長崎 EV&ITS プロジェクトについて 長崎河川国道事務所調査第二課 森賢二長崎県立大学国際情報学部情報メディア学科教授 森田均他 1 名 1. はじめに長崎 EV&ITS プロジェクトは, 平成 21 年 10 月に国, 自治体, 関係団体及びメーカーなど, 産官学連携によるコンソーシアムを組織し 4 つのワーキンググループを設置した 現在 地域観光の活性化を目指して五島列島をフィールドに EV( 電気自動車 ) と ITS( 高度道路交通システム ) を融合させ, 来訪者や地域に資するサービスを展開している. このプロジェクトは, 電気自動車をレンタカーとして活用して環境に配慮しつつ, 双方向性を備えたカーナビによって観光情報を迅速かつ柔軟に収集することを可能として利用者の利便性を高めている. 加えて様々なデバイスに提供する仕組みを構築し, さらに災害時や緊急時にも対応できることを目指した, 新たな観光の形態である. EV, 充電設備,ITS スポットサービス, 観光情報プラットフォーム, スマートグリッドなどの実用化 汎用化を目指し, 技術的要件や制度等を検討しながら, その実配備に向けて活動が進められている. 2. 五島地域における整備状況平成 22 年度までに,EV を 117 台 (ITS 対応カーナビ装着車 ), 急速充電器を 8 箇所 15 基配備し,WG2(ITS 関連 ) WG3( 観光コンテンツ関連 ) や WS( ワークショップ ) を開催し, 地元の観光情報を上 下五島に各 10 のおすすめ観光ルートを設定し ITS 対応カーナビを通じて発信し, そのルートに ITS スポット及び急速充電器整備状況 沿った経路案内を開始した. また, 観光情報として, 教会や海水浴場などの名所などに近づくと, あらかじめ入力しておいた観光施設情報をドライブ中にナビへ割り込み, スポット情報として音と施設案内表示にて知らせるようにしている. 平成 22 年 7 月には 100 台の EV が五島市に集結し EV100 台パレード を行い ギネス記録に認定され, 長崎 EV&ITS ロゴマークを一般公募するなど本プロジェクトが実施地域を超えて広く認知されるよう PR に努めている 平成 23 年度は EV 及び ITS 対応カーナビを 21 台追加配備 ( 主にタクシー ),EV 急速充電器を 6 箇所 12 基 ITS スポットを 12 基 (IP 系 ),8 基 ( 非 IP 系 ) 配備し, 長崎 EV&ITS の車載ナビへ暫定画面情報 (IP 通信 ) のサービスを開始した. 長崎県産業労働部政策監 (EV&ITS 推進担当 ) 鈴木高宏 - 1 -
3. 未来型ドライブ観光システムの構築長崎 EV&ITS プロジェクトの重要なポイントとして, 必要と考えられるインフラ サービス 社会システムの構築を行うこととしており, ITS を運用する様々な情報を総合的に集められる仕組みとして 未来型ドライブ観光システム の構築を目指している. 未来型ドライブ観光システム を構築することにより, 観光情報データベースと多様なデバイス ( 携帯電話, スマートフォン, タブレット端末等 ) との統合を図るため, 総合観光情報プラットフォーム の整備していくこととしている. 観光情報プラットフォーム の整備おいては, 地域住民と先端技術とをつなぐ仕組みとすることが重要であり, 地域主体のプロジェクト推進に向けて地元 ( 新上五島町, 五島市 ) にて開催する WS( ワークショップ ) を活用し観光, イベント情報や地域住民のみが知っているレアな情報などを発信 普及 啓発していく仕組み, 地域観光活性化へ繋がって EV&ITS スマート社会の構築に寄与するものである. 未来型ドライブ観光システム は,EV 搭載の ITS スポット対応カーナビにより観光情報として 急速充電器は? おすすめ観光ルートは? 食事のおいしい店は? 絶景観光スポットは? ジェットフォイルの時間は? この先道路危険! など, 観光客の多彩な要求に応じるコンシェルジュの 役割となり五島地域の観光をサポートするシステム 未来型ドライブ観光用のナビ画面 ( 予定 ) 五島での WS 風景 である. また, 五島地域での観光を充実させるため, 出発前に自宅等にて情報収集及び旅行計画をマイプランとして登録する.( 事前に個人特定のため ID と PW の登録が必要.) 五島に到着後,EV をレンタルし ITS スポットよりマイプランをダウンロードして五島観光を満喫して頂くものであり, 通常画面のカーナビの地図ではなく,Google 等の地図にて案内ができれば, マイプラン作成時の PC 画面と同様の案内が可能となる. また, 初めての方や不慣れな方のためのサービスとしてレンタカーやカーナビの使い方を DVD 等により説明するチュートリアルができる仕組みとしたい. ドライブ中も ITS ナビのサービスとしてご当地の旅行を楽しめる充実した情報提供を行うためローカルスポットの情報提供 ( 到着地手前での音声案内 ) や音声案内によるルートプランを情報提供し, 観光中においてもタイムキーパーサービス ( 旅行行程のモニタリング支援 ), 公共交通機関の運行情報 ( 運行遅延等情報の提供 ), 立寄りコンシェルジュサービスや車を降りてからのさるくサービスなど, 旅行を満喫できるサービスへの期待が持たれており, 帰宅後もコンテンツや旅行先への評価などリピーター獲得のアクションも可能にしたシステムの構築を目指している. - 2 -
4.ITS スポットサービスの展開現在, 五島列島内に IP 接続対応の ITS スポットを 12 基整備しておりカーナビにデモコンテンツによる情報提供を開始しているところである. WS による ITS スポットサービスに関する地元の意見として, 機器への接続エリアが狭い, いろいろな場所で情報が見たい,ITS スポット6 箇所でしか情報が見られないなどがあり,ITS スポットや急速充電器の設置箇所の広報を兼ねる目的で EV が立ち寄る可能性の高い急速充電器の近傍に ITS スポットを設置し情報エリアを拡大し, 充電時間の有効利用を図りたい. また, 現在搭載されている ITS 対応カーナビではメモリ機能が少ないため,ITS スポットエリア外での閲覧が出来ないが,ITS スポットの下で閲覧 ( 収集 ) した情報の履歴をナビに記憶しておくことで再度情報が閲覧できる機能 ( キャッシュデータ機能の拡大 ) を実現可能な検討を行っているところである. 高速道路等にて情報提供されている非 IP 接続による危険箇所等のスポット情報があるが, その機能を活用し非 IP にて ITS 対応ナビにキャッシュ機能としてメモリされた観光情報や防災情報 ( 危険箇所 ) 等を GPS 機能とリンクさせ当該地点付近での画面表示による誘導や注意喚起など有効な活用の検討を行っているところである. 5. 長崎河川国道事務所の役割長崎河川国道事務所は, 長崎 EV&ITS コンソーシアムの事務局として, 県と一体となって本プロジェクトを推進している. 長崎 EV&ITS コンソーシアムに設置された 4 つのワーキンググループ (WG) のうち,WG2(ITS インフラ関連 ) では 最近の ITS スポット等の動向 ( 柏, 青森, 奈良及び高速道路 ) について,IP での接続状況や非 IP での表示方法, また,ITS WG2 及び WG3 会議の様子 スポットの設置位置や一般道への展開など事例等の収集を行っているところである 今後は, ITS スポットを信号機や照明灯等に設置してはどうか, など五島で開催した住民参加によるワークショップ (WS) で収集した意見等を踏まえて, 設置の方法や一般道への展開について模索して行く予定である. WG3( コンテンツ関連 ) では, 五島地域の観光情報等を中心に, 地域ならではの情報を収集している. 魅力ある観光コンテンツを集約 共有するため,WS を開催して地域住民や地元事業者からなるメンバーからより良いアイデアが出されるように助言等行っている. また, カーナビにて情報共有が期待される 統合観光情報プラットフォーム の構築に向け, 観光ルート ( おすすめルートや個別選択 ) やイベント情報等の出し方や見せ方を WG3 やWS のなかで検討について助言等を行っているところである 今後は, 検討中の 観光情報プラットフォーム の接続 - 3 -
の可能性や検証を行って行くと共に, 長崎県に提供できるコンテンツ及び共有できるコンテンツ等の検討を行う予定である. さらに, 後述する長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会との協働にあたって, 国道と電停の連携や通り名を使った観光案内などを展開するため, 関係機関等との協議を進めているところである 6. 今後の課題等について平成 24 年度中に整備される予定の 長崎県観光情報プラットフォーム では, 幅広い利用者層に活用して頂くために, 様々なデバイスへ向けて情報発信していくことが求められている. IP 通信はもとより非 IP のコンテンツの本格運用化を目指してシステムの構築や体制及び運用等の基準化を図る必要用がある. また, 運用開始後, 情報を利用する観光客と情報を提供する側の地元の両面から情報提供等を評価し, 課題を抽出しサービス向上を図る必要がある. 評価の視点として, 観光客からは観光の質向上, 地元からは情報の更新や運用面 地域の経済性などが上げられ, 情報提供等の評価を行ううえで課題も見えてきた. インフラ整備関連における課題として, 一般道 ( 駐車場等を除く ) に ITS スポットを設置する際の課題, 観光情報サービス向上のための課題や非 IP コンテンツの本格運用体制の構築,IP, 非 IP の特性 ( 情報提供方法 タイミング ) を考慮した提供情報の検討及び地元協議会による自立した運営体制の構築など本格運用までに各課題の対応策が残っているが ITS スポットの道路路側帯等 ( 駐車場等以外 ) の設置は関係機関との協議が行われておらず 設置は厳しいと思われる. また 駐車場等にて設置する場合, 出入口の数, 駐車場形状等により, 非 IP 系の ITS スポットをどの位置に設置し, 誘導方法についても検討する必要が生じダウンリンクできる車両が限られないような工夫が必要である. 提供するコンテンツの生成に際しプラットフォームに格納される情報量も大きいため, 非 IP 用に表示画面を作成する必要があり,25kb の許容範囲内 ( 画像 5kb テキスト 30 文字以内, 音声テキストは 50 文字以内 ) の中で情報提供する内容を今後精査する必要がある. さらに,EV に搭載している ITS 対応カーナビにおいて,ITS-moDrive による観光ルート設定を行っていたが, 自治体等への配信が困難であり季節毎の情報を配信するためにはテレマティクス ( 携帯電話等 ) により1 台毎に情報更新が必要であった また, 利用者が行う操作数が多く, 通常のナビより使い易さに課題があった. ITS スポットから IP 接続によりカーナビ画面を変更し,Myplan やおすすめコースなど操作性を高め, 通常のナビでは, 目的地までの道路状況を踏まえルート検索を行うため経由地は設定できるが, 複数地点を束ねた情報を受信しナビにて行きたいルートの指定や施設等の予約, 訪問先での決済サー - 4 -
ビスなど地域情報等の充実など図って行くこととしている. また, 非 IP により受信したスポット情報を, 該当箇所付近にてポップアップすることで観光地点情報や防災情報 ( 道路危険箇所も含む ) の画像及び音声案内を可能とし, 地域観光の活性化や地域の魅力向上ともに, 電気自動車と暮らすまち 五島の観光支援 地域活性化支援型の地域 ITS モデルとして しまから世 界へ発信する次世代 EV 社会モデル の今後も検討していく. LRT 事業におけるサービス全体の流れ 7. 長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会同協議会は, 平成 23 年に長崎県立大学, 長崎電気軌道株式会社, 扇精光株式会社, 長崎市交通企画課, 長崎県 EV プロジェクト推進室, 長崎河川国道事務所を構成員として結成された. 長崎電気軌道が運行する低床車の位置情報を利用者に提供して利便性を高めると共に, 支援を必要とする利用者の乗車意志等の情報を双方向で運転手に伝達することにより, 情報通信を利用したバリアフリー化を促進している. また, 電停周辺のバリア情報, バリアフリー情報, 観光関連情報を提供することにより, 乗降時の歩行者移動支援を目指している. 長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会のサービスは先端的な技術ではなく, 既存のノウハウや基盤を接合させ実施している. また, 路面電車の位置情報を利用者が把握できるだけでなく, 利用者の位置情報を車両に対する 乗りたい意思表示 として役立てることができる. これによって, 運転者は乗降に支援が必要な利用者の存在を電車到着前に確認し, 運転者用のタブレット端末の挙動によって乗客にも車内の車椅子搭載位置を空けるなどの配慮を促すことが可能となる. このように, 支援を必要とする歩行者等にも運転者や乗客にも あなたがいてよかった という優しさを涵養する交通手段であることを最重要の運用方針としているものである. 8. サービスの具体的な内容長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会のサービスは, ドコネ という名称により以下のような概要で昨年度より運用されている. サービスの対象者: 障がい者, 高齢者等の路面電車への乗降に支援を必要とする方, ベビーカーでの母子等及び旅行者等の土地に不慣れな方 1 低床車は搭載したタブレット端末から GPS によって位置情報を取得しサーバへ送信. LRT への車載タブレット設置状況 2サーバは, 位置情報を携帯電話やパソコン等で閲覧可能な情報に変換して利用者に配信. 3 利用者は, 携帯電話等の端末を用いて低床車の運転状況 ( 走行位置 ) を確認. さらに, 同 - 5 -
じシステム上で乗車意思を登録可能. 4 支援を必要とする方の乗車意思を運転手側の車載タブレット端末へ伝達. 運転手は支援を必要とする方への配慮を乗客に要請. 5また, 停留所付近のバリア情報, 観光情報等についても携帯端末等に提供し, 最も混乱しがちな乗降時の行動を円滑に行える支援サービスを提供. 歩行者の位置 : 携帯端末内蔵の GPS, または場所情報コードを埋め込んだ ucodeqr の読み取りにより特定. 場所情報コードの活用方法: 各電停を示す場所情報コードを取得. ucodeqr 化したラベルを設置し, 歩行者が位置する電停の確定に活用. 歩行者空間ネットワークデータの活用方法: 停留所付近のバリア情報, 観光情報等をデータベース化. 電停から観光施設までの経路情報を提供. 利用する携帯情報端末: 低床車の位置配信と運転手への情報伝達に Android タブレット端末, サービス利用者は携帯電話及びスマートフォンを利用. 今後も路面電車とバスの交通結節点における乗り換え案内の検討や路面電車を利用した観光情報の充実, 連携するスポンサーとの協働により地域活性化を目指すこととしている. また, 長崎市内中心部の まちなか軸 ( 旧名称 龍馬の道新, 大工から大浦まで ) を GPS 化し LRT ナビへ取り込み, 電停と街中のスポットとの位置情報を連携させることによって路面電車による移動と街歩きとの連携を実現させて, さらに市内観光が充実する可能性がある. また, ライブカメラ等を取り付け, 長崎の 精霊流し 港まつり 長崎ランタン など, ライブ中継等も考えておりサービスを拡充させる検討を行っている. 低床車運行状況の表示画面 ( 携帯等 ) 10. 結び 長崎 EV&ITS コンソーシアム と 長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会 について紹介してきたが, どちらも今後全国に広がっていく運用をめざしている事業であり, 大いに期待さている事業である. 九州の身近なところで行われている, 二つの事業について実際に体験してもらいたいと思うところである. 長崎市 LRT ナビゲーション推進協議会のシステムは長崎市内を走る路面電車の低床車両にて行っているサービスであり, 歩行, バス及び電車に応用できるシステムであり, 今後は全車両への展開とバスとの結節を視野に入れ検討を重ねていきたい. - 6 -