★HP版調整事件解説集h28[019]

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★HP版調整事件解説集h28[023]

定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

★HP版調整事件解説集h28[022]

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9-1 退職のルール 職することは契約違反となります したがって 労働者は勝手に退職することはできません 就業規則に 契約期間途中であっても退職できる定めがある場合には それに従って退職できることになりますが 特段の定めがない場合には なるべく合意解約ができるように 十分話し合うことが大切です ただ

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平均賃金を支払わなければならない この予告日数は平均賃金を支払った日数分短縮される ( 労基法 20 条 ) 3 試用期間中の労働者であっても 14 日を超えて雇用された場合は 上記 2の予告の手続きが必要である ( 労基法 21 条 ) 4 例外として 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の

★HP版調整事件解説集h28[043]


PowerPoint プレゼンテーション

 

被告は 高年法 9 条 2 項に規定する協定をするため努力したにもかかわらず協議が調わ なかったものと認めることはできず 本件就業規則 29 条が高年法附則 5 条 1 項の要件を具 備していないというべきである 本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則 29 条は 手続要件を欠き無効であり 原

★HP版調整事件解説集h28[021]

★HP版調整事件解説集h28[042]

★HP版調整事件解説集㉑

( 内部規程 ) 第 5 条当社は 番号法 個人情報保護法 これらの法律に関する政省令及びこれらの法令に関して所管官庁が策定するガイドライン等を遵守し 特定個人情報等を適正に取り扱うため この規程を定める 2 当社は 特定個人情報等の取扱いにかかる事務フロー及び各種安全管理措置等を明確にするため 特

Microsoft PowerPoint - 2の(別紙2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保【佐賀局版】

第 2 条ガイアは 関係法令等及びこれに基づく告示 命令によるほか業務要領に従い 公正 中立の立場で厳正かつ適正に 適合審査業務を行わなければならない 2 ガイアは 引受承諾書に定められた期日までに住宅性能証明書又は増改築等工事証明書 ( 以下 証明書等 という ) を交付し 又は証明書等を交付でき

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カツデンアーキテック株式会社退職金規程 退職金規程 ( 目的 ) 第 1 条この規程は 就業規則第 47 条に基づき 社員の退職金に関して 定めたものである 但し パートタイマー アルバイトおよび 契約社員 嘱託社員その他臨時に採用された者については適用しない ( 摘用 ) 第 2 条社員が勤務年数

2 就業規則について 労働条件は個別に労働者に説明しているため 就業規則は作成していない 常時雇用している労働者が 10 人未満の場合は除く 就業規則について 使用者が一方的に作成しており 労働者からの意見は聴いていない 就業規則を作っているものの 担当者が管理しており 労働者が自由に見られるように

第17回顧問先セミナーレジュメ(簡易版)

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休業補償( 法 76 条 ) 使用者は 労働者が業務上負傷し 又は疾病にかかった場合には 療養補償として必要な療養を行い または療養の費用を負担し ( 法 75 条 ) その療養のために 労働することができないために賃金を受けない労働者に対しては 療養中平均賃金の 100 分の 60 の休業補償を行

契約の終了 更新18 無期労働契約では 解雇は 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない場合 は 権利濫用として無効である と定められています ( 労働契約法 16 条 ) 解雇権濫用法理 と呼ばれるものです (2) 解雇手続解雇をする場合には 少なくとも30 日前に解雇の予告

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

保健福祉局地域福祉課

労働基準広報 2010/01/01・11号

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Microsoft Word 年9月判例3.doc

PPTVIEW

注意すべきポイント 1 内定承諾書は 内定者の内定承諾の意思を明らかにさせるものです 2 2 以降の注意すべきポイントについては マイ法務プレミアムで解説しています

保健福祉局地域福祉課

筑紫野市学童保育連絡協議会学童クラブ指導員就業規則

調査等 何らかの形でその者が雇用期間の更新を希望する旨を確認することに代えることができる ( 雇用期間の末日 ) 第 6 条第 4 条及び第 5 条の雇用期間の末日は 再雇用された者が満 65 歳に達する日以後における最初の3 月 31 日以前でなければならない 2 削除 3 削除 ( 人事異動通知

労働法令のポイント に賞与が分割して支払われた場合は 分割した分をまとめて 1 回としてカウントし また 臨時的に当該年に限り 4 回以上支払われたことが明らかな賞与については 支払い回数にカウントしない ( 賞与 として取り扱われ に該当しない ) ものとされている 本来 賞与 として取り扱われる

Microsoft Word - ○指針改正版(101111).doc

今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

Microsoft Word - syukkou

債務のうち所定の範囲内のものを当該事業主に代わって政府が弁済する旨規定する (2) 賃確法 7 条における上記 政令で定める事由 ( 立替払の事由 ) として 賃金の支払の確保等に関する法律施行令 ( 昭和 51 年政令第 169 号 以下 賃確令 という )2 条 1 項 4 号及び賃金の支払の確


択 一 式 問 題

五有価証券 ( 証券取引法第二条第一項に規定する有価証券又は同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利をいう ) を取得させる行為 ( 代理又は媒介に該当するもの並びに同条第十七項に規定する有価証券先物取引 ( 第十号において 有価証券先物取引 という ) 及び同条第二十一項に規定する有価証券先

(2) 総合的な窓口の設置 1 各行政機関は 当該行政機関における職員等からの通報を受け付ける窓口 ( 以下 通報窓口 という ) を 全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等に設置する この場合 各行政機関は 当該行政機関内部の通報窓口に加えて 外部に弁護士等を配置した窓口を

とを条件とし かつ本事業譲渡の対価全額の支払と引き換えに 譲渡人の費用負担の下に 譲渡資産を譲受人に引き渡すものとする 2. 前項に基づく譲渡資産の引渡により 当該引渡の時点で 譲渡資産に係る譲渡人の全ての権利 権限 及び地位が譲受人に譲渡され 移転するものとする 第 5 条 ( 譲渡人の善管注意義

業務委託基本契約書

- 2 - り 又は知り得る状態であったと認められる場合には この限りでない 2~7 略 (保険料を控除した事実に係る判断)第一条の二前条第一項に規定する機関は 厚生年金保険制度及び国民年金制度により生活の安定が図られる国民の立場に立って同項に規定する事実がある者が不利益を被ることがないようにする観

(3) 始業 終業時刻が労働者に委ねられることの明確化裁量労働制において 使用者が具体的な指示をしない時間配分の決定に始業及び終業の時刻の決定が含まれることを明確化する (4) 専門業務型裁量労働制の対象労働者への事前通知の法定化専門業務型裁量労働制の導入に当たり 事前に 対象労働者に対して 1 専

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基準該当短期入所小規模多機能センターさくらテラス 利用契約書 ( 以下 利用者 という ) と社会福祉法人慈徳会 ( 以下 事業者 という ) は 基準該当短期入所小規模多機能センターさくらテラス ( 以下 当施設 という ) が利用者に対して提供する基準該当短期入所サービスについて 次のとおり契約

規定例 ( 育児 介護休業制度 ) 株式会社 と 労働組合は 育児 介護休業制度に関し 次 のとおり協定する ( 対象者 ) 育児休業の対象者は 生後満 歳に達しない子を養育するすべての従業員とする 2 介護休業の対象者は 介護を必要とする家族を持つすべての従業員とする 介護の対象となる家族の範囲は

指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

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平成 30 年度新潟県自殺対策強化月間テレビ自殺予防 CM 放送業務委託契約書 ( 案 ) 新潟県 ( 以下 甲 という ) と ( 以下 乙 という ) とは 平成 30 年度新潟県自殺対 策強化月間テレビ自殺予防 CM 放送業務について 次の条項により委託契約を締結する ( 目的 ) 第 1 条

改正労働基準法

きっかわ法律事務所 企業法務研究会(平成22年2月15日)資料            

5. 退職一時金に係る就業規則のとりまとめ 退職一時金に係る就業規則の提供があった企業について 退職一時金制度の状況をとりまとめた なお 提供された就業規則を分析し 単純に集計したものであり 母集団に復元するなどの統計的な処理は行っていない 退職一時金の支給要件における勤続年数 退職一時金を支給する

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第 5 条 ( 配置転換 出向 ) 1 甲は 業務上の必要がある場合 乙に対し 配置転換を命じることがある 2 甲は 業務上の必要がある場合 乙に対し 他社に出向を命じることがある 乙は 正当な理由がない限り これを拒否することができない 3 前項の場合 その出向の期間は3 年以内とする 第 6 条

違反する 労働契約法 20 条 長澤運輸事件最高裁 ( 平成 30 年 6 月 1 日判決 ) 速報 2346 号定年後再雇用の嘱託者につき精勤手当 超勤手当を除く賃金項目は労働契約法 20 条に違反しないとされた例 定年後 1 年契約の嘱託社員として再雇用されたトラック乗務員の一審原告らが 定年前

<はじめに> 退職後, 民間企業等に再就職した者による現職職員への働きかけ規制などにより, 職員の退職管理を適正に行い, 職務の公正な執行及び公務員に対する住民の信頼を確保するため, 地方公務員法が改正され, 平成 28 年 4 月 1 日に施行されました 本市では, 改正法の施行に伴い, 旭川市職

KUSA1 基本契約書

中央教育審議会(第119回)配付資料

等により明示するように努めるものとする ( 就業規則の作成の手続 ) 第 7 条事業主は 短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し 又は変更しようとするときは 当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする ( 短時間労働者の待遇の原

に含まれるノウハウ コンセプト アイディアその他の知的財産権は すべて乙に帰属するに同意する 2 乙は 本契約第 5 条の秘密保持契約および第 6 条の競業避止義務に違反しない限度で 本件成果物 自他およびこれに含まれるノウハウ コンセプトまたはアイディア等を 甲以外の第三者に対する本件業務と同一ま

厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付の支払の遅延に係る加算金の支給に関する法律

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平成 31 年 4 月 1 日から平成 34 年 3 月 31 日まで 63 歳平成 34 年 4 月 1 日から平成 37 年 3 月 31 日まで 64 歳 4 定年について 労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはなりません ( 均等法第 6 条 ) ( 退職 ) 第 48 条前条に定める

PowerPoint プレゼンテーション

1. 表紙

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会員に対する処分等に係る手続に関する規則 (2018 年 7 月 30 日制定 ) 第 1 章総則 ( 目的 ) 第 1 条本規則は 定款第 15 条に規定する会員に対する処分及び不服の申立てに係る手続の施行に関し 必要な事項を定めることを目的とする ( 定義 ) 第 2 条本規則において 次の各号

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労働相談とはなにか

* 1.請求の要旨

報酬改定(処遇改善加算・処遇改善特別加算)

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達したときに消滅する旨を定めている ( 附則 10 条 ) (3) ア法 43 条 1 項は, 老齢厚生年金の額は, 被保険者であった全期間の平均標準報酬額の所定の割合に相当する額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とする旨を定めているところ, 男子であって昭和 16 年 4 月 2 日から同

(2) 特定機関からの報告の受理及び聴取に関すること (3) 特定機関に対する監査に関すること (4) 外国人家事支援人材の保護に関すること (5) 特定機関において外国人家事支援人材の雇用の継続が不可能となった場合の措置に関すること (6) その他 本事業の適正かつ確実な実施のために必要なこと 3

民法 ( 債権関係 ) の改正における経過措置に関して 現段階で検討中の基本的な方針 及び経過措置案の骨子は 概ね以下のとおりである ( 定型約款に関するものを除く ) 第 1 民法総則 ( 時効を除く ) の規定の改正に関する経過措置 民法総則 ( 時効を除く ) における改正後の規定 ( 部会資

Taro-議案第13号 行政手続条例の

ら退去を迫られやむを得ず転居したのであるから本件転居費用について保護費が支給されるべきであると主張して 本件処分の取消しを求めている 2 処分庁の主張 (1) 生活保護問答集について ( 平成 21 年 3 月 31 日厚生労働省社会援護局保護課長事務連絡 以下 問答集 という ) の問 13の2の

_第16回公益通報者保護専門調査会_資料2

必要とする家族 1 人につき のべ 93 日間までの範囲内で 3 回を上限として介護休業をすることができる ただし 有期契約従業員にあっては 申出時点において 次のいずれにも該当する者に限り 介護休業をすることができる 一入社 1 年以上であること二介護休業開始予定日から 93 日を経過する日から

が成立するが 本件処分日は平成 29 年 3 月 3 日であるから 平成 24 年 3 月 3 日以降 審査請求人に支給した保護費について返還を求めることは可能であ る 第 3 審理員意見書の要旨 1 結論本件審査請求には理由がないので 棄却されるべきである 2 理由 (1) 本件処分に係る生活保護

険者以外の者に限ります ( 注 2 ) 自損事故条項 無保険車傷害条項または搭乗者傷害条項における被保険者に限ります ( 注 3 ) 無保険車傷害条項においては 被保険者の父母 配偶者または子に生じた損害を含みます ( 3 )( 1 ) または ( 2 ) の規定による解除が損害または傷害の発生した

社会福祉法人○○会 個人情報保護規程

外部通報処理要領(ホームページ登載分)

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本件合併時にA 信用組合に在職する職員に係る労働契約上の地位は, 被上告人が承継すること,3 上記の職員に係る退職金は, 本件合併の際には支給せず, 合併後に退職する際に, 合併の前後の勤続年数を通算して被上告人の退職給与規程により支給することなどが合意された また, 本件合併の準備を進めるため,

I 事案の概要 本件は 東証一部上場企業の物流大手である株式会社ハマキョウレックス ( 以下 被告 被控訴人 又は 上告人 といいます ) との間で有期雇用契約 1 を締結している契約社員 ( 以下 原告 控訴人 又は 被上告人 といいます ) が 以下に掲げる正社員と契約社員との間の労働条件 (

個人情報保護規定

売買, 消費貸借, 定型約款などの契約に関するルールの見直し 2020 年 4 月 1 日から 売買, 消費貸借, 定型約款などの契約に関する民法のルールが変わります 2017 年 5 月に成立した 民法の一部を改正する法律 が 2020 年 4 月 1 日から施行されます この改正では, 契約に関

Transcription:

( 個別 ) [19] 退職後の競業行為を理由とする退職金の不支給 Point (1) 労働者には 労働契約の存続中 使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務 ( 競業避止義務 ) があるが 労働契約の終了後については 労働者には職業選択の自由があるので 労働契約存続中のように一般的に競業避止義務を認めることはできず 当該措置の法的根拠と合理性を各問題ごとに吟味することとなる (2) 退職金については 支払い条件が明確であれば 労基法 11 条の労働の対償としての賃金に該当することとなり 退職金の不支給は労基法 24 条の賃金の全額払の原則に抵触する可能性がある しかし 裁判例をみると 退職後に競業行為を行った場合に退職金を不支給 減額とすることが適法とされるためには まず その旨が就業規則や退職金規程等に明確に規定されていることが必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消 ( 不支給の場合 ) ないし減殺 ( 減額の場合 ) してしまうほどの著しい背信行為や信義則違反があった場合に限り許され また 不支給 減額条項の必要性や範囲 ( 業務 期間 地域 ) 退職労働者の在職中の地位や代償措置 退職労働者の退職に至る経緯 退職の目的 退職労働者が競業関係に立つ業務に従事したことによって会社の被った損害などの諸事情を総合考慮すべきとされている すなわち 退職後に競業行為を行った場合の退職金の不支給 減額については 全額払の原則は適用されず 背信行為等の発生を解除条件とする退職金請求権の問題として捉えられている (3) また 退職後に競業行為を行うことを目的として 在職中にその準備活動等を行うことがあるが これを理由として退職金を不支給 減額とするためには 競業避止義務違反の場合と同様 まず 準備活動等が就業規則に抵触して懲戒解雇相当とされ その場合に退職金を不支給 減額とすることが就業規則や退職金規程等に明確に規定されていることが必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為や信義則違反があった場合に限り許されるとされている 1

事件の概要 1 申請者 : 1 労 2 使 3 双方 4 その他 2 調整申請に至るまでの経過 Xは 約 15 年前 Y 社に正社員として雇用され 平成 年 7 月 店長兼役員に就任した しかし 1 年の任期中に次期役員から外れるよう告げられ 役員会でこのことが決定された その後 合意退職をすることになり 顧客に対して同業種の転職先を案内した 最後の出勤日に退職金が不支給である旨を知らされ 社長に確認したところ 同業種の転職先の案内を行ったことを理由としてあげられた Xは 退職金の支払いを求めるとともに 一連の対応は社長の嫌がらせであるとして これに対する慰謝料の支払いを求めて あっせん申請した 3 主な争点と労使の主張争点退職後の競業行為を理由とする退職金の不支給労働側主張使用者側主張 就業規則等の根拠は不明であるが 会社 退職金は就業規則で整理されておらず 一定ではこれまで勤続年数に応じた退職金がの算定基準に基づき支払っていたが 必ず支給支給されている するものではなかった 転職先の案内は 社内の引継ぎと併せて Xの行った同業種の転職先の案内は方法も悪行ったもので 同様の行為を行った社員に質で 本来であれば解雇に値するため 退職金対して退職金が支払われた事例がある 不支給を決定した Xが示した事例とでは 経緯や会社への貢献度が異なっている 退職金の不支給のことは 最後の出勤日 退職金の不支給のことは 在職中に伝えるとまで教えられず 就業規則も改正のため社トラブルになると想定されたため 社労士にも労士に預けているとして見せてもらえな相談の上 Xには伝えなかった 就業規則は社かった 労士に相談の上 実情に合わせて改正中であった 4 調整開始より終結に至るまでの経過 ( 用いた調整手法 ) あっせんにおいて 労使双方の主張を聞いた上で あっせん員がY 社に対し 裁判例では 退職金を不支給とするには就業規則や退職金規程上の根拠が必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為があることが必要であるとされていることを説明した その結果 Y 社に歩み寄りが見られ 労使双方と調整を重ねた上であっせん案を提示したところ 労使双方ともにこれを受諾し 解決した 5 あっせん案の要旨及び案の内容を決めた背景 理由 2

( あっせん案要旨 ) 1 Y 社は Xに対し 解決金として 円をXの指定する口座に振り込むこと 2 X 及びY 社は 上記 1 記載のほかは XとY 社の間に何ら債権債務が存在しないことを相互に確認し 今後一切争わないこと 3 X 及びY 社は 本件に関する内容を第三者に公表しないこと 解説 (1) 本事件は 退職前に顧客に対して転職先を案内したため 退職金を不支給とされたことをめぐる事案である 本件では まず 退職前に顧客に対して転職先を案内するという行為を理由にした退職金不支給という懲戒的な取扱いの有効性が問題となる 労働契約においては その人的 継続的な性格に由来しての信頼関係 即ち 当事者双方が相手方の利益に配慮し 誠実に行動することが要請されており 労働契約法においても 信義誠実の原則が確認されている (3 条 4 項 ) 具体的には 使用者に対して安全( 健康 ) 配慮義務 人員整理に際しての解雇回避努力義務や労働者代表との協議義務等が要請される一方 労働者には営業秘密の保持義務 競業避止義務 使用者の名誉 信用を棄損しない義務等が要請される 競業避止義務とは 労働契約の存続中 使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務であり 就業規則の規定に基づき懲戒処分や損害賠償請求をなし得るが 実際上は 労働者の退職後 同業他社に就職したり 同業他社を開業したりする場合に 退職金の不支給 減額 返還請求 損害賠償請求 競業行為の差し止め請求の可否の関連で多く問題となっている そして 労働契約の終了後については 労働者には職業選択の自由があるので 労働契約存続中のように一般的に競業避止義務を認めることはできず 当該措置の法的根拠と合理性を各問題ごとに吟味することとなる 次に 退職金についてみると 就業規則に定める場合は 適用される労働者の範囲 退職手当の決定 計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項を記載しなければならないとされている ( 労基法 89 条 ) その法的性格は 賃金後払い的性格 功労報償的性格 生活保障的性格を併せ持つものと解され 具体的にはその退職金制度の実態に即して判定すべきものとされている 支払い条件が明確であれば 労基法 11 条の労働の対償としての賃金に該当することとなり 退職金の不支給は労基法 24 条の賃金の全額払の原則に抵触する可能性がある そこで 退職後の競業避止義務違反を理由とする退職金の不支給 減額等に関する裁判例をみると 最初の最高裁判例である三晃社事件 ( 最二小判昭 52 8 9 労経速 958 号 25 頁 ) は 会社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することは 直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められないとした上で この制限に反して同業他社に就職した場合は退職金を自己都合退職の場合の半額とする退職金規則について 退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば 合理性のない措置であるとすることはできない 制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて 3

退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきである として 労基法 24 条に違反しないとし 同規則に基づく労働者への退職金返還請求を認めている ただし この判断には労働者の競業の実態などを総合的に考慮することが必要ということが織り込まれていると考えられており その後の裁判例をみると 退職後に競業行為を行った場合に退職金を不支給 減額とすることが適法とされるためには まず その旨が就業規則や退職金規程等に明確に規定されていることが必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消 ( 不支給の場合 ) ないし減殺 ( 減額の場合 ) してしまうほどの著しい背信行為や信義則違反があった場合に限り許され また 不支給 減額条項の必要性や範囲 ( 業務 期間 地域 ) 退職労働者の在職中の地位や代償措置 退職労働者の退職に至る経緯 退職の目的 退職労働者が競業関係に立つ業務に従事したことによって会社の被った損害などの諸事情を総合考慮すべきとされている すなわち 退職後に競業行為を行った場合の退職金の不支給 減額については 全額払の原則は適用されず 背信行為等の発生を解除条件とする退職金請求権の問題 ( 背信行為等が発生した場合に退職金を不支給 減額とする規定の有効性の問題や 規定の適用の適否の問題 ) として捉えられている ( 中部日本広告社事件 名古屋高判平 2 8 31 労判 569 号 37 頁 ベニス事件 東京地判平 7 9 29 労判 687 号 69 頁 東京コムウェル事件 東京地判平 15 9 19 労判 864 号 53 頁 メットライフアリコ生命保険事件 東京高判平 24 6 13) 裁判例においては こうした諸事情が総合考慮された結果 退職後の競業避止義務違反を理由とする退職金の全額 半額不支給や全額 半額返還命令を適法としたもの ( 三晃社事件 前掲 福井新聞社事件 福井地判昭 62 6 19 労判 503 号 83 頁 ジャクパコーポレーションほか 1 社事件 大阪地判平 12 9 22 労判 794 号 37 頁 ヤマダ電機事件 東京地判平 19 4 24 労判 942 号 39 頁 ) と 違法としたもの ( 中部日本広告社事件 前掲 ベニス事件 前掲 東京コムウェル事件 東京地判平 20 3 28 労経速 2015 号 31 頁 三田エンジニアリング事件 東京高判平 22 4 27 労判 1005 号 21 頁 メットライフアリコ生命保険事件 前掲 ) とに判断が分かれている また 退職後に競業行為を行うことを目的として 在職中にその準備活動等を行うことがあり これを理由として退職金を不支給 減額とする場合がある 裁判例においては 在職中に 退職後に従事する業務について準備のためにする諸活動は 原則として何ら妨げられるものではなく ただ その準備のためにする諸活動が その会社の就業規則に抵触する場合には その抵触する限度において その就業規則の定める方法によって処分等されることがある ( 東京貸物社事件 東京地判平 12 12 18 労判 807 号 32 頁 ) とされており また 在職中の退職後の競業行為の準備活動等を理由として退職金を不支給 減額とするためには 競業避止義務違反の場合と同様 まず 準備活動等が就業規則に抵触して懲戒解雇相当とされ その場合に退職金を不支給 減額とすることが就業規則や退職金規程等に明確に規定されていることが必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消ないし減殺してしまうほどの著しい背信行為や信義則違反があった場合に限り許されるとされている ( 高蔵工業事件 名古屋地判昭 59 6 8 労判 447 号 71 頁 吉野事件 東京地判平 7 6 12 労判 676 号 15 頁 日本コンベンションサービス事件 大阪高判平 10 5 29 労判 745 号 42 頁 東京貸物社事件 前掲 東京貸 4

物社事件 東京地判平 15 5 6 労判 857 号 64 頁 ピアス事件 大阪地判平 21 3 30 労判 987 号 60 頁 ) さらに 本事件では 退職金が就業規則で整理されていないものの 一定の算定基準に基づいて支払っていたとのことであるが 裁判例によれば 退職金規程 ( 案 ) が作成されたものの 正規に制定されることはなかったが 同規程に基づき十数件の支給実績が認められた事案について ( 退職金の ) 支給慣行は既に確立したものとなったと認められ これが被告会社と原告 ( 労働者 ) らの雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である としている ( 吉野事件 前掲 ) (2) 本事件は 退職前に顧客に対して転職先を案内したため 退職金を不支給とされたことをめぐる事案である あっせんにおいて あっせん員がY 社に対し 裁判例では 退職金を不支給とするには就業規則や退職金規程上の根拠が必要であり その場合でも 長年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為があることが必要であるとされていることを説明した結果 Y 社に歩み寄りが見られ 解決した事例である ( 参照すべき法令 ) 労働契約法 ( 労働契約の原則 ) 第三条労働契約は 労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し 又は変更すべきものとする 2 労働契約は 労働者及び使用者が 就業の実態に応じて 均衡を考慮しつつ締結し 又は変更すべきものとする 3 労働契約は 労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し 又は変更すべきものとする 4 労働者及び使用者は 労働契約を遵守するとともに 信義に従い誠実に 権利を行使し 及び義務を履行しなければならない 5 労働者及び使用者は 労働契約に基づく権利の行使に当たっては それを濫用することがあってはならない ( 懲戒 ) 第十五条使用者が労働者を懲戒することができる場合において 当該懲戒が 当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして 客観的に合理的な理由を欠き 社会通念上相当であると認められない場合は その権利を濫用したものとして 当該懲戒は 無効とする 労働基準法第十一条この法律で賃金とは 賃金 給料 手当 賞与その他名称の如何を問わず 労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう ( 賃金の支払 ) 第二十四条賃金は 通貨で 直接労働者に その全額を支払わなければならない ただし 法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては 通貨以外のもので支払い また 法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合 労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある 5

場合においては 賃金の一部を控除して支払うことができる 2 賃金は 毎月一回以上 一定の期日を定めて支払わなければならない ただし 臨時に支払われる賃金 賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金 ( 第八十九条において 臨時の賃金等 という ) については この限りでない ( 作成及び届出の義務 ) 第八十九条常時十人以上の労働者を使用する使用者は 次に掲げる事項について就業規則を作成し 行政官庁に届け出なければならない 次に掲げる事項を変更した場合においても 同様とする ( 略 ) 三の二退職手当の定めをする場合においては 適用される労働者の範囲 退職手当の決定 計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 ( 略 ) 九表彰及び制裁の定めをする場合においては その種類及び程度に関する事項 ( 略 ) ( 参考となる判例 命令 ) 三晃社事件 最二小判昭 52 8 9 労経速 958 号 25 頁 中部日本広告社事件 名古屋高判平 2 8 31 労判 569 号 37 頁 ベニス事件 東京地判平 7 9 29 労判 687 号 69 頁 東京コムウェル事件 東京地判平 15 9 19 労判 864 号 53 頁 福井新聞社事件 福井地判昭 62 6 19 労判 503 号 83 頁 ジャクパコーポレーションほか1 社事件 大阪地判平 12 9 22 労判 794 号 37 頁 ヤマダ電機事件 東京地判平 19 4 24 労判 942 号 39 頁 東京コムウェル事件 東京地判平 20 3 28 労経速 2015 号 31 頁 三田エンジニアリング事件 東京高判平 22 4 27 労判 1005 号 21 頁 メットライフアリコ生命保険事件 東京高判平 24 6 13 東京貸物社事件 東京地判平 12 12 18 労判 807 号 32 頁 高蔵工業事件 名古屋地判昭 59 6 8 労判 447 号 71 頁 吉野事件 東京地判平 7 6 12 労判 676 号 15 頁 日本コンベンションサービス事件 大阪高判平 10 5 29 労判 745 号 42 頁 東京貸物社事件 東京地判平 15 5 6 労判 857 号 64 頁 ピアス事件 大阪地判平 21 3 30 労判 987 号 60 頁 6