薬物を必要な量だけ必要な場所に送達するためのシステム このようなシステムを用いれば 副作用がなくなると考えられる 再生医療 : 傷害や疾病により機能が損なわれた組織や臓器を 移植や代替品を利用するのではなく 自らの細胞を利用して再生させる試み 分子マシン : 複数の分子が非共有結合によって秩序だった集合体を形成し 新しい物性や機能を示す分子 ポリロタキサン の他に 環状の分子が複数連なった カテナン などもある 2016 年度のノーベル化学賞の対象となった 靭性 : 材料の粘り強さ 外力に抗して破壊されにくい性質 論文名 出典 : Chemical Communications (2016) タイトル :Molecular weight dependency of polyrotaxane-cross-linked polymer gel extensibility 著者名 : 大森香奈 1, Abu Bin Imran 1,3, 関隆広 1, 劉暢 2, 眞弓皓一 2, 伊藤耕三 2, 竹岡敬和 1 所属 : 1. 名古屋大学大学院工学研究科物質制御工学専攻 2. 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 3. バングラデシュ工科大学工学部化学科 DOI: 10.1039/C6CC07641F

図 1 ポリロタキサン架橋剤を用いて高分子ゲルを調製する方法 a: ポリロタキサンから可動性の架橋剤を合成 b: ポリロタキサン架橋剤を用いて高分子ゲルを調製

図 2 分子量の異なるポリロタキサン架橋剤を用いて調製した高分子ゲルを伸長させた場合を比較した概念図

図 3 ポリロタキサン架橋剤を用いて調製した高分子ゲルの応力 - 歪み試験の結果 : ポリロタキサンの分子量が大きいほど 高分子ゲルは高い靭性と伸張性を示す