410 章皮膚の良性腫瘍 H. 線維組織系腫瘍 fibrous tumors 1. 軟性線維腫 soft fibroma 類義語 : アクロコルドン (acrochordon), スキンタッグ (skin tag), 懸垂性線維腫 (fibroma pendulum) 症状頸部や腋窩, 鼠径などに好発する. 半球状 有茎の, 柔軟で常色 淡褐色調の腫瘍. 表面に皺が多い ( 図.52). 頸部や腋窩などに糸状の小腫瘍 ( 長さ 2 3 mm) が多発するものをアクロコルドンないしスキンタッグ, 体幹に単発するやや大きなもの ( 直径約 1 cm) を軟性線維腫, これがさらに巨大になり皮膚面から垂れ下がるようになったものを懸垂性線維腫と呼び, それぞれ区別している. 肥満者, 女性に好発し, 一種の加齢変化と考えられている. 病理所見膠原線維の増生が主体であり, 細胞成分に乏しい. 軟性線維腫や懸垂性線維腫では, 腫瘤の中に脂肪細胞を有する場合も多い. 治療 必要があれば茎を切除ないし凍結療法. 2. 皮膚線維腫 dermatofibroma 同義語 : 線維性組織球腫 (fibrous histiocytoma) 図.52 軟性線維腫 (soft fibroma) 線維芽細胞やマクロファージが真皮内で限局性に増殖した ちゅうし 良性の硬い腫瘍. 虫刺症などの外傷に反応して発生する場合 がある. 成人の四肢に好発し, 直径数 mm 2 cm 程度の褐色調の隆起性結節を形成する. 図.531 皮膚線維腫 (dermatofibroma) 症状 病因 皮膚の浅い部分にボタンを入れた感じ と表現される褐色調の皮内結節で, 四肢に好発する ( 図.53). 緩徐に発育し, 通常, ある大きさに達すると変化しない. まれに 5 cm 以上となる巨大型 ( 良性 ) が下腿に生じることもある. 単発性である
H. 線維組織系腫瘍 411 ことが多いが多発例も存在する. 圧痛を伴うことがある. 本症は微小な外傷に対して反応性に結合組織要素が増殖してできたと考えられ, 厳密な意味では腫瘍ではないとする考え方もある. 病理所見真皮から皮下にかけて, 膠原線維や線維芽細胞, 組織球が種々の割合で増殖 ( 図.54). 腫瘍細胞は血液凝固第 a 因子陽性,CD34 陰性であり, 隆起性皮膚線維肉腫 (22 章 p.438 参照 ) との鑑別点となる. また, 基底層ではメラニンの増加を認める. 組織球の増殖が主であるものを cellular type といい, やや赤みを帯び軟らかい. 線維芽細胞や膠原線維の増殖が主であるものを fibrous type といい, 膠原線維の間に線維芽細胞が散在する. 鑑別疾患硬くて黒色調が強いもの, 成長が比較的速いものは, 悪性黒色腫との鑑別を要する. そのほか, 隆起性皮膚線維肉腫, 結節性黄色腫, 母斑細胞母斑, 青色母斑など. 治療 外科的に切除する. 悪性腫瘍ではないことが明らかであれば 放置してもよい. 図.532 皮膚線維腫 (dermatofibroma) 3. 肥厚性瘢痕およびケロイド hypertrophic scar and keloid 結合組織の増殖による, 境界明瞭な紅色あるいは褐色の扁平隆起. 外傷や手術などに続発して発生するが, 突然発生する場合もある. とくにケロイドでは瘙痒感と側圧痛を伴う. 治療はステロイド局注や ODT などがあるが難治性. 分類線維芽細胞によるコラーゲン線維産生が過剰になり, 創面に一致して紅褐色の隆起性病変を生じる. 数年以内に自然萎縮するものを肥厚性瘢痕 (hypertrophic scar) という. 一方, 増殖が高度で, 創面を越えて大きく盛り上がり, 消退傾向を示さないものがケロイド (keloid) である. 最近は耳介に生じるピアスケロイド ( 図.55) が増加している. 図.54 皮膚線維腫の病理組織像
412 章皮膚の良性腫瘍 a b e c d 図.55 肥厚性瘢痕およびケロイド (hypertrophic scar and keloid) a c d e 症状外傷や手術などを契機に, 通常 1 か月以内に発症する. 耳介, 頸部, 肩, 体幹上部などはとくに生じやすい. 境界明瞭な扁平もしくは半球状隆起で, 色調は鮮紅色から褐色を呈する ( 図.55). ケロイドに特徴的な所見としては, 進行すると側方へ徐々に拡大, 中央部はしばしば退色扁平化し ( 餅を引き伸ばしたようにみえる ), 横から強くつまむと痛い ( これを側圧痛という ). これに対して肥厚性瘢痕では, 増生が創面を越えて成長することはなく, 側圧痛もない. 治療初期の病変に対しては, ステロイド外用薬 ODT, 持続的圧迫, ステロイド局注, トラニラスト内服が行われるが, 難治である. 病変が高度な場合や機能障害を伴う場合は, 外科的に切除した後に上記治療および放射線照射を試みる. 4. 手掌足底線維腫症 palmoplantar fibromatosis 図.56 手掌足底線維腫症 (palmoplantar fibromatosis) Dupuytren 手掌または足底の腱膜に硬い索状物が生じる, 手掌腱膜, 足底腱膜の増生による深在性の線維腫症. 手掌線維腫症 (D デュ u- p ピュイトラン uytren 拘縮 ) では手指が屈曲拘縮する ( 図.56). 糖尿病に合併することがある (17 章 p.312 参照 ).
H. 線維組織系腫瘍 413 5. 真珠様陰茎小丘疹 pearly penile papule 陰茎の冠状溝に 1 3 mm 大のドーム状で白色調の丘疹が列序性に多発する. いわゆる血管線維腫で, 生理的なものであるため病的意義はない. 尖圭コンジローム (23 章 p.472) との鑑別を要する. 6. 鼻部線維性丘疹 fibrous papule of the nose 図.57 鼻部線維性丘疹 (fibrous papule of the nose) 顔面や頸部に単発する, 正常皮膚色から褐色, 紅色で直径 10 mm 以下の硬めのドーム状丘疹 ( 図.57). 病理組織学的に血管線維腫を呈する. 7. 後天性指趾被角線維腫 acquired digital fibrokeratoma 正常皮膚色で弾性硬, 表面に過角化を伴い, ドーム状あるいは円筒状に突起した小結節 ( 図.58). 指趾に好発し, まれに手掌足底に生じる. 結節性硬化症 (20 章 p.372 参照 ) で爪囲に生じたものを Koenen ケネン腫瘍という. 病理組織学的には過角化, 膠原線維と線維芽細胞の増殖, および豊富な小血管を認める. 8. 弾性線維腫 elastofibroma 主に肩甲骨下部に左右両側性にドーム状ないし扁平な盤状の腫瘤を生じる. 膠原線維に加え, 弾性線維の増生を認める ( 図.59). 図.58 後天性指趾被角線維腫 (acquired digital fibrokeratoma) 9. 硬化性線維腫 sclerotic fibroma 直径 2 cm 大までのドーム状小結節を呈し, 病理組織学的には, 腫瘍内に硬化した膠原線維が, 花むしろ様に密に存在する. 細胞成分がほとんどなく, 真皮内で境界明瞭な腫瘍として認められる.Cowden 症候群 (p.389 MEMO 参照 ) で多発することがある. 図.59 弾性線維腫 (elastofibroma) 10. 結節性筋膜炎 nodular fasciitis 30 歳代の前腕に好発する. 外傷などが誘因となり,1 2 週間で急速に直径 2 3 cm の皮下結節を形成し, 圧痛や自発痛を伴うことが多い ( 図.60). 病理組織学的には, 筋膜付近で幼若な線維芽細胞様細胞が不規則 ( 束状, 渦巻き状 ) に増殖 血管線維腫 (angiofibroma)
414 章皮膚の良性腫瘍 しているさまを観察する. ムチンの沈着や核分裂像もみられ, いわゆる肉腫 ( 線維肉腫, 悪性線維性組織球腫, 平滑筋肉腫, 粘液型脂肪肉腫, 隆起性皮膚線維肉腫 ) との鑑別を要する. 本症は自然治癒傾向を示す. 11. 腱鞘巨細胞腫 giant cell tumor of tendon sheath 図.60 結節性筋膜炎 (nodular fasciitis) 手指の関節近傍に好発する. 直径数 mm 4 cm の, 硬い多房性の皮内ないし皮下結節. 正常皮膚色で単発性, 痛みはない. 組織球様細胞や巨細胞の増殖を特徴とする. 腱鞘あるいは滑膜由来の腫瘍と考えられている. 治療は外科的に全摘出する. 12. デスモイド腫瘍 desmoid tumor 肩, 胸壁, 大腿などの筋, 腱膜に好発する直径数 10 cm の正常皮膚色の硬い深在性の腫瘤. 病理組織学的に, 分化した線維芽細胞と膠原線維からなる良性の線維性腫瘍だが, ゆっくりと浸潤性に増大し, 再発率が高い. 13. 皮膚粘液腫 cutaneous myxoma a 数 cm 以下の軟らかい結節性の良性腫瘍. 自覚症状はない. 病理組織学的には粘膜様組織内に星芒状あるいは紡錘形をした腫瘍細胞が浮かぶように認められる. ムチン沈着症 (17 章 p.299 参照 ) とは異なる, 独立した疾患である. b 14. 指趾粘液囊腫 / ガングリオン digital mucous cyst / ganglion 指趾末節背面に生じた, ムチンを含んだ偽囊腫性病変 ( 図.61). 水疱あるいは疣贅のような外観を呈することがある. myxomatous type と ganglion type に大別され, 前者は線維芽細胞によるヒアルロン酸の過剰生産が原因で, 本質的に限局性のムチン沈着症である. 後者は関節囊あるいは腱鞘のヘルニアで c 図.61 指趾粘液囊腫, ガングリオン (digital mucous cyst / ganglion) a b c 乳児指趾線維腫症 (infantile digital fibromatosis)
I. 組織球系腫瘍 415 ある. 不十分な切除は再発を招く. 穿刺吸引, 凍結療法, ステロイド局所注射なども行われる. 15. 口腔粘膜粘液囊腫 mucous cyst of the oral mucosa 下口唇 ( まれに頬粘膜, 舌 ) に現れる, ドーム状隆起を示す直径 2 10 mm の軟性腫瘤 ( 図.62). 切開により黄色調で透明な粘液を排出する. 咬傷により唾液腺の排出管が破れ, 唾液が周囲組織に漏出し, 肉芽腫を生じたものと考えられる. 図.62 口腔粘膜粘液囊腫 (mucous cyst of the oral mucosa) I. 組織球系腫瘍 histiocytic tumors にく 1. 黄色肉 げ芽 腫 xanthogranuloma 同義語 : 若年性黄色肉芽腫 (juvenile xanthogranuloma) 黄色 暗赤色調で表面平滑な数 mm 1 cm 大の丘疹および結節で ( 図.63), 顔面部や四肢, 体幹に好発する. 多くは生下時 生後数か月以内に単発ないし多発し, 通常は 5 6 歳までに自然退縮する. 成人でも同様の皮疹を生じることがある. 血中脂質は正常.Langerhans ランゲルハンス細胞組織球症 (22 章 p.442 参照 ) で類似した皮疹をきたすことがあり, 鑑別を要する. 病理組織学的には, 組織球と黄色腫細胞,T ツートン outon 型巨細胞からなる反応性肉芽腫である ( 図.64). 神経線維腫症 1 型 (20 章 p.368) a b 図.64 黄色肉芽腫の病理組織像 a b Touton 図.63 黄色肉芽腫 (xanthogranuloma)