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スマートコントラクトを使った IoT システムの提案 古都哲生 1 峰野博史 2 概要 IoT システムにおいて ブロックチェーン上で稼動するスマートコントラクトを利用するにあたり 効率的な 実装方法について提案する 具体的には IoT システムとブロックチェーンシステムの融合の際の必要な基本機能を 明確化し スマートコントラクトの特性 性能を評価した また その評価結果を元に 現状のブロックチェーンで の効果的な利用方法を明確化し ブロックチェーンを使った IoT システムに必要とされる要件を明らかにした キーワード IoT ブロックチェーン スマートコントラクト Proposal of IoT System with Smart Contract TETSUO FURUICHI 1 HIROSHI MINENO 2 Abstract: In the IoT system, we propose an efficient implementation method when using smart contract running on the BlockChain. Specifically, we clarified the basic functions necessary for fusion of the IoT system and BlockChain system, and evaluated the characteristics, performance and reliability in BlockChain. Based on the evaluation results, we clarified the effective use method in the current BlockChain environment and clarified the requirement for the IoT system for BlockChain. Keywords: IoT, BlockChain Smart Contract 1. はじめに てきた SoC(System on Chip)を利用することで現実的にな ってきた比較的潤沢なハードウェア ソフトウェア構成を IoT が工場 産業用途分野で実用化され さらに家庭や 採用したモジュールは エンドデバイス側でデータ処理を 健康を対象にした民生品に向けた発展がめまぐるしい こ 行うことができ 転送データ量を減らし 通信コスト削減 れまでの IoT デバイスは 低消費電力 小型化 軽量化 することが可能となる 低コスト 等に重点を置いて開発されてきた また 実用 また最近は 情報セキュリティ的な信頼性や可用性への 化と共に多様化が進むことで システム構築の難易度が上 要求も高まってきており シンプルな機器においても PC がっている 近年国内外で IoT フレームワークが多く発表 やサーバシステムと同様の対策を求められるようになっ されているが 現状はゼロからの開発を行う場合も多く てきている 開発コストが増大している さらに IoT 機器における情 1.2 ブロックチェーン技術の注目 報セキュリティの脆弱性による DDoS 攻撃の被害が顕著に 暗号化技術が発展し さらに暗号アルゴリズムを実用的 なってきており その対応も必要となってきた 実験シス な速度で実行できる潤沢なハードウェアが PC では一般的 テムから実用システムに移行していることで 長期間運用 になってきたため 分散処理技術の一つである分散台帳シ を目的としたシステムも重視されているが 半導体デバイ ステムのブロックチェーンが注目されている すでにブロ スやモジュール等ハードウェアの供給期間の制限やソフ ックチェーンを使った多くの仮想貨幣が発表され 本来の トウェア脆弱性対応などで 組込み機器の売切り体制では 流通貨幣の利便性だけではなく 投機手段としての仮想貨 要望を満たせない状況も発生してきており これまで以上 幣が話題となっている 今回我々は 組込み機器の情報セ の可用性を配慮した IoT システム構築の難しさも明らかと キュリティ対策の手段として 分散台帳システムやスマー なってきている トコントラクトの機能 性能に着目した 1.1 IoT 構成の多様化 1.3 IoT 分野へのブロックチェーンの適用 多くの目的に対応する IoT は ハードウェア ソフトウ IoT は多様な種類のセンサデータを取得し 通信コスト ェア構成が多様化している これまでセンサとコントロー 削減のために できる限りデータ量を減らし 低消費電力 ラで構成される軽量モジュールは 低価格 低消費電力に 化のために 構成をシンプル化にしている 現在のブロッ 重きを置いていた モバイルデバイスの発展で安価になっ クチェーンは プロセッサ能力や潤沢なメモリリソースを 1 イークラウド コンピューティング 静岡大学 大学院 自然科学系教 育部 情報学専攻 e-cloud Computing&Co. / Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University 2018 Information Processing Society of Japan 2 静岡大学学術院情報学領域 情報学部 総合科学技術大学院 情報学 専攻 Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University 1

使って, ネットワーク全体へのデータ共有と信頼性確保の 為の分散化を行っている. そのため, これら二つは, 軽量 化と重厚処理の相反する考え方を持っている. しかしなが ら, 今後の IoT の需要が増えると共に, セキュリティの強 化や, システムの信頼性向上, また構成ハードウェアの継 続的維持の要求が高まり, 新しい解決手段が必要となって きた. そこで我々は, 中長期の運用を目指している小中規 模用途や, 継続的に IoT システムを構築し, 随時適応して いく用途, システム障害に対する堅牢性を追究する用途, 継続的なセキュリティ担保が必要な用途を対象とした, IoT センサモジュール製品を想定 企画し, そのプロトタ イプシステムを構築した. 2. 従来研究と課題 ここでは, 今回の対象とした IoT 技術とブロックチェー ン技術を紹介する. 2.1 IoT スマートフォンの誕生でセンサが低価格化し, クラウド コンピューティングの発展でインフラが低コストになり, さらに SNS の進化でデータが増大する好条件のなか,2012 年のドイツの Industrie 4.0 や, その他日本を含めた各国の 名乗りで,IoT はすでに実用化, 具体化段階に入ってきた [1].2017 年の国内 IoT 市場におけるユーザ支出額の実績 は 6 兆円越えとなり,2022 年には 12 兆円に達すると言わ れている [2]. 一般的になってきた IoT は, 人, モノを含め たあらゆるモノをネットワークにつなげ, 新しい価値を生 み出し始めている [3]. (1) IoT プラットフォーム 近年 IoT プラットフォームは, 国内外で数多く提唱され ている [1]. アプリケーション開発や, 通信のセキュリティ 化, データ連係に関わるプラットフォームが多く発表され, 実用化されている. 最近では,LTE, LPWA, Wi-Fi, BLE, ZigBee 等の無線通信手段別のアプローチも盛んである. また,2016 年秋に被害を出し,DDoS 攻撃の元となった MIRAI Bot Net が,IoT デバイスを使った被害拡大の火だ ねとなり, 最近では新たな亜種による被害も報告されてお り, 世間での IoT プラットフォームでの情報セキュリティ 対策も期待されている. (2) IoT システムの構成概要 IoT システムは,1 センサ / アクチュエータ,2 前処理, 3 通信,4 蓄積,5 分析.6 推論, 等の機能部分に分けら れる. 当初の IoT システムは, センサ, 通信に特化してい た. これらは, 低消費電力, 小型化, 低コスト化, 高信頼 性, のために, ワンチップ マイクロコントローラを使っ て構成され,OS なしもしくは RTOS(Real Time OS) で実装 される場合も多かった. 通信手段の多様化 大容量化 低 コスト化に加え, 低価格 低消費電力 高機能の SoC の発 展や情報セキュリティの切り口での高信頼性要求により, Linux を実装した高度な IoT システムも実用レベルになっ てきた. この Linux モジュールは,IoT システムに要求さ れる機能部分のほとんどをエンドデバイス側で実行する ことができ, ユーザの要望に併せて, さまざまなバリエー ションの構成を実現することが可能になってきた. また, 今までクラウドサーバ側実行していたさらにプロセッサ 負荷のかかる分析や認識, 推論 予測, 等のデータ分析や AI による高度な処理も,Linux モジュールで実行可能とな ってきており, エンドデバイス側への要求はさらに高まっ てきている. (3) IoT システムの要求用件 これまで述べたように, 現在実用化されている IoT シス テムは用途に合わせて設計, 開発を行っている場合が多く, 様々な種類がある. センサの種類や, その情報の用途によ り, 通信レイテンシーや伝送帯域で総称される通信速度が IoT サービス満足度に対して大きな要素となることが多い. また, 通信コストを下げるために, 独自回線でなく, イン ターネットを使って情報を伝送することも多く, 情報セキ ュリティに対する対策も必要となってきている. 情報セキュリティに関しては, 一般的に言われている三 大用件である, 機密性, 完全性, 可用性が重要であり,IoT に向けても同様の要件が求められている. 先に述べた IoT 向けのマルウェア対策のためにも, アクセス権の確保, 改 ざん防止, 非常時の対応が重要になってきている. しかし ながら, 数が多くなるシステムにおいては, 導入コストも 高額になり, モジュールのコストダウンの要求も強く, 通 信速度や情報セキュリティ強度とのトレード オフも随時 行われているのが現状である. 2.2 ブロックチェーン技術の発展 ブロックチェーンは, ネットワークにおいて参加者によ る分散型合意形成を可能とし, すべての取引履歴を追跡可 能にした分散台帳システムである. これまで, ブロックチェーンを利用した多くの種類の仮 想貨幣が流通しているが, ここでは最も有名なブロックチ ェーンである Bitcoin や, アプリケーション応用ができる ブロックチェーンシステムである Ethereum を紹介する. (1) Bitcoin 2008 年に Satoshi Nakamoto と名乗る人物により投稿さ れたブロックチェーン技術に基づいて,2009 年に運用が開 始された Bitcoin が仮想貨幣, ブロックチェーンとして有 名である [4].Bitcoin は,Bitcoin クライアントと呼ばれる ブロックチェーンノードと Bitcoin ネットワークから構成 されるシステムである.Bitcoin クライアントが発行する取 引情報がトランザクションとして,Bitcoin ネットワーク に送りこまれ,Bitcoin クライアントの一種であるマイナ ーがマイニング ( 採掘 ) することで, ブロックとして Bitcoin ネットワークから承認され, 取引が成立することで成り立 2

っている[5] で マイニング機能を持つ Node #6 が分散合意形成アルゴ (2) Ethereum リズムを使ってマイニングを行うことで ブロック化する Ethereum は 2013 年 11 月に Viralik Buterin 氏のホワイ そのブロックの情報は Node #5 経由でブロック情報を拡 トペーパーにより提案されたスマートコントラクトによ 散され ブロックチェーン全体で承認され 各ノードで有 るアプリケーション構築を可能としたブロックチェーン 効な分散台帳として扱われる情報となる である Bitcoin が 暗号通貨の所有権の移動に特化してい るのに対して Ethereum は暗号通貨の移動だけでなく 分 散アプリケーションを自由に構築できることを特徴とし ている[6][7]. 2.3 ブロックチェーンの技術 ブロックチェーンは 分散型ネットワーク上で やりと り情報であるトランザクションを分散して管理する 分散 台帳 を実現した 分散型データベースとも言える それ らのトランザクションをまとめたブロックと呼ばれるシ ーケンシャルなデータのリストを 複数のノードで管理 運営しする また 分散合意形成アルゴリズムを用いたマ イニング(採掘)処理により ブロックの正当性を担保する 現在の分散合意形成アルゴリズムは PoW(Proof-of-Work: 図 1 ブロックチェーンノード間での処理の流れ 仕事量の証明)が主流であり ネットワークの構成ノード の同意の下で Difficulty 値(難易度)が設定され マイニン (2) スマートコントラクト グ時間を調整する仕組みを持っている Bitcoin を例とする Bitcoin が仮想貨幣の取引に特化した仕組みであるのに と トランザクションのブロック化は約 10 分で完了する 対し 仮想貨幣の取引だけでなく ブロックチェーン上で 設定となっている 分散合意形成アルゴリズムは PoW の 共有化される一種のプログラムであるスマートコントラ 他に PoS(Proof-of-Stake: 保有による証明),や PoI(Proof-of- クトを扱えるブロックチェーンがある Ethereum はその一 Importance: 重要性の証明) と呼ばれるプロセッサ資源や つで 仮想貨幣の取引を主として ノードがアクセスでき 電力を費やさない方法も検討され 導入例も増えてきてお 仮想的なプログラムを実現することが可能である り 今後はさらに利用されると考えられている 2.4 IoT 向けブロックチェーン (1) ブロックチェーンの動作 ブロックチェーンの分散管理の利便性と その仮想貨幣 ブロックチェーンは ノード P2P ネットワーク トラ の特徴に着目し IoT への適応の期待度が上がってきてい ンザクション ブロック 分散台帳 マイニング と様々 る 電力系の分野において IoT のアップデートを継続的 な要素で構成されている におこなう事をブロックチェーンで効率的に行っている ブロックチェーンは物理的な通常のネットワーク上に 例もある[10] また IoT に対応するため ブロックチェー 構成された仮想的なネットワークである その接続単位を ンのクライアントプログラムにラッパーをかぶせ ブロッ ノードと呼び ノード同士は 一対一(P2P)で物理的に接続 クチェーンとは別のネットワークも併用することで ブロ されている それぞれのノードは それぞれ固有の非対称 ックチェーンの不得意なデータ転送をまかなう仕組みも 鍵を持っている ノードが発行する取引情報(トランザク 開発され 実際に電力系のシステムで使われている[8] さ ション)は ノード自身の秘密鍵で署名され 別ノードの承 らに IoT をスマートホームで利用するために ブロックチ 認後 P2P を介してブロックチェーンネットワークに拡散 ェーンを使った研究もされており 機密性 完全性 可用 される 性を実現し セキュリティとプライバシーのメリットが 拡散されたトランザクションは あらかじめ設定された 時間でまとめられて マイニングとして PoW で代表され ブロックチェーンのオーバーヘッドより大きいことを主 張している[9] る分散合意形成アルゴリズムを使ってブロック化される そのブロック情報も複数承認過程を経て 分散台帳の情報 として扱われる 3. ブロックチェーン IoT システムの実現 図 1 は ブロックチェーンノード間での処理の流れの例 IoT システムにおいては 対象ネットワークに対して を示したものである まず Node #0 が取引のトランザクシ IoT デバイスの登録やデータの受渡は重要な機能である ョンを発行したとすると その情報は Node #1 に渡り 承 本研究では ブロックチェーンのセキュリティ性に着目し 認された後 Node #2, #3, #5 #4,#6,#7 と拡散される そこ すでに使われている仮想貨幣 Ethereum のブロックチェー 2018 Information Processing Society of Japan 3

ンクライアントプログラムである geth を利用し IoT モ 具体的には Sensor Node において ①IoT Application が ジュールインターフェースの基本的な機能を持つ API を Sensor Library 経由で 接続されているセンサから情報を読 開発し ブロックチェーン IoT モジュールに実装した 今 み出す ②IoT Application が BlockChain Client (geth)とネ 回の研究では 既存のインターネットを利用した組込みシ ットワークを経由してブロックチェーン上のスマートコ ステム元に構築するため 小 中規模の IoT センサネット ントラクトにデータを渡す ③データを受け取ったスマー ワークシステムを想定し 長期運用 拡張性や高信頼性を トコントラクトは 受け取った旨のイベントを GateWay 目指した また パブリックな仮想貨幣の価値の問題を回 Node のネットワークと BlockChain Client(geth)を介して 避するために プライベートなブロックチェーン上に構築 GateWay Node 側の IoT Application に送り出す ④GateWay した Node 側の IoT Application は スマートコントラクトから 3.1 基本要件 格納されたセンサデータを読み取り ⑤ 小 中規模で長期間稼動可能な実用的な IoT システムに IoT Library を使 ってクラウドサーバにデータを送り出すこととなる 必要な要件としては 複合的な連携や柔軟性 接続性 拡 張性 セキュリティ性など項目が挙げられる 今回の基本 要件として ①汎用ネットワークの利用 ②汎用ハードウ ェア OS の利用 ③接続可能センサモジュールの事前登 録 ④故障 異常時の敏速対応 ⑤ネットワークへの安全 なアクセス と定義した 特に③ ⑤の要件を考慮し ブ ロックチェーンの仮想貨幣を利用した管理用スマートコ ントラクトとしてプロトタイプシステムを構築した 3.2 ハードウェア ソフトウェア構成 Ethereum の geth プログラム は Go 言語で実装されて おり x86 または ARM プロセッサの Linux/Unix 環境で稼 動する システムは TCP/IP ベースのネットワークで接続 され その物理的な通信方法は 有線 無線を問わない それぞれの機器(以下 Node )は固有の IP アドレスを割り 図 2 スマートコントラクトとノード間の処理の流れ 当てる必要がある Node は geth プログラムとセンサとの インターフェースや外部のクラウドサーバとの通信機能 この接続で特徴的なことは Sensor Node と GateWay も持たせたアプリケーションを稼動できるようにした ま Node は 接続するブロックチェーンの固有 ID と 接続す た センサの扱いや外部ネットワークへの通信権限は ブ るスマートコントラクトの address だけの情報で 情報の ロックチェーンを利用した Node 間接続とは別ポリシーと やり取りができることである これは 双方の Node がお し IoT 機器としての接続性の柔軟性を確保した 互いの IP アドレスがわかっていなくても通信できるとい 3.3 センサデータの流れ うことである また スマートコントラクトの実行は マ 固有の IP アドレスを持ったそれぞれの Node は Node イニングされるハードウェアで仮想的に実行されること 上で実行される geth プログラムで相互に接続することで になり この例では Mining Node が実行マシンとなる ブロックチェーンを形成する Node はそれぞれがブロッ なおこの Node は複数個あっても構わない クチェーンにアクセスするためのアカウントである 3.4 IoT スマートコントラクト address を持っており Node 間の通信はトランザクション これまでの IoT デバイスの認証 データ受渡しは IoT として address 間で行われる 今回のシステムは そのブ デバイス自身が認証機能を持つことで通信を行う方法や ロックチェーン内に存在するミドルウェア的位置付けの 特定された管理サーバと通信する方法などで実現されて スマートコントラクトに IoT 管理 API 機能を持たせ ブロ きた 今回のシステムは IoT のモジュール認証機能とデ ックチェーンネットワーク全体で IoT システムとして稼動 ータ受渡機能を ブロックチェーンのスマートコントラク するようにした トで実現しており これまでの IoT デバイスのインターフ 図 2 は 今回開発したブロックチェーン IoT モジュール ェースとは異なった実装となっている を使ったシステムの一例の処理の流れを示したものであ 一般的な IoT 機器は センサ機器にユニーク ID や非対 る センサを持つノード(Sensor Node)からブロックチェー 称鍵を持たせ その ID や公開鍵を通信ノードやサーバ側 ンネットワーク経由で ゲートウェイ機能を持つノード で認証することで 機器接続の認証承認を行っていた ま (GateWay Node)を介して クラウドサーバにデータを送り た データ通信に関しては VPN や SSL を使って通信線 出している 路を暗号化する方法や 送り側で暗号化 署名化する方法 2018 Information Processing Society of Japan 4

などが一般的である. ブロックチェーンクライアントソフト経由でブロック チェーンに接続することで, アカウント address が相互承 認されたユニーク ID となり, そのアカウントでやり取り されたデータはトランザクションとして扱われ, アカウン トアドレスで署名されたことと同等の扱いとなるため, ブ ロックチェーンでのインターフェースは, データ暗号化以 外の要素を含むこととなる. また, 今回の IoT スマートコントラクトは,IoT の為の 仮想ネットワークと接続するための分散管理 API となっ ており, あらかじめトランザクションとしてブロックチェ ーンに登録, 認証してある. さらに, 今回開発したブロッ クチェーン IoT モジュールは, 接続するブロックチェーン 情報はあらかじめ読み込まれており, 物理的に TCP/IP ネ ットワークに接続し, 設定されたブロックチェーンに参加 するだけで, 稼動しているブロックチェーンと同期化し, その登録されたスマートコントラクトにアクセスするこ とができるようになる. 本 IoT スマートコントラクトは, 大きく分けて 2 つの機 能を持っている. 一つ目はセンサ自体のマネージメント機 能であり, もう一つはセンサデータの受渡機能である.IoT スマートコントラクトは, あらかじめ設定された Owner Node アカウント address でブロックチェーンにトランザク ションとして登録することで, スマートコントラクトとし て利用可能になる. その Owner Node のアカウント address は登録された IoT スマートコントラクトの特権ユーザとな り, 操作権限を持つことになる. また, センサ登録は, そ の Owner Node アカウント address で行われる. その他, Owner 属性でしか制御できない機能がいくらかある. 本 IoT スマートコントラクトにおいて, 既存の制御プロ グラムと比べて大きく違っている点としては, 機能の呼出 実行において, 明示的な仮想貨幣によるコストを意識して いることにある. 各ノードからスマートコントラクトへの 参照, 設定, 機能の実行は, 本ブロックチェーンで規定し ている仮想貨幣が使われる. これは, 仮想貨幣の残高が足 らないと IoT スマートコントラクトへのアクセス自体がで きないことであり, 第三者が作ったマルウェアプログラム は, 仮想貨幣を持っていないため,IoT スマートコントラ クトを稼動させることができなく, ハッキングの大きな抑 止力になる. (1) センサデバイスの登録 IoT 管理機能の 1 つとして, 接続可能なセンサデバイス の登録を行う. この設定は, スマートコントラクト作成者 である Owner が行う事としてある.Owner は, 接続可能な Sensor Node のアカウントアドレスを, 登録関数の引数と して設定し, トランザクションを発生させることで, スマ ートコントラクトに登録する. (2) センサデバイスのアクティベーション スマートコントラクトに登録している Sensor Node は, 自身のアカウント address を使って, スマートコントラク トにアクセスし, 自身のセンサデータチャンネルをアクテ ィベートする. アクティベーションは, 仮想貨幣の費用が かるようにプログラムされている. また, 設定の際に, バ ッファリングできるデータ個数や, センサデータやり取り の仮想貨幣を使った費用を設定できるようにしてある. (3) センサデータの受渡し Sensor Node がセンサデバイスから受け取ったデータを IoT スマートコントラクトに登録する場合も仮想貨幣の費 用がかかる様にしている. この仕様もまた,IoT システム への不要データ登録を抑止させる効果が期待できる. 今回 は, 小容量のデータ受渡を想定しているため, 直接データ をブロックチェーンにトランザクションとして扱うこと にしてある. センサが大容量のデータを出力する場合は, ブロックチェーンでのトランザクションの負荷が大きい ため, 別途データ受渡の機構を持つべきである. 今回の実装においては,Sensor Node からのセンサデー タが予め設定された個数スマートコントラクトに蓄えら れると, スマートコントラクトはイベントと呼ばれる事象 を発行する. 予め GateWay Node は, そのイベントを geth プログラム経由で受信できるようにしておき, イベントを 受け取った場合, スマートコントラクトに対して, データ の引取を行う. このアクセスは, あらかじめ Sensor Node がアクティベーション時に設定した金額の仮想貨幣の支 払いを要求しており, この設定も, 権限, 許可なしに無節 操なデータアクセスを阻止する効果が期待できる. 図 3 IoT スマートコントラクトの構成 4. プロトタイプ実装と評価 3 で検討した構成モデルの利用条件を明確にするために, 実際に IoT システムと既存ブロックチェーンを組み合わせ, システムとしての傾向を評価した. 特に IoT システムとし てみた場合の, センサデータ転送の際のレイテンシー時間 5

と,IoT モジュール側の主メモリの利用状況と, ディスク の利用状況は, システムの長期間の安定利用に係わるため, 着目した. 4.1 評価に使った環境 図 4 は今回評価に利用した環境の構成図である. 今回は Ethereum の Go 言語で実装された geth プログラムを, Desktop PC, Note PC, 対象プロダクトに実装し,IoT システ ム用に Ethereum Private Net を構築した. さらにブロックチ ェーンネットに IoT API である IoT スマートコントラクト を実装し, 予めトランザクションとしてブロックチェーン に生成しておいた. 評価に使う Node としては, コントラクト Owner である Monitoring Node, ブロックチェーンにセンサデータをアッ プロードする側の Sensor Node, センサデータをブロック チェーンから取り込む GateWay Node を用意し, それぞれ ブロックチェーンのアカウント address を割り当てた. ま た, それぞれの address には予め Private-Net の仮想貨幣を 適当な金額を定め振り込んでおいた. える場合も多い. (2) プロセッサ物理メモリ, ストレージ使用量の変化 本評価は,IoT デバイス上においてブロックチェーンク ライアントプログラム geth がプロセッサ物理メモリとス トレージをどれくらい使用するのかを測定するもので, 特 に IoT デバイスとしてデータを受渡している状況に着目し た. 図 6 に IoT ブロックチェーンを使った IoT データ受け渡 し時の, 物理メモリ量とストレージの差分を示す.X 軸は 処理の時間の流れで, 左側の Y 軸はプロセッサ物理メモリ 量の差分で, 赤色の点線で示されるグラフとなる. 右側 Y 軸はストレージ量の差分であり, 濃紺の実践で示されるグ ラフとなる. 図 5 データ転送のレイテンシー時間の分布 図 4 評価環境の機器構成 4.2 評価方法評価は, 各 Node で geth プログラムを稼動させブロックチェーンとリンクすることで行い, それぞれの Node での操作は評価用スクリプトを作成した. また, プロセッサ物理メモリ使用量, 使用ディスク容量は, 測定用のスクリプトを実行と同時に稼動させることで, リアルタイムのデータを取得するようにした. ブロックチェーン内トランザクションのブロック化のためのマイニング処理用の Mining Node は, ネットワークに接続された PC で実現した. 4.3 評価内容及び結果 (1) データ転送レイテンシー時間本評価は,Sensor Node のセンサデータを IoT スマートコントラクトに送り出し,IoT スマートコントラクトが Event を生成し,GateWay Node がそれを受け取るまでの時間を測定した. 評価は 100 回のアクセスを行った. 図 5 にデータ転送のレイテンシー時間のヒストグラムと分布曲線を示す. レイテンシー値は 2.3 秒から 73.4 秒まで広範囲に分布しており, 平均値は 27.0 秒であるが, その値より超 評価のシナリオとしては,1geth の起動,2マイニング開始,3IoT スマートコントラクトとやり取りする Sensor Node のアカウント address のアンロック ( パスフレーズでアカウントが取引可能状態となる ),4 センサデータを IoT スマートコントラクトに送る Event を受け取る ( 複数回の繰り返し ),5マイニングの停止, となっている. 図 6 プロセッサ物理メモリ, ストレージ使用量の変化 1の geth プログラムの稼働後,2 のマイニングが開始されると, 約 20M Byte 程プロセッサ物理メモリの使用量が増加した. また, 同時に, 約 15 秒間隔でストレージが約 6

4K Byte 程度増加しはじめた. 今回の測定では,geth プロ グラムによる何らかの最適化動作が実行された様で, スト レージの量がマイニング直後に一旦大幅に減少した. 34 の IoT スマートコントラクトとのやり取りが開始し 始めると, プロセッサ物理メモリとして約 300M Byte 増加 し, やり取りが終了した後, 約 100 秒後に約 260M Byte の 物理メモリの解放が行われた. その後 5 のマイニング停止 で, ストレージ量の増加も無くなった. 4.4 結論 今回の評価において, 開発した IoT スマートコントラク トは IoT デバイス API として正常に機能しており, その実 行性能もリアルタイム性能は及ばないが, 低レイテンシー の用途で, ブロックチェーン操作を工夫することで,IoT シ ステムとして運用できることを確認できた. 評価の際,Sensor Node の address を変えてアクセスを試 みたが,IoT スマートコントラクトは登録アドレスを正し く認識しており, 該当する address でないとアクセスを許 可しなかった. また,Sensor Node の address の仮想貨幣残 高を少なくした場合も, スマートコントラクトに対するト ランザクションが成立しなく, 第三者の address からのア クセスがあっても, 仮想貨幣が足らない場合は, アクセス できないことが確認され, 情報セキュリティの観点でも有 効に動作していることがわかった. 可用性に関しては,IoT デバイスをブロックチェーンの ノードとして扱っているため, 対象となる IoT デバイスが 故障した場合も, 新たなデバイスにブロックチェーンの設 定と, アカウント address の生成さえ行えば, すぐにブロ ックチェーンへの接続が可能となり, 代替えセンサとして 利用できる. (1) データ転送レイテンシー時間に関する考察 Ethereum のマイニング周期は 15 秒に設定されているた め, データ転送のレイテンシー時間はその周期に同期する と予想していたが, 実際にはさらに時間がかかってしまう 場合が多かった. 評価では 1 分以上時間がかかっている場 合もあったため, 秒単位のデータのやり取りには向かない. また平均レイテンシー時間は 30 秒弱であるが, 長めの時 間にばらつく場合もあり, ブロックチェーンを利用した IoT システムの場合は, 数分のレイテンシーでも正常に稼 動する設計を必要とする. (2) ブロックチェーンクライアントの実行負荷の考察 Ethereum の geth プログラムは, その動作により動的な メモリ管理が行われており, 約 300M Byte 単位でのメモリ の確保, 開放が行われている. 今回の結果では現れていな いが, 評価の過程で最大 700M Byte のメモリ確保の時もあ った. 特に, アカウントの生成や, アカウントのアンロッ ク, トランザクションの発行時等の, 暗号アルゴリズムが 利用されると思われる状況でのメモリ使用量増大は顕著 である. 従って, 組込み機器において主記憶メモリ容量と, 並列して実行されるプログラムとのメモリ容量共存には 注意が必要である. また, ブロックチェーン特有のマイニングは, トランザ クションの実行に重要な役割があるが, その都度ストレー ジが約 4K Byte 増加している. このため, 長期間の機器運 用には, ストレージ容量の余裕度を持たせる必要がある. また, 組込み機器で半導体メモリをストレージとして利用 している場合は, 書き込み回数制限の注意が必要である. 対処方法の 1 つとして, マイニングが行われないとストレ ージ消費は行われないため,IoT 利用状況に応じて, マイ ニングを制御することや, 一定周期で, ブロックチェーン の再構築をすることで, 現実的なシステムとなると考えら れる. 5. おわりに 今回 IoT スマートコントラクトを構築するために既存の ブロックチェーンである Ethereum のクライアントプログ ラムである geth を利用した. 本来 geth プログラムは組込 み機器での実行は想定されていないと思われるが, その制 約事項がわかった上で, 適切な運用を行うことで, 現行の 組込み機器を使った IoT システムでも円滑に稼動し, 特別 なセキュリティ対策コードを書かなくても, 情報セキュリ ティ的に安全なシステムを構築することができる. また, 仮想貨幣のやり取りを伴うプログラムの実行権限は, これ までのプログラムと比べて非常にユニークで,IoT システ ムのセキュリティ対策の 1 つとしては有効である. ブロックチェーンとのインターフェースは, 予めブロッ クチェーン環境の構築や, ぞれぞれの Node へのアカウン ト address を作っておかないと行けないこと, スマートコ ントラクトを稼動させるために, 予めアカウントに仮想貨 幣を渡しておく必要がある点, 等, 最初の負担は大きい. しかしながら, それらの対応は本質的な情報セキュリティ 対策であり, ゼロから実装するには多くの作業工程が必要 となってしまう.IoT における情報セキュリティ脆弱性対 策の為にも,Security by Design の一手法として, ブロック チェーンを利用したシステムは有効であると考える. 参考文献 [1] 八子知礼他, "IoT の基本 仕組み 重要事項が全部わかる教科書 ",SB Creative, 2017. [2] " 国内 IoT 市場産業分野別 / ユースケース別予測 2018 年 ~2022 年 ", IDC Japan Press Release, https://www.idcjapan.co.jp/press/current/20180314apr.html, 2018 年 3 月 14 日. [3] Dave Evans, "The Internet of Everything How More Relevant and Valuable Connections Will Change the World", Cisco IBSG, 2012. [4] Satoshi Nakamoto, "Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System", https://bitcoin.org/bitcoin.pdf, 2008. [5] アンドレアス M アントロノプス著, 今井崇也 鳩貝淳 7

一郎訳, " ビットコインとブロックチェーン暗号通貨を支える技術 ",NTT 出版株式会社, 2016. [6] 田篭照博, " 堅牢なスマートコントラクト開発のためのブロックチェーン [ 技術 ] 入門 ", 株式会社技術評論社, 2017. [7] コンセンサス ベイス株式会社共著, " イーサリアムへの入り口 ", 日本電気株式会社, 2017. [8] M. A. Walker, A. Dubey, A. Laszka, and D. C. Schmidt, PlaTIBART: a platform for transactive IoT blockchain applications with repeatable testing, in 4th Workshop on Middleware and Applications for the IoT (M4IoT), December 2017. [9] Ali Dorri, Salil S Kanhere, Raja Jurdak, and Praveen Gauravaram. "Blockchain for IoT security and privacy: The case study of a smart home", In Pervasive Computing and Communications Workshops (PerCom Workshops), 2017 IEEE International Conference on. IEEE, 618 623. [10] K. Christidis and M. Devetsikiotis. Blockchains and smart contracts for the internet of things. IEEE Access, 4:2292--2303, 2016. 8