PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

電解メッキ初期過程における電極近傍イオン種のリアルタイム観測に成功

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Ru ナノ粒子の構造と触媒活性との関連を見いだす ~ 局所構造 平均構造の数値化で実現機械学習用データを集積し新材料の創製に貢献 ~ 概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構技術開発 共用部門の高輝度放射光ステーション坂田修身ステーション長と 京都大学大学院理学研究科北川宏教授からなる研究チー

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

詳細な説明 < 背景 > 日本において急速に進む少子高齢化に関わる諸問題の解決のために 超スマート社会の実現が希求されています そのため 超スマート社会の技術インフ ラとして 超高感度センサーや超高速デバイスなどの開発に加えて それらのデバイス同士やそれらのデバイスと人をつなぐ超高速情報通信技術の研

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ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

Gifu University Faculty of Engineering

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マスコミへの訃報送信における注意事項

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

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e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御


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記 者 発 表(予 定)

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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< 研究の背景と経緯 > 半導体製造技術により 生体分子と親和性の高いマイクロチップが開発され それらを基盤とした革新的なバイオ分析技術が実現しています その中でも デジタルバイオ計測は マイクロチップを利用して 1 個の生体分子から機能や物性を高感度かつ定量的に計注測できる手法であり Digita

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報道発表資料 2006 年 2 月 14 日 独立行政法人理化学研究所 発見から 50 年 酸素添加酵素 ジオキシゲナーゼ の反応機構が明らかに - 日本人が発見した ジオキシゲナーゼ の構造は牛頭型 - ポイント 酵素の触媒反応は トリプトファンと酸素との直接反応 酵素が水素原子を引抜く初期反応は

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2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

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コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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遠心分離を行うことで積層された層が剥離さ れる 結果均一に積層した単層又は 2 層で比 較的大面積なグラフェンが得られる しかし 酸化のプロセスにおいて, 酸素含有基が導入さ れる事により π 電子共役系が広範囲に破壊さ れ導電性を失う為 導電性を取り戻すために還 元を行い酸素含有基を除去する 2.

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PRESS RELEASE (2013/7/24) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 30 年 0 2 月 0 9 日国立大学法人京都大学国立大学法人東京大学国立大学法人熊本大学国立大学法人大分大学公立大学法人首都大学東京公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI) 自動車排ガス浄化触媒における貴金属成分の酸化還元挙動の解明 高輝度放射光を用いた触媒のリアルタイムモニタ

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

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平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥がれていく反応をリアルタ イムで観察することに成功 酸化グラフェンの形成メカニズムを世界で初めて解明しまし た 本研究成果は 3 月 3 日 ( 現地時間 :2 日 ) アメリカの科学雑誌 Chemistry of Materials にオンライン速報として掲載されました 酸化グラフェンは厚さ約 1nm( ナノメートル ) の薄片状物質で 近年 電極材料 触媒 潤滑剤 樹脂補強材 熱伝導性材料など 多くの用途が検討され 優れた性能を有するこ とが報告されています しかし その形成過程が十分理解されておらず おのおのが 独 自のレシピ で合成するため 再現性が非常に低いという問題がありました 本研究成果により 酸化グラフェンの形成メカニズムが明らかになり 酸化グラフェン の物性を変える要因が解明されました また 安全に合成することも可能になり 実用化 のための大量合成が可能になります 現在 工業化などの社会実装に向けた取り組みを進 めています < 本研究のポイント > 酸化グラフェン ( 図 1) の形成メカニズムが十分解明されておらず 研究者が 独自の レシピ で合成するため 再現性が非常に低かった そのため 大量生産が困難で 工 業的な用途開発が遅れていた 大型放射光施設 3 (SPring-8 など ) を利用することで 黒鉛を酸化して酸化グラフェン を形成する過程を追跡し 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 酸化グ ラフェンの形成メカニズムを解明した 酸化グラフェンを安全かつ低コストで合成する手法を提示した 大量合成が可能にな り 工業的な用途開発が進むと期待される 図 1.( 左から ) 酸化グラフェンのモデル構造 走査型電子顕微鏡写真 分散液の写真

< 業績 > 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 酸化グラフェンがどのように形成されるのかという点に着目 黒鉛が酸化剤 ( 過マンガン酸カリウム ) と反応する過程を追跡することに成功しました 必要な酸化剤の量 反応温度 反応時間 精製法などを最適化し 従来をはるかに超える効率 ( 約 1/50 のコスト ) で酸化グラフェンを合成する指針を与えました 1 黒鉛が酸化される必要条件の決定 1958 年に初めて報告された酸化グラフェンの合成法では 黒鉛を濃硫酸中で硝酸ナトリウムと過マンガン酸カリウムを反応させていました これ以降 さまざまな改良法が報告され リン酸 酸化マンガン 水などを添加することで 酸化の効率が向上するとされてきました しかし これらの添加剤の効果は科学的に証明されておらず かえって操作を煩雑にしたり 製造コストを増大したり 廃棄物を増大したりするという問題がありました 本研究では 添加剤の効果を確認する網羅的な実験を行い 酸化グラフェンの形成には 黒鉛 硫酸 過マンガン酸カリウムのみで良いということを明らかにしました さらに 反応温度や酸化剤の量が 生じる酸化グラフェンに与える影響も明らかにしました これにより 簡便 安全 安価 省廃棄物で酸化グラフェンを合成することが可能になりました この製法を基にして 国内化学メーカーが量産化に取り組んでいます 2 黒鉛の酸化過程の追跡黒鉛が酸化されて剥がれていく過程を見ることができれば 反応が完結するまでにかかる時間を見積もることが可能になります これまで反応時間は 経験に頼ることが多く 研究者によって 30 分 ~5 日間と大きく異なっていました これが酸化グラフェンを用いる研究の再現性が低い一因になっていたと考えました 酸化グラフェンは濃硫酸中で形成されるため 通常の分析を行うことができません 本研究では 強い X 線を発する大型放射光施設 (Spring-8) のビームライン BL02B2 を利用 4 して その場 X 線回折実験 を行うことにより 濃硫酸中での反応の追跡を世界に先駆けて実施しました その結果 黒鉛の層間は反応後 1 分以内に拡がり その後 1 時間程度かけて乱雑化していくことが分かりました また 過マンガン酸カリウムが消費され 酸化が完結するには 2 時間かかることが分かりました ( 図 2)

図 2. 黒鉛から酸化グラフェンが形成される過程 3 酸化グラフェンの連続合成反応に用いる酸化剤や 反応時間を正確に決定できたことから 酸化グラフェンの連続フロー合成を行うことが可能になりました 送液ポンプを用いて 黒鉛 硫酸 過マンガン酸カリウムを流すことで 流路内で酸化反応が進行し 出口から酸化グラフェンが連続的に出てきます ( 図 3) 将来の工業化には このような連続フロープロセスの開発も視野に入れています 図 3. 酸化グラフェンの連続フロー合成プロセス ( 左 ) と これにより得られた酸化グラフェン ( 右 ) < 背景 > 本研究グループは 2012 年以降 炭素原子と酸素原子を主として含む 2 次元シート材料 酸化グラフェン の効率的合成法の確立と用途開拓を行っています 酸化グラフェンは 安価かつ大量に存在するグラファイト ( 黒鉛 ) を酸化することにより得られ 炭素原子 1 個の厚みからなる材料です 二次電池 透明導電膜 触媒 環境浄化材 潤滑剤などの幅広い用途を開拓する取り組みが盛んに行われています JST や NEDO プロジェクトで酸化グラフェンの大量合成や機能化について精力的に研究を行い 社会実装を目指した研究を行っています

< 見込まれる成果 > 2017 年 2 月 9 日に行ったプレスリリースの技術 ( 酸化グラフェン系材料の量産試作に成功 ) は 本研究の知見に基づくものです これまで 再現性が低く 化学工業において見過ごされてきた酸化グラフェンが ようやく実用化研究の枠に入るようになりました 今後は 基礎から応用までを網羅した研究開発を行うことにより 酸化グラフェンの実用化が加速されるものと考えています プレスリリース (2 月 9 日 ): 酸化グラフェン系材料の量産試作に成功 http://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press28/press-170209.pdf 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました JST 戦略的創造研究推進事業個人型研究 ( さきがけ ) 研究領域 分子技術と新機能創出 ( 研究総括 : 加藤隆史東京大学大学院工学系研究科教授 ) 研究課題名炭素二次元シートの自在合成と機能創出研究者仁科勇太 ( 岡山大学異分野融合先端研究コア准教授 ) 研究実施場所岡山大学研究期間平成 25 年 10 月 ~ 平成 29 年 3 月 < 論文情報 > タイトル : Real-Time, In Situ Monitoring of the Oxidation of Graphite: Lessons Learned 著 者 : Naoki Morimoto, Hideyuki Suzuki, Yasuo Takeuchi, Shogo Kawaguchi, Masahiro Kunisu, Christopher W. Bielawski, Yuta Nishina* 誌 名 : Chemistry of Materials, 2017, in press. 発表論文はこちらからご確認いただけます http://pubs.acs.org/journal/cmatex <お問い合わせ> 岡山大学異分野融合先端研究コア准教授仁科勇太 ( 電話番号 )086-251-8718 (FAX 番号 )086-251-8718 (URL) http://www.tt.vbl.okayama-u.ac.jp/ 仁科勇太准教授

< 用語解説 > 1 黒鉛 ( グラファイト ): 炭素からなる元素鉱物で 六方晶系構造 亀の甲状の層状物質で 層間は弱いファンデルワールス力で結合しているため 剥離することができる 2 酸化グラフェン : グラフェンとは 炭素原子 1~ 数層のシート グラファイト ( 黒鉛 ) の基本構造 アンドレ ガイムらがグラフェンに関する革新的な研究で 2010 年にノーベル物理学賞を受賞した 2030 年のグラフェン材料の市場規模は約 1000 億円と予測され その応用製品の市場規模は数十倍になるとみられている 酸化グラフェンとはグラフェンに酸素官能基がついたもので グラファイトを酸化反応により剥離した炭素原子 1~ 数層のシート 3 大型放射光施設 SPring-8: 兵庫県の播磨科学公園都市にある 理化学研究所が所有する放射光施設で JASRI が運転管理 SPring-8 の名前は Super Photon ring-8 GeV に由来 放射光とは 電子を光とほぼ等しい速度まで加速し 電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する 細く強力な電磁波 SPring-8 では この放射光を用いて ナノテクノロジー バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究を行うことができる 4 X 線回折 : 結晶構造を観察する方法 本研究では 黒鉛結晶の層間隔が開いていく過程や その後に構造が乱れていく過程を X 線回折実験により明らかにした 通常の X 線回折装置では 粉末の状態で測定するため 反応を追跡することは困難 SPring-8 の強力な X 線を使うことにより 硫酸中に分散した状態のまま 黒鉛の結晶状態を観察することが可能になった