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( 公財 ) 航空機国際共同開発促進基金 解説概要 22-4 この解説概要に対するアンケートにご協力ください 航空機用燃料電池に関する技術動向について 1. 概要昨今の全世界的な CO2 削減等の環境改善の動きに対応して 航空機においても (1) 高効率 / 省エネルギー化 (2) 低エミッション化 ( 低騒音化に関する抜本的な対応が検討されてきている 例えば バイオ燃料 の採用による CO2 排出量の削減であるとか 複合材料 による機体重量の軽量化 先進空力設計 による燃費向上といった技術開発が進められている 4) そのような検討の一環として 航空機の電源の高効率化による省エネルギー化 あるいは新電源システムの採用による低エミッション化がある 具体的な方策としては 従来からのジェットエンジン連結交流発電機及び小型ガスタービンによる補助動力装置 (APU;Auxiliary Power Unit) を 高効率で低エミッションの新電源システムへ代替えすることである 新電源システムとしては 高性能化学電池及び燃料電池が候補として挙がるが 出力密度 / エネルギー密度の観点から 燃料電池を最有力候補として 2 大機体メーカであるボーイング社及びエアバス社が 各種フィージビリティー スタディーを 2005 年頃から積極的に行ってきている 高性能電源システムが実現できると 油圧 空圧でまかなわれていた動力を含めて全て電動化が可能となり いわゆる 全電気式航空機 (AEA/MEA; All/More Electric Airplane) の実現を後押しできることになる 全電気式航空機 が実現できると 燃費向上となるばかりか 運用性 / 整備性が向上し 低コスト化を生むことになる 上記 燃料電池 の航空機への搭載に関する世界的な技術動向について ボーイング社及びエアバス社での研究状況を中心に紹介する 1) 2. 航空機に採用可能な燃料電池技術前記のように 現在航空機の運用中に使用される交流発電機あるいは地上待機時に使用される小型ガスタービン APU を 技術革新の進んでいる燃料電池に置き換えることにより 1) 燃費向上 2) 排気ガス 騒音低減が可能になると想定されている 燃料電池は 世界的に自動車用動力源あるいは中小の分散電源等の地上用途として 様々の研究開発が進められている 燃料電池方式は通常 研究開発の年代順に 1) アルカリ型燃料電池 (AFC) 2) リン酸型燃料電池 (PAFC) 溶融炭酸塩型燃料電池 (MCFC) 4) 固体高分子型燃料電池 (PEFC) 5) 固体電解質型燃料電池 (SOFC) の 5 種類に分類される この中で 2) リン酸型燃料電池 あるいは 溶融炭酸塩型燃料電池 は 地上用分散電源としての期待が高く 古くから研究開発がされてきたが 残念ながら商用電力に比較して高コストであり 実用化は困難視されている 昨今の燃料電池技術革新の火付け役は 独ダイムラー社から始まる世界的な自動車業界での 4) 固体高分子型燃料電池 自動車研究開発であるといえる 世界的な官民学での多大な研究投資は 固体高分子型燃料電池 の実用化を急ピッチに進め 自動車のみならず 分散電源用途としても実用化に拍車をかけている また 5) 固体電解質型燃料電池 は 2) 及び の延長線上に位置する高温型高効率燃料電池であり 5 種類の燃料電池の中で最も高効率を期待されているが 技術開発の進展レベルは未だ浅く 実用化にはまだかなり時間を要するものと考えられている

固体電解質型燃料電池 は高温型燃料電池であるため 小型分散電源用途のみならず ガスタービンとのハイブリッド化による更なる高効率化で 火力発電プラント代替大型発電プラントとしての用途が期待されており 実用機開発が 独ジーメンス社 米国ウェスティングハウス社 三菱重工業で精力的に進められている 以上の 5 種類の燃料電池の特性の比較を表 1に示す これらの中で航空機に使用可能な燃料電池は 1) 4) 及び 5) と考えられる 表 1. 燃料電池の特性比較 2) アルカリ型 ; 米国ユナイテッド テクノロジー社 ( 現 UTC エナジー社 ) が開発した アルカリ型燃料電池 が宇宙船用電源 ( アポロ宇宙船及びスペースシャトル オービタ用 ) として使用されてきており 性能 信頼性 耐環境性等の観点から航空機搭載への実用化は確実であるが 燃料として 純水素 純酸素しか使用できないため 特殊航空機への搭載に限定される 固体高分子型 ; 燃料電池自動車用及び家庭用として 最も研究がなされ実用化に向かって進行している 同じ移動体である航空機への搭載も可能と判断されるが その際に問題となることが燃料の選択である 燃料電池自動車のように 純水素が燃料として使用できれば問題はないが 空港での地上インフラを変更しないためには ジェット燃料から水素を作り出してそれを使用することとなり ジェット燃料改質技術及び改質ガスに耐性のある触媒の開発が重要課題となる 燃料電池自動車においては 5~6 年程前にメタノール改質 / ガソリン改質が議論されたが かなり大がかりなシステムになること 応答性に難があること 燃料電池の劣化を早めること等から 純水素貯蔵方式になった経緯がある 航空機への多量の水素搭載は色々と制約があるため 当面はジェット

燃料改質技術開発を進める必要がある エアバス社ではジェット燃料改質技術に関して ドイツ航空研究所 (DLR) と技術開発を過去数年進めてきている 固体高分子型燃料電池 及び改質装置技術は 全世界的に大中小の有力企業が有している ( ユナイテッド テクノロジー社 ハネウェル社 GM 社 バラード社 トヨタ 日産 ホンダ 東芝 三洋 ダイムラー社等 ) 但し 実際に航空機でのデモ運用実績は バラード社 インテリジェント エナジー社等 幾つかに限定されている 固体電解質型 ; 高効率であるため次世代の地上用発電システムとして大いに期待されている 移動体用では 自動車用 APU として米国デルファイ社によって数 KW クラスのものが試作され運転評価がされた 航空機用として使用する場合の最大のメリットは 高温型燃料電池であるため ジェット燃料の改質が相対的に容易であることである また固体高分子型のような白金触媒を使用しないため CO 被毒がなく 逆に CO 自体を燃料として使用できることもメリットになる そのうえ燃料電池からの高温排気ガスにより小型ガスタービンを駆動させる追加発電ができ システム効率の向上を図ることができることもメリットとなる 従って 固体電解質型燃料電池 は 技術開発途上であり技術の信頼性が低く 大型で重く運用性が悪いという欠点がある反面 実用化レベルに達せれば 現在の航空機システムを大幅に変更することなく代替え採用ができる方式であるため 航空機用燃料電池として最有力候補と言える 上記の燃料電池の特性から 航空機用としては 4) 及び 5) が採用可能であり 短中期的には 4) 長期的には 5) が良いと判断されている 固体高分子型燃料電池 と 固体電解質型燃料電池 の作動原理を図 1 に示す 両者の大きな作動原理の差異は 前者は電解質内を水素イオンが移動するのに対して 後者は酸素イオンが移動して電気を発生させる点である 図 1. 燃料電池作動原理

3. 航空機用燃料電池構想について世界の2 大航空機メーカであるボーイング社及びエアバス社は 5~6 年前から高効率燃料電池の採用による燃費向上及び CO2/NOx の削減に目をつけ 航空機電源への採用について積極的に検討を進めてきている その一例を以下に示す 4) (1) ボーイング社構想 1) 民間航空機用燃料電池構想 777 クラスの機体において ガスタービン APU を 固体電解質型燃料電池 に置き換えることにより 地上運航時の燃料消費量を 75% 削減 巡航時には主電源の代替使用で燃料消費量を 40% 削減できる上に 大幅な NOx 削減も可能となる試算を出している ( 図 2) 燃料電池 APU システム系統を図 3 に示す 効率向上のために 燃料電池とガスタービンによるハイブリッド形態がベースラインとなっている 燃料電池 APU の出力規模は全体で 440 KW そのうち燃料電池で 330 KW ( 全体の 75%) 排気ガスによる追加発電で 110 KW 出力を想定している 777 クラスの機体のボートテイル部への固体電解質型ハイブリッド燃料電池 APU 艤装構想を図 3 に示す 固体電解質型燃料電池 の現状技術レベルでは 重量 運用性 耐環境性等で航空機搭載にはかなり課題が大きく 技術開発にまだかなり時間と費用がかかるため 当面は技術成熟度の高い 固体高分子型燃料電池 による電源構想も検討されている 用途は機内分散電源あるいは緊急電源である RAT (Ram Air Turbine) の代替えである また ボーイング社の燃料電池 APU の総合評価を図 4に示す 図 2. 固体電解質型燃料電池 APU の効果

図 3. 固体電解質型燃料電池を使用した APU システム系統及び艤装構想図 図 4. ボーイング社の燃料電池 APU の総合評価 4) 2) 燃料電池による電動飛行機構想 : 電源用途とは別に 主推力源として燃料電池を使用する構想もボーイング社で検討されている 要するに 燃料電池 + 電動モータ により飛行機の推進系を代替する案である ジェットエンジンの代替は現状の燃料電池技術では不可能であるため 小型飛行機のレシプロエンジンの代替がまず検討されている この形態での飛行デモンストレーションが 数年前にボーイング社のスペインの研究所が中心となって実施された デモ機の構成を図 5 に示す 燃料電池は既存の 20 KW 級の 固体高分子型燃料電池 が使用された 燃料は純水素で高圧タンクに貯蔵して飛行機に搭載された 図 5. ボーイング社の固体高分子型燃料電池 (PEFC) 動力デモ飛行機

5) (2) エアバス社構想エアバス社においてもボーイング社同様に 燃料電池の航空機への採用が検討されている エアバス社の燃料電池の航空機搭載へのロードマップを図 6 に示す 図 6 に示されるように 実用化までには 5 段階を考えており 第 1 段階の飛行実証は 一昨年に 20 KW 級 固体高分子型燃料電池 によるシステムを A320 に搭載し実施された 現在 第 2 段階の航空機の緊急動力源 (EPU) の一つである RAT 代替計画が進められている また 第 3 段階としては ボーイング社同様に 400 KW クラスの APU 等 既存電源の燃料電池による代替を構想している 電源方式としては 固体電解質型燃料電池 +ガスタービン によるハイブリッド形態である STEP1: 飛行デモ機材 STEP3/4: FCAPU 構想 STEP2: RAT 代替機 図 6. エアバス社航空機用燃料電池電源システム開発ロードマップ 5) ( その他の構想ボーイング社 エアバス社の 2 大航空機メーカ以外にも 航空機用燃料電池研究の取り組みがあるので以下に紹介する 1) 有人グライダーの燃料電池動力化デモ飛行 : DLR ( 独航空技術研究所 ) 及び ZSW 社は ダイムラー クライスラー社 バラード社等の支援を受けて 燃料電池動力化デモ飛行を 2008 年に HYFLY3000 プロジェクトとして実施した 動力源は 10 KW 級の既存 固体高分子型燃料電池 ( 巡航用 )+20 KW 級バッテリ ( 離陸用 ) であった 燃料電池及び高圧水素ガスタンクはポッド内に収納された デモ機 ( アンタレス ) 概要を図 7 に示す 図 7. アンタレス機体概要 5)

この解説概要に対するアンケートにご協力ください 2) その他 : ( 株 )IHI エアロスペース社 (IA) と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が 2000 年から 2009 年にかけて 航空用途で成層圏プラットフォーム飛行船用動力源として 固体高分子型燃料電池 をベースにしたエネルギー貯蔵能力を有した 再生型燃料電池 (Regenerative Fuel Cell; RFC) の技術開発を行った 6) また EADS では 戦闘機 / UAV/ 軍用輸送機用の補助電源として 固体電解質型燃料電池 電源システム計画を検討し 関連要素研究を実施している 7) 4. 航空機用燃料電池の技術動向のまとめ 1) 効率が高く 環境にやさしい燃料電池の航空機への搭載の研究は 前記のように ボーイング社 エアバス社といった世界の 2 大航空機メーカが積極的であるという状況から今後 大幅に進展するものと考えられる 当面は 燃料電池の技術完成度の高い 固体高分子型燃料電池 を使用したシステムが 航空機の数十 KW クラスの非常用電源 / 機内分散電源に採用されるものと考えられる その後 高効率が期待できる 固体電解質型燃料電池 の技術進捗に基づき 数百 KW から MW クラスの大規模な補助電源あるいは主電源への採用へと展開していくと考えられる 但し 航空機用燃料電池は改質装置を含めて 航空機搭載のための厳しい要求があるため 実現のためには以下のような技術課題が多々存在する 1) 小型 軽量化 : ターゲットとして システムレベルで出力密度 1~3 kg/kw を達成する小型 軽量化 2) 航空機運用条件 ; 短いシステム起動時間及び起動 停止の繰り返しサイクル運転ができる作動信頼性の確保 耐航空機搭載環境性 ; 厳しい加速度 振動 衝撃条件に耐えられる限界構造設計 4) 航空機固有の信頼性 / 安全性の確保これらの課題を解決するためにはそれ相応の技術開発期間及び投資を必要とする 従って 航空機用燃料電池は小規模なものから大規模なものへ 10 年 ~20 年後を目途に段階的な実現となると考えられている 参考文献 1) 岡屋俊一 ;OHM 特集航空技術最前線 - 航空機用燃料電池 (2010 年 8 月 ) オーム社 2) 電気学会 燃料電池発電次世代システム技術調査専門委員会編 ; 燃料電池の技術 オーム社 David L. Daggett, et al.; Fuel Cell APU for Commercial Aircraft H2Expo2005 4) Joe Breit, et al.; Fuel Cells for Commercial Transportation Airplane Needs and Opportunities 45 th AIAA Aerospace Science Meeting and Exhibit, 2007 5) Hans-Jurgen Heinrich, et al.; Fuel Cell Systems for Aeronautic Application DGLR/VDI/RAeS Vortragsreihe an der HAW, 2007 6) 岡屋俊一 ; SPF 飛行船用再生型燃料電池の開発計画と地上評価試験 宇宙エネルギーシンポジウム (2004 年 3 月 ) 7) Stefan Romelt, et al.; Fuel Cell for Military Aircraft Applications H2Expo2006