登録販売者用 症状 部位別 ネットセミナー 基礎講座 ⅩⅤ-1 肩こり Ⅰ. 肩こりの基礎知識 1. はじめに 肩こりは 腰痛と並んで 日本人に最もよくみられる症状の一つである 平成 22 年国民生活基礎調査による有訴者数 ( 自覚症状のある人 ) の割合 ( 有訴者率 ) をみると 肩こりは女性が訴える症状の第 1 位 男性では第 2 位となっていた ( 図 1) しかし通院者率 ( 症状を訴えて 通院している人の割合 ) はそれほど高くない 多くの人はマッサージや指圧 整体 または湿布薬などの一般用医薬品を利用するなどして 自分なりの対処をしていることがうかがわれる 図 -1 性別にみた有訴者率の上位 5 症状 ( 複数回答 ) 注 : 有訴者には入院者は含まないが 分母となる世帯人員には入院者を含む 1
それだけに店頭で相談を受けることも少なくない症状であり 肩こりについてよく知 り 適切な一般用医薬品の紹介やアドバイスができるように努めていなかければならな い 2. 肩こりとは 肩こりについての明確な定義はないが 一般的には首から肩 背中にかけての筋肉にこわばりや張り 痛みなどがみられるものをいう 何らかの疾患に関連して起こる場合もあるが ( 症候性肩こり 後述 ) 筋肉疲労や血行不良などによる筋肉の過度の緊張によって引き起こされることが多い 肩周辺の筋肉で 肩こりに関与する主な筋肉としては 肩から背中にかけて大きく広がる 僧帽筋 肩甲骨を支えている 大 小菱形筋 肩甲骨挙筋 などが知られている ( 図 2) これらの筋肉は 頭( 約 4~6kg) や腕 ( 片方だけで約 4~5kg) を支えているため 常に緊張状態にあり 疲労しやすい状況におかれている 図 -2 肩こりに関与する筋肉 ( 日本整形外科学会制作 パンフレット 整形外科シリーズ 4 肩こり より ) 2
3. 肩こりの分類と原因 肩こりは 本態性肩こり と 症候性肩こり に大別することができる 1) 本態性肩こり肩こりを引き起こすような疾患がなく 筋肉の疲労によって起こるものを本態性肩こりという こり感や軽い痛みを主な症状とする 私たちが普段 肩こり と呼んでいるものはこれに当たる 適度な休養やストレッチ マッサージなどによって 症状は軽くなることが多い 原因としては 不良姿勢 ( 猫背 無理な姿勢 同じ姿勢を続けるなど ) 加齢や運動不足などによる筋力の低下 体型 ( やせ型 肥満 なで肩 ) 癖 ( いつも同じ側の肩に鞄をかける 足を組むなど ) 寒さ 冷え ストレスなどが挙げられる 2) 症候性肩こり何らかの疾患の症状の一つとしてみられる肩こりで 休養をとっても改善されず 徐々に悪化するケースも少なくない 原因となる疾患としては 表 1のようなものが知られている 表 -1 症状として肩こりを生じることがある疾患の例整形外科的疾患肩関節周囲炎 ( 五十肩 ) 頸部脊椎症 頸部椎間板ヘルニア 頸椎捻挫 ( 外傷性頸部症候群 ) 胸郭出口症候群 リウマチ性多発筋痛症などその他の疾患頭痛 ( 片頭痛 緊張型頭痛 ) 循環器疾患 ( 高血圧 低血圧 狭心症 心筋梗塞 ) 消化器疾患 ( 胆石症 胆のう炎 膵炎 ) 呼吸器疾患 ( 肺がん ) 貧血眼精疲労顎関節症 咬合不全 歯周病うつ病 神経症 自律神経失調症風邪など 3
4. 肩こりが起こるメカニズム 肩こり ( 本態性肩こり ) の直接的な原因は筋肉の緊張にある 悪い姿勢や不自然な体勢での作業を長時間続けるなどすると 肩や首の筋肉が緊張して固くなり こりを生じる すると筋肉中の血管が圧迫されて血行が悪くなる その結果 筋肉内に疲労物質や発痛物質 老廃物などがたまり 痛みが生じてくる 痛みは中枢に伝わって反射的に筋肉や血管が収縮 筋肉はさらに緊張し こりがひどくなる このように こりは痛みを呼び 痛みはこりを増強しており これを こりと痛みの悪循環 という ( 図 3) 肩こりの改善には この悪循環を断ち切ることが不可欠であり 運動や休養などによって筋肉の緊張をやわらげ 血行を改善することがポイントとなる 図 -3 こりと痛みの悪循環 4
5. 肩こりの治療と予防 1) 薬物療法 一般用医薬品では 次のような成分が用いられる ( 表 2 表 3) 表 2 肩こりに用いられる OTC 薬の成分 分類成分名こんなときに 消炎鎮痛薬 ( 外用 ) ( 詳細は 腰痛 の項で解説する予定です ) 消炎鎮痛薬 ( 内服 ) アスピリン イブプロフェン ロキソプロフェンナトリウムなど 痛みが強いときに 筋弛緩薬 ビタミン剤 メトカルバモール クロルゾキサゾンビタミンE ビタミンB1 ビタミンB12 筋肉のこりや張りが強いときに 血行不良 冷え 更年期などによる肩こりに 目の疲れ からだの疲れなどを伴うときに 痛みやしびれが気になるときに 表 3 肩こりに用いられる漢方薬の例 方剤名葛根湯独活葛根湯釣藤散桂枝茯苓丸 効能 効果体力中等度以上のものの次の諸症 : 感冒の初期 ( 汗をかいていないもの ) 鼻かぜ 鼻炎 頭痛 肩こり 筋肉痛 手や肩の痛み体力中等度又はやや虚弱なものの次の諸症 : 四十肩 五十肩 寝ちがえ 肩こり体力中等度で 慢性に経過する頭痛 めまい 肩こりなどがあるものの次の諸症 : 慢性頭痛 神経症 高血圧の傾向のあるもの比較的体力があり ときに下腹部痛 肩こり 頭重 めまい のぼせて足冷えなどを訴えるものの次の諸症 : 月経不順 月経異常 月経痛 更年期障害 血の道症 肩こり めまい 頭重 打ち身 ( 打撲症 ) しもやけ しみ 湿疹 皮膚炎 にきび 5
体力中等度以下で のぼせ感があり 肩がこり 疲れやすく 精神不安 加味逍遥散当帰芍薬散防風通聖散大柴胡湯 やいらだちなどの精神神経症状 ときに便秘傾向のあるものの次の諸症 : 冷え症 虚弱体質 月経不順 月経困難 更年期障害 血の道症 不眠症体力虚弱で 冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく ときに下腹部痛 頭重 めまい 肩こり 耳鳴り 動悸などを訴えるものの次の諸症 : 月経不順 月経異常 月経痛 更年期障害 産前産後あるいは流産による障害 ( 貧血 疲労倦怠 めまい むくみ ) めまい 立ちくらみ 頭重 肩こり 腰痛 足腰の冷え症 しもやけ むくみ しみ 耳鳴り体力充実して 腹部に皮下脂肪が多く 便秘がちなものの次の諸症 : 高血圧や肥満に伴う動悸 肩こり のぼせ むくみ 便秘 蓄膿症 ( 副鼻腔炎 ) 湿疹 皮膚炎 ふきでもの( にきび ) 肥満症体力が充実して 脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しく 便秘の傾向のあるものの次の諸症 : 胃炎 常習便秘 高血圧や肥満に伴う肩こり 頭痛 便秘 神経症 肥満症 2) その他のセルフケア 肩こりは一般用医薬品で対応できるところが少なくないが 慢性化する場合が少なくない それを防ぐためには姿勢や運動 体操など からだを動かすことが重要である 生涯にわたり 肩こりを知らない という人も少なくないが それらの方々の中には布団の上げ下ろしなど 日常生活のなかで 適度な運動 体操を自然と行っている人が少なくない 姿勢や運動など アドバイスを行うポイントは次の通りである 1 姿勢 正しい姿勢を習慣づける 同じ姿勢を長時間続けない 机や椅子の高さ パソコンの角度などを調節する 2 運動 仕事中も休憩をはさみ ストレッチや軽い運動を行う 休日は ウォーキングや水泳などで軽く汗を流す エレベーターやエスカレータの使用は避け できるだけ歩くようにする 6
3 冷え対策 蒸しタオルやホットパッドなどを利用して 肩を温める 冷房の風が直接当たらないように 風向きを調節する 入浴して 体全体を温める 4リラックス 睡眠を十分にとる 疲れやストレスをためない工夫を 趣味やスポーツなどで 気分転換を心がける 5その他 眼鏡やコンタクトレンズの度数が合っているか チェックする 枕の高さを調節する 足に合った靴をはく かかとの高い靴は避ける 肩こり解消に役立つ体操の例 7
( エーザイ作成 肩こり体操 より ) 8
(6) こんなときは受診を OTC 薬を使用しても 症状が改善しない 肩こりがひどく 仕事や日常生活に支障を来す しびれや運動麻痺( 箸が使いにくい 文字が書きにくい ) 脱力感などを伴う めまいや耳鳴りなどを伴う こんな質問もしてみましょう 血圧が いつもより高い( あるいは低い ) ということはありませんか 高血圧 低血圧 イライラしたり ドキドキしたりすることはありませんか 更年期障害 自律神経失調症 夜は ぐっすり眠れますか うつ 食欲はありますか うつ 肩をもんだり お風呂に入ったりすると 頭痛がひどくなりませんか 片頭痛 9