はじめに 4D 肺モデラー の姉妹版 4D 肺病理モデラー (PathologicLung4Cer; PL4Cer) を開発しました 使用方法の概要は 4D 肺モデラー と同じですが 呼吸を重ねるうちに 肺細葉の形態機能が変化していく様子が幾何学的にモデル化されています 本バージョンでは 肺気腫 閉塞性細気管支炎 間質性肺炎が対象です 本ソフトを実行するPCは Windows(Xp, Visat,7, 32/64) メモリー 500 MB 以上を想定しています モデルの観察は フリーソフトの ParaView をお使いいただくよう ParaView 用のファイルを出力する仕様になっています ParaView は米国製の科学技術用の可視化ソフトウエアで インターネットから簡単にダウンロードできます ParaView の使用方法は本マニュアルに記載してあります 病理形態の観察方法として最もなじみ深いのは 肺を全肺気量位 (TLC) で固定して作成された組織標本です 本来は4 次元構造物である肺組織を ある瞬間のある 2 次元断面に限定したものが 組織標本です 肺の組織像を肺機能と関連して理解するためには どのような 4 次元構造からどのような断面像が生じうるかを幾何学的に推論することが重要です 本モデラーが示す形態変化のプロセスは 教科書の記載とは大いに異なるところもありますが 4 次元から 2 次元が生成されるという立場に立てば 専門の方々にもご納得いただけるものと考えています 本モデラーの形態変化は 厳密な力学計算によるシミュレーションではなく 単純化した力学法則を導入して計算したものです また 現時点では 血管系がありません 更なる改良 開発を目指しております 皆様の忌憚のないご批判 ご助言をお待ちしております 2012 年 1 月 27 日 北岡裕子 1
目次 0. はじめに 1 1. 簡単なモデルをつくりましょう 3 2. P a r a V i e w で 4 D モデルを観察 7 ( 1 ) ダウンロードから起動まで 7 ( 2 ) ファイルの読み込み 7 (3) モデルの観察 8 ( 4 ) 画像データの作成 保存 1 2 3. モデル生成パラメータの詳細 1 3 4. 病理シミュレーション 16 2
1 章 : 簡単な 4D 細葉モデルをつくりましょう 最もシンプルな細葉は 1 本の細気管支とそれに連なる 1 本の肺胞管です モデラーの 使い方の説明を兼ねて 最初に 最もシンプルな細葉モデルを作ってみましょう 1. モデラーのアイコンをダブルクリックすると 白い画面が現われます 2. 上端の左から 2 番目の Model generation をクリックすると Model Type という タブが見えます Model Type を開くと パラメータ入力画面が開きます 3
このまま 一番下の OK をクリックしてください 直ちに パネル上に 入力した モデルの条件が表示されます 3. 次に Model Generation のとなりの File Otput をクリックし File Type と いうタブを開くと ファイルの種類に関するパラメータ画面が開きます 4. 一番上の Mesh quality を 1 に 3 番目の Time steps を 0 にして OK をクリ ックすると ファイル保存のダイアログが開きます 4
test という名前をいれて ファイル保存をクリックします すると 数秒後に 作成され たファイル名とモデルに含まれる肺胞数などが表示されます 画面に表示されたファイル名は test の前に ファイルの保存されているフォルダの名 前が記されています また test の後に _m0p0 vtk という文字が追加されています m0 はパラメータの Model Type が 0 (= 単一亜細葉 ) であること p0 は Pathologic Type 5
が 0(= 正常状態 ) であることを示しています どのようなファイルが作成されたのか 実際にファイルが保存された場所を見ると test_m0p0_00.vtk test_m0p0_01.vtk, test_m0p0_02.vtk,,,,,,, test_m0p0_71.vtk というファイルが 72 個できています 2 桁の数字は時間フレームの番号です つまり 6 呼吸サイクルの時間が各々 12 の時系列に分割され 時刻ごとの 3 次元形状がファイルに書き込まれた というわけです 作成されたファイルを観察するには ParaView というフリーソフトを使用しますが ( 第 2 章で使い方を説明します ) ParaView は このような時系列ファイルを1セットのファイルとして認識します 4D 肺モデラーの画面に表示されたファイル名の拡張子に 2 個ピリオドがあるのは 時系列のあるファイルのセットであることを示しています なお vtk とは 画像処理の分野で汎用されているオープンソース VTK(Visualization ToolKit C++) の標準フォーマットです [ 注意 ] ParaView は米国製のソフトウエアなので ファイル名に日本語が含まれていると正しく認識されません 4D 肺モデラーの画面に表示されたファイル名に日本語が含まれていないことを確認してください デスクトップや My Documents のユーザ名が日本語だと ファイル名にその日本語が使われてしまいますので その場合は 英語名の新規フォルダをローカルディスクに作成して そこに保存してください 5. モデラーを終了するときは 画面左上隅の ファイル をクリックして終了します 変 更を保存しますか? と尋ねますが ここでは キャンセル で終了します ここまでが基本の手順です 3 章で モデル生成 のパラメータについて 説明します 6
第 2 章 :ParaView で 4D モデルを観察しよう ParaView は米国が官民共同で開発したフリーの可視化ソフトです 簡単な表計算データから複雑な大規模 4 次元シミュレーションまで扱える 優れたソフトです インターネットで簡単にダウンロードできますし 必要とする機能だけマスターすれば すぐに使えるようになります 本章では 前章で作成した気道モデルをサンプルにして 基本的な使用方法を述べます 日本語の参考書として たとえば 林真著 はじめての ParaView ( 工学社, 2009) が市販されています 1. ダウンロードから起動まで (1) Web ブラウザで ParaView の公式サイト (http://www.paraview.org) を開きます (2) 画面右にある Download をクリックします リストから ParaView-3.8.0-win32-x86.exe をクリックします Windows64 ビ ット版をお使いの方は ParaView-3.8.0-win64-x86.exe をクリックします (3) インストーラをデスクトップに保存し アイコンをクリックしてインストーラを 起動します 指示に従ってインストールをしてください (4) インストールが終了すると スタートメニュー ( 画面左下隅 ) の すべてのプログラム の中に ParaView-3.8.0 ができていますので これを選ぶと起動できます もしも スタートメニューに見つからなかった場合は C Program Files ParaView3.8.0 bin の中に実行ファイルのアイコンがありますので これをダブルクリックしてください メイン画面が開きます 2. ファイルの読み込み (1) メイン画面の左上隅にある File Open すると ファイルを選択する窓が開きます 前章で作成したファイル test_m0p0_..vtk という名前があります それをダブルクリックすると メイン画面左側上半分のエリア Pipeline Browser に test_m0p0_0* という文字が現われます (2) メイン画面左下半分のエリア Object Inspector に Apply のボタンが水色に表示 されています ここをクリックすると 細気管支に連なる肺胞管モデルが現われま す ( 図 2-1) 7
図 2-1.Testm0p0_ の表示 3. モデルの観察 (1) 回転 拡大縮小 並行移動 : マウスの左ボタンを押して動かすと回転 右ボタンを押して動かすと 収縮拡大 シフトキーを押しながら右ボタンを押して動かすと 並行移動します いろいろな方向からモデルを観察することができます メイン画面上部にアイコンがたくさん並んでいます 3 段目中央にいろいろなアイコンが並んでいます よく使うものの説明をします 左端の四角のアイコンは モデルを画面中央にリセットします 6 個並んだ矢印は X 軸 Y 軸 Z 軸周りに 90 度回転します 右から 4 番目のアイコンは 座標軸 ( 上図左下 ) を表示 / 消去します 右から 3 番目のアイコンは重心 ( 中央の十字 ) を表示 / 消去します 右端のアイコンは 回転中心を指定します 図 2-1の画面には 座標軸と重心位置 ( モデルの陰に隠れています ) がオンになっています ちょっと目障りなので これをオフにしておきます (2) 背景色の選択 : 半透明表示や論文への画像の貼り付けには 背景色を白色にしたほうが好都合です メイン画面の左上の Edit Settings Colors Background Color を開き パレットから白色を選択し OK Apply を押します 8
図 2-2. 背景色の変更 (3) 半透明表示 : Object Inspector のエリアの Display( 図 2-3. 赤丸 ) を開いて, 右端のスクロールバーを下に動かすと Opacity という項目があります ( 緑丸 ) こ れを小さな値にすると半透明になり 内部構造が見えてきます 図 2-3. 半透明表示 青色は細気管支 赤色は肺胞管を表しています 色を変更するときは メイン画面上部の3 段目 左から 2 番目のアイコンをクリックします Choose Preset をクリックすると お好みの色相を選べます カラーレジェンドを表示するには 左端のアイコンをクリックします 9
(4) アニメーション : メイン画面上部の 2 段目中央の矢頭のマークがアニメーションに 関するアイコンです 動画ソフトと同様に操作してください 肺胞管が吸気時に膨 張し 呼気時に収縮する様子が観察できます (5) 断面表示 : メイン画面上部 4 段目 左から3 番目のアイコン ( 図 2-4 赤丸 ) をクリックすると メイン画面に断面が赤く表示された枠が出現します 同時に Pipeline Browser に Clip1というアイコンが表示されます この状態で Object Inspector の Apply ボタンをクリックすると 肺胞管が2つに分断され 断面が観察できます 図 2-4. 断面表示 Pipeline Browser の test_m0p0_* の左端にあるアイコンが黒色から灰色に変化していますね 全体像の表示が自動的にオフになったことを示しています アイコンをクリックするとオンオフが切り替わります また 断面を示す赤い枠の表示のオンオフは Show Plane のチェックで行ないます さらに Object Inspector の一番下の Inside Out をチェックすると 表示される部分が反転します 分割面の位置を変えるには 赤枠をマウスの左ボタンでつかみ動かします 分割面の方向を変えるには 断面軸 ( 細長い矢印の形をしています ) を掴んで動かします Properties のブラウザから位置 (Origin) と方向 (Normal) を指定することもできます 図 2-5は Normal を (0, 0.71. 0.71) に変更して ( 赤丸 ) 肺胞口の断面が正面から観察できるように回転した画像です 10
図 2-5. 断面表示 2 (6) スライス表示 : メイン画面上部 4 段目 左から4 番目のアイコン ( 図 2-6 赤丸 ) をクリックすると Pipeline Browser に Slice1というアイコンが表示されます この状態で Object Inspector の Apply ボタンをクリックすると 肺胞管のスライスが現われます クリップの時と同様に Normal を (0, 0.71. 0.71) に変更すると 図 2-7の画像が得られます 図 2-6. スライス画像表示 11
4. 画像データの保存 (1) 画面を静止画像として保存するときは 画面左上隅の File Save Screenshot をクリックすると 画像保存の窓が開きます そのまま OK を押し ファイル名とファイル形式 ( デフォルトは.png) を選んで保存します 複数の表示画面を 1 枚の画像として保存したい場合は Save Snapshot resolution というダイアログボックスの一番上のチェック (Save only selected view) をオフにしてください (2) 動画を保存する際は 画面左上隅の File Save Animation をクリックすると 画像保存の窓が開きます そのまま Save Animation を押し ファイル名とファイル形式 ( デフォルトは.avi) を選んで保存します 動画の場合は 静止画と異なり 開いている画面すべてが記録されますので ご注意ください 以上が ParaView の基本操作です モデル生成のパラメータを組み合わせると さまざまな モデルを作成することができます 第 3 章でパラメータの説明をし 第 4 章以降で モデ ルの作成事例をお示しします 12
第 3 章 : モデル生成パラメータの詳細 4D 肺モデラーは 細葉のタイプと病変のタイプを数値パラメータとして選択することが できます これらのパラメータを組み合わせることによって いろいろな 4D モデルが作 成されます (A)Model Type: 作りたいモデルの種類を選択します 1: Single sub-acinar model 単独亜細葉モデル 1 本の呼吸細気管支とそれに連なる肺胞管からなる 単独の亜細葉モデルです 肺胞管ユニットとは 8 個の肺胞からなる立方状の肺胞管で ユニットが連結 分岐することで 空間充填分岐構造である肺胞系が作られます 本バージョンでは 最大 200 個までの肺胞管ユニットからなる亜細葉が作成できます 肺胞および肺胞管のの形状と運動を理解するには 小さなモデルが適しています 作成されたファイル名に Aci0_ という文字が追加されます 2: Space-unfilling acinar model 分離亜細葉モデル 1 本の終末細気管支とそれから分岐する 2 本の呼吸細気管支 それに連なる亜細葉からなります 実際の肺細葉は空間充填構造ですが それでは立体構造の観察が難しいので 離れた亜細葉モデルを用意しました 2つの亜細葉は個別のファイル (Aci1_, Aci2_) として出力されます 3: Space-filling acinar model 空間充填細葉モデル 1 本の終末細気管支と3つの亜細葉からなる細葉モデルで (Aci1_, Aci2_, Aci3_) 細葉内は肺胞と細気管支で充填されています 肺の組織像をシミュレートするには このモデルが適しています タイプ 2 タイプ 3 タイプ 3 のスライス像 13
(B) 病変のタイプ : び漫性肺疾患を対象としています 正常状態を含め 以下の 5 種類です 0. 正常 1. 汎細葉性肺気腫 2. 細葉中心性肺気腫 3. 閉塞性細気管支炎 4. 急性間質性肺炎 モデルタイプ2では 一方の亜細葉だけが病変を起こします ですので 正常な亜細葉との違いを同一画面で観察することができます モデルタイプ3では 細葉内の位置 ( 細葉中心部 辺縁部 細気管支との隣接部 など ) によって 病変の起こり方が異なります (C) 肺胞系の構成 : 亜細葉の形状と大きさを指定します 形状は 以下の 4 種類のなかから選択できます 0. 空間充填 = 与えられた空間を充填する 1. ピラミッド状 = 細気管支末端を頂点にした四角錐 2. シート状 = 平面状 3. 棒状 = 一列の無分岐肺胞管 与えられた空間とは Model Type1( 単独亜細葉モデル ) の場合は立方体 2 と3の場合は 上図に示した領域です Duct unit とは 一辺 0.5mm(TLC のとき ) の立方状の肺胞管で ユニット数で作成するモデルの大きさを指定します 本バージョンでは 作成可能なユニット数の上限は 200 です たとえば Type1で Shape 0 の場合 一辺が 1.5mm もしくは 2.5mm の立方体の亜細葉が作成されます もしも 最大ユニット数を 27 個 (= 3 の 3 乗 ) 以下にすると 立方体ではない塊状の亜細葉になります shape を 2 にすれば 一辺が 6.5mm の正方形まで作れます Type2 の亜細葉はそれぞれ 28 個のユニットからなります Type3の 3 つの亜細葉のうち 近位側の2つはそれぞれ 108 個のユニットからなり 遠位側の亜細葉は 178 個のユニットでできています フルモデルを作成するときは 最大ユニット数を 180 以上にしておけばよいです ただし Type3 の場合 全呼吸サイクルのデータだと PC によっては作成できない場合もあります そのときは Shape を2に変更してください データ量を約 1/4 に減らすことができます なお 本バージョンでは呼吸モードの指定はできません 安静呼気位 (FRC) から全肺気量位 (TLC) までを 6 回繰り返します 病変が進行するにつれ FRC と TLC が変化していきます 14
ファイル出力に関するパラメータ ファイル出力 のタブを開くと ファイルの種類 の画面が開きます (A) Mesh Quality: モデルを構成する三角形 ( 計算力学分野ではメッシュと呼びます ) のサイズを選択できます メッシュが細かいと 微細な構造を表現できます 荒いメッシュサイズだと 肺胞管の分岐部で余計な面が残存することがあります しかし メッシュが細かいとデータ量が増えて計算コストがかさみます ( ここでは約 2.5 倍になります ) (B) Irregularity: 肺胞モデルの形状を不規則にすることができます 計算時間が長くなり PC によっては計算が完了しない場合も 実際の肺胞構造のように 肺胞の形状が不規則なモデルを作成することもできますが 計算時間もデータ量も 3 倍以上になります むしろ 基本的な理解のためには なるべく単純なモデルの方が適していると思っています ファイルの時刻を選択するパラメータが用意してあります OKボタンを押すと ファイル保存のダイアログが開きます 好きな名前 ( 拡張子なし ) を英数字で入れてください ファイルが作成されるまでは数秒ないし数分かかります ( モデルの種類や規模 計算機の性能により異なります ) ファイル作成が完了したら モデラーの画面に詳細が表示されます 意図したモデルが作成されているかどうか 確認してください 15
第 4 章 : 病理シミュレーション 1. 細葉中心性肺気腫 :1 呼吸サイクル = 約 5 年 サイクル 2 TLC 近位細葉のみ肺胞収縮不全 肺胞壁のジグザグ状の配列が消失して構造が単純化する サイクル 4 TLC 近位細葉の肺胞壁断裂 遠位細葉の肺胞は正常だが 拡張した近位細葉に圧迫され変形し ている サイクル 6 TLC 近位細葉の肺胞壁消失 近位細葉では拡張した細気管支と細葉間結合織だけが残存 遠位細葉に至る気道は周囲の拡張気腔に圧迫されて狭小化している 組織標本シミュレーション画像は スライスの Normal を (0,1,0) に Origin を (any,0.005, any) にして作成したものです 16
2. 閉塞性細気管支炎 :1 呼吸サイクル = 約 1 年 サイクル 6 TLC このモデルは 細葉の形状を シート状 にして 中央の部分だけ作成したものです 細気管支と肺実質の関係は このモデルでも理解できます 終末細気管支に器質的な狭窄があり 呼気時のチェックバルブによるエアトラップのため 細葉の容積は 2 倍に増加しますが 肺胞構造は維持されており 一辺が 1.26 倍に相似的に拡大しています 3. 急性間質性肺炎 1 呼吸サイクル = 約 1 日 サイクル6 TLC 肺胞が虚脱して 細葉の容積が正常時の 25% になっています 肺胞壁が折り重なった状態で肺胞壁が厚くなったように見えます 肺胞が虚脱しているかどうかは スライス像では判断しがたいです 細気管支は 周囲肺胞の虚脱により 牽引性拡張を来たしています マニュアルでは 静止画像しかご覧いただけませんが ParaView では動的な変化を観察す ることができます 呼吸サイクルとともに構造が変化するプロセスを理解することで 肺 機能検査と臨床画像情報 病理組織像を統一的に解釈することが可能になります 17