氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

Similar documents









Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

論文の内容の要旨







京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより




体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

 

色素発光の酸素消光を利用する微小領域圧力センシング: 内容の要旨および審査の結果の要旨








Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

論文の内容の要旨 論文題目 複数の物性が共存するシアノ架橋型磁性金属錯体の合成と新奇現象の探索 氏名高坂亘 1. 緒言分子磁性体は, 金属や金属酸化物からなる従来の磁性体と比較して, 結晶構造に柔軟性があり分子や磁気特性の設計が容易である. この長所を利用して, 当研究室では機能性を付与した分子磁性


スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課




図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

Title 本 間 久 雄 日 記 を 読 む (3) Author(s) 岡 崎, 一 Citation 人 文 学 報 表 象 文 化 論 (461): 1-26 Issue Date URL Rights

QOBU1011_40.pdf





















( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http





マスコミへの訃報送信における注意事項






マスコミへの訃報送信における注意事項

























Transcription:

九州工業大学学術機関リポジトリ Title La1-xSrxMnO3ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ効果の研究 Author(s) 田尻, 恭之 Issue Date 2006-06-30 URL http://hdl.handle.net/10228/815 Rights Kyushu Institute of Technology Academic Re

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査 委 員 主 査 出 口 博 之 高 木 精 志 古 曵 重 美 助 美 藤 正 樹 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 電子の 電荷 の性質のみではなく スピン までも制御することで より高機能なデバイスを開 発しようとする研究が近年活発に行われており この分野はスピントロニクスとして急速に発展して いる 最近の技術の進歩により均等なサイズをもつナノスケールサイズの微粒子が作成され その電 子物性におけるサイズ効果の研究が行われつつある 本研究では Mn 酸化物系ナノスケール結晶を扱 っているが その強磁性転移温度は室温を超えており 室温スピントロニクスデバイスへの応用も期 待されている物質系である 本論文は サイズをコントロールすることにより電子数およびスピンを制御し バルクではみられ ない振舞いをナノスケール結晶で発現させ 新奇な磁気サイズ効果の出現とその振舞いを明らかにす ることを目的に行った研究成果をまとめたものである 本研究では複数の低温相をもつ La1-x Sr x MnO 3(LSMO)に着目し 約 75Å のナノスケール結晶を合成し LSMO ナノスケール結晶に おける磁気サイズ効果を明らかにした 第 1 章では本研究の背景および目的を述べた また 従来の磁性体微粒子で観測される磁気サイズ 効果と本研究でナノスケール化を行った LSMO のバルクの物性およびナノスケール結晶を合成する 際に鋳型として用いたケイ酸塩メソ多孔体 SBA-15 について述べた 第 2 章では本研究で合成に成功した LSMO ナノスケール結晶の合成方法について述べた ナノス ケール結晶の合成に先立ち 鋳型として用いる約 75Å の細孔をもつ SBA-15 を合成した LSMO ナ ノスケール結晶は液相法により以下の手順で合成した 前駆体水溶液中に SBA-15 を浸漬し 乾燥 焼成を行い合成した 合成したナノスケール結晶は定量分析により仕込み量と同等の Sr 濃度をもつ ことを確認した 第 3 章では合成したナノスケール結晶の構造解析 磁気測定 電子スピン共鳴(ESR)測定の実験結 果を示した 他の磁性体微粒子で観測される磁気サイズ効果とは全く異なる新奇な磁気サイズ効果を 40

発見し その振舞いについて述べた 放射光を用いた X 線構造解析および透過型電子顕微鏡により 約 75Å の LSMO ナノスケール結晶が合成されていることを示唆する結果を得た また 磁性不純物 および SBA-15 の細孔外にバルクサイズの LSMO が存在しないことを確認した 直流磁化率の温度 依存性では ブロッキング現象が観測され そのブロッキング温度は Sr 濃度の増加に伴い上昇する ことが判明した x 0.20 の Sr 濃度のナノスケール結晶の直流および交流磁化率は温度低下に伴いバ ルクでの転移温度よりも高温から増加を始める これはナノスケール結晶の転移温度がバルクの転移 温度より高温であることを示唆する ナノスケール結晶の転移温度を見積り 2 つの転移温度の存在 を明らかにした 低温側の転移温度も x 0.15 の範囲ではバルクの転移温度より高く 2 つの転移温 度は Sr 濃度の増加に伴い連続的に上昇することがわかった この転移温度の上昇は 磁性体微粒子 で観測される磁気サイズ効果(転移温度の低下)とは正反対の振舞いである 磁化過程においても超常 磁性の振舞いが観測された x =0 0.08 はバルクでは反強磁性相であるが ナノスケール結晶では 強磁性的な振舞いを示すことが判明した 従来のサイズ効果では 磁気相図は変化しないことが一般 に知られている しかし LSMO はナノスケール化により磁気相図が変化することが確認された ま た すべての Sr 濃度のナノスケール結晶において磁化過程は反強磁性と強磁性の 2 成分の和で再現 されることから 反強磁性及び強磁性の 2 つの磁性相が存在すると考えられる ESR 吸収信号は転移 温度以下においても観測され そのスペクトルはガウス型もしくはローレンツ型吸収曲線の 2 成分に 分離されることがわかった そしてその 2 成分の吸収曲線は 磁気測定で得られた転移温度近傍でロ ーレンツ型からガウス型へと変化する このように ESR 測定においても磁気測定同様 2 つの転移温 度と 2 つの磁性相の存在が明らかとなり その転移温度は磁気測定から得られた転移温度とほぼ一致 する この 2 つの磁性相および 2 つの転移温度は Sr 濃度に関係なく存在し その転移温度は Sr 濃度 に依存することがわかった 第 4 章では第 3 章で述べた結果について考察し LSMO ナノスケール結晶の磁気秩序状態のモデ ルを提示した 新奇な振る舞いは 表面の影響のために反強磁性微粒子と強磁性微粒子の 2 種類の微 粒子を形成し 2 つの転移温度が存在することに起因していると考えられる 第 5 章では第 3 章の結果および第 4 章の考察を総括した 以上 本研究では LSMO ナノスケール結晶における磁気サイズ効果を明らかにすると同時に 通常 の磁性体微粒子で観測される磁気サイズ効果とは全く異なる新奇な磁気サイズ効果の出現を発見し その振る舞いを明らかにした 学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 近年 物質中の電子のスピンを制御することで より高機能なデバイスを開発しようとする研究が 活発に行われており この分野はスピントロニクスとして急速に発展している また 最近の技術の 進歩により 原子とバルクの中間のサイズ いわゆるナノスケールサイズの微粒子が合成され その 電子物性の量子サイズ効果の研究が進展し ナノサイエンス テクノロジー分野に寄与している 本 論文で研究対象とした Mn 酸化物 La1-xSrxMnO 3 (LSMO)は 巨大磁気抵抗効果を示す強相関電子系の 典型物質であり その強磁性転移温度は室温を超え スピントロニクスデバイスへの応用も期待され 41

ている 本論文は LSMO の結晶サイズをナノスケールにして電子数およびスピンを制御し バルクではみられない物性をナノスケール結晶で発現させ 新奇な磁気サイズ効果を解明することを目的として行われた研究成果をまとめたものである 著者は 最初に本研究の背景および目的を述べ LSMO のナノスケール結晶を対象とする研究の意義を明確にして 本論文の構成を示した また 従来の磁性体微粒子で観測される磁気サイズ効果を概説し 本研究での対象物質である LSMO のバルクの電子物性およびナノスケール結晶を合成する際に鋳型として用いたケイ酸塩メソ多孔体 SBA-15 について説明している そして このメソ多孔体 SBA-15 のナノスケール細孔を用いた独自の手法による LSMO ナノスケール結晶の合成方法について述べている 次に 合成した試料についての構造解析 磁気測定 電子スピン共鳴 (ESR) 測定などの実験結果を示している その中で LSMO ナノスケール結晶の SBA-15 細孔中での合成に成功し また新奇な磁気サイズ効果を発見したことについて 以下のように多面的な測定手法で検証している 放射光を用いた X 線構造解析および透過型電子顕微鏡により 約 75Å の LSMO ナノスケール結晶が合成されていることを確認している 直流磁化率の温度依存性は ナノスケール結晶が Sr 濃度によらず強磁性を示し しかもその転移温度がバルクより高温である結果を示している 交流磁化率の温度 周波数依存性の詳細な解析を行い 転移温度を評価して 2 つの転移温度の存在を明らかにしている 低温側の転移温度も x 0.15 の範囲ではバルクの転移温度より高く 2 つの転移温度は Sr 濃度の増加に伴い連続的に上昇することを示している この高い転移温度は 通常の磁性体微粒子で観測される磁気サイズ効果 ( 転移温度の低下 ) とは正反対の振舞いであり 新奇なサイズ効果を発見したと評価される 作成したすべての Sr 濃度のナノスケール結晶において 磁化過程は反強磁性と強磁性の 2 成分の和で再現されることから 反強磁性及び強磁性の 2 つの磁性相が存在することを示した ESR 吸収信号は転移温度以下においても観測され そのスペクトルはガウス型もしくはローレンツ型吸収曲線の 2 成分に分離されることを明らかにしている さらに この 2 成分の吸収曲線が磁気測定で得られた転移温度近傍でローレンツ型からガウス型へと変化していることを見出し 磁気測定で決定した 2 つの転移点について確証を与えている このように 磁気測定および ESR 測定より 2 つの転移温度と 2 つの磁性相の存在が明らかとなり この 2 つの磁性相および 2 つの転移温度は Sr 濃度に依存することを明らかにした 最後に LSMO ナノスケール結晶の磁気秩序について 他に類のない 2 種類の微粒子モデルを提示し その妥当性を検証している すなわち 新奇な振る舞いは 微粒子表面の終端面 (La(Sr)O 面, MnO 2 面 ) の違いのために反強磁性微粒子と強磁性微粒子の 2 種類の微粒子が形成され 強相関電子系特有の Mn 価数の有効ドーピングが生じることにより転移温度が上昇する というモデルを提案して考察を展開している 以上 本研究では LSMO ナノスケール結晶の合成に成功し その電子物性を詳細に調べて 通常の磁気サイズ効果とは全く異なる新奇な磁気サイズ効果の出現を発見し その振る舞いを解明している ナノスケール化することにより 2 種類の磁性ナノ結晶が表面効果により生成され しかもバル -42-

クより高い 2 つの磁気転移点を有するという新奇な磁気サイズ効果の発見は ナノサイエンス テクノロジー分野において重要な寄与と評価されるべきものであり 博士 ( 工学 ) の学位論文に値すると認める 本論文に関して 審査委員ならびに公聴会出席者から 交流磁化率での転移点の検証方法 ナノスケール化に伴う転移温度の上昇の要因および有効ドーピングなどに関して多くの質問が出されたが 論文提出者による回答や議論によって十分な解明がなされた 以上の結果から本審査委員会は論文提出者が最終試験に合格したものと判定する -43-