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須賀技術報告 TECHNICAL REPORT NO.30394 設備配管の腐食と劣化診断

はじめに 建築設備システムを構成する機器 部材は運転稼働の時間経過と共に劣化が進行し そのまま放置するとついには故障発生に到ります これらの故障は単なるシステムの機能低下のみならず 例えば銀行のコンピュータセンターや病院の手術室の空調システム或いは大規模集合住宅の給水システムの機能停止の様に 故障即重大な社会的問題に繋がる場合もあり得ます これらの設備システムの重大な放障やシステムダウンを避ける為には 日常良好な維持管理が重要ですが適当な時期に劣化診断を行い その判断に基づき設備の改修更新を行うことが不可欠になります 設備システムの劣化状況を調査し その程度を判定し その結果に基づき設備の改修更新の決定を下す為の調査判定法と その適用技術については 最近研究に手を着けられ始めたばかりの技術分野であり 今後更なる技術開発やデータの集積が待たれるところのものです 本レポートは 一般には馴染みが少なく判定がしにくいと言われる設備配管の経年劣化と その診断技術についてとりあげました 設備配管システムの劣化に関しては 殆ど内面における腐食及びスケール スライム障害であり外面から目視出来ない またその進行速度は複数の要因が相互に影響しあい 単純に判定出来ない等の制限もあり 必ずしも確定した体系が組み立てられている訳ではありませんが 最近の設備診断技術の動向を当社における実績等を踏まえ御紹介します 最近 建築物においても地球的視野から見た省エネルギー 省資源の観点から 従来安易に採用されたスクラップアンドビルド方式を改め 保全を重視し建物のライフサイクルを十分生かすべき とする考えが再認識される時代が来ております その為にも 維持保全 劣化診断 改修等の技術開発が今後益々重要になるものと思われます このレポートが建物や設備の管理に当たられる方々に 少しでも参考になれば幸いに思います

目次 1. 設備配管の経年劣化 1 2. 腐食の概要 3 2.1 腐食とは 3 2.2 腐食の発生機構 3 2.3 腐食形態の分類 5 2.4 水質が腐食に与える影響 7 3. 各種配管の腐食障害 10 3.1 配管の内面腐食 10 3.2 配管の閉塞障害 22 3.3 地中埋設管の外面腐食 27 4. 配管の劣化診断 32 4.1 1 次診断 34 4.2 2 次診断 36 4.3 3 次診断 40 5. 劣化診断サービス案内と腐食 防食実験室紹介 42

1. 設備配管の経年劣化 建築設備システムでは 多種多様な配管材料が 空調 給排水 防災など多岐にわたる用途目的に使用されています これらの配管システムの要求性能を概括すれば 空調系配管は主としてエネルギーの搬送を 衛生系配管は主として湯水の供給排出を目的としており 言わばその建物のライフラインとして重要な役割を担っていますが 配管の耐久性には限界があり 経年による劣化は避けられません 設備配管の劣化は 主として配管内面の腐食とスケール スライム付着による管断面の縮小閉塞によるものであり この要因として管の材質と水質が大きく関係しますが その他に温度など使用条件 流量 積算流量 継手構造 施工技術などが相互に影響しあいます 配管の劣化は内面で進行するため また その多くが天井内 シャフト内或いはピット内など アクセスし難い場所に敷設されているため気が付き難く 具体的には以下の様な異常現象が発生して初めて発見される事が多いのが実情です 1 給水 給湯系における赤水 異物流失等の供給水質低下 2 錆瘤 スケール スライム等付着による圧力流量低下 3 腐食減肉による機械的強度の低下 更には貫通 折損による漏洩事放の発生 また 現場状況調査などで この様な現象が発見された時は既に相当劣化が進んでいるケースがみられ 劣化の程度により部分補修となり 或いは耐用年数に達したと判断され全面更新の対象とされます 表 -1 に一般的な設備配管の劣化現象を示します 後ほど詳述しますが 当社における状況調査などを通して 次に挙げる様な腐食現象が現在進行形の問題として注目されており 維持管理上 今後とも点検保全を強める必要があると思われます a. 塩ビライニング鋼管と砲金バルブの接続部の異種金属接触腐食急速な腐食進行 b. 銅管の孔食現状 実用上有効な対応法がない c. 埋設鋼管のマクロセル腐食外面ライニング鋼管の養生不良躯体との電気的接触 d. 蓄熱槽等利用による開放系冷温水管の全面腐食異種金属接触腐食 e. 厨房系排水鋼管のグリース付着による閉塞付着面の腐食進行 1

表 -1 設備配管の経年劣化事例 分類 配管用途 配管材質 劣化現象 冷温水管 ( 密閉 ) 亜鉛メッキ鋼管 全面腐食 空調系 冷温水管 ( 開放 ) 亜鉛メッキ鋼管腐食減肉 溝状腐食 異種金属接触腐食 スラッジ付着冷却水管亜鉛メッキ鋼管スケール析出 スライム付着 腐食減肉 溝状腐食 蒸気還水管 鋼管 激しい腐食減肉 孔食 亜鉛メッキ鋼管 赤水 腐食減肉 錆瘤 管閉塞 赤水 管端接属部腐食 ライニング剥離 ライニング鋼管給水管ブリスタ 銅管 青水 孔食 潰食 応力腐食割れ 疲労割れ 衛生系 給湯管 ステンレス鋼管孔食 応力腐食割れ 粒界腐食耐熱ライニング鋼管赤水 管端接続部腐食 ライニング剥離 排水再利用水 ライニング鋼管 管端接続部腐食 スライム付着 厨房グリースによる管閉塞 付着面腐食 亜鉛メッキ鋼管排水管溝状腐食 ( 厨房系 住宅系 ) グリースによる管閉塞 管端部腐食 排水用ライニング鋼管清掃器による剥離 青銅製バルブ黄銅製弁棒の脱亜鉛腐食弁類その他鋳鉄製バルブ赤水 錆瘤 ポンプ 鋳鉄製 赤水 錆瘤 2

エネルギーSUGA TECHNICAL REPORT NO.30394 2. 腐食の概要 2.1 腐食とは腐食とは金属が それを取巻く環境成分と反応して酸化消耗し 金属としての性能が低下し使用に耐えなくなる現象を言います 自然界にある金属は 酸化物や硫化物の形でエネルギー的に安定した 鉱石 として存在していますが 工業材料として精錬加工された金属は この鉱石にエネルギーを加え強制的に還元したものであるため内部エネルギーが大きく不安定な状態になっています このため常に酸素など 周辺環境成分と結びつきエネルギーを放出することにより 元の安定した状態に戻ろうとする傾向があります これが腐食現象であり 腐食劣化は金属材料が持つ宿命であると言うことが出来ます ( 図 -1) 大 鉄 Fe 不安定 精錬還元 腐食酸化 小 鉱石 Fe 2 O 3 錆 Fe 2 O 3 安定 図 -1 金属の精練と腐食 腐食現象のうち 水の様な電解質が介在するものを 湿食 水が介在しない場合を 乾食 と呼び一般に湿食は乾食に比べて 遥かに速い腐食速度を示します 2.2 腐食の発生機構腐食の発生機構は 一般に電気化学的現象 ( 局部電池作用 ) として説明されています 金属の表面には 結晶や組織などの僅かな差異により無数の陽極 ( アノード ) 陰極( カソード ) が存在します これらの極が 電解質溶液に触れることにより局部電池を形成し 電気化学的作用により腐食が進行することになります ( 図 -2) 図 -2 局部電池作用 3

局部電池を形成して腐食を進行させる要因として 次の様な金属内部に含む因子と 水質など外部因子を挙げることかできます 1 金属内部因子金属固有の電極電位の貴卑金属の組織 / 組織の不均一 / 表面状態 / 異種金属の接触 / 内部応力 / 温度等 2 外部因子水質を主とする腐食環境溶液の組成 / 溶存ガス / 温度 / 圧力 / 流速 / 濃度差 / 通気差 / 渦流 / 外部応力 / すき間 / 異物の付着等 図 -3 に鉄の腐食の模式図を示します O 2 H 2 O Fe(OH) 2 2OH - Fe 2+ Fe 2e - 図 -3 鉄の腐食模式図 図 -3 において 金属表面の結晶構造等の差異からアノード部とカソード部が構成されます 水中でアノードから鉄原子が溶解し Fe 2+ 鉄イオンとなって水中に移行することにより局部電池作用が始まり腐食が進行することになります この反応は次の式で表されます * アノード反応 Fe Fe 2+ +2e - * カソード反応 1/2O 2 +H 2 O+2e - 2OH - アノードに生成した Fe 2+ とカソードに生成した OH - 水酸基イオンにより 水酸化第 1 鉄の白色沈澱物が生じます この水酸化第 1 鉄は酸化されやすい物質なので 水中の溶存酸素と反応し水酸化第 2 鉄を生じ水に溶けない沈澱物として赤水や赤錆の原因となります * Fe+2OH - Fe(OH) 2 * 2Fe(OH) 2 +1/2O 2 +H 2 O 2Fe(OH) 3 この様な経過をとりながら 水と触れる鉄は腐食していきます 4

2.3 腐食形態の分類金属腐食は 材質と環境が異なることにより様々な腐食形態をとります 腐食形態の分類法については種々な研究提案がされていますが 図 -4 にその 1 例を示します 1 全面腐食 general corrosion 金属の全面が ほぼ一様に腐食している場合を言う 2 局部腐食 localized corrosion 腐食が局部的に集中して起こる場合を言う 3 潰食 erosion corrosion 液流に伴って金属材料表面を磨耗する時に起こる激しい腐食 建築設傭配管では給湯システムの銅管配管でよく見られる 4 キャビテーション損傷 cavitation erosion 流体が高速で管内を流れる時に 継手近傍に負圧部分ができ そのため気泡が発生し管壁面に激突する際に起こる 通常の腐食環境下では見られない激しい腐食 5 応カ腐食割れ stress corrosion cracking 応カによって加速される腐食 応カ腐食により材料に割れを生ずる場合を応カ腐食割れと言う アンモニアイオン存在下の銅合金 塩素イオン存在下のオーステナイト系ステンレス鋼などに見られる 6 応カ疲労 corrosion fatigue 腐食環境下におかれた金属材料に繰り返し応カがかかり機械的疲労に比べて著しく損傷される現象 7 隙間腐食 crevice corrosion 極めて狭い隙間の下にある金属材料が局所的に起こす腐食 8 孔食 pitting 金属材料のある部分に深いあなを穿つ局部腐食 銅管 ステンレス鋼管等で見られる 9 粒界腐食 intergranular corrosion 結晶粒界に沿って進行する腐食 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部等に発生しやすい 10 選択腐食 selective leaching 合金の構成成分の一部が選択的に腐食脱落する腐食 砲金バルブの黄銅製弁棒の脱亜鉛腐食などが典型的事例 11 異種金属接触腐食 bimetallic corrosion 異種金属が接触してガルバニック電池が構成されることにより起きる腐食 銅管と鋼管 鋼管とステンレス鋼管との接続部などで発生する 5

金属腐食 乾食高温腐食高温酸化変色皮膜湿食全面腐食局部腐食 速度効果を伴う 潰食 腐食 キャビテーション腐食擦過腐食 割れを伴う腐食水素脆性応力腐食割れ活性経路割れ 腐食疲れ 割れを伴わない 隙間腐食 腐食 孔食 粒界腐食 溝状腐食 脱成分腐食 異種金属接触腐食 図 -4 腐食の形態分類 6

2.4 水質が腐食に与える影響建築設備用配管は水と接触する事により腐食が進行します 腐食の進行に影響を与える外部因子として水質を見るとき 次の様な項目を挙げることが出来ます (1) 溶存酸素溶存酸素は活性が強く 配管腐食進行上大きな影響を持ちます a. 酸素還元反応によりカソード反応を増加させるので 中性に近い液中で多くの金属の腐食速度を増加させる b. 金属表面の酸化膜を安定する様に働いて腐食を遅くする このように溶存酸素は 一方で腐食を進行させ 一方では耐食性を増加する方向に向かうことがあり 複雑な作用があります (1) 図 -5 溶存酸素量と軟鋼の腐食 (2)pH 水道水の基準では ph 値は 5.8 以上 8.6 以下であり一般に水道水は 7.0 前後の中性であると考えて良く ph 値の変化による腐食への影響は金属の種類により次の様に大別されます a. Au Pt など :ph に関係なく腐食速度が殆どゼロなもの b. Zn Al など : 中性域では腐食速度は比較的小さく安定しているが それから外れると酸性域でもアルカリ性域でも ph の変化とともに腐食速度が急増するもの c. Fe Ni など : 酸性域では ph の減少とともに腐食速度が増加するがアルカリ性域では ph の増加とともに腐食速度が減少するもの 腐食速度 [mm/ 年 ] ph 図 -6 亜鉛の腐食と ph (2) 図 -7 鉄の腐食と ph (1) 7

(3) 残留塩素水道水中に滅菌用に添加された塩素のうち 水中に残存する分子状の塩素を遊離残留塩素と言い アンモニア性窒素と結合しクロラミンの様な形になった塩素を結合残留塩素と言います 水質基準では遊離残留塩素として 0.1mg/l 以上 結合残留塩素で 0.4mg/l 以上を要求されています 塩素は激しい酸化力により滅菌の役目を果たすとともに 金属に対して激しい腐食作用をもたらします 水道水の残留塩素量は水源の汚染が進むとともに増加し 1.0mg/l 以上を示す場合もあり配管腐食の大きな要因になっています (4) 塩素イオン Cl - 2- 硫酸イオン SO 4 等水質基準では 塩素イオン濃度は 200mg/l 以下とされています 塩素イオン 硫酸イオン アンモニアイオン等は金属表面の不動態化を妨げる作用と 電気伝導度を上昇させることによる腐食電流の増加により腐食速度に影響を与えると言われています (5) 電気伝導率 ( 導電率 ) 水溶液の導電率は 水中に溶けているイオン量と そのイオンの電気を運ぶ速さによって支配され 水の導電率が大きいほど水に接する金属の電気化学作用が激しくなります 金属の種類 イオンの種類 腐食生成物の特性などにより腐食の進行速度は異なりますが少なくとも腐食の第一段として電気化学作用は大きくなるので 導電率が大きくなると その水は腐食性が高くなる恐れがあります 近年 大都市の水道水では水環境の悪化に伴い 25mS/m(250μS/cm) を超えるものもあり 設備配管の耐用年数に大きな影響を与えているものと思われます 図 -8 水道水の電気伝導率の経年変化 ( 東京都千代田区 ) (6) 硬度硬度とは 水中の Ca イオン及び Mg イオンの量をこれに対応する CaCO 3 の濃度 [mg/l] で表したものです 硬度 179 以下を軟水 357 以上を硬水と呼んでいますが 日本の水は普通軟水であり 60 以下が多く 水質基準では 300 以下とされています 硬度の高い水は 金属表面に炭酸カルシウムが沈着し保護皮膜を形成するため防食上有利であり腐食性が低く 硬度の低い軟水は逆に腐食性が強いと言えます 硬度が高すぎる場合はスケールが析出し障害となります (7) アルカリ度水中にいろいろな形で含まれているアルカリ分 即ち重炭酸塩 炭酸塩 水酸化物 珪酸塩などのアルカリ分を これを中和するに必要な 酸の量に対応する CaCO 3 の濃度 [mg/l] で表したものであり アルカリ度が大きい程配管の内面に保護皮膜を形成して防食の働きをします 8

(8) 遊離炭酸水中の遊離炭酸は その一部が炭酸 H 2 CO 3 になり酸性化します 遊離炭酸がアルカリ度に比し多すぎる場合は 腐食性が高くなり鉄 亜鉛を腐食し また 鋼管から銅イオンの溶出が多くなり青水などの原因になります (9) 温度温度変化が腐食速度に及ぼす影響は複雑ですが 一般に水温が高いほど溶存酸素の拡散速度が増加し化学反応が促進するので腐食速度は増加します 一定溶存酸素濃度における鉄の腐食速度は温度 30 上昇する毎に 2 倍になると言われます 図 -9 溶存酸素を含む水中での鉄の腐食に対する温度の影響 (10) 流速流速は腐食因子である溶存酸素の供給 腐食生成物の除去及び水の流動による機械的作用により腐食速度に大きな影響を与えます a. 流速が大きくなると金属表面に達する酸素量が増えるので腐食速度は大きくなる 流速がある程度以上になると 表面に達する酸素量により金属表面に不動態皮膜が形成され 腐食速度は低下する b. 更に流速が増加すると 腐食生成物の皮膜や不動態皮膜が機械的に損傷を受け 腐食速度は増加する 9

3. 各種配管の腐食障害 3.1 配管の内面腐食昭和 30 年代の始め 水質の悪化に伴い関西地区を中心に各所で赤水や錆詰まりの問題が発生 それまで万能の配管材料であった亜鉛メッキ鋼管が 給水管として使用するには不適当な状況に至りました 最初 亜鉛が溶解して白い濁り 即ち 白水 が発生し 続いて 赤水 錆瘤 となり ついには管が閉塞し使用不可能になると言う経過を辿ります この様なトラブルに対応するために管材や継手の開発が進められ 現在 給水管には硬質塩化ビニルライニング鋼管 ステンレス鋼鋼管 給湯管には銅管 ステンレス鋼鋼管 耐熱性硬質塩化ビニルライニング鋼管などが多く採用されており腐食の問題は大幅に改善されつつあります しかし 配管システム全体の耐蝕性のバランス問題や施工性とのマッチングの問題などが残されており今後とも 注意深く調査検討し続ける事が必要と思われます (1) 水道用亜鉛メッキ鋼管の腐食前述の様に 現在 亜鉛メッキ鋼管の給水管としての役割は終わりましたが 昭和 45 年以前の建物では 殆ど亜鉛メッキ鋼管を使用しており 現実に建築設備の一部として機能を果たしているため 赤水や錆詰まりの現状を把握することは重要になります 亜鉛メッキ鋼管の腐食障害は赤水 錆詰まり 孔食進行による貫通漏洩などで代表されますが 腐食を促進する水質要因として溶存酸素 残留塩素 電気伝導度 水温などが挙げられ 錆瘤下の孔食の浸食速度は給水で 0.3mm/ 年 給湯で 1.0mm/ 年程度と言われています 亜鉛メッキ鋼管の腐食機構は 次の様に説明されています a. 亜鉛メッキ鋼管は 水質が良好で有れば 亜鉛が水酸化亜鉛の保護皮膜を形成し腐食の進行を防止する b. 水質が腐食性であると 一様な保護皮膜の形成は期待出来ず 先ず局部的に亜鉛が溶出する 亜鉛の溶出により鉄が露出すると 亜鉛の電位は鉄よりも卑であるため 露出鉄部がカソード 亜鉛がアノードである局部電池を形成し 亜鉛の溶出を速め 所謂 犠牲陽極となって鉄を保護する c. 更に亜鉛が溶出し 鉄が露出する様になると鉄の局部腐食が始まり 鉄イオンが溶出し赤水の始まりとなる この鉄イオンは全部管壁を離れて水中に分散するとは限らず 水中のアルカリ分や珪酸と結合凝集し 表面に沈着するものがある これが錆瘤の始まりとなる d. 錆瘤が鉄表面に付着すると その部分は周辺部に比し通気不足になるため 酸素濃淡電池を形成し局部腐食 - 礼食が一層進行する 孔食部から溶出した 鉄イオンは多孔質の錆瘤の内部を透過し その上面に移動し その一部は水中に流出し赤水になり 一部は 他の物質と共に沈着し 錆瘤の上に積み重なり癖を成長させる 上述の様な 悪循環により亜鉛メッキ鋼管の腐食は進行していきます 10

写真 -1 亜鉛メッキ鋼管の腐食 ( 内面 ) 写真 -2 亜鉛メッキ鋼管の腐食 ( 断面 ) O 2 錆こぶ O 2 (+) (-) (-) O 2 欠乏 (+) Fe (3) 図 -10 錆こぶ下の局部腐食模式図 (2) 配管用炭素鋼鋼管 ( 白 ) 冷温水管の腐食密閉系の配管の場合 配管使用開始の初期の段階では溶存酸素や残留塩素の影響で腐食現象が見られますが 時間経過とともに酸素が消費される事により問題となる様な腐食障害は進行しなくなります 但し水の入替えが多いと腐食は発生する事になるので 膨張水槽の位置や膨張管の取付け高さ等について 良く検討する必要があります 一方 蓄熱槽など開放系配管では 給水や給湯系と同様に腐食やスケール障害が発生しやすい要素を持っています 1 溶存酸素蓄熱槽の水面が大気に開放されており 常時酸素が補給されるため 管内の水中溶存酸素が飽和状態になっている 又 温水温度も腐食促進の要因になる 2 水質蓄熱槽の水質は コンクリートの あく 機器配管からの錆 異物 地下水などの侵入などで汚染され腐食性が強くなっている場合がある 11

この様な腐食環境下での 青銅バルブ ステンレス製フレキシブル継手 空調コイルとの接続部など異種金属接続や電縫鋼管の使用は密閉回路では起こらない激しい腐食をもたらします 写真 -3 冷温水管 ( 開放系 ) の腐食 写真 -4 冷温水管 ( 開放系 ) の腐食 写真 -5 冷温水管 ( 開放系 ) の腐食 12

(3) 配管用炭素鋼鋼管 ( 黒 ) 蒸気還水管の腐食一般に 蒸気系配管には黒鋼管が使用されていますが 蒸気供給管においては腐食障害は殆ど見られません しかし還水管では数 mm/ 年に達する様な激しい腐食障害を起こす場合がしばしばあります 還水には硬度成分がないため保護皮膜が形成されにくく 管底にそつて凹凸の激しい溝状の全面腐食が生じ 腐食生成物が付着していないのが特徴です 還水管の腐食機構は 給水中に含まれる炭酸イオンと遊離炭酸がボイラ内で加熱されて二酸化炭素を発生し この二酸化炭素を含んだ蒸気が凝縮する際に 水に溶解し ph 値を 6~4 まで低下させ 更に酸素等の共存により激しい腐食環境をつくることにあります 腐食対策として 次のようなものがあげられます 1 補給水量を削減する 補給水の脱気をする 2 イオン交換樹脂で炭酸塩を除去する 3 還水用防食剤 ( アミン系 ) を投入する 写真 -6 蒸気還水管の腐食 (4) 電縫鋼管の溝状腐食電縫鋼管の溶接線に沿って 溝状に浸食される腐食の形態を言い 一直線に連続的な溝を形成する場合と錆瘤下に見られる様に 溶接線がより深く侵され不連続な溝を形成する場合があります 溝状腐食は水質 流速 溶存酸素など環境条件により 発生する場合としない場合があり 一般には 給排水管 冷却水管など開放系の配管に発生しやすく また 発生する場合は腐食速度は大きく 1mm/ 年程度に及びます 電縫鋼管の電縫部は 溶接の際 急熱急冷されるため鋼中の硫化物等の性状が変化し 母材部と腐食特性が異なる様になります 直線タイプの溝状腐食では電縫部がアノードとなりガルパニック的作用により腐食をうけます また 錆瘤下では その下の母材と電縫部が同時に腐食します 溶解性に差があるため電縫部が深い浸食を受けます 設備工事で多用される配管用炭素鋼鋼管は 製造法により 電縫鋼管と鍛接鋼管に分けられます 鍛接鋼管には 上述の溝状腐食感受性がありませんので 100A 以下の配管については鍛接鋼管を 鍛接鋼管が製造されていない 125A 以上については 溝状腐食対策を施した耐溝状腐食電縫鋼管がメーカ各社から市販されているので 開放系など腐食環境が悪い配管では これらを採用すべきと考えます 13

写真 -7 電縫鋼管の溝状腐食による割れ 写真 -8 電縫鋼管の溝状腐食 (5) ライニング鋼管の管端部腐食赤錆対策のエースとして白鋼管に替わって登場 昭和 35 年頃 赤水問題が多発していた関西地区の公団住宅から試用が開始され徐々に普及していきました 昭和 47 年 JWWA 規格が制定 52 年建設省 ( 現国土交通省 ) 仕様書に採用された事を契機に需要が本格化しました 現在 硬質塩化ビニルライニング鋼管 水道用ポリエチレン粉体ライニング鋼管が主として使用されています 当初 ライニング鋼管用継手が無かった時代を経て樹脂コーテイング継手が採用された後でも 管端部の処理に弱点があり 又 鉄部が露出されたままのポンプ 鋳鉄製パルブ等が無神経に使われていたため ライニング鋼管を使用しているのに赤水が出る と言うクレームにつながりましたが このトラブルは今日まで 程度の差はあれ 続いているものと考えられます 1 管端部の隙間腐食当初 鉄部が露出する管端部は 防食シール剤を塗布し補修していたが完全では無く 経年ともに管端面から腐食が進行する 管端部に錆が発生するとライニング下面まで腐食が進みライニング膜を押し上げ剥離に至る 2 ライニング鋼管と青銅製バルブの異種金属接続マクロセル腐食管端部の極めて狭い面積の陽極部に腐食電流が集中するため 従来の白鋼管との接続では想像もつかない程の速度で腐食が進行する 竣工 10 年でネジ部が全て溶出し 錆瘤と薄いライニング層で辛ろうじて接続されているケースがしばしば見られる 14

最近 管端防食継手が各メーカにより開発され 管端部 継手ネジ部とも水に接しないようなコア入り構造の継手が採用される様になり 上記の腐食トラブルは解決される方向に進んでいますが ねじの加工精度やねじ込みトルク等の施工管理が重要であり これを怠ると また新たな腐食トラブルを引き起こす恐れがあります 写真 -9 ライニング鋼管の管端部腐食 写真 -10 ライニング鋼管と青銅製バルブ接続部の腐食 図 -11 ライニング鋼管と青銅製バルブの異種金属接続マクロセル腐食 15

(6) 一般配管用ステンレス鋼鋼管の腐食ステンレス鋼鋼管は 従来より 化学工業や食品工業の施設配管用には多用されてきましたが 建築設備配管用に本格的に採用し始められたのは 末だ日が浅く 昭和 50 年代に入ってからのことです これは 水質の悪化に伴う給水管の赤水問題 給湯用鋼管の孔食によるトラブルの頻発などにより 耐蝕耐久性に優れたステンレス鋼鋼管が注目され始めたこと 又 その要求に応える様に建築設備にフィットする様な薄肉のステンレス鋼鋼管及び省力型継手が開発された事によります 更に 昭和 51 年 一般配管用ステンレス鋼鋼管の規格が制定され 翌 52 年に建設省 ( 現国土交通省 ) 仕様に記載された事によりステンレス管の採用が急速に普及する様になり現在に至っています ステンレス鋼鋼管の耐蝕性は管表面に形成される保護皮膜 ( 不動態皮膜 ) によるものであり この不動態皮膜が破壊されると腐食が発生することになります ステンレス鋼鋼管の腐食形態としては 次の様なものがあります 1 孔食 隙間腐食孔食は 保護皮膜が破壊された部分の腐食孔が進行するものであり 塩素イオンの蓄積と酸素濃淡電池の構成等が主因子とされ 管内の異物の付着や 水の滞留などが促進要因といわれている 隙間腐食も孔食と類似しており フランジとガスケットの接触面や 水の流通のない死水が生じる隙間部は通気不足となり その周辺と酸素濃淡電池を構成し 腐食を進行させる ガスケットに含まれる塩素イオンが原因になる場合も多い 2 応力腐食割れ SUS304 の様なオーステナイト系のステンレス鋼で 引張り応力と塩素イオンによる不動態皮膜破壊が重なった時に発生する 塩素イオンの蓄積や 熱伸縮などの際応力が掛からない様にする等の注意が必要である 3 粒界腐食ステンレス鋼が 加熱温度 500~800 で長時間さらされると 結晶粒界に沿ってクロム炭化物が析出し その結果 結晶粒界付近のクロムが減少するため耐蝕性が低下し粒界腐食を招く ( 鋭敏化 ) ステンレス鋼鋼管は 現場溶接は出来るだけ避け工場加工とし 溶体化処理など適切な熱処理を施したものを使用する 4 ガルバニック腐食ステンレス鋼鋼管と異種金属製の管 継手を接続するとき 自然電位の卑な物がガルバニック腐食により浸食される 炭素鋼その他鉄製品との接続 : 絶縁フランジ 絶縁継手を必要とする 鋼管 青銅弁との接続 : ほぼ同電位 そのまま接続できるなど 使用材料の電位により絶縁の要 不要を検討する必要がある 設備配管におけるステンレス鋼鋼管の腐食事故は 使用され始めてから十数年しか経過していない点もあり 重大なものは報告されておらず むしろ施工法と施工管理技術のミスマッチ等が課題として残っているのが現状です しかし 腐食についても ステンレス鋼鋼管は 基本的に前述のような腐食感性を持っていることを認識し 施工前に十分に検討する必要があります 16

写真 -11 熱交換器管板部 (SUS304) の隙間腐食 写真 -12 ステンレス鋼の応力腐食割れ ステンレス配管の水質指針としては ステンレス協会により 塩化物イオン Mアルカリ度 塩化物イオン/ 硫酸イオン比 の値から 給水配管 給湯配管および空調配管としての SUS304 と SUS316 の腐食傾向を判定するマトリクス表が提案されている ( 図 -12) 17

- 給水用 - - 給湯 空調用 - [ : 腐食の可能性小 : 腐食の可能性大 : または ] (4) 図 -12 ステンレス鋼管の腐食性判定のための水質分類表 18

(7) 銅管の腐食建築設備における銅管の本格的な大量採用は 昭和 40 年代に入ってからと考えてよく セントラル給湯 暖房システムの普及に加え超高層ビルの幕開けを迎え 施工性 耐震性 耐久性 軽量性等から鋼管の良さが評価され 使用量が増加しました ところが 銅管を採用した大型ビルの循環式給湯システムを中心に 竣工後 1~2 年で孔食による穴明き漏水というトラブルが各所で発生するようになり その原因及び対策が 必ずしも明確でないところから 現在に至るまで問題を残しています 銅管の腐食形態としては 孔食の他に 潰食 疲労割れなどがあります 1 孔食鋼管内面に緑青色のマウントができ その下面にピットを掘った様な腐食孔が生じる 腐食が進行すると管外面まで貫通し 漏洩に至る 水道水を水源とするものでは 孔食は主としてストレージタンクを有する大規模強制循環式の給湯システム配管や 開放式蓄熱水槽による冷温水配管で発生し 一過式の給湯配管やクローズ方式の冷温水配管では 殆ど見られない 発生因子として 次の様なものが挙けられている * phが低い * 溶存酸素が高い * 硫酸イオン / 重炭酸イオン比が高い * 残留塩素が高い * 管内流速が遅い等対応として 気水分離 / 適正流速の確保 0.5~1.5m/s/ フィチン酸処理等が有効とされる 2 潰食銅配管継手の流れの下流部や 継手に接続した直管の内面に見られる管壁を抉る様に浸食される激しい腐食で 高速の水流や 継手部など負圧部で発生する気泡が管壁面に激突し 損傷を与える 孔食同様 大規模強制循環式給湯配管でしばしば発生が見られる 発生因子として 循環ポンプの過大 気水分離の不良 施工不良による渦流などが挙げられる 3 疲労割れ銅管は 黄銅の様な銅合金と異なり割れを起こしにくい材料とされるが シンダー埋設部や機器類との接続部で 応力腐食割れや 熱応力や振動に起因する疲労割れを起こす事がある 対策として 保温材に硫黄やアンモニアを含まない物を使用する 埋設部等に関しては熱伸縮を吸収するような緩衝材を巻くなどの対応が必要である 19

写真 -13 銅管の孔食 写真 -14 銅管の潰食 保護性皮膜 水の流れ 水流や気泡の衝突 潰食部 金属 図 -13 潰食の発生模式図 20

写真 -15 銅管の応力腐食割れ (8) 青銅バルブ黄銅製弁棒の脱亜鉛腐食昭和 50 年代の始め頃より 主として給湯系統の青銅製バルブの弁棒が竣工後 2~3 年で折損する事故が多発する様になりました これは脱亜鉛腐食と呼ばれる腐食形態であり 従来は海水や 酸性の高い工業用水 井水を使用する系のみで見られるものでした 当時 JIS 青銅バルブの弁棒は 鍛造用黄銅棒が使われていましたが 水質の低下に伴い黄銅中の亜鉛と銅が局部電池 ( ミクロセル ) を形成し 陽極となる亜鉛が選択的に金属イオンとなって溶出するため強度が減じ ついには折損に至るものです 腐食要因としては 水温が高いこと (60~80 ) ほか 溶存酸素 遊離炭酸 塩素イオン 硫酸イオン等が影響を与えると言われています 弁棒の脱亜鉛腐食は 幸いにも原因がはっきりしているためメーカーの対応もはやく 現在は亜鉛の含有量を減らし錫等を添加した 耐脱亜鉛対策用黄銅材料 又は 青銅棒 (BC-6) の採用により 解決しています 写真 -16 弁棒部の脱亜鉛腐食 21

3.2 配管の閉塞障害設備配管の閉塞障害としては 一般的な腐食錆瘤によるものの他 冷却水におけるスケール スライム障害 厨房系排水管におけるグリース詰まり等があげられます (1) 冷却水のスケール スライム障害スケールは冷却水中の溶解物質 主として炭酸カルシウム及びシリカ等が 冷却塔の運転により濃縮され析出するもので 冷凍機の凝縮器や配管に沈着し 熱効率の低下 配管抵抗の増大 運転費の増加などの障害をもたらせます スケールの主成分である炭酸カルシウムは水の硬度 温度 ph が高いほど析出しやすくなります スライムは 水中の微生物 バクテリヤ及び藻類が繁殖したもの 或いは それらの死骸が土砂などに混じって堆積付着した軟泥状の物質を言います スライムも凝縮器チューブや冷却塔塔体に堆積し 熱効率や冷却塔効率の低下を招きます スライムが発生しやすい条件として 水温 30~40 COD10mg/l 以上 ph6~9 と言われ 冷却塔はその特性上 スライムを発生しやすい環境にあると言えます スケール スライムの堆積は 熱効率の低下の他に通気差電池を形成し 配管の腐食や凝縮器チューブに孔食をもたらす場合があり その進行度は水質 異種金属の接合 流速 水温などにより左右されます スケール障害の対策として 次の様なものが採用されます 1 濃縮度管理 ( ブロー管理 ) スケールの付着は 冷却水の高濃縮により起こるので 適切なブロー管理を行えばスケール付着は防止出来る 炭酸カルシウムの場合濃縮倍数として 2~3 倍以下に管理すれぽ防止出来るとされる ブロー管理の方法としては 人手による管理のほか 積算流量計による定量ブロー法 導電率計による自動ブロー法などがある 2 スケール分散剤による管理スケール分散剤を使用して結晶の成長を防止し高濃縮で運転する方法 分散剤の使用により一般に濃縮倍数を 4~10 に維持する事が可能であり節水効果が期待できる 普通 防食剤が併用される 3 ワンパック処理剤による管理前述の管理法の採用が困難な小型冷却塔向けに開発された薬剤で 冷却塔水槽に投入して置くだけで腐食 スケール スライムの防止が出来るものとして普及し始めている 22

(5) 図 -14 冷却水管理自動ブロー装置 空調設備における冷却水や冷温水に対して 水質に起因する腐食の発生やスケールの生成を防止するための水質ガイドラインが制定されているので 表 -2~ 表 -4 に示します 基準項目 参考項目 1) 表 -2 冷却水系の水質基準値 ( 日本冷凍空調工業会ガイドライン JRA-GL-02-1994 冷却水系 ) 2) 項目 循環式 4) 冷却水系 一過式 循環水補給水一過水 ph(25 ) [-] 6.5~8.2 6.0~8.0 6.8~8.0 〇 〇 電気伝導率 (25 ) [ms/m] 80 以下 30 以下 40 以下 〇 〇 塩化物イオン [mgcl - /l] 200 以下 50 以下 50 以下 〇 硫酸イオン [mgso 4 2- /l] 200 以下 50 以下 50 以下〇酸消費量 (ph4.8) [mgcaco 3 /l] 100 以下 50 以下 50 以下〇 全硬度 [mgcaco 3 /l] 200 以下 70 以下 70 以下 〇 カルシウム硬度 [mgcaco 3 /l] 150 以下 50 以下 50 以下 〇 イオン状シリカ [mgsio 2 /l] 50 以下 30 以下 30 以下 〇 鉄 [mgfe/l] 1.0 以下 0.3 以下 1.0 以下 〇 〇 銅 [mgcu/l] 0.3 以下 0.1 以下 1.0 以下 〇 硫化物イオン [mgs 2- /l] 検出されないこと 検出されないこと 検出されないこと 〇 アンモニウムイオン [mgnh + 4 /l] 1.0 以下 0.1 以下 1.0 以下 〇 残留塩素 [mgcl/l] 0.3 以下 0.3 以下 0.3 以下 〇 遊離炭素 [mgco 2 /l] 4.0 以下 4.0 以下 4.0 以下 〇 安定度指数 [-] 6.0~7.0 - - 〇 〇 1) 供給 補給される源水は 水道水 ( 上水 ) 工業用水及び地下水とし 純水 中水 軟化処理水などは除く 2) 項目の名称とその用語の定義及び単位は JISK0101 による 上記 15 項目は腐食及びスケール障害の代表的な因子を示しものである 3) 欄内の〇印は腐食又はスケール生成傾向に関係する因子であることを示す 4) 密閉式冷却塔を使用する冷却水系において 閉回路循環水及びその補給水は温水系 ( 表 -3 参照 ) の 散布水及びその補給水は循環式冷却水系の それぞれ水質基準による 腐食 3) 傾向 スケール生成 23

基準項目 参考項目 1)~3) 表 -2 と同様 1) 表 -3 冷水系の水質基準値 ( 日本冷凍空調工業会ガイドライン JRA-GL-02-1994 冷水系 ) 2) 項目 循環水 (20 以下 ) 冷水系 補給水 腐食 3) 傾向 スケール生成 ph(25 ) [-] 6.8~8.0 6.8~8.0 〇 〇 電気伝導率 (25 ) [ms/m] 40 以下 30 以下 〇 〇 塩化物イオン [mgcl - /l] 50 以下 50 以下 〇 硫酸イオン [mgso 4 2- /l] 50 以下 50 以下〇酸消費量 (ph4.8) [mgcaco 3 /l] 50 以下 50 以下〇 全硬度 [mgcaco 3 /l] 70 以下 70 以下 〇 カルシウム硬度 [mgcaco 3 /l] 50 以下 50 以下 〇 イオン状シリカ [mgsio 2 /l] 30 以下 30 以下 〇 鉄 [mgfe/l] 1.0 以下 0.3 以下 〇 〇 銅 [mgcu/l] 1.0 以下 0.1 以下 〇 硫化物イオン [mgs 2- /l] 検出されないこと 検出されないこと 〇 アンモニウムイオン [mgnh + 4 /l] 1.0 以下 0.1 以下 〇 残留塩素 [mgcl/l] 0.3 以下 0.3 以下 〇 遊離炭素 [mgco 2 /l] 4.0 以下 4.0 以下 〇 安定度指数 [-] - - 〇 〇 基準項目 参考項目 1) 表 -4 温水系の水質基準値 ( 日本冷凍空調工業会ガイドライン JRA-GL-02-1994 温水系 ) 4) 温水系 3) 傾向 低位中温水系 高位中温水系 2) 項目 循環水 循環水 (20 を超え 60 以下 ) 補給水 (60 を超え 90 以下 ) 補給水 腐食 ph(25 ) [-] 7.0~8.0 7.0~8.0 7.0~8.0 7.0~8.0 〇 〇 電気伝導率 (25 ) [ms/m] 30 以下 30 以下 30 以下 30 以下 〇 〇 塩化物イオン [mgcl - /l] 50 以下 50 以下 30 以下 30 以下 〇 スケール生成 硫酸イオン [mgso 4 2- /l] 50 以下 50 以下 30 以下 30 以下〇酸消費量 (ph4.8) [mgcaco 3 /l] 50 以下 50 以下 50 以下 50 以下〇 全硬度 [mgcaco 3 /l] 70 以下 70 以下 70 以下 70 以下 〇 カルシウム硬度 [mgcaco 3 /l] 50 以下 50 以下 50 以下 50 以下 〇 イオン状シリカ [mgsio 2 /l] 30 以下 30 以下 30 以下 30 以下 〇 鉄 [mgfe/l] 1.0 以下 0.3 以下 1.0 以下 0.3 以下 〇 〇 銅 [mgcu/l] 1.0 以下 0.1 以下 1.0 以下 0.1 以下 〇 硫化物イオン [mgs 2- /l] 検出されないこと 検出されないこと 検出されないこと 検出されないこと 〇 アンモニウムイオン [mgnh + 4 /l] 0.3 以下 0.1 以下 0.1 以下 0.1 以下 〇 残留塩素 [mgcl/l] 0.25 以下 0.3 以下 0.1 以下 0.3 以下 〇 遊離炭素 [mgco 2 /l] 0.4 以下 4.0 以下 0.4 以下 4.0 以下 〇 安定度指数 [-] - - - - 〇 〇 1)~3) 表 -2 と同様 4) 温度が高い場合 (40 以上 ) には 一般に腐食性が著しく 特に鉄鋼材料が何の保護被膜もなしに水と直接触れるようになっている時は 防食薬剤の添加 脱気処理など有効な防食対策を施すことが望ましい 24

(2) 厨房系排水等のグリース詰まり厨房系の排水には 油脂分や夾雑物が含まれており それらが管内で冷却凝固して内面に付着し 管路を狭め排水能力を低下させます 特に業務用厨房でグリーストラップの管理が行き届かない場合は 高濃度の油脂がそのまま流出するため 短期間のうちに排水管の閉塞事故が発生することになります 集合住宅等では厨房の油脂分の他に 浴室 洗濯機排水からの毛髪 糸くず 石鹸かす等がトラップ 及び それにつながる横走り管に付着堆積し 排水不良となります ビル管法 では 特定建築物に関して 6 ケ月以内毎の排水管の清掃を義務付けていますが それ以外の建物に関しても実情に応じ 適切に間隔を定め清掃を実施する必要があります 一般に 排水管では腐食障害は発生し難いとされており 特に鋳鉄管を採用した汚水系統などでは 殆ど腐食事例は見られず 20~30 年と非常に長期間にわたり健全に使用に耐えている実績があります これはカルシウムを主成分とする良好なスケール皮膜が管内に形成される結果と考えられます しかし 厨房系の排水に関しては 予想以上に腐食による事放が多く発生しており 当社の知見するところでも グリース付着面下で孔食や溝状腐食が 従来の定説以上に進行しているケースがしばしば見られます 腐食進行の原因として 次のようなものが考えられます a. グリース付着面下では通気不足を生じ 酸素濃淡電池を構成し隙間腐食 孔食に進展する b. 付着したグリースが酸化し 脂肪酸となり腐食を速める c. 業務用厨房等では 洗浄剤を使用するケースが多く 強力な酸性 アルカリ性洗浄剤により管及び継手の腐食を助長する傾向がある d. 管清掃時に使用されるフレキシブルワイヤーや洗浄ノズル ( 高圧洗浄時 ) によって 機械的作用を受け 腐食が促進する場合がある e. 堆積物下などの嫌気性環境において 硫酸塩還元菌が増殖した結果 硫化水素が発生し 管気相部が腐食する場合がある 写真 -17 排水管の詰り 25

写真 -18 厨房系排水管の腐食 写真 -19 厨房系排水管の腐食 ( 断面 ) 26

3.3 地中埋設管の外面腐食給水 消火 ガスなどの配管を 鋼管を使用し地中埋設施工する場合は 必ず外面腐食の問題に当面する事になるので 当初から防食対策を十分に検討する必要があります これを怠ると数年後 腐食孔あきによる水漏れなどのトラブルの頻発に悩まされる事になります 地中埋設管の外面腐食も基本的には配管の内面腐食と同様 湿食であり 埋設管の表面に構成される陽極部 陰局部からのイオンの流出 電子の移動を伴った電気化学的作用によるものと説明されます (1) ミクロセル腐食土壌に接している鋼管の表面には 表面状態 組織環境等の僅かな差異により 微視的な陽極と陰極からなる局部電池 ( ミクロセル ) が無数に形成され これらによる腐食をミクロセル腐食とよび 次の様な特性を有します a. ミクロセル腐食は比較的穏やかで均一且つ全面的な腐食を引き起こす 腐食速度は 0.001~ 0.3mm/ 年程度である b. ミクロセル腐食が始まると 鋼の電位は全体として その土壌固有の腐食電位に落ち着く * 普通の土 -400~-700mV * 通気性の良い土 ( 砂 ) -500~-600mV * 通気性の悪い土 ( 粘土 ) -700~-800mV * コンクリート -100~-300mV ( 飽和硫酸銅電極基準 ) ミクロセル腐食に影響を与える土壌因子として 次の様なものが有ります 1 ph 一般の土壌は ph5~8 の範囲にあり ph 値が直接腐食に影響することは少ない 但し化学工場跡地や土丹層などで ph4 以下など強酸性を示す土壌もあり その場合は激しい腐食をもたらす 2 バクテリア嫌気性で ph6~8 の粘土質土壌では 硫酸塩還元バクテリアが繁殖しやすく この様な土壌ではバクテリアの還元作用により陰極反応が促進され激しく腐食が進行する場合がある 硫酸塩還元バクテリアの活動指標として酸化還元電位が用いられる 3 土壌比抵抗土壌比抵抗は 土壌の電流の通り易さの指標でありミクロセル腐食電流に影響を与える 比抵抗 1.000Ωcm 以下の土壌は腐食性が大きい 4 通気性土壌の通気性は 土壌組成と含水率に支配され 一般に通気性が高いほど腐食は促進される 27

(2) マクロセル腐食ミクロセル腐食が 金属表面の微視的な電池作用による腐食であるのに対して 配管管路の中で 相対的に自然電位の卑な部分 ( 陽極部 ) と貴な部分 ( 陰極部 ) が存在し これらが巨視的な電池 ( マクロセル ) を形成して陽極部 ( アノード ) の腐食が進行していくものをマクロセル腐食と呼び 次の様な特徴があります a. ミクロセル腐食と異なり陽極部 ( アノード ) と陰極部 ( カソード ) が明確に分離している b. 腐食の駆動力が極めて大きく C/S 系マクロセル ( 後述 ) では 最大 0.7V 程度になり得る c. 腐食速度は 陰極部面積 / 陽極部面積比 土壌比抵抗 極間距離が関係するが 特に面積比が大きく影響する マクロセル腐食の代表例として 次の様なタイプがあります 1 通気差マクロセル埋設管が 部分的に通気性の悪い土壌に接している場合 通気差により酸素濃淡電池が形成され 通気性の悪い部分が陽極となり腐食する * 下水側溝の下越し配管部など 湿潤な状態でで部分的に通気性が悪くなっている土壌を通過する配管 * 造成地などで 各種の通気性の異なる埋め戻し土壌を通過する配管 2 異種金属接続マクロセル異なる 2 種の金属が土壌中で接続されるとき各々の自然電位差によりマクロセルが形成され 自然電位が卑な方が陽極となり腐食される * 青銅バルブと鋼管の接続鋼管が卑となり腐食する * 旧管と新管の接続旧管は表面の錆などで自然電位が新管よりも高い このため新管が陽極となって腐食する可能性が高い * 配管のレンチ傷部配管にレンチ傷等があると その部分に歪みが生じ自然電位が低くなるため腐食が促進される 3 コンクリート / 土壌系マクロセル腐食 (C/S 系マクロセル腐食 ) 設備関連の埋設配管で最も発生し易く 且つ問題になるのが この C/S 系マクロセル腐食であり 主として鉄筋 鉄骨系建物の埋設配管で発生するが その腐食速度は他の腐食に比し著しく速く 竣工後 3~4 年で腐食貫通にいたるケースがしばしばある 鉄筋 鉄骨の建物に引き込まれた配管が 貫通部や支持部で鉄筋コンクリート中の鉄筋に電気的に接触すると 地中に埋設された配管と コンクリートの中の鉄筋との自然電位差 (0.2~0.7V 程度 ) により マクロセルが構成され 地中の配管が陽極部となり激しく侵される 前述したように C/S 系マクロセルでは腐食速度は 陰極部面積 / 陽極部面積比にほぼ比例する これは土壌中の鋼の面積に比し コンクリート中で露出している鋼の面積が大きい程 腐食速度が大きくなる事を示し 例えば配管が鉄筋に接触し 且つ埋設配管の防食被覆に小さな欠陥があるような場合 急激なマクロセル腐食を引き起こす事を示す 28

図 -15 コンクリート / 土壌系マクロセル腐食 写真 -20 埋設管のマクロセル腐食 29

(3) 電食ミクロセル腐食 マクロセル腐食とも自然腐食であるのに対して 電食は 電気鉄道や防食システムの様な 電気設備から漏洩した直流電流に起因する腐食を言います 電気設備から漏洩した電流の一部が 埋設配管の表面から流入し その電流が地中に流出する部分で陽極反応を起こし 激しい腐食をもたらせます 電気鉄道の近傍や 外部電源方式の電気防食を採用している配管の近傍では注意が必要になります (4) 埋設配管の防食上の問題点給水管 消火管など地中埋設管用の防食被覆材として 従来 比較的絶縁度の低いコールタール塗装やアスファルトジュート被覆などが多用されてきが 塗膜の厚みの問題や 繊維質を連結材として使用していることなどにより 長期的に防食性能を維持することは困難であり竣工後 6~7 年で孔食が発生し始め 10~15 年で全面腐食に至る傾向が多くみられました 昭和 50 年代に入り 絶縁抵抗値の高い 防食樹脂テープ巻き工法が急速に普及し始め 防食効果の長期継続が大いに期待されましたが 埋設後 2~3 年で穴明き漏水に至る孔食事故が多発し 期待を裏切る結果となってしまいました この工法では 作業環境の悪い掘削現場で 防食テープを巻き付けていくため 複雑な形状の継手部はもとより 直管部でも完全な施工は困難であり また埋戻し時や掘削時に外傷を受ける危険も高く 軟弱な防食テープのみで防食性能を期待する事自体に 元々無理があったと言えます 防食被覆に欠陥があると 腐食電流がその微小な欠陥部に集中する為に 何も巻かない裸管の腐食の 4~5 倍の速度で孔食が進行することになります その後 埋設管の防食仕様はぺトロラタム系防食材 外 ( 内 ) 面ライニング鋼管と変遷しています 設備工事における埋設管の腐食事故の大部分はコンクリート / 土壌系マクロセル腐食であり C/S 系マクロセル腐食防止の最も重要なポイントは 建物内外の配管を電気的に絶縁する ことであり この原則を設計者も施工者も十分理解しない限り 単に防食被覆を変えても腐食事放の根絶は不可能と思われます 最近 埋設管については外面ライニング鋼管が使用されるケースが多くなってきましたが これで安心するのは早計であり 先ず前述したように 設計者も施工者もマクロセル腐食が電気化学的反応である事を十分に理解することが重要であり 設計面では建物内外の配管の絶縁と 必要に応じて流電陽極法による防食を設計図 仕様書に折り込むこと 施工面では 管の取扱 運搬 接続の際 防食被覆面に絶対に傷を付けない様に注意する また 傷を付けた場合は必ず丁寧に補修をすること 埋戻しの際も 良質の山砂等を用い手作業で施工する等 被覆を傷つけない為の細心の注意が必要になります 30

写真 -21 埋設管 ( 防食テープ被覆 ) の腐食 写真 -22 埋設管 ( 内外面ライニング鋼管 ) の腐食 図 -16 埋設管の防食対策 ( 犠牲陽極 + 絶縁継手 31

4. 配管の劣化診断 前章で 建築設備を構成する各種配管の 腐食を中心とした経年劣化の状況について述べましたが 適切な設備機能の保全維持のためには 劣化の程度と範囲などの現状 今対策をとらなかった場合の将来の問題点等を 出来るだけ正確に把握することが重要であり ここに 劣化診断の必要性があります 配管の劣化診断は 具体的には次の様なケースで必要となり 実施されています a. 赤水や漏水事故が頻発し その対策として必要性に迫られ 事後保全の一つとして行われるもの b. 設備の老朽化 陳腐化或いは経済的 社会的要求 法規の改正遡及などから改修が必要となり その範囲 程度を決定するために行われるもの c. 最近の動向として 予防保全の一環として日常の保守点検業務に組込み 設備システムの機能確保と耐用年数の延長をはかるために行われるもの 何れにしろ 劣化診断の目的として 設備配管の劣化現象とその劣化諸要因を把握し 異常の発見及び将来への予測をし 必要な対策を提示することにあります 設備配管の劣化診断の基本技術とフローは 建設省 ( 現国土交通省 ) 総合開発プロジェクト ( 昭和 55 年 ~59 年 ) による 建築物の耐久性向上技術の開発 で調査研究され 指針が提案されています ここでは その指針を参考に鋼管を中心とした診断手順を紹介します 診断レべルと調査内容は 診断によって得られる情報 調査の難易度及び判断技術の熟練度により 次の 3 段階に分けられます 1) 1 次診断主として設備管理者等の管理記録を基にしたヒアリング調査や視覚 聴覚などによる状況把握 2) 2 次診断非破壊検査機器や水質分析器による計測調査 3) 3 次診断配管の抜管サンプリングを伴う詳細調査 サンプル管内外面の劣化状態の詳細検査によるより的確な評価判定と劣化原因の追求 32

図 -17 配管の劣化診断手順 33

4.1 1 次診断 1 次診断は 管理記録やヒアリングによる漏水歴や修理歴等の調査と赤水の程度 配管継手の外観による劣化の現状レべルの把握が目的であり 異常現象の兆候の有無により 継続使用又は 2 次診断への移行を判定します (1) ヒアリング竣工図書類 運転記録 修繕台帳 水質検査表など設備管理関連図書記録を事前に閲覧のうえ 次のような項目について 設備管理担当者からヒアリングを行い 現状と傾向を把握します 1 建設経過年数 設備システム 配管方式 配管材料 継手 製造メーカ 接続法 保温材 2 運転方法 運転時間 温度 補給水法 3 水質管理の履歴 4 過去の漏水その他修繕履歴 5 赤水が出始めた時期 6 空調等の機能低下が感じられた時期 7 過去の改修経歴 8 その他トラブル経歴と傾向 (2) 目視点検次の様な項目について 目視や操作感覚で劣化のレぺルを把握します 1 配管 継手 弁廻り 機器接続部などの発錆状況 漏れ跡の有無 保温の劣化状況の観察 2 弁のグランドパツキング部の漏れ 弁の開閉操作の確認 3 吐出水の着色度 クーリングタワー用水の汚れ貝合 ドレーンコックからの水の色調 4 受水槽 屋上水槽底部の赤錆の沈着状況 5 排水流れ具合 流水音 トラップの液面変動 6 その他 (3)1 次診断判定基準 1 次診断の判断基準例を以下に示します 次の何れかに該当する場合は 2 次診断に移行します 1) 使用年数竣工後 15 年以上経過しているもの 2) 漏水履歴過去 2 年以内に同一系統で 3 ケ所以上の漏水があった場合 3) 着色度連続吐水後に 目視で明らかに着色しているのが判る場合 水質検査表で 鉄イオン濃度及び色度が基準値をオーバーしている場合 4) 弁座漏れ / 開閉不良弁を交換し 2~3 次診断を実施する 5) 保温材の濡れ保温材の濡れや 漏水跡が同一系統で複数箇所ある * 給水管の劣化判定の基準の一つとして 水道法の水質基準に基づく鉄イオン濃度の最大値 0.3mg/l 及び色度 5 度以下が用いられるが 目視で判別出来るような場合は 鉄イオン濃度で 1.0mg/l 色度で 10 度を超えていることが普通であり注意を要する 34

図 -18 1 次診断 35

4.2 2 次診断 2 次診断では 1 次検査の結果を受けて 配管を出来るだけ現状のままで行う非破壊検査機器による検査や水質分析により調査を行い 劣化進行の程度と範囲をより的確に把握し 継続使用か更新かの判定を行います (1) 非破壊検査機器と分析器 2 次診断用の非破壊検査機器として 最近様々な機器が開発提案されていますが 一般的には次の機器が実用ベースで使用されています 1 内視鏡 ( ファイバースコープ ) 掃除口等より挿入し 管内面の錆やスケール詰まり状況を観察する 写真 VTR により記録が可能であり 劣化状況の把握に効果が大きい 2 超音波厚さ計管の外面に探触子を密着し 超音波の往復時間から管の残存肉厚の測定を行う 鋼管の直管部のみ有効であり 継手部やライニング管には適用出来ない 3 X 線透過装置 X 線透過撮影により 管 継手部 弁等の錆詰まりの状況を把握する 撮影と解析に資格熟練が必要 隔離距離 5m 半径を要する 4 渦流探傷器渦電流により鋼管 ステンレス管のピンホールを検出する 判定に熟練を要する 5 鉄イオン濃度計簡易水質分析器の一つでサンプルにパック試薬を加え 直読式水質分析器で鉄イオンの濃度を読み取り システム全体の腐食状況を把握する (2) 超音波厚さ計による診断超音波厚さ計を使用し 配管外面から非破壊で残存肉厚を測定し 平均浸食率や残存寿命を推定する方法であり測定箇所は 一般に系統毎の始点 終点 中間点を測定することを原則とし 測定点数は 配管長さ 300mm に対して表 -5 の様なポイントを測定します 測定結果より 最大浸食度 推定残存寿命 平均浸食率等を算出し これに考察を加え判定します 1 最大浸食度 Mcr=A-B/Y A: サンプルと同径の公称近似厚さ [mm] B: サンプルの残存最小肉厚 [mm] Y: 使用年数 [mm] 2 推定残存寿命 N=t1-(A-B)/Mcr A B: 前式と同じ tl: ねじ部基準径谷部の肉厚 [mm] Mcr: 最大浸食度 [mm/ 年 ] 36

3 平均浸食率 Mav=(A-Bav)/A 100% A: サンプルと同径の公称近似厚さ [mm] Bav: サンプルの平均残存肉厚 [mm] (6) 図 -19 超音波厚さ計による測定原理図 写真 -23 超音波厚さ計 写真 -24 超音波厚さ計による肉厚測定 37

表 -5 測定点数例 管径 15~40A 50~80A 100~150A 200A 以上 円周測定点 4 8 16 32 標準測定点数 28~44 56~88 112~176 224~352 (3) 内視鏡 ( ファイバースコープ ) による診断内視鏡による診断は 一時取り外し可能な水栓やメーター 機器接続部等から先端部を挿入し内部状態を観察するものであり 挿入部の長さにより制限が有るものの ビジュアルな内面情報を得られる点に特徴があります 内視鏡による検査は 管種を問わず適用できライニング鋼管の継手部の状況や 銅管の腐食生成物 潰食等も観察可能です 図 -20 内視鏡原理図 (6) 写真 -25 内視鏡による調査 写真 -26 内視鏡による管内写真 38

(4) 水質分析による診断給水管等の常時吐出水の鉄イオン濃度を 簡易分析器を用い測定し システム全体の腐食の進行度を推測するもので 測定する場合は その配管系の入口側 出口側の水質を測定する (5)2 次診断判定基準 2 次診断における判断基準例を以下に紹介します これらを総合的に勘案し継続使用 補修又は更新 或いは更に詳しい 3 次診断に進むかを判定します 1) 推定残存寿命 * 10 年以上 : 継続使用 * 5 年以上 :3 次診断へ * 5 年未満 : 更新等の対策を行う 2) 内視鏡による観察 * 錆瘤が見られない : 継続使用 * 錆瘤が厚くはないが付着している :3 次診断へ * 錆瘤が継手部を含めかなり付着している : 更新等の対策を行う 3) 鉄イオン濃度 給水系 * 0.3[mg/L] 以下 : 継続使用 * 0.3[mg/L] を超える :3 次診断へ 空調系 * 1.0[mg/L] 以下 : 継続使用 * 1.0[mg/L] を超える :3 次診断へ 39

4.3 3 次診断 3 次診断はサンプリング法であり 管の一部を切断し試料採取を行い 次の手順で測定調査を行い判定します 1 抜管位置の決定 2 サンプリング 3 管内外面の観察 4 錆詰り率の測定 5 試料の軸方向への切断 6 管内の観察 7 試料の酸洗い 8 腐食状況の観察と残存肉厚の測定 9 試料の防食処理と測定記録 (1) サンプリング配管の劣化部位は 使用目的や配管システムによってかなりの差が生じるので 抜管する位置は以下に示す条件等を考慮して決定します 1) 漏水が確認されている場所 過去に漏水事故が発生した箇所 2) 2 次診断で劣化が進行していると推定される箇所 3) 縦管の最上部 中間部 最下部 最上階 中間階 最下階の横枝管末端部 4) 使用頻度が著しく高いか 低い場所の端末 5) 機器接続部 異種金属接続部また 試料は出来るだけ継手部 弁類を含んで採取する事が望ましく これは継手ねじ接合部で腐食が著しく進行するためです 切断時に管内面のスケールや腐食生成物が剥離しないように 振動の少ないロータリーバンドソーや手引き金鋸を使用します 図 -21 抜管による調査箇所例 ( 給水 給湯 ) 40

(2) 腐食状況の観察と残存肉厚の測定採取した試料は 管内外面の腐食状況及び腐食生成物 スケール等による管の閉塞状態の観察 写真撮影を行い 続いて錆詰り率の測定を行います 次に 管軸に平行に切断し 試料内面の錆瘤の発生状況など腐食の進行度の観察と写真撮影を行います 縦割りした試料は 腐食生成物除去のため酸洗いし 酸洗い後 管の内外面の腐食状況を詳細に観察し 腐食形態等の把握を行い 写真撮影をします その後 腐食部位の残存肉厚を 腐食進行度の激しい部分から 10 点以上選んでポイントマイクロメータ等により測定します (3)3 次診断の判定基準測定結果より 錆詰り率 推定残存寿命を求め 継続使用 部分補修或いは更新の判定をします 1) 推定残存寿命 * 10 年以上 : 継続使用 * 5 年を超え 10 年末満 : 更新又は部分補修 * 5 年末満 : 更新 2) 錆詰り率 * 薄く付着している : 継続使用 * 20% 未満 : 部分補修 * 20% 以上 : 更新 41

5. 劣化診断サービス案内と腐食 / 防食実験室紹介 前章で 配管の劣化診断手法の標準的フローを紹介しましたが 実際の診断作業では劣化に関する要因が複雑に関連しあうため 図式の様に単純に判定することは出来ません 例えば 配管の内部腐食量を決定する最大の要因は 腐食因子を含んだ流体の通過総量と考えられます 従って 一人当たりの使用量が多いホテル 病院と一般的な事務所ビルでは 同じ管材を使用しても耐用年数が変わります また 腐食形態が 広く浅い全面腐食か 局部的な孔食か など腐食形態等により判定が大きく異なるため 管材と水質条件 用途 使用条件 継手部の接合条件 配管部位など 配管の経年劣化と耐用に係わる因子を総合的に見定める必要があります 現在 これらの各因子の影響度については研究が始められたばかりであり より的確な診断のためには 更なるデータの集積が必要であると考えます この様な見地から 当社では 流山技術研究所内に腐食 / 防食実験室を設置し 配管の腐食劣化とその対応について全国ベースでの事例研究や 従来 あまり重視されなかった継手構造 施工技術レべル等の要因を含め 総合的な調査研究実証を推進しています 当社は 建築設備の専門業者として早くから診断技術の開発に取組んで来ております お客さまの要望に応えて 現況調査 非破壊検査 サンプリング検査 データ分析 判定など一連の診断作業を熟練した技術者チームにより実施しておりますので 保全計画立案時や改修計画立案時には是非御利用願います 当社の長年にわたり蓄積された配管技術と最新のデータにより 的確な診断と対応が提供出来るものと信じております 尚 腐食の水質因子に関しては研究所付設分析セクション ( 環境計量証明事業所 ) で 高度な分析調査が可能です 写真 -27 顕微鏡による観察 42

表 -6 腐食 / 防食実験室計測機器設備概要 機器名 メーカ名 型番 管内視鏡 ( ビデオスコープ ) オリンパス工業 IPEX MX 管内視鏡 ( ファイバースコープ ) ニスコ PS11-3000A,PS6-3000A 同上用光源装置 ニスコ L-75X2 同上用ビデオ装置 ニスコ MTC-9000 超音波厚さ計 日本パナメトリクス Model22DL 超音波流量計 富士電気 FLB10002 デジタルゲージ 小野測器 DG-920 ポテンションスタット / ガルバノスタット 北斗電工 HA-303 防錆管理計 共亜計測 KCM-1 エレクトロメータ 北斗電工 HE-104 無抵抗電流計 北斗電工 HM-104 高感度記録計 東亜電波工業 EPR131A 簡易水質分析計 ハック DR2000 溶存酸素濃度計 セントラル科学 UC-12 ハンディ ph 計 電気化学計器 HPH-110 電気伝導率計 オルガノ AB-6 実体顕微鏡 ニコン SMZ-2T 試料切断機 ラクソー U-32 試料琢磨機 丸本工業 5629 写真 -28 研究所付設分析セクション 43

参考引用文献リスト 引用文献 (1) 設備配管研究会編 設備配管の腐食と対策 理工評論出版 (2) 三村絆著 配管材料の腐食 日本建築設備士協会 (3) 種田稔ほか著 設備配管の改修と耐久設計 彰国社 (4) ステンレス協会配管システム普及専門委員会編 建築設備用ステンレス配管の水質指針 (5) 栗田工業 鹿島建設編配管防食マニュアル 日本工業出版 (6)( 財 ) 建築保全センター編 建築設備の耐久性向上技術 オーム社 参考文献 官庁建物修繕修繕措置判定手法 同解説 ( 財 ) 建築保全センター 給水管改修に係る工事仕様書の策定に関する調査研究 ( 財 ) 日本住宅総合センター 建築保全 No76 ( 財 ) 建築保全センター 日根文男著 腐食工学の概要 ( 株 ) 化学同人 H. ユーリック R.W. レヴィー著 岡本剛監修 松田精吾 松島巌訳 腐食反応とその制御 ( 第 3 版 ) 産業図書 44

設備配管の腐食と劣化診断 設備配管の腐食障害に関して その原因と管種管材別の腐食形態について整理概観するとともに 設備改修時等に必要な 配管の劣化診断 に係わる技術 技法と当社の取組みを紹介 キーワード : 設備配管 / 腐食 / 赤水 / スケール / スライム / 全面腐食 / 局部腐食 / 劣化診断 / 非破壊検査 / 抜管調査 分類 : 須賀技術報告 SUGA TECHNICAL REPORT No.30394 119404-2.000 資料名 : 設備配管の腐食と劣化診断発行者 : 編集 : 技術部, 技術研究所