インターネット政策懇談会第 5 回資料 ISP を取り巻く状況と提案 2008 年 6 月 27 日 社団法人日本インターネットプロバイダー協会会長渡辺武経 1
目次 1. 環境の変化 1.1 利用者一人当たりのトラヒックの増大 1.2 インターネットトラヒックの状況 (1)P2Pトラヒックの増加 (2) 動画配信トラヒックの増加 1.3 一部利用者によるトラヒックの占有 1.4 インターネット利用者の動向 1.5 ISPのバックボーン拡張 2. ブロードバンド料金の推移 3. 対策ネットワーク負荷の軽減 1 P2P 帯域制御 2 利用者毎の転送量規制 3 料金値上げ 4 ネットワーク負荷の軽減 4. ベストエフォート定額料金制度の意味の再考 5. 米国で上限を超える通信データ量に課金開始へ 6. 可能な選択肢 7. コンテンツ事業者による負担とその収益のISP 間の配分は困難 8. 大量トラヒック問題に対する当協会の意見 2
1 環境の変化 1.1 利用者一人当たりのトラヒックの拡大 インターネット利用環境の整備 FTTH 利用が急速に浸透 動画などのリッチコンテンツが増加し利用しやすくなった P2P 利用が拡大 利用者一人当たりのトラヒックが 3 年で 2 倍に増加 インターネット利用者の増加以上に 利用トラヒックの伸びが大きい 2004* 2007* 伸び率 300 250 トラヒック総量 2004 年を 100 とした 2007 年との比較 A. トラヒック総量 ( 総務省発表 我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計 試算 より 323.6Gbps 812.9Gbps 2.51 倍 200 インターネット利用者数インターネット利用者一人当たりのトラヒック B.PC からのインターネット利用者数 ( 総務省発表 ブロードバンドサービスの契約数等 通信利用動向調査 より ) 6,416 万 7,813 万 1.22 倍 150 100 A/B インターネット利用者一人当たりのトラヒック 5.29Kbps 10.9Kbps 2.09 倍 50 0 2004 2007 * トラヒックは毎年 11 月 利用者数は 12 月なので 集計時期に若干のずれはある この結果生じること ISP の売上は固定料金制度のため 売上の伸びをネットワークコスト増が上回っている ( 売上は利用者数に比例するが ネットワークコストはピークトラヒックに比例するため ) 3
1.2 インターネットトラヒックの状況 (1)P2P のトラヒックは依然多く 増え続けている ある大手 ISP の状況 ( 帯域制御なし ) 下り :2007 年 10 月 :44%>2008 年 4 月 47% 上り :2007 年 10 月 :71%>2008 年 4 月 76% 2008 年 4 月時点の帯域に占める割合 (bps) 下り 上りは 9 ヶ月で 1.3 倍と増えており 2008 年 4 月時点では上り下りの総容量はほぼ同等 P2P アプリは BitTorrent, sharetcp,winny が多い それ以外 53% P2P 47% 上り それ以外 24% 下り : ISP からエンドユーザー向け 上り : エンドユーザーから ISP 向け P2P 76% 4
1.2 インターネットトラヒックの状況 (2) 動画配信トラヒックの増加 ある大手 ISP による調査 ( 下りトラヒック )* 左右のスケールは同じ *( 注 )ISP からユーザにむけてのトラヒックデータはある ISP が NTT 地域 IP 網に接続するある県の POI に設置した帯域制御装置で取得 フラッシュ動画は 2005 年は Web に含まれているが 2008 年は動画 & ストリーミングに分類されている その他はメール ftp ダウンロード ゲーム VOIP など P2P その他 Web ストリーミング P2P その他 Web 動画 & ストリーミング 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 16 17 18 19 20 21 23 0 1 2 3 4 6 7 8 2005 年 (P2P 帯域制御前 ) 2008 年 (P2P 帯域制御後 ) 2007 年 ~ 個人による動画の共有サービスの利用が急増 POI は Point of Interface: NTT 東西地域 IP 網との相互接続点 動画トラヒックの内訳では 人気上位 3 社 (YouTube ニコニコ動画 Gyao) で全体の 6 割以上を占める 別のISPの例 (P2Pの帯域制御をしていないISP) ではトラヒックに占める動画配信の割合は下り :2007 年 10 月 :14%>2008 年 4 月 16% 上り :2007 年 10 月 : 1%>2008 年 4 月 2% 10ヶ月で1.36 倍の増加 5
1.3 一部利用者によるトラヒックの占有 ( 下り ) ISP からユーザにむけてのトラヒック A) あるISPの調査では上位 1% のユーザがトラヒックの51% 以上を占有 B) 別なISPの調査では 上位 3% のユーザがトラヒックの85% を占有 一番多いユーザの転送量は 67GByte ( 全ユーザ平均の 380 倍 上位 1% を除くと 771 倍 ) 単位 :GByte 70 60 50 ISP A における調査 (24 時間のユーザ毎の下り転送量 ) (P2P 帯域制御後 ) 2007 年 10 月 ある県の POI 約 1 万人の利用者の上位 5% についてグラフ化 ( 全体だとグラフがほとんど下に張り付いてしまうため上位 5% のみを抽出 ) POI は Point of Interface: NTT 東西地域 IP 網との相互接続点 平均で 380 倍の格差 40 30 You Tube 動画 (384Kbps)1 本 (5 分 ) 視聴で生じる転送量は 14MByte 全ユーザの平均転送量は 172MByte ( 上位 1% を除くと 84MByte) 20 10 0 利用者全体の 1% ここまででトラヒックの 51% を占有 1 51 101 151 201 251 301 351 401 451 利用者全体の 5% ここまででトラヒックの 71% を占有 上位から 500 番目で約 530MByte 6
1.3 一部利用者によるトラヒックの占有 ( 上り ) ユーザから ISP にむけてのトラヒック A) ある ISP の調査では上位 1% のユーザがトラヒックの 83% 以上を占有 平均すると常時 10Mbps( コンテンツ事業者向け料金では月額 20 万円程度 ) 一番多いユーザの転送量は 107GByte ( 全ユーザ平均の 932 倍 上位 1% を除くと 5753 倍 ) 平均で 932 倍の格差 単位 :GByte 120 100 80 60 例 ) 個人向け契約回線を利用して 動画コンテンツを提供している事業者? ISP Aにおける調査 (24 時間のユーザ毎の上り転送量 ) (P2P 帯域制御後 ) 2007 年 10 月 ある県の POI 約 1 万人の利用者の上位 5% についてグラフ化 ( 全体だとグラフがほとんど下に張り付いてしまうため上位 5% のみを抽出 ) POI は Point of Interface: NTT 東西地域 IP 網との相互接続点 40 20 利用者全体の 1% ここまででトラヒックの 83% を占有 上位から 500 番目で約 39M Byte 全ユーザの平均転送量は 120MByte ( 上位 1% を除くと 19MByte) 0 1 51 101 151 201 251 301 351 401 451 7
1.4 インターネット利用者の動向 PC からのインターネット利用者数は横ばい FTTH 利用者が大幅に拡大 インターネット利用者数単位 : 万人 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 CATV DSL FTTH PCからのインターネット利用者数 6,416 6,164 5,722 1863 287 195 565 781 248 1,027 21 89 1364 1,333 243 6,601 324 1,448 464 357 1,424 794 8,055 7,813 383 1,313 1,133 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2236 2575 CATV,DSL,FTTH 単位 : 万契約 2829 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 青字はブロードバンド契約数合計 総務省発表 ブロードバンドサービスの契約数等 通信利用動向調査 から作成数値は毎年 12 月末のもの PC からのインターネット利用者数は 2007 年度調査の場合 6,256 サンプル ( 有効回答 3,640) からの推計 8
1.5 ISP のバックボーン拡張 ( ある大手 ISP の場合 ) 本グラフは設備容量で実トラヒックではない 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 バックボーンは東京 - 大阪間 国内接続はピアリング +IX 接続 9 2008 年 6 月 バックボーン国内接続国際接続 総設備容量 (Gbps) 2000 年 1 月 2000 年 7 月 2001 年 1 月 2001 年 7 月 2002 年 1 月 2002 年 7 月 2003 年 1 月 2003 年 7 月 2004 年 1 月 2004 年 7 月 2005 年 1 月 2005 年 7 月 2006 年 12 月 2007 年 7 月 2007 年 12 月
2. ブロードバンド料金の推移 ADSL の料金は 1/3 速度は 8 倍に! ビット単価は 2001 年の ADSL に比べ最新の FTTH では 1/80 ADSL 総務省 2006 年度 ( 平成 18 年度 ) 電気通信事業分野における競争状況の評価 より FTTH ISP 料金は 2,000 円 2003.12 ISP 料金は 1,200 円に値下げ @nifty NTT 東日本ホームタイプの場合 ISP 料金込 7,000 円 ISP 料金込 5,300 円 消費税別 10
3. 対策ネットワーク負荷の軽減 1P2P 帯域制御 P2P のトラヒック増に対し 一部の ISP は帯域制御で対処 中立懇の報告書を受け 電気通信事業関連の 4 団体は総務省がオブザーバーとして参加した上で 2007 年 9 月に 帯域制御の運用基準に関するガイドライン検討協議会 を発足 ガイドライン検討協議会が 2007 年 11 月に実施したアンケートで 回答のあった 280 社のうち 69 社 ( 約 25%) の事業者が帯域制御を実施 2008 年 5 月 23 日に 帯域制御の運用基準に関するガイドライン を公表 11
3. 対策ネットワーク負荷の軽減 ( 続 ) 2 利用者ごとの転送量規制 社名 A 社 概要 上りについて 24 時間当たり 15GB を超えると利用制限 B 社 C 社 D 社 E 社 同上 ユーザと ISP 間で送受信されるトラフィックが長時間に渡って平均を著しく超え 他のユーザの利用に影響を及ぼす恐れがあると判断されたユーザについては 約款に基づき利用の一部制限もしくは停止 ( 規制値は非公表 ) 上りで 1 日 15GB を超えると利用制限 1 日に 30GB を超えるデータの送信 ( 上り ) をしている利用者に対して総量規制方式 ( 通信データの種類に関わらず データ転送量の合計 ( 総量 ) に一定の基準を設定し その基準を超えた利用に対して通信の制限や契約の解除を行う ) による利用の制限を行なう ( 参考 )DVD ビデオ (2 層 ) のサイズは約 8.5GB( 約 2 時間の映画 ) 12
3. 対策ネットワーク負荷の軽減 ( 続々 ) 3 料金値上げ 2007 年 5 月 ~12 月 ISP4 社が NTT 東西の B フレッツのプロバイダパックマンションタイプについて料金を値上げ ホームタイプ料金は据え置き ( 例 ) 東日本プラン 2( 改定前 )3,307.5 円 ( 改定後 )3,727.5 円 ( プラン 2 は同一集合住宅で 16 世帯以上契約の場合 ) 13
3. 対策ネットワーク負荷の軽減 ( 続々々 ) 4 経済化を目指した大容量化へのチャレンジ ス伝送路コスト 旧システム (F600M 等 ) の縮退 低コストシステム (DWDM (2.4G-DWDM) ATMMUX) の導入 さらなる低コストシステム (WDM- 80(10G-DWDM) GSMUX) の導入コOCN バックボーン容量 ト2006 旧システムの縮退 40G システムの導入 OCN バックボーン容量 ( 東京 ~ 大阪間 ) 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 (NTT コミュニケーションス 資料 ) 14
( 参考 ) 経済化を目指したコスト推移イメージ 1M 当たりの NW 設備のコスト削減 一人当たりの利用トラヒック傾向 一人当たりのバックボーンコスト傾向 2002 2004 2006 2008 2010 バックボーン容量の拡大に応じて 新技術の採用により NW 基盤コストを低減 アクセス速度の高速化に伴うトラヒック増に対応し 一人当たりのバックボーンコストは維持 BB サービスの拡充により 一人当たりの利用トラヒックが増加 また 次期高速インターフェース 100GbE の製品化が 2010 年以降等 今後のコスト維持の見通しが厳しい 15
4. ベストエフォート定額料金制度の意味の再考 ベストエフォート イコール 定額制 ではない 登場時 (1997) ADSL の時代 (2001~) FTTH の時代 (2004~) このときベストエフォートは 共用型で速度について保証しない代わりに専用線に比べ割安な価格で提供するサービスという意味 ベストエフォートは NTT 局舎からの距離により速度が低下し品質を規定できないが 最大限努力するサービスという意味 そもそもエンド エンドでの品質を保証できないという意味でインターネットは本来ベストエフォート アクセス網 中継網 ISP 128Kbps 共用 128Kbps ユーザユーザユーザ アクセス網 中継網 ISP 100Mbps 共用でも余裕 1.5~ 12Mbps ユーザユーザユーザ 中継網 ISP 1Gbps 共用 アクセス網 100Mbps ユーザ ユーザ ユーザ トラフィック量に応じた料金計算を行なわないことで運用コストを省き 速度保証はないが廉価なサービスを提供する定額制料金が登場 NGN 保証もあり NGN の時代 中継網 ISP 10Gbps 共用 アクセス網 100M-1Gbps ユーザ ユーザ ユーザ トラヒックは増えるが ネットワークコストが下がる傾向にあったため ( そのためのコストがかかる ) トラフィック量に応じた料金計算を行なうよりも 規模拡大で 1 ユーザー当たりのコストを抑えることで定額料金を維持 リッチコンテンツによりトラヒックは一層増大 ネットワークコストが再び上昇傾向 利用者拡大の伸びが緩やかに 再びトラフィックに応じた料金計算を検討する時期に 16
5. 米国では上限を超える通信データ量に課金開始へ 米 Time Warner Cable が 一定の通信データ量を超えたブロードバンドユーザーに追加料金を加算する新プラン導入 ブロードバンドサービスへの新規加入者に対し 最大通信速度 768Kbps の低速サービス ( 月額 29.95US ドル ) ユーザーは 5GB 同 15Mbps の高速サービス ( 月額 54.90US ドル ) ユーザーは 40GB という通信データ量の上限を設定 上限を超えると 1GB に付き 1US ドルの追加料金が発生 (MYCOM ジャーナル, 2008.6.4) http://journal.mycom.co.jp/news/2008/06/04/064/index.html 17
6. 可能な選択肢 ブロードバンド時代に リッチコンテンツによるトラヒックが今後も拡大 設備増分コストの回収モデルがない コスト削減実施 料金モデルの見直し (1) 技術革新の不透明感 コア技術の高速化 100GbE の標準化は 2010 年以降 IPv6 化対応への投資コスト UP (2) 帯域制限の限界 ガイドラインは決まったものの帯域制限などによる効果には限界 (3) ヘヒ ーユーサ 対策 運用コストアップ (1) 料金全体の値上げ (2) ベストエフォートのレベルの多様化例 : 安い変わりに制限のあるメニュー (3) 定額制料金以外のモデル ( 例 : 固定を原則としつつ 夜 10 時から午前 1 時までのピーク時は追加料金が発生するホワイトプラン的モデル ) (4) 先進的ユーザーのための自由な場作り新たな回収モデル??? サービスメニュー 商品 料金は各社独自で自由競争に委ねるべき 最低決めなければいけないルールは共通に 18
7. コンテンツ事業者による負担とその収益の ISP 間の配分は困難 IDC コンテンツの流れ 実際の費用負担 ( お金の流れ ) サービス提供者に負担してもらう場合の費用負担の流れ ( 大変複雑で到底不可能 ) サービス事業者 サービス事業者 国内 ISP 事業者 利用者 アクセス網 トランジット ( 一次 ) 国際 ISP 事業者 海外 ISP 事業者 国内 ISP 事業者 ( 二次 ) インターネットの世界では ISP 同士の事業者間精算の仕組みがないため コンテンツ事業者からの収益を ISP 間でシェアするのは困難 国際的な仕組みでなければ コンテンツ事業者が国外に逃避するだけにしかならない 国内 ISP 事業者 ( 一次 ) ピアリング相互精算なし the Internet サービス事業者 19
8. 大量トラヒック問題に対する当協会の意見 大量トラヒック問題が ISP にとって事業撤退の危険性を伴う重大問題であることを利用者 コンテンツ事業者を含む関係者間での認識の共有が必要 大量トラヒック問題は ISP だけで対処できる範囲を超えており 大量トラヒックを出すコンテンツ事業者やアプリケーション事業者 キャリアと ISP が運用面の工夫や技術的解決策などを共同で検討する場を作るべき 新たな負担の検討 ( 自由競争に基づき 各社が検討するものとして ) 1. 消費者向けのベストエフォートの定額料金サービスを利用して ( 安い料金で ) インターネットに大量の上りのトラフィックを出す事業者に対しては 正当な対価を要求してもよいのではないか 2. 普通の利用者が動画配信を家庭で視聴する程度には定額制を維持し また帯域制御などは行なうべきではないと考える 3. ただし 消費者向けに安価にネットワークを提供するためには インターネットの発展を支えてきたヘビーユーザに萎縮効果を与えないよう配慮しつつも 平均的利用を大きく上回る利用に対しては ある程度のネットワークコストの負担を求めてもよいのではないか 4. 上記 1. と異なり既にネットワーク利用に相当の対価を払っているコンテンツ事業者に追加負担を求めるのは現在は困難ではないか 20