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Transcription:

SCATLINE Vol.94 Winter, 2014 SEMINAR REPORT 新世代ネットワークと情報指向ネットワーク 早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 教授朴容震氏 新世代ネットワークの概要 新世代ネットワークは 現在までのインターネットの改良で はなく ゼロから作り直そうということで クリーン スレー ト デザインと呼ばれています コンパチビリティを考えると 色々と過去の技術に引きずられることになるので 完全にゼロ から構築しようというプロジェクトです それゆえ 今後数十 年間使用できることを想定しています インターネットは現在 完全に社会インフラの一つになっており その社会インフラと してのインターネットを新たに作り上げようということです 当初の予定では 概ね 2020 年代には実現したいというのが 研究者の間での希望的観測ですが 将来のことなので実際はど うなるのかは定かではありません 欧米ではこの新世代ネット ワークのことを フューチャーインターネットと呼んでいます 現在 インターネットは大いに成功しています しかし 現 在のインターネットの基本技術は 1970 年代 あるいは 1980 年代に作られた技術に基づいています その当時からすると 現在は環境も大きく変化しております 当初は研究開発ネット ワークとして使われていたものが 現在は商用ネットワークと して誰でも使えるようになっています また 当初は研究者が 使うネットワークとして開発されたものが 現在は誰でも使え るということで 悪用するユーザも出てきています 本来 インターネットはベストエフォートサービスを提供す るということで 最善を尽くすが失敗も許すことにしています これが基本的な設計思想となっています 最近では ベストエ フォートサービスではあるが メティアによって優先順位をつ けて送るという QoS サービスが要求されています また 当初は固定設置されたコンピュータ中心であったものが 最近はスマートフォンを中心とした移動端末の数が非常に増えてきています サービスアプリケーションもリモートログインからウェブサービス ビデオ ソーシャルネットワークサービスと大きく変化してきています 現在のインターネットの一番大きな問題点はセキュリティです 受け取るメールの 95% ぐらいは概ねスパムメールと言われています それに ウイルス感染や DDoS(Distributed Denial of Service) 攻撃の問題があります 有名なウェブサイトは DDoS 攻撃を受けています 次に移動性やスケーラビリティの問題があります 固定端末から移動端末に移行して ネットワークの規模が急増してきています 利用者数も最近では 50 億人に達し 端末数やトラフィック量も急増しているわけです このほかには マネージャビリティの問題があります 当初のインターネットはネットワーク管理ということを考慮しなかったのです これからのインターネットは 新しい社会のインフラとして 災害 老齢化社会 エネルギーの問題 食糧危機 健康の問題 経済格差の問題 犯罪防止など あらゆる分野で使われることが予想されます 現在までのインターネットは 色々な要求が出てくるたびに コミュニティが協力して新しい機能 新しいプロトコルが考えられて 機能の追加や修正が行われてきました また これらの要求を満たすために プロトコルレイヤも追加されました その例としては レイヤー 2.5 と呼ばれる MPLS(Multi-Protocol Label Switching) があります 以上の理由で 研究者たちは 新しいインターネットをゼロから構築する時期が到来した という考えに至ったわけです 図 1 に示すように 2005 年頃からフューチャーインターネットに関連する研究が始められています まず米国では 国立科学財団 (NSF:National Science Foundation) を中心に研究が進められました 欧州では 第 7 次研究枠組み計画 (FP7:Seventh Framework Programme) というプロジェクトの中でフューチャーインターネットの研究支援が行われ 日本では 新世代ネットワーク そして韓国でも フューチャーインターネット フォーラムという組織を作って研究を始めています 3

図 1 Future Internet 研究図 2 の NSF のプロジェクトを眺めてみると ごく最近では FIA(Future Internet Architecture)Project が 2010 年に 4 つのプロジェクトを採択しました 一つ目はネームド データ ネットワーキングです ICN(Information Central Networking) のプロジェクトで UCLA を中心に研究が行われています 二つ目は NEBULA です ペンシルバニア大学を中心としてクラウドコンピューティング セントリック アーキテクチャとして研究されています 三つ目はモビリティ ファーストです ラトガース大学を中心に無線環境下のモバイル端末をサポートするアーキテクチャの研究が行われています 四つ目はエクスプレッシブ インターネット アーキテクチャです カーネギーメロン大学で研究が行われており 現在までのホスト中心から コンテンツ ホスト サービスという 3 つのタイプを想定し 将来の発展性を包含するアーキテクチャとして研究されています これらの共通点としては 何よりも大きいのはセキュリティです 米国ではご存じのように セキュリティが一番重要な問題となっています 2 番目の共通点がコンテンツ指向 情報指向となっています モビリティ ファースト あるいはエクスプレッシブ インターネット アーキテクチャは この基本概念を取り入れています 図 2 NSF の FIA Project それに伴って通信形態も変化しています 従来はホスト中心 host-to-host のコミュニケーション形態であり IP プロトコルは位置情報であるネットワークアドレスを使ってホストアドレスを指定しています ところが 現在は information-to-user を指向しており インフォメーションをユーザに送るという通信形態になってきています この形態を満足させるために インターネットに新しいプロトコルが考えられました 例えば CDN(Contents Delivery Network) あるいは P2P(Peer to Peer) などです information-to-user を満足させるようなプロトコルが開発されました しかし これらは本質的な解決にはなっていません ロケーション セントリックなネットワークの上に information-to-user を満足させるために CDN あるいは P2P というプロトコルが開発されたということに他ならないからです 本質的に解決するためには すなわち情報アクセスを効率的にするためには インフォメーション セントリック ネットワーキング (ICN) というプロトコル体系が必要になるということです 故に ICN というのは CDN のコンセプトの一般化でもあるとも言えます 以上のことをまとめたのが図 3 です 図 3 ICN の背景 - Internet Paradigm Shift - CDN について図 4 で説明します 頻繁に使われるウェブサイトがあると 一つのノード ( サーバ ) だけでは耐え切れないので 幾つかのノードにデータを分散しておいて 各ユーザはそれぞれ分散されたノードに接続してデータを得るという方法です アクセス方法は幾つかありますが 一つの方法としては オリジナルサイトから最初のページを持ってきて そのページをクリックすると CDN の DNS サーバーに誘導して そこから適宜別のノードに誘導することによって 分散してアクセスさせるというものです ここで見受けられることは 分散ノードを設置してデータをキャッシュしていることです 何故 情報指向ネットワーク ICN か? ICN(Information-Centric Networking) の背景としては インターネットのパラダイムシフトが起こっていることが挙げられます 如何なる目的でインターネットが使われているのか? 当初はリモート リソース シェアリングとして 高性能コンピュータ あるいは高性能プリンターを利用するというような 様々なリソースを遠隔から共有することが主な目的でしたが 現在は情報を共有する 情報をアクセスするという使い方が中心になっています 図 4 CDN のデータの流れ 4

インターネット トラフィックが年代を経ることで どのように遷移しているかを図 5 に示します ( 出典はシスコ ) これを見ると 1990 年代の初期は ファイル転送 (FTP) あるいは e メールが主流でした ところが 2000 年代になると ウェブトラヒックが主流になってきて 2010 年からはビデオデータが 51% になっています 現在は ビデオの比率が一層増えています 故に 現在は如何に効率的にビデオを配送するかということが インターネットでは大きな問題となっています D にもコンテンツがキャッシュされます 次にユーザ 2 が同じコンテンツを要求した場合 B にコンテンツがキャッシュされているので A まで行かずに B から得られます そして E にもキャッシュされます キャッシシング方法は色々あり 今説明したのがオンパス キャッシングで 全てのパス上でキャッシュされます それに対して オフパス キャッシングは ネットワーク上のある特定のノードにキャッシュされます 図 5 米国の Internet Traffic の比率 - 効果的にビデオを配送することが大きな課題 - 現在のインターネットの情報アクセスでは 通常 先ずはキーワードでサーチエンジンをアクセスし 該当する URL 情報を得て その情報でもって DNS サーバーに対応する IP アドレスを提示してもらい その IP アドレスに基づいてプロバイダーのウェブホストにアクセスし 実際のコンテンツを得るという手順をとっています これに対して ICN では 欲しい情報 コンテンツの名前を送って 直接手に入れます 極めて単純に 直接的にコンテンツを得るということです 両者の比較を図 6 に示します 図 7 ICN In-network Caching ICN を使うと どういうことが解決されるのか? まずは 高速にアクセスできます 名前により直接アクセスして低遅延 高信頼になるのは 元々のソースまで取りに行かなくても中間にあるルータがキャッシュしているので そこに保存してあるデータをもらうことで低遅延になります また 同じデータがネットワーク内にいくつかキャッシュされているので 信頼性があるということです セキュリティに関しては 従来の IP では 通信路をセキュアにするという考えに基づいていますが ICN コンテントにセキュリティの機能を持たせています 移動性が優れています 中間に位置するルータにデータがキャッシュされているので 移動後のユーザの近くに位置するルータからすぐコンテンツが得られるので ユーザにとって移動性に優れていることになります 図 8 は有名な砂時計モデルです 現在のインターネットでは スリムなウエストを持ったアーキテクチャであって その中心にある IP がユニバーサルネットワーク層として機能しています Everything over IP として IP 上で色々な応用アプリが動作し IP over Everything として IP は色々な通信形態が使えます 新しい技術 コミュニケーションテクノロジーが容易に利用でき 新しいアプリケーションも開発し易いというのが 現在のインターネットの成功の一つだとも言われています 図 6 ICN と Internet ICN の特徴は コンテンツに名前をつけて 場所ではなく直接名前でアクセスすることです 特徴的なことは IP テーブルではなく 名前テーブルを使ってルーティングすることです 他には コンテンツ セキュリティが非常によく考えられていることとインネットワーク キャッシング 即ちネットワークの中でキャッシングしていることです インネットワーク キャッシングの例を図 7 に示します ユーザ 1 があるコンテンツを欲しい場合 ソース元 A まで取りに行ってそこからもらって来るとなると 途中のルータ B 図 8 砂時計アーキテクチャ 5

これに対して ICN では スリムなウエスト部分にコンテンツが当てはまり このスリムなウエストのプロトコル アーキテクチャ体系を如何に作り上げるかということが ICN の研究目標となっています あります 世界の ICN 研究プロジェクト 図 9 の ICN の研究プロジェクトを見ると 2000 年代後半から始まっています 非常に新しい技術です 米国で有名な論文としては DONA(Data-Oriented Network Architecture) がカリフォルニア大学バークレイ校から出されています 残念ながら その後のインプリメンテーションは行われておらず 途中で中断していますが 非常に参考となる研究論文となっています CCN(Content-Centric Networking) は ゼロックスのパロアルト リサーチセンターが中心に研究が行われています リーダーはバン ジェイコブソンで インターネットの世界では有名な方です 現在の TCP のフロー制御プロトコル部分に関する新しい提案をした方です NDN(Named Data Networking) は NSF のフューチャーインターネット アーキテクチャ プロジェクトで支援されているものです UCLA のリシャ ジャンという方がリーダーをしています CCN と NDN は共同で研究しているので 呼び名が違うが同じものです これは 3 年間で 790 万ドルもの予算をもらっています 図 9の緑字で示したのはプロトタイプのソフトウエアです 誰でもダウンロードでき CCNx により CCN をコンピュータ上で動作させることができます 同様に ndnsim は NDN を NS-3 シミュレーター上で動作させることができます 欧州においては FP7 の支援下で研究が行われているのですが フューチャーインターネットの全体の予算は 10 億ユーロと言われています ですから 欧州はこのフューチャーインターネットに大きな投資をしていることになります 1970 年後半から始まって 欧州では ISO(International Organization for Standardization) の OSI(Open Systems Interconnection) を強力に推進していたのですが 結局米国が開発した現在のインターネットとの競争に敗れて インターネットを使わざるを得なくなったという歴史があります そういうことなので 米国には負けたくない フューチャーインターネットでは自分たちが優位を保ちたいということの現れです 概ね 2000 年代後半から 米国と同じ時期に欧州のフューチャーインターネット研究も始まっています 現在のインターネットの場合 技術開発に 10 年遅れをとったわけで これだけ遅れたら挽回するのは非常に大変ですが 同じ時期に始めていれば 米国に対抗できるということです 欧州のICN プロジェクトとしては PSIRP(Publish/Subscribe Internet Routing Paradigm) 後続の PURSUIT(Pursuing a Pub/Sub Internet) が挙げられます プロジェクト期間はそれぞれ 2 年半です FP7 では 継続して行う場合 継続研究であっても名前を変えています PSIRP は今現在では PURSUIT と呼ばれています Blackadder はプロトタイプのソフトウエアです 他には NetInf(Network of Information) というプロジェクトがあります 現在は SAIL(Scalable & Adaptive Internet Solutions) と呼ばれています GIN もプロトタイプ ソフトウエアです これ以外にも COMET (COntent Mediator architecture for content-aware network) というプロジェクトも 図 9 ICN 研究プロジェクト代表的 ICN の基本動作今現在活動中の ICN は 米国と欧州のプロジェクトだけです 米国のNDNとCCNは共同研究されているので実質一つとみなされます 欧州は図 9 で示した以外にも幾つかあり これらのプロジェクトが同時並行して研究されています 米国の CCN の基本動作について図 10 で説明します CCN では インタレストパケット ( 要求パケット ) とデータパケット ( 応答パケット ) の 2 種類を使います インタレストパケットはコンテント名を有していて この名前のコンテンツを要求することになります データパケットは コンテンツ名とそのデータ ( コンテンツ ) 部分を共に有しており 更にシグネチャーというセキュリティ機能が追加されています ユーザ 1 がインタレストパケットを送出する (1) と CCN ルータで名前をベースにしてルーティング (2) して 次のルータに送ります 次のルータも名前をベースにしてルーティング (3) して 目的のソースに要求が届けられます ソースからデータパケットが返されて (4) コンテンツがルータでキャッシュ (5) され 元のルート (6) を通って 再びキャッシュ (7) されて ユーザ 1 に要求したコンテンツが到着する (8) ことになります ユーザ 2 がインタレストパケットにより同じコンテンツを要求する (9) と ルータにキャッシュされているので それが応答として返されて来る (10) ことになります 図 10 CCN の基本動作 CCN ルータの構造を図 11 で説明します 基本的に三つのテーブルを持っています 一つ目はコンテント ストア (CS) で キャッシュしているコンテンツ ( データパケット ) すなわち何 6

をキャッシュしているのかをこのテーブルで示しています 二つ目はペンディング インタレスト テーブル (PIT) で 未解決のインタレスト要求を記憶しています インタレストパケットがここを経由して次のルータへ送られたときに 経由したということを記憶しておきます 三つ目はフォワーディング インフォメーション ベース (FIB) で IP で使用しているルーティング テーブルと同じ機能です 名前と行先情報 すなわち どこのインタフェース (CCN ではフエ-スと呼ぶ ) を通じて転送するかを記憶しています ト内に入れて送ります ユーザ側では シグネチャーを公開鍵で復号化してハッシュ値を計算し コンテンツ名とデータを使って計算されたハッシュ値と一致するかどうかで 改竄やなりすましをチェックします 図 13 デジタル署名の作成 図 11 CCN ルータのアーキテクチャ CCN で使用するネーミング構造は 図 12 の例のように parc.com/videos/... という階層構造を取っています 同時にこの名前はヒューマン リーダブルなコンテンツ名になっています このネーミング体系は まだ研究段階にあります 図 14 デジタル署名の検証 図 12 CCN Naming System CCN のセキュリティは コンテント ベースド セキュリティと呼ばれ セキュリティ機能がデータパケット自体に組み込まれているのが特徴です 図 13 に示すように データパケットの中にデジタル署名 ( シグネチャー ) が含まれています このデジタル署名によってセキュリティが確保されます これには公開鍵基盤 (PKI:Public Key Infrastructure) を使用しています 現在の IP ネットワークが IP アドレス間のチャネルをセキュアにしているのに対して 一つ一つのコンテンツにセキュリティを持たせて データの完全性を確認し また 認証を行っています デジタル署名は 図 14 に示すように シグネチャーで検証します コンテンツ ソース側では コンテンツ名とデータを合わせて1 方向ハッシュ関数でハッシュ値を計算し これをプライベート鍵で暗号化してシグネチャーを作り データパケッ PURSUIT では 違った方法を用いています 図 15 に示すように 供給者 ( コンテンツ ソース ) の方でデータをランデブーシステムというところに登録 (1) します 登録後に要求者がデータ名を使って要求する場合 このランデブーシステムに要求を出します (2) ランデブーシステムでは 要求者のデータ名に当たるデータをチェックして 登録したものが一致する (3) 場合 供給者から要求者まで届けるのにはどういうパスを経由すればよいかという情報を持っているトポロジーマネジャーに問い合わせをし 得られたパス情報 (FI:Forwarding Identifier) を供給者に渡す (4) と そのパス情報を使って供給者は要求者にデータを送る (567) という仕組みになっています 図 15 PURSUIT の基本動作 7

同じく欧州のプロシェクトである NetInf では 図 16 に示すように 二つの方法を取り入れています まず 名前解析方式というのは いわゆる DNS と同じやり方です 要求者はネーム リゾリューション サービスにデータ名を送って (1) それに対するロケーション 即ち IP アドレスをもらってきます (2) その IP アドレスを使って供給者にデータを要求して (3) コンテンツを得る (4) という方法です もう一つはネーム ベース ルーティングという方法です データ名を直接使って GET メッセージを送り (5) 名前を使ったルーティング (6) が行われて 目的の供給者に到達し その名前のルーティングを逆にたどって (78) 要求者にデータを返します NetInf では ロケーションを中心とする名前解析方式と名前ベースルーティングの両方使っています 図 16 NetInf の基本動作表 1 に CCN PSIRP NetInf の比較を示します 大きな違いは CCN は階層構造を取っていますが 他の二つはフラット構造です どれもデジタル署名は使いますが PKI を使うのは CCN のみです キャッシングはオフパスとオンパス 両方使うのと三者三様です ネットワーク層を運んでくれるリンク層以下は CCN NetInf は IP 以外にも色々使えますが PSIRP は IP または PURSUIT のプロトコルを使います も表せるようになっています 図 17 フラット構造な名前スペース ICN の学会活動と標準化現在の ICN に関する標準化活動を図 18 に示します ACM(Association for Computing Machinery) の SIGCOMM (Special Interest Group Data Communication) という 権威のあるコンファレンスの一つですが そこで 2011 年から ICN ワークショップが行われています 今年は 8 月に香港で開催されます IEEE にも INFOCOM(International Conference on Computer Communications) という有名なコンファレンスがあります ここでも 2012 年から ICN ワークショップが開かれています インターネットの標準化は IETF で行われますが 将来の革新的な技術の研究を推進する組織が IRTF(Internet Research Task Force) です IRTF の議論の結果 必要と認められると IETF に上げられ標準化が行われます この IRTF で ICNRG (Information-Centric Networking Research Group) が去年の 4 月に発足しています ITU の Study Group 13 の中でも ICN の標準化が始まっています そこでは ICN をデータ アウェア ネットワーキングと呼んでいます IEEE のコミュニケーションマガジンには 去年の 7 月と 12 月に ICN の小特集が組まれています それ以外にも アジア フューチャーインターネット フォーラムという組織が作られていて 大学院生を対象とした ICN ワークショップが開催されています 表 1 ICN の特徴の要約 PURSUIT や NetInf などは フラット構造な名前を使っています 図 17 に示すように フラットデータ名は データラベル L とデータ供給者の公開鍵のハッシュ値 P との二つを使って表しています 要求者がこれで要求を出すと 供給者からデータが返ってきて 同時に公開鍵とデジタル署名を受信して デジタル署名等の復号化ができることになります ちなみに PURSUIT では L と P と同時にスコープ ID というのも使って コンテンツがどういうセットに属するかということ 図 18 ICN Workshop/ 標準化では アジアでの ICN の研究の状況はどうなっているのか? 中国では Huawei や精華大学で ICN の研究が進められています 日本では 昨年 情報通信研究機構 (NICT) で EU との共同プロジェクトのアナウンスがありました その中の一つに ICN のプロジェクトがありました 一部の企業で行われていますが まだ ICN が実際のビジネスに直接結びつくかどうか微妙 8

な段階なので 様子を注視している会社も多いようです いくつかの大学で関心を持って始められています 韓国では サムスンがスマートフォンのコンテンツを効率的に流すためという観点から研究を始めています 他には コリア テレコムやソウル大学などが挙げられます ICN の今後の発展の一つの課題として これを如何にディプロイメントするかということですが挙げられます 図 19 に示すように ICN は IP 上のオーバーレイネットワークとして使えます これを徐々に IP の部分を少なくして 最終的にはピュアな ICN にすることが可能であるので ディプロイメントがとても容易です IPv4 と IPv6 の移行に約 15 年かかったのは互換性がなかったからで ICN は現行の IP と混在して使えるのが大きな特徴であり そういう意味では 今後の展望は明るいと言えます まとめと課題最後に ICN は有望なフューチャー インターネット アーキテクチャであって ホストのエンドポイントアドレス中心からコンテンツ ID 中心へと変わるパラダイムシフトです 課題としては 図 20 に示すように ネーミング体系をどうするか 効率的なルーティングにはどうすればよいのか キャッシングポリシーは どうするのか ICN はどの問題に効果を発揮するのか 更には ICN 技術はどのような制約 制限があるのか等 実現にはまだ多くの研究が必要です さらに一つ大きな問題としては コンテント数が挙げられます 今現在の IP 数は概ね 10 の 9 乗ぐらいです これに対して名前つきのコンテントの数は 今現在で 10 の 12 乗から 15 乗ほどです これから益々増えていくので ネーミング体系と共に ルーティングのためのネームテーブルを如何にして作っていくかということも研究課題として取り組んでいく必要があります 図 19 ICN の展開 図 20 まとめと課題 本講演録は 平成 25 年 6 月 14 日に開催されました SCAT 主催の 第 90 回テレコム技術情報セミナー テーマ 新世代ネット ワークと情報指向ネットワーク の講演要旨です * 掲載の記事 写真 イラストなど すべてのコンテンツの無断複写 転載 公衆送信等を禁じます 9