Naturalistae, no. 11: 1-8 (2007) ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布 大野裕史 中村圭司 Distribution of Nezara viridula and N.

Similar documents
Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

1 アライグマの 分布と被害対策 1 アライグマの分布 1977 昭和52 年にアライグマと少年のふれあいを題材とし たテレビアニメが全国ネットで放映されヒット作となった それ 以降 アライグマをペットとして飼いたいという需要が高まり海 外から大量に輸入された しかしアライグマは気性が荒く 成長 す

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C8E89D495B294F28E558C588CFC82DC82C682DF8251>

 

I

試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 1 月中旬 試験中 試験中 試験終了 12 月中旬 試験中 試験中 試験中 1 月上旬 試験中 試験中 試験中 1

ぐに花粉の飛散シーズンに入らなかったのは 暖冬の影響で休眠打破が遅れたことが影響していると考えられます ( スギの雄花は寒さを経験することにより 休眠を終えて花粉飛散の準備に入ると言われています ) その後 暖かい日や風が強い日を中心にスギ花粉が多く飛びましたが 3 月中旬には関東を中心に寒い日が続

4. 水田の評価法|鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

< E B B798E7793B188F5936F985E8ED EA97975F8E9696B18BC CBB8DDD816A E786C7378>

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

< E B B798E7793B188F5936F985E8ED EA97975F8E9696B18BC CBB8DDD816A E786C7378>

共同住宅の空き家について分析-平成25年住宅・土地統計調査(速報集計結果)からの推計-

22. 都道府県別の結果及び評価結果一覧 ( 大腸がん検診 集団検診 ) 13 都道府県用チェックリストの遵守状況大腸がん部会の活動状況 (: 実施済 : 今後実施予定はある : 実施しない : 評価対象外 ) (61 項目中 ) 大腸がん部会の開催 がん部会による 北海道 22 C D 青森県 2

Microsoft Word - 【修正】2~3月花粉飛散傾向まとめ.doc

平成29年3月高等学校卒業者の就職状況(平成29年3月末現在)に関する調査について

バンカーシート 利用マニュアル 2017年版(第一版)

Naturalistae-森定.indd

2-5 住宅の設備

確認テスト解答_地理 indd

06_学術.indd


あら

予報 岡病防第16号

129

通話品質 KDDI(au) N 満足やや満足 ソフトバンクモバイル N 満足やや満足 全体 21, 全体 18, 全体 15, NTTドコモ

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

‚æ4“ƒ.ren

Microsoft Word - 認知度調査HP原稿

表 3 の総人口を 100 としたときの指数でみた総人口 順位 全国 94.2 全国 沖縄県 沖縄県 東京都 東京都 神奈川県 99.6 滋賀県 愛知県 99.2 愛知県 滋賀県 神奈川

( 図表 1) 特別養護老人ホームの平米単価の推移 ( 平均 ) n=1,836 全国東北 3 県 注 1) 平米単価は建築工事請負金額および設計監

1. 社会福祉法人経営動向調査 ( 平成 30 年 ) の概要 目的 社会福祉法人と特別養護老人ホームの現場の実感を調査し 運営実態を明らかにすることで 社会福祉法人の経営や社会福祉政策の適切な運営に寄与する 対象 回答状況 対 象 特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人 489 法人 (WAM

平成28年版高齢社会白書(概要版)

資料3 クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属に関する情報(案)

スーパーマーケット販売統計調査資料 2017 年 12 月実績速報版 ( パネル 270) 11 月実績確報版 ( パネル 270) 2017 年年間集計速報版 (2018 年 1 月 23 日公表 ) 調査資料概要 パネル 270 社集計 食品を中心に取り扱うスーパーマーケットを対象に同一企業を集

Journal of Fisheries Technology, 3 2, , , , 2011 The Development of Artificial Spawning Grounds for Ayu, Plecoglossus altivelis

月中旬までの飛散量も昨年より少なく 半分程度の所もあります このため 東北では昨年よりもまだ症状が軽 い傾向ですが シーズンを通した飛散量は平年並で 昨年より多い予想なので 油断は禁物です 右の症状のグラフは スマホアプリ ウェザーニュースタッチ の 花粉 Ch. に 2017 年 1 月 19 日

untitled

<925089BF955C81698CF6955C816A2E786C73>

平成 27 年 2 月から適用する公共工事設計労務単価 1 公共工事設計労務単価は 公共工事の工事費の積算に用いるためのものであり 下請契約等における労務単価や雇用契約における労働者への支払い賃金を拘束するものではない 2 本単価は 所定労働時間内 8 時間当たりの単価である 3 時間外 休日及び深

Microsoft Word - 【最終版】2012年花粉傾向まとめ.doc

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

24_ChenGuang_final.indd

»°ËÞ½ŸA“⁄†QŸA“⁄Æ�°½No9

04-“²†XŒØ‘�“_-6.01

202

OKAYAMA University Earth Science Reports, Vol.17, No.1, 7-19, (2010) Comparison of large-scale cloud distribution and atmospheric fields around the Ak

台風23 集約情報_14_.PDF

2018 年 12 月の天候 ( 福島県 ) 月の特徴 4 日の最高気温が記録的に高い 下旬後半の会津と中通り北部の大雪 平成 31 年 1 月 8 日福島地方気象台 1 天候経過 概況この期間 会津では低気圧や寒気の影響で曇りや雪または雨の日が多かった 中通りと浜通りでは天気は数日の周期で変わった

共同住宅の空き家について分析-平成25年住宅・土地統計調査(確報集計結果)からの推計-

平成 27(2015) 年エイズ発生動向 概要 厚生労働省エイズ動向委員会エイズ動向委員会は 3 ヶ月ごとに委員会を開催し 都道府県等からの報告に基づき日本国内の患者発生動向を把握し公表している 本稿では 平成 27(2015) 年 1 年間の発生動向の概要を報告する 2015 年に報告された HI

01-加藤 実-5.02


日本作物学会紀事 第77巻 第1号

untitled

岡山県 ( 岡山市を含む ) 件数 ( 件 ) (%) 価格 ( 万円 ) 520 1,349 1,418 1,457 1,403 1,421 年 土地面積 ( m2 )

<4D F736F F D DC58F4994C5817A E89D495B28C588CFC82DC82C682DF>

Flavell et al. () 111

関東 優良産廃処理業者認定制度で優良認定を受けている許可証 組合員都道府県 許可地域組合員名所在地 茨城県 黒沢産業 ( 株 ) 茨城県 関 茨城県 茨城県 ( 株 ) マツミ ジャパン 茨城県 茨城県 ( 株 ) 国分商会 埼玉県


住宅宿泊事業の宿泊実績について 令和元年 5 月 16 日観光庁 ( 平成 31 年 2-3 月分及び平成 30 年度累計値 : 住宅宿泊事業者からの定期報告の集計 ) 概要 住宅宿泊事業の宿泊実績について 住宅宿泊事業法第 14 条に基づく住宅宿泊事業者から の定期報告に基づき観光庁において集計

22.Q06.Q

第62巻 第1号 平成24年4月/石こうを用いた木材ペレット

<4D F736F F D2081A030308B4C8ED294AD955C8E9197BF955C8E862E646F63>

Microsoft Word 報告の手引き(HP掲載) .docx

億万長者のいる街 いない街 ~ 申告所得税データから見た高額所得者の地域分布 ~ ( 統計集 Ⅵ) 大阪経済大学経済学部特任教授梅原英治 ( 目次 ) はじめに 1. データの出所 2. 統計集 ( はじめに ) 3. 統計集 ( 第 1 章 ) 4. 統計集 ( 第 2 章 ) 以上 統計集 Ⅰ

9-2_資料9(別添)_栄養塩類管理に係る順応的な取組の検討

* Meso- -scale Features of the Tokai Heavy Rainfall in September 2000 Shin-ichi SUZUKI Disaster Prevention Research Group, National R

理学療法検査技術習得に向けた客観的臨床能力試験(OSCE)の試行

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

平成 24 年度職場体験 インターンシップ実施状況等調査 ( 平成 25 年 3 月現在 ) 国立教育政策研究所生徒指導 進路指導研究センター Ⅰ 公立中学校における職場体験の実施状況等調査 ( 集計結果 ) ( ) は 23 年度の数値 1 職場体験の実施状況について ( 平成 24 年度調査時点

統計トピックスNo.96 登山・ハイキングの状況 -「山の日」にちなんで-

[1] 2 キトラ古墳天文図に関する従来の研究とその問題点 mm 3 9 mm cm 40.3 cm 60.6 cm 40.5 cm [2] 9 mm [3,4,5] [5] 1998

04-01_論文(荻野基行)new.indd

福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,400 ~ 35,900 40,500 ~ 40,500 51,800 ~ 51,800 福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,400 ~ 35,900 40,500 ~ 40,500 51,800 ~

年齢 年齢 1. 柏 2. 名古屋 3. G 大阪 4. 仙台 5. 横浜 FM 6. 鹿島 -19 歳 0 0.0% 0 0.0% 2 2.7% 1 1.4% 3 4.0% 3 4.6% 歳 4 5.0% 5 6.7% 7 9.6% 2 2.7% 2 2.7% % 25-2

九州地方一問一答 (15 分 各 1 点 ) 実施日 : 年月日 問 1. かつて薩摩藩があったのは今の何県か 問 2. 北海道南部に広がる 火山活動によってつくられた台地を何というか 問 3. 前問の台地を形成しているのは何という火山か 問 4. 樹齢 3000 年を超える縄文杉が生息し 世界自然

6 月 5 日 ( 火 ) 石垣 東京 ( 羽田 ) 90 9, % 6 月 5 日 ( 火 ) 大阪 ( 神戸 ) 沖縄 , % 6 月 5 日 ( 火 ) 沖縄 大阪 ( 神戸 ) , % 6 月 5 日 ( 火 ) 名古屋 (

厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

KII, Masanobu Vol.7 No Spring

環境影響評価制度をめぐる法的諸問題(4) : 米国の環境影響評価制度について


行動経済学 第5巻 (2012)

IR0036_62-3.indb

豊田ホタルの里ミュージアム研究報告書第 6 号 : 頁, 2014 年 3 月 Bull. Firefly Museum of Toyota town. (6): , Mar 報告 下関市のイソジョウカイモドキの生態と分布 松田真紀子 1) 2) 川野敬介

論文

理科教育学研究

1

11_渡辺_紀要_2007

( ) ( ) 87 ( ) 3 ( 150mg/l) cm cm 50cm a 2.0kg 2.0kg

3. 下水道の整備状況平成 30 年 3 月 31 日現在 県内では 20 市町のうち 11 市 6 町で公共下水道事業が実施されており 17 の市町で供用されています しかしながら 愛媛県の下水道普及率は 53.7% と全国第 38 位となっており まだまだ遅れています 瀬戸内海や宇和海などの豊か

福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,300 ~ 35,900 40,500 ~ 40,500 51,800 ~ 51,800 福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,000 ~ 35,900 40,500 ~ 40,500 51,800 ~

...v.q.....r C

- 1 - Ⅰ. 調査設計 1. 調査の目的 本調査は 全国 47 都道府県で スギ花粉症の現状と生活に及ぼす影響や 現状の対策と満足度 また 治療に対する理解度と情報の到達度など 現在のスギ花粉症の実態について調査しています 2. 調査の内容 - 調査対象 : ご自身がスギ花粉症である方 -サンプ

<2014年の花粉飛散傾向発表。2月上旬から花粉シーズン到来、対策は1月から>

図 3. 新規 HIV 感染者報告数の国籍別 性別年次推移 図 4. 新規 AIDS 患者報告数の国籍別 性別年次推移 (2) 感染経路 1 HIV 感染者 2016 年の HIV 感染者報告例の感染経路で 異性間の性的接触による感染が 170 件 (16.8%) 同性間の性的接触による感染が 73

1 福祉施設の動向 1.1 特養 平米単価は平成 22 以降初めて低下 近年は高止まりの様相を呈す 地域別では首都圏 近畿地方等で平均を上回る (1) 平米単価 平米単価は 全国平均および首都圏ともに平 成 22 を底に上昇傾向にあったが 平成 29 は初めて低下した ( 図表 1) 長期的にみ れ

福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,300 ~ 36,000 40,500 ~ 40,500 51,800 ~ 51,800 福岡 札幌 ( 千歳 ) 東京 ( 羽田 ) ,700 ~ 36,400 40,500 ~ 40,500 51,800 ~ 5

Title マンゴー葉に寄生するマンゴーハダニ Oligonychus coffeae (NIETNER) とシュレイハダニ Oligonyc biharensis (HIRST) の雌に対する有効薬剤の探索 Author(s) 鈴木, 優子 Citation 沖縄農業, 35(1):

No.51 pp.35 58, 2015 Komazawa Journal of Geography Rivers and Hydrological-Environment of Musashino-Upland in Tokyo Metro. SUMIDA Kiyomi Keywords: Mus

Transcription:

Naturalistae, no. 11: 1-8 (27) ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布 Distribution of Nezara viridula and N. antennata in Okayama Prefecture and Shikoku Island, Japan. Hirofumi Ohno & Keiji Nakamura Abstract: Distribution of two insect species, Nezara viridula and N. antennata (Heteroptera; Pentatomidae), is examined. Insects were collected in Okayama Prefecture and Shikoku Island from September to November in 2. Nezara viridula was collected not only in Shikoku but also in Okayama although the species has not been recorded from Okayama. It is suggested that N. viridula has expanded its distribution northwards as a result of rise in winter temperature. はじめに現在, 多くの地域でヒートアイランド現象といった都市の温暖化が起こっている ( 河村,1997). このような環境の変化は, さまざまな生物に多大な影響を与えている. 昆虫についても, 年間発生世代数の増加や高緯度地域への分布域の拡大などの影響が報告されている ( 桐谷,21). トンボ目のタイワンウチワヤンマ (Ictinogomphus pertinax) では,196 年代までの分布域は九州と四国南部であった. その後 197 年代に瀬戸内地域,198 年代には近畿地方へ分布拡大し,22 年には神奈川県でも記録されている ( 青木,23). 各地の温度上昇とタイワンウチワヤンマの分布北限の北上とはほぼ一致しており, 気温の上昇が分布域の北上に深く関係していると考えられている (Aoki,1997). また, ナガサキアゲハ (Papilio memnon Linnaeus) は九州から北上し,198 年代には大阪府でも分布が確認され,199 年には近畿地方の ほぼ全域でみられるようになった.198 年以降の最も寒い月の平均気温の上昇がその分布拡大の原因と考えられている ( 吉尾,199). 本研究では, これらの昆虫と同様に生息域の北上が報告されているミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とそれに近縁なアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県と四国における分布について, 調査を行なった. ミナミアオカメムシは熱帯地方が起源地であり, 現在では全世界的に分布している ( 友国ら,1993; Panizzi et al., 2). 日本はミナミアオカメムシの分布北限にあたり, 沖縄をはじめ九州や四国の南部, 紀伊半島南部, 小笠原諸島に分布している. 食性範囲は広く32 科 14 種が寄主植物として確認されている. アオクサカメムシの分布は, 日本, 台湾, インドシナ, インドであり, 日本では, 北海道から沖縄まで幅広く分布している ( 友国ら, 1993). 寄主植物や天敵類はほとんどミナミアオカメムシと共通しており, 体長 体色などは, 外見からの判別が困難なくらい似ている. 7- 岡山市理大町 1-1 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科 Department of Biosphere-Geosphere System Science, Faculty of Informatics, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho, Okayama 7-, Japan

表 1. ミナミアオカメムシとアオクサカメムシの採集地点 採集地点 緯度 経度 採集時期 日生 岡山県備前市日生町 N 34 4 E 134 12 2 年 11 月上旬 岡山 岡山県岡山市 N 34 39 E 133 2 年 1 月上旬 牛窓 岡山県瀬戸内市牛窓町 N 34 36 E 134 7 2 年 9 月下旬 玉野 岡山県玉野市 N 34 32 E 133 6 2 年 9 月下旬 笠岡 岡山県笠岡市 N 34 28 E 133 34 2 年 11 月上旬 児島 岡山県倉敷市下津井 N 34 26 E 133 47 2 年 1 月下旬 高松 香川県高松市 N 34 19 E 134 3 2 年 1 月下旬 松山 愛媛県松山市 N 33 E 132 4 2 年 1 月下旬 須崎 高知県須崎市 N 33 2 E 133 21 2 年 1 月下旬 ミナミアオカメムシはアオクサカメムシよりも年間発生回数が多く, 産卵数も多いために増殖率が高いが, 寒さに弱いために高緯度地域や山地への侵入が妨げられている ( 桐谷, 21). 両種は競争関係にあり, 温暖な地域では増殖力の高いミナミアオカメムシが優勢になる. 宮崎県では19 年代初めにはほとんどがアオクサカメムシであったが,197 年代にはミナミアオカメムシしか見られなくなった ( 鮫島, 196; Kiritani, 1971). これは, 温暖化に伴いミナミアオカメムシの分布域が北上したためだと考えられている. 和歌山県におけるミナミアオカメムシとアオクサカメムシの分布の調査では, 和歌山県の中部にあたる田殿 (N34 4 E13 12 ) がミナミアオカメムシの北限であった (Kiritani et al., 1963). しかし1999~2 年の調査で, 大阪市 ( N34 41 E13 31 ) でもミナミアオカメムシが確認されている (Musolin and Numata, 23; 24). 岡山県ではアオクサカメムシは以前から分布しているが, ミナミアオカメムシについては23 年まで確認されていない ( 岡山県, 23). しかし, 大阪と同じくらいの緯度に位置する岡山や四国北部にもミナミアオカメムシが進出している可能性がある. そこで岡山県内 6 地点 ( 岡山, 笠岡, 児島, 玉野, 牛窓, 日生 ) および四国 3 地点 ( 高松, 松山, 須崎 ) において, ミナミアオカメムシとアオクサカメムシの分 布調査を行なった. 方法岡山県内 6 地点, 四国 3 地点, 合計 9 地点 ( 表 1) において,2 年 9 月上旬から2 年 11 月下旬にかけて, ミナミアオカメムシとアオクサカメムシの2 齢以降の幼虫と成虫を, 畑や家庭菜園のエンドウマメやオクラで採集した. 採集した昆虫は, 風通しが良く直射日光の当たらない室内で, プラスチックカップ (1φ 8mm) に入れて飼育した. カップの蓋には7mm 四方の穴をあけて網を張り, 空気が通るようにした. カップの底には紙を敷き, サンプル管 (22φ 6mm) に水を入れ, 脱脂綿で栓をして与えた. 餌として生ピーナッツを与え,2~2 の室内条件で飼育した. ミナミアオカメムシとアオクサカメムシの判別は幼虫段階では難しいため, 成虫になってから行なった. 判別方法は, 於保 桐谷 (196) に従い, 腹部背面が緑色のものをミナミアオカメムシ, 黒色のものをアオクサカメムシと判定した ( 図 1). 1 月の平均気温が下がるにつれてミナミアオカメムシの死亡率は上昇し,+ 以下では半数以上が越冬できずに死亡する (Kiritani et al., 1963). そこで, 気象庁ホームページ ( 気象統計情報 ) で公表されている, 調査地点に最も近い観測地点 ( 岡山, 玉野, 笠岡, 虫明, 松山, 高松, 須崎 ) における198~

ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布 図 1. アオクサカメムシ, ミナミアオカメムシの写真 26 年までの記録を利用し, 各地域におけるミナミアオカメムシの越冬の可能性を検討した. 結果岡山県および四国における両種の分布岡山で採集した 個体 ( オス28 頭, メス27 頭 ), 玉野で採集した31 個体 ( オス19 頭, メス12 頭 ), 笠岡で採集した28 個体 ( オス11 頭, メス17 頭 ) は全てアオクサカメムシであり, ミナミアオカメムシは確認することができなかった ( 図 2). 児島, 牛窓ではミナミアオカメムシとアオクサカメムシの両種が採集された. 児島では,16 個体 ( オス6 頭, メス 1 頭 ) がアオクサカメムシ,2 個体 ( メス2 頭 ) がミナミアオカメムシであった. 牛窓では24 個体 ( オス12 頭, メス12 頭 ) がアオクサカメムシ,2 個体 ( オス2 頭 ) がミナミアオカメムシであった. 日生では,11 個体 ( オス4 頭, メス7 頭 ) がアオクサカメムシ,37 個体 ( オス21 頭, メス16 頭 ) がミナミアオカメムシであり, 全体の77.1% がミナミアオカメムシであった. 愛媛県松山市で採集した16 個体 ( オス7 頭, メ ス9 頭 ), 香川県高松市で採集した1 個体 ( オス 27 頭, メス24 頭 ) は全てアオクサカメムシであった ( 図 3). 一方, 高知県の須崎市で採集した39 個体 ( オス2 頭, メス24 頭 ) は, 全てミナミアオカメムシであり, アオクサカメムシは確認されなかった. 調査地点周辺における気温最近の1 月の平均気温は,198 年代前半と比べて全体的に高くなっていた ( 図 4).199 年代後半以降の岡山, 玉野の気温は + 付近であった. 虫明, 笠岡では +4 付近であり, 岡山よりも少し低かった. 高松, 松山では + ~+7 であり, すでにミナミアオクサカメムシが確認されている須崎でも +6~ +8 と,+ よりかなり高かった.1999~2 年の調査でミナミアオカメムシが確認された大阪も +~ +7 であった. 2~26 年の1 月の気温を平均すると, 岡山は +4.97, 玉野は +.19 とほぼ + であったが, 笠岡は +4.23, 日生に最も近い観測地点の虫明では +3.84 と,+ よりもかなり低かった. 一方, 四

図 2. 岡山県におけるミナミアオカメムシとアオクサカメムシの分布 ( 円グラフ中の数字は採集個体数を示す ) 図 3. 四国におけるミナミアオカメムシとアオクサカメムシの分布 ( 円グラフ中の数字は採集個体数を示す ) 国では, 松山は +.96, 高松は +.69, 須崎では +6.9 と, いずれも + よりも高い気温であった. また, 大阪でも +6. であり + を上回った. 年間最低気温については, 岡山では-2 ~- となる年が多かった ( 図 ). 玉野では岡山よりも少し高く, 虫明と笠岡では岡山より低くなる傾向があった. 四国の3 観測地点では, 最低気温に大きな違いはなかったが, すでにミナミアオクサカメムシが確認されている須崎の方が, 高松や松山より低くな る年が多かった. また, 大阪は全ての観測地点の中で最も最低気温が高かった. 考察ミナミアオカメムシは熱帯を起源とするカメムシであり, 日本各地で分布域北限の北上が報告されている. 宮崎県での両種におけるミナミアオカメムシの割合は,191 年には1%,199 年にはおよそ7%, そして,197 年代初期には1% にまで増加した ( 鮫島, 196; Kiritani, 1971). 近畿地方でも,1961~1962 年

ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布 1 1 1 1 198 198 199 199 2 2 198 198 199 199 2 2 図 4. 調査地点付近における198 年以降の1 月の平均気温 の調査ではミナミアオカメムシの分布が和歌山県中 部以南に限られていた (Kiritani et al., 1963) のが, 1999~2 年には大阪市まで進出していた (Musolin and Numata, 23; 24). これらは, 都市化による気 温の上昇に伴ってミナミアオカメムシの分布域北限 が北上していることを示している. 今回調査した 9 地点のうち, すでにミナミアオ カメムシの分布域とされていたのは高知県の須崎 だけである. しかし, 須崎以外にも岡山県の児島, 牛窓, 日生でもミナミアオカメムシを確認すること ができた. 特に日生では岡山県内の他の場所とは違 い, アオクサカメムシよりもミナミアオカメムシ の割合が多かった. 岡山県ではこれまでミナミア オカメムシの確認例はなく ( 岡山県生活環境部自 然環境課, 23), 今回が岡山県での初の観察記録 となる. 四国において, ミナミアオカメムシは高知県内か 愛媛県南部に分布するとされており, 四国北部では これまで確認されていない. 今回の調査でも松山, 高松ではミナミアオカメムシは採集されなかった. しかし, 今回は調査地点が 3 ヶ所と少なかったの 図. 調査地点付近における 198 年以降の年間最低気温 で, 今後より多くの場所で採集する必要がある. 今回の結果から, ミナミアオカメムシが四国北部 から瀬戸内海を渡って岡山に侵入してきた可能性は 低いと考えられる. 九州南部にもミナミアオカメム シは分布しているが, 福岡県の北部や山口県, 広島 県では確認されていない. 一方で兵庫県ではミナミ アオカメムシの侵入が報告されている. 姫路市では 発見例はないが, 淡路島や伊丹市ではすでに発生が 確認されている. 今回の調査でも兵庫県と岡山県の 県境にあたる日生で多数のミナミアオカメムシが採 集されたことから, 兵庫県南部から岡山県内に侵入 してきた可能性も考えられる. また, 交通機関の発達によりミナミアオカメムシ が人為的に分布を広げた可能性も否定できない. 多 くの植食性昆虫が, 作物とともに人間の手によって 新しい地域へと運ばれてきた ( 桐谷, 1986). 広食 性でさまざまな作物の害虫であるミナミアオカメ ムシについても同様に, 野菜や果物, 穀物などに 付着して人為的に岡山県に運ばれてきた可能性が ある. 今後, 岡山の周辺地域におけるミナミアオ カメムシの分布についても, より詳細に調査する

必要がある. 岡山, 玉野における1 月の平均気温は + 付近であった ( 図 4).+ では, 半数以上のミナミアオカメムシ成虫は越冬できずに死んでしまう (Kiritani et al., 1963). すなわち, 岡山県内に侵入したミナミアオカメムシのかなりの個体が翌年の春までに生存できないということが考えられる. 一方で, 最近になってミナミアオカメムシが侵入した大阪の1 月の平均気温は +~+7 であり, 岡山, 玉野と大きな違いはない. また, 平均気温が岡山より低い虫明に隣接する日生では, 今回多くのミナミアオカメムシが採集された. これらのことから, 岡山県南部にいつ頃ミナミアオカメムシが侵入したのかは明らかではないが, 少なくとも一部の成虫が越冬している可能性は高い. 本研究では, 年間最低気温とミナミアオカメムシの分布域の関係についても検討を加えたが, 以前からミナミアオカメムシが生息していた須崎とそれ以外の観測地点との間には大きな違いが認められなかった ( 図 ). このことからも, 岡山県南部でミナミアオカメムシが一年を通して生存できるのではないかと考えられる. 今回の調査で, ミナミアオカメムシが近畿地方と同様に, 緯度の高い地域へと分布を拡大していることが明らかになった. 今後, 都市部の温暖化が進行すると, 岡山市内などにもミナミアオカメムシが侵入し, 定着する可能性がある. 謝辞電話での聞きこみ調査に御協力して頂いた, 福岡県農業総合試験場, 山口県農業試験場, 広島県農業試験場, 兵庫県立農林水産技術総合センター病害虫防除部, 香川県農業試験場, 北九州市立自然歴史博物館, 倉敷市立自然史博物館, 姫路自然の森 ネイチャーセンター, 伊丹市昆虫館, 面河山岳博物館の担当者の皆様に心からお礼を申し上げます. また, 採集の手伝いをしてくれた, 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科の西田康彦さんと二宮朋也さんに感謝します. 引用文献 Aoki, T. (1997) Northward expansion of Ictinogomphus pertinax (Selys) in eastern Shikoku and western Kinki districts, Japan (Anisoptera: Gomphidae). Odonatologica 26, 121-133. 青木典司 (23) タイワンウチワヤンマの北方への分布拡大,23 年目本蜻蛉学会大会研究発表要旨集 :13-14. 河村武 (1997) ヒートアイランド. 日経サイエンス, 18, 94-11. Kiritani, K. (1971) Distribution and abundance of the southern green stink bug. Nezara viridula. In: Proceedings of the Symposium on Rice Insects. Tropical Agricultural Research Center, Tokyo, pp. 23-248. 桐谷圭治 (1986) 日本の昆虫. 東海大学出版会. 179pp. 桐谷圭治 (21) 昆虫と気象. 成山堂書店. 177pp. Kiritani, K., N. Hokyo and J. Yukawa (1963) Co-existence of the two related stink bugs Nezara viridula and N. antennata under natural conditions. Researches on Population Ecology,, 11-22. Musolin, D. L. and H. Numata (23) Timing of diapause induction and its life-history consequences in Nezara viridula: is it costly to expand the distribution range? Ecological Entomology, 28: 694-73. Musolin, D. L. and H. Numata (24) Late-season induction of diapause in Nezara viridula and its effect on adult coloration and post-diapause reproductive performance. Entomologia Experimentalis et Applicata,111: 1-6. 於保信彦 桐谷圭治 (196) ミナミアオカメムシの生態と防除. 植物防疫, 14, 1-. 岡山県生活環境部自然環境課 (23) 岡山県野生生物目録. 岡山県生活環境部自然環境課, 397pp. Panizzi, A. R., J. E. McPherson, D. G. James, M. Javahery

ミナミアオカメムシ (Nezara viridula) とアオクサカメムシ (N. antennata) の岡山県及び四国における分布 and R. M. McPherson (2) Stink bugs (Pentatomidae). In Heteroptera of Economic Importance (C. W. Schaefer and A. R. Panizzi eds.). CRC Press, Boca Raton, pp. 421-474. 鮫島徳造 (196) ミナミアオカメムシの発生と被害. 植物防疫, 4: 1-1. 友国雅章 安永智秀 川村満 高井幹夫 川澤哲夫 (1993) 日本原色カメムシ図鑑. 全国農村教育協会, 38pp. 吉尾正信 (199) 近畿地方北部におけるナガサキアゲハの採集 目撃記録 ( その2). 昆虫と自然, 3: 2-22. 要約生息域の北上が報告されているミナミアオカメムシとそれに近縁なアオクサカメムシの岡山県と四国における分布について調査を行なった.2 年 9 月上旬から2 年 11 月下旬にかけて岡山県内 6 地点, 四国 3 地点, 合計 9 地点において, 両種の幼虫と成虫を採集した. 高知県の須崎および岡山県の岡山, 玉野, 笠岡においてミナミアオカメムシを採集することができた. いずれの調査地点においても, 最近の気温は198 年代前半より高くなっていることから, 以前は岡山県内には生息していなかったミナミアオカメムシが都市の温暖化などによって生息域を北へ拡大し, 岡山に侵入したと考えられる. (26 年 12 月 14 日受理 )