2017年12月15日：髙橋信次記念講演.pptx

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1 医療放射線防護連絡協議会 2017 年次大会 髙橋信次記念講演 I C R P 防護体系の変遷 佐々木康人 2017 年 12 月 15 日 ( 金 ) 11:00-12:00 於 : 島津ビルイベントホール ( 東京 )

2 私自身のこと 内科医の修練を受け 核医学を専門とし 放射線科医に転身した ICRP 主委員会委員 ( ) UNSCEAR 日本代表 議長 ( ) ICRP 刊行物翻訳委員会委員 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

3 話題 1. 近代科学と放射線医学の誕生 2. 放射線は両刃の剣 -ICRPの発足 3.ICRP2007 年勧告へ至る道 年 年の歩み- 福島事故の影響参照浜田信行 : 国際放射線防護委員会の構成 専門委員会の変遷と最近の動向 Isotope News No.754, 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

4 科学者とその生業のはじまり Science 科学 は 19 世紀半ばに成立 Scientist 科学者 の造語ヒューウェル 1843 年 ist 狭い領域だけを行う人の意 scientia ( 知識 ) の特定領域の専門家 村上陽一郎新しい科学史の見方 NHK 人間大学 1997 年

5 It All Began in 1895 W. C. Röntgen demonstrates his x-rays in Würzburg on Geheimrat von Kölliker s hand

6 放射線医学の 3 分野 診断学 ( 画像医学 ) X 線の発見 1895 年 11 月 8 日 治療学 ( 腫瘍学 ) ラジウムの発見 1898 年 12 月 26 日 核医学 (RI 検査 RI 治療 ) 放射能の発見 1896 年 3 月 2 日追跡子法の開発 1913 年

7 放射線は両刃の剣 1896 年 E. Grubbé X 線皮膚炎を報告 W. Fuchus が手の防護について助言 放射線防護の原則時間距離遮蔽 職業人の被ばく管理

8 放射線障害の実例 (1) X 線熱傷と脱毛放射線誘発皮膚がん放射線誘発白血病鉱山労働者の肺がん夜光塗料工員の骨肉腫 X 線 ラジウム受難者碑 1896 年 1902 年 1911 年 1924 年 1934 年 1936 年 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

9 国際放射線防護委員会 (ICRP) 創設 1928 年第 2 回 I C R ストックホルムにて International X-ray and Radium Protection Committee (IXRPC) 設立 International Commission on Radiological Protection(ICRP) 議長 :Rolf Sievert

10 状況の変化 人工 RI 加速器原子炉核兵器核兵器実験によるフォールアウト 1950 年 IXRPC ICRP に 改名 1955 年原爆被ばく者に 白血病頻度増加 一般公衆の被ばく管理

11 一般人における体内セシウム -137 大気圏核実験によるもの 0.12 年線量 (msv) Year 環境に放出された人工放射線のなかで最大 世界の線量は 1963 年に最高値 = 0.11 msv 現在の世界平均線量値 = msv 特定地域では 高レベルの被ばく 地下核実験 被ばくはほとんど無視できる 国連科学委員会報告

12 国連の委員会 U N S C E A R United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation 27 ヶ国が代表団を送り 年 1 回委員会を開催して国連総会へ報告 世界中の放射線源と影響について情報収集 科学的健全性を検証し 被曝と影響を推定 数年に 1 回まとめの報告書を発表

13 プレナリーセッション会議風景

14 放射線防護規制作成の国際的枠組み 研究成果 ( 放射線影響 ) 統計資料 ( 線源と被ばく ) UNSCEAR 報告書 ICRP の勧告 IAEA の提案する基準に基づいて国内の放射線防護管理規制が作られている ICRP 勧告書 IAEA 防護 管理規準 最新は ICRP2007 年勧告現行の障害防止法は 1990 年勧告を取入 国内規制障害防止法医療法他

15 ICRP の役割 * 非政府機関として放射線防護の理念と原則を勧告し助言的役割 * 近年は UNSCEAR 報告を科学的根拠とし 社会の倫理的価値判断の動向と過去の経験に基づいて勧告を作成 * 過去に出版した総論的勧告 1928 年 1946 年 (Publ.6) 1966 年 (Publ.9) 1977 年 (Publ.26) 1991 年 (Publ.60) 放射線障害防止法改正 2001 年 4 月 2007 年新勧告 (Publ.103) 放射線審議会で検討中

16 放射線防護基準の変遷 過去 医療従事者の防護 人の防護 確定的影響の回避 実際的助言 徳倫理 全職業被ばく 環境は防護されると想定 確率的影響の認知 線量限度 功利主義倫理 現在 全ての被ばく 環境 ( 人以外の生物種 ) の防護 確定的影響の回避確率的影響の最小化 最適化と拘束値 参考レベル 義務論倫理

17 ICRP 全体会議 (2001 年 9 月 1 日 ) での Clarke 委員長講演要旨 (1) 1) 複雑になりすぎた放射線防護体系の単純化を目指す 2) 1977 年勧告は功利主義倫理 (Utilitarian ethics) による指針であった 費用 便益分析に基づき社会全体の防護に中心をおいた 3) 1990 年勧告では 最適化原則に改訂を加え 個人の防護に重点を移そうとした 拘束値の概念を導入したのはその表れである 4) 21 世紀の放射線防護は平等主義倫理 (Egalitarian ethics) に基づく指針とし 制御可能な線源からの個人線量に焦点を当てたい 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

18 ICRP 全体会議 (2001 年 9 月 1 日 ) での Clarke 委員長講演要旨 (2) 5) 自然放射線レベルを基準として リスク要因の関心 線量域を設定したい 6) 行為の正当化には 費用対便益の視点が従来通り 重要であるが より定性的なアプローチを重視したい 7) 防護の最適化には ALARP(as low as reasonably pracdcable) の概念を導入し 良識 (common sense) を重視する また stakeholder ( 利害と関心のある 人々 ) の関与が必要である 8) 防護体系には dose for protecdve acdon を取り入れ る 医療は別扱いとする 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

19 ICRP2007 年勧告の構成 本体刊行物 103 本文基礎資料 (Foundation Documents) 刊行物 103 附属書 A( 生物 ) B( 線量 ) 補強資料 (Building blocks) 刊行物

20 勧告の目的達成 放射線被ばくとその健康影響に関する科学的知識科学的推定 社会的 経済的側面 各種リスクの相対的重要性価値判断 説明と透明性信頼 ICRP Publ.103 Para.(27)

21 ICRP2007 年勧告の特徴 年勧告との違い -(1) 1. 作成過程の公開と意見募集 ( 透明性と stakeholder involvement の重視 ) 2. 環境 ( 人以外の生物種 ) の防護 ( 第 8 章 ) 3. 患者の医療被ばく は別扱い( 第 7 章 ) 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

22 患者の医療被ばく 刊行物 章患者 介助者と介護者 生物医学研究志願者の医療被ばく刊行物 105 医学における放射線防護他補強資料 (Building Blocks): 112, 113, 117, 120, 121, 127, 128, 129, 135 * 意図的 自発的照射 * 正当化は3 段階 * 最適化に診断参考値 (DRL) 使用 * 線量限度は適用されない

23 ICRP2007 年勧告の特徴 年勧告との違い -(2) 4. 防護体系 1) Procedure base Situation base 況 ) ( 行為と介入 ) ( 計画 緊急時 現存被ばく状 2) 最適化重視拘束値と参考レベルを指標 ( 線量限度からの離脱を企画 ) 3) 代表的個人の定義 representative person critical group 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

24 ICRP 放射線防護体系での線量拘束 参考レベル 線量限度の利用 被ばくの状況 / 種類 職業 公衆 医療 計画 限度拘束 限度拘束 診断参考 緊急時参考参考ー 現存ー ( 注 ) 参考ー 注 : 計画職業被ばくの一部として扱う ICRP Publ. 103 より引用

25 防護の最適化 便益を最大にする 経済的 社会的要因を考慮した上で合理的に達成できるだけ被ばく線量を低減 (ALARA) 放射線安全文化 : 被ばくの線量とリスク低減に最善を尽くしたか? 継続的 反復する過程 : 被ばく情報の同定適切な拘束値又は参考レベルの選定防護手段の確定現況での最適手段の選択 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

26 現存被ばく状況における 被ばく線量低減の考え方 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

27 ICRP2007 年勧告の特徴 年勧告との違い -(3) 5. 線量体系 1) 実効線量の定義と利用法の明確化 2) 集団線量からの離脱 6. 放射線生物学 確定的影響 組織反応 1) 確率的影響の名目リスク係数変更 2) 放射線加重係数と組織加重係数変更 3) 標的外への影響など新知見を認知 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

28 ICRP タスクグループ (TG)84 の 福島原発事故調査報告 * アベル ゴンザレス副委員長が主査 メンバーの半数は日本から参加 * 18 項目について問題を提起し 提言 * これまで想定されていた 急性 の放射性物質事故と異なり 複数の原子炉から 長期にわたり漏洩放射能が環境を汚染した 遷延 事故で 現在の防護体系と異なる点がある * 防護線量は放射線防護 管理に有効に使用されてきたが 一般公衆との 意志疎通の目的には向いていない 簡易で理解しやすい量 単位の必要性を示唆 * 事故直後の医療対応に多くの課題 専門分野横断的協力が必要 * 医療従事者が放射線の基礎知識と緊急被ばく医療を学習し 訓練を受ける必要性を強調 TG 93 Publ.108 と 111 の改訂 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

29 放射線防護に用いられる防護量と 実用量の体系 吸収線量 D 身体中において定義されている様々な線量 ( 防護量 ) 臓器又は組織 T 中の等価線量 H T 実効線量 E 預託線量 H T (γ) E T (γ) 集団実効線量 S 身体中における線量の測定と評価のための様々な計測量 ( 実用量 ) 外部被ばくに対して エリアモニタリングのための線量個人モニタリングのための線量 内部被ばくに対して 例えば 摂取量を推定するために用いる空気中濃度又は身体中濃度の測定 2007 年勧告 p.221 に掲載

30 実効線量 (E) の使用 防護基準順守の指標 前向きの計画に使用 特定個人の被ばく後の詳細な線量 リスク 推定 評価には用いない 疫学研究には用いない

31 集団実効線量の使用 最適化の手段として使用 技術や防護手段の比較に使用 疫学的リスク推定には使用しない疫学に基づくリスク予想に用いるのは不適切 がん死亡の数の予測には使用しない ( 不合理で ICRP の意図しない 間違った使用法 )

32 実用量の変更 ICRU/ICRP 共同刊行物外部被ばくのための 実用量 ( 意見募集中 ) * 空気カーマや粒子フルエンス測定値に 勧告される換算係数を乗じて 実効線量を推定間接的に知ることができる * 同様に眼と皮膚局所の吸収線量を推定 * 現在の ICRU 球や 1cm 線量当量等の退場を示唆 * JIS 規格などの全面書き換えが必要? 河田燕 NL だより No.480

33 確定的影響 組織反応 刊行物 118: 組織反応についての ICRP 見解ならびに正常組織 臓器の早期及び遅発影響 - 放射線防護のための組織反応しきい値 - 非がん健康影響を従来 確定的影響 (deterministic effects) と呼んだが 現在は 組織反応 (tissue reactions) とする その理由は この影響の中には 照射時に結果が決まるものではなく 放射線照射後に影響が変化するものがあるからである

34 ICRP 刊行物翻訳の長い歴史 ICRP Publication 1 Publ.1 日本語版 ICRP, 1959 アイソトープ協会訳本, 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

35 JRIA, >> 規制庁, ~ 国内規制に係る ICRP 刊行物の調査 / 翻訳事業 Ø Publ.103 以降の ICRP 刊行物を調査 Ø 安全規制上重要 / 緊急性が高い 翻訳 Ø ICRPの知見を広く共有 規制に資する From FY 2017, Nuclear Regula=on Authority Japan (NRA) outsourced a project of Survey and transla=on of ICRP Publica=ons for domes=c radia=on safety regula=ons in Japan 佐々木康人 Copyright Y. Sasaki

36 2017年度 翻訳開始タイトル-2 Ongoing transla-ons for FY pt1 作業者による放射性核種の摂取 佐々木康人 131 放射線防護から見た幹細胞生物学 Copyright Y. Sasaki

37 まとめ 1. ICRP の防護体系は科学的知見 (UNSCEAR 報告 ) の進歩と社会の動向と倫理的価値判断及び過去の経験に基づいて変遷 今後も進化し続けると期待 2.ICRP の勧告と IAEA の基本安全基準 (BSS) を参考に国内規制が作成される 現在 2007 年勧告の取入れを放射線審議会が検討中 3. 福島原発事故の経験が将来の防護体系に寄与する 日本から参加する専門家の役割が大きい

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39 直線しきい値なし (LNT) モデル LNT 理論は放射線防護の実用的目的には最も慎重なリスクモデルである ( 刊行物 99 パラグラフ 265) LNT モデルは仮説である 低線量域でそれが正当であることを科学的に確認できそうもない 疫学データの大半は LNT 仮説を支持している しかし 他の線量 - 反応関係も排除できない (J.D. Boice: 放射線防護に用いられる LNT モデル :NCRP 最新知見 Int. J. Rad. Biol. 93(10):1079,2017 低線量で可能性のある線量 - 反応曲線の形