研究成果報告書

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ちとらやなぎしま
3 years ago
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2 様式 C-19 F-19 Z-19( 共通 ) 1. 研究開始当初の背景本研究は明治期における音楽録音資料蝋管 ( ろうかん ) の保存体制と公開手法の研究 ( 平成年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究 (B) 一般研究代表者 : 東京藝術大学大学美術館薩摩雅登, 報告書編集 : 同大学音楽学部松村智郁子 ) のうち蝋管の基礎調査 : 明治期の新聞調査 [ 同報告書 2009, p.87, pp ] を発展させたものであるこの研究では明治 10 年 (1877) から明治 45 年 (1912) の蝋管蓄音機に関する新聞記事と広告より 33 社 1,082 記事を調査全記事のタイトルと内容一覧を提示し全貌を考察した 2. 研究の目的蝋管とは明治 21 年 (1888) にトーマス A エジソンにより改良発明された世界最古の携行可能な記録再生媒体であるその録音再生には蓄音機を用いる日本でもその翌年の明治 22 年 (1889) から蝋管を使用しており明治期においては一時代を築いた本研究では明治期に発行の新聞から蝋管蓄音機に関する記事や広告を調査し使用した場所や内容生産販売状況普及時から衰退に至る経緯等を考察することを目的としたまた収集した記事広告の画像とそれらの書起しを掲載した研究報告書を作成して全貌を俯瞰すること web サイトでの検索機能付きのデータベースを公開することも目的とした 3. 研究の方法明治期に都市部で発行の新聞 ( 朝日新聞系毎日新聞系時事新報他数社の地方紙も含む ) 蝋管蓄音機に関する記事や広告を国立国会図書館等で網羅的に調査したなお記事広告は画像データ化文字は書起してテキストデータ化したそれらをもとに研究報告書の発行と web サイトによる公開を行った 4. 研究成果 (1) はじめに 19 世紀後半に始まる録音技術の歴史の中で蓄音機はひとまとめに捉えられることが多い本研究では 1 錫箔蓄音機 (Tin-foil Phonograph)[ 図 1( 左 ) Phonogallery 蔵 ] 2 蝋管蓄音機 (Wax-cylinder Phonograph)[ 図 2( 中 ) 東京藝術大学蔵 ] 3 平円盤蓄音機 (Disc Phono -graph)[ 図 3( 右 )The British Library 蔵 ][ 撮影 : 筆者 ] に関連して明治 11 年 (1878) から大正元年 (1912)12 月までの都市部を中心に発行された新聞約 30 社約 1800 件の記事や広告を調査した (2) 新聞記事による蓄音機の用途の紹介蝋管蓄音機が日本で披露された明治 20 年代は大衆向けの試演会や娯楽のために使われた平円盤蓄音機が普及する明治 36 年 (1903) 以降になると慈善市の余興慰問博覧会の出品調査各種会合の余興など用途は多様化する 1 試演会や娯楽に使用試演会 : 都市部では明治 10 年代の錫箔蓄音機のお披露目時にも試演会を催して機械の使用方法や用途等を紹介していた蝋管蓄音機の改良後も同様に蓄音機に知識のある者達による試演会で使用方法や用途等が紹介された明治 10 年代の試演会と異なる点は都市部のみならず各地にも出向く等蝋管蓄音機を広く一般に普及するための努力を惜しまなかったことであるといえよう浅草公園 : 人々が蓄音機をようやく周知し始めた頃当時東京の中で最も繁華な場所浅草公園の花屋敷がいち早く蓄音機を取入れ観客を楽しませた花屋敷の広告読売新聞 [ 明治 23 年 6 月 30 日 ] にフォノグラフ奥山閣縦覧の余興として御聞せ申ますひとりでものをいうきかい蓄音器一名仮色器械浅草公園花屋敷という掲載が蓄音機の初広告となる劇場 : 明治 30 年になると活動写真が脚光を浴びるその臨場感ある迫力に人々は魅了されるが蓄音機は活動写真と同時に使用されることが多く人気は継続するまた芝居にも蓄音機が用いられる等従来の音楽や音声を聴く装置という目的を多方面で活用するようになる蓄音機が芝居に用いられた様子は蓄音器と俄大阪毎日新聞 [ 明治 30 年 7 月 15 日 ] に京都新京極のパノラマ館は従前玉翁尾半等の一座にて二輪加を演じ居りしが昨日より更に大蓄音器を狂言の中に応用してさまざまの事を発音させると云うとあり当時としては画期的な用途であったと思われる船上 : 蓄音機を聴きながら船上で過ごしていることが次の記事にみられる満州丸より ( 一 ) 大阪朝日新聞 [ 明治 37 年 6 月 16 日 ] には瀬戸内航行中の汽船満州丸より一筆啓上 ( 中略 ) スモーキングルームには蓄音器に聞とるるあり ( 後略 ) とあり船内の喫煙室で蓄音機が楽しめた様子が記されている 2 慈善市 ( バザー ) に使用利益を慈善事業の資金に当てるために音楽会が開かれた各会毎に蓄音機の用途は様々であるが当時のプログラムによると蓄音機は演奏家と肩を並べて演奏を行っている孤児院新築の資金集めを目的に

3 開かれた四条南座での演芸大会について孤児院慈善演芸大会大阪朝日新聞京都附録 [ 明治 36 年 5 月 22 日 ] では平安徳義会の事業に係る孤児院は創立以来十有余年に達し可憐の孤児数千百名救養しつつあり今や狭隘を告ぐるを以て本年度に於て新築せんとの計画あり ( 中略 ) 蓄音機数番島津商会門開喜曲樋口孝道ウワチリンホンガリーマーチ藤田駒三郎螢の歌同常磐津乗合船岸澤文字八同文治浄瑠璃合邦辻下の巻豊竹呂昇大薩摩勧進帳富士田千之助三味線杵屋君之助杵屋美千之助舞中村玉七浄瑠璃菅原四段目竹本文太夫糸鶴澤勝鳳舞實川延二郎地方岸澤文字八 ( 後略 ) と記されているこのプログラムから錚々たる出演者と共に蓄音機が出演していたことがわかるなおこの会には蝋管蓄音機が使用されているが演目の記載はない 3 慰問に使用アメリカの病院で実践されていた患者に蓄音機で音楽や演説を聴かせることが患者を労うことになるという発想に倣い国内でも慰問に使用されていたようである国内では明治 37 年 (1904) の日露戦争の開戦以降蓄音機による戦闘負傷病兵への慰問の告知や報告が紙面に登場する 10 年前の日清戦争時には蓄音機を用いた慰問に関する記事はなく天賞堂の広告時事新報 [ 明治 37 年 1 月 22 日 ] に ( 前略 ) 傷病騎士慰問用 { 義光武勇錦御旗七生魂北白川宮殿下台湾行外数十種 ( 後略 )} と慰問に相応しい平円盤の曲名を掲載し蓄音機と慰問を結び付けたといえよう傷病兵を慰問するために慰問籍園遊会を開き蓄音機を用いる蓄音機を病院等の施設や団体に寄贈するという方法が取られたそして明治 38 年 (1905) に入ると軍人の遺族を対象とした慰藉会や招魂祭にて蓄音機を用いることが始まり明治末期以降も継続して各地で行われた慰問籍園遊会を開いて傷病兵を慰問 : 紙面上で初めて慰問に蓄音機が使用されたのは傷病者慰問籍園遊会 ( 佐世保 ) 東京朝日新聞 [ 明治 37 年 4 月 19 日 ] であり本日午後二時より当海軍病院内に園遊会を催し戦闘負傷病兵を集めて平素の憂鬱を慰めたり ( 中略 ) 海事協会寄贈の蓄音器並に音楽隊の奏楽等種々の余興あり ( 後略 ) と病院で治療中の兵士を対象とした蓄音機の演奏会が開かれた事が記されている蓄音機を病院や施設団体に寄贈して傷病兵を慰問 : 各地域の予備病院や海軍および陸軍病院等への蓄音機の寄贈が相次ぐ中初めて記事として掲載されたのは常磐会 ( 華族女学校卒業生 ) が東京予備病院へ蓄音機を贈ったことである蓄音器の慰問読売新聞 [ 明治 37 年 6 月 8 日 ] に記されている軍人の遺族を対象とした慰藉会や招魂祭にて蓄音機を用いる : 日露戦争終結後は傷病兵の慰問に加え軍人の遺族を対象とした慰問が行われるようになる軍人家族慰藉会大阪毎日新聞 [ 明治 38 年 2 月 16 日 ] では姫路報国会員の発起に係る出征軍人遺家族慰藉会は昨日午後二時より同市城内陸軍偕行社楼上に開き ( 中略 ) 余興として三曲合奏東高等小学校女学生の唱歌鷺城音楽隊附属青年音楽会の奏楽蓄音器平円盤蓄音器等その他数種の催しあり頗る盛会にて午後五時頃閉会を告げたりと記されている 4 博覧会に出品明治期にロンドンやパリで開催された万博の視察や出品を重ねたものの万博の国内開催には至らなかったしながらそれは博覧会という姿で実現し人々を魅了した調査の結果博覧会における蓄音機の使用については ⑴ 第五回内国勧業博覧会 ⑵ 第四回全国製産品博覧会 ⑶ 東京勧業博覧会 ⑷ 第一回発明品博覧会の記事に記載がみられ博覧会会場の至る所に蓄音機が備え付けられ音楽や解説等各用途に添って使用され人々を魅了していたことがわかった 5 探検記者が調査で使用探検記者が蓄音機を持参して調査を行っていたことが次の記事からわかった樺太のアイヌ集落調査 : 探検記者の消息読売新聞 [ 明治 42 年 1 月 9 日 ] には ( 前略 ) 昨八日午後樺太庁は東京出張所に打電して曰く読売記者松川木公子は今朝未明旅装を整へて官舎街の一号を発しガルキノ方面に向かってアイヌ部落に入れり氏が防寒具の上に一台の蓄音機を背負いたる風体いたく土民の奇好心を牽き到る所熱誠なる歓迎を受けつつある模様なりと聞くが ( 後略 ) とあるコリャーク調査 : 小探検隊を組織し東京朝日新聞 [ 明治 43 年 9 月 8 日 ] には ( 前略 ) 五頭の西比利亜馬に蓄音機活動写真機械食料等を積みて内部の山地に向って出発した ( 後略 ) とある各種会合に使用畏まった会合においても蓄音機は欠かせない存在であり人々の集う場に蓄音機は必須となっていたようである会合は園遊会新年会懇親会など落成式など記念式典クリスマス会の 5 つに分類できた以上新聞記事や広告の記載を例に蓄音機

4 の用途を考察した結果試演会が行われた初お披露目の頃は単なる機械物でしかなかった蓄音機の用途は広がり日常生活の様々な場に浸透してゆく様子が具体化した人々が集まる場所では演奏家と同等に演奏を披露し皆を楽しませる存在であった慰問ではミュージックセラピーとして音楽を使用し人々を癒した展覧会では出品物としてのみならず人に代わって展示紹介や演奏等実用的に使用されたまた記者の調査では再生機能以外にも録音機能も活用された (*4 と 6 は文字数の都合上掲載紙面の引用を割愛 ) (3) 新聞広告による蓄音機の用途の紹介新聞に掲載された蓄音機店の広告にも蓄音機の様々な用途が記されるまた蓄音機そのものや人々が蓄音機から音楽を聴く様子のイラストも掲載されたこれらは蓄音機の具体的な用い方を広く一般にイメージさせ日常生活の中に取り入れ易くさせる効果があったといえよう広告を大きく分類すると次の 3 種類となる 1 文言による紹介 2 イラストや写真による紹介 3 他の商品の広告に登場 1 文言による紹介広告に蓄音機の用途が記される以前蓄音機の使用方法や作動効果等具体的な構造の紹介が多く掲載された蓄音機への周知が深まりつつであった頃ようやく蓄音機の用途に関する掲載が始まる以下広告から抜粋した内容店舗名新聞名 [ 日付 ] を掲載年月日順に記す就中親の遺言を子孫にまで伝える事を得浅海天尚堂大阪毎日新聞 [ 明治 32 年 5 月 23 日 ] 要件を吹込み之れを遠国に送れば書信の代用を為す三光堂時事新報 [ 明治 35 年 7 月 22 日 ] 外国語学の研究に必要なり ( 中略 ) 学生は幾回にてもこれを練習することを得同上同上 [ 同上 ] 令嬢方音楽の独習に必要なり同上同上 [ 同上 ] 心経質の方には尤も有効の器械なり蓄音器に依りて精良美妙の音楽を聞き自然その心気を和らげ然る後医療その効果を奏すべし同上同上 [ 同上 ] 学校に於ては理化学上説明のため必要の器械なり同上同上 [ 同上 ] 蓄音器は軍旅の労を慰し志気を鼓舞するの効あり三光堂大阪毎日新聞 [ 明治 37 年 3 月 10 日 ] 御家庭用宴席用歌曲練習用等何れのものにても御好に応じ三光堂大阪毎日新聞 [ 明治 41 年 4 月 26 日 ] 歳末歳始御贈答用として三光堂大阪朝日新聞 [ 明治 41 年 12 月 26 日 ] 歌三味線の独稽古自由 [ ひとりけいこができる ] 中村商会蓄音器部大阪毎日新聞 [ 明治 42 年 5 月 11 日 ] 余興娯楽として最良無比の蓄音器古川時計店発音器部都新聞 [ 明治 43 年 11 月 1 日 ] 宴会余興用蓄音器貸京屋蓄音器部大阪朝日新聞 [ 明治 44 年 5 月 23 日 ] これらの抜粋から蓄音機の用途として遺言通信語学学習家庭団欒音楽の稽古精神安定理化学的構造参考用軍事慰安贈答品余興娯楽宴会を想定していたことがわかりエジソンが発明当時想定していた事柄よりも用途は広がり蓄音機が人々の生活に必需品となっていく様子がわかる音楽を聴く目的以外に参考用機械として必要としているところは技術的な面においても諸外国に追いつこうとする当時の日本の姿勢が伺える 2 イラストによる紹介蓄音機の絵 : 蓄音機そのもののイラストを示しその姿を印象付けた初掲載は石原楽器店の広告大阪朝日新聞 [ 明治 30 年 8 月 12 日 ][ 図 4] である以降実物さながらのイラストの掲載が流行る収録状況を描いたもの : 蓄音機に洋装の外国人女性教師が英語を吹き込んでいる様子 [ 図 5] を描いている蓄音機から聴こえる音楽をイメージしたもの : 蓄音機のフォーンから演奏家を登場させるイラスト [ 図 6] を用いている聴こえてくる音楽の演奏者を具体的に描いて印象付けたここではフォーンから娘義太夫軍楽隊が登場する姿を描いている稽古の様子を描いたもの : 蓄音機を前に語学の学習 [ 図 7] 音楽の稽古 [ 図 8] をしている様子を描いている店舗の絵 : 店内に詰めかけた人々が蓄音機に聞き入る様子 [ 図 9] が描かれており蓄音機店への来店を誘う戦場の蓄音機を描いたもの : 日露戦争時戦地の様子 [ 図 10] や軍楽隊 [ 図 11] を描いたイラストも掲載され蓄音機の必需性は増した家族団欒の様子を描いたもの : 家族で蓄音機を聴く姿 [ 図 12] や子どもだけで蓄音機を聴く姿 [ 図 13] を描いている蓄音機があれば子どもだけのお留守番も容易であることに加え誰にでも手軽に操作が可能であることも示している人気演奏家の顔写真を使用 : イラストの他に顔写真も掲載された初めて広告に顔写真が使用されたのは娘義太夫の豊竹呂昇であった東京朝日新聞 [ 明治 44 年 3 月 11 日 ] 続いて浪曲師の吉田奈良丸国民新聞 [ 明治 44 年 4 月 7 日 ] ほか京山小圓東京朝日新聞 [ 明治 45 年 4 月 29 日 ] ほか桃中軒雲右衛門入道国民新聞 [ 明治 45 年 5 月 18 日 ] 他らの顔写真も広告に多用され当時の人気が伝わる

これらの広告に掲載された各種のイラストには商店毎に斬新かつアイデアに富んだ蓄音機の意匠活用の具体例の詳細な提示が見られるまた臨場感を演出する効果も兼ねその結果蓄音機の普及に結びついたと考えるそして明治の終わりから掲載された演奏家の顔写真はさらに視覚的な印象を強めたといえよう ③他の商品の広告にて紹介蓄音機以外の商品仁丹大阪毎日新聞明治 41 年4 月 8

5 これらの広告に掲載された各種のイラストには商店毎に斬新かつアイデアに富んだ蓄音機の意匠活用の具体例の詳細な提示が見られるまた臨場感を演出する効果も兼ねその結果蓄音機の普及に結びついたと考えるそして明治の終わりから掲載された演奏家の顔写真はさらに視覚的な印象を強めたといえよう ③他の商品の広告にて紹介蓄音機以外の商品仁丹大阪毎日新聞明治 41 年4 月 8 日美音剤カオール国民新聞明治 45 年2 月 2 日腸胃薬ヘルプ日出新聞明治 45 年7 月 26 日の広告に蓄音機が商品を宣伝している様子を描いたイラストが用いられる新聞広告上においても蓄音機の集客効果を利用していることがわかるくの演者名と曲名が掲載された 8 件の天賞堂広告をもとに発売曲数の多い順に列記したものである広告に掲載されなかった天賞堂の商品他店舗で発売されたレコードと併せるとまだまだ多くの曲目演奏者ジャンルがあることが予想される蝋管が主要メディアとして販売されていた頃には蓄音機店の広告に曲名の掲載はなくこの広告は斬新なアイデアであったそしてこの掲載は人々に平円盤の内容を周知させ蓄音機をより身近な物へと近づけ購入しやすい環境を作りあげたといえよう発売以降平円盤はたちまち人々の心を掴んだ今まで主要媒体であった蝋管との差異は音質の良さと軽便さだという新聞広告では平円盤の蓄音機のイラストが紙面を飾るようになりまた新しい平円盤の発売毎に演者名と曲名が掲載される等当時の話題を独占する勢いも当時の広告から読み取れる ③蝋管のオリジナル録音４収録内容蓄音機店で販売していた市販のもの個人の録音によるオリジナルのものがある各内容を考察することは当時の用途や人気曲の探求にも繋がると考える ①市販の蝋管明治期の市販の蝋管には ⑴邦楽曲長唄清元常磐津義太夫端唄唄物 ⑵楽隊 ⑶声色 ⑷詩吟 ⑸唱歌 ⑹講談 ⑺演説 ⑻語学教材英語ドイツ語フランス語以上 8 つのジャンルがあったなおこれらの曲名や演奏者名の詳細については今後の調査を要する ②市販の平円盤明治期の市販の平円盤には (1)義太夫 (2)端唄 (3)謡曲 (4)長唄 (5)軍楽 (6) 落語 (7)浪花節浪曲 (8)薩摩琵琶 (9)筑前琵琶 (10)唱歌 (11)詩吟 (12) 清元 (13)箏曲三曲 (14)雅楽 (15)講談 (16)歌澤 (17)常磐津 (18)三河萬歳 (19)大相撲甚句 (20)新内 (21)草笛 (22)地歌 (23)河東 (24)平家琵琶 (25) 木遣節 (26)物真似 (27)芝居台詞 (28) 声色 (29)影芝居 (30)演説以上 30 つのジャンルがあったこれらは明治 36 年(1903)10 月の平円盤発売当時に新聞広告に掲載された天賞堂の広告東京日日新聞明治 36 年 12 月 10 日都新聞明治 36 年 12 月 15 日他から特に多オリジナルに収録された蝋管には浅草の見世物用歌舞伎役者の台詞蓄音機試演会用博覧会の用活動写真用個人使用市川團十郎九代目牧師の説教堀田正養子爵徳川慶喜公出征軍人田中正平博士等について掲載があった一度収録した蝋管は録音の際に蝋管の表面にできた音溝を削り取れば再利用が可能であるそのため蓄音機の購入者が自分の好きなものを手軽に録音できることも装置の魅力であったこの手軽さに魅了され様々な場所で用いられているなお平円盤に関してはオリジナル吹込みの事例が紙面上に登場しなかった５平円盤の収録状況平円盤の発売は明治 36 年(1903)11 月 8 日より銀座の天賞堂で始まるそれらは同年 10 月 27 日にアメリカから到着した第一回輸入分であったこれに関する記述は天賞堂の広告都新聞明治 36 年 12 月 15 日に前略明治三十六年十月二十七日第一回新輸入同年十一月八日発売開始後略と記されていることからわかるこの時のレコードはアメリカから日本に招聘した録音技師らによって収録されそれをアメリカに持ち帰り商品化レコードとして日本に輸入しているなお収録曲は軍楽謡曲琴筑前琵琶長唄義太夫などであったという邦楽曲を収録したことや完成したレコードの披露会が行われたことを大声蓄音機の披露会時事新報明治 36 年 11 月 7 日には前略先般米国より技師両名を招聘して我国の軍楽を始めその他諸名家の謡曲琴筑前琵琶長唄義太夫草笛外数十種を吹込みこれを米国の会社に送りて製造せしめたるに今回第一回分到着したるに付き一昨五日上野精養軒

6 に於て披露会を催したるに結果頗る良好にて殊に当日は右音曲に関係ある諸芸人等をも招待したれば席上に本人を見ながらその音曲を聞き得て一層の興ありしとと記されている (6) おわりに明治 22 年に日本に初めて姿を見せた蝋管蓄音機は明治 36 年の平円盤蓄音機の登場に圧迫されながらも息長く明治期の人々に愛された音楽装置であったといえよう蝋管という文字が最後に紙面上に掲載されたのは萬歳商会の広告萬朝報 [ 明治 45 年 2 月 1 日 ] である実際のところ蝋管の在庫処分投げ売りでの可能性も考えられるしかしながら 20 年以上にも渡り第一線で活躍し続けた機械であることには変わらない蝋管の強みは音溝を削れば同媒体を用いて再び録音ができるという手軽さにもあると考えるまた丸菱商会の広告大阪毎日新聞 [ 明治 32 年 5 月 23 日 ] には破損蝋管の為直し音譜蝋管の削り直し音譜吹込替の御希に応じ可とあり三光堂の広告東京朝日新聞 [ 明治 42 年 9 月 24 日 ] には蝋管破損または黴蝋管は便宜御引換申上ぐべく御不用に候えば相当価格にて御引取受申上ぐべく候とあり蝋製の脆弱な蝋管の修復再録音のための削り直しに加えカビの生えた蝋管の引取りにまで応対するアフターサービスの充実が記されている人や物に対する細やかな応対がなされていたことも紙面上から読み取る事が出来る本研究では明治期の新聞調査を通して再生と録音という蓄音機の機能的な部分が最大限に活用されていたことが明らかとなった再生機としての蓄音機の利用は娯楽施設や劇場において見世物や呼び物として重宝されたことに始まる軍事的催し学校行事等人々の集まる場での使用は必需となるそして大衆向きのみならず後に個人の語学学習音楽の稽古家庭の団欒外国へ向かう船上等小規模での使用にも広がる時には人に変わり音楽の演奏展示品の解説店先の呼込み等活躍の場は尽きる事がなかったさらに負傷者や病人精神安定のためのミュージックセラピーも行った一方録音機としての蓄音機の利用は通信調査研究遺言文の記録邦楽譜作り等その貢献は幅広く自分の声を録音することを目的に蓄音機を購入した著名人も居たまた蓄音機店が掲載した平円盤の新聞広告から明治期に販売されていた曲名と演奏者名を分析した結果三味線による邦楽曲の需要が圧倒的に多かったこと西洋楽器を用いた軍楽隊で邦楽曲が演奏されていたこと音楽以外では歌舞伎役者の台詞に人気があったこと等がわかったこれは本研究で未着手となった市販の蝋管の曲名調査のための事前調査にもなったといえるまた各ジャンルの人気の理由演奏者に関する詳細蓄音機の価格と機種名の特定などに関しても継続して追跡調査を行いたい本調査の遂行により国内における主要な新聞はほぼ網羅したこととなる次の機会には明治期に国内で発行された地方紙を中心に調査を行い各地域における蝋管蓄音機の受容と普及について研究しさらに発展させたいそして新聞という各国共通のメディアの調査研究を一つの方法論として提案したいと考える * 蝋管と平円盤各蓄音機の価格蓄音機販売店については本紙面上文字数の都合により割愛した 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 3 件 ) 1 松村智郁子明治期のカラオケ紙腔琴 (2) 曲譜の仕組みと音の関係東京藝術大学大学美術館年報平成 24 年度 2014, pp.42-44( 査読無 ) 2 松村智郁子明治期のカラオケ紙腔琴 (1) 当時の新聞記事広告からその人気を探る東京藝術大学大学美術館年報平成 23 年度 2013, pp.35-39( 査読無 ) 3 松村智郁子奥浄瑠璃の蝋管 ( ろうかん ) 録音の背景について残された資料から読み解く東京藝術大学大学美術館年報平成 22 年度東京藝術大学大学美術館, 2012, pp ( 査読無 ) 学会発表 ( 計 1 件 ) 1 松村智郁子明治期における蝋管蓄音機の受容と普及の研究 ( 東洋音楽学会, 場所未定, 2014 年 12 月 13 日予定 ) 図書 ( 計 1 件 ) 1 松村智郁子明治期における蝋管蓄音機の受容と普及の研究音楽声の記録と社会的背景を中心に ( 発行者 : 松村智郁子東京藝術大学音楽学部, 2014 年, 総ページ数 620) その他ホームページ等 /index.php 6. 研究組織 (1) 研究代表者松村智郁子 (MATSUMURA, Chikako) 東京藝術大学音楽学部講師研究者番号 :