ブラジル :Petrobras は 5 ヵ年計画 (2013 年分 ) をどの程度達成できたのか? 更新日 :2013/12/11 調査部 : 舩木弥和子 (Platts Oilgram News International Oil Daily Business News Americas Business Monitor International 他 ) 1. Petrobras は 2012 年 2013 年のブラジル国内の石油生産目標を 2011 年の生産量 202.17 万 b/d の ±2% と定めた 石油生産実績は 2012 年が 198 万 b/d で 2011 年の 97.9% とほぼ目標を達成したが 2013 年 1~10 月は 192.6 万 b/d で 2011 年の 95.2% となっている メインテナンス作業が相次いで行われたことや新規油田の生産開始が遅れていることなどが原因と考えられる 2. Petrobras は 2013 年中に 7 つの油田 生産設備の生産を開始することを計画していたが これまでに生産が始まったのはこのうちの 4 件で いずれも当初計画より生産開始の時期が遅くなっている 3. Petrobras は 99 億ドルの資産売却を計画していたが 米国メキシコ湾 タンザニア沖合 ブラジル沖合 コロンビア陸上 ウルグアイ沖合 ペルー陸上等の資産売却が決定し 2013 年に売却が決まった資産の合計額 ( 判明分 ) は 70 億 4,800 万ドルとなった 同社は国内の石油製品価格を国際市場価格と一致させることで業績の回復を目指している また FPSO を購入せずにリースしたり 国外事務所を閉鎖したりすることで 支出削減を図ろうとしている 4. Petrobras は第 11 次ライセンスラウンドではオペレーターとしてではなく パートナーとしてもライセンスラウンドに参加 34 鉱区の権益を取得した プレソルトのライセンスラウンドでは Total Shell CNPC CNOOC とコンソーシアムを組み Libra 鉱区を落札 12 月 2 日には PS 契約を締結した 非在来型鉱区を対象とする第 12 次ライセンスラウンドでは 落札された 72 鉱区のうち 単独あるいはコンソーシアムを組んで 50 鉱区に札を入れ 49 鉱区の権益を取得した 5. IEA は プレソルトの生産増でブラジルの原油生産量は 2035 年までに 600 万 b/d に増加する見通しであるとした また Libra 油田の開発が本格化するのは 既存のプレソルトの油田の開発が一段落する 2010 年代の終わりとなり Petrobras にとっては人材や資金の確保という点から良いタイミングになるとの見方がなされている さらに Petrobras の財務状況は 2013~2014 年にかけて最も厳しく 2015 年以降は負債が減少するとみられている しかし これらの見通しは Petrobras の順調なプレソルトの開発を前提としており 今後数年間の同社の開発状況が注目される 1. 生産状況 Petrobras は 2012 年 6 月に発表した 5 ヵ年計画 Business and Management Plan (BMP)2012-2016 及び 2013 年 3 月に発表した BMP2013-2017 で 2012 年 2013 年のブラジル国内の石油生産量を 2011 年の生産量 202.17 万 b/d の ±2% とすることを計画した 2012 年の同社のブラジル国内石油生産量は 198 万 b/d で 2011 年の 97.9% とほぼ目標を達成した しかし 2013 年は 1~10 月の石油生産量が - 1 -
192.6 万 b/d で 2011 年の 95.2% となっている 2013 年上半期は 生産量が減少している Campos basin の既存油田の操業効率を上げるためメインテナンス作業が相次いで行われたが その結果 生産量は 192 万 b/d とさらに減退した 下半期にはメインテナンス作業が終了するので 生産が増加するとされていたが その後もメインテナンス作業は一部で続けられ 生産量は伸び悩んでいる 10 月 16 日からは Petrobras 従業員の 75% が参加し プレソルトの入札に反対し また 労働条件の改善を求めて Campos Basin のプラットフォーム 39 基と Rio Grande do Norte 州沖合のプラットフォーム 27 基 Rio Grande do Norte の陸上油田 製油所 バイオディーゼルプラント等でストライキを実施した 具体的にどの程度の生産量が減少したのかは明らかにされなかったが Campos Basin のプラットフォーム 15 基と Rio Grande do Norte 州沖合 陸上では生産が減少 あるいは中止されたという Lula 油田や Baúna 油田のコンプレッサーが一時的に停止したこともあり 10 月の生産量は 196 万 b/d と 9 月の 197.9 万 b/d から微減した Petrobras は後述する通り BMP2013-2017 で 2013 年中に 7 つの油田 生産設備の生産を開始する予定としていたが これまでに生産が始まっているのは このうち 4 件となっており Petrobras がどの程度生産目標を達成できるかは 年末までにいかに早くこれらの生産を開始できるかにかかっていると言えよう (Petrobras ホームページより作成 ) 2. 探鉱 開発状況 Petrobras は BMP2013-2017 で 2013 年中に 7 つの油田 生産設備の生産を開始する予定とした Petrobras は 1 月 5 日 Santos Basin BM-S-9 鉱区 Sapinhoá( 旧名称 Guara API30 度 可採埋蔵量 21-2 -
億 boe) 油田の生産を開始した BM-S-9 鉱区と BM-S-11 鉱区に設置される 15 基の FPSO のうち 2 基目となる FPSO Cidade de São Paulo を用い 当初 90 日間は 1-SPS-55 井より 1.5 万 b/d を生産 その後生産量を 2.5 万 b/d に引き上げるとした そして 最終的には 11 坑が同 FPSO とつながれ 2014 年上半期にピーク生産に達するとしている さらに 2014 年下半期には同油田 2 基目の FPSO Cidade de Ilhabela( 生産能力 15 万 b/d 6MMm3/d) が生産を開始する予定とされている 2 月 16 日には Santos basin BMS-40 鉱区の Baúna( 旧名称 Tiro)/Piracaba( 旧名称 Sidon) 油田に設置された FPSO Cidade de Itajaí が生産を開始した 当初生産能力は 1.2 万 b/d で 最終的には同 FPSO と 11 坑がつながれる計画だ Petrobras は続いて 6 月 6 日に Santos Basin BM-S-11 鉱区 Lula Nordeste 油田の FPSO Cidade de Paraty の生産を開始した 当初生産量は 1.3 万 b/d で 数か月以内に生産井 7 坑より生産を開始するとしている ピーク生産は 2014 年下半期を計画している そして 11 月 12 日には FPSO P-63 を用い Campos Basin BC-20 鉱区 Papa-Terra 油田 (API 比重 14-17 度 ) の生産を開始した このように Petrobras は 2013 年に入りこれまでに FPSO4 基の生産を始めた 下表を見ると このうち Sapinhoá 油田の FPSO Cidade de São Paulo と Baúna 油田の FPSO Cidade de Itajaí は BMP2013-2017 に示された生産開始時期と生産開始日が一致しており 計画通りに生産が開始されたように思われるかもしれない しかし BMP2013-2017 が発表されたのはこれらの生産が始まった後の 2013 年 3 月である また この 2 基の FPSO はもともと 2012 年に生産開始が予定されていたものだ そして Lula Nordeste 油田の FPSO Cidade de Paraty は計画よりも 10 日遅れ Papa-Terra 油田の FPSO P-63 は 4 か月ほどの遅れでの生産開始となった Campos Basin の Roncador 油田の Module 3 FPS P-55 は 9 月に生産開始が予定されていたが 9 月に FPS P-55 が完成し 現在はコミッショニング中と伝えられている Norte Parqe Baleias (Baleia Anã 油田 ) に設置される FPSO P-58 は 12 月 4 日にリオグランデの Honório Bicalho 造船所を出発し Baleia Anã 油田まで 6~8 日で到着する予定とされている PapaTerra 油田の tension-leg wellhead platform P-61 については 11 月中旬の情報で 11 月末に同油田に到着予定とされていた 12 月に入り 間もなくこれらの生産が開始されるとの情報が伝えられている 探鉱に関しては Petrobras は 1 月に Santos basin BM-S-8 鉱区で Carcará 油田を発見 Sul de Tupi 鉱区で API28 度の原油を確認 2 月に BM-S-50 鉱区 Sagitario 井で出油 8 月に BM-S-9 鉱区の Iguacu Mirim 井で原油を確認と プレソルトを中心に油田発見を続けている - 3 -
油田名生産施設名 Petrobras が 2013 年に生産開始を予定していた油田の状況 BMP2013-2017 に示された生産開始時期 生産開始日 生産能力 Sapinhoá Pilot(Cid. São Paulo) 1 月 5 日 1 月 5 日 12 万 b/d 5MMm3/d Baúna(Cid. Itajaí) 2 月 16 日 2 月 16 日 8 万 b/d 2MMm3/d Lula NE Pilot(Cid. Paraty) 5 月 28 日 6 月 6 日 12 万 b/d 5MMm3/d PapaTerra(P-63) 7 月 15 日 11 月 12 日 14 万 b/d 1MMm3/d* Roncador Ⅲ(P-55) 9 月 30 日 18 万 b/d 6MMm3/d Norte Parqe Baleias(P-58) 11 月 30 日 12 万 b/d 5Mmm3/d PapaTerra(P-61) 12 月 31 日 14 万 b/d 1MMm3/d* * P-61 P-63 を合わせた生産量 ( 各種資料より作成 ) 3. 資金関連 (1) 資産売却 Petrobras は BMP2012-2016 で 148 億ドルの資産売却を計画していたが BMP2013-2017 ではこれを 99 億ドルに引き下げた BMP2012-2016 とBMP2013-2017 は 生産目標にも総投資額にも大差がなかったが 資産売却目標ついてはこのように 2/3 に大きく削減された Petrobras が資産売却をなかなか進められなかったことが この削減の原因と考えられる しかし 2013 年 4 月以降 資産売却は順調に進んでいるようだ 4 月の米国メキシコ湾の資産売却に続き 5 月には Statoil にタンザニア沖合 Mafia Basin Block 6( 面積 5549km2 水深 1,800m) の権益の 12% を売却することでファームアウトアグリーメントを締結した Petrobras は同鉱区の権益の 38% を保有し オペレーターを続け 権益の残り 50% は Royal Dutch Shell が保有している Petrobras は隣接する Block 5 の権益の 50% も保有しており 2012 年には Block 8 の権益も取得している 8 月には Sinochem に Campos Basin BC-10 鉱区 Parque das Conchas の権益の 35% を 15.4 億ドルで メキシコ湾 Mississippi Canyon 613 鉱区 ( 権益 33%) Garden Banks 244 鉱区 ( 同 60%) Ewing Bank 910 鉱区 ( 同 40%) を 1.85 億ドルで売却する等 合計で 21 億ドルの資産を売却することとなった そして 9 月には Perenco にコロンビア陸上 11 鉱区 (6,530b/d を生産中 ) と Colombia パイプライン Alto Magdalena パイプラインの権益を 3.8 億ドルで売却した Petrobras はコロンビアの沖合 陸上の一部の鉱区での探鉱は続けるとしている さらに Petrobras は 11 月にペルー資産を PetroChina に 26 億ドルで売却することで合意した この売却により Petrobras の 2013 年の資産売却額 ( 判明分 ) は合計で 70 億 4800 万ドルとなった - 4 -
2013 年に Petrobras が売却を決定した資産 発表日 売却した資産 売却先 金額 4 月 30 日 米国メキシコ湾 Gila Assets (KC-49 59 92 93 N.A. 1 億 1000 万ドル 94 138 Block) の権益の 20% 5 月 24 日 タンザニア Block 6 の権益の 12% Statoil N.A. 6 月 14 日 アンゴラ ベニン ガボン ナミビアの事務所 ナ BTG Pactual 15 億 2500 万ドル イジェリア タンザニアでの操業 6 月 14 日 ブラジル Cemig Geracao e Transmissao PCH 3 億 300 万ドル 8 月 16 日 ブラジル Petroquímica Innova Videolar 3 億 7200 万ドル 8 月 16 日 ブラジル BC-10 Block(Parque das Conchas) の権 Sinochem 15 億 4000 万ドル 益の 35% 8 月 16 日 米国メキシコ湾 Block MC 613 (Coulomb) Block N.A. 1 億 8500 万ドル GB 244 (Cottonwood) Block EW 910 8 月 16 日 ブラジル Compahia Energetic Potiguar の議決権 Global 1600 万ドル 株の 20% Participações em Energia 9 月 13 日 コロンビア陸上 11 鉱区と Alto Magdalena パイプ Perenco 3 億 8000 万ドル ラインの権益 10 月 4 日 ウルグアイ Punta del Este Basin Block 3 4 Shell 1700 万ドル 11 月 13 日ペルー Block 57 の権益 46.16% Blocks 58 X の権益 100% PetroChina 26 億ドル (2) 国内外の石油価格差 (Petrobras ホームページより作成 ) Petrobras の 2012 年の業績は利益が 212 億レアル ( 約 107 億ドル 1 レアル =0.505 ドル ) と過去 8 年間 で最低になったが 同社が国際市場価格で輸入した石油をブラジル国内でそれよりも安い価格で販売 していることやレアル安がその主要な原因とされている Petrobras は 10 月に 国内の石油製品価格を国際市場価格と一致させるように価格決定方式を変更す ることを検討していることを明らかにした そして 11 月 29 日 同社は 国際的な水準に達するまで国内 の石油製品価格を段階的に引き上げていくという方針を示した しかし いつまでに国際価格に合わせ た価格とするのか 価格引き上げを決定する際に用いる計算方法はどのようなものか等については明ら かにされなかった Petrobras は同時にガソリン価格を 4% ディーゼル価格を 8% 引き上げることを発表 した しかし 市場の予想ではガソリン価格が 6% ディーゼル価格が 10% 程度引き上げられるのではな いかとの見方がされていたこともあって この程度の引き上げでは国際市場と国内の価格差を埋めるに は不十分で これまで同社が高額で石油を購入し 割安な石油製品を国内で販売してきたことで生じた 損失を解消することもできないと指摘を受けている - 5 -
(3) その他 SBM Offshore によると Petrobras は今後 3~4 年は FPSO を購入せずにリースする方針であるという 現在 Petrobras が利用している FPSO の 20% がリースだが この比率を 60~65% とする計画だ また 11 月には Petrobras がブラジル国外の事務所 38 カ所を 2015 年までに閉鎖する方針であると地元紙が報じた 同社は 過去 2 年間ですでにポルトガル オーストラリア ニュージーランド イラン トルコ リビアの事務所を閉鎖したが 今後ナイジェリア アンゴラ ガボン ベニン ナミビア タンザニア アルゼンチン ボリビア チリ パラグアイ ウルグアイ コロンビア ペルー ベネズエラ メキシコ 米国 日本等の事務所を閉鎖し ブラジル国内での探鉱 開発への集中度合いを高めるとしている Petrobras はこのように FPSO を購入せずにリースしたり 国外事務所を閉鎖したりすることで 支出削減を図ろうとしていると考えられるが 探鉱 開発投資額に比べると削減できる金額はわずかなものと考えられる 4. ライセンスラウンドへの参加状況 ブラジル国家石油庁 (ANP) は 2013 年に 3 回のライセンスラウンドを実施した ブラジルでは 2008 年の第 10 次ライセンスラウンド以来 5 年間ライセンスラウンドが行われていなかったため 第 11 次ライセ ンスラウンドへの期待は非常に高いものであった また プレソルトや非在来型の鉱区を対象とするライ センスラウンドはこれまでブラジルで行われたことがなかったため こちらに対しても関心が集まってい た ANP は 5 月 14 日 第 11 次ライセンスラウンドを実施した Petrobras はこれまでのライセンスラウンド ではオペレーターとして多くの鉱区権益を取得していたが この第 11 次ライセンスラウンドではこれまで とは戦略を変更し 大手石油会社のパートナーとしてもライセンスラウンドに参加した そして 14.6 億レ アルで陸上 17 鉱区 沖合 17 鉱区 合わせて 34 鉱区の権益を取得した Petrobras は陸上 17 鉱区のう ち 9 鉱区でオペレーターを務めるが 沖合鉱区については Espirito Santo Basin の 2 鉱区と Potiguar Basin の 1 鉱区でのみオペレーターとなることとした 10 月 21 日に実施されたプレソルトのライセンスラウンドで Petrobras は Total(20%) Shell(20%) CNPC(10%) CNOOC(10%) とコンソーシアムを組み Libra 鉱区を落札した Petrobras はプレソルトの 新規鉱区に関しては権益の 30% 以上を保有し オペレーターを務めることになっているが 財務状況が 厳しい中 権益 40% を取得した 10 月 23 日に Petrobras の Maria das Graças Foster CEO が Guido Mantega 財務相と面談したことから サインボーナス 60 億レアルの支払いについて同社が連邦政府に支 援を求めたのではないかとの憶測が流れたが 同社はこれを否定 12 月 2 日には PS 契約が締結され た - 6 -
11 月 28 日には非在来型の 240 鉱区を対象とする第 12 次ライセンスラウンドが実施された 落札された 72 鉱区のうち Petrobras は単独あるいはコンソーシアムを組んで 50 鉱区に札を入れ 49 鉱区の権益を取得した このうち 22 鉱区はコンソーシアムを組んで権益を取得しているが このうち Petrobras は 16 鉱区でオペレーターを務める Petrobras は既存の生産施設に近いエリアでガスの埋蔵量 生産量を増やすことを目的として札を入れたとしている そして フロンティアエリアについては地質情報が十分でなく 技術的にも困難が予想されるものの Paraná Acre Basin を中心に 11 鉱区に応札し 10 鉱区を落札した 成熟盆地については Sergipe-Alagoas 及び Recôncavo Basin の生産エリアに近い 39 鉱区に応札し全てを落札した Petrobras のサインボーナスは 1.2 億レアルで パートナーが支払う 2,300 万レアルと合わせると サインボーナス全体の 87% に上った 5. おわりに IEA は World Energy Outlook2013 で プレソルトの生産増でブラジルの原油生産量は 2035 年までに現在の 3 倍にあたる 600 万 b/d に増加する見通しであると発表した また Libra 油田の開発が本格化するのは 既存のプレソルトの油田の開発が一段落し 生産が始まった後の 2010 年代の終わりとなり Petrobras にとっては人材や資金の確保という面からも Libra 油田の開発に集中することができる良いタイミングとなるとの見方がなされている さらに Petrobras の財務状況は 2013~2014 年にかけて最も厳しい状態となり 2015 年以降は負債が減少に転じるとみられている しかし これらの見通しはいずれも Petrobras が順調にプレソルトの開発を進め 生産を増加させていくことを前提としており 今後数年間の同社の開発状況が大きく影響を与えると考えられる 引き続き Petrobras の開発状況を見守っていきたい - 7 -
ブラジル沖合主要鉱区図 ( 各種資料より作成 ) - 8 -