判例評釈 商標法4条1項8号の「他人」について―知財高判 平成28年8月10日,平成28年(行ケ)第10065号―

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判例評釈 - 知財高判平成 28 年 8 月 10 日, 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10065 号 - 会員岡本智之 要約商標法 4 条 1 項 8 号は 他人の氏名等を含む商標 について原則登録できない旨 ( 登録阻却要件 ) 規定している その趣旨は 人格権保護 であると解されている そして, 同規定の 他人 について当該趣旨の取り扱いをめぐり, 学説と審決例 裁判例の対立が認められる そこで本稿では, 平成 28 年 8 月 10 日に判決された審決取消訴訟を題材に, 同規定の 他人 の取り扱いについて, 整理および考察することによって, 同規定の 他人 について改めて 適正な取り扱い についての提案を試みた その結果, 法整備 ( 法改正 ) の必要性およびその方向性の一指針の提案を行うに至った 目次 1. 目的 ( はじめに ) 2. 事案 ( 事件 ) の説明 (1) 概要 (2) 裁判所の判断 ( 判旨 ) 3. 商標法 4 条 1 項 8 号の趣旨 4. 学説 5. 裁判例 6. 氏名権 氏名選択権 7. 評釈 8. 結論 9. おわりに 1. 目的 ( はじめに ) 商標法 4 条 1 項 8 号は 他人の氏名等を含む商標 について原則登録できない旨 ( 登録阻却要件 ) 規定している その趣旨は 人格権保護 であると解されている そして, 同規定の 他人 について当該趣旨の取り扱いをめぐり, 学説と審決例 裁判例の対立が認められる そこで本稿では, 平成 28 年 8 月 10 日に判決された審決取消訴訟を題材に, 同規定の 他人 の取り扱いについて, 整理および考察することによって, 同規定の 他人 について改めて 適正な取り扱い についての提案を試みることとした 2. 事案 ( 事件 ) の説明以下, 知財高判平成 28 年 8 月 10 日, 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10065 号 (1) ( 以下 本判例 という ) につい て説明する (1) 概要原告 株式会社大勝軒 は, 平成 25 年 11 月 19 日に 山岸一雄大勝軒 の文字を標準文字で表して成る商標 ( 以下 本件商標 という ) について, 商標登録出願をした なお, 山岸一雄 なる人物は本件商標の出願時には原告の取締役会長であり, 本件商標の登録についての承諾書 ( 商標法 4 条 1 項 8 号括弧書 ) を提出していたところ, 平成 27 年 4 月 1 日に死亡している ( 以下 亡山岸 という ) 原告は, 本件商標について, 商標法 4 条 1 項 8 号違反 ( 商標法 15 条 1 号 ) を理由に平成 26 年 8 月 22 日付けで拒絶査定 ( 商標法 15 条柱書 ) を受けた 原告は, 平成 26 年 11 月 26 日, 拒絶査定不服審判 ( 商標法 44 条 1 項 ) を請求するとともに, 指定商品又は指定役務を 第 30 類つけ麺用の中華麺, 調理済みのつけ麺, ラーメンの麺, つけ麺用のスープ, ラーメンスープ, ぎょうざ, しゅうまい, 第 43 類つけ麺を主とする飲食物の提供 に補正した なお, 当該補正は, 原告の業務に係る商品又は役務として周知なものに限定することを意図するものであり, 亡山岸の有するパブリシティ権の主張を行うことを目的としたもの, と推認できる 被告 特許庁長官 は, 本願商標は, 他人の氏名を含む商標であり, かつ, 本願商標を登録することにつ Vol. 71 No. 3 127

いて, 当該他人の承諾を得ているものとは認められないから, 商標法 4 条 1 項 8 号に該当し, 商標登録を受けることができない との理由により, 平 28 年 2 月 15 日付けで 本件審判の請求は, 成り立たない 旨の審決謄本を原告に送達した そこで, 原告は, 平成 28 年 3 月 16 日, 審決取消訴訟 ( 商標法 63 条 ) を提起した ( 本判例 ) (2) 裁判所の判断 ( 判旨 ) 1 商標法 4 条 1 項 8 号の解釈について ( 以下 高裁判断 1 という ) 商標法 4 条 1 項は, 商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが, 需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項 10 号,15 号等の規定とは別に,8 号の規定が定められていることからみると,8 号が, 他人の肖像又は他人の氏名, 名称, 著名な略称等を含む商標は, その他人の承諾を得ているものを除き, 商標登録を受けることができないと規定した趣旨は, 人 の肖像, 氏名, 名称等に対する人格的利益を保護すること, すなわち, 自らの承諾なしにその氏名, 名称等を商標に使われることがないという利益を保護することにある (2) 2 商標法 4 条 1 項 8 号の該当性について ( 以下 高裁判断 2 という ) 山岸一雄 を氏名とする者が, 事実及び弁論の全趣旨によれば, 本願商標の登録出願時 及び本件審決時 において, 亡山岸 とは別に, 山岸一雄 を氏名とする者が, 複数生存していたものと推認される 本願商標の登録出願時及び本件審決時において, 亡山岸以外の 山岸一雄 を氏名とする者が本願商標の登録について承諾していたとの事実を認めるに足りる証拠はない 3 他人の氏名 の周知性について( 以下 高裁判断 3 という ) 同号は, 人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として規定するものでもない したがって, 商標法 4 条 1 項 8 号の趣旨やその規定ぶりからすると, 同号にいう 他人の氏名 が, 著名又は周知なものに限られるとは解し難く, また, 同号の適用が, 他人の氏名を含む商標の登録により, 当該他人の人格 的利益が侵害され, 又はそのおそれがあるとすべき具体的事情の証明があったことを要件とするものであるとも解し難い 人格的利益の保護の要否を, 顧客吸引力の有無 により分けるというのも, 同号が商品又は役務の出所の混同のおそれを要件としていないことに照らし, 相当でない さらに, 自己の氏名を含む商標が登録されることにより氏名保持者が精神的苦痛や不快感を感じるか否かを商標出願の願書の記載のみから判断すれば足りるというのも, 氏名保持者ごとに人格的利益に係る事情は異なるにもかかわらず, その個別的事情を一切捨象するものであって, 相当でない なお, 他人の氏名を含む商標について, 当該氏名を有する他人から登録異議の申立てや無効審判請求がされたときに初めて, 当該商標の商標法 4 条 1 項 8 号該当性を判断すれば足りるとするのは, 人は, 自らの承諾なしにその氏名を商標に使われることがないという利益を確保するために, 自己の氏名が含まれる商標の登録の有無を常に確認しなければならないことになる 4 過去の登録例について ( 以下 高裁判断 4 という ) 原告の挙げる学説の内容は, 当裁判所の判断を拘束するものではないし, 過去に氏名を含む商標が登録されている例があるからといって, 本件審決における本願商標の商標法 4 条 1 項 8 号該当性の判断が, これに左右されるものではない 5 NTT 電話帳の証拠適格性について ( 以下 高裁判断 5 という ) NTT ハローページ 電話帳の掲載内容によれば, 本願商標の登録出願時及び本件審決時において, 亡山岸とは別に, 山岸一雄 を氏名とする者が, 複数生存していたものと推認されるのであるから, 本件審決が, 本願商標の商標法 4 条 1 項 8 号該当性について, NTT ハローページ 電話帳を検索し, その結果に基づき判断したことが, 不当であるということはできない 6 国際的調和の観点について ( 以下 高裁判断 6 という ) 諸外国における商標保護に関する法制と我が国におけるそれとが異なることがあり得べきことは, パリ 128 Vol. 71 No. 3

条約 6 条 (1) が商標の登録出願及び登録の条件は, 各同盟国において国内法令で定める旨規定していることに照らしても, 国際的にも当然に予定されているということができる 仮に商標法 4 条 1 項 8 号について, 原告が挙げる諸外国における他人の氏名を含む商標の登録に関する法制と我が国におけるそれとに異なる面があったとしても, それゆえに, 当該解釈が, 国際協調, 国際調和の理念に反するものであるなどということはできない 7パリ条約 6 条の 5 の観点について ( 以下 高裁判断 7 という ) パリ条約 6 条の5は, 当該商標が, 保護を要求される国における第三者の既得権を害するようなものである場合等には, 本国において正規に登録された商標であっても, その登録を拒絶され又は無効とされることがある旨規定している (6 条の 5B) そして, 商標法 4 条 1 項 8 号は, 人格的利益を保護する趣旨の規定であるところ, かかる人格的利益は, 上記にいう 第三者の既得権 に相当するものであると解される そうすると, 日本人や日本法人を不当に不利に扱う結果をもたらすなどということはできない 8 出願人側の周知性について ( 以下 高裁判断 8 という ) 商標法 4 条 1 項 8 号について, 同法 3 条 2 項に相当する規定は存しない 原告の上記主張は, 独自の見解であって, 採用の限りでない 3. 商標法 4 条 1 項 8 号の趣旨商標法 4 条 1 項柱書には 次に掲げる商標については, 商標登録を受けることができない と規定され, 同条同項 8 号 ( 以下 本号 という ) には 他人の肖像又は他人の氏名 を含む商標 ( その他人の承諾を得ているものを除く ) と規定されている 本号の趣旨は, 本判例でも明らかにされている通り 人格権保護 と解されている なお, 本号の趣旨は 出所混同防止 との見解もあるが, 本号括弧書が規定されていることからすれば 人格権保護 の規定と考えるべきであろう (3) 4. 学説 1 多数説であろう学説学説上は本号の 他人 該当性を制限的に運用すべき ( 登録を緩やかに認めるべき ) との見解が多いようである たとえば網野 (4) は 文理には反するとしても, 法の趣旨からすれば, 承諾を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足る著名性 稀少性等を必要とすると解すべき と述べ, 平尾 (5) は 偶然自己の氏名や名称等と同一の氏名や名称等が商標登録されているというだけでは, 一般的には奇異に感じても不快感までは感じませんので人格権の毀損はない と述べている さらに, 平尾 (6) は自説と実務とに乖離があることにも触れ 他人の氏名や名称を含む商標を全て拒絶しようとしたら, 特許庁において日本全国の戸籍簿及び法人登記簿等と逐一照合しなくてはなりませんが, それは不可能です よほどの珍名でもない限り, 8 号を字義どおりに適用したら氏名や商号の商標登録はまず得られないこととなり, 氏名や商号を商標登録したいというニーズを満たせません 特許庁でも, 同姓同名人の存在が予想されるにかかわらず, Matsumoto Kiyoshi 長嶋茂雄 Takano Yuri (7) といった商標を登録していますが, 当然の運用です 人格の価値は人によって差異がありませんが, 氏名のもつ社会的又は経済的価値 ( ネームバリュー ) は人によって相違するのですから, ネームバリューのある人にだけ商標登録を認めても不平等ではありません 他人がこれらの商標を使用したときには松本清氏や長嶋茂雄氏やたかの友梨氏の人格が毀損されますが, これら各氏が使用しても通常は他の同姓同名人の人格を毀損しないと考えることができます ( 脚注追記筆者 ) と述べている また, 古関 (8) は 本号に該当するか否かは, 他人の氏名, 名称等が第三者によって商標登録されることによって, 当該他人が自己の人格権を毀損されたと認識するか否かによって決せられるべき問題であり, 一律に本号の規定に該当すると解すべきではなく, 登録異議の申立て又は無効審判等が請求された場合に審査されれば足りる と述べている < 小括 > 我が国が先願主義 ( 商標法 8 条 ) および登録主義 ( 商標法 18 条 1 項 ) を採用していることに鑑みれば, Vol. 71 No. 3 129

前掲 平尾 や前掲 古関 の通り, 他人の人格権を毀損するおそれがある場合には一律に本号に該当するとして登録を拒絶することは, あまりにも形式的な運用 ( 本号の文理解釈 / 文言解釈 ) にすぎ, 先願主義および登録主義を没却することになるのではないだろうか すなわち, 本判例や後掲する裁判例のような本号の文理解釈 / 文言解釈に基づく規範が適切かという点が問われるべきと考えるのである たとえば, 現行法においても, 審査 審理において, 少なくとも 指定商品または指定役務との関係で 周知ないし著名である他人の存在が明らかにされない限り, 本号を適用することなく登録させ, 登録異議の申立て ( 商標法 43 条の2) 制度の下, 広く意見を募ることで 出願人 と 他人 の利益衡量を図るという運用でも良いのではないだろうか さらに, 登録異議の申立て期間 ( 商標法 43 条の2 柱書 ) が商標掲載公報の発行の日から 2 月以内と短いために気付かず当該期間を徒過してしまった場合においても, 人格権が毀損されるであろう 他人 は利害関係人( 商標法 46 条 2 項 ) と言えるであろうから, 商標登録無効審判 ( 商標法 46 条 1 項 ) を請求することができるのである 勿論, 商標登録無効審判も除斥期間 ( 商標法 47 条 1 項 ) を徒過すれば請求できなくなる しかしながら, 除斥期間は商標権の設定の登録の日から 5 年と比較的長期間であることからすれば, 当該 5 年 ( 除斥期間 ) もの期間を気付かずに過ごした 他人 にとって, その人格権が毀損していたとは考え難く, 加えて, 除斥期間の間, 平穏に 他人の氏名 を商標として使用していたのであれば, そこに醸成された既存の法律状態を保護する利益の方を優越すべきではないだろうか 勿論, 商標として使用していたとしても, その規模には差があろう しかしながら, 狭小な地域で細々と使用していたのであれば, 他人の人格権を毀損する蓋然性は極めて低いであろうし, 他方, 一地方ないし全国的に広く使用していたり, まして, 周知性や著名性を獲得していたのであれば, 自らの人格権を毀損されていると感じる他人に気付かれることなく除斥期間が徒過することは考え難いのではないだろうか 2 少数説であろう学説他方, 茶園 (9) は商標法 4 条 1 項 8 号による人格権保護について 氏名権 の側面 ( 同号の 他人 側 ) からアプローチしている 氏名権について, 最判昭和 63 年 2 月 16 日民集 42 巻 2 号 27 頁 NHK 日本語読み事件 を取り上げた上で, 学説には, 同号はあくまで拒絶理由を定めるものであり, 同号によって他人の氏名や肖像の商標の登録を阻止できたとしても, そのような商標の使用までも禁止することができないことを理由に, 疑問を呈するものがある しかしながら, 商標制度は, 登録をすることにより, 出願商標が使用され, 業務上の信用が形成 維持されることを促そうとするものであるから, その使用が他人の人格的利益を害する可能性のある商標の登録を拒絶することは合理的であり,8 号が 自らの承諾なしにその氏名, 名称等を商標に使われることがない利益 を保護しているとの理解は適切なものである と述べた上で, 8 号はあらゆる氏名権 肖像権を保護しているのではなく, 保護しているのは一定のものだけである 保護される氏名権 肖像権は,8 号が ( 他人の ) 氏名権 肖像権と商標登録出願人の利益ないし商標権との調整を行っているとの観点からは, 後者の利益ないし権利に優先する ( 他人の ) 氏名権 肖像権ということになる ( 括弧書追記筆者 ) とも述べ, 結論として 以上のような疑問はあるものの, 商標権は, 更新登録によって長期間にわたって存続することができる (19 条 ) そのため, 出願時においては, 人格的利益の毀損が認められない場合であっても, 本人がその後に有名になったりして, 人格的利益が相当に損なわれるようになることがあり得る 出願時において知られているかどうかを問わずに, 商標に含まれるかどうかだけを問題とすることは妥当なものと評価できよう と述べ, 本号 他人 についての実務上の取り扱い を支持 ( 容認 ) している < 小括 > 本号 他人 についての実務上の取り扱い を支持 ( 容認 ) しているであろう茶園説を咀嚼すれば, 以下の通りに説明できよう 指定商品 役務との関係で一定の関連性を想起させる程度に周知ではない 他人 の人格権 と 商標登録出願人の商標登録出願により生じた権利 ( 商標法 13 条 2 項 ) との利益衡量においては後者が勝るとも考えられる しかしながら, 一旦付与された商標権は, 登録商標の使用を継続している限り ( 商標法 50 条 ) においては, 存続期間 ( 商標法 19 条 1 項 ) を更新する ( 商標法 19 条 2 項 ) ことにより保有し続けること 130 Vol. 71 No. 3

ができることに鑑みれば, 出願時および査定 審決時 ( 商標法 4 条 3 項 ) には周知ではなかった 他人 の氏名がその後周知になり, その結果, 登録商標の使用によって人格権が毀損されることがあり得る以上, 本号を文理解釈し, 形式的に適用することが妥当である, ということになろう 5. 裁判例 1 知財高判平成 20 年 9 月 17 日, 平成 20 年 ( 行ケ ) 第 10142 号本事案は, 商標 インナートリップ霊友會インターナショナル ( 実際には, 本件商標の構成中の漢字部分のうち, 第 1 字目は 霊 ( 靈 ) の, 第 3 字目は 会 ( 會 ) のそれぞれ異体文字である ) について出願し, その登録を受けた保田健一から, 本件商標に係る商標権の特定承継を受けた者 ( 原告 ) が, 霊友会 および 株式会社いんなあとりっぷ社 から登録異議の申立てを受け, 特許庁により本件商標の登録を取り消す旨の決定がされたため, 同決定の取消しを求めたものである 裁判所は 仮に, 他人の氏名を含む商標であっても, その使用が当該他人の人格的利益を侵害するおそれが全くない場合には, 商標法 4 条 1 項 8 号の適用がなく, 当該商標の登録を受けることができると解するとしても, 本件においては, 本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれが全くないとの事実を認めるに足りる証拠はない と判示している 2 知財高判平成 21 年 2 月 26 日, 平成 20 年 ( 行ケ ) 第 10309 号本事案は, 商標 株式会社オプト ( 標準文字 ) について出願したところ, 同一名称の法人が 6 社実在しており, 本号の該当性が争われたものである 裁判所は, 商標法 4 条 1 項 8 号の趣旨については, 本判例と同様の内容を示した上で 他人の名称を含む商標については, 他人の承諾を得ているものを除いては, 商標登録を受けることができないというべきであって, 出願人と他人との間で事業内容が競合するかとか, いずれが著名あるいは周知であるといったことは, 考慮する必要がないというべきである と判示し, 本号を形式的に適用し, 原告の各種主張を一蹴している 3 知財高判平成 21 年 5 月 26 日, 平成 21 年 ( 行ケ ) 第 10005 号本事案は, 商標 末廣精工株式会社 ( 横書き ) について出願したところ, 同一名称の法人が 1 社実在しており, 本号の該当性が争われたものである なお, 原告 ( 出願人 ) である 末廣精工株式会社 は, ガイドバー, 生垣剪定用バリカン刃, チェーンなどの刃物製品を主に製造 販売している法人である 他方, 本号の 他人 として引用された 末廣精工株式会社 は, 自動車用冷間圧造ナット, 切削精密加工品, 精密プレス加工品などの工業製品を主に製造 販売している法人である よって, 取引業界としては近似していると考えて良いであろう ( ただし, 裁判所は当該事情には何ら言及していない ) 裁判所は, 商標法 4 条 1 項 8 号の趣旨については, 本判例と同様の内容を示した上で 同号は, 出願人と他人との間での商品又は役務の出所の混同のおそれの有無, いずれかが周知著名であるということなどは考慮せず, 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称 を含む商標をもって商標登録を受けることは, そのこと自体によって, その氏名, 名称等を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなし, その他人の承諾を得ている場合を除き, 商標登録を受けることができないする ママ 趣旨に解されるべきものなのである と判示し, やはり本号を形式的に適用し, 原告の各種主張を一蹴している なお, 本事案では, 裁判所は 原告は, 本件審決が特許庁における過去の判断と相違しているとも主張するが, 仮に, これまでに他人の名称を含む商標の出願登録が認められた例があったとしても, 被告の主張するとおり, 当該他人の名称の存在を特許庁が把握していなかったために, 本来であれば拒絶されるべき出願に係る商標が登録されてしまったか, あるいは, その出願に係る商標が誤って登録されてしまったというにすぎず, 本願商標が同号に該当するか否かの判断に際して, そのような登録例に拘束されるべき理由はなく, 原告の主張は採用の限りでない と判示している 要するに 過去の登録例は過誤登録にすぎない と言及しているのであり, 興味深いものであると同時に, 本号を文理解釈 ( 形式的に適用 ) することに対して強い意志を窺わせるものであろう なお, 原告は, 上記 1 知財高判平成 20 年 9 月 17 日, 平成 20 年 ( 行ケ ) 第 10142 号 ( 判旨では 知財高裁 Vol. 71 No. 3 131

20 年判決 と表している ) 判示部分を引用した主張も行っているが, これに対し, 裁判所は 原告は, 知財高裁 20 年判決につき, 出願人又は商標権者によって, 他人の人格的利益を侵害するおそれがない事実が十分立証された場合には, 法 4 条 1 項 8 号の該当性が否定されるべきことを判示したものであると理解した上, 本件審決が知財高裁 20 年判決を誤って引用しているなどと主張するが, 知財高裁 20 年判決の判示は, 当該事案における原告の主張にかんがみ, 仮定的に, 当該商標の使用が他人の人格的利益を侵害するおそれが全くないとの事実を認めることもできないことを付言したものにすぎず, と述べ, 原告主張を退けている < 小括 > 上記裁判例はいずれも本号の 他人 は法人 ( 株式会社 ) である この点, 株式会社については, 株式会社を除いた部分で出願すれば, 当該部分は 名称の略称 として取り扱われる (10) ため, 同一名称の法人が実在していても, 当該法人の株式会社を除いた部分 ( 略称 ) が著名でなければ本号の適用はない したがって, 本判例 ( 名称 でなく 氏名 である ) が上記裁判例と同様に考えて良いのか否かは検討の余地があろう なぜなら,( 戸籍上の ) 氏名は原則として生まれながらに与えられたものであり, 当人に ( 戸籍上の ) 氏名決定権はないからである この点においても, 本判例は 氏名 について本号の該当性が争われた数少ない事件であり, 貴重な題材と言えよう (11) 6. 氏名権 氏名選択権前掲 茶園 では氏名権からのアプローチがなされていたが, そもそも氏名権とは 大辞泉 [ 増補 新装版 ] 松村明監修 ( 小学館 ) によれば 自己の氏名の専用を他から侵害されない権利 人格権の一 とされており, 氏名に関する人格的利益を端的に示す権利として定着していると言えよう さらに, 氏名権から発展した講学上の概念として 氏名選択権 なる権利がある たとえば, 小林 (12) は, 幸福追求権 ( 憲法 13 条 ) から導かれる新しい人権として 自己の名を他から干渉されずに自由に選択しそれを公証させる権利 として 氏名選択権 という考え方を述べ, 人格的生存にとって不可欠の利益だとしている また, 斉藤 (13) は, 氏名をどのように使用するのか, それをどのように 呼称するのかはひとり氏名所持者のみ決しうるところである として 氏名所持者の権利 という考え方を述べている 氏名権は幸福追求権 ( 憲法 13 条 ) から導かれる基本的人権の一つと言えるであろう 他方, 自由権, たとえば, 精神的自由権としての表現の自由 ( 憲 21 条 ), 経済的自由権としての職業選択の自由 ( 憲法 22 条 ) も基本的人権の一つと言えるであろう そして, 上述の通り, 氏名権 や 氏名選択権 が幸福追求権 ( 憲法 13 条 ) から導かれる基本的人権の一つであるのなら, 商標として自己の氏名を使用する権利 もまた, 違憲審査基準上, 合憲か否かの判断が緩やかな 経済的自由権 としての職業選択の自由 ( 憲法 22 条 ) のみならず, 違憲審査基準上, 合憲か否かの判断が厳しい 精神的自由権 としての表現の自由 ( 憲 21 条 ), そして, 氏名権 や 氏名選択権 と同様に幸福追求権 ( 憲法 13 条 ) からも導かれる基本的人権の一つと言えるのでないだろうか すなわち, 本号は 氏名権 や 氏名選択権 としての基本的人権と, 商標として自己の氏名を使用する権利 としての基本的人権との衝突の問題であり, どちらかに偏って判断されるべきものではなく, 慎重に利益衡量されるべきものと考えるのである なお, ここでの 商標として自己の氏名を使用する権利 とは 商標登録を受けて自己の氏名を使用する権利 ( 正当理由 権原なき第三者の使用を排除することができる権利 ) を意図した この点, 商標登録を受けられなくとも, 自己の氏名を商標として使うことはできる しかしながら, 我が国が先願主義 ( 商標法 8 条 ) および登録主義 ( 商標法 18 条 1 項 ) を採用していることに鑑みれば, 同一の氏名の自然人が複数人存在していたとしても, 最先の出願人に権利付与することの弊害 ( 他の同一氏名の自然人が自己の氏名を商標としては使用できなくなる ) の手当 (14) がなされておれば, 何ら問題ないのではないか, と考えるのである 7. 評釈以上, 本判例の概要, 裁判所の判断, そして, 同号の趣旨, 学説の状況 および 本判例以前の裁判例 等について, 筆者の考察を含め述べてきたが, 以下, 本判例で示された高裁判断 1 8 について評釈を述べたい 132 Vol. 71 No. 3

1 高裁判断 1 について本判断は, 同号の趣旨が 人格権の保護 であることを述べたものであり, 学説 や 従前の裁判例 に沿うものであり, 妥当である 2 高裁判断 2 について本判断は, 同号括弧書の適用がなされる証拠はないことを述べたものであり, 確かに原告からそのような証拠は提出されていないことから, 妥当である 3 高裁判断 3 について本判断 同号は, 人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として規定するものでもない したがって, 他人の氏名 が, 著名又は周知なものに限られるとは解し難く, の部分は, 確かに同号においては 人格的利益の侵害のおそれ の存在を要件としておらず, また, 他人の氏名 については著名性を要件としていないことから, 文理解釈としては妥当と言わざるを得ない しかしながら, 裁判所はあらゆる場面で常に文理解釈を貫いているわけでないことは明白であり, 趣旨を加味した柔軟な判断をしていることも多々あることからすれば, 同号については 趣旨解釈は許されない という理由の説明が足りていないのではないだろうか また, 本判断 人格的利益の保護の要否を, 顧客吸引力の有無 により分けるというのも, 相当でない の部分は, 亡山岸および他の 山岸一雄 の顧客吸引力を指しているものと考えられる この点, 同号 他人 の顧客吸引力については, 上述の通り 他人の氏名 については著名性を要件としていないことから, 文理解釈としては妥当と言わざるを得ない しかしながら, やはり同号については 趣旨解釈は許されない という理由の説明が足りていないのではないだろうか また, 出願人と密接な関係を有する者 ( 本判例で言えば 亡山岸 ) の顧客吸引力については, そこに存在する財産的価値の保護という観点といかに調整するかの説明が足りていないのではないだろうか さらに, 本判断 氏名保持者ごとに人格的利益に係る事情は異なるにもかかわらず, その個別的事情を一切捨象するものであって, 相当でない 当該氏名を有する他人から登録異議の申立てや無効審判請求がされたときに初めて, 当該商標の商標法 4 条 1 項 8 号該当性を判断すれば足りるとするのは, 自らの 承諾なしにその氏名を商標に使われることがないという利益を確保するために, 自己の氏名が含まれる商標の登録の有無を常に確認しなければならないことになる の部分は, 審査 審理において職権で調査しきれない要件については, 推定充足あるいは推定非充足として取り扱うと述べているに等しく, 妥当ではないと考える たとえば, 冒認出願 ( たとえば特許法 49 条 7 号 ) の場合, 審査官や審判官の合議体の調査能力が及ばないものとして整理されているため, 審査 審理においては検討されることなく ( 推定非充足 ), 権利付与され, 無効審判請求 ( たとえば特許法 123 条 1 項 6 号 ) や権利の移転請求 ( たとえば特許法 74 条 1 項 ) に委ねているのであり, 運用上の整合性に疑問があろう 4 高裁判断 4 について本判断は, 学説や登録例に拘束されない旨を述べている 本判例に限られるものではないが, このような場合, どのような点で事案を異にするのかについて言及するべきではないだろうか ( 少なくとも, 裁判所では言及されないにしても審理不十分として審判に差し戻すべきではないだろうか ) 法的安定性, 審査 審理の迅速性という観点からも, どのような点で事案を異にするのか について後人に示すべきではないだろうか 5 高裁判断 5 について本判断は,NTT ハローページ 電話帳の掲載内容によれば, 本願商標の登録出願時及び本件審決時において, 亡山岸とは別に, 山岸一雄 を氏名とする者が, 複数生存していたものと推認され, 当該推認を覆滅させる原告主張はないことを述べたものであり, 妥当である 6 高裁判断 6 について本判断は, 属地主義の原則を述べたものであり, 妥当である 7 高裁判断 7 について本判断は, 同号の趣旨である 人格的利益の保護 の 人格的利益 はパリ条約 6 条の5B(1) に規定されている 第三者の既得権 に相当すると述べたものであり, 妥当である しかしながら, 保護すべき 人格的利益 の性質についての議論が置き去りにされてい Vol. 71 No. 3 133

るのではないだろうか 学説 ( 多数説 ) を論破する裁判所の言及 ( 判示 ) があって欲しかったところである 8 高裁判断 8 について本判断は, 商標法 4 条 1 項 8 号について, 同法 3 条 2 項に相当する規定は存しない と述べている すなわち, 出願人あるいは出願人と密接な関係を有する者の 氏名 を出願しても, なお, 本号に該当するということである 文理解釈としては妥当であるが, 脚注 (7) で示した通り, 少なくとも著名な 氏名 は登録されているのである そして, 前掲平尾のとおり, 氏名のもつ価値は人によって相違するのであり, 指定商品等の関係で周知 著名性のある人にだけ商標登録を認めても, 一概に不平等とは言えないのではないだろうか 8. 結論以上, 本判例について評釈を述べたが, 結局のところ, これまでの裁判例 (15) と同様の判断が 自然人 ( 氏名 ) についてもなされたということであり, 学説との対立には何ら変わりはない 筆者は, 並行線である当該対立について解釈論や運用で解決を試みることは限界と感じるのである すなわち, 法上の手当が必要と考えるのである たとえば, 地域団体商標制度 ( 商標法 7 条の2) にならった法整備 ( 法改正 ) を行うことにより, 氏名等 の商標については, 出願人あるいは出願人と密接な関係を有する者の 氏名等 については, 一定の周知性を獲得していることを要件とした上で, 本号における 他人 該当性を制限する( 登録を緩やかに認める ) ことが望ましいのではないだろうか ( 商標法 46 条 1 項 7 号後文の後発無効理由にならった法整備 ( 法改正 ) も同様に展開できよう ) 一定の周知性を獲得しているということは, 一定の財産的価値を有しているのであり, かつ, 一定規模の市場が形成されているということである そうであるならば, 法目的 ( 商標法 1 条 ) である 商標の使用をする者の業務上の信用 ( 財産的価値 ), 需要者の利益 ( 一定規模の市場 ) を保護することにも資すると考えるのである もちろん, 出願人の氏名の周知性だけで登録可否が決するものではなく, 対抗する他人の周知性も考慮されなければなるまい また同様に, 後発無効理由についても, 単に登録商標が周知性を失ったか否かで決するものではなく, 対抗する他人の周知性も考慮されなければなるまい これにより, 同号 他人 の人格権との利益衡量も図れるのではないだろうか, と考えるのである 上記は出願人 ( 商標権者 ) 側の立場からアプローチした見解 ( 法整備案 ) ではあるものの, 前掲茶園による 更新制度を考慮した上で現在の本号運用を容認する立場 ( 他人側の立場からアプローチした見解 ) とも, 一定の平仄が取れるのではないだろうか 9. おわりに本号の解釈論 適正な運用論については, 憲法学とも密接に関係していると思われる したがって, 本拙論が議論のきっかけとなり, より高度な研究がなされ, 本号の実務上の運用に問題があるのか否か, ある場合にはどのような解決が図られるべきか, 議論が深化することを期待し, 結びとしたい ( 注 ) (1) 本判例とは別に 知財高判平成 28 年 8 月 10 日, 平成 28 年 ( 行ケ ) 第 10066 号 も存在するが, 相違点は, 出願商標が 山岸一雄 ( 標準文字 ) である点のみであり, その余の部分 ( 指定商品等, 原告および被告の主張, 裁判所の判断等 ) はほぼ同一である (2) 裁判所は 最高裁平成 15 年 ( 行ヒ ) 第 265 号同 16 年 6 月 8 日第三小法廷判決 裁判集民事 214 号 373 頁 ( LEONARD KAMHOUT 事件 ) および 最高裁平成 16 年 ( 行ヒ ) 第 343 号同 17 年 7 月 22 日第二小法廷判決 裁判集民事 217 号 595 頁 ( 国際自由学園事件 ) を引用している (3) 金井重彦 鈴木將文 松嶋隆弘, 商標法コンメンタール, pp.101 2,(2015), レクシスネクシス ジャパン, における商標法 4 条 1 項 8 号の解説では, 立法趣旨について 本号の前身である旧商標法 2 条 1 項 5 号 ( これは明治 42 年法 2 条 8 号を引き継ぐものである ) は, 他人ノ肖像, 氏名, 名称又八商号ヲ有スルモノ但シ其ノ他人ノ承諾ヲ得タルモノハ此ノ限リニ在ラス と規定していた この規定の趣旨については, 出所混同の防止とする考え方と人格権のような私権の保護とする考え方があった 本号は人格権保護の規定として立案されたものであり, 他人の承諾があれば登録が認められること, 無効審判請求における除斥期間の適用があること (47 条 ), 出所混同の防止については4 条 1 項 15 号が設けられていることから, その立法趣旨は, 一般的に, 他人の人格的利益の保護であると解されている と記載されている (4) 網野誠, 商標[ 第 6 版 ],p.338,(2002), 有斐閣 (5) 平尾正樹, 商標法[ 第 2 次改定版 ],p.163,(2015), 学陽書房 (6) 前掲 注 5),pp.164 5, 脚注 (1) (7) Matsumoto Kiyoshi 関連商標は何れもその法人である 134 Vol. 71 No. 3

株式会社マツモトキヨシホールディングス が, 長嶋茂雄 は同人の個人事務所である 株式会社オフィスエヌ が, Takano Yuri 関連商標は何れもその法人である 株式会社不二ビューティ ないし 株式会社 G.P ホールディング が商標権者である (8) 古関宏, 商標法概論 制度と実務,pp.190 2,(2009), 法学書院 (9) 茶園成樹 商標法 4 条 1 項 8 号による人格的利益の保護 - 氏名権を中心に -, パテント ( 別冊 11 号 ),67 巻,4 号, pp.40 52,(2014) (10) 最判昭 57 年 11 月 12 日民集 36 巻 11 号 2233 頁 月の友の会事件 (11) 前掲 注 2) に示した LEONARD KAMHOUT 事件 は 氏名 について本号の該当性が争われた事件ではあるが, 出願時に承諾を得ていたものの, 査定 審決時には当該承諾が取り消されていたという事案であり, 両時判断 ( 商標法 4 条 3 項 ) の解釈が争われたものであり, 本判例とは異にするものと言えよう なお, 氏名 も外国人のものである点で, 本判例とは異にする (12) 小林節 判例批評, 判例時報,1117 号,p.205,(1984) (13) 斉藤博 判例批評, 判例時報,1136 号,p.189.(1985) (14) なお, 商標法 26 条 1 項 1 号には 自己の氏名等を普通に用いられる方法で表示する商標 には商標権の効力が及ばない旨, 規定されている しかしながら, 同項の総括規定である同 6 号 ( たとえば, 知財高判平成 27 年 10 月 21 日, 平成 27 年 ( ネ )10074 号 PITAVA 事件 ) からも分かるように, 同 1 号は 商標的使用 ではなく, 自己の氏名等を 商標 以外に使用していた場合に無用に権利行使されないように制定したものと解することが相当であろう (15) 本稿で取り上げた先行裁判例は何れも 法人 の 名称 である ( 原稿受領 2017. 11. 8) アハ ート Vol. 71 No. 3 135