また 保険料の納付対象月数に占める納付月数の割合 ( 納付率 ) は 低下傾向が続いており 2012 年度時点で59.0% となっている ( 図表 1) 保険料は過去 2 年分の納付が可能であるため 最終的な納付率は多少上昇するが 過去の傾向からみても2012 年度の最終納付率は60% 台半ば程度に

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第 9 回社会保障審議会年金部会平成 2 0 年 6 月 1 9 日 資料 1-4 現行制度の仕組み 趣旨 国民年金保険料の免除制度について 現行制度においては 保険料を納付することが経済的に困難な被保険者のために 被保険者からの申請に基づいて 社会保険庁長官が承認したときに保険料の納付義務を免除す

0 表紙

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

Microsoft PowerPoint 徴収一元化

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

第14章 国民年金 

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

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2. 特例水準解消後の年金額以下では 特例水準の段階的な解消による年金額の変化を確認する なお 特例水準の解消により実際に引き下げられる額については 法律で定められた計算方法により年金額を計算することに加え 端数処理等の理由により203 年 9 月の年金額に所定の減額率を乗じた額と完全に一致するもの

国民年金

資料2(事業管理課部分)

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みずほインサイト 政策 2018 年 10 月 18 日 ideco 加入者数が 100 万人超え加入率引き上げへさらなる制度見直しを 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 naoko. ideco( 個人型確定拠出年金 ) の加入

金のみの場合は年収 28 万円以上 1 年金収入以外の所得がある場合は合計所得金額 2 16 万円以上が対象となる ただし 合計所得金額が16 万円以上であっても 同一世帯の介護保険の第 1 号被保険者 (65 歳以上 ) の年金収入やその他の合計所得が単身世帯で28 万円 2 人以上世帯で346

無年金・低年金の状況等について

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 16,490 円 ( 平成 29 年度 ) 付加保険料月額 400

(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 15,250 円 ( 平成 26 年度 ) 付加保険料月額 400

Microsoft Word - T2-06-1_紙上Live_老齢(1)_①支給要件(9分)_

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

現在公的年金を受けている方は その年金証書 ( 請求者及び配偶者 請求者名義の預金通帳 戸籍謄本 ( 受給権発生年月日以降のもの ) 請求者の住民票コードが記載されているもの ( お持ちの場合のみ ) 障害基礎年金 受給要件 障害基礎年金は 次の要件を満たしている方の障害 ( 初診日から1 年 6か

1 2

1

平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

図表 1 年金改革関連法案の概要 国民年金法改正案 ( 未成立 ) (1) 主要改正項目 2012 年度及び13 年度について 国庫は 年金特例公債 ( つなぎ国債 ) により基礎年金国庫負担割合 2 分の1と36.5%( 現在財源が手当てされている国庫負担割合 ) の差額を負担する 2012 年度

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んなで現在の高齢者や障害者らを支えるため ともなり 社会連帯の意義が強まっている 国民年金法は 被保険者は 保険料を納付しなければならない と規定しているが そのとおり 保険料の納付は 支え合いによって成り立つ社会の構成員として 誰もが守らなければならない義務であることを確認する必要がある 2 滞納

スライド 0

被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

強制加入被保険者(法7) ケース1

高齢者福祉

Microsoft PowerPoint - 02 別添 パンフレット (3)

女性が働きやすい制度等への見直しについて

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

Microsoft Word ①概要(整備令)

年金額の改定について 公的年金制度は平成 16 年の法改正により永久に年金財政を均衡させる従来の仕組みから おおむね ( 100 ) 年間で年金財政を均衡させる仕組みへと変わった この年金財政を均衡させる期間を 財政均衡期間 という これにより 政府は少なくとも ( 5 ) 年ごとに財政の検証をおこ

Taro-1-国民年金編2015  作成 

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平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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Microsoft PowerPoint - 7.【資料3】国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額について

被用者年金一元化法

資料9

介護保険制度 介護保険料に関する Q&A 御前崎市高齢者支援課 平成 30 年 12 月 vol.1

スライド 1

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Microsoft Word - T2-04-1_紙上Live_被保険者期間と届出_(13分)_

要 旨 公的年金の空洞化とは 1 国民年金保険料の未納者の増加と 2 厚生年金の未加入事業所の増加により 本来 納付されるべき年金保険料が納付されない状況を指す 保険料の未納や未加入事業所が増加すると 国民皆年金の根幹が揺らぐばかりではなく 更なる国民の年金不信を招くことが懸念され 早急な対策が必要

(2) 督促の実施状況国民年金以外の社会保険料 税においては 納期限までに完納しない場合には必ず督促が行われ 保険料 租税債権の徴収に係る時効が中断されている 一方 国民年金保険料については 納期限までに完納されなかった保険料のうち 約 0.2%( 平成 21 年度分滞納月数ベース ) に対してしか

Microsoft Word - T2-05-2_紙上Live_保険料・免除(2)_①_(14分)_

ただし 対象期間の翌年度から起算して3 年度目以降に追納する場合は 保険料に加算額が上乗せされます 保険料の免除や猶予を受けず保険料の未納の期間があると 1 年金額が減額される 2 年期を受給できない3 障害基礎年金や遺族基礎年金を請求できない 場合がありますのでご注意ください 全額または一部免除

強制加入被保険者(法7) ケース1

スライド 1

はじめに 定年 は人生における大きな節目です 仕事をする 働く という観点からすれば ひとつの大きな目標 ( ゴール ) であり 定年前と定年後では そのライフスタイルも大きく変わってくることでしょう また 昨今の労働力人口の減少からも 国による 働き方改革 の実現に向けては 高齢者の就業促進も大き

2 厚年と国年の加入期間がある人 昭和 36 年 3 月以前 20 歳未満および 60 歳以後の厚年の被保険者期間 昭和 36 年 3 月以前の厚年期間のみの人 坑内員 船員 ( 第 3 種被保険者 ) の場合 昭和 61 年 3 月までの旧船員保険の

年金・社会保険セミナー

Web 版 Vol.70( 通巻 715 号 ) 国民年金 基礎年金制度の2017 年度財政状況 2017 年度の収支は 収入総額 244,768 億円 支出総額 235,998 億円で 収支残 8,770 億円の黒字収支となった 2016 年度と比較すると 収入総額はプ

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

要 旨 2009 年の年金財政検証によると 標準的な厚生年金世帯 であれば 世代間格差はあるものの 将来世代においても 平均寿命 (60 歳時点の平均余命 ) まで生存すれば 負担した保険料の 2.3 倍の給付が受けられる見通しであることが明らかにされた これはこの倍率の分母である負担に事業主負担が

要 旨 鳩山政権は 公的年金制度体系を抜本的に改革し 公的年金制度に対する国民の信頼を回復する としている しかし 現段階では新しい年金制度体系について 全国民が加入する所得比例年金に一元化し 月額 7 万円の最低保障年金を実現する との表現にとどまっており 具体的な給付水準や制度詳細等は今後検討す

退職後の健康保険の任意継続ってなに?

Microsoft Word - T2-06-2_紙上Live_老齢(2)_①年金額・マクロ(12分)_

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強制加入被保険者(法7) ケース1

< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

第 2 節強制被保険者 1 第 1 号被保険者頻出 択 ( 法 7 条 1 項 1 号 ) 資格要件 日本国内に住所を有する20 歳以上 60 歳未満の者 ( 第 2 号 第 3 号被保険者に該当する者を除く ) 例 ) 自営業者 農漁業従事者 無業者など 適用除外 被用者年金各法に基づく老齢又は退

第16回税制調査会 別添資料1(税務手続の電子化に向けた具体的取組(国税))

12 ページ, 図表 ,930 円 保険料納付済月数 + 全額免除月数 1/2+4 分の 3 免除月数 5/8+ 半額免除月数 3/4+4 分の 1 免除月数 7/8 ( 出所 ) 厚生労働省 老齢年金ガイド平成 2730 年度版 より筆者作成 40 年 ( 加入可能年数

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年金・社会保険セミナー

第3回税制調査会 総3-2

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

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この改正は 1 企業に勤務していながら厚生年金 健康保険の恩恵を受けられない非正規労働者に厚生年金 健康保険を適用し セーフティネットを強化することで 社会保険における 格差 を是正することや 2 社会保険制度における 働かない方が有利になるような仕組みを除去することで 特に女性の就業を促進して 今

団塊世代の引退行動が マクロ経済に及ぼす影響

米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

国民年金基金にご加入いただいたみなさまへ

や 給付の重点化 効率化等に関する改革項目が挙げられている 今後 社会保障 税一体改革の関連法案が国会へ提出される予定である 2011 年度の社会保障給付費は107.8 兆円となる見込みである 内訳は 年金 53.6 兆円 ( 社会保障給付費全体の49.7%) 医療 33.6 兆円 ( 同 31.2

現役時代に国民年金 厚生年金に加入していた者は 一部を除き6 歳以上で老齢基礎年金 老齢厚生年金を受給することができる 4 老齢基礎年金の額は 年度は満額で年額 78, 円 ( 月額 6,8 円 ) であるが 保険料を納付していない期間があればその期間に応じて減額される 一方 老齢厚生年金の額は現役

新規裁定当該期間 ( 月又は年度 ) 中に新たに裁定され 年金受給権を得た者が対象であり 年金額については裁定された時点で決定された年金額 ( 年額 ) となっている なお 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65 歳に到達した以降 老齢基礎年金及び老齢厚生年金 ( 本来支給もしくは繰下げ支給 ) を

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2 給付と負担における世代間の大きな格差給付と負担を比較すると 後の世代ほど負担がより重くなっており 世代間の不公平感が高まっている 3 職業や世帯形態による制度の違い負担面での一元化が行われておらず ( 注 3) また 被用者の扶養配偶者 (3 号被保険者 ) の取扱いは 女性の就業意欲を妨げる要

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入状況

第9章 国民年金制度について

目次 はじめに 1. 年金の仕組み 2. 納付率 3. 保険料の未納理由 3-1. 保険料の引き上げ 3-2. 年金制度の周知状況 3-3. 年金不信 4. 保険料未納で起こること 免除制度 4-1. 保険料を納めないと損になる 4-2. 国民年金法の違法である 4-3. 国民年金保険料の免除 おわ

例 言 厚生年金保険被保険者厚生年金保険被保険者については 平成 27 年 10 月 1 日から被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律が施行されたことに伴い 厚生年金保険法第 2 条の5の規定に基づき 以下のように分類している 1 第 1 号厚生年金被保険者第 2

公的年金制度について 制度の持続可能性を高め 将来の世代の給付水準の確保等を図るため 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく社会経済情勢の変化に対応した保障機能の強化 より安全で効率的な年金積立金の管理及び運用のための年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し等の

Microsoft PowerPoint - 別紙3.pptx

他の所得による制限と雇用保険受給による年金の停止 公務員として再就職し厚生年金に加入された場合は 経過的職域加算額は全額停止となり 特別 ( 本来 ) 支給の老齢厚生年金の一部または全部に制限がかかることがあります なお 民間に再就職し厚生年金に加入された場合は 経過的職域加算額は全額支給されますが


年金・社会保険セミナー

件数表(神奈川)

国民健康保険料の減額・減免等

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みずほインサイト 政策 2013 年 12 月 17 日 国民年金保険料の徴収体制強化へ年金制度に対する理解促進も重要な課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 03-3591-1308 naoko.horie@mizuho-ri.co.jp 2013 年 12 月 13 日に厚生労働省の社会保障審議会年金部会の 年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会 が国民年金保険料の納付率向上策等について報告書を取りまとめた 国民年金保険料の納付率は低下傾向が続いており 2012 年度は 59.0% である 納付率の低下は 将来の無年金 低年金者の増加を招くとともに 国民の年金不信を増大させる懸念がある 報告書は 高所得の保険料長期滞納者から強制徴収を実施するとともに 低所得者には免除制度の適用を促進するとしているが 国民の年金制度に対する理解を深めることも不可欠である 1. 年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会が報告書を取りまとめ 2013 年 12 月 13 日に 厚生労働省の社会保障審議会年金部会の 年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会 が報告書を取りまとめた 同委員会は 社会保障 税一体改革担当大臣の下に設けられた 年金保険料の徴収体制強化等の検討チーム が2013 年 8 月 8 日に取りまとめた 年金保険料の徴収体制強化等に関する論点整理 1 を踏まえ 専門的観点から検討を進めるために同年 10 月に設置されたものである 報告書は Ⅰ. 国民年金保険料の基本的考え方 Ⅱ. 国民年金保険料の納付率向上策 Ⅲ. 厚生年金の適用促進策 Ⅳ. 国民の利便性向上策 で構成されている ( 詳細は後述 ) 一番の注目点は Ⅱ. 国民年金保険料の納付率向上策であり 長年の懸案事項であった国民年金保険料の納付率の低下にどう対応するか その対策がまとめられている 今後 厚生労働省は この報告を踏まえ 実現に向けた予算措置や法令面の整備等に取り組む見通しである 本稿では 国民年金保険料の納付率の推移や 未納者に対する督促等の状況を確認し 国民年金保険料の納付率向上策を中心に報告書のポイントを解説 評価する 2. 国民年金保険料の納付率の推移国民年金保険料を納付するのは 国民年金第 1 号被保険者 (2012 年度末時点で1,864 万人 ) であるが 2 低所得者等は免除制度や納付猶予制度が適用される 2012 年度末時点の免除者は373 万人 猶予者等 3 は 214 万人であり その他は保険料の納付対象者である 納付対象者のうち 2011 年 4 月から2013 年 3 月まで24カ月保険料が未納となっている者は296 万人に上る 1

また 保険料の納付対象月数に占める納付月数の割合 ( 納付率 ) は 低下傾向が続いており 2012 年度時点で59.0% となっている ( 図表 1) 保険料は過去 2 年分の納付が可能であるため 最終的な納付率は多少上昇するが 過去の傾向からみても2012 年度の最終納付率は60% 台半ば程度にとどまるとみられる 3. 国民年金保険料の滞納者に対する対応国民年金保険料の滞納者に対する対応としては 納付期限 ( 翌月末 ) を過ぎると 電話 戸別訪問 文書による納付督励 ( 低所得者等には免除勧奨 ) を実施する 度重なる督励にも応じない場合には 最終催告状を送付する 最終催告状は 納付書とともに送付する催告文書で記載した指定期限までに保険料の納付を求め 納付しない場合には滞納処分 ( 財産差押 ) を開始することを明記したものである 最終催告状の指定期限までに納付しない者には督促状が送付される 督促状の指定期限までに納付しない場合には滞納処分が開始され 延滞金が課されるほか 滞納者だけではなく連帯納付義務者 ( 滞納者の世帯主や配偶者 ) の財産差押が実施される しかし 2009 年度の督促の実施率 ( 滞納月数ベース ) をみると 納付期限までに納付されなかった保険料の約 0.2% 相当分しか行われていない また 実施件数でみると 2012 年度は最終催告件数が6.9 万件 督促件数 3.4 万件 差押件数 0.6 万件にとどまっており 保険料負担の公平性の確保やモラルハザードの防止の観点等からも対応が必要になっている 4. 報告書のポイントと評価報告書では まず Ⅰ. 国民年金保険料の基本的考え方として 1 保険料の納付は義務であることを確認 2 強制徴収 ( 督促 財産差押 ) 納付しない人への説得 勧奨 納付しやすい環境整備 納付へ図表 1 国民年金保険料の納付率の推移 (%) 100 90 80 70 82.5 83.7 84.7 85.2 85.7 85.7 84.3 85.5 85.3 84.5 82.9 79.6 76.6 74.5 73.0 70.9 最終納付率納付率 ( 現年度分 ) 66.9 67.4 68.2 72.4 70.8 68.6 66.8 65.3 64.5 60 67.1 66.3 62.8 63.4 63.6 63.9 62.1 60.0 59.3 58.6 59.0 50 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 ( 年度 ) ( 注 )1. 納付率は 保険料の納付対象月数に占める納付月数の割合 保険料は過去 2 年分の納付が可能であり 最終納付率は過年度に納付されたものを加えた納付率 2.2002 年の納付率低下は保険料収納事務を国が一元的に実施したことや 免除基準の改正等が実施された影響による 3.2005 年に納付率が回復したのは若年者納付猶予制度の導入の影響による ( 資料 ) 第 1 回年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会 (2013.10.11) 資料よりみずほ総合研究所作成 2

の理解促進 を組み合わせて取り組みを強化 3 保険料納付のメリットの周知 の3つを挙げている その上で Ⅱ. 国民年金保険料の納付率向上策として (1) 督促の促進及び強制徴収体制の強化 (2) 徴収コストの滞納者負担 ( 延滞金等 ) のあり方 (3) 免除等における申請主義の見直しについて (4) 年金保険料の納付機会の拡大について (5) 確実かつ効率的な収納体制の強化 (6) 関係行政機関との連携強化 (7) 雇用形態など社会経済の変化への対応 (8) 公的年金制度に対する理解の促進 の 8 項目を明示している ( 図表 2) このうち 最も注目すべき点は (1) 督促の促進及び強制徴収対策の強化 である 前述の通り 督促や財産差押という強制徴収の手続きの実施率が低く 事実上 保険料未納が容認されている状況下 報告書では 今後 督促範囲の拡大を実施することが適切であるとしている ただし 強制徴収を行う場合の徴収コストが100 円当たり90 円程度と高いこと 滞納者の中には低所得者も含まれていることから 全ての滞納者に直ちに強制徴収を実施することは現実的ではない そこで報告書は まずは 高所得でありながら長期間保険料を滞納している者から強制徴収を実施し その範囲を拡大する 図表 2 年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会報告書のポイント Ⅰ. 国民年金保険料の基本的考え方 社会保険制度である公的年金は 社会連帯の仕組みであり 保険料の納付は義務であることを確認 強制徴収 説得 勧奨 納付しやすい環境整備 納付への理解促進を組み合わせて取り組みを強化 保険料納付のメリットを分かりやすく説明していくことが必要 Ⅱ. 国民年金保険料の納付率向上策 (1) 督促の促進及び強制徴収体制の強化負担の公平性の確保やモラルハザード防止等の観点からも対応が必要 徴収コスト等を考慮し 高所得者で長期間保険料を滞納している者から督促を実施 順次対象を拡大 (2) 徴収コストの滞納者負担 ( 延滞金等 ) のあり方延滞金の賦課対象者を拡大 延滞金の率は他制度とのバランスを考慮して引き下げ検討 (3) 免除等における申請主義の見直しについて職権による免除は慎重に考えるべき 被保険者本人の免除申請意思を簡便な方法で確認できる仕組みを設ける (4) 年金保険料の納付機会の拡大について保険料の徴収債権の時効は 2 年だが事後的な納付機会を設けることは有効 しかし 時限的な措置とすべき Ⅲ. 厚生年金保険の適用促進策 (5) 確実かつ効率的な収納体制の強化 日本年金機構の管理体制を強化 年金事務所の職員による保険料収納範囲の拡充 (6) 関係行政機関との連携強化国税庁 市町村 ハローワーク等の関係行政機関との連携を強化 (7) 雇用形態など社会経済の変化への対応短時間労働者への厚生年金適用拡大は重要 第 1 号被保険者の被用者は事業主の協力を得て賃金から保険料を納付できる任意の仕組みを検討 関係する職能団体等に保険料納付に関する事業主の協力について周知を検討 (8) 公的年金制度に対する理解の促進公的年金制度への理解や関心を高め 制度を周知することにより納付率向上を期待 制度の理解なく強制徴収の拡大を行えば かえって国民の年金不信を招く懸念がある 国税庁に対して稼働中の法人に関する情報の提供を依頼 関係省庁に協力を求めるなどしながら 各業界団体等への協力要請などの働き掛けを実施等 Ⅳ. 国民の利便性向上策 住民税の申告義務がない者からの国民年金保険料の免除申請にかかる手続きの簡素化 厚生年金 労働保険共通の滞納事業所にかかる財産 債権等の情報の一元管理 ( 資料 ) 年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会報告書 (2013.12.13) よりみずほ総合研究所作成 3

という方法を示している こうした方向性は 実現可能性やその効果から考えて妥当であろう 一方で (3) 免除等における申請主義の見直しについて では 保険料の免除基準に該当する低所得者が免除申請をせずに滞納者となっている場合について 日本年金機構が市町村から入手した所得情報等に基づいて職権で免除を行う可能性について指摘されている ただし 対象者を漏れなく確実に把握する仕組みが整っておらず 公平性の観点から問題があること等により 職権で免除することには慎重な姿勢を示している 代わりに 所得情報等から免除基準に該当する可能性が高いと判定できる者に対して 被保険者本人の申請意思を簡便な方法で確認できるような仕組みを設ける案が示された 保険料免除期間については将来の年金額が2 分の1( 全額免除の場合 ) になること等を考えれば 最終的な被保険者本人の免除申請の意思確認は必要であろう 一方で 多段階の免除制度があることやその所得基準等 ( 図表 3) に関する認識が不足しているために 免除申請をしていない者も少なくないとみられる そこで 報告書で指摘されているように免除基準に該当する可能性が高いと判定できる被保険者に対し 簡便な方法で申請意思の確認ができるような仕組みを設けることは必要であろう その他 (7) 雇用形態など社会経済の変化への対応 では 被用者でありながら厚生年金の適用対象とならずに国民年金第 1 号被保険者となっている短時間労働者等について 厚生年金の更なる適用拡大が重要であることを指摘するとともに 事業主の協力を得て賃金から国民年金保険料を納付できる任意の仕組みを設けることや 関係する職能団体等に対して保険料納付に関する事業主の協力について周知することを検討すべきであるとしている 国民年金第 1 号被保険者の就業状況をみると 1996 年時点では自営業主 家族従業者が39.3% 被用者が25.0% であったが 2011 年時点では自営業主 家族従業者が22.2% 被用者が36.0% と 15 年間でその割合が逆転している ( 図表 4) 被用者に相応しい社会保障制度を確保するために 厚生年金の適用拡大は進めるべきであるとともに 特に 国民年金第 1 号被保険者である従業員が多い企業に対しては 給与天引きによる国民年金保険料の納付や 保険料の口座振替促進等に関する協力を求めることも 具体的に検討を進める必要があろう 世帯構成 4 人世帯 ( 夫婦 + 子 2 人 ) 2 人世帯 ( 夫婦のみ ) 図表 3 2013 年度の申請免除等の所得基準 ( 目安 ) 全額免除若年者猶予 3/4 免除 半額免除学生特例 1/4 免除 162 万円 230 万円 282 万円 335 万円 92 万円 142 万円 195 万円 247 万円 単身世帯 57 万円 93 万円 141 万円 189 万円 ( 注 ) 金額については基準額の目安であり 所得基準は控除額により変動する 天災や失業による特例がある 若年者猶予は若年者納付猶予制度 学生特例は学生納付特例制度のこと 両制度の対象等については 文末脚注 3 を参照 ( 資料 ) 第 1 回年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会 (2013.10.11) 資料よりみずほ総合研究所作成 4

さらに 納付率向上策として (8) 公的年金制度に対する理解の促進 が項目として取り上げられており 制度への理解が無いまま強制徴収の範囲の拡大を行えば かえって国民の不信を招くおそれもあると指摘されている 国民年金制度に対する正しい理解の促進は 強制徴収体制の強化を進めるためだけではなく 自主的な保険料の納付率引き上げにも有効である 国民年金については 将来の年金額は減額され 負担した保険料ほど給付が受けられないのではないか といった年金保険料の払い損の懸念が根強く 保険料の未納を誘発する一因になっていると考えられる しかし 基礎年金の給付費の2 分の1は税金で賄われており これが給付額の水準を支えている 厚生労働省の2009 年財政検証によると 将来世代についても 40 年間国民年金保険料を納付した場合の保険料負担総額に対する年金給付総額 (60 歳時平均余命まで受給 ) は1.5 倍になると試算されている 4 仮に 将来の給付額がさらに3 割減額されたとしても 負担した保険料総額に相当する額以上の年金給付総額を受けられる見通しである なお 国民年金第 1 号被保険者は その多くが医療保険制度において国民健康保険の対象になるが 保険料の納付率を比較すると 国民健康保険料 5 は89.8%(2010 年度 ) と国民年金保険料の納付率 (2010 年度 59.3% 2012 年度 59.0%) と比較するとかなり高水準である いずれも保険料の納付率は年齢とともに高くなる傾向にあるため ( 図表 5) 納付対象者の年齢が74 歳までの国民健康保険の方が 同 59 図表 4 国民年金第 1 号被保険者の就業状況の変化自営業主 家族従業者被用者無職不詳 1996 年 39.3 25.0 31.4 2011 年 22.2 36.0 38.9 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%) ( 注 ) 被用者は 常用雇用と臨時 パートの合計 ( 資料 ) 厚生労働省 国民年金被保険者実態調査 (1996 年 2011 年 ) よりみずほ総合研究所作成 図表 5 年齢階級別の国民健康保険料と国民年金保険料の納付状況の比較 1 国民健康保険料 ( 税 ) の世帯主の年齢階級別の収納率 (%) 合計 25 歳未満 25~34 歳 35~44 歳 45~54 歳 55~64 歳 65~74 歳 2010 年度 89.8 62.4 72.6 78.8 81.4 90.0 97.0 2 国民年金保険料の被保険者の年齢階級別の納付率 ( 現年度分 ) (%) 合計 20~24 歳 25~34 歳 35~44 歳 45~54 歳 55~59 歳 2010 年度 59.3 49.2 48.8 56.9 63.6 72.6 2012 年度 59.0 51.3 48.1 56.8 62.2 72.2 ( 注 )1 は 2011 年 9 月末現在の国民健康保険世帯の 2010 年度保険料収納率を集計したもの ( 資料 ) 第 2 回年金保険料の徴収体制強化等に関する専門委員会 (2013.10.25) 資料よりみずほ総合研究所作成 5

歳までの国民年金より納付率が高くなる面があるが 年齢階級別に比較しても国民健康保険料の納付率の方が高い 6 国民健康保険料の収納率が高い理由としては 年齢に関係なく給付が受けられ 若年世代も保険料を納付するメリットを感じやすいことが一因と考えられる 一方で 国民年金は原則として65 歳から老齢基礎年金を受給するまで保険料納付のメリットを実感できない しかし 障害を負った時には障害基礎年金が受けられることや 生計維持者が死亡した時は一定の遺族に遺族基礎年金が支給されること等も含め 国民年金に対する正しい理解が周知されれば 国民年金保険料の納付率が高まることも期待される その他 報告書では Ⅲ 厚生年金の適用促進策 で 厚生年金の未適用事業所に関して国税庁に情報提供を依頼すること Ⅳ 国民の利便性向上策 で 国民年金保険料の免除申請に関する手続きの簡素化等が指摘されている 5. 今後の課題国民年金保険料の納付率向上策としては 報告書で指摘されている通り 一定の所得がある滞納者に強制徴収の対象を拡大し 低所得者の滞納者には免除制度の適用を促進するという2つが基本的な対策として必要であろう 一方で 公的年金制度に対する国民の理解を促進していくために具体的な施策を検討することも 今後の重要な課題として位置づけられる ただし 現在の公的年金制度は 改革の途上であり 今後 将来世代の負担増に歯止めをかけるために 給付水準の見直しをはじめとする更なる改革が必要である 年金改革の遅れは 国民の年金不信につながりやすい 2013 年 12 月 5 日に成立した 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律 では 年金制度について 1 年金額の改定の仕組み 2 短時間労働者の厚生年金適用拡大 3 高齢期の年金受給のあり方 4 高所得者の年金給付と年金課税の見直し の 4つの検討項目が挙げられている しかし いずれも具体的な改革案や実施時期等については今後の検討になり 改革の見通しは立っていない 特に 遅れている年金給付水準の調整については 将来世代への負担の先送りを避けるためにも 年金額の改定の仕組みを見直すことが不可欠である 国民の年金不信の払拭は 年金保険料の納付率の向上にもつながる 年金改革の検討を停滞させることなく 速やかに進めることが求められる 6

1 論点整理では 国民年金保険料の納付率向上策 厚生年金の適用促進策 国民の利便性向上策 歳入庁について等の論点を示している このうち 歳入庁については 歳入庁の創設により納付率向上等の課題が解決するものではないとされている 2 国民年金保険料は定額で 2013 年度は月額 15,040 円 国民年金第 2 号被保険者 ( 会社員 公務員等 ) は 報酬比例の保険料で被用者年金 ( 厚生年金 共済年金 ) の保険料に国民年金 ( 基礎年金 ) 分の保険料が含まれる 同第 3 号被保険者は第 2 号被保険者に扶養される配偶者で 配偶者の加入している被用者年金制度が保険料を負担する 3 猶予者等は 学生納付特例者と若年者納付猶予者の合計 学生納付特例制度は 所得の少ない学生に国民年金保険料の納付を猶予する度である 若年者納付猶予制度は 30 歳未満で本人及び配偶者の所得が一定以下の場合に保険料の納付を猶予する制度で 2025 年 6 月までの時限措置である いずれも期間中は障害基礎年金 遺族基礎年金の支給要件の対象期間となる また 同期間は受給資格期間に算入されるが 10 年以内に保険料を追納しなければ年金額には反映されない 4 将来の年金水準の低下は織り込み済み 5 市町村等により国民健康保険税として徴収している 6 国民健康保険料は世帯主の年齢階級別の収納率 国民年金保険料は被保険者の年齢階級別の納付率を比較しているため 単純な比較はできない 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります 7