3章 皮膚病理組織学 皮膚病理の基本用語 病理組織標本を顕微鏡で観察するときには 正常皮膚の組織所見を念頭に置きなが ら 表皮 真皮 皮下脂肪組織の順に組織的変化を観察する 正確な診断を下すためには 皮膚病理学で使用される用語とそれに対応する組織像 を理解しておくこと必要がある 1 表皮の変化 a 角質肥厚 過角化 角質増殖 hyperkeratosis 図 1 先天的ないし反応性要因により角層の剥脱機構に異常が 生じ 角質層の異常堆積が起こった状態である 角質増生は正角化 orthokeratosis と錯角化 parakeratosis に大別される 下記参照 正 角 化 の 角 層 は 網 目 状 な な こ 織 り 模 様 basket weave 緊密 compact 層状 laminated などの所見を示 図 1 角質肥厚 尋常性疣贅 角層が厚く緊密 な状態で 核は残存していない 正角化 矢印 す b 不全角化 錯角化 parakeratosis 図 2 細胞の増殖速度が亢進し 顆粒層における核の分解が不 完全となったため 角層に濃染した核が残存している状 態である 図 2 不全角化 尋常性乾癬 角層に角化細胞 の核が残存している 点線 c 異常角化 dyskeratosis 個細胞角化 individual cell keratinization 図 3 角層に到達する前に 一部の表皮細胞が角化した状態で ある 異常角化細胞では 細胞間橋が消失するため周囲の細胞 から分離し 細胞は円形を呈する 図 3 異常角化 Bowen 病 表皮内に孤立性 の好酸性小体 点線 として見出される 22 3章 皮膚病理組織学 核は萎縮し 細胞質は好酸性に染まる
d 表皮肥厚 acanthosis 図 4 表皮細胞が増殖し 有棘層が厚くなった状態である 表皮突起は肥厚 延長する e 乳頭腫症 papillomatosis 図 5 図 4 表皮肥厚 尋常性乾癬 表皮突起 が 規則的に下方へ延長している 真皮乳頭が上方に延長し 周囲の正常皮面より上方へ位 置すため 皮表が不規則に波打つ状態である 乳頭腫症に角質増殖の加わった状態を乳頭腫 papilloma という 図 5 乳頭腫症 黒色表皮腫 真皮乳頭が上方 に延長し 隣接する表皮突起部の角層よりも上 に位置している 表皮真皮境界部を点線で示す f 偽上皮腫性増殖 pseudoepitheliomatous hyperplasia 図 6 真皮の炎症 肉芽腫 腫瘍に対応して これを被覆する 表皮および付属器上皮が高度に肥厚 延長し 一見有棘 細胞癌に類似する増殖を示す状態である 図 6 偽上皮腫性増殖 炎症をきたした真皮を 被覆する表皮が 高度に肥厚 延長し 一見癌 のような増殖を示している 表皮真皮境界部を 点線で示す g 表皮萎縮 epidermal atrophy 図 7 表皮が菲薄化 萎縮した状態である 表皮突起は短縮 あるいは消失する 図 7 表皮萎縮 老人皮膚 表皮 が菲薄化 し 表皮突起は消失している 皮膚病理の基本用語 23
接触皮膚炎 contact dermatitis 原因物質の皮膚への侵入による湿疹反応である 原因物質の直接作用による一次刺激性接触皮膚炎と Ⅳ型アレルギー反応が関与す るアレルギー性接触皮膚炎に分類される 原因物質が接触した部位に一致して 湿疹性病変が生じる 疾患概念 病態 外来性抗原が皮膚に侵入することにより生じる湿疹反応 を病態の主座とする炎症性疾患である 外来物質の直接障害による一次刺激性接触皮膚炎とⅣ型 アレルギー反応によるアレルギー性接触皮膚炎に分類さ れる 1 一次刺激性接触皮膚炎 図 4 接触皮膚炎 貼付薬による の臨床像 貼 付薬の形に一致して紅斑が生じ 大小の水疱を 伴っている 表皮内に侵入した原因物質が 角化細胞を直接障害する 2 アレルギー性接触皮膚炎 抗原の再侵入により活性化された抗原特異的感作 T 細 胞が 炎症メディエーターを分泌して湿疹反応を誘導す る 臨床所見 図 4 5 原因物質の接触した部位に一致して 境界明瞭な浮腫性 紅斑が生じ 次いで漿液性丘疹や小水疱が集簇性に多発 する 図 5 接触皮膚炎 指輪による の臨床像 指輪 をはめた部分に一致して紅斑が生じている 点 線 瘙痒が強く 灼熱感を伴う 自家感作性皮膚炎に移行することがある 病理所見 図 6 表皮ケラチノサイトの細胞間が開大し 海綿状態 spon- 進行すると海綿状小水疱 spongiotic vesicle を形成する 表皮内にリンパ球を主とする細胞が浸潤する 表皮内細 giosis となる 胞浸潤 exocytosis 真皮上層では血管周囲性にリンパ球を主とする炎症細胞 が浸潤する 検査所見 図 6 接触皮膚炎の病理組織像 表皮は海綿状 態 点線 を示し 表皮内にリンパ球が浸潤して いる 矢印 56 6章 湿疹 皮膚炎 貼布試験 パッチテスト により 感度と特異度が 70 80 で原因物質が特定される
鑑別診断 1 脂漏性皮膚炎 61 頁参照 脂漏部位に病変が生じる 2 アトピー性皮膚炎 58 頁参照 アトピー素因を有する 特定の抗原との接触歴がない 治 療 ステロイド外用薬の塗布が第一選択である 瘙痒が強い場合は 抗ヒスタミン薬の内服を併用する 炎症が広範囲に及ぶ場合には ステロイドの内服が必要 な場合がある 転帰 予後 図 7 主婦 手湿疹の臨床像 手指から手掌の 皮 膚 が 乾 燥 し て 粗 糙 と な り 粃 糠 様 の 鱗 屑 を 伴っている 原因物質が特定されない場合は 慢性に経過する 関連事項 1 主婦 手湿疹 housewife hand eczema 図 7 家事などで水仕事 手洗いを頻繁に行う者に好発する 手に限局した接触皮膚炎である 手指から手掌の表面は 乾燥して粗糙となり 軽度に発赤して光沢を放つ 粃糠様 から葉状の鱗屑 亀裂や掌紋に一致した白色線条などを伴 う 指紋や爪上皮が消失する 2 異汗性湿疹 dyshidrotic eczema 図 8 多汗を背景とし 接触過敏を病態の主座とする湿疹反応 である 掌蹠から指趾 およびその側縁にかけて 帽針頭 大から豌豆大の小水疱が孤立性に散発し ところにより群 生する 水疱は固く緊満して 破開することはまれであ る 通常 2 3 週間ほどで水疱内容が吸収され 疱膜は巾 着型となる 鱗屑縁を伴う境界明瞭な類円形紅斑を経て やがて健常皮膚に復する 夏季に急発することが多く 季 節的消長をみる 3 汗疱 pompholyx 異汗症 dyshidrosis 図 8 異汗性湿疹の臨床像 小指球と母指球に 帽針頭大の小水疱が集簇性に多発している 異汗性湿疹 上述 と同一の病態であり 軽症病変と考え られている 4 おむつ皮膚炎 diaper dermatitis 図 9 乳幼児や寝たきりの高齢者に好発する おむつの当たる 部分に限局した接触皮膚炎である 皮膚が密着し陥凹した 部位では 炎症反応が軽微である 図 9 おむつ皮膚炎の臨床像 陰股部にびらん 矢印 を伴う紅斑 点線 が生じている 接触皮膚炎 57
レーザー療法 レーザー治療とは 光エネルギーが組織に吸収され 熱エネルギーに変換されるこ とで治療効果を表す ルビーレーザー アレキサンドライトレーザー 色素レーザー 炭酸ガスレーザー などがある 1 レーザー laser light amplification by stimulated emission of radiation の頭文字からなる造語である 光エネルギーが組織に吸収されるときに熱エネルギーに 変換され生じた熱が拡散することで 細胞や組織を破壊 する a 可視光線が特定の色素を持つ細胞や組織に選択的に吸収 され その色素を持つ部分のみが破壊されるものと 熱 エネルギーによって非選択的に組織を破壊するものとが ある a Q スイッチルビーレーザー Q スイッチアレキサン ドライトレーザー b メラニンに吸収された光エネルギーが周囲に拡散し 色 素細胞を障害する 太田母斑 扁平母斑 異所性蒙古斑 外傷性色素沈着な どに適応となる b 色素レーザー ヘモグロビンに吸収された光エネルギーが周囲に拡散 し 毛細血管を障害する c 単純性血管腫 いちご状血管腫などに適応となる 皮膚への深達度には限界があるため 海綿状血管腫など の深部の病変には効果がない c 炭酸ガスレーザー 図 10 レーザー光の熱作用により 非選択的に組織を蒸散させ る 図 10 炭酸ガスレーザー照射の実際 前額部の 日光角化症 a に 炭酸ガスレーザーを照射した b 照射中 c 照射後 50 5章 治療 血管拡張性肉芽腫 汗管腫 脂漏性角化症 尋常性疣 贅 日光角化症 ボーエン病などに適応となる