保険学雑誌 第 630 号 について簡単に説明し 制度の堅固性を強調する その後でイベントスタデ ィの手法を用いながら東日本大震災と損保株の関係について確認していくこ とにしよう 地震保険制度の仕組み ⑴ 再保険スキーム 地震保険では政府が再保険を引き受けることで 巨大損害を吸収する官民 一体のシステムが構築されている 民間と政府が保険責任を分担し 地震リ スクを吸収する体制が整備されている 日本地震再保険会社 険の現状 2010年版 日本地震再保 から東日本大震災発生当時の地震保険の仕組みについ て説明していくことにしよう は地震保険再保険の流れを示したものである まず 契約者は損害保 険会社と地震保険契約を締結する 次に損害保険会社は日本地震再保険株式 会社 地再社 に全額再保険する A特約 さらに地再社は元受の損害保 険会社に対してシェア分配による再々保険を結び B契約 同時に政府 C契約 とも再々保険契約を結ぶ 残りは地再社固有の保有分となる 資料 日本地震再保険会社 地震保険再保険の流れ 日本地震再保険の現状 2010年版 より 65 05-小藤先生 Page 5 15/10/05 14:18 v2.10
東日本大震災と堅固な地震保険制度 こうした再保険スキームに基づく負担額は で示したように決定づけら れている これによると 支払保険金が1,150億円までは地再社が負担し それを超えると 兆1,226億円までは損害保険会社と政府がそれぞれ50 ずつ負担する仕組みである 次に 兆9,250億円までは政府と地再社がそれ ぞれ50 ずつ負担する さらに支払保険金が増えれば 政府が95 を支払うことになる 民間会社 の負担は残りの であり 支払額が 兆7,120億円までは損害保険会社が 負担し それ以降は地再社が負担する 保険金の支払限度額は 兆5,000億 円であり この金額を超えた場合 法律によって各契約ごとの保険金を削減 することができる 再保険スキームに基づく負担方法 資料 日本地震再保険会社 ⑵ 日本地震再保険の現状 2010年版 より 地震保険の責任限度額と積立残高 この再保険スキームに従うと それぞれの責任限度額は次のようになる 地震保険の責任限度額 日本地震再保険株式会社 6,056 損害保険会社 5,931.5億円 政 府 合計 保険金額支払限度額 億円 兆3,012.5億円 兆5,000 億円 66 05-小藤先生 Page 6 15/10/05 14:18 v2.10
R it =α i +β i R mt +e it it = i t R mt = t α i β i = i e it = i t i α î β î ER ER it =R it α î +β î R mt AR CAR AR t = ER it N CAR t = AR t ER it = i t AR t = t
CAR t = t N==
保険学雑誌 第 630 号 メガ損保の平均超過収益率(AR)と累積平均超過収益率(CAR) はショックを吸収できる体制にあった それにもかかわらず 累積平均超過収益率はマイナスの値に収束している なぜ損保株はマイナスに向かっていったのであろうか ⑶ 生保株を対象にした分析 損保株の中立命題が成立しなかった理由を探るため 今度は生保株に注目 していきたい 生保も東日本大震災の影響を受け 多額の保険金支払に応じ ている 生命保険協会の発表によると 東日本大震災による保険金支払件数 は21,027件で 支払金額 死亡保険金 は1,599億3,445億円であった 2013年 月末時点 支払金額のうち災害死亡保険金は504億6,509万円であった 災害死亡保険 金とは不慮の事故等で死亡した場合に普通死亡保険金に上乗せして支払われ るものである 通常は地震等による災害関係保険金 給付金について免責条 項があるため 支払う必要がない だが 東日本大震災ではこの免責条項を適用せず 全額を支払っている 損保は火災保険だけの加入者に対して地震等による支払は免責の対象とした が 生保に限って寛大な措置が取られた そのため 支払金額は契約上の金 71 05-小藤先生 Page 11 15/10/05 14:18 v2.10
東日本大震災と堅固な地震保険制度 額よりもかなり増えている そこで大地震による予期しない支払増加が生保経営に与えた影響を見るた め 損保の場合とまったく同様の条件でイベントスタディの手法をそのまま 適用したい そこで 代表的な株式上場生保として第一生命と T&D ホール ディングスを取り上げ 大震災発生からの動きを捉えていくことにしよう はこれら 生保を対象にした平均超過収益率と累積平均超過収益率の 動きを描いたものである 生保の平均超過収益率もイベント日に大きな変 動を見せているが 次第に変動は和らいでいる しかし 累積平均超過収益 率はほぼ確実にマイナスの幅を広げている 最終的には 12.18 まで下が っている 生保の平均超過収益率(AR)と累積平均超過収益率(CAR) メガ損保の累積平均超過収益率が 6.59 であったので 生保の場合は 大震災ショックの影響をかなり受けている 単純に解釈すれば生保が免責条 項を適用しなかったことが影響したと言えよう だが こうした解釈はその まま素直に受け入れられるであろうか 先ほども確認したように大震災による損保の支払額が 兆2,241億円であ 72 05-小藤先生 Page 12 15/10/05 14:18 v2.10
東日本大震災と堅固な地震保険制度 しているので 事件が起きてもすぐにドルを円に換える必要はなく 円高は 外国為替市場の過剰な反応であったことを強調している 実際 円相場は大 きな変動を繰り返しながらも その後 ほぼ震災前に近い水準に向かってい った しかし 日経平均株価は震災発生直後の水準よりもかなり下回ったところ に留まった 突発的な円高が株価を引き下げたように思われるかもしれない が 円高は一時的現象で元の水準にほぼ戻っているので 株安はやはり大震 災による直接的なダメージが意識された動きであると判断できる は2011年 月 日から 月31日までの日経平均株価と外国為替相場の 動きを追ったものである このを眺めることからも円相場が大震災の発生 で一時的に大きな変動を見せながらも落ち着きを取り戻したのに対して 日 経平均株価は水準を大幅に下げたことが確認できる ⑵ 日経平均株価と外国為替相場の動き(2011年 大震災による 月 月) メガ銀行株の変化 こうした日経平均株価の急激かつ大幅な下落は株式を大量に保有する大手 銀行の株価を直撃したことは誰もが認める事実であろう 保有する株式の時 価が下がれば実質的自己資本も減少し そのことは銀行株の下落として反映 74 05-小藤先生 Page 14 15/10/05 14:18 v2.10
保険学雑誌 第 630 号 される そこで メガ銀行の持株会社である三菱 UFJ フィナンシャル グルー プ 三井住友フィナンシャルグループ みずほフィナンシャルグループの株 価に注目したい 先ほどと同様にこれらの株価から株式収益率を求め そこ からイベントスタディの分析手法をそのまま適用し 平均超過収益率と累積 平均超過収益率を計測していく は メガ銀行の平均超過収益率と累積平均超過収益率を取り出し 大 地震発生以降の動きを捉えたものである 平均超過収益率は変動を繰り返し ながらも マイナスの数値のほうが多いことが確認できる それゆえ 累積 平均超過収益率はほぼ一方的に下がり続け 最終的には 14.05となってい る メガ銀行の平均超過収益率(AR)と累積平均超過収益率(CAR) このことから大地震発生による保有株の大幅な下落が メガ銀行の株価を 押し下げたと推測できる もちろん株式だけが大幅に下落したわけではなく それに関連する有価証券も時価総額を減らしたであろう したがって 株式 を中心とする有価証券を大量に抱えたメガ銀行は資本市場を通じて大地震シ ョックに揺れていたと言える 75 05-小藤先生 Page 15 15/10/05 14:18 v2.10
東日本大震災と堅固な地震保険制度 ⑶ 保険株をめぐる矛盾の解消 メガ損保を計測した時に累積平均超過収益率は最終的にマイナスであっ た このことから損保の中立命題が否定され 盤石な地震保険制度に対する 信頼が崩れたかのように感じたかもしれない また 生保の場合も累積平均超過収益率が最終的にマイナスで しかも メガ損保よりも大幅に下がっていた 単純に解釈すれば 生保が損保と違 って地震に対する免責条項を適用しなかったことがその理由としてあげられ るかもしれない だが メガ銀行の分析からも容易に理解できるように損保であれ生保で あれ 大地震による保険金支払がそれぞれの経営を直撃したわけではない 株式を中心とする有価証券の価値が大地震発生により急激に減少したからに 過ぎない は メガ損保 生保 メガ銀行を対象にした金融株の累積平均超 過収益率の動きを業態別に比較したものである これを見るとわかるように 保険金支払と無縁な銀行が損保よりも また生保よりも落ち込みが激しい これは大量の有価証券を抱えているからである 金融株の業態別累積平均超過収益率(CAR)の動き 76 05-小藤先生 Page 16 15/10/05 14:18 v2.10