Industry Eye 第 21 回 ミドルマーケット

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要員 人件費を最適化し 人的生産性を最大化せよ 要員を捻出し もうかる支店に人材を集中投資せよ!( 前編 ) 高山俊たかやましゅんデロイトトーマツコンサルティング ( 株 ) シニアコンサルタント 各支店の要員 人件費を最適化せよ! 今回の主役は 旅行業 A 社である A 社は東日本を中心に約 20

2015 年 6 月 19 日 ジェトロバンコク事務所 タイ日系企業進出動向調査 2014 年 調査結果について ~ 日系企業 4,567 社の活動を確認 ~ 1. 調査目的 タイへの日系企業の進出状況については 2008 年当時の状況について ( 独 ) 中小企業基盤 整備機構が タイ日系企業進出

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支店タイプ別の大まかな傾向は分かったが 平均値だけだとやはり情報が足りないな 例えば フラッグシップ でも人件費効率が小さい支店や 郊外 ( 駅周辺 ) でも規模が大きな支店もあるだろう そういった状況もうまく 見える化 できないかな そういえば 箱ひげグラフ という見せ方を聞いたことがあります ち

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01 年 月 1 人あたりオフィス面積の分布と推移 図表 1は 01 年の東京 区における 1 人あたりオフィス面積の分布で 中央値は.9 坪であった ( 半数のテナントは.9 坪より小さく 残りの半数のテナントは.9 坪より大きい ) 01 年 月 17 日 図表 1 1 人あたりオフィス面積の分

貿易特化指数を用いた 日本の製造業の 国際競争力の推移

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Industry Eye 第 21 回ミドルマーケット : 中小企業における成長の糸口 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 ミドルマーケット担当 ヴァイスプレジデント佐藤公則 I. はじめに少子高齢化による需要の停滞や人材不足 企業間の競争激化などの影響により日本の中小企業のおかれている経営環境は厳しさを増している 従前より自社での成長に拘らず M&A を含めて成長を模索する中小企業も増えているが 大企業と比較して人材や資金をはじめ さまざまな制約が多い中小企業は 既存の限られたリソースをいかに活用して生き残りを図っていくべきか悩んでいるケースが多い そこで 我々がこれまで支援してきた中小企業の事例も踏まえながら 中小企業によく見られる共通の課題と成長の余地について考察する 本稿は 上記のとおり 市場動向やこれまで支援に関与してきたプロジェクトに基づく筆者の推察が含まれていることについて 予めお断りする II. 中小企業を取り巻く環境 1. 売上高の推移および労働生産性下図は 2006 年以降の大企業と中小企業の売上高の推移である リーマンショックの影響により 2008 年 2009 年は両者ともに大きく落ち込んでいる 大企業は 足元では横ばい傾向にあるものの 2009 年第 4 四半期以降 増加傾向が続いてきた 一方で 中小企業は 2010 年後半に一時的に増加したものの 2011 年以降に再び落ち込み 2012 年第 3 四半期以降は一貫してリーマンショック後の水準を下回っている 日本経済は 緩やかな回復基調 にあると言われるが 中小企業の売上高の推移は大企業と比べて弱い動きを示してお り 中小企業は依然厳しい状況に置かれていることがわかる

売上高の推移 ( 規模別 ) ( 兆円 ) 170 大企業 中小企業 160 150 140 130 120 110 100 ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣ 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 出所 : 2016 年版中小企業白書より デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成 2009 年と足下の 2015 年の業種別売上高の増減比をみると 大企業では製造業が売上の伸びを牽引している一方で 中小企業は上方に押し上げている業種が建設業に限定されている 中小企業の非製造業は 特に卸売業 小売業 サービ ス業が 2~3 兆円程度の売上減少となっており 依然厳しい経営環境にある 売上高業種別分解 2009 年と 2015 年の第 1-4 四半期の平均の比較 業種 大企業 中小企業 製造業 +5.2 兆円 0.3 兆円 建設業 +0.7 兆円 +2.4 兆円 卸売業 +1.2 兆円 3.4 兆円 小売業 +0.4 兆円 1.9 兆円 サービス業 +0.7 兆円 3.0 兆円 その他の業種 +3.1 兆円 0.2 兆円 出所 :2016 年版中小企業白書より デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成 一方 労働生産性を見ると 日本は 2013 年の OECD 加盟国 34 カ国中 22 位と下位に位置しており 中小企業の非製造業企業の労働生産性は 金融業などの一部の業種を除き 製造業や大企業と比較してさらに低水準に留まる 競争環境がますます厳しさを増すなか 中小企業 とりわけ卸売 小売業およびサービス業は今後いかに生き残りを図る べきかが問われている

非製造業における労働生産性の平均値 ( 万円 / 人 ) 2,500 2,000 1,500 1,000 500 376 299 飲- 食サービス業444 577 523 577 424 452 467 485 生活関連サービス業 娯楽業宿泊業教育 学習支援業医療 福祉業1,171 1,547 1,273 1,153 1,216 899 762 794 817 830 861 896 919 654 568 建設業卸売業小売業運輸業製造業全体情報通信業非製造業全体1,986 1,941 1,940 1,292 1,299 1,094 学術研究不動産業電気 ガス 専門技術サービス 物品賃貸業業1,420 金融 大企業平均保険業中小企業平均 熱供給 水道業出所 : 2016 年版中小企業白書より デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成 2. 背景こうした中小企業の置かれた厳しい事業環境の背景には 需要の停滞 仕入価格の上昇 顧客ニーズの多様化 人材不 足などの外部環境の問題がある 需要の減少については 少子高齢化の進行による 主に従来より消費の中心的な担い手であった若年層の減少に起因している また 日本の人口減少は既に始まっており 2050 年までに 1 億人を下回ることが予想されている 購買層の変 化や国内市場の規模縮小への対応が問われている 仕入価格の上昇については 新興国の工賃上昇や円相場の影響による原価の上昇や人件費の高騰などが要因として挙げられる コスト削減や仕入先の変更 販売価格の転嫁などの対応策も 中小企業は思うように実施できていない 顧客ニーズの多様化については 顧客が求める商品 サービスの種類 品質 量 価格 スピードなどの変化への対応力 が問われている 人材不足については 日本商工会議所が 2016 年 6 月に発表している 中小企業を対象に実施した 人手不足等への対応に関する調査 の集計結果の中で 実に 55% の企業が 労働力の不足を感じている と答えている また その中でも約 7 割の中小企業が ミドルマネジメント層の人材が不足している と回答しており 企業の中核を担える人材の不足が中小企業の事業展開において大きな問題となっていることがわかる

人員の過不足状況について 過剰である 4% 無回答 1% 過不足はない 40% 不足している 55% 出所 : 日本商工会議所 人手不足等への対応に関する調査 より デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成 求める人材について 複数回答 一定のキャリアを積んだミドル人材高校卒業新卒社員大学卒業新卒社員 15.2 33.0 41.2 69.0 管理職経験者等のシニア人材 18.6 その他 無回答 - 20 40 60 80 (%) 出所 : 日本商工会議所 人手不足等への対応に関する調査 より デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成 III. 中小企業における成長の余地 1. 現場の実行力中小企業が売上や労働生産性の観点で厳しい状況にあることは上記で述べた通りである しかし 我々は中小企業に成長の余地はまだ十分に残されていると考えている これまでのさまざまなプロジェクトを通じて 企業の成長の鍵は 現場の実行力にあると捉えている 現場の実行力とは 従業員が自身で課題を発見し 当事者意識を持って解決に向けて行動し続けることである この現場の実行力を磨くために重要になるのが PDCA(Plan Do Check Act) サイクルである PDCA サイクルに関する著書は多く出ており一般化しつつある用語ではあるが 実務で実施している企業は多くない それは 知識 知恵の不足 変化への抵抗 組織 部門間の壁 仕組みの欠如など どの組織も持ち得る阻害要因が壁となって立ちはだかるためである 裏を返せば これらの課題に向き合うことで 成長できる中小企業は多く存在しているとも言える 下記では 実際に現場の実行力強化を通じて業績改善に繋げた我々のプロジェクト事例を紹介する

2. プロジェクト事例 A 社のケース :A 社は 輸入商社を営む地方の老舗企業で 前社長がワンマン経営のもと 事業を急拡大させてきた しかし 前社長が3 年前に急逝し 外部より経営者を招聘してから成長が停滞していた 中期経営計画は未達続きで 前々期には営業損失を計上していた 前社長の下で育ったミドルマネジメント層は 指示されたことを迅速に行うことには長けていたが 自主的に戦略を策定し行動する力は弱く 指示待ち姿勢が常態化していた 我々が改善に向けた調査を行った際には 現社長は ミドルマネジメント層が経営方針を理解しない 昔ながらの業務スタイルに固執して 率先した行動もしてくれない と悩む一方 ミドルマネジメント層は 社長は現場に来ず 机上の空論ばかり言っている コンサルタントを連れてきたところで何が変わるのか と抵抗を示した 実際に会議に同席すると 海外で MBA を取得した社長は 所謂カタカナ英語を多用し ミドルマネジメント層は何も発言せず俯いて座っているだけであった 我々は 目標を実現するための経営と現場を繋ぐ共通言語がないことを 主要な課題の一つとして捉えた ここでいう共通言語とは 組織を一つの目標に向けさせ 行動させるための仕組みやコミュニケーションツールのことを指す 本来であれば 経営目標を実現するための具体的な施策があり その施策を実行に移すためのアクションプランがあるはずだが A 社はそれらの仕組みが欠如していた 結果 経営目標は具現化せず 決められたことが期日通りに実行されないという状況を招いていた 我々は経営と現場を繋ぐ共通言語として アクションプランと KPI(Key Performance Indicator) の策定 設定を行った アクションプランは 週次レベルに施策を行動分解して作成した その際 各アクションには実行責任者や期限 明確な行動内容を必ず設定し 現場担当者に当事者意識を持たせた KPI は 施策の実行状況が定量的に即座に把握できるように設定した また アクションプランの実行状況のモニタリングおよび対応策の検討の場として 組織階層ごとに会議体を再設計し 会社全体で PDCA サイクルを廻す仕組みを構築した これにより 社長はアクションプランの実行状況を確認するために現場へ足を運ぶようになり 会議が活性化した また ミドルマネジメント層は KPI を基準に PDCA サイクルを廻すようになり 目標値を達成したら 自主的に目標を引き上げ 新たな施策を検討 実行するという好循環ができた 結果として プロジェクト期間中に年間売上目標を前倒しで達成し 社長が交代してから初めて事業計画を達成するに至った B 社のケース :B 社は 卸売を本業とし メーカーや飲食店も営んでいる 子会社が取り扱う商品を他の子会社の飲食店に卸して販売することによりシナジー効果の創出を図っていた しかし 近年買収した C 社が営む飲食店の業績が振るわず 買収前に想定していたシナジー効果が思うように発現していない状況にあった B 社は C 社の業績不振の原因を特定出来ずにいた 我々の調査を実施した結果 C 社では現場に即した KPI が設定されておらず 管理体制が十分に機能していない状況であった これにより 親会社の B 社が C 社の現場で何が起きているのかを捉えられていなかった

これらを改善すべく KPI 設定を含む管理体制を改めて設計した上で それらを活用するためのトレーニングを行い 現場に即した施策の立案 アクションプランの策定 およびその運用支援を行った KPI は 会社の実態を捉え 現場に対しては やらされ感 を抱かせないように 財務系の指標だけでなく 行動プロセス系の指標も設定した アクションプランを策定する際には 施策毎の財務諸表への影響度を定量評価し 効果が期待できないスローガンに近い施策は排除するとともに 実行に際しての歩留りも考慮して 目標に対する不足分については新たな施策の策定を行った 各部署のミドルマネジメント層が集まり 現場で行ったアクションプランの検討と評価の内容を議論し合うことにより 実行に際しての部門間の連携を深めた また 店長とスタッフが現場の状況を踏まえた改善策を真剣に議論する場を設定し 運用と報告の支援を行った これにより 本社 (B 社 ) は 管理すべき定量的な指標が明確になり 現場の声を踏まえた成功事例の横展開やグループとしての改善策の検討を行えるようになった 一方 現場では本社の経営方針に対する理解と咀嚼が進み ミドルマネジメント層の現場への施策の落とし込みができるようになり 店長およびスタッフが一丸となり KPI を達成することへの強い意識が芽生えた 自ら主体的に課題を発見し 改善するといった PDCA サイクルを円滑に機能させる組織の風土が養われた結果 1 年後には買収前に想定していた販売計画を上回り V 字回復を実現した IV. おわりに日本の中小企業は M&A を含む成長戦略において PDCA サイクルを機能させられていないが故に 成果創出が思うようにできていない現状がある 現場の実行力を磨き 当たり前のことを当たり前に実行できる組織を作り上げることができれば まだ多くの中小企業に成長の余地があると考える 本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする デロイトトーマツグループは日本におけるデロイトトウシュトーマツリミテッド ( 英国の法令に基づく保証有限責任会社 ) のメンバーファームおよびそのグループ法人 ( 有限責任監査法人トーマツ デロイトトーマツコンサルティング合同会社 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 デロイトトーマツ税理士法人および DT 弁護士法人を含む ) の総称です デロイトトーマツグループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり 各法人がそれぞれの適用法令に従い 監査 税務 法務 コンサルティング ファイナンシャルアドバイザリー等を提供しています また 国内約 40 都市に約 8,700 名の専門家 ( 公認会計士 税理士 弁護士 コンサルタントなど ) を擁し 多国籍企業や主要な日本企業をクライアントとしています 詳細はデロイトトーマツグループ Web サイト (www.deloitte.com/jp) をご覧ください Deloitte( デロイト ) は 監査 コンサルティング ファイナンシャルアドバイザリーサービス リスクマネジメント 税務およびこれらに関連するサービスを さまざまな業種にわたる上場 非上場のクライアントに提供しています 全世界 150 を超える国 地域のメンバーファームのネットワークを通じ デロイトは 高度に複合化されたビジネスに取り組むクライアントに向けて 深い洞察に基づき 世界最高水準の陣容をもって高品質なサービスを Fortune Global 500 の 8 割の企業に提供しています Making an impact that matters を自らの使命とするデロイトの約 225,000 名の専門家については Facebook LinkedIn Twitter もご覧ください Deloitte( デロイト ) とは 英国の法令に基づく保証有限責任会社であるデロイトトウシュトーマツリミテッド ( DTTL ) ならびにそのネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびその関係会社のひとつまたは複数を指します DTTL および各メンバーファームはそれぞれ法的に独立した別個の組織体です DTTL( または Deloitte Global ) はクライアントへのサービス提供を行いません Deloitte のメンバーファームによるグローバルネットワーク詳細は www.deloitte.com/jp/about をご覧ください 本資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり その性質上 特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません また 本資料の作成または発行後に 関連する制度その他の適用の前提となる状況について 変動を生じる可能性もあります 個別の事案に適用するためには 当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき 本資料の記載のみに依拠して意思決定 行動をされることなく 適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください 2016. For information, contact Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC. Member of Deloitte Touche Tohmatsu Limited