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1 2017 年度慶応大学総合政策学部 ( 小論文 ) 解答解説 問 1 解説因果関係と相関関係の違い および相関関係から因果関係に迫るには何をすればよいか という点について 資料 1~4を要約して説明するという問題である 自分の言葉で という条件がついているので 自分なりに 解釈 した上でまとめることが要求されている 資料 1~4の概要は以下の通りである 資料 1: 順問題と逆問題原因から結果を予測することが順問題であり 結果から原因を探ることが逆問題である 順問題において興味深いのは観察される現象の背後にある事態を知ることであり この思考の方向はなぜそうなるのかというところにある 従来の法則体系で説明できない現象が顕在化するとともに逆問題の発想が現われた 逆問題は科学者が圧倒的な意識改革を迫られた場面場面に関与してきた 資料 2: 因果関係の難しさ因果関係とはある事柄を原因としてある結果が生じる関係をいう 恒常的連続性と相関関係があり 疑問が出てきたら繰り返し実験して確かめることができるような場合には因果関係の認定は容易である しかし多くの場合因果関係の認定は容易ではない たいていの場合結果は観察できても原因は簡単には観察できない また 原因と結果の間に時間的乖離がある場合もある さらに個人差のある問題については確率論的に因果関係を考えるしかない 原因が一つでない場合は原因同士がどういう関係にあるかを検討する必要がある 因果関係をめぐる困難は多いが ある程度のデータが入手可能なら 統計的に因果関係に迫るという方法もある 資料 3: 因果関係と相関関係相関関係から因果関係を想定するには注意が必要 そこには少なくとも二つの問題がある 一つは相関関係は二つの事柄の関係を記述するだけであり 因果の方向はきまらないということである 二つの事柄のうち時間的にどちらが先行しているかの確認が必要になる もう一つは見せかけの相関関係の問題である 潜在変数が存在し それが双方の変化の原因になっている場合がある ただし 潜在変数が存在してももとの二つの事柄に因果関係が残っている場合もある また潜在変数は一つとは限らず 複数の潜在変数が関与している場合もある 資料 4 相関関係から因果関係を確定するためには 他の変数の影響をそろえても相関関係が確認できるということが条件になる 以上の内容をまとめる形で論述することになるが 資料 1~4を読んで要約する という条件が付されている以上 全ての資料に触れる必要がある まず 因果関係と相関関係の違いについては双方の定義が必要になる 因果関係については資料 2に ある事柄を原因としてある結果が生じる ことだと説明され 相関関係についても資料 2で具体的に 力の入れ方と壊れ方の間には 力を強くすれば壊れ方がひどくなるという相関関係があります と説明されている これを一般化すれば 一方が変化すればもう一方も変化する関係 という形で説明できる しかし 違い の説明は 対比 の説明であるから 因果関係と相関関係の共通性を踏まえて説明する必要がある 因果関係が非常に条件の限定された相関関係であることに気づけば まず相関関係を説明し 相関関係を限定したものとしての因果関係という形で説明できる これについては 資料 3がポイントになる 相関関係は二つの関係の方向性は示さないが 因果関係は原因と結果の時間的順序が明確であることと相関関係には潜在変数が関与していることがあるが

2 因果関係には潜在変数が関与しないことを述べれば説明できる 次に 相関関係から因果関係に迫るには何をすればよいかであるが これはまず資料 1にある説明を押さえる 相関関係の一方を結果とおいて その結果の原因としてもう一方を想定できるか また 想定した原因から結果が導けるかを考えることになる この時 資料 2にあるように確率論的思考も必要となる そこに潜在変数は関与していないか あるいは資料 4にあるようにその変数の影響を揃えても相関関係が成立するかを考えていくことになる 解答例 1 相関関係とは二つの事象の間に一方的または双方的に因果関係がある場合を言い 因果関係とは その中で二つの事象の間に一方向の原因 結果の関係がある場合を言う 相環関係のある事象の一方を結果とし ( 逆問題 ) その原因から結果が生じるか ( 順問題 ) を検証することによって因果関係に迫っていくことができる その検証の過程で潜在的な原因の関与を考慮すること 原因と結果の取り違えに注意すること 個別的事象について因果関係か 集団的な事象についての確率的な因果関係かの考慮が必要で 様々な変数の影響をそろえ 検証を繰り返すことで因果関係に迫っていくことができると考えられる 解答例 2 相関関係とは2つの事象のうちの一方が変化すればもう一方も変化する関係である 相関関係自体は変化の方向性は示さないが 一方が時間的に先行してもう一方の原因となれば因果関係となる また相関関係には潜在変数が関与する見せかけの関係があるが 因果関係にはそれはない 相関関係から因果関係に迫るには 相関関係の一方を結果として その原因としてもう一方を想定できるか また想定した原因からもう一方が導けるかを検証することが必要である この原因 結果の関係は確率的なものも含めて考える必要がある また潜在変数の関与の可能性を考え その変数の影響を揃えても相関関係が成り立つかどうかの検証も必要となる 問 2 3 解説都道府県別の平均年収と糖尿病死亡率の散布図をもとにして 糖尿病の死亡率を最終的な結果とした場合の糖尿病死亡率と平均年収の間の関係の構造を考察する問題である 糖尿病と年収に関わる説明がなされている資料があるので まずその記述を押さえることが最初の取り組みになる 資料 2では糖尿病にかかる原因の一つとしてカロリーの過剰摂取 ( 肥満 ) があげられ それは長い間の食生活の積み重ねであると述べられている また遺伝的要因等もあるはずだと述べられている 資料 4では肥満について 階級差が体格に影響する時代は過去のものになり むしろ肥満は自己コントロールができない証拠とみなされると説明されている 資料 1~4で述べられている論点はこの2 点である 設問では資料 5~7を踏まえてという要求がされているので 資料 5~7の概要を以下にまとめてみる 資料 5: 自制心と欲求充足未就学時におけるマシュマロ テストで 待てる秒数が多い人ほど 米国の大学進学適性試験の点数がよく 青年期の社会的 認知的機能の評価が高かった また肥満指数が低く 自尊心が強く 目標を効果的に追求し 欲求不満やストレスにうまく対処できた 中年期には待てる人と待てない人では中毒や肥満と結びついた領域の脳スキャン画像ではっきり違いが見られた この自制する能力は民族によって違いがあるようにも見えるが 家庭環境の差異を揃えて比較してみると違いは消えてしまった 資料 6: 原因と結果の法則原因と結果の法則は揺らがない 物質的 知的 精神的達成のすべてが努力の成果である 資料 7: 社会疫学社会疫学は社会構造 個人 健康および疾病の関係を多重レベルからなる相互関係としてとらえようとする点に

3 特色がある 経済的水準の低さや貧困は健康にとって必要最小限度の必需品へのアクセスを制限し 健康の悪化を招く また収入の水準により得られる バランスのとれた栄養 快適な持ち屋 自家用車の所有などの豊かさは連続的に健康に関連しているのかもしれない 社会的な信頼感が健康に影響を与えている可能性も議論されている ライフコース アプローチによる疾病要因相互の因果関係はリスクの蓄積モデルとリスクの連鎖モデルを用いることが多い 以上を踏まえて 最終的な結果である糖尿病の死亡率からその原因を考えていき それと平均年収との関連を考えていくことになる まず 糖尿病による死亡の原因が糖尿病の罹患にあることは明らかである しかし 糖尿病にかかったからといって必ず死亡するわけではない 適切な医療措置を継続的に受けることによって死亡リスクを低減させることができる 健康保険制度があるとはいえ 医療には費用がかかるので 収入の多寡が医療措置を受けることができるかどうかを左右することになる その意味では年収と死亡率の間には原因 結果の関係が成り立つ 次に糖尿病の罹患については 主な原因として資料では肥満と遺伝的要因を挙げている 肥満に関しては資料 4 6で自己コントロールの努力の有無が肥満を左右するという視点が示され 資料 2では食生活の習慣が肥満を左右することが示されている また 資料 5では自己コントロール能力の有無が家庭環境と関わることが示されている 食生活についていえば 一般に収入が低いほど高カロリーの食事をする傾向があるので その意味でも収入が高いほど肥満になる確率は低くなる このように考えてみると 平均年収は糖尿病死亡率の要因のひとつとして位置づけることができる と結論できそうであるが果たしてそうであろうか ここで考えなければならないのは 上に見た年収と死亡率との関わりは あくまでも 個人の年収が高いことは糖尿病の死亡リスクを確率的に低減させる ということであって それがそのまま 都道府県の平均年収が高いことは都道府県の糖尿病の死亡リスクを確率的に低減させる ということにはならない可能性もあるということである 設問では都道府県の年齢構成については同一となるよう調整してあると記されているが それ以外には一切説明がない ここで問題になるのは平均年収の内実である 平均が意味を持つのは正規分布かそれに近い分布がある時である 現代のように 格差 や 二極化 が問題になる社会状況では各都道府県内の収入の分布が正規分布することは考えられない 特に格差や二極化は都市部において進行するという傾向がある ( 先進国において進行することを敷衍すれば ) となると大都市を抱える都道府県では平均収入は高い( 物価水準や大企業の存在などからして ) が だからといって他の都道府県よりも収入の高い人が多いとはならない可能性がある したがって 糖尿病死亡率と平均年収の間の負の相関は見せかけの相関である可能性も出てくる となると 平均収入の低い都道府県の糖尿病死亡率を高める要因はどこにあるのだろうか 考えられるのは適切な医療措置を受けるかどうか という点において 経済的要因の他に医療措置を受けることを妨げる要因があるのではないか ということである その一つに都道府県による医療格差の問題が考えられる あるいは 平均年収は名目的なものであり 実質的な収入は物価との関係で決まるので 都道府県の平均物価との関係で実質収入を考えた場合には 相関関係が低下する可能性もある また 地方では伝統的な人間関係が残存していることが多く そのような地域では仕事上の人間関係の他に伝統的な人間関係を抱えてストレスが増大するという可能性もある 社会疫学的な視点をとった場合 さまざまな 地域的な差 が死亡率に影響している可能性は否めない したがって結論的には次のようになるだろう 糖尿病死亡率と収入の多寡の間にはある程度の因果関係を想定することはできるが 都道府県の糖尿病死亡率と平均収入の関係については 平均収入の内実が不明瞭であることと 社会疫学的な視点からは死亡率に 地域差 が関与する可能性があることから 確実な相関関係があると断定することはできない ということである

4 尿病発症死亡解答例 1 糖( 貧困の世代間連鎖 ) 社会への信頼 遺伝 個人の努力 個人が育った家庭の豊かさ 肥満 ( 収入の高さ 約束を守る大人と の同居 バランスの良い食事 ) 規範意識受診率の高さ 個人の貧困 低収入 格差 都道府県の平均年収の高さ 医療 社会制度の充実 ( 医療の格差 ) 糖尿病死亡の原因となるのは糖尿病の発症である その原因は遺伝 肥満 生活習慣などである 糖尿病の死亡の原因は これらに加えて医療制度の不備 そしてそれを含めた社会制度 社会資本へのアクセスの困難さである これらと都道府県別の平均年収の関係はどうか 平均年収は税収と相関すると考えられるので公的医療制度の整備の度合いと相関するだろう 一方 平均年収とその地域の個人の収入は相関しない 格差が拡大する中 平均年収は都道府県内の平均値にすぎないからである したがって貧困率のデータが必要である 低収入は 食生活のバランスを悪くし 肥満のもとになり 医療機関への受診を難しくし 死亡率を上げる原因の一つと考えられる 次に 家庭の環境について 親の世代の豊かさが子の世代の収入に影響し ( 貧困の世代間連鎖 ) 栄養状態にかかわり 親の社会性が子どもの社会への信頼に影響し それらの不足 欠如が死亡の一因となるだろう とすれば 原因は大きく 個人が育った環境 個人の収入 地域性などの個人の努力を超えたものが考えられ この三つについて他の二つの要因を除いて順問題として検証することで因果関係に迫ることができる

5 解答例 2 糖尿病死亡率 適切な医療の受診? 個人の年収? 平均年収 分布等の内容? 糖尿病発症率 家庭 ( 親 ) の収入 都道府県の賃金差都道府県の物価格差 都道府県の医療格差 様々な文化 社会的差異 遺伝的要素 肥満 適切な食生活 本人の努力 地域差 糖尿病での死亡の直接の原因は糖尿病の発症である が発症しても適切な医療を受けることができれば死亡のリスクは減少する 適切な医療を受けるためには費用がかかるので 年収が低いと死亡リスクは増大する また 発症の原因の一つとして肥満が挙げられる 肥満の原因は本人の努力という要因もあるが 食生活の習慣もその原因の一つであり 家庭の収入と関係する 収入が低いと食事は概して高カロリーになりやすいからである したがって 収入が低いことは糖尿病の死亡率を高める要因として作用するということができる しかしそのことからただちに都道府県の平均年収が糖尿病の死亡率を左右する要因であると断定することはできない まず平均年収はあくまで平均であって 平均が低い事が低収入の割合が高いことになるとは限らないからである また 平均年収は都道府県による最低賃金の差や雇用機会の差などに左右される 適切な医療の受診に関しても都道府県による医療格差が作用することが考えられるし 糖尿病の発症率自体にも地域差が関与する可能性がある したがって 平均年収と死亡率の関係はこれらの要因の関与度合いを分析することなしには確定できない